日輪の半龍人   作:倉田 創藍

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2話 思わぬ再会

 現在時刻は午後2時過ぎ。

 

 アルクス率いる”鬼火”の一党は、山岳都市〈ベルクザウム〉から西北西隣に約520km(キリ・メトロン)離れた都市駅で昼食(駅弁)を買い、食事も終えてまったりしているところだ。

 

 10時前に起きてきたソーニャも車外販売に魅力を感じたらしく、6人で仲良く豚肉料理を味わうことになった。

 

 養豚が盛んな都市、というのは本当らしい。

 

 腸詰めだけでも相当数――――豚肉だけを詰めたものから、角切りにされた仔豚肉と少量の香草を練り入れたもの、羊肉と豚肉に強めの香草を入れたものなど、色味も違えば食感も大きく異なる多種多様なものが販売されていた。

 

 腸詰めだけでもそれだ。当然、原料である豚肉を使った料理はもっとたくさんあった。

 

 迷った末に「この際、訊いてみて決めよう」と、オススメされるがまま――……パリパリした皮の麦蒸棒餅(バゲット)玉菜(キャベツ)の酢漬け、ホクホクした馬鈴薯、表面をカリカリに焼かれた(グリルされた)腸詰めや、キメ細かな麦蒸餅(パン)粉が使われた揚げ豚(シュニッツェル)をどっさり挟んだものや、仔豚の丸焼きの切り売りなどを買ってみたが……当たりであった。

 

 しっかりと精肉加工された豚肉は臭みも少なく、脂も嫌なべたつきがない――つまり、旨い肉だったのだ。

 

 思わず、鋼業都市に向かうのは取り止めて、ここに滞在しようか? との話題が出たほどである。

 

 

 

 流れていく景色と心地良い満足感に空気が弛緩するなか――……車内販売で買った甘橙(オレンジ)果実水(ジュース)で口内をサッパリさせていたラウラが、斜向かいの青年にこう質問した。

 

「そういえばアルさん、闇属性魔力ってどういうものなんです? 皆さんもあんまり使いませんよね?」

 

「んー……闇属性かぁ。説明がややこしいんだよね」

 

 スッとした細面ながら男性らしさも顕れ始めた青年――アルは微妙な顔をする。

 

 ――闇って、なに?

 

 と、訊ねられて定義をハッキリさせられる者なぞ、そういない。

 

 おかげで幼少の頃に属性魔力を練習していた際、習得にそこそこ難儀したものだ。今とてロクに使わない。

 

「六道穿光流の【葉隠れ】って風と闇の混成構えじゃないの?」

 

 アルの右隣で凛華が言う。

 

「そうだけど、結局あれって自分の中でどう解釈するかであって『これ!』って正解があるわけじゃないんだよ。ていうか、闇属性はマルクが得意だろ?」

 

「え、そうなんですか?」

 

 使ってるの見たことないかもしれません。と、ラウラは意外そうな表情でマルクガルムの方――右を向いた。

 

 だが、人狼青年の反応はあまり芳しくないもので、肩を軽く竦めながら渋面を作る。

 

「得意っつーか向いてるだけだな、適性的に。ぶっちゃけ特殊な割にゃ微妙だぞ? それ自体に派手な効果があるわけでもねーし。俺が『雷光裂爪』使ってるのも、それが理由だからな」

 

「特殊? 他の属性魔力とは違うのか?」

 

 彼の右で籠手を外し、「う~ん」と伸びをしていたソーニャは気に掛かったようだ。

 

「んとねぇ、闇属性魔力って、他のとは違って負の力なんだ~」

 

 シルフィエーラがそう言うと、

 

「負? ですか?」

 

 意味を図りかねた朱髪少女が首を傾げる。

 

「そっ。例えば――……そうだな。マルク、いい?」

 

 実際に見せた方が早い。と、言ってアルが指先に蒼炎を灯し、

 

「おう良いぞー。そっちのがわかりやすいしな」

 

 気楽に応じたマルクが掌を軽く正面に向けた。

 

「え……」

 

「ちょっ」

 

 ラウラとソーニャが揃ってぎょっとする。

 

 なにせ彼女らは、頭目の放つ蒼炎の威力が伊達じゃないことをよくよく知っている。

 

