日輪の半龍人   作:倉田 創藍

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ここでは初投稿になります。読んで頂ければありがたい限りです。



また「小説家になろう。」と「カクヨム」にて同作を2~3日に1度連載投稿しております。


こちらへは定期的にある程度纏めて更新していく予定です


13話 悩みの種 (アルクス7歳の春)

 翌朝、アルクスは訓練場の奥側、簡易狩猟場の手前に立っていた。ここは完全な平地となっていて生えている植物の背も低い。そういった理由で誰が決めたわけでもないが訓練場の手前は遊び場や屋外キャンプ場もどき、奥は鍛錬場といった使われ方をしている。アルは同じく向かい合っていたイスルギ・凛華と睨み合う。

 

 その父、八重蔵は2人の顔を準備万端だと見て取って開始の号令をかけた。

 

「はじめえぃっ!」

 

 その合図と共に、アルと凛華は互いへ向けて走り出す。

 

 

 先制攻撃を仕掛けたのは凛華だ。右手に持った長剣を剣筋を読ませないようになびかせ、左手に逆手持ちした直剣を軽く突き出すように構えて突撃した。

 

 その勢いを殺さぬまま「はあっ!」と殴りつけるように直剣を叩き込む。稽古用とはいえ刃引きがされただけの金属の塊だ。当たればただでは済まない。

 

 頭を狙った左薙ぎの直剣にアルは逡巡も少なく右斜め前へ飛び出した。直剣をくぐり抜けた先は凛華から見て左後方、脇がガラ空きだ。右手に握りしめた刃先のついた直剣より短めの棍棒―――剣棍(けんこん)を右薙ぎに振りかぶる。

 

 が、凛華は直剣を振り抜いて慣性を消さずに利用した。その場でグルンッと回転しつつ右手の長剣をぶん回す。ビュッと円を描く長剣にアルは「うっ!?」と呻きながら慌てて剣棍で受け止める―――が遠心力の乗った一撃にたたらを踏んでしまった。

 

 その一瞬の隙を見逃す凛華ではない。回転中に順手に持ち替えていた直剣を手足のバネを利用して「シッ!」という呼気を吐きながら一直線に刺突を繰り出す。

 

 アルは今度こそ逡巡し、迷った末に両手で剣棍を構え防御姿勢をとった。

 

 

ガッギィィンッ――――!

 

 

 打ち合わされた金属が甲高い音と火花を上げた。芯を捉えていたらしい。凛華は手応えを感じる。

 

 アルはズザァーッと鍛錬場の土草を削りながら後退した。体勢を崩されこそしなかったものの凛華相手では詰みの一歩手前のようなものだ。追撃に移った凛華はすぐ目の前に踏み込んでいる。おかえしとばかりに「りゃあっ!」と剣棍を唐竹に振り下ろした。虚を突いたつもりで放ったのだ。

 

 しかし凛華は読んでいたらしく、振り下ろされた剣棍を逆手に持ち替え直した直剣でアッサリ振り払った(パリィした)

 

 剣棍があらぬ軌道で逸れていく。とっさに引き戻せるほど軽いものではない。完全に詰んだ。

 

 凛華は勝ちを確信して右肩に引っ掛けていた長剣を「たあっ!」と豪快に振り下ろす。

 

 それでも諦めるつもりのなかったアルは左手を伸ばして、凛華の右手首を掴むと同時に剣棍をポイッと放り捨てて凛華の懐へ踏み込んだ。右肩を掴み引き寄せる。凛華もまずいと思ったのか抜けようとするがここまでくればアルの方が早い。

 

 凛華の右腕を下に引き込みながら「せいっ!」と踵で右足を蹴り払う。見様見真似の払腰(はらいごし)だ。

 

 体勢を崩されているが凛華とて負けていない。地に着く前にグリッと腰を外側に捻り、戻す勢いのままアルの腰を「はっ!」と蹴り飛ばした。

 

 アルは「ずえっ」と空気を吐き出し、どうにか剣棍を拾うと同時に振り向いて―――ピタリと動きを止める。泥のかけらをくっつけていた凛華が爛々とした目でその首筋に長剣と直剣をクロスさせていたからだ。

 

「そこまでっ!」

 

