日輪の半龍人   作:倉田 創藍

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ここでは初投稿になります。読んで頂ければありがたい限りです。


また「小説家になろう。」と「カクヨム」にて同作を連載投稿しております。


現在両サイトにて投稿されているものとこちらに投稿するものは少々文体が違う場合があります。


こちらへは定期的にある程度纏めて更新していく予定です。


10話 一党の昇級と広まる勇名 (虹耀暦1287年2月:アルクス14歳)

 宿の食堂にいた”鬼火”の一党の6名と1羽は現在山岳警備隊のバール隊長本人の先導で広場の方へ向かっていた。理由は単純明快。

 

 防壁近くの撤去作業及び除雪作業に当たっていたところ、アル達が討伐した高位魔獣――雪原の王とまで言われる氷の大狼、羅漂雪の首が見つかったからである。

 

 都市が気になって降りてきている砦の兵士達にも幸い死者はなかった。雪崩が起きた時間が夕方であったことやその直前まで響いていた戦闘音によって一度帰投していた者が多かったからだ。

 

 多少の怪我人は出たものの砦の堅牢さと報せに走った兵士達のおかげで事なきを得ていた。

 

 バール隊長に案内されて到着した広場には何やら人だかりができている。その奥に羅氷雪の生首が鎮座していた。全然隠れていない。

 

「毛皮の半分くらいは焦げてんな」

 

「売れるかなあんなの。大して丈夫でもなさそうだし」

 

 アルとマルクガルムは売却前提の言葉を交わす。あんなもの貰っても邪魔なだけだ。

 

「あったかかったりするんじゃない?」

 

「骨が魔力通しやすいとか?あ、でも武器には使えなさそうだよね」

 

 凛華とエーラの発言も完全に売る側のそれだ。どうせなら胴体が見つかればよかったのに、くらいにしか考えていない。

 

「やはり邪魔かね?」

 

 振り返ったバール隊長は可笑しそうに笑う。高位魔獣を討伐したのなら通常もっと誇るものだ。しかし彼ら6名はみな一様に渋い顔をしている。

 

 いい加減しつこいとでも言いたげだ。

 

「ええと、まぁ・・・そうですね」

 

 ラウラの反応は特に顕著であった。散々苦しい戦いをしてやっと倒したかと思えば、更に大変な思いをさせられて正直もう見たくない。

 

「ははは、そうだろうな。私も見つかったときは苦い気分だったよ」

 

 バール隊長は身体を揺すって笑い、「すまんが通してくれ」などと言いながら人垣を分けていく。アル達はその後ろをついていった。

 

 時折「あんな若い武芸者が―――?」「あれが”鬼火”か」「雪崩のときも先頭にいたぞ」などと言うざわめきが聞こえてくるのを無視して進む。

 

 

 羅漂雪の生首―――いや生焼け首に辿りつくとそこには武芸者協会の職員と兵士達がいた。

 

「あ、お疲れさまです。依頼の達成報告及び詳細な内容報告はすでに受けてますよ」

 

 協会職員がアル達を確認してそう告げてくる。よく見ると捜索依頼の受付処理を行った職員だ。キョトンとしてアルはマルクを見た。

 

「俺が寝てる間に報告してくれたの?」

 

「いや、してねえ」

 

 マルクも不思議そうな顔をしている。

 

「あぁ、いえ、依頼者である山岳警備隊の隊長さんから達成報告と詳細を聞いたんですよ」

 

 職員はそのように説明した。依頼者側から達成報告をするというのは案外多い。特に行政関係や公的な機関からの依頼はそういった報告形式を取ることが多かったりする。

 

「ああ、なるほど。バール隊長が報告してくれてたんですね」

 

「うむ。流石にあの規模の雪崩だからな。伯爵閣下へ報告するついでに済ませておいた」

 

「ありがとうございます」

 

 頭を下げるアルにバール隊長は何でもないことのように手を振った。そこへ協会職員が本題へ入ろうと口を開く。

 

「それで、羅漂雪の首ですがどうしますか?」

 

 どうするか、とは解体した後の処遇についてだ。素材が欲しい場合は達成報酬から解体作業賃を差し引かれ、売却もしくは競売にかける場合は仲介手数料と解体作業賃を差し引かれて後日代金を受け取ることになる。

 