 この距離じゃ危なくないか? と、思ってちっとも不思議はない。

 

「じゃ、いくよ」

 

 が、アルはお構い無しに指鉄砲を構え、ボボボボッと連射した。人差し指の先から断続的に蒼炎が翔ぶ。

 

「ん」

 

 しかし、マルクが右掌にズオオっと纏わせた濃墨色の闇属性魔力に衝突した途端、音もなく()()()()()

 

「へっ!?」

 

「これは、吸われてる……? のか?」

 

 人間組の少女らは、あまりに奇妙なその光景に大きな目を更に見開いた。

 

 まるで呑まれていくように蒼炎弾が消されている。

 

 着弾時に上がるはずの火の粉、ぶつかった時に出るはずの衝撃音、広がるはずの熱気すらも、なぜか発生していない。

 

 やがてアルが蒼炎を撃ち出すのを止めるのを待って、

 

「どういうことなんだ?」

 

 と、ソーニャが訊ねる。何とも表現に困る光景だった。

 

「蒼炎が呑まれてるように見えましたけど――……たぶん違うんですよね?」

 

 ラウラの確認にアルが「うん」と、頷いてこう説明する。

 

「効果は近いけど、呑まれてるってわけじゃない。闇属性魔力ってのはね、()()()()()()を持ってるんだよ」

 

「負の反射効果、ですか?」

 

「ええ。音とか、熱とか、そういう”力”()()()()に対して、同じだけ負の効果を返してるのよ」

 

「だから実際は、着弾の衝撃と熱とー……あ、音もだね。負の方向に反射して、相殺してるから消えたように見えてたんだ~」

 

 朱髪少女の鸚鵡(おうむ)返しに、鬼娘と耳長娘がそのように補足した。

 

 魔族組の中で闇属性への適性が著しく低いのは凛華だが、森人族のエーラも適性は決して高くない。下から数えた方が早いほどには低い。

 

「衝撃と熱に、音もですか」

 

 義姉妹が「ほ~」と似た表情で顔を見合わせる。

 

 初めて聞く概念だった。特にアルは、攻性魔術や攻撃に転用できる属性――ついでに魔力操作を重点的に教えているので、今回初めて聞いたほどだ。

 

「うん、ていうか物質世界に存在してる力に対してならすべてだね」

 

 アルも普段の魔術講義めいた雰囲気で続けた。

 

 ちなみに、魔族基準では魔力を扱えない人間なので、使える手を増やすべく物理エネルギーに関する知識も並行して教えていたりする。

 

「凄いじゃないか。どうしてマルクは使わないんだ?」

 

 ゆえに効果を理解できたソーニャは心底不思議そうに、萌黄色の瞳をマルクに向けた。

 

 そう問われると予期していたのか、彼も端的に返す。

 

「使いにくいんだよ」

 

「ええと? どういうことでしょうか?」

 

「負の反射効果ってなぁ、魔力を()()()()()()()()続かねえんだよ。これくらい出して『はい終わり』じゃダメなのさ。相殺できる許容量を超えたら呆気なく貫通する。【人狼化(魔法)】もあんのに、垂れ流してらんねえんだよ」

 

「なるほど、そういうことか」

 

 ソーニャは手をぽんと打ち合わせた。

 

「ついでに言うと、魔力の放出そのものは感知できるし、相殺するにしたってそれに見合うだけの魔力も消費する。打ち消すくらいなら躱して反撃した方が早いんだよ、少なくとも魔族相手はね」

 

 と、更にアルが続け、

 

「受け流しに使えねえってこともねえが、アルなんかは魔法がない分、そこらへんの欺瞞が上手くてな。故郷で稽古してる時、いっぺん見誤って至近距離から爆炎ぶっ放されたことがある。あん時ゃ冷や汗掻いたよ」

 

「あったなー、そんなこと」

 

 マルクと懐かしそうに笑う。

 

 ラウラとソーニャは『やっぱり魔族の稽古は激しいんだな』と、今更ながらに再認識した。

 

「あれからよね? マルクが闇使わなくなったのって」

 

 凛華もそのことを憶えていたのか、顎に指先を当てて問う。

 

「まあな。親父の扱い方を真似てみたけど、まだまだ早えって気付かされたぜ」

 

