日輪の半龍人   作:倉田 創藍

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ここでは初投稿になります。読んで頂ければありがたい限りです。



また「小説家になろう。」と「カクヨム」にて同作を2~3日に1度連載投稿しております。


こちらへは定期的にある程度纏めて更新していく予定です。


断章2  アルクスたちの成長と師の困惑

 アルクス・シルト・ルミナスことアルには剣術と魔術それぞれに師匠が存在する。一人は隠れ里の代表者であり、住民達からの信頼もめっぽう厚い魔導師ヴィオレッタだ。彼女ほど魔術に卓越した者など存在しない。アルを含めた住人達はそう信じて疑わない。

 

 

 そしてもう一人はイスルギ・八重蔵。アルに刀術・六道穿光流を、凛華にツェシュタール流双剣術及び大剣術を師事している鬼人の剣豪だ。

 

 普段は酒好きのダメ親父で妻の水葵に叱られている姿をよく見られることから三枚目な印象を受けるが、実は大陸でも有数の繁栄国家――――帝国の二大主流剣術の一つであるツェシュタール流の奥伝到達者だ。

 

 更に加えて80年以上は武者修行というか遭難から始まった流浪の旅をしていたこともあって、長剣や大剣の他にも大抵の近接武器に精通している。向いていないものも当然あるが使えるものはある程度の扱い方まで会得している猛者だ。

 

 また奥伝到達者とはその流派における剣の理を完全に理解し、常にそれが見えている者を指す。六道穿光流の奥伝に昇り詰められなかったのは、ツェシュタール流剣術を極め、そちらでの境地に達してしまっていたためだ。

 

 六道穿光流の師範はかつて『大陸の剣がお前の心根にある。どちらを選ぶかは自分で決めろ』と八重蔵に言った。つまりツェシュタール流の理を捨て去らない限り、六道穿光流の秘奥には辿り着けないという意味だ。八重蔵は丸一年悩みぬいた末、ツェシュタール流を捨てない選択をした。だからこそ六道穿光流については何年経とうが中伝のまま。その決断に後悔はない。

 

 以上の点から何を主張したいのかと言えば、イスルギ・八重蔵とは紛れもない大剣豪であるということだ。

 

 

 その八重蔵は現在頭を抱えていた。なお、その八重蔵に呼ばれたヴィオレッタは、『来てほしい』と頼まれた時こそ何用だろうかと訝しんだものの今は苦笑を浮かべている。

 

 なぜなら眼前の光景を見てなんとなく理由を察したからだ。

 

 

 ヴィオレッタと八重蔵の視線の先で繰り広げられているのはアルと凛華の地稽古だ。2人が10歳になった頃、稽古中に魔力の使用を許可したため何でもありの実戦だ。

 

 ”魔法”も属性魔力も魔術も織り交ぜて良い。八重蔵がそう告げて1年が経つ。今はそれが遠い昔のようだ。

 

 

○●○

 

 

 アルは左手の打刀を揺らしながら体勢も低く凛華へと駆ける。縦長の黒いスリット状になった瞳孔――龍眼もどきはとっくに発動済み。待ち構えている凛華は手元でグルリと重剣を回す。こちらも朱色の隈取に血のような赤い口紅――『戦化粧』を発動済みだ。

 

 もう一歩で凛華の間合いというところでアルが急減速した。凛華の眉がピクリと動く。踏み出すか否か―――――。

 

 その一手を待たずしてアルが炎杭をボボヒュッとばら撒いた。すると炎杭は地面に当たって小爆発を起こす。ただの炎ではこうはならない。”特質変化”まで加えた、火炎瓶のようなシロモノだ。

 

 薄く生えていた雑草を灼き払って捲れ上がる地面。熱された土が性質を変えながら凛華を襲う。当たれば軽い火傷は間違いない。凛華は直撃しそうなものだけは重剣で防ぎ、あとは右斜めにバックステップを踏んで避ける。

 

 そこへアルが猛烈な勢いで駆け、胴を狙って左薙いだ。きれいな胴打ちだ。属性魔力による攻撃で凛華を動かして本命の刀で取る。そういう狙いだ。

 

