また「小説家になろう。」と「カクヨム」にて同作を2~3日に1度連載投稿しております。
こちらへは定期的にある程度纏めて更新していく予定です。
アルクス・シルト・ルミナスが
ラービュラント大森林には早めの冬が訪れようとしていた。流れる風は冷たいものに変わり、最近は葉を落として裸の幹を晒している樹木がだんだんと増えてきている。
そんな本格的な冬の到来も間近に迫ったある日の午後7時半過ぎのこと。
隠れ里には酒を出す店が少ないながら存在している。店を開いているのは鉱人族だ。今でこそ隠れ里の文化の一つになっているが当時は大変だった。
鉱人族の野郎どもが『この里には酒が足りんと思わんか?』と言い出したかと思えばあっという間に酒蔵を建て、酒造りをやりだしてしまったのだ。出来たら出来たで地べたに座り込んで他種族も巻き込んで試飲会を始める始末。
鉱人族に建設関係を任せていたはずのヴィオレッタは当時かなり頭を抱えたそうだ。
また店とは名ばかりでタダで酒を出してくる。代わりに酒の肴になりそうなツマミを置いていけばそれでいいらしい。なんとも雑な店もあったものだ。
その日、普段は酒好きの親父共が集う店内には―――アルクスの母トリシャとその親友であり里長でもあるヴィオレッタ、そして凛華の母である水葵、シルフィエーラの母シルファリス、マルクガルムの母マチルダの計5名がいた。いわゆる女子会というやつだ。
婦人会では?と問う愚か者は今のところはいない。
「オホン。それでは―――かんぱーい、じゃ」
「「「「かんぱーい!」」」」
「「「ぷはぁ~」」」
「ふぃ~」
「だいぶ美味しくなったわね~」
それぞれ口の上には泡がついていた。酒と鍛冶にだけは拘りが強い鉱人仕込みの
ちなみに言い出しっぺの鉱人が最初に造った酒は度数が非常に高い火酒である。勝手に酒造を建てた挙句の所業だったがゆえ流石のヴィオレッタでもキレたそうな。
酒杯をゴトッと置いて笑みを浮べる女子会メンバー。普段は仕事や家事に追われているため、こういう友人同士で気兼ねなくお喋りできる時間というものは非常に楽しく感じるものだ。
麦酒で唇を湿らせたヴィオレッタが口火を切った。
「さて・・・最近どうじゃ?子供たちが息災なのは儂も知っておるが」
すると即座にマチルダから返答が返ってくる。
「うちの子からすっかり可愛げがなくなってしまったの。昔は『お母さんお母さん』って後ろくっついてきたのに、今は旦那と稽古の話ばっかり」
「マチルダ、マルクはあんたのことお母さんとか呼んだことないわよ?」
トリシャの冷静なツッコミにマチルダはそうじゃないのだと首を振った。
「それくらい可愛かったの!それが最近は『母ちゃん腹減った』とか『母ちゃん稽古で服破れちゃった』とかそんなんばっかり!可愛かったマルクは遠くへ行っちゃったの」
早くもテンションを上げてるのか下げてるのかわからないマチルダが勢いよく喋る。そうは言いつつ誰よりもマルクを可愛がっているの知っている水葵はやんわりとマチルダをいなしてトリシャへ話を振った。
「まぁまぁ男の子だし。アルクスちゃんもそんな感じ?」
「うちはあんまりそういうことは言わないわね。どっちかって言うと目よ、目。戦ってる時のユリウスに似た目をよくするようになったのよねぇ。
昔はたまーにそんな感じになるくらいで、もっとぽやぽやしてて可愛かったのに。まだ8歳なのよ?あんな強い目はあと15年くらいしなくていいの」
トリシャもタメ息交じりだ。ぶっちゃけ成長が早くて困る。まだまだ可愛いがり足りない。
「確かに儂もそんなアルの眼を見たことあるのう。もともと真面目に授業を受けておったのじゃが最近はなんというか意欲が違う。ふと目を離すと鍵語表とにらめっこしておったりすることもあるのぅ」
ヴィオレッタも同意した。変化があったとすればあの時―――アルが六道穿光流をちゃんと学び始めてからだ。
「やっぱり剣を習いだしてからよねぇ。凛華ちゃんはどうなの?」
そう思い当たったトリシャの問いに水葵は嘆息して語り出す。
「凛華もそんな感じ。剣始めてから武人化が止まらないわ。お嫁に行けるのかしらあれ?今からそれが不安で不安で。