 アルは仲間達の方へ視線を向けて訊ねた。

 

「なんかいるとこある?」

 

「あたしはないわ」

 

「ボクもないかな」

 

「俺もいらねえ」

 

 即答する魔族組に、

 

「私もいらないです」

 

「うん、私も必要ないな」

 

 一拍置いて返答を寄越す人間組。やっぱりもう見たくない。そんな顔をしている。かつて刃鱗土竜とやり合った後も似たような気持ちになったなと思いつつアルは職員の方へ向き直った。

 

「じゃあ牙をひと欠け下さい。大きさは掌くらいで」

 

「わかりました。では残りは売却ですね?高位魔獣なら競売になる可能性もありますのでそこそこ良い値段になりますよ」

 

 職員はニコニコしながらそう告げてくる。が、アル達は不思議そうな顔だ。

 

「使いどころは少なそうですけど売れるんですか?」

 

 ラウラが仲間を代表して疑問を呈した。魔族組はうんうんと同意するように頷く。食いでもなさそうだし、同じ刃鱗土竜に較べて毛皮もあまり固くないし、武器に使える気もしない。

 

 職員は苦笑いを浮かべて説明し始めた。

 

「高位魔獣の屍骸というのはそれだけで価値がかなり高いんです。確かに半分ほど焼けてはいますが残りは毛皮ごと残っていますし骨も炭化しているわけではありません。結構良い値が付くんですよ」

 

 ―――――ネームバリューというやつだろうか?

 

 アルはそう思いつつも、やっぱり全然惜しくもない。きっと考え方が違うのだろうと納得することにした。

 

 ちなみに協会としては売却代金の値段によって手数料が変動するので高位魔獣の仲介は良い儲けになるのだ。

 

「まぁ、わかりました。もし胴体が出てきた場合も売却にしときます」

 

 ―――――また呼び出されても同じ答えしか出ないな。

 

 そう考えたアルは先んじてそう言っておく。

 

「承知いたしました。牙ひと欠けの方は急ぎますか?」

 

 職員は丁寧に問うた。高位魔獣を討伐し、雪崩を食い止めた新進気鋭の若手一党。対応もそれ相応になるというものだ。

 

「ある程度早めが良いです」

 

「わかりました。解体部門の方へ伝えておきます。掌大ということでしたら・・・午後3時過ぎくらいには受け取れるかと思います」

 

「わかりました。じゃあそのくらいに支部に行きます」

 

 アルはそう言うとバール隊長と挨拶を交わして踵を返した。

 

 周囲の者達はまだざわついている。あれが”鬼火”の一党―――この恐ろしげな狼型魔獣を狩った若手武芸者達。

 

 ぶしつけな視線や漏れ聞こえる声に居心地が悪くなったアル達は早々に宿へ出戻ろうと歩みを進める。そこでソーニャが「あっ」と気付いて声を上げた。

 

「レオナール殿?」

 

 見物人の最前列には8歳くらいの子供を連れた三等級武芸者、獅子の鬣を彷彿とさせる髪のレオナールがいる。

 

「やはりこれを倒したのは君らだったか」

 

 悠然と声をかけてくる先輩武芸者にアル達は立ち止まった。

 

「え、ええ。レオナールさんはどうしたんです?」

 

 なんとなく周囲の雰囲気とレオナール個人への苦手意識を抱いたままアルは問う。

 

「見物だ」

 

 ―――――そんなもん見ればわかる。

 

 渋い表情になったアルやエーラに、レオナールも言葉が足らないと気づいたようで、すぐに口を開き直した。

 

「高位魔獣が倒されたと聞いてな。居ても立っても居られず上の子供と見に来たんだ。私の読み通りだったようだな。ああ、そうだ。昨日も見事だったぞ、おかげで妻も子供達も無事だ」

 

 ―――――いや防衛には貴方だって参加していただろう。

 

 ソーニャはそんな顔をする。マルクや凛華など胡乱な目を向けていた。悪い人間、いや四半獣人だとは思わないがどうにも絡みにくい。

 

「ええと、まあ、成り行きで」

 

 悪意を感じられない分反応に困る。アルは何とか言葉を絞り出した。

 

 ちなみに言えば子供の方は半分ほど焦げた羅漂雪の迫力に吞まれていて黙りこくっている。

 

