日輪の半龍人   作:倉田 創藍

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「小説家になろう」に最新話を、「カクヨム」にて同作を章ごとに、こちらへは定期的に更新していく予定です。


12話 帝都へ向けて(虹耀暦1287年6月末:アルクス15歳)

 6月末日。もうそろそろ本格的な夏がやってくる頃合いだ。

 

 オスヴァルト・ディヒター伯爵率いる劇団の役者30数名と雇われた警備員、そして指名依頼を請けた”鬼火”の一党と『紅蓮の疾風』を乗せた魔導列車は、まだ暖かくなり切れていない朝の空気を引き裂くように進んでいた。

 

「これでも前倒しして帝都入りしようとしているのだけれど、襲撃の可能性はありそうかしら? ”鬼火”さん、アナタがどう考えてるか聞かせてちょうだい」

 

 窓から流れていく濃緑色の自然を見下ろしていたアルクスに豪奢な装いのオスヴァルトは問う。

 

 本来なら準備期間を含めてももう少し遅くに出立しても問題はない。大事を取って劇団の帝都入りを1週間近く早めに繰り上げたのだ。

 

「半々、と言いたいところですけど、可能性はかなり高いでしょうね」

 

 三ツ足鴉を左肩に乗せた妖しげな青年は、チラリと視線を寄越すや、はっきりと答えた。

 

「それはなぜかしら?」

 

「幾ら公共の交通手段だと言っても、これだけの人数が一気に動けばどうしたって目立つからです。裏方の方達も昨日出たんでしょう? それにディヒター卿、貴方が動けばそれ相応に人が動く。目をつけてる側からすれば、ここまでわかりやすい目印もないと思います」

 

 アルの返答は淀みない。

 

「そうよねぇ。ハァ……こういう時、貴族は嫌ね。どうしても重たくなっちゃう」

 

 オスヴァルトは背もたれに深く掛け直して嘆く。

 

「けれど、ディヒター卿がいらっしゃらなければこの一等車は借りられませんでした。情報は抜けてしまってるでしょうけど、その分警護はしやすいと思います」

 

 そう言ったのは窓側にもたれ掛かって立っているアルの近くに座っていたラウラだ。

 

 彼女の言う通り、オスヴァルトが貴族だったおかげでほぼ貴族専用車両と化している一等車を借りることができた。

 

 一等車には狙われているクラウディアを含めた主演陣と10名ほどの役者、そしてその警護についている警備員達とアル達が乗っている。

 

 他の役者は二等車の前方の完全に仕切られた個室指定席(コンパートメント)、残りの警備が後方と車両を繋ぐ扉の前に控えていた。

 

 今はマルクガルムとシルフィエーラ、レイチェルが三等車、中間展望車両、四等車、五等車へ見回りに出ている。

 

 一等車と二等車がほぼ劇団関係者で占められている以上、敵が潜んでいるとすれば他の車両だろう。

 

 しかし、アルが乗車の際にチラリと見た時はすでに乗客が大勢乗っていた。

 

 芸術都市は帝国南部でも帝都直前の駅。

 

 オスヴァルトが二等車の指定席を取るのに苦労したと言っていたが然も在りなん。

 

「確かに、団長が領主様じゃなかったら一等車には乗れなかったですもんね。私初めて乗りましたけど、やっぱり豪華です。凄いです」

 

 感動している、といった声音でオスヴァルトの方を向いたのは、クラウディアの隣にいる赤毛で童顔の女優だった。

 

「フフ、ありがとうカサンドラ。皆も寛いでちょうだいね?」

 

 オスヴァルトが役者達に微笑むと、

 

「はい!」

 

 と巻き毛を揺らしてカサンドラがニッコリと人好きのする笑みを浮かべ、

 

「はい。僕は二等車までにしか乗ったことなかったから新鮮ですよ」

 

 とクラウディアの相手役イグナーツも頷く。

 

 余談だが――アルと彼に妙なわだかまりは一切ない。彼とてプロの職業役者。むしろ三等級武芸者に礼を欠いていた、と言ったくらいだ。

 

「普段は三等車だからやっぱり貴方、良いとこ出よねぇ」

 

 この劇団の看板女優ディートリンデは柔らかそうな茶髪をキッチリ後ろに纏めている。

 