「マモンおじさんは闇属性使うの上手かったもんねぇ。足先に出して音消したり、指先に纏わせて受け流してたりしてたっけ? お父さんも『私が森で見失うのはアイツだけだ』って言ってたよ」

 

 エーラも隠れ里の家族を懐かしむように笑みを零した。

 

「マルクの親父殿か。やはり強いのか?」

 

(あまり深く聞いたことはなかったな)

 

 心中でぼんやりと呟きつつ、ソーニャが問えば――義姉も興味があったらしい。琥珀色の瞳を右に向ける。

 

 この二人は最近、殊更強さに貪欲だ。やはり高位魔獣〈羅漂雪〉との戦闘経験がそうさせるのだろう。

 

「強いよ、マモンおじさん」

 

「強いわね」

 

「うん、強い」

 

「なんでお前らが先に言うんだよ」

 

 マルクは幼馴染3人へ的確にツッコミを入れつつ、人間の少女らが驚くべき発言をした。

 

「親父は強えよ。結局、実戦稽古じゃ【人狼化】させられなかったしな」

 

「んえっ!?」

 

「へ?」

 

 ラウラとソーニャが目を真ん丸にする。

 

 ――彼相手に、魔法を使わない?

 

「え、それって……本気のマルクさんと戦って、って意味ですか?」

 

 朱髪少女が困惑気味に確認した。

 

 この六人一党の中でも圧倒的頑健さ(フィジカル)機動性(アジリティ)を誇る人狼族の青年は「ああ」と、あっさり頷いた。

 

「本気で挑んでもまだ親父には魔法を使わせられなかった。ま、俺の何倍も長く生きてっから当たり前っちゃ当たり前だけどな」

 

 彼の父マモン・イェーガーは、100年以上を生きている人狼族の強者だ。年齢で言えば凛華の父――八重蔵とそう変わらない。

 

 あの世代の魔族は、種族が絶滅の危機に瀕していた――つまり、少数で戦わなければならなかった経験が豊富なので強者が多いのだ。

 

「アル殿も魔法を使わないが、それとは違うん――だよな?」

 

「うん。武器有りで勝つか負けるかわかんないのと、生身で圧倒するのは全然違うよ」

 

 ソーニャの確認するような問い掛けに、アルが首を横にふるふると振って否定する。

 

「生身で圧倒するのか。とんでもないな」

 

「ま、いいんだよ親父の話は。いつか勝ってやるさ」

 

 そう言って肩を竦める親友を横目に、アルは膝上の使い魔を撫でながら天井を見上げ、「う~ん」と唸った。

 

「ん、どした?」

 

「いや、今のマルクなら闇属性使えるんじゃないかって、ふと思ってさ。つまるとこ、加えられた力を相殺できるだけの質――ってか、出力があれば良いんだろ?」

 

「ああ、まあ――……あ、そうか。『気刃の術』だな?」

 

 直ぐに思考が追いついたマルクが問う。

 

「うん。あれを介して生じた闇を纏うなり何なりすれば、大抵の攻撃は相殺できる(消せる)と思うんだよ」

 

 独自魔術『気刃の術』によって生成されるのは、闘気から転じ、高出力・高圧縮化された属性魔力だ。

 

 それを人狼族の適性に向いた闇属性魔力でやってみるのはどうだろうか?

 

 纏って殴ったり――つまり、攻撃に転用はできない(自分で生み出した衝撃(インパクト)も相殺してしまうため)が、攻撃を受け止める――衝撃吸収作用という点に於いて、破格の性能になるのではないか?

 

 と、アルは考えたのだ。

 

「じゃあ『蒼炎羽織(そうえんばおり)』みたいにするの?」

 

 ”纏う”という単語から連想して凛華がそう問えば、

 

「でもあれ、魔力の消耗すっごいよ?」

 

 ()(さま)エーラが真っ当な反論を述べる。

 

 ヴィオレッタから届いた添削にも『術自体に欠陥はないものの唯一、()()()具合にだけはよくよく注意するように』と、書かれていた。

 

「『雷光裂爪』との併用って、キツくありませんか?」

 

 幾らマルクさんでも。と、ラウラが眉を顰める。

 

 『気刃の術』の魔力消費効率はかなり低い――直截に言って悪い方だ。制御難易度も高い。

 