 しかし凛華はきっちり反応してみせた。重剣を地面に突き刺して、刀身がその何倍もある剣身に当たった瞬間に跳ね上げて逸らす。

 

 アルもこの展開はいつものことなのか弾かれても一顧だにせず、走り抜けて身体を反転。勢いのまま2歩、3歩と飛び退りつつ、左手の刀印をくるりと回す。そこに浮かんでいるのは術式だ。

 

「ふっ!!」

 

 凛華とて受け身でいるつもりはない。先手必勝とばかりに左手の指に挟んだ氷剣をヒュヒュンッと扇を仰ぐような動作で投擲。3掛ける2の6本だ。

 

 アルは氷剣にほんの少し遅れながらも術式を完成させて起動した。

 

「『鎌鼬・(かさね)』!」

 

 鬼人の投げた素早い氷剣と連ねられた三日月状の風刃がもつれ合う。一拍置いて『鎌鼬』が氷剣を吹き散らした。

 

 凛華はそれを見ることもなく次の動作に移っている。あんなのは牽制だ。重剣をグイっと右腰だめに構え、左手を剣身に沿わせてリボンを巻いていくように翳す。

 

 重剣はなぞられた部分から円錐状に冰で覆われていき、最終的に馬上槍の形を成した。鋼と冰で作られた馬上槍を携えた凛華がダンッ!と突喊していく。

 

 美鬼に迷いはない。突き込む勢いでアルの回避ポイントを潰し、そのまま打突を突き込む。

 

――――ガガガッギャリイィッ・・・。

 

 冰を削る音と火花が鍛錬場に散った。避けられないことを悟ったアルが鎬を利用して槍の動閃を弾き逸らしたのだ。

 

 凛華は笑みを浮かべる。ようやく間合いに入ってくれた。凛華は左足をドンッと力いっぱい踏みしめ、打刀と刃を触れ合わせていた重剣をそのままゴオッ!と振り回した。『戦化粧』の膂力を利用してぶん回したのだ。馬上槍として振るわれていた重剣がコンマ数秒で棍棒に変わる。

 

 咄嗟に刀身へ右手を這わせたアルだったが、それでも衝撃を殺し切れずに中空へと吹き飛ばされた。

 

 空中をぐるぐる回っていたアルはどうにか体勢を立て直して、大きく息を吸い込む。視界に凛華を捉えるや否や炎球をボッ!ボッ!ボウッ!と吐き出した。手を空けるのを嫌ったアルが習得した細かな魔力操作技術だ。凛華にはまだ出来ない。

 

 一射、二射、三射。凛華は都合3回吐き出された炎球を一太刀目で重剣の冰を溶かすのに使い、二射目をバッティングの要領で打ち消し、三射目に左手で大きく溜めた水槍を出すことで相殺する。

 

・・・・・・・・・ブワアアッ―――――!

 

 撃ち放たれた炎と水が互いを相殺して大量の霧を生み出した。そのまま2人を包むように広がる。

 

 すると着地したアルが動きを変えた。反りに左手を当てて支え、胸元まで引き上げ――ヒュッと疾走。

 

 振るう剣技は六道穿光流・風の型『陣風』の派生技『陣風刻雨(じんぷうこくう)』。

 

 六道穿光流には型が八つしかない。しかし先達が残した技はきちんと伝え遺されている。

 

 『陣風刻雨』は刀を身体に沿わせて、敵の死角を駆け回って切り刻む剣技だ。刃を振るのではなく当てるだけ。動体視力とスタミナ、そして当てて引くだけでスパッと斬れてしまう刀だからこそ可能な技である。

 

 古くは大きな妖獣相手に足や重要な血管が通る部位を何度も斬り回って失血死や重度の出血状態へ陥らせる為に用いられたものだ。

 

 

 霧の中で凛華の間合いにビョウとアルが入る。だが凛華は無闇に重剣を振れない。アルの動きが迅すぎる。視界の端に掠めているが捉えきれない。

 

―――――――何かがっ!?

