日輪の半龍人   作:倉田 創藍

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「小説家になろう」に最新話を、「カクヨム」にて同作を章ごとに、こちらへは定期的に更新していく予定です。


13話 ならず者共の策謀

 芸術都市〈トルバドールプラッツ〉を発って2時間ほどが経過していた。

 

 帝都までおよそ残り2時間半。遠目には人里らしき街――いや、村だろうか?

 

 それらしき集落がポツンと見えるが、少々高い場所に敷設されたレールから見えてこれだ。

 

 ここから50km(キリ・メトロン)はあるだろう。

 

 現在、魔導列車は定期点検中。これから少しの間停車することになる。

 

 襲う側からすれば、ここが最大の好機(チャンス)

 

 ――そのはずだ。

 

 アルクスは腕を組んで左眼を閉じた。お馴染みの思考する際の癖。

 

「あ、あの……その無法者らは、本当に来るのでしょうか?」

 

 哀れなほど顔を青褪めさせた護衛対象――子爵家の三女であり、今度帝都の舞台で主演を務めるクラウディアは己の身体をぎゅうっとかき抱いた。

 

「クラウディア……」

 

 傍にいたカサンドラは優しく彼女の肩を撫でる。

 

「ここが一番襲いやすいはず、だよね?」

 

 シルフィエーラは確認するようにアルに問う。

 

 今一等車にいるのは護衛対象である役者陣と警備の者を除くと、アル、エーラ、レイチェルだけ。

 

 残りの凛華、ラウラ、ソーニャ、マルクガルム、ディートフリートは二等車より後ろの車両と外へ見回りに向かっていた。

 

 本来は点検中に車両の外に出ることは許されないが、夜天翡翠に外を翔んで空から見下ろしてもらう為に特別に許可を貰っている。

 

「うん。そのはず、なんだけど」

 

 アルは右眼を動かして耳長娘の発言を肯定した。しかしどうにも歯切れが悪い。

 

「ディーくんは『なーんかモヤモヤする』って言ってたけど、アルクスくんも似たような感覚?」

 

 レイチェルはアルの歯切れの悪さを見て取って訊ねてみた。

 

「ああ、うん。見落としがあるような……でもその正体が掴めないっていうか。でも、そっか。ディートの直感もそう言ってるなら、少し考え直した方が良いのかもしれない」

 

「考え直すって、一体どういうことかしら?」

 

 依頼人のオスヴァルト・ディヒターが問うてくる。

 

「今、俺達は大々的に――どこかから正面切って襲撃しに来る可能性を主に考えてます」

 

「まぁ……そうでしょうね。貨物車両があれば総点検させてるんだけれど、貨物便と客便は編成車両そのものが違うもの」

 

 オスヴァルトの言う通り、魔導列車には客を乗せる通常便と貨物のみを運ぶ貨物便があり、当然ながらこの列車は通常便だ。

 

「普通であれば、それが最も可能性が高いはずです。例えば四等車、五等車に斥候を潜ませておいて、点検用の駅に待機させていた仲間達に合図を送って襲撃させる、とか」

 

 アルは後方の車両をピッと指さした。

 

「確かにそれが現実的でしょうね。ワタシもその対策として一等車と二等車に劇団員を固めたのよ」

 

「ですが、大人しいもんです。幾ら魔導列車の機関部から発してる魔力の波動で生体魔力感知が利きにくいとはいえ、マルク達が戦闘になっていればすぐにわかります」

 

 どうしても重量のある貨物便より通常便の魔導機関で生成されている波動は魔力感知を妨害してしまう。

 

 それでも魔族であるマルクや凛華が戦闘状態にまで魔力を昂らせれば即座に気付くとアルは言っているのだ。

 

「そうだねぇ。次に停まる駅は帝都だし、さっきボクらが見た時とお客さんは変わってないだろうし」

 

 エーラの言葉にオスヴァルトは納得したようにフームと息を吐いた。

 

「うん、エーラとマルクが見て不審な人物がいなかったのなら、二等車より後ろに連中は潜んでなかったと思って良い」

 

 アルは二人の聴覚と嗅覚が如何に優れているか知っている。

 

 その二人が見つけられなかったと言ったのだ。ならばきっといないのだろう。

 

「なるほど。つまり”鬼火”さんは()()()()()手段で襲撃してくる可能性を考えるべきだって言いたいのね?」

 

 オスヴァルトの質問にアルは「ええ」と小さく頷いた。

 

 ――けど、どうやって?

