また「小説家になろう。」と「カクヨム」にて同作を2~3日に1度連載投稿しております。
こちらへは定期的にある程度纏めて更新していく予定です。
季節は冬。最近は一段と風が冷たい。ついこの間まで秋の味覚を堪能していたアルクスであったが、今は肌を刺す寒風に否応なく冬の到来を痛感させられていた。
ラービュラント大森林は大樹海だ。しかし普段は鬱蒼としているはずの森は部分的に閑散としはじめ、魔獣や魔物達はその大小に関わらず巣穴に潜っているものも増えてきている。
ここ数日は朝霜だって皆勤賞だ。日の出ている時間もめっきり少なくなり、夕方になったと思ったらいつの間にか夜になっている。もう少しすれば今度は樹木たちが雪の帽子を被り始めるだろう。
今はもう夕方だ。ぴゅうっと吹く冷たい風に襟元を手繰り寄せたアルたち幼馴染組4人は西門をくぐり抜けた。それぞれ稽古用とはいえ武器も装備している。向かうは訓練場だ。
一週間ほど前に見習いの見習いとして、この時間帯は里の見回りをしている。今日でようやく一週間といったところだ。里内から訓練場と鍛錬場―――そこを更に抜けた簡易狩猟場までが範囲内である。
簡易狩猟場は里の外ではあるが、4人にとっては既に勝手知ったる森だ。そこも見回り範囲に組み込んでいいだろうと判断されたらしい。
これで油断して怪我をするようなら『気構えが出来ていない』と叱られるだろう。これも訓練の一環というやつだ。
***
訓練場を見回っていたマルクガルムは、草原を走り回る子供たちを目敏く見つけて足を向ける。アル達もすぐに後を追った。
「おーい、お前ら。そろそろ日暮れだから家帰んなー」
「ええ~。お兄ちゃんまだ夕方だよぉ?」
マルクの声に一番に反応したのは、赤毛っぽい髪を波打たせた元気の良い女児。他の子供たちも同調して「そーだそーだ!」と声を上げる。
「フィーナ。母ちゃんが心配するだろ」
「ぶぅ~~」
同年代たちを煽ったのはアドルフィーナ・イェーガー、マルクと7歳差の妹だった。歳の差があるせいかめったに喧嘩もしない。アルや凛華、シルフィエーラの無軌道っぷりにマルクが慣れているというのも諍いを起こさない要因である。
「冬場だから日が暮れるのが早えーんだ。気づいたら真っ暗になって帰れなくなっちまうぞ?火事対策で松明置きも煮炊き場にしか置いてねーんだから。また明日遊べばいいだろ?家帰