 

 咄嗟に重剣を盾にした。そこへアルがぶつかってきた。

 

ゴッギャァン――――――ッ!

 

 身体ごと衝突されたのだ。いくら膂力があろうと体重が増えるわけではない。不完全な防御姿勢でモロに衝撃を受けた凛華はたたらを踏む。

 

―――――今度は後ろ!

 

 体勢を崩した凛華が気合で重剣を構え直したところに先ほどの衝撃。

 

「うぐっ!?」

 

 たまらず転倒してしまうが、負けん気でガバッと跳ね起きる。重剣を構えようと凛華が左手に力を込めたところで首筋に冷たい感触。

 

「・・・・くっ、今日はあたしの負けよ」

 

 凛華は素直に負けを認め、左手から力を抜いた。次いで朱色の隈取や紅がスゥーっと消えていく。

 

「ひゃっほーい。俺の勝ち~。これで246戦122勝124敗。もうすぐ逆転だね」

 

 アルは心底嬉しそうに喜びながら刀を納めた。こちらも龍眼もどきはすでにやめている。

 

「あんたあたしに7歳までの勝負で負け越してるの忘れてない?」

 

 むっすーとした表情の凛華が不平をたれるがアルはどこ吹く風。さっきできた霧をぼふぅと風で散らした。

 

「自分の武器が決まってなかったんだから今までのはなしにしてやるって凛華が言ったんだろ~?今更言いっこなしだよ」

 

 勝利によって普段より2割増しでニコニコしたアルが機嫌を取ろうとするも、凛華はぶーたれたままだ。

 

「あたし魔術習ってないし」

 

 唇を尖らせて負け惜しみを言う始末。

 

「あっ。そんなこと言う?俺『鎌鼬』しか使ってないのに?ふぅん?」

 

 しかしアルに煽られる。凛華の額に青筋が浮かんだ。

 

「あぁっもぉっ!うるさいわよ!ていうか魔術教えなさいよ。ヴィオ様のは難しすぎてわかんないわ」

 

「聞いといて寝るからわかんなかったんだよ」

 

 的確なツッコミである。

 

「小難しいのよ」

 

「その小難しいのが重要なんだぞ、魔術って。属性魔力みたいにはいかないんだってば」

 

「あたしがサクっと覚えられて強い術作んなさいよ」

 

 ヴィオレッタから教わったことをアルはしっかり説いて聞かせてみたが無茶ぶりで返ってきた。

 

「『鎌鼬』作るときすごい苦労してたの皆で見てたよね?すっごい大変なんだぞ術式組むの。時間もかかってたじゃん」

 

「昼寝してたから見てないわ」

 

「そんな短時間で作ってなかったじゃん!」

 

「知らないわ。寝てたもの」

 

「こいつ!」

 

 幼馴染同士に戻るアルと凛華。さっきまでの毅然さはどこへやらといった具合だ。

 

 

○●〇

 

 

 今度は2人してさっきの地稽古はああだった、こうだったと話し合っている様子をヴィオレッタは見やって今度こそ笑う。

 

「仲良きことは美しきこと哉というやつじゃな」

 

「里長殿、そうじゃあねえです」

 

「くふふっ、わかっておるよ」

 

 八重蔵の見せたいことというか言いたいことは完全に理解した。

 

「11歳の戦い方ではないのう。アルもそうじゃが凛華の方もじゃ」

 

 独自(オリジナル)魔術『鎌鼬』。アルが『風切刃』を弄り回して独自にまで昇華させた魔術だ。

 

 三日月状の薄い刃を模した風が不規則に回転しながら飛ぶ術だ。散々魔術鍵語表とにらめっこして何度もリテイクを貰ってようやく完成したそれは原型の術式をほとんど留めていない。

 

 ヴィオレッタをして「費用対効果が高く、拡張性に富む」と言わしめた。現に(かさね)られたことによって鞭のように連ねて使っていた。そんなものを作る11歳などそうそういない。

 

 が、凛華も大概だった。まさか属性魔力で剣を槍にしようなど。突撃時の空気抵抗を減らす為にやっているようだが、要らなくなったらアルの炎を利用して戦闘中に溶かしていた。あんな判断をする11歳もいない。