 

 ここは云わば走る密室。おまけに駅は都市にのみしかない為、速度を落とすのは一定の場所に限定されている。

 

 連中にとっての目標はクラウディアの誘拐。

 

 傷つけて子爵家に戻せば報酬を貰えないかもしれないので、魔導列車やレールの爆破といった手荒過ぎる手は取らないはず。

 

 外から乗り込むには危険も多い。

 

 右眼で虚空を睨むアルに、クラウディアの舞台での相手役イグナーツが「閃いた!」と言うように手を上げた。

 

「あれはどうかな? ほら、近代劇に出てくる『転移術』! 伝説みたいな魔術だけど、実在はしてるんだろう? あれを使って――」

 

「イグナーツ、それはちょっと無理筋よ?」

 

 しかし、オスヴァルトが真っ先に否定する。

 

「えっ、でも実在はしてるんですよね?」

 

「勿論してるわ。でも現実的じゃないのよ」

 

「そうなんですか?」

 

 士官学校卒のオスヴァルトと一般的な教育のみを受けてきたイグナーツでは、認識と理解度に大きな齟齬がある。

 

「『転移術』が使えるほどの手練れなら、こんな誘拐犯罪を行わずとも食っていけます。そもそも動体への転移自体、超高等の魔導師でもない限りは不可能に近いです。それに『相対転移術』は有視界内でのみ可能な短距離転移、そいつらがまだまだ最先端の『長距離転移術』を扱えるとは思いません」

 

 アルがそう言うとオスヴァルトは、

 

「アラ、随分詳しいのね」

 

 と軽く驚いた。オスヴァルトは『転移術』を扱える者は一人しか知らないし、『転移術』の種類などよく知らない。

 

 ついでに言えば魔族だからとて、必ずしも魔術に詳しいというわけでもない。

 

 驚くのも無理はなかった。

 

「ええ、まあ魔導学院を目指してますから、それなりには」

 

 アルは曖昧に首を頷かせる。

 

 よもや『長距離転移術』を開発するキッカケを与えたのがアルだとは誰も思ってもみないだろう。

 

「ねね、アル。あれを使ってるっていうのはどう? ほらあれだよ」

 

 エーラはそう言いつつ両手をぐいーっと大きく伸ばした仕草(ジェスチャー)をとった。

 

 彼女の仕草からして、おそらく万年樹のことだろう。魔族の隠れ里に繋がる言葉をおいそれと言う訳にはいかない。

 

「『転移陣』か。あれを描こうと思ったら半日はいる。魔導列車にそんなの描かれてたら点検の時に気付かれるし、何よりそんな時間も地位も連中はないと思う。ま、権力者と組まれてたら難しいけどね」

 

 アルは可愛らしく腕を伸ばすエーラの髪を軽く撫でてそう言った。

 

「へ、刻印式の『転移術』もあるの?」

 

「あるよ。でも『相対転移術』の何倍も複雑だし、下手をすれば起動と同時に上半身と下半身が()()()()()()()()可能性もある。やっぱり『転移術』ってセンは薄いね」

 

 『陣』という言葉に反応したレイチェルに説明しつつ、結論を述べる。

 

 ほ~! という顔をするレイチェルを尻目にイグナーツは肩を落とした。

 

「やっぱり素人判断じゃマトモな意見にならないよなぁ……」

 

「こらこらシケた顔しないの。私らは役者よ?」

 

 ディートリンデが彼の背中をパンパンと叩いて微笑む。

 

「いえ、『転移術』を使われる可能性はほぼありませんが、イグナーツさんの考え方そのものは間違ってません」

 

 しかし、アルはそう言ってイグナーツに右眼を据えた。

 

「え、そ、そうかい?」

 

「ええ、『転移術』のような特別な()()()を使ってくる可能性を失念してました」

 

 アルがそう言うと、オスヴァルトとレイチェルは顔色を変えた。

 

 二人とも鋼業都市での件を知っているがゆえだ。

 

「”聖霊装”みたいなのを持ってるってこと?」

 

 エーラは真面目な面持ちで問う。

 

「あそこまではいかないにしたって、近い魔導具があっても不思議はないよ。”聖霊装”の魔力効率は既存の魔導具じゃ比べ物にならないくらい高いらしいから、人間の……――ひょっとしたら獣人族でも簡単に『転移』を扱えるモノがあるのかもしれない」

 

「うぅ~ん、そっか。だとしたら警戒の仕方、変えなきゃだね」

 

 むぅ、とエーラとレイチェルは整った細めの眉をひそめ、オスヴァルトは「”聖霊装”? って何?」と言う役者達の声を無視して思い切り渋面を作った。

 

「それほど厄介な敵がいると”鬼火”さんは思ってるワケね?」

 

 さすがに考え過ぎじゃないかしら? と、言ってみるものの、

 

