人気になって欲しくない弟(偽)と人気なんてどうでもいい姉(偽) 作:パッチワーカー
学マスは始めたてと思っていたら、3ヶ月弱経っていました。お姉ちゃんの口調に自信があまりないので気になるところがあれば教えてもらいたいです。
お姉ちゃんに脳を焼かれそうになりながらも奮闘するプロデューサーくんの話です。
アイドル
それは大多数の人々から愛される偶像であり、自分には関係のない世界の住人だと思っていた。
──貴女のその発言があるまでは。
「······私はね、お歌のお姉さんに憧れてるの」
そのときの僕も、お姉ちゃんならお歌のお姉さんになれると思ってた。
だってこんなにも包容力があり、優しく、人を癒す才能があるのだから。
「······だから、私はアイドルを目指そうかなって思ってるんだ」
──その発言で僕の将来は確定したんだ、と今になれば分かる。
お姉ちゃんに人気が出ない訳がないが、何かお姉ちゃんの手助けになる職業に就きたいとそう思った。
だから、僕はアイドルのプロデューサーになった。
···けど、1つ計算違いなことがあった。
「なんで、お姉ちゃんは人気出てないんだろ?」
初星学園というアイドルの名門と呼べる学校に入ったお姉ちゃんはどんどん人気が出ていくと思ったが、そうはならなかった。
3年になっているはずのお姉ちゃんの名前は聞かないし、十王星南という人が
──そのことが、なぜか僕には少し嬉しかった。
昔包み込んでくれた恩を返せると思ったのか、はたまた彼女の人気を出すのが自分でよかったと思ったのか、
何かはわからないが嬉しく感じてしまった。
──それが 欲だと気づくのに時間はいらなかった。
だから僕はお姉ちゃんに手を伸ばして──────
その手がお姉ちゃんに届くことはなかった。今までも、これからも、多分そうなんだろう。
────────
気がつけば目が覚めていた。
···酷い夢だ。なんでいつもこんな夢を見なければならないのか。
いつも死んだように眠って夢を見ないのか、今日みたく浅い睡眠になって悪夢を見てしまうのかの2択しかない。
本来休息になるはずの睡眠が半分くらいストレスになるのは不健全にもほどがある。
だが、どれほど不健全であろうが睡眠は睡眠だ。起きるしかないし、プロデューサーとしての職務を全うしなければならない。
「プロデューサーは魔法使いにならなければならない」
尊敬する先生が言っていた言葉だ。
ハリボテだろうが、嘘で塗り固めた姿だろうが、
僕たちは「魔法使い」といった「超人」にならないといけない。
──その言葉が、その事実が僕には···
重い思考に浸かりかけながらも、日々の準備をする手は止まらない。
特に薄いクマや肌荒れをコンシーラーなどの化粧品でぼかすことは念入りにする。
···ただただ莉波さんにこんな状態だと見つかるのが怖い。
僕は「魔法使い」になれない。そのため努力だけはしているが、身体は完璧についてきてはない。だからこそ隠し通せないといけない。
僕の身体が壊れるまで、貴女のために働いていたいからね。
──────
「おはよ、今日も元気そうでよかったです」
「プロデューサーくんもおはよー!今日もがんばっていこうね!」
「うん、がんばりましょうね」
お姉さん力を上げていっているお姉ちゃんは、今までくすぶっていたのが嘘みたいに人気が出ている。
それが嬉しいようで悲しいようで、なんだか自分の心が分からなくなる。
「今日のレッスンは何するの?」
「今日は午前はビジュアルレッスンが中心に、午後からはダンスレッスンが入ってます。がんばってくださいね」
しなければならない会話だけしてこの場を離れたくなる。
けど、そんな僕を貴女の目が、言葉が許してくれない。
「うん!······それで、今日はプロデューサーくん、見に来てくれるのかな···?」
「···そうですね。午前は打ち合わせが多いですから難しいですけど、午後のレッスンは見に行きますよ」
「ほんと?!嬉しいなぁ···」
「──見に行くのなら仕事は早く終わらせないといけませんね。お互いがんばっていきましょう」
「うん!プロデューサーくんといっしょにがんばるねっ!」
──こういうことを言われて素直に「嬉しい」と思えるような人でありたかった、ここ最近はそうずっと思う。
「それでは、莉波さんまたあとで」
「プロデューサーくん、またあとでね!」
自分からしてしまった約束に後悔しながら仕事に取り組みにいこうと···「プロデューサーくん、こっち見て」
「はい?──そんなに僕の頭を撫でるのが楽しいですか?」
慣れた手つきで僕の頭を優しく撫でてきた。この感触は昔と何一つ変わらない。僕が好きな撫で方で、全てが崩れ落ちそうになる。
「んー···楽しい!よりも安心とか癒しとかそっちに近い気がするなぁ···」
「ふふ笑 頭撫でて癒されるのはお姉ちゃんらしいね」