「ま、家が裕福だったんで」

 

「こぉ~のボンボン」

 

 おちゃらけるイグナーツにディートリンデはクスクス笑って彼の胸を軽く叩いた。商家の次男である彼の持ちネタの一つである。

 

 二人があえてそんな風に軽い言葉を交わし合う理由は一つ。

 

「……ありがとうございます、団長」

 

 今回帝都の大舞台で主演を務める女優クラウディアが沈んだ様子だからだ。舞台稽古の時だけはそれを忘れて打ち込むが、終わったら最近はずっとこの調子。

 

 縁を切られたはずの実家、それも実の父親がならず者まで雇って自身を連れ戻そうとしていると知れたのだからそうもなるというものだろう。

 

「なぁアルクス、あんまりここで言うこっちゃねえけどよ。警備の連中に敵が紛れ込んでたらどうすんだ?」

 

 アルの向かいで薙刀を肩に引っ掛けているディートフリートが問う。

 

 途端、警備を担当している者達が一瞬不満そうな顔をした。黙っているがあまり良い気はしていないだろう。

 

「そこは心配しないでちょうだい。彼らは普段からウチと契約してくれてる警備会社の者達よ。顔もよく知ってるわ」

 

 オスヴァルトは彼らに軽く「ゴメンなさいね」と言うように手を振ってそう述べる。

 

 しかしアル達――武芸者(サイド)が「はいそうですか」と信用できるワケもない。

 

「ディヒター卿が言った通り、顔見知りなら紛れ込んでる可能性は低いんだろう。でも買収か脅迫されてる可能性は低くない。自分達以外に命は預けないように」 

 

 ゆえにアルは至極当然の理屈に則って臨時頭目として方針を告げた。

 

「だよな。わかった」

 

 ディートは同意するように首を縦に振り、

 

「はい、了解です」

 

「ええ勿論よ」

 

「承知した」

 

 ラウラ、凛華、ソーニャは当たり前のように頷いてみせる。

 

 オスヴァルトは舌を巻いていた。

 

 戦士を率いる資質、とでも言うのだろうか?

 

 この一見すると妖しげな傾奇者にすら見える青年からは、そういった雰囲気をひしひしと感じる。

 

 この年頃の若者はとかく反発しがちだ。しかし彼の仲間はおろか、別の一党の頭目であるディートですらそんな雰囲気は微塵も滲ませていなかった。

 

 ――……凄い統率力。彼に心酔してる……? 違う、そこまで稚拙なモノじゃないわね。

 

 オスヴァルトは内心で二党の評価を更に引き上げた。

 

「……裏切者がいるってことですか?」

 

 一方、クラウディアは髪色と同じ明るい茶色の瞳を不安に揺らした。

 

「悪意があって裏切ったっていうより、何か理由があって内通者になっちゃった人がいるかもしれないって、アルは言いたいんでしょ? 団長さんの顔見知りだとしても人数が多いし、そんなの一人いただけでも状況は変わるわ」

 

 凛華は尾重剣の柄頭を指先でトントンと叩きながら意見を述べた。

 

「出立の日取りも誰かが漏らしているかもしれんし、景気づけに酒場で酌み交わしているのを訊かれた――なんて可能性もあるだろうな」

 

 だからそんな気がなくても内通者に成り得る、とソーニャも鋭い意見を口にする。

 

「となると、やはり日取りは確実にバレていると思っておいた方が無難ですね」

 

 ラウラはそう言いつつ刻印指輪に触れた。

 

「そっ。帝都に着くまで、途中の点検含めておよそ四時間半。仕掛けて来るなら人手が薄いその間だろう」

 

 アルがそう締め括ると、警備の者は不承不承だが納得したらしく背筋を正し直し、クラウディアはぎゅうっと震えるように拳を握り締める。

 

「大丈夫だよ、クラウディア」

 

「ありがとうございます、カサンドラ先輩」

 

 肩を抱いてくる童顔の先輩女優にクラウディアは弱々しい笑みを見せた。

 

 こんな斬った張ったの世界など今まで無縁だったのだ。

 

 ラウラとソーニャと違って心構えもなかった。不安も怖れもある方が当たり前と言えるだろう。

 

「アナタ達が若くしてその等級になれた理由がよぉ~くわかったわ」

 

