私は、騎士にはならない───。
"騎士"として働く両親に、私はそう告げた。別に、両親が嫌いな訳じゃない。むしろ、尊敬している。でも、だからといって、騎士である両親から産まれた子どもが、騎士になる必要はないと思う。確かに、"円卓の騎士"に囲まれて生活しているうちは、騎士としての生活は当たり前って思っていた。だけど、小・中学校という環境に身を置いて、様々な立場の意見に触れ、私の生き方は騎士じゃないような気がしていた。
「おいおい、える。もう少し綺麗に食べるようにしろよ。テーブルマナーをケイ卿から教わらなかったのか?」
「ネイル?やめときな。何かあった時に邪魔でしょ?」
「える……前にも言ったろ?円卓の騎士の歴史を語る上で一番欠かせない要素を、なぜまだ覚えてないんだ」
皆、私が騎士になると思っている。騎士になることを望んでいる。騎士にしようとしてくる。
「あぁ……そう思う騎士は多いよねぇ。私は、えるちゃんの意志が大事だと思うよ!ケイ卿とハルカさんにも話してみたら良いんじゃないかな?」
フイミンさんはそう言っていた。私は思い切って、両親に聞いてみた。二人ともやっぱり優しくて、私の自由にして良いよって言ってくれた。やっぱり、そう言うよね。
「でも、本当は、騎士になってほしいんじゃないの?だって、いつもパパは私にカセキバトルのこととか勉強のこととか教えてくれるし、ママは私に体術とか実戦に近いトレーニングとか教えてくれるけど、それってやっぱり、騎士になってほしいからじゃないの?」
心臓がバクバクする。
「私は、騎士にはならない───」
ずっと悩んでいたことを、初めて両親に打ち明けた。私はどうしても怖くなって、優しいはずの両親の目を見れなかった。そう、私の両親は、いつだって優しい。優しいからこそ、私に本音を隠しているような気がするのだ。でも、それを指摘することが本当に正しいことなのか、私には分からない。とりあえず、伝えたい。知ってほしい。理解されたい。納得してほしい。共感を得たい。否定されたくない。失望してほしくない。信用を失いたくない。怖い。
「……える。話してくれてありがとう」
父は、穏やかな笑顔で言った。
「えるに教えていたのは、えるを騎士にしたいからじゃないよ。あれは」
「この社会で戦い抜く力をつけるため」
「もうちょっとオブラートに包むとかさぁ!?」
母が割り込んできた。相変わらず両親は仲が良い。
「騎士になってもならなくても、いずれ自分の力で何かを乗り越えなきゃいけない時が来る。その時に、自分の持てる全ての力を発揮して、時には仲間と協力して、困難に立ち向かうことが出来るよう、私達はえるに少しでも多くのことを学んでおいてほしかった」
「ママ…………」
母は、ゆっくりと私に近づいてきた。改めて近づいてみると、私はもう既に母の身長を超えていることに気付かされる。
「今のえるは、運動能力もセンスも、実戦で十分活躍できるレベルだと思う」
「でも私、戦術とかカセキバトルの知識とか勉強とか、そういう難しいのはまだ全然覚えてなくて……」
「ごめんね……俺の教え方が下手で……」
「違う。ケイのせいじゃない。たぶん私に似た」
母は、父のフォローも欠かさなかった。優しくて仲の良い両親の存在は、本当に心強い。
「えるはもう強い。騎士にならないなら、ここに残り続ける理由もない」
「え?それってどういう……」
「つまり、えるが広い視野を持てるような、新しい場所に身を移してみるのも良いかもねってことだよ」
母の言葉に補足を入れた父は、一枚のパンフレットを取り出した。
「『クラニアル学園』………?」
「多彩なカリキュラムと多様な活動が売りの、近年出来たばかりの新設校だって。この前知り合いから勧めてもらったから、資料を頼んでみたんだ」
パンフレットの表紙には、ガラス窓で覆われた白く輝く校舎が確認できる。中を開くと、本当にたくさんのコースとそれぞれのカリキュラム、制服、部活動、1年の行事予定、入試情報などが掲載されていた。
「でも、ここからだと結構遠くない?通うの大変そう……」
「翼竜リバイバー適当に借りていけば良い」
「そういう問題じゃないよ、ハルカ……。この学園には寮があるから、通学については心配しなくても大丈夫だよ」
「それだと学費合わせて結構高いんじゃ……」
「お金については気にしなくて良い。私達がちゃんと稼いでる」
「うん。あとは、えるが行きたいかどうかで決めよう。もちろん、他にもいくつか学校の情報を持ってるから、もう少し考えてみても良いよ」
「える!ケイ!学生使い放題の剣道場がある。ここなら思いっきり練習できる!」
「ハルカが興奮してどうする!?」
「…………ぷふっ」
やっぱり、私の両親は優しい。ちゃんと心から、私のことを考えてくれている。いつの間にか、冷たかった心は解かされていた。
「私、クラニアル学園に行く!」
暖かい日差しが照らす、春の朝。桜吹雪が舞う中、私はリュックを背負い、キャリーケース片手に、アジトの正門に立っていた。
「長い間、お世話になりました」
深々と頭を下げる。私の成長を見守ってくれた、円卓の騎士達に感謝を伝える。思ったよりもたくさんの騎士達が、私の旅立ちを見送ってくれていた。中には泣いている先輩騎士もいる。
「じゃあ、パパ。ママ。行ってくるね!」
「うん、気を付けて」
母が優しい笑顔で応える。
「いってらっしゃい。楽しんで!」
父が優しい笑顔で続ける。
私は、にひひ、と二人に思いっきり笑ってから、一歩を踏み出した。桜の花びらが舞い散る中を、滲む涙を見られないように、崩れそうな表情を悟られないように、ちょっと足早に進む。この道の先に、私のささやかな反抗期の先に、素敵な未来があると信じて──────。
次回、第1話「結成!奉仕活動部」