 

「そういうことです」

 

 ヴィオレッタの言葉を八重蔵は重々しく首肯する。

 

 普通8~10歳になってようやく魔力とは何ぞやを教えてやるものだ。その後数年間は”魔法”や魔力操作関連と戦闘術を並行して鍛え――――ようやく『じゃあ全部織り交ぜてみようか』となるのだ。この時点で大抵12~14歳と言ったところだろうか。

 

 例え戦闘勘が良くても実戦というものはそんなに生易しいものではない。すぐに息は切れるし、魔力の操作も乱れる。だからこそきちんと分けて鍛えるのだ。

 

 

 それを当たり前のように使い熟して戦っている2人の方が変である。魔力の扱いや魔術、剣術の練度は当然ながら歳相応に甘い。しかし―――――――。

 

「あそこまでサマになっておるとは思わなんだ」

 

 ヴィオレッタがズバリと言ってのける。そうなのだ。荒かろうが、無駄があろうがちゃんと形になっているのだ。どちらかに集中することもなく、どちらも崩れているわけでもない。()()()()()()()()()()()()のだ。

 

「そんで困っちまいまして」

 

「そうであろうな」

 

「と、まあ困ってるたぁ言いましたが、実際は先に進めても良いかどうかを迷ってるっつうのが正確でしてね」

 

「先と言うと?」

 

「闘気でさぁ」

 

「むっ?闘気じゃと?早すぎるじゃろう」

 

 八重蔵の言葉に思わずヴィオレッタは驚いた。

 

「今すぐにってわけじゃあねえです。ただ近い内にそうなるだろうとは踏んでますぜ。アルなんかはそろそろ気づいちまいそうな気もしますし」

 

「闘気に気づくと?いくらアルでもさすがにないじゃろう?」

 

 ヴィオレッタにとってアルは可愛くて優秀な愛弟子だ。しかしいくら何でも一度も教えたことのない概念に気づくとは思えない。

 

 そんな表情のヴィオレッタに八重蔵は首を横に振る。

 

「わかりませんぜ?あいつは”魔法”が使えません」

 

「それは知っておるが・・・?」

 

 アルを動かした最初の原動力はおそらくそれだ。ヴィオレッタも把握している。

 

「だからこそ知識や技術の習得に余念がねえ。一度覚えたらおしまいってわけでもねえ。その内『先生、魔力の使い方ってこれだけなんですか?』とか言い出しそうな気がしてんですよ」

 

 続けられた八重蔵の言葉にヴィオレッタは一瞬沈黙する。愛弟子の好奇心―――そしてここ数年のやる気を失わない紅い瞳を思い返してみた。

 

「あー・・・・ありっそーじゃのう」

 

「でしょう。それに凛華が最近『異相変(いしょうがえ)』教えろって煩くて煩くて。まぁアルが六道穿光流の初伝取ってから負けが増えたんで焦ってるっつうのはわかるんですがね」

 

 そんなことを言う八重蔵。

 

「・・・・そうじゃの。ちょっと検討しておこうかのう―――やれやれじゃ。あやつらと来たら、里でも一番の期待の星じゃが一番の問題の種でもあるのぅ」

 

 ヴィオレッタは肩を竦めてそう評するのであった。

 

 

 後日―――シルフィエーラの指導を行っている彼女の父ラファル、マルクガルムをしごいていた彼の父マモン両名から八重蔵と似たようなことを言われ、本格的に予定を繰り上げる算段をつけさせられることになる。

 

 どうやら『取り残されてたまるか』と奮起し続けるアルの一番近くで見ていた幼馴染たちが著しく感化されてどんどん成長してきているらしい。

 

 それを見たアルが更に刺激を受けて突っ走ってしまうせいで相乗効果が生まれているのだ。好循環ではあるのだが彼らの両親たちも経験のないことに戸惑ってしまっているらしい。

 

 結局大人同士で様々な話し合いをすることになるのだが、この時のヴィオレッタにはそんなことが起こるなど予想できるはずもなかった。




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