 上位武芸者が帝国でも相応の立場として見られる理由がよくわかる。オスヴァルトはそう口にした。

 

 彼らの武芸者としての経歴については顔合わせを行った後に調べ上げている。

 

 その中でも特筆すべきは”鬼火”の一党の活躍だ。『紅蓮の疾風』とて優秀な新人武芸者一党であったが、”鬼火”の6名にはどうしたって負ける。

 

 ド派手な功績の数々に驚くほど出てこない個人情報。そして登録から僅か半年の内についた二つ名。

 

 『月刊武芸者』はたまに読むくらいのオスヴァルトでもすぐに見つけられるほど毎度取り沙汰されている期待の新人一党。

 

 彼らの功績がこの6名ともがきちんと油断のない考え方をしていること、それらを纏め上げている頭目の威風に他ならないことを理解したのだ。

 

 ただ強いだけではここまでの貫禄は出せない。

 

「ただの成り行きですよ」

 

 アルは肩を竦めた。

 

「しっかし、何もないとそれはそれで焦れるぜ。出発してどれくらい経ったんだっけ?」

 

 ディートはそう言いつつも、落ち着いた雰囲気を漂わせている。

 

 アル達と出会ったばかりならまだしも今の彼は死線を潜り抜け、一皮剥け始めた武芸者だ。

 

「滅多なこと言わないでよ、ディート君」

 

「っと、はは、すんませんつい」

 

 ディートリンデに苦情を言われたディートが照れ照れと頭を下げる。

 

 凛華とラウラとソーニャが『学ばないヤツ』と冷めた視線を向け、

 

「まだ三十分くらいしか経ってないよ。仕掛けるならもう少し人里離れてからじゃない?」

 

 アルは苦笑しつつ答えた。

 

 すると近くの席にいたカサンドラがクラウディアの手を握りながらアルの方を見上げる。

 

「じ、実際襲われたらって考えたらコワくなってきちゃった。キミらって強いんだよね? 私達のこと、守ってくれるんだよね?」

 

 そして少々潤んだ瞳で見上げた。凛華とラウラが『何なの急にコイツ?』という視線を向ける。

 

「ええ、仕事ですから」

 

 しかし、帝都の舞台でも活躍している女優の潤んだ瞳にさえ、アルは何も感じなかったらしく、淡泊な返答を寄越した。美人なだけなら幼い頃から見慣れているのだ。

 

「そ、そっか。クラウディア、ね、あのお兄さんもそう言ってるし大丈夫よ」

 

 カサンドラはそう言って両手で後輩女優の手を握ってやる。

 

「はい、ありがとうございます」

 

 凛華とラウラはアルの淡泊()な対応によしよしと頷きつつ、彼が劇団員にも内通者がいるかもしれないと考えていることを悟った。

 

「ねぇ、彼ってあの二人のどっちかと好い仲なの? それとも二人とも?」

 

 ディートリンデが面白そうにディートに囁く。

 

「へ、えっ!? あ~……いやぁ、えぇと、どう、なんでしょうね」

 

 ディートはどぎまぎしつつ答えた。

 

「カサンドラに興味もなさそうだったじゃない? やっぱり仲間があんなに美人だと、っていうか彼自身も随分だけどああなっちゃうのかしら?」

 

「さ、さぁ~?」

 

 ヒソヒソ声に心臓を跳ね上げつつディートはよくわからないと返す。

 

 まさか半魔族のアルが自身に問題を抱えているせいで、そういった思考を一切合切やめているということまでは知らない。

 

「”鬼火”くん、君の立ち居振る舞いって高位武芸者なら普通なのかな? 僕らの劇団は現代劇もやっててね、英雄って呼ばれるようになった武芸者の演目なんかもやってるんだ。参考になるかなと思ったんだけど、どうだい?」

 

 イグナーツが興味津々で問いかける。

 

「うぅん、どうなんでしょう? 考え方とかは上位の武芸者ならこんなもんだと思いますけど、使ってる武器が大陸じゃあんまり見ないモノだから、歩法とか所作は少し違うかもしれません」

 

「その二本の剣のこと?」

 

