また「小説家になろう。」と「カクヨム」にて同作を連載投稿しております。
現在両サイトにて投稿されているものとこちらに投稿するものは少々文体が違う場合があります。
こちらへは定期的にある程度纏めて更新していく予定です。
帝国の山岳都市ベルクザウムと王国との国境がある雪山の標高960m地点。”鬼火”の一党の6名と1羽は山岳警備隊を襲った高位魔獣―――雪のように真っ白な毛皮をした大狼、羅漂雪と対峙していた。
「『蒼火撃』!」
ラウラが雪面に当てないよう斜め気味に放った蒼炎を大狼はトォンッ――――!と宙返りして躱す。その巨体には似つかわしくない軽やかな跳躍だ。
着地した羅漂雪が成人男性ほども幅がある前肢をラウラへ振り下ろす前に、
しかし――――。
「ちいッ!」
「ちょこまかと!」
必殺の気迫を乗せた剣閃はどちらも大狼の白い毛並みを浅く刈り取るだけに留まる。軽やかな動きで後ろに逃げられたのだ。
即座に赤い口腔を見せて襲い掛かってくる羅漂雪。そこにマルクガルムの蹴りとシルフィエーラの矢が殺到した。
「おらアッ!」
「そこっ!」
しかし羅漂雪は直前で気づいて突進方向を急転換させる。すかさずアルがボボボボッ!と蒼炎を放つが突進から移動に切り替えた大狼は風を靡かせて疾走。
速射された4発の蒼炎弾が空を切る。進行方向に来る羅漂雪にソーニャは描いていた術式を起動させた。
「『雷閃花』ッ!」
樹状に伸びた稲妻が白い大狼を焼かんと襲う。が、やはり羅漂雪は蛇を彷彿とさせる動きでギュルンと急旋回し雪煙を浴びせかけた。
山岳都市ベルクザウムは湿度の低い豪雪地域。この山とて例外ではない。
「わぷっ!」
撒き散らされた細かなものは『雷閃花』によって蒸発したものの、羅漂雪がその体躯でもってひっかけた雪だ。大量の雪を浴びたソーニャは思わず盾で防いでしまった。
その瞬間に飛び込んできた羅漂雪は右前肢をゴオッ!と振る。視界がとれなかったソーニャが慌てて跳び退る前にマルクが飛び込んできて抱えて跳んだ。
「すまんっ!」
「気にすんな!」
「であッ!」
裂帛の気合でアルが間合いを詰めるが、匂いで感知されていたらしい。羅漂雪は振り抜いた前肢の勢いのままブウンッ!と身体ごと回転させた。質量で吹き飛ばす魂胆のようだ。
「いっ!?あっ、ぶねっ!」
ブオウッ!と頭上を真白い体躯が通り抜けていく。アルは慌てて雪にダイブすることで難を逃れた。
しかしアルが体勢を崩したと見た羅漂雪は即座に転進、突撃してくる。
ガパアッ!と開けられた口には太い牙が上下に二対、奥には黄ばんだ臼歯らしきものも見えた。
雪が口に入ろうがお構いなしだ。地面ごと噛み砕くつもりだろう。
「アルさん!!」
悲痛な
「この!ナメんなっ!」
雪でも握って投げつけるかのようにアルは左手を振るった。ラッセル車のように雪をかき分けていた羅漂雪は
オオオオオオオ――――――――――ッ!!