 八重蔵が終了の合図を叫んで、アルと凛華は武器を下ろした。

 

「ぷはぁ~」

 

「はあ・・・ふぅ~・・」

 

 アルはへたり込みこそしないものの肩を落とす。また負けた。凛華は肩を上下させている。

 

 

 

 そんな2人へ水の入った竹筒を投げ渡してやりながら八重蔵が声をかけた。

 

「ほい、おつかれさん。んじゃそれぞれの課題だ」

 

 竹筒から水を飲んでいた2人は背筋をピンと伸ばす。

 

「まず勝った方から。凛華、たとえ勝ったと確信しても雑になるな。勝つまでは気を緩ませるな。あんな大振りしなかったらアルに転ばされることもなく勝ててたはずだ。それといつも言ってるが力み過ぎだ」

 

「はい!」

 

 父とは言え稽古中。凛華はしっかり門下生として返事をする。剣棍を弾いた後、最短コースで長剣を振り下ろせば楽に勝てていた。つい余計な力が入ってしまったと凛華は反省した。

 

「次、負けた方」

 

「はい・・・」

 

 アルは力なく返事をする。剣の先生は苦笑をこぼしながら褒めるべき点と問題点をしっかりと告げる。

 

「お前は運動神経も動体視力も別に悪かあねぇ。贔屓目なしでも凛華の剣は歳の割にゃ速いし重い。まーだまだ荒削りだけどな。

 

 龍眼もどきを使ってなくてもそれが見えてるし、ビビっても冷静になれるし機転も利く。けど肝心要の動きがバラバラだ。

 

 思考と身体が合ってねえんだ。防ぎたいのか攻撃したいのか自分でもわかってねえから攻撃が手打ちで単調になってんだよ。

 

 重たい剣棍なら無理矢理振り抜けてもおかしくはなかった。”魔法”なしなら尚更な。

 

 ・・・たぶん剣棍も向いてねえ、捨ててたしな。も少し自分の性質を掴まねえと武器も決まらねえぞ」

 

 八重蔵は2人に”魔法”も()()()()()も使わせずに鍛錬させている。

 

 昔魔族の戦士が『地金の上に才と努力が芽吹く』と言ったそうだ。才能と努力はしっかりとした地盤――つまり基礎があって初めて生きるものだという意味である。

 

 この言葉は魔族同士の民族紛争中に生まれた言葉だ。才能だけのものは努力を背景に持つ者の粘り強さに勝てず、間違った基礎のもと努力したものは正道の努力をしたものには敵わなかった。それゆえ生まれた言葉であり、現在もその考え方に則った指導がこの里のいたる分野で行われている。ろくでもない紛争続きの中で生まれた数少ない良い風習と言えよう。

 

 

 だからこそ八重蔵は2人に型の練習も怠らせず、下駄(魔法)を抜いた部分を鍛えているのだ。

 

「はい・・・ありがとうございます」

 

 この半年間、たびたび言われていた宣告をまたもや受けたアルはがっくりとうなだれた。早くて2週間、長くてひと月のペースで言われるがまま武器を変えている。

 

 長剣と直剣の二刀流であるツェシュタール流双剣術は2週間の方だった。

 

 その後は長重剣(バスタードソード)直剣(ロングソード)両大剣(ツーハンドソード)小剣(ショートソード)長槍(パイク)短槍(スピア)(ハンマー)棍棒斧(バトルアックス)の順で挑戦し、尽く向いていないとの結論が出ている。

 

 振り方や扱い方は型としてきちんと学んでいるので振れないことはない。振って見せろと言われればまぁ問題ないと言われる。

 

 しかし、いざ地稽古だとなると途端にダメだ。上手くいかない。どうしたいのかアル自身にもわからなくなってしまう。

 

 今日とて棍棒がうまくいかないので八重蔵が変わり種として剣棍を用意したのだがやはりだめだった。

 

 自分ではしっかり振っているつもりだが簡単に防がれる。防御しようとするも身体は咄嗟に別の動きをしようとする。そのせいでチグハグな行動をしてしまい後手後手に回ってしまう。

 

 ここ最近は大きくなってきた違和感やモヤモヤとした迷いを抱えながら稽古をするのが常だった。

 