 その術核を用いぬ凛華の新しい魔術『百華ノ冰女下駄(ひめげた)』とて、『流幻冰鬼刃』と【戦化粧】の実戦併用は魔力の消費速度が並じゃない、という話だったはず。

 

 ゆえに、その並行発動と同義な『蒼炎羽織』の『(かさね)』や『襲纏(かさねまとい)』の威力はいっそ過剰なほどに高く、アルでも滅多にやらないのだ。

 

「あっちの威力を上げるじゃ、ダメなのか?」

 

 別系統の『気刃の術』を並行発動する、という難易度に思い至ったのか、騎士少女がそんな提案をする。しかし――。

 

「『雷光裂爪』なら、今のままでも威力は上げられるよ。マルクが慎重に扱ってるからやんないってだけで」

 

「だな。貫き手にすりゃあ、アルの短剣くらいには伸びるし、一本にも束ねられる」

 

 と、男衆は応じた。

 

「えっ、そうだったのか!?」

 

 知らなかった。と、続けたソーニャへ、

 

「まーな。んで、なんか創ってくれんのか?」

 

 緩く肯定を返したマルクが訊ねる。

 

 凛華には『冰鬼刃』と『冰女下駄』。エーラには『燐晄』が三種。

 

 ラウラには『蒼火撃』の手伝いに、その派生が複数。ソーニャには『隠蛇ノ帯壺』。

 

 それだけ攻性魔術を創ってきたアルだが、マルク専用の独自魔術を創ってやったことはない。

 

 なぜなら、そもそも人狼が特性的に戦闘特化な種族であることに加え――――。

 

「師匠に最適化してもらった『雷光裂爪』以外にもう一つ、あっても困んないだろ?」

 

「そう言われりゃそうだな。けど、どんなのにすんだ? 余っ程じゃねーと、実戦じゃ咄嗟に使えねーぜ?」

 

「う~ん、そりゃそうだよなぁ。闇属性だし、撃ち出してどうこうなるのなんて師匠級じゃないと意味ないし――……となると、やっぱ”纏う”ってとこから離れらんないか。つっても、ただ纏わせたって【人狼化】と『雷光裂爪』で魔力をドカ食いする…………あー、案外難しいな。ちょっと時間空くかもしんない」

 

 と、アルはブツブツ呟きながら左眼を閉じた。『釈葉の魔眼』を発動させていないのは、完成形がチラとも思い浮かばないせいだ。

 

「構わねーさ。俺もなんか案出すかぁ」

 

 肩を竦めた人狼青年が両腕を組んで背もたれに寄り掛かる。

 

「ねえ? 人間態でも扱える術なら便利じゃないかしら?」

 

「あっ、確かに! 『雷光裂爪』って最低でも【部分変化】が要るもんね!」

 

「ふぅ~む、闇属性ですか……『蒼火撃』との相性はあまり良くなさそうですね」

 

「効果自体が特殊だもの。下手に組み合わせちゃったら意味消失しちゃうかもしんないわ」

 

「……うぅむ。正直、私には何も考えつかん」

 

「今初めて効果を知ったんならしょうがないって~」

 

「クカ……カァ~」

 

「あら、翡翠はおねむ?」

 

「じゃ、ボクが抱えたげる~。こうしてるとあったかいんだぁ~」

 

 6人は窓の外を流れる牧歌的な風景を横目に、そのような――現役武芸者らしく、また、魔導学院の受験生らしくも魔術談義に花を咲かせるのだった。

 

 

 * * *

 

 

 それから数時間後。

 

 多少暖かくなってきた、とはいえ――今はまだ3月も初旬。

 

 現在時刻は午後の5時半といったところだ。魔導列車の個室窓からは沈みかけの夕陽が見える。

 

 途中、点検の為に停車が3度ほどあったので、半日近く車両の中だ。

 

 アル達は広々とした8人掛けの個室に、自分達だけなのでまだ良い。三等車も間仕切り自体はある……が、四等車以降にそういったものはない。

 

 ずっと乗っていた乗客達が大変だったろうことは、想像に難くない。

 

 とはいえ、特定の職業でもない限り、魔導列車に乗りっぱなしで何駅も移動する者は少ない。駅と駅の区間が広過ぎるのだ。

 

 馬車が要らなくなるのは、もっと未来の話になるだろう。

 