雪煙を上げてのたうち回る大狼から視線を外さないまま、アルは左手と両足からボウッと蒼炎を噴き上げて勢いをつけて起き上がり、魔術を発動して得物を振りかぶった。
「『蒼炎気刃』!!」
必殺の間合い。蒼炎の太い刃を纏った龍牙刀が羅漂雪へ届きそうになった瞬間。
ゾクリ――――。
「うっ!?」
アルは直感に従い、不恰好ながら両足で蒼炎を噴いて加速。横っ飛びに退く。
そこにドオオン―――――――ッ!という衝撃がアルを貫いて響いた。狼型の高位魔獣が憤激して右前肢を叩きつけたのだ。
―――――あっぶねー・・・ギリギリだった。
アルがそう思ったのも束の間、羅漂雪が時計回りに回転して尻尾を叩きつけてくる。
「うぶっ!」
バホッという音と共にアルは雪面に吹き飛ばされ雪まみれになった。毛皮の厚さのおかげで攻撃そのものに痛みこそなかったが雪に埋まりながら転がされたおかげで胃がムカムカする。
「怒ったらしいなっ!」
マルクが狼爪を閃かせ突き込んだが、憤怒に彩られた羅漂雪は後肢でサマーソルトでもするように空を翻って反撃した。
「ぶおっ!?」
『人狼化』していても彼我の質量差は歴然。当然ながらマルク側が吹き飛ばされた。だが、そこは人狼。吹き飛びながら体勢を立て直し爪を振るようにして雷撃を放つ。
大狼は迫る稲妻を着地と同時にビュウッと避けた。滑るというより、雪面を泳ぐような動きだ。
「「『障岩壁』!!」」
「だああああああッ!」
「当たれ!!」
そこへ羅漂雪の後方と右方向へ二つの壁が築き上げられ、凛華の尾重剣と樹上にいたエーラの矢が襲い掛かる。逃げ道を減らして致命打を狙ったのだが――――。
ガァゥッ――!
唸るような鳴き声と共に羅漂雪は矢を噛み砕き、避けづらい尾重剣の横薙ぎを『障岩壁』に跳び乗って躱した。次いで即座に反転、『障岩壁』から飛び掛かるようにして凛華へ突進する。
尾重剣を振った慣性を生かしてステップしていた凛華は手元にグルンッと得物を引き寄せ、すぐさま地面に突き立てた。
ゴオオン―――――ッ!!
「くうっ・・・!のおッ!」
ザザザ―――!と雪面を滑りながら凛華は大狼の突進をどうにかいなす。両腕で支えていてもビリビリとした感触が残っていた。
羅漂雪はいなされた勢いのまま、矢を放ち続けているエーラのいる樹の根元に滑っていき、バキイッ!と齧りつく。狼の顎と歯は強い。
普通の狼でも人の骨くらいなら簡単に砕いてしまう。
「うわわっ!・・・っと!」
エーラは揺れる樹に一瞬掴まり、すぐに枝を掛けて飛び出した。もうこの樹は倒れてしまう。ぶわりと
上を取るという選択肢は諦めない。
そのまま近くの樹に枝を伸ばしてもらって引き寄せてもらった。まだまだこれからだ。
滑るように飛び込んできた雪まみれのアル。
その後方にいたラウラとソーニャが汗を拭う。戦闘は依然継続中だ。
「高位魔獣とはここまで強いのか・・・!」
動きの速さもさることながら、対人戦闘をやっている気分だ。ソーニャは吐き捨てるように呟く。
「こちらの攻撃も当たる気がしませんよ!」
ラウラもさすがに自信がなくなってきていた。今使っている『蒼火撃』は『火炎槍』並の速度はある。だというのに撃てども撃てども掠りもしない。
そもそもアル達魔族組が攻めあぐねて苦戦しているところなど今までロクに見たことがなかった。
夜天翡翠があそこまで高い位置にいるよう指示を出されていたのも初めてだ。
「高位魔獣ならっ、こんなもんだよ!」
膠着している、というには些か分が悪い。アルは苦々し気な顔を隠しもせず蒼炎を放った。羅漂雪は大したこともなさそうに避ける。
「『蒼火撃』!出し惜しみしているのは、あちらにも”魔法”があるからですか?」
出し惜しみとは『雷光裂爪』や『燐晄』、『流幻冰鬼刃』のことだ。彼らがあえて使っていない事にラウラもソーニャも当然気づいていた。
「それもあるけど!何より決定的な好機でもない限りは、こっちが不利になるからね!」
再び最前線に突っ込んだアルの斜め上からエーラが返答を寄越す。
「並の魔獣と違って頭が良いの!そっちも好機が来るまで強いの見せたらダメよ!」
下手に使えば必ず殺りに来るか警戒するのが高位魔獣という魔獣だ。凛華は尾重剣を振るいながら注意した。
「にしてもよっ、雪でこっちも鈍いとは言え――――」
仲間へ突っ込もうとする羅漂雪の意識を雷撃と狼爪でマルクが己に向けつつ、
「アイツが速過ぎるわ!何とか動き止めないと叩き込めないわよ!」
凛華が引き継ぐ。
―――――確かにそうだ。何か、あいつを止める手立てはないか?