「・・・はぁ」

 

 こうしてため息をつくのも習慣化しつつある。

 

「まぁ予想はしてたけどなぁ。とりあえずどう動きたいのか自分で答えを見つけねえといくら振ったって実戦じゃ使いもんにならんだろうさ。後手に回っても的確に有効打を返せるってんなら問題ねぇけどよ」

 

「です、よね・・・・・はぁ」

 

「そう落ち込むな。棍はすっぱり諦めちまえ。今日はまた剣寄りのもんを持ってきたぞ。振り方教えてやっから。な?」

 

 そう励ます師にアルは力なくだが頭を下げる。さすがに切り替えられなかった。

 

「・・・はい先生。新しい武器おねがいします」

 

「元気出しなさいよアル。あたしも付き合ったげるし。先生、今日はどんな武器ですか?」

 

 凛華の励ましもいつも通りだ。何とも情けない。

 

 地稽古をやるようになってから今回で126戦2勝121敗3引き分け。惨憺たる結果だ。励ましの言葉も板について当然だろう。

 

「おう、今日持ってきたのはコレだ」

 

 それは明らかに今まで使ってきた剣より重たそうな幅の広い剣だった。いわゆる大剣というやつだ。7歳児たちの稽古用だけにこんなものまでよく作ったものだ。

 

「大剣、ですよね?」

 

 アルの確認に八重蔵が頷く。

 

「まぁ、そうだ。いっそツェシュタール流大剣術を教えてみようかと思ってな。こいつは大剣の中でも曲者(くせもん)なんだよ。正確には大剣のなかでも重剣っつってな」

 

 と、説明を加えた。普通の武器を持ってきた結果アルはすべて不向きだったという経験に基づいて癖のありそうなものを選んできたのだ。

 

「くせもん?両大剣より横幅が広いからですか?」

 

 重剣と呼ばれた大剣は以前ボツを食らった両大剣の横幅よりも1.8倍ほどもある。

 

「それだけじゃねぇ。ほれ、見てみな」

 

 八重蔵は地面に突き立てた重剣をクルっと回し、刃先をアルと凛華に見せた。見るべきは刃先ではなく剣身の厚みだ。アルが扱った両大剣の厚みは均一で長くて重たい剣だったのに対し、これは剣先にいくにつれて段階的にだが薄くなっている。

 

「だんだん薄くなってってるわねこれ。こんなのどこが重心・・・あ、だから柄がこんなに長いのね」

 

 刀剣類が大好きな凛華は重剣をすぐさま分析してそんな風に呟いた。どこから仕入れてくるのか剣の知識だけは豊富だ。

 

「そうだ。ついでに言うなら鍔から真っ直ぐ三角形に広がってねえのも重心のためだ。そのまま伸びてりゃ重心が手前に来すぎてマトモに振れねえからな」

 

 と、八重蔵からの補足が入る。剣の先生が言う通り、重剣の鍔下部分は両端を抉られたような見た目をしている。これのおかげで鍔元にかかるはずの重心が、そこから拳2、3個離れた部分にかかっているのだろう。

 

「どんな扱い方するんですか?」

 

 アルが言っているのは重剣のコンセプトについてだ。先端部が普通の大剣より薄いので斬れ味は良いだろうということしかわからない。

 

「こいつは俺より親父――あぁ、凛華の爺さんな。その親父の得意な武器でな。攻撃に対してはこのぶっとい剣身で弾くなり防ぐなりして、えー・・・あー、説明が面倒だな。簡単に言うか。

 

 重剣ってのはな―――馬上槍、盾、大剣、この3つの要素をぶち込んだ多目的武器ってやつだ。

 

 薄い剣先は並の大剣より鋭く、剣身のど真ん中は金属盾並みに分厚い。だから大剣の癖に斬れ味がやたら高くて、振れるヤツが振ればちっと異様な剣速が出る。

 

 手元側に重心が寄ってるもんだから突きなんかも思ってるより出しやすい。そこに重量が乗る。

 

 扱いにくさならピカイチの大剣だ。半分趣味武器みてえなとこあるんだが、親父はそんなもん使ってたのにべらぼうに強くてなぁ」

 

 長い説明を聞き終えたアルは眉を下げて問う。絶対扱えないと思ったからだ。

 

「先生、槍も大剣も向いてないぼくになんでこんなのもってきたんですか?」

 

「ははっ、変わり種の武器なら可能性あるかと思ってな。あとはまぁ最近悩んでたろ?ちっとは楽しんでもらおうと思ってよ。真面目に楽しくってのは案外相反しねえもんなんだぜ?