 父親にいきなり手を引かれながら連れてこられたかと思えば、血走った眼をかっ開いて死んでいる高位魔獣の生首を見せられたのだ。

 

 いくら武芸者に憧れていても怖気づくのが普通だろう。ラウラやソーニャは同情を禁じ得ない。

 

「えぇと・・・よく私達だとわかりましたね?」

 

 困惑するアルの代わりにラウラが訊ねる。レオナールはしたり顔で頷いた。

 

「ここにいる武芸者の数はそう多くない。高位魔獣を撃破できる実力を持っている者など少ないし、何より支部に駆け込んできたのはそこの”狼騎士”君だ。関係ないと考える者の方が少ないさ」

 

「あー・・・なるほど」

 

 ソーニャは言われてみれば確かにそうかと納得する。そんな様子を見ていたレオナールはここだ!というような雰囲気で更に踏み込んできた。

 

「ところで”鬼火”の。君らはこれから時間があったりするかね?あの高位魔獣”羅漂雪”がどんな魔獣だったのか教えてほしいんだ。何せ昔からここの山にもいるだろうと噂されていたものだから気になっててね。無論そちらの手管を聞くような真似はしないしこちらの奢りだ。どうだろうか?」

 

「え―――」

 

 予期していなかった誘いにアルはぽかんとする。踏み込むタイミングが不意打ちのそれだ。

 

 しかしレオナールにそんなつもりは毛頭ない。よく見ると三等級武芸者の瞳は少年のように輝いていた。

 

「あっ、えー、あー・・・」

 

 アルは思わず仲間達に視線を送る。マルクは『別にいんじゃね?』という顔、女性陣は完全にアル任せにするつもりのようだ。

 

「その・・・はい。今日は休みの予定ですし、構いません」

 

「そうか!礼を言う!良かったなナタン。父さん以外の武芸者の話聞いたことなかったろう?」

 

「う、うん」

 

 そんな風に息子よりはしゃいでいるレオナールに連れられて、アル達は羅漂雪の話をしに行くことになってしまった。

 

 妙なことになったなぁと一党の6名全員が思うなか夜天翡翠だけは食後の運動とばかりに上空を旋回している。実に楽しそうであった。

 

 

 ***

 

 

 午後4時過ぎ。アル達6名は支部の建物にいた。といっても受付にいるのはアルだけで、他の仲間達は訓練場にいる。

 

 楽し気なレオナールに連れられて入った小洒落た喫茶店では数時間以上羅漂雪の生態を語ることになり、別れたその足で来たのだ。

 

 それでも案外疲労が少ないのはレオナールという先輩武芸者がまともであったからである。

 

 

 息子を連れたレオナールは武芸者の御法度―――こちらの手の内を聞くことは本当に一切しなかった。

 

 高位魔獣の使った”魔法”や特徴を聞いたかと思えば、年季の入った手帳―――仕事用のメモを重ねたものだろう、と情報を比べて質問したり何かを書き込んでいったりと非常に真面目で熱心に話を聞いてくる。

 

 またここのオススメは焼き菓子だというので頼んでみたところ、エーラの好む素朴だけれどいつまでも食べられる味だったらしく美味しそうにニコニコと頬張っていたのをちゃんと見ていてお土産として持ち帰り分まで払ってくれた。

 

 気遣いのできる良い大人というやつだ。

 

 そのような時間を過ごしたおかげで、独特な空気感だけど親切な武芸者というのはアル達6名の共通認識となるのであった。

 

 

 見た目に反して重そうなゴトッという音が買取口の卓に響く。

 

 表面を多少削っただけの羅漂雪の牙だ。

 

「このくらいでいいかい?”鬼火”の」

 

「ええ、十分です。というかその呼び方って広まってるんですか?」

 

 掌大の羅漂雪の牙を受け取ったアルは解体作業の担当者へ不本意そうな表情を向けた。

 

「おっと気に入ってなかったのかい?すまないねぇ。レオナールの旦那がそう呼ぶもんだからつい」

 

「いえ、やたらとその呼び方をする武芸者が増えてきた気がして」

 

 嫌がっているわけではないとアルが首を横に振りながら言うと、

 

「はははっ、そりゃ仕方ないさ。昨日は結構な人数が見てたからね」

 

 中年の職員は快活に笑う。

 