「ええ、刀って言うんです。極東の島国で使われてる剣らしいので流派もそれなんですよ。それに、俺達の動き方とか振るい方は、こう言うと物騒ですけど――殺すことに直結する為の動きです。魅せる振るい方とは違いますから、役者さんの剣捌きとは趣旨が違うんじゃないかなと思いますよ」

 

「魅せる動き? 僕なんかは一応道場に通わせてもらったりしてた経験を活かしてるんだけど、それとは違うってことかな?」

 

「流派までは知りませんけど、道場は結局戦う為の動きが基本ですから、やっぱりちょっと違うんじゃないでしょうか? こう……見栄っていうか、もっと動きに花を持たせるっていうか、派手な動きの方が観客は喜ぶというか、わかりやすいというか」

 

 割合真面目に返したアルの意見にイグナーツは「ほう!」と目を輝かせた。

 

「ほっほぅ~、”鬼火”さんはハッタリを利かせた方が、お客さんもより楽しめるって言いたいのね?」

 

 たまらず口を挟んだオスヴァルトにアルは頷く。

 

「はい。それこそ尾重剣――凛華が使ってるその大剣でも、素人目には地味に見える動きとか重心の動かし方とか、足捌きって結構ありますから。

 

 それよりは――どこに相手役の小道具()が来るかわかってるからこそ可能な魅せ方というか、映え方というか、そういうのを意識した方が良いんじゃないかなって……。まぁ、これこそ素人意見なんですけど」

 

 この世界の剣とは美術品としての価値もあるが、どこまで行ったところで武具という見方が強い。

 

 道場とて真剣を使う為の――要は戦う為の実用を前提としている。

 

 ゆえに盲点だったのだ。

 

 所謂ところの実戦とは想定の違う、完全に演劇に重点を置いた殺陣という考え方が。

 

「団長、今の面白い着眼点かもしれないですよ」

 

「ワタシもそう思ったわ。どうしても大仰に打ち合うか、演出に頼っちゃってたものね」

 

 イグナーツとオスヴァルトは共に演劇馬鹿だ。新たな方向性の芝居について熱心に語り合い始めてしまった。

 

「ま、いいか」

 

 アルは二人の様子を見て独り言ちる。

 

 そこへ見回りに行っていたマルクとエーラとレイチェルが帰って来た。

 

「おかえり三人とも」

 

「たーだいまっと。そっちはどう?」

 

 アルの方へタタッと駆けてきたエーラが問うてくる。

 

「今のとこ異変はないかな」

 

「おかえりマルク。そちらはどうだったのだ? 怪し気な人物はいたか?」

 

 ソーニャが首を回して視線を送ると、人狼青年は気負いのない様子で肩を竦めた。

 

「一応全車両見回ってみたが、それらしい連中はいなかったぜ。ま、護身用に短剣だの小剣だの持ってる奴はいたし、武芸者っぽい連中もいるにはいたが、ありゃあシロだろうな。全員で襲いかかられてもぶっちゃけ脅威にゃならねえ」

 

「ふぅむ」

 

 マルクの言葉にアルが右眼を閉じて思考に入る。

 

 ――だとすればどこから来る? やっぱり点検で停車するときが怪しいか?

 

「一番可能性が高かったのが他の車両に潜んでるってヤツだったわよね?」

 

 凛華が茶杯を手渡しながら確認すると、

 

「ありがと。でもマルクの鼻でもボクの耳でもそれっぽいのはいなかったと思う」

 

 エーラは自身の耳を少しヒクつかせながら答えた。

 

「襲撃があると仮定して……いつ、どこから、が全く読めませんね」

 

 ラウラは顎を擦って険しい表情を見せる。ソーニャも眉間に皺を寄せた。

 

 クラウディアと自身らの境遇に親近感を抱かずにはいられない為か、いつもより一層気合が入っている。

 

 最後に車両に入って来たレイチェルは相方と看板女優の距離がやたらと近いことに目敏く気づき、

 

「ディーくん、楽しんでたみたいだねぇえ~?」

 

 ホホホっと冷たく微笑を浮かべた。

 

「ぅえっ!? いや!? そ、そんなことはねえよ!? オレもちゃんと仕事をだな」

 

「ふぅん……?」

 

 ディートがダラダラと冷や汗を浮かべる。

 

「あら、楽しくお喋りしてたわよね?」

 