「〈ドラッヘンクヴェーレ〉では『魔封輪』が使われました。有り得ないって頭から除外してると足元を掬われるかもしれません」

 

 やはりアルは首を横に振る。警戒して損はないのだ。

 

「おぉっ? 動き始めたみたい。あとはこのまま帝都まで一直線だよ、クラウディア」

 

 カサンドラの言う通り、ゆっくりと魔導列車が動き始めた。点検は終わったのだろう。

 

「結局、襲撃はなかった……わね?」

 

 ディートリンデが呟く。彼女も表に出していないだけで緊張していたのだろう。

 

「……ですね」

 

 レイチェルはうすら寒いものを感じながら同意する。

 

 夏空の下、空調の効いた車両内はどこか寒々しかった。

 

 

 * * * 

 

 

 魔導列車が再び走り出したおよそ40分後のこと。

 

 眼下に長大な河川を望める渓谷に差し掛かった頃、事態は急展開を迎える。

 

 

 ガ……ッゴン……!

 

 

「なんだ!?」

 

 五等車の半ばで見回りをしていたアルは、魔導列車に乗っていて一度も感じたことのない振動に鋭く反応した。

 

「わからないわ! 敵が動き出したっての!?」

 

 凛華も同じく反応し、視線を左右に走らせる。

 

「かもしれない。とりあえず合流しつつ前に急ぐぞ!」

 

「ええ!」

 

「すまない! どいてくれ!」

 

「悪いわね! どいて!」

 

 アルと凛華はまだ状況を把握していない乗客達を掻き分けて駆け出した。

 

「うおっ!? な、なんだアイツら」 

 

武芸者(同業者)だな。どうしたんだありゃ?」

 

 背後で自由席の乗客達が口々に何か言っているが、今の二人には聞いている余裕はない。

 

 ひと車両自体はそう大きくはない。車両幅は4mいかない程度で全長は30mほど。

 

 アルと凛華は五等車を突っ切って四等車の扉をくぐる。

 

「アル! 今の気付いたか!?」

 

「ああ! だから急いでる!」

 

 マルクとエーラがいた。二人は四等車を見回っていたのだ。

 

「まずは一等車だね!」

 

「ああ!」

 

 二人ともすでに動き始めていたらしく展望車両への扉に手をかけている。

 

「な、なんだ……?」

 

「さあ?」

 

 合流した魔族組4人で展望車両の扉を抜けると、ディートがこちらへやってきていた。

 

 これで見回りに出ていた全員が合流したことになる。

 

「おい! やべえぞ、四人とも!」

 

「何があった!?」

 

 ディートは事態を理解できているらしい。

 

「外だ! 外見ろ!」

 

 アルの問いに端的に答えたディートの言う通りに展望窓から外を見た4人は愕然とする。

 

「嘘だろ……!」

 

「列車の速度が……どんどん落ちてるよ!」

 

「……最悪ね」

 

「敵は、車両同士の()()()()()()()()()んだ……!」

 

 アルは苦々しい顔で非登録の傭兵達が何をやらかしたのか呻いた。

 

「でも、どうやって……!? 大体どこから襲撃に来るってんだよ……!?」 

 

「とにかく急ぐぞ! どこから切られたのか知りたい!」

 

 ディートの怒りと困惑を込めた声に応じつつ、アルは先頭に立って駆け出す。

 

「チッ、応よ!」

 

「ええ!」

 

「うん!」

 

「ああ!」

 

 慌てて展望車両を抜け、三等車を抜け、二等車への扉を開けると、

 

「う、おっ……と!?」

 

「危なっ!」

 

 そこから先がなかった。前方に二等車の後部が見える。

 

「ここから切り離されたのか。それに……連結部が溶けてる」

 

 流れ込む風に髪を煽られながらアルが確認すると連結部は白い煙を上げながら溶けていた。

 

「つっ、なんかの薬品でもかけたのか?」

 

「そうらしい」

 

 鼻をつく刺激臭にマルクが顔をしかめる。

 

「どんどん離れてっちゃってるよ!」

 

 どうしよう! と、エーラが声を上げ、

 

「下は崖で隣は岩山。こんな場所じゃ助けなんてそうそう来ないわ。奇襲にはもってこいね。やってくれたわ」

 

 凛華がギリッと鬼歯を見せて歯噛みした。

 

「どうすんだ!? あっちにゃレイチェルも乗ってる!」

 

「わかってるよ!」

 

 さすがに許容量超過(キャパオーバー)だというディートの怒鳴り声にアルも怒鳴り返す。

 

 ここまでやるとは予想もつかなかった。

 

 国家事業の一つである魔導列車にまで手を出す可能性を除外していた己をアルは罵倒する。

 

 ――くそ、考えろ! どうする!?