アルは疾駆しながら打開策を考えていた。
△▼△
”鬼火”の一党の戦闘は目立つ。魔術や属性魔力、”魔法”を多用したド派手なものなのだから当然だ。その中でもアルの活躍は目立ちやすい。
蒼炎―――普通の炎とは威力の桁が違う属性魔力を操り、先陣を切って突っ走る。そして古代の龍を彷彿とさせる惨状を引き起こす情け容赦ない暴れっぷり。”鬼火”の一党と呼ばれる所以だ。
しかし実はそれは傍から―――つまり一党の外から見た場合の話である。内部からの、仲間達からの見方はそうではない。
確かにアルは人相手の戦闘では必ず先陣を切るし、やはり容赦がない。殺害数もトップだろう。ドラッヘンクヴェーレの件が異例なくらいだ。
しかし魔獣相手では実はそうでもないのだ。先頭に立ちこそすれ、撃破数はトップではない。なぜならアルが己に課しているのは遊撃役―――厄介そうな相手を潰しては殺気を撒き散らし周囲の敵意を引きつける誘蛾灯の役割だからである。
だからこそ大物を仕留めることは多くとも、数では凛華やマルク、エーラに大きく劣ることもザラ。
狙っているわけではないが、魅かれた者を死出の国へと導く幽炎として魔獣には映っているのである。ラウラやソーニャがアルを”鬼火”が相応しいと思う理由の一つだ。
△▼△
翻って現状。雪のせいでアルの機動力は大きく落ちていた。おまけに下手に蒼炎をかまして雪崩でも起こしたらとんでもないと放つ蒼炎の規模も威力も極端に絞っている。
手足を小器用に振って蒼炎を噴射しながら、読みにくい軌道で動き回っているのはラウラやソーニャからすれば流石と言えよう。それでもギリギリ普段の速度には足らない。注意を引こうにも引けないのだ。
次にマルクだ。こちらは羅漂雪の後肢と同じ構造の脚を持っているが、太さも違えば四脚でもないため、やはり移動速度がガクンと落ちる。雪で踏ん張りも効かないため盾役や受け止める役目も難しい。速度と強靭さが売りの人狼でもどうしようもない事態だった。
では樹上にいるエーラはどうか?こちらはあまり影響がないように思われるがそんなことはない。雪がチラつくなか、所々は黒っぽいとはいえ、ほとんど真っ白な毛皮と体躯に見合わない素早さの羅漂雪は捉えにくく、おまけに仲間達は普段と違い即座に離脱できない。
そんな状況で複合弓を射るのは神経を使う。おまけにまだ相手は”魔法”を使っていない。じわじわと真綿で首を絞められるような感覚になっていた。
そして現状で最も問題が出ているは凛華だ。普段であればアルが掻き乱したところを致命の一太刀で戦闘の流れを大きく変える―――云わば切り込み役を果たしてくれるのだが、今回はそうもいかない。
流れを変えるだけの威力を発揮する尾重剣が重しとなっていた。『修羅桔梗《おにきききょう》の相』で振り回せるからと言ってその重量が消えてなくなるわけではない。
思っている以上に足が雪に埋まり、間合いを詰めても二歩は遅れる。そのせいで切っ掛けを作れず、冰を足場にして己を射出しようとしても直線的過ぎて高位魔獣相手には読まれる。
羅漂雪も尾重剣には警戒しているのか振りかぶられた時点で間合いから大きく外れてしまう。
それらのせいで体力の消耗具合に反して羅漂雪に痛手を負わせられていない。