 そこにディートリンデが油を注ぐ。どうやら面白がっているらしい。

 

「えっ? そ、そりゃモチロン。はははっ……――あっ、ちょ、レイチェル!」

 

 ふん! と顔を背けて歩き去っていくレイチェルと慌てて後を追うディート。

 

「こぉら、リンデちゃん。カワイイのはわかるけれど、あんまり引っ掻き回さないのよぅ?」

 

 クスクス笑っているディートリンデにオスヴァルトは苦笑交じりに注意した。

 

「ふふっ、はぁい」

 

「リンデさんがそうやって茶化すから後輩が秘密にしたがるんですよ」

 

「泥沼の関係にしたりしてないわよ? ちょっと突っついて反応を見るのが好きなの」

 

 イグナーツの苦言にディートリンデはプイッと顔を背ける。

 

「それがタチ悪いってんですよ」

 

「後輩の癖に生意気ぃ~」

 

「もうこの際、誰かとくっついてイジられたら良いですよ。その時は僕も加勢します」

 

「ねぇ、それどっちに加勢する気? 勿論私よね? 庇ってくれるって意味よね?」

 

「僕の淡い初恋を冷やかされた経験は忘れてません」

 

「私、過去は振り返らない主義なの」

 

「都合良いこと言ってんじゃないですよ。だから裏で女帝呼びが後を絶たないんです」

 

「待ってまだそのあだ名通ってるの?」

 

「ええ、主に僕が新人に指導してます」

 

「あんたのせいじゃないのよ!」

 

 何とも小気味の良い応酬を聞きながら、ソーニャが頭目の判断を仰ごうと口を開いた。

 

「それでアル殿。これからどうするんだ? 一等車にずっと詰めておくのか?」

 

「いいや、たぶんどっかで仕掛けてくるだろうし定期的に見回りに出ようかと思ってる。人員は一等車に常に三人、他は持ち回りで車両の確認に行く。目立つだろうけどこの際武器も持って行くってことで」

 

「何かあったら困るものね。わかったわ」

 

「そだね、りょーかーい」

 

 凛華とエーラが即座に了承し、

 

「了解です。車両の外から来る可能性もあるんでしょうか?」

 

 ラウラは疑問を口にした。

 

「うぅむ。確か魔導列車の最高時速は時速九〇km(キリ・メトロン)だったはず。場所によっては速度が落ちるのが普通だということだよな?」

 

「だろうぜ。頑張れば人狼(おれ)の脚なら何とかなりそうだ」

 

 ソーニャの意見にマルクが同意する。

 

 前世日本の列車と違って魔導列車は速くないのだ。特に馬脚要らずと呼ばれるほどの健脚である人狼族ならおそらく追いつけるタイミングはあるだろう。

 

「んじゃ外にも目を配る必要があるな。馬車での移動だったらって考えるとゾッとするぜ」

 

「うん。やっぱり……ちょっと緊張するね、ディーくん」

 

 何とか機嫌を治してもらったディートとレイチェルが自身の武器を握り直しつつ言葉を交わす。

 

「ま、何にせよ目的地の帝都までは気を抜けない。何か変だと思ったら些細なことでも良いから報告し合って共有するように」

 

 アルがそう締め括ると、

 

「「「「応」」」」

 

「はいっ」

 

「承知」

 

「うん!」

 

「カァ!」

 

 七名と一羽は力強い返事を返した。

 

 オスヴァルトは優しくクラウディアの肩を叩いて言い聞かせると、

 

「こんなに頼もしい護衛がいるのよ。アナタも少しは肩の力を抜いておきなさい」

 

「団長……はい。彼らのこと、信じます」

 

 クラウディアは不安に瞳を揺らしながらこくっと頷いてみせる。

 

 イグナーツら一等車にいる他の役者達は、

 

「あれが上位の武芸者か。やっぱ雰囲気あるよな」

 

「私らより年下だけど、頼りなさとか全然ないね」

 

 ”鬼火”の一党と『紅蓮の疾風』の持つ威風に感嘆の声を上げるのだった。

 

 

 * * *

 

 

 それから約1時間後、何事もなく車両の点検の為一度停車することになる。

 

 しかし気を張っている武芸者の警戒をよそに、事態は既に動き始めていた。

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