「私は君のお姉ちゃんだからね──プロデューサーくん疲れてる表情してるし、隠してるけど目の下に隈あるよね?···お姉ちゃん心配だよ···」
──だから嫌なんだ、お姉ちゃんと長い間会話するのは色々リスクが高い。
ちゃんと僕のことを見てくれてることが分かり嬉しくもあるが、それ以上に面倒くささが勝つ。
「──最近少し寝つきが悪いんですよね、早く隈がなくなるように早めに寝ますね。早めに寝るために仕事がんばってきますね」
「···うん···あっ、引き止めてごめんね!お仕事がんばってね!」
どこか悲しそうで心配してそうな顔をしてるお姉ちゃんに別れの言葉を言い、逃げるようにその場から離れた。
──────────
「プロデューサーくん、今日も元気そうでなりよりです。お仕事は上手くいっていますか?」
午前の仕事が終わり、お昼ご飯を食べているところに先生が来た。──やっぱりこの人でも目の下の隈は分かんないよね。
「おかげさまで、なんとか上手くいっていますよ。『プロデューサーは魔法使いになれ』というあなたの教えを守れています」
「···君はいつも私がそれを初めて言ったように言いますが、これはれっきとした初星学園の教えですよ?」
先生は少し苦笑しながらコンビニのお弁当をつついた。この人は本当に様々な場所に顔を出し、教鞭をとっている。そういった面は手放しに尊敬できるが···
「──私にとってあなたは1番の先生ですから。この学園の教えだろうと、あなたがそう教えてくれたのが印象に残ってるんです」
「そ、そうなんですね···」
「はい、あさり先生は尊敬できる先生なのはいいのですが···食生活だけは尊敬できないですね」
「うっ······これは······その···あ、朝ごはんを食べそびれただけですからね!」
「···ふふ。先生とお昼ご飯を共にすることも少なくないですから、分かってますよ」
「も、もう!プロデューサーくん先生を揶揄っちゃっダメですよ!」
少し抜けていて、反応が良く、いっしょにいて落ち着く。
そういう大人の女性といっしょにいると、余計に頭にチラつく。
──午後にはそんなお姉ちゃんのレッスンを見なければならない。どんどん上手くなり、人気が出てしまう要因を作るのを見てアドバイスが求められる。
···どんな拷問なんだよ···
「──プロデューサーくん?」
「すいません先生、少しボーっとしてました。そろそろ食べ切りましょう。昼休みも長くはないですからね」
全ての雑念をかき消すようにご飯をかき込んだ。
···先生から見ても元気そうに見えるのに、お姉ちゃんは一発でバレたことが少し嬉しく感じて、そんな自分が少し嫌になった。
──────────
プロデューサーとしての仕事は担当アイドルとのコミュニケーションや仕事に着いていくなどを除けば、それほどかからない。
「ワン、ツー、ワン、ツー···っと、ここでフィニッシュ!」
だから約束通りに来れてしまった。
···トップアイドルと遜色のないほど完璧に踊れる姿を見せられる僕の気持ちにもなってくれよ。
これでもっと人気が出るのではないかと期待する自分と、人気が出てしまうと落胆する自分の両方がいる。
自分のことながら面倒くさい。
「···ふぅ···もっと完成度高くしないとだよね?プロデューサーくん的には何かある〜?」
「···そうですね···以前も言いましたが、踊っている時の表情にもう少し柔らかさが出ると良いですね。まだ少し硬さがありますよ」
「そうだよねぇ···どうしても踊ってることに集中しちゃってるからもっと上手くなって表情に気を配れるようになるね!」
「応援してますし、サポートできるところがあれば遠慮なく言ってくださいね」
「···そうだなぁ···じゃあ、レッスン終わりに時間あるかな···?」
「仕事は大体終わってるので大丈夫ですよ」
「ほんと?!なら···いっしょに帰らない?」
目を輝かせ、頬を少し赤くし、上目遣いでそう言われたら断れるわけがない。
「いいですよ」
「お仕事忙しいのにありがとね。──じゃあ、お互い終わったら校門前で集合ね!」
「──どこか出かけますね」
「うん!せっかくプロデューサーくんといっしょに帰れるんだから、どこかお出かけしたいよ」
──だからその表情で話してこないでくれよ。
何もかも許してしまいそうになる···
「···分かりました」
「やったぁ!···お出かけ中はプロデューサーくん、やってくれる···よね?」
「あー、うんいいよ。それじゃあ莉波お姉ちゃん、また後でね」
「···うん!弟くんもまた後でね!!」
──今日もお姉ちゃんの人気が出る手助けをし人気が出て欲しいと願ってる一方で、こうやってただのお姉ちゃんとして隣にいて欲しいと願う自分もいる。
そんな自分が本当に僕は嫌いだ。
評価やコメント、誤字報告など待ってます。