 

 まだお前は7歳なんだから焦らなくていいんだよ。こっちもお前が真面目にやってる限りは絶対見放したりしねえって言いたかったのさ」

 

 八重蔵はそう言ってニッと笑ってみせた。アルはじいっとその顔を見る。最近は正直教えてもらってるのに申し訳ないと思って焦っていた。その自覚はある。しかし―――。

 

「・・・そう・・ですね。うんっ、もうちょっと楽しんでやってみます」

 

 柔軟さに欠いていたのかもしれない。アルは八重蔵の笑みにニッカリ笑い返した。しょげていた紅い瞳にも光が戻っている。

 

「そういえば先生。父さんは剣どうだったんですか?」

 

 稽古を始めたての頃、こんな風にいろんなことを聞いてたなとアルはそう思って訊ねてみた。

 

「お?ユリウスのやつか。ハッキリ言って剣の腕は並だな。上手くもなけりゃ下手でもねぇ、基本は大体できるくらいだったな」

 

 ユリウスのことを思い出しつつ、八重蔵は語る。

 

「並かぁ。じゃあぼくの下手さはじゃあ別のとこからかなぁ」

 

 そう返したアルの表情も特に沈んだ様子もない。余裕を取り戻したようだ。

 

「はっはっは。まぁ焦んな。あ。でもユリウスのやつ、あいつ盾はうまかったんだよ」

 

「盾ですか?」

 

 ユリウスの戦闘型(バトルスタイル)を完全に思い出した八重蔵が語る。

 

「おうよ、なんでも自分の家が盾に所縁があるとかなんとか。剣は下手でも盾の扱いなら任せろなんっつっててな。

 

 実際盾持たせると固えのよ、とにかく。受ける、そらす、突く、殴るは当たり前でよ。斬りかかってもなかなか届かねえし届かせねえ。剣なんて持たずに両手に盾持った方が強えんじゃねえのか?なんて里の連中から煽られてたよ」

 

 懐かしい記憶だ。八重蔵は無意識にほころぶ。

 

「盾かぁ、里に教えてくれる人いなさそー」

 

 本当に仲が良かったんだな。アルはそう思いながら里内にいる人たちを思い浮かべて残念がった。盾を持ってる人自体見たことがない。

 

「まぁ、いねえだろうな。俺もユリウスみてえな盾捌きはできねえしな」

 

 八重蔵も少し残念そうである。覚えいてればユリウスの技術をアルに引き継がせることも出来たろうに、と。

 

 そこで『あれ?』と両者とも思い出した。

 

「「凛華は?」」

 

 どちらからともなくそう言って、凛華を探すように周囲を見回す。ヒュヒュンッという音が風に乗って流れてきた。アルと八重蔵はそちらを見て唖然とする。

 

 

 凛華が重剣を振り回していた。

 

 ダンッという踏み込みから一直線に刺突、そのまま流れるように左袈裟、手元でクルリと回し自分ごと回りながら右薙ぎ、右袈裟、今度は逆回りしながら回転斬り、そして唐竹に振り下ろす。

 

 隈取のような朱色のアイラインが引かれ、凛華の力強い青い眼を強調していた。最近色合いが濃くなってきた『戦化粧』だ。

 

 ”魔法”を使ってはいるが明らかに重剣を扱えている。剣下手なアルでも一目見てわかるほどには様になっている。

 

 

 そこで凛華が気付いたようだ―――アルと八重蔵に手をぶんぶん振り、元気いっぱいの様子でこう叫んだ。

 

「なんかこれ使いやすいわ!あたし今度からこれ使おうかしら!」

 

「先生ぇ・・・」

 

「・・すまん」

 

 さっきよりも更に情けない声でアルは師を呼ぶ。娘に『少しは空気を読め』と思いつつも謝ることしかできい八重蔵であった。




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