ラウラとソーニャに至っては、遠目で見れば大狼の動きも捉えられるが、寄られれば対応できる気がしない。魔族組と今までの積み重ねの連携があったからこそ、まだ魔術を放り込める余裕があるが一歩間違えれば即死だ。
おまけにソーニャは鎧が重い。足甲だけは雪山ということで別なものにしているが、それでも凛華と変わらないくらいには足が沈む。
魔族組は初めての高位魔獣戦でこれなら上等だと思っているが、彼女らからすれば無力感で忸怩たる思いを抱えていた。
そんな中アルが叫ぶ。
「マルク、凛華!同時に突っ込んでくれ!」
「おう!」
「何かわかんないけど了解!」
咄嗟にかち合わない角度から動き出す両名。次いでアルは頭上の枝にいたエーラに指示を出した。
「エーラ!俺を風で吹っ飛ばしてくれ!」
「乱暴だなぁもう!わかったよ!」
「頼んだ!」
エーラと風の精霊を信じてアルは疾走する。今できる最大限の速度だ。
「いっくよ!」
ヒュオッという音が聞こえ―――次いで真後ろで雪煙が上がり、背中を暴風が襲う。と、同時にアルは跳びながら龍鱗布をバサッと広げた。
暴風を受け止める龍鱗布は
「『蒼炎気刃』!!」
吹き飛ばされた先では凛華が尾重剣を縦に振り下ろし、マルクが勢いよく貫手を放っていた。
―――――ここなら死角のはず。
「はああああッ!」
放つのは六道穿光流、突進回転剣技『蒼炎嵐舞』。アルは羅漂雪を切り刻まんと螺旋を描いてゴオッと勢いよく突撃した。
ガウッ―――――!?
「やった!?」
ラウラは思わず口に出す。大狼の肩口に剣閃が届いた気がしたのだ。直後、アルは魔力の蠢きを感じ取って警告を発する。
「浅かった!全員離れろ!!」
アルが叫ぶとと同時、肩をほんの少しだけ灼き斬られた羅漂雪が怒りも露わに吼えた。
アオオオオオオ―――――――――――ンッ!
「うっ!?」
「ぐっ!」
マルクと凛華が吹雪に、アルが魔力の波動に大きく吹き飛ばされる。
「ここにきて”魔法”か!」
どうにか空中で体勢を整え、雪のクッションに着地したアルは唸る。
6名の前に現れたのは――――吹雪を纏わせ、四肢や背骨、尻尾に氷の蔦で象られた棘を生やしている羅漂雪だった。唐草模様のように渦を巻いた氷は通常の氷と違い、黒々としている。
「チッ、どうにか片をつけたかったが無理か」
マルクは口惜しそうな表情を浮かべた。
「何してくるのかしらね」
凛華も警戒心を高める。ここからだ、高位魔獣の恐いところは。
ァオオオオオオオオオッ――――!
嚇怒を表した氷狼は大きく口を開け、氷柱混じりの吹雪を吐き出した。まるで竜巻だ。
「くそっ!」
轟々と迫る凍てつく竜巻へアルは慌てて遠慮なしの蒼炎を吐き返す。属性の違う蒼色は両者間で激突し、大量の水蒸気が霧のように広がった。
―――――属性魔力を操るのか?
アルは”魔法”の正体が見えないことに臍を噛みつつ指示を出す。
「コイツの”魔法”がまだわからない!マルクはソーニャと、エーラはラウラと組んで戦ってくれ!」
「おう!」
「承知!」
「わかった!」
「わかりました!」
口々に返事を返しながらそれぞれが組を作るように互いに寄っていく。エーラとラウラが組むのなら問題ないとソーニャもマルクの方へと駆けた。
「あたしはあんたとね。行くわよ!」
「ああ!」
丁度、三方から羅漂雪を包囲するような形だ。一斉にかかれば隙も見つかるはず。アルが駆け出そうとしたときだった。
アオオオオ――――――――――ンッ!!