村にいた頃、狩りの途中で遭難してそのまんま武者修行に行っちゃって、何十年も帰ってこなかったうちのお馬鹿さんがチラつくのよ」
水葵の溢した愚痴は、なんというか切実だった。ちなみに現在そのお馬鹿さんは適当に焼いただけの肉を子供たちに出して文句を言われていたりする。
「エーラは・・・あんまり変わりないわねぇ。こう聞くと」
シルファリスはあんまり変わってない娘に『ちゃんと心も成長してるのよね?』と一抹の不安を抑え切れずに微妙な表情を浮かべた。
「エーラちゃんはあれでいいじゃないの。天真爛漫で」
しかしトリシャは素直に褒める。元気いっぱいで好奇心旺盛。かつての自分のようじゃないか、と思ったのだ。実際は故郷でもちょっと恐がられている暴れん坊で知られている。
「うちもあんな風に育てたつもりだったわ。殺風景な部屋に剣が立てかけられてるだけとか本当に女の子なの?って泣きたくなるわよ?」
水葵の一言に母たちと里長は少々危機感を感じた。そのくらいなら少しはおしゃれだとかそういったものに興味を持ち始める頃のはずだ。
「それ大丈夫なの?もうちょっとこう服とか」
「髪型とか」
「装飾品とか」
「そういうものに興味は示さんのか?」
「示さないのよぉ~・・・何かあれば『剣の邪魔だから』って」
水葵はもうだめだぁと顔を覆う。どこで育て方を間違ったのか。蝶よ花よと育てたはずだったのに。
「さすがにそれはよろしくないわね。あ、そうだ!うちのアルかマチルダのとこのマルクに装飾品でも贈らせましょうか?髪飾りとか。男の子からもらったものなら簡単に捨てないんじゃない?」
「アルクスちゃんで」
これは名案!と手を打つトリシャに水葵は即答する。
「マルクじゃ役不足だよ。アル君ならまだしも」
マチルダの援護まで加わった。残念ながらマルクは同年代の人狼族の女の子にすらまだ大して興味を持っていない。幼馴染に対して気遣いなどできないとマチルダは判断したのだ。
「え、そう?じゃあわかった。アルに伝えとくわね」
トリシャは頷いて了承する。しかし『あれで鈍感なのよねぇ』などと思っていた。
また、この会話のせいでアルは凛華の誕生日に『何か装飾品でも贈ってこい。無論自分で選ぶこと』という任務を受けることになるのだが、それはまた別の話だ。
「エーラは逆なのよねぇ。なんでそんなもの残してるの?ってものまで部屋にあるわよ。ラファルと弓の練習に行った帰りとかに拾ってくるみたいだけど」
シルファリスは娘の部屋を思い返してグビッと酒杯を呷る。変な形の石だとか外れた矢尻など本当によくわからないが置いてある。
トリシャはシルファリスの言葉に「弓の練習と言えば」と思い出して口を開いた。
「そういえばマルクも凛華ちゃんもエーラちゃんももう本格的に訓練始めてるんでしょ?早くない?」
その疑問にヴィオレッタ以外がジトーっとした視線を向けてくる。
「え?なに?」
「「「「それトリシャが言う(の)?」」」」
「うむ。今のは
「えっ?だって普通もうちょっと遊ぶ期間みたいなのあるでしょ?わたしがいたところも平和な頃はそんな感じだったし」
狼狽するトリシャ。
「だからアルちゃんの影響でしょう?」
水葵の言葉にマチルダもシルファリスも頷いた。ヴィオレッタですら「うむうむ」と酒杯を傾けながら器用に首を縦に振っている。
「えぇ?違うわよ?アルは他の幼馴染たちがどんどん先に歩いてっちゃうから取り残されないように頑張りだしたのよ?アルが言ってたもの」
トリシャはそう説明した。悪夢を見てうなされていた本人に聞いたのだから間違いない。
「うちの凛華はアルちゃんが魔力の扱い方とか魔術だとか覚えて一人で練習してるの見て焦ってたのよ。アルちゃんがどこか行っちゃうって。
”魔法”覚えてすぐ剣教わろうとしたのもたぶんそれが理由よ?うちの人が”魔法”と魔力を使わないで剣振らせるのに苦労してたわ。教えてないのに属性魔力までちゃんと使えてるんだもの」
と水葵が言えば、
「エーラも似たようなものじゃないかしらねぇ。弓だったらアルクスちゃんに並べるからとかじゃないかしら?