「ねね、見てっ! もう着くみたいだよ!」

 

 ふと車窓に目をやったエーラが、外を指差しながら意気揚々(うきうき)と声を上げた。

 

「やっとね。ん、んん~~……いい加減座ってるのにも飽き飽きしてたとこだったから、丁度良かったわ」

 

「お、あれが鋼業都市〈アイゼンリーベンシュタット〉か」

 

「鋼業って言うほどですし、もっと地味な色味の印象でしたけど案外、そうでもないんですね」

 

 凛華、アル、ラウラがそんな感想を漏らし、

 

「確か……魔導列車の部品がここで造られてるんだっけか?」

 

「ああ、『帝国史概論』にも載ってたな。大戦時は南部の重要拠点として、ここを早期に入手したおかげで武器の生産が安定したとか」

 

 マルクとソーニャが本から得た知識を披露する。

 

 彼らの目線の先には、無数の魔導灯の光が漏れる――きらびやかと言うより派手、豪奢と言うにはどこか武骨過ぎる印象の建物群があった。

 

 鋼業都市〈アイゼンリーベンシュタット〉はその名の通り、鋼業が盛んな都市だ。

 

 鉱業にも力を入れているが、その鉱業によって得た鉄鉱石から銑鉄に加工し、更に質の高い鋼鉄の製造、及び加工が主力(メイン)かつ得意分野である。

 

 元々、帝国が興る前の小国時代は、武器製造に重要な土地であった。

 

 当時、他国の第二皇子であった初代皇帝が所属国の首都を陥落させた後、ここと和睦を結んだことで戦力を飛躍的に向上させたとされている。

 

 また、この地を治めているのは侯爵家だ。

 

 帝国貴族の爵位上、更に公爵と大公が上に存在しているものの、その両家はどちらも皇族の血筋を引いている為、実質最高位に属する貴族だ。

 

 当主は帝国でも珍しく女性だが、非常に熱血なことで知られている。例外的に爵位が同等である辺境伯家と共に南部貴族の取り纏め役を担う――所謂(いわゆる)、やり手だ。

 

 ちなみに、辺境伯家が国の守護を任された広大な領地持ちに対し、こちらは魔導機関や魔導具、魔導器といった基礎設計(下地)から製造まで担う重要な土地であるため、皇族からの信頼も厚い。

 

 最近、魔導具を扱う民間会社なども増えてきて発展著しい都市である。

 

 アルは僅かに変動した重力(G)に魔導列車の減速を感じ取り、窓の外に目を凝らした。

 

 ――高い建物が多いな。

 

 〈ウィルデリッタルト(武芸都市)〉にも、〈ベルクザウム(山岳都市)〉にも高い建物自体は散見されたが、この都市は全般的に階層の多い建物が多い。

 

 前世の高層ビル群ほどではないにしろ、7、8階建てがザラなようだ。

 

「遠目で見るとそうでもなかったけど、近くなってきたら武芸都市とは雰囲気、ぜーんぜん違うね~」

 

「ホント。万年樹ほどじゃないけど高い建物もたくさんあるし、明るいわね」

 

「あの奥に見えるお城みたいなのが領主館でしょうか? 結構迫力ありますね」

 

 無意識にテンションの上がった三人娘は、姦しく窓に張り付いている。

 

「そういえば聞いてなかったな。アル殿、降りてからの予定は決まってるのか?」

 

 ソーニャが生真面目に訊ねると、

 

「ひとまず宿だろ」

 

 すかさずマルクが応えた。

 

「そだね。駅員に訊いて、オススメの宿と食事が出来る場所でも探そうか。お金にもまだ余裕あるし、仕事の前に観光するのもありかな」

 

 アルとて、それに否やはない。ついでに、この都市での行動方針も告げる。

 

「そんじゃ明日は早速探検だねっ!」

 

「カアッ!」

 

「それ良いですね。まだ二都市しか見てませんけど、これだけ違うなら気になります」

 

「いんじゃねーの? あ、けど臭いのキツそうなとこは勘弁な。鼻がモゲちまう」

 

「ん、承知した。しかし。旅雑誌でも買っておけば良かったな」

 

「ここの書店にあるんじゃないかしら? あたしも見て回りたいわ。きっと鍛冶屋も多いはずよ」

 

 一党の面々がそれぞれ賛同する。

 