再度氷狼が咆える。直後、羅漂雪の全周囲に―――つまりアル達を包囲し返すように横殴りの吹雪を展開した。
「っ!?」
「なんだ!?」
「これは―――!」
突如巻き込まれた吹雪に驚愕の声を上げる仲間達へアルが大声で警告を発する。
「マルク、エーラ!二人を!」
この横殴りの吹雪には魔力が籠められていたのだ。
「屈んでろ!」
警告の意味を正しく取ったマルクはソーニャを屈ませて吹雪に対して防御姿勢を取る。ソーニャに風が当たらないように立ち塞がり、腕を交差させて己の顔を覆った。幸い雪も風も同方向からしか来ていない。闘気も発動済みだ。
「ラウラこっち!」
エーラはパッと枝を伸ばし、掴まったラウラを一気に引き上げる。次いで木に洞を広げてもらい、すぐさま2人して飛び込んだ。
「凛華は俺の後ろに!」
アルは指示を出すとすぐに凛華と自分を包むように龍鱗布を広げる。その瞬間だ。
吹雪に混じっていた《全ての雪》》が尖った
「――ッ!?」
凛華はその異常な規模に瞠目する。
「『
ギリギリ発動した蒼炎のマントがブワリと二枚広がってアルと凛華を包み込んだ。そこへ豪風に乗った氷柱が殺到してくる。
「アルっ!」
『蒼炎羽織』が瞬間的に氷柱を熔かすのを見た凛華はすぐさま術理を――――その消費魔力の多さを悟って冰の壁を出現させた。
「助かる!」
アルは礼を言って一枚だけ蒼炎の保護膜を解く。この魔術はアルでも多用出来ないほど魔力をドカ食いしてしまう。一枚減るだけでもかなり違った。
時間にして10数秒だろうか。鋭い氷棘混じりの吹雪が去った。
「無事か!?」
屈んでいたソーニャが焦りを浮かべて顔を上げれば、マルクはどうにか耐え切ったらしい。ワインレッドをした毛皮のあちこちに氷を貼り付けたままだが、
「何とかってとこだな」
平気そうな返答を寄越してくる。闘気を併用しなければ間違いなくどこかに穴が開いていただろう。バリバリと腕や脚を振るって霜を落とす。
「危なかった・・・!」
エーラは洞から顔を出して下を覗き込んだ。太い樹だったにも関わらず、幹にはいくつもの氷柱が刺さり、穴が開いており、おまけに凍り付いている。
「あんなの連発されたら―――」
ラウラは顔を青褪めさせた。今のところは全員無事だ。しかし何度もあんな広範囲攻撃をやられては手の出しようがないどころかいずれに取り返しのつかないことになる。
ゴオオ――――ッ!
ラウラが焦りから視線を地上に戻せば、楓の葉のような形をした蒼炎が羅漂雪の纏っていた氷気を吹き飛ばして迫っているところだった。氷棘を生やした大狼はズザアッと滑るように跳び退いている。
―――――もう反撃に移ってる!?
ラウラは衝撃と共に自分が誰の一党にいるのかほとほと理解した。そうだ。あの蛟相手に一人で立ち向かった男だ。あのくらいではへこたれない。
「やる気満々じゃねえか!」
好戦的な魔力に当てられたマルクが裂けるような笑みを浮かべて駆け出す。
もう1匹の高位魔獣――刃鱗土竜と戦り合ったときだってそうだった。
―――――結局一番大暴れしたのがアイツだ。
「諦め悪いからねアルは!ラウラ!ボクらも行くよ!」
洞からパッと飛び出たエーラの目からも一切闘志が失われていない。そりゃあそうだ。高位魔獣の1匹程度なら以前にも経験している。
少し環境的に不利で、少し広範囲な攻撃手段を相手が持っているからと言ってやることは何も変わらない。倒すだけだ。
「はい!」
ラウラも闘志を再燃焼させて洞から飛び出した。立ち上がったソーニャも神妙な視線で氷狼へ剣を向ける。
エーラから下ろして貰い、広がったラウラの視界ではアルと凛華がすでに羅漂雪との戦闘を再開していた。しかし、やはり2人では分が悪い。
こちらの攻撃は簡単に躱されるのに、あちらの攻撃を避けるのはちっとも簡単そうではない。どうやら羅漂雪は足元の氷を利用してあの素早さを実現しているようだ。
「なら・・・『
ラウラは魔術を発動した。『蒼火撃』の亜種。波のようにうねる蒼炎が噴射され、氷狼の足元の雪や氷を溶かしていく。爆発力は皆無で射程も短いが、雪山には都合がいい。
すっかり焦げた地面を嫌った羅漂雪が跳躍するのに合わせてマルクが樹を蹴り飛ばして殴り掛かる。
グオオオオオオ――――――ッ!