 あの()()に登っていたアル達とその真下で冰壁を張っていた鬼人族。

 

 屋根に登っていた者達は雪崩を熔かしていく蒼炎も見ている。

 

 目立たないというのが無理な話だ。

 

「・・・ですよね」

 

 アルは諦めたように肩を落とした。

 

「まぁ実力のある一党には付き物さ。避けるより慣れとくべきだねぇ」

 

「慣れますかね?」

 

「今の調子で活動するんなら慣れた方が早いよ、きっと。あ、それより報酬の準備も出来てるそうだからあっちの窓口も行くんだよ」

 

「あ、はい。わかりました」

 

 含蓄のある中年職員との会話を終えたアルは通常の窓口へと向かう。その途中にマルクがいた。

 

「あれ?訓練場は?」

 

「俺はそこまで菓子食ってねえから良いんだよ。それに、どーせお前の疲労が抜けてねえんだし明日も休むんだろ?」

 

 伊達につるんでいないマルクにはお見通しだったらしい。

 

「やっぱわかる?」

 

「まぁな。で、牙なんざどうするんだ?剣なら三本も持ってんだろ?」

 

 刃尾刀に龍牙刀、父ユリウスの形見の大型短剣―――現状でもアルは充分立派なものを持っている。不足などない。

 

 加えてアルはその三本と龍鱗布以外の外部装備には頼らないし、魔導具を作るノウハウも持っていない。

 

 道具より魔術を多用する親友がどうして羅漂雪の牙を欲したのかマルクは疑問に思ったのだ。

 

「師匠に、ってか小町さんに送るんだよ。凛華の髪留め作ってもらおうと思ってさ」

 

 アルは何の気なしに答える。昨日壊れたのは結構昔に凛華へ贈ったものだ。

 

 朝食を摂っていたときになんとなく違和感に気付いてどうしようかと考えていたところでバール隊長が来た。

 

 渡りに船とはこのことだと思ったものだ。

 

「あ~、なるほどな。割れたっつってたもんな」

 

 マルクは手をポンと打った。

 

 凛華の魔力に耐えきれずに割れたそうだし、高位魔獣の素材ならアルも問題ないと考えたのだろう。

 

「新しいの贈るって言っちゃったし、『蒼炎羽織』の添削ついでに頼もうと思ってさ。これだけあれば大丈夫だろ?どんなのが良いか凛華に聞いとこ」

 

 そう言って訓練場の方へ行こうとするアルをマルクはパシッと止める。

 

 ―――――どうしてこう、的には当てる癖に中心からは外すんだ?

 

「やめとけ」

 

「なんでさ?使い勝手が良い形ってあるだろ?よく知らないけどさ」

 

 女性の事は女性に聞くのが一番。アルがそう言うとマルクはため息をついた。

 

「・・・・はぁ。ま、良いから黙っとけって。たぶん文句言わねえよ」

 

 凛華の性格からして先に聞くよりモノをパッと渡した方が絶対に喜ぶ。

 

 相手はアル限定だが。

 

「そう?ま、気に入らなそうだったら買いに行こうかな」

 

「小町さんに頼むんだろ?大丈夫だって」

 

 呑気な幼馴染にマルクはやれやれと肩を竦めた。

 

「あ、そだ。もう報酬貰えるんだった。行こうぜー」

 

 懐に牙をほいっと入れたアルが受付へ歩き出す。

 

「もう?早えな。バール隊長が先に報告してくれたっつってたけどもう精査終わったのか?」

 

「らしいよ?解体のおっちゃんが言ってた」

 

 基本的には依頼を請けてから仕事、その後依頼人から署名を貰い、帰ってきて報告。

 

 そこから報告内容と依頼内容の精査があって報酬の受け取りだ。

 

 ついでに言うと依頼の難度が高いものほど精査にも時間がかかるのが普通である。

 

 達成報告がいつ行われたのか今回は知らないが早くて次の日くらいだろうと思っていたので2人は少々驚いていた。

 

 ―――――バール隊長は一体いつ報告したんだろう?

