コーヒーを啜りながら、今日の自分に待ち受けているであろう膨大な仕事のことを考える。と言っても、最近はとある生徒が積極的に手伝いに来てくれるお陰か、仕事は早く終わるし、私自身のする仕事の量も以前より随分少なくなっていた。
"っつってもな~、ずっとシロコに頼ってばかりじゃ、きっと迷惑だよな...。今日はどっかご飯にでも連れてってあげよう。"
最近は毎日のように手伝いに来てくれるシロコ。趣味のライディングや、あまり感心はしないが強盗の計画、それにアビドス高校での活動など、彼女が今までしていたことは全てほっぽり出してシャーレに来てくれている。先生が一生徒に頼りすぎになること、その生徒の普段の生活を崩すことは果たして導く者として正しいのだろうかと悩むばかりだ。
"一人でも大丈夫だよ、とは言うが、それでも『気にしないで。』の一点張りだしな...。"
深いため息が執務室に響く。
「先生どうかしたの。困ったこと、ある?」
"そうなんだよ。実はねシロコのことで...、ってシロコ?!"
振り向くとそこには毎日顔を合わせる少女が立っていた。
「ん、そうだよ。」
ニコッと先生に笑いかける。
"いつからそこに...?"
「コーヒーを飲んでいた辺りからかな。」
"ソレ、最初からじゃん。"
「ブツブツ言ってたからそっとしてた。」
"シロコ、さっきまでの私の言動はす・べ・て忘れてくれ。"
肩を掴んで勢いよく語り掛ける先生。
「でもさっき、私のことって言ってたよね。」
"いやいや気のせいだよ、そういうことにしといてください。"
両手を合わせて懇願する先生にやれやれと言った様子で、それを呑むシロコ。
「じゃあ、お仕事はじめよっか。何かしてほしいこと、ある?」
ウーンとかアーとかわざとらしく考える素振りをする先生が言ったのは、
"帰っていいよ。"
だった。
「どうして急にそんなこと...。」
俯いてしまってその顔はハッキリとは見えないがわかる、きっと暗い顔をしている。
"いや~、その、最近シロコに頼ってばっかりで迷惑かけちゃってるな~って思ってさ。ほら、対策委員会の皆とか、ライディングとか最近全然でしょ?"
顔を覗き込むように少しかがむとシロコと目が合った。改めて見るとやっぱりかわいいんだよな。アビドスで干からびそうになって助けてもらった時からずっと思っていたが。
「気にしないで。先生を手伝うためにここにいるから。」
"本当に?"
「ん、本当。」
「そっか。アレだなアレ、シロコの旦那さんになる人はきっと幸せ者だろうな~、たかが先生ってだけでここまで頑張ってくれるんだから、旦那さんレベルになると世界一幸せだろうな。すっごい羨ましい。」
何言ってるんだ?私。
「旦那...さん?」
"そうだよ、旦那さん。って、なんで泣いてるの?今泣く要素あった?私、変なこと言っちゃった?"
彼女の瞳からポツポツと雫が落ちる。その雫の意味を私は理解できなかった。理解してあげられなかった。
「せ、先生、本気で言ってるの?本当に...な、何も分からないの?」
思い当たる節は...。
"ごめんごめん、シロコは独身志望ってことだね。今みたいに私の仕事とか手伝ってると好きなことできないもんね。勝手に結婚する前提にしちゃってごめん。"
膝をついて、手を合わせて必死で謝罪する先生だったが、執務室には女の子の嗚咽だけが残った。
"そそそそういうえば、こういうのってセクハラにあたるとか聞いた様な気もするし、って、シロコ?"
アタフタしている内にシロコは帰ってしまったらしい。これは流石に追うべきだよな。
先生は分かってて言ってるのかな。だったとしたら質が悪すぎる...。先生は本気あんな風に思ってるのかな。好きなら好きって早く伝えたほうが良いってホシノ先輩は言ってた。いつ会えなくなるか分からない人はいるって。でも、先生のあの言い方は私のことを単なる子供として見てる。それに逃げ出しちゃった手前今さら戻って...っていうのは忍びない。追いかけてくれてたりしないかな。
"――コ~!!―ロコ~!!シロコ!!"
ん?先生。
”やっと見つけた。勝手に推測したべらべら話して、ごめん。全然シロコのことを考えてなかったよ。”
先生は私を見つけてくれた。今度は私が先生に言う番。
「先生、最近ずっとシャーレに来てたのは...その...」
うんうんと頷き真剣な顔で見つめてくる先生。
「先生を世界一幸せにするため...だよ。」
"・・・。"
言ってしまった、もう後戻りはできない。でも、後悔はない。
"なるほど。そんなことだったのか。"
先生は笑っていた。私、変なこと言ったかな。
"なんで笑ってるかって?そりゃあ、今、私が世界一幸せになれるって分かったからだよ。"
「それって、つまり?」
"今後とも、いや、これから一生シャーレの当番ってことだな。"
この言葉を聞き終わるか否かで私は先生に飛びついていた。
あの時とは違う喜びの涙が溢れて止まらない。
「ん、先生、大好きだよ。」
"好きとか言っちゃうと恥ずかしいから頑張って濁したのに...。"
シロコは悪戯っぽく笑いながら先生に聞いた。
「先生は?」
"だ、大好き、です。"
「顔真っ赤だよ。」
"恥ずかしいって言ったじゃん...。"
「じゃあ、結婚祝いにライディングにでも行こう。先生といつ結婚してもいい様に家に先生の分のロードバイクも置いてある。備えあれば患いなし、シンプルなルールだよ。」
"今日の仕事はどうしたら。"
「私が手伝うから大丈夫。」
その後、自転車競技で大活躍する、シャーレの夫婦が爆誕したそうだ。
全てワシの妄想じゃよ。
いつかこうならないか夢に見てる。