私もラファルも”属性変化”なんてまだ教えてなかったのにアルクスちゃんに教わったとかでいつの間にか覚えてたし、生体魔力感知もなんとなく覚えちゃってたから小動物の狩りならさくさくこなしちゃうもの」
とシルファリスが言う。更に、
「マルクはアドルフィーナを可愛がってるからと思ってたけど、後で聞いたらアル君が向いてないって言われてもめげずにいろんな武器試してるの見て『魔術ももう使えるのにあいつちっとも止まらないから追いつくことにした』って言ってたよ」
マチルダがそう告げた。
「・・・うそ」
トリシャは言葉もない。アルが色々と悩んでいたのはよく見ていたから知っている。が、それがそんな風に見られているとは予想だにしていなかった。
「客観的にはアルじゃろう。6歳で魔力に関しては質と練度以外申し分なく、知識欲も旺盛で毎日のように魔力増強鍛練を行っておる。仲の良い幼馴染たちが感化されてもおかしくはなかろう。
そしてその幼馴染たちが頑張ってるのを見た当人が更に目の色を変えて努力しだした。トリシャよ、これがおそらく正しい現状じゃ。原因はアルの方で間違いなかろ」
締め括ったヴィオレッタはグビリと更に麦酒をあおった。
「「「「ほらやっぱり」」」」
責められるように全員から視線を向けられたトリシャはその圧に「うっ」と仰け反る。そう言われたらそんな気がしてきた。
いや、でも・・・本当にそうだろうか?元はと言えば―――――。
「ちょっと待ちなさいよ。ヴィーがアルに魔術教えてるのが発端じゃないの!」
何を澄まし顔で酒を呑んでいるんだとトリシャが吼える。
「なっ、いや儂はアルに請われたから教えておるだけで――――」
「明らかにまだ教えなくてもいい知識とかアルの前世の知識から研究やらなんやら引き込んだでしょうが」
これにはヴィオレッタも黙るしかない。教えれば教えるだけ正しく知識を吸収し、さらには新しい知見まで得られるのだから気分よくあれやこれや教えたことは否定できないし、科学で発展した世界からの知識と言うのも大いにヴィオレッタの好奇心を刺激したことも否定できなかった。
トリシャは勝ち誇ったような顔で親友を見る。しかし――――――――。
「で、結局原因はアル君だったと」
「「「「「・・・・・・」」」」」
マチルダの言葉が場を沈黙させた。
「あ、そういえばエーラちゃんの―――」
「トリシャ~?ごまかされないわよ~」
「ちがっ!それを言うならヴィーを責めて!」
「儂か!?いや儂はじゃな―――」
「結局2人がかわいがりすぎたからじゃないの?」
「うちのももうちょっと可愛げがあればなぁ」
「マチルダまだ言ってたの?」
こうして、隠れ里の夜は更けていくのであった。
ちなみに件の少年はと言えば、母がいないのをいいことに屋内で『飛空術式』をどうにか再現しようと考え『手足から風を出せばとりあえず飛ぶだけならできそうじゃない?』と実験を行った挙句、天井に大穴をあけて帰ってきた母にしこたま説教されるのだった。
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