 

「すいません。報酬の受け取りが可能って聞いたんですけど」

 

 アルはそう言って依頼書の武芸者用控えを取り出す。

 

「こちらに。えー、はい。受取可能です――――っと待ってください。他の方はどちらにいらっしゃいますか?」

 

 職員は控えをチェックしてアルへ訊ねた。

 

「訓練場の方です・・・?」

 

「アルクスさん達は一党の等級が今回で昇級、四等級の一党となります。おめでとうございます。そういうわけでして認識票を全員分お願いします。それとラウラさんとソーニャさんに関しましては個人等級も五等級の方に上がりますのでお伝えください」

 

 疑問符を浮かべるアルへ職員が淀みなく答える。

 

「もう、ですか?」

 

 目を丸くするアル。同じく驚いた隣のマルクが訊ねた。

 

 ―――――この間昇級しなかったか?

 

「はい。元々積み上げてこられた実績と今回の人命救助及び高位魔獣討伐、更に雪崩への対処を加味しての評価です。認識票の更新には多少の時間がかかりますので、依頼を請ける予定がありましたらお早めに・・・・それと、私個人からも感謝を」

 

 淡泊ながら丁寧にお辞儀する職員へどう返せばいいのかわからないといった表情を浮かべたアルはとりあえず仲間達を呼びに行くことにした。

 

「あ、いえ。とりあえず仲間を呼んできます」

 

「はい。お待ちしております」

 

 踵を返したアルにマルクが追いつきながら口を開く。

 

「なんつーか、やりづれえな。感謝されることはしたんだろうけどよ、あんなにいろんな人から言われるんじゃな」

 

 すれ違った人達からも言われたし宿の従業員達からも言われた。

 

「周りが自分達のこと知ってるのも変な気分だよ」

 

 妙な気疲れを起こしそうだとアルが言えば、

 

「それもだな。”狼騎士””狼騎士”呼ばれるのもソワつく。お前の気持ちがわかったよ」

 

 マルクもそんな風に返す。ここまで二つ名を呼ばれたのは初めてだ。

 

「だろ?慣れた方がいいって言われたけど慣れる気がしないよ」

 

「・・・もうちょいしたら少しは落ち着くだろ」

 

「だといいけど」

 

 アルとマルクはそのように話しながらお菓子を食べ過ぎたので絶賛運動中の女性陣たちのところへ向かうのだった。

 

 

***

 

 

 仲間の女性陣4名に事情を話して認識票を預けた数日後、すべてが銅で出来た認識票を4つと黒鉄の基礎に銅のガワで拵えられた認識票2つ―――四等級の一党を示す認識票を”鬼火”の一党は受け取ることになった。

 

 異例の昇級速度である。

 

 この間にアルの疲れも抜け、夜天翡翠も武芸都市ウィルデリッタルトにあるシルト家の屋敷へと旅立った。

 

 使い魔の帰りを待って新たな都市へ旅立つか。暇な間に一党会議を開いてそういう結論に達していたアル達であったが、誤算があった。

 

 

 ”鬼火”の一党6名の想像以上にベルクザウムの領民や兵士達、そして武芸者達から英雄視されてしまっていたのだ。

 

 天災を防いでみせたのだから当然といえば当然。

 

 しかしアル達からすれば何ともやりにくい。

 

 道を歩けば親し気に声を掛けられ、店に入れば何かしら奢られ、サービスで何品か出され、仕事や訓練をしようかと支部へ入れば等級の上下に関係なくやたらと挨拶される。

 

 アル達がそれに気分を良くするかと言えば否だった。

 

 挨拶されればしっかり挨拶を返し、サービスされた食事に関しては無理矢理にでも代金を払い、同業者たちへも偉そうになど決してしない。

 

 むしろ足元を掬われるのを警戒してそんな対応をする。

 

 しかしそれがアル達の威光を余計に高めてしまった。

 

 羨む程の実力がありながらも謙虚な若手一党。

 

 いまやアル達と同期くらいの武芸者達からは羨望の的だ。

 

 どうしてこうなったんだ?

 

 渋い顔を隠しもせず頭を抱える頭目と味わったことのない気疲れを起こしてしまう仲間達。

 

「翡翠~っ!勝手だけど早く戻ってきてくれぇ~」

 

 ほとほと参ったアルの三ツ足鴉を呼ぶ嘆き声は日に日に増していく。

 

 そんな日々が1週間と少し続いた3月初旬。ベルクザウムに舞い戻ってきた夜天翡翠にアル達は大喜びし、翌朝逃げるように山岳都市駅の魔導列車に飛び乗るのであった。




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