「じゃ決定ね。明日は都市を観て廻ろうか」

 

「「「はーいっ」」」

 

「おう」

 

「うむ」

 

「カア!」

 

 そんなことを話している内に魔導列車がみるみる減速していく。既に徐行運転状態だ。

 

 ”鬼火”の一党は、長い乗車の疲れを期待で緩和させつつ、鋼の都市に到着したのであった。

 

 

 

 魔導列車の扉が、プシュウ――……と空気の音をさせて開く。

 

「とう、ちゃーくっ!」

 

 背嚢を担いだエーラは一番にぴょんっと列車から降りた。

 

「おお、なんか初めての匂いがする」

 

 マルクが鼻をすん、とさせて妙な顔をする。

 

「んん~……やっぱり外はいいわねぇ」

 

 凛華は降りて早々に大きく伸びをした。

 

「なんというか視界が賑やか、とでも言うのか。そんな感じだな」

 

「確かに。これなら夜も明るそうですね」

 

 ラウラが義妹に同意する。ソーニャの表現は正鵠を射ていた。

 

 屋内から漏れているのだろう――魔導灯の白っぽい明かりが上から降り注いでいるおかげで、他の都市より明るい。

 

 無論、武芸都市や山岳都市が夜になったら真っ暗というわけではないが、それでも明るさの格が違う。

 

「カア?」

 

 元々高く造ってある乗降場(ホーム)より更に高い建物の群れを見上げ、夜天翡翠は不思議そうに頸をくりくりと傾げている。

 

 そんな仲間達を横目に、ぐい~っと身体を伸ばしたアルが、

 

「とりあえず駅員に宿を訊いて来ようか」

 

 左肩の使い魔を軽く撫でて歩き始めた――その時だ。

 

「おやっ!? お兄さん達は!」

 

 左後ろから素っ頓狂な声が聞こえた。

 

「ん?」

 

 自分達のことだろうか? と、思った6人が振り向くと――――。

 

「やっぱりー! お久しぶりですねぇ~! お元気でしたかぁ~?」

 

 そこには橙色に近い赤毛を一括りにした、アル達より少しばかり年上の女性が立っていた。

 

 手には真っ(さら)な大きい革鞄。驚いているその顔には、ほんの少しだけソバカスが散っている。

 

 ――うそだろ……!?

 

 そう思ったアルを誰が責められようか。

 

「あ、え、ええ。お久しぶり……ですね。えーと、お姉さんはどうしてここに? 武芸都市の方だったんじゃ……?」

 

「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれました。なんと! (わたくし)このたび! よぉぉぉやくっ、お金が貯まったんですよぉ~! そのおかげで、こうしてこの都市にやって来れたのですっ! 武芸者さん達への売り上げが良くて、お給金も弾んで貰えましてねぇ~。いやぁ大変でしたぁ~!」

 

 耳長娘とはまた別の意味で活発そうな年上の女性は、表情をころころ、しみじみとした風情で答えた。

 

「あ~……そう、だったんですね。あれ? でも、確か帝都の……」

 

 アルが咄嗟に後ろ手で仕草(ジェスチャー)を送り、面々は自身の認識票が外に出てないか、さり気なく確かめる。

 

「おおーっ、憶えておいででしたかぁ~! アウグンドゥーヘン社ですねっ? 実はこの〈アイゼンリーベンシュタット〉には……なんと、アウグンドゥーヘン社の南部支社があるんですよぉ~! お兄さん達も今月の『月刊武芸者』読みましたか!? 読みましたよねっ!? ああいった帝都南部の武芸者情報は一旦この都市で纏められて、その後、帝都に届くんですよ~!」

 

 女性の語り口は些か――否、かなり熱っぽい。

 

「そう、でしたか――ってことはお姉さん、ここに……」

 

「はぁい! その通り~! 記者になる面接に来たんですよぉ~!」

 

 ――……マジか。なんてこった。

 

「お兄さん達もここで武芸者活動やるんですよね~? もし新人記者として私、ミリセント・ヴァルターが取材しに来た時はよろしくしてくれると嬉しいです~!」

 

 一党と再会した記者志望の元売り子――ミリセント・ヴァルターは活発そうな顔に嬉色を浮かべ、楽しそうに笑って自己紹介したのだった。

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