空中で吐き出された氷礫まじりの吹雪が人狼を地面に叩きつけた。空中だというのに反撃してきたのだ。
「ちっくしょう!」
「大丈夫か!?『天鼓招来・反転』ッ!」
ソーニャがマルクを気遣いつつも雷をバチイッと
着地と同時に矛先を変え、牙を剥き出しにした羅漂雪の口に矢が3本飛んでいく。
「させないよ!」
氷狼が噛み砕こうとする直前で矢は絡み合い、ギュッ・・・バアッ!と爆ぜるように形を変えた。
一瞬で切株のようになった矢を噛み砕けず、羅漂雪の困惑している間にマルクがソーニャを抱えて下がった。
アオオオオオ――――――ンッ!
が、邪魔だと言わんばかりに大狼は切株をバキバキッと噛み砕きすぐさま吼える。
「うわあっ!と、とっ!危ないなぁ!」
地面から生えた氷刃がエーラのいる樹を折り倒したものの、彼女はすぐさま空中へ身を投げ、別の枝を伸ばしてもらって難を逃れた。ぐるんぐるんと枝に緩急をつけてもらい、狙いを逸らすことも忘れない。
―――――旗色が悪い。
アルは胸中で苦々しい思いを抱えていた。
―――――どうする?
アルは蒼炎を手足から噴き出しながら移動し、攻撃の手を緩めず考え続けていた。アル単体ならまだバーニアを活かせばギリギリどうにかなる。この加速移動にも慣れてきたところだ。
しかし凛華はそうではない。徐々に体力が奪われていくこの環境で激しく動き続けている。それでも圧倒的に速さが足りない。間合いも遠いし、追いつけない。
羅漂雪が蒼炎を鬱陶しがって尻尾を振る。茨のように纏っていた尾先の棘がヒュアッと独特の音を奏でで飛来した。
「チッ」
アルは左脚と左手から蒼炎を噴射して無理矢理軌道を変えて避ける。即座に反撃の広範囲に蒼炎を放つが滑るように移動する氷大狼には当たる気がしない。
―――――滑る・・・・。
チリッと頭の奥で何かが焦げた気がした。
―――――そうだ、”滑る”だ。
アルはすぐさま指示を出す。
「全員、聞いてくれ!少しの間俺の手数が減る!凛華は呼んだらすぐ来てくれ!」
アルの指示に魔族組が目を一瞬瞬かせ、笑みを浮かべた。
いよいよあの時の再現染みてきたと記憶が刺激されたのだ。
あの時のアルはまだ銀髪だったが、その眼光はあの時と変わらないどころか増してさえいる。
「何か考えたのね!?」
それも自分に使わせる何かが。凛華は喜び勇んで訊ねた。笑みが一層輝いてる。
「ああ、魔力を温存しといてくれ!」
「任せなさい!」
「了っ解だよ!昔を思い出すね!」
「悪ぃけど手早く頼むぜ!」
魔族組はアルクスという半龍人のことを良く知っている。この状況下でも明るい返事を返した。
「やってみます!」
「何とかしてみせよう!」
ラウラとソーニャは魔族組の返答とこれまでの経験から3名に続いて気合の籠った返事を返す。
アルクスという男は、諦めの悪さも魔術の腕もこの6名の中ではピカイチだ。信じる以外の選択肢など最初から存在しない。
「よし、やるぞ・・・!」
アルは頼もしい仲間の返事を聞いてすぐに最前線から後退しつつ『釈葉の魔眼』を開いた。
緋色の龍眼に流星が墜ちていく。雪が舞い飛ぶ真っ白な雪原に赤い残光が妖しくたなびいた。
評価や応援等頂くと非常にうれしいです!
感想も受け付けておりますので是非ともよろしくお願い致します。