 

「……え? ……あれ? 二等車がない!」

 

「はぁ!? ウソだろ!?」

 

「ええ!? ちょ、ちょ、ちょっとどういうこと!?」

 

「何が起こってんだよ!?」

 

 三等車の乗客達が騒ぎ出す。

 

「チッ、気付かれちまった……!」

 

 マルクは後方を確認し、苦み走った声で呟いた。

 

 今や窓に張り付いて外を見る者、アルが開けていた扉の外を見て唖然とする者ばかりだ。

 

 そして衝撃と畏怖は波紋となって伝播していく。

 

「畜生……!」

 

 アルは焦った表情で舌打ちを漏らすのだった。

 

 

 * * * 

 

 

 同刻。

 

 走った不穏な振動に一等車、二等車内の乗客――つまりラウラ、ソーニャ、レイチェルと役者陣、そして警備は身を固くした。

 

「な、なに今のっ?」

 

 ディートリンデが慌てて立ち上がり、クラウディアが震えと共に己の爪を両腕に食い込ませる。

 

「確認してちょうだい!」

 

 オスヴァルトが鋭く命令を発した。

 

「は!」

 

 警備が慌てて二等車への扉を開く。

 

 そこでは、

 

「馬鹿野郎! 何やってる!?」

 

「すまない……! 本当にすまない! ウチの子が病気なんだ! 治療費が必要だったんだ!」

 

「だからって犯罪の片棒を担いでどうする!?」

 

「がふっ!? わかってる、でも金が!」

 

「大馬鹿野郎!」

 

 後部扉前で歩哨をしていたはずの警備の一人がもう二人の警備に胸倉を掴まれ、組み伏せられているところだった。

 

 組み伏せられている警備の手には何かの薬包が握られている。薄い紙で出来ているらしく、折り目が幾つもついていた。

 

「何が……」

 

「オスヴァルト様! 申し訳ありません! あの者が二等車と三等車の連結部を溶かして切り離してしまったのです!」

 

「なんですって!?」

 

 ラウラとソーニャ、レイチェルは急いで立ち上がり、クラウディアと彼女の肩を抱いているカサンドラの周囲に展開する。

 

 敵が動き出したのだ。間違いない。

 

「アル殿達と分断された」

 

 ソーニャが吐き捨てるように呟く。

 

「ええ、わかってる」

 

 杖剣を引き抜いてラウラは視線を走らせた。

 

 ――どこから来る?

 

「一杯食わされたんだ」

 

 レイチェルも唇を湿らせながら回転式魔導機構銃を肩提銃鞘(ホルスター)から引き抜く。

 

 自分達が気を抜きかけたところで先手をねじ込まれた。

 

 神経を張り詰めるラウラ達三人に役者陣が顔を引きつらせる。

 

 一等車の扉前で冷や汗まみれで顔を青褪めさせた警備責任者は頭を下げた。

 

「大変申し訳ありません! この処罰は如何様にでも――」

 

 しかしオスヴァルトが彼の言葉を遮る。

 

「そんなこと言ってる場合じゃ――」

 

 

「んーじゃ斬首刑、ってことでどうだい?」

 

 

「は……?」

 

 その瞬間、全く聞き覚えのない声が()()()()()

 

 と同時、頭を下げていた警備責任者の首筋から血がぶしゅうっと噴き出す。

 

 これでは即死だ。

 

「なっ!?」

 

 オスヴァルトの頬に生温かい血が付着した。

 

「キャアアアアッ!?」

 

「イヤアァァァァッ!?」

 

 女性役者達が甲高い悲鳴を上げる。

 

「お下がりくださいオスヴァルト様!」

 

 他の警備がオスヴァルトを押して車両の中央に押しのけた。

 

 落ちてきた襲撃者はその背後から斧を叩きつける。

 

「グぶッ!?」

 

「ハハハッ、ちょろいちょろい!」

 

 頽れる警備の後ろで傭兵らしき男が昂った声で笑い声を上げた。

 

「一体どこに潜んでいた……!?」

 

 オスヴァルトが細剣を引き抜きながら低い声を上げると、

 

「あん? どこって? 上だよ、芸術都市の領主サマ」

 

 男が指を差す。

 

 そこにあるのは内装の魔導具なんかを点検する為に必要な空間に繋がる小さな押戸。

 

 天井は低く、這っても数人しか入れないような狭い空間があるだけ。

 

「貴様あッ!」

 

 仲間を殺された怒りで二等車にいた警備が、オスヴァルトの方を向いてヘラヘラしている傭兵の男へ飛び掛かった。

 

「おぉい、お前先走り過ぎなんだよバッキャロー」

 

 しかし、押戸から落ちてきた筋骨隆々の男に上から潰される。

 

「ぐあッ!? き、貴様どこか……――らッ!?」

 

 落ちてきた男に首を掻き切られた警備は藻掻きながらやがて白目を剥いて事切れた。

 

 とてもあの狭い空間に潜めたとは思えない大柄な男だ。

 

 ――最初から魔力感知の一番利き辛い一等車に潜んでた!?

 

 ラウラは戦慄し、車両の天井に視線を走らせる。

 

 すると、もう一つ見つけた。機関車方面にもう一つ。前後に一つずつあったのだ。

 

「イグナーツさん! そこから離れて下さい!」

 

「え、あっ、はいっ」

 

 すっかり動転したイグナーツが慌ててモタつきながら車両中央へ踏み出した直後、上にある整備口が開いて手斧をギラつかせた男が降ってきた。

 

「『蒼火撃』!」

 

「雷術弾! 撃つよ!」

 

 ラウラとレイチェルが杖剣と銃口から魔術と術弾を放つ。

 

「うひゃあっ!?」

 

「ゴがッ!?」

 

 イグナーツが身を竦ませ、降りながら彼に襲いかかってきた傭兵に蒼炎と雷が容赦なく突き刺さった。

 

 顔面を灼かれ、左足を膝から飛ばされて倒れ込む。

 

「おーおーひっでぇ」

 

「腕利きがいるらしい」

 

「ま、だから何? って話だけど?」

 

 傭兵の男達は然して気にも留めていない。

 

「警備! こっちにも回りなさい!」

 

「「「「は!」」」」

 

 オスヴァルトの一声に警備が慌てて機関車側に急いで走った。

 

「領主サマもなかなか頭回んじゃん」

 

「貴様ら、我々の方が多いことを忘れていまいか?」

 

 オスヴァルトが伯爵家当主として威風を漂わせる。彼の言う通り、一人は拘束され、二人殺されたとは言え警備はまだいる。

 

 一人につき一人の計算で警備を回してもらっているのだ。

 

 数の利はオスヴァルト側にあると言えよう。

 

 しかし軽薄そうな傭兵は手斧をプラプラさせながら、

 

「あん? いやいや、ウチらだけなワケねーじゃん? っつーことでもういいぜぇ、さっさと来いよぉ~」

 

 と整備口の方へ呼びかけた。

 

 すると前後の整備口からどんどんと武装した傭兵達が降りてくる。

 

 その数は――……。

 

「数がなんだってぇ? あぁ?」

 

「くっ、どうやってこんな人数を……! お前達を収容出来るような空間はなかったはずだ!」

 

 降りて来た人数にオスヴァルトは呻き声を上げた。

 

「ソイツは企業ヒミツってヤツさ。だろ? シメオンの旦那ぁ」

 

「団長って呼べって言ったろ。もう残りはいねえな? 閉じんぞ」

 

 最後に降りてきた男はそう言いつつドサッと飛び下りてくる。

 

 手には大振りな鉤を模した形状の両刃剣(ケペシュ)

 

 今や前後に展開した傭兵と警備の数的有利の差は覆されていた。

 

「お、役者っつーだけあってキレイなねーちゃんもいるじゃねえか」

 

「目標の確保が最優先だ。楽しみてえなら後にしろ」

 

「へへっ、りょーかい」

 

「男は要らね。殺すか」

 

「つーかもう一人殺られてんだけど。気ィ抜き過ぎだろ」

 

 気味の悪い視線を向けながら傭兵達が舌なめずりする。

 

 クラウディア達役者陣が身を強張らせ、警備達が警棒のような取り回しやすい鉄鞭を引き抜いた。

 

「させません!」

 

 ラウラが琥珀色の瞳に強い意志を乗せて傭兵共へ杖剣を向ける。

 

「ああ! 当然だ!」

 

 ソーニャが盾を握り締め、直剣を引き抜いて低く構えた。

 

「うん、ディーくん達はきっと来る。絶対守る!」

 

 レイチェルは回転式魔導機構銃をギャリッと回す。

 

「おお? 威勢の良いのがいんじゃねえの」

 

「武芸者も雇ってるって聞いちゃいたが、まーだガキじゃねえか。見た目は悪くねえ」

 

「やかましいぞてめーら。おら、仕事の時間だ。やっちまいな」

 

 頭領シメオンの命令に傭兵共は野卑な雄叫びを上げて襲い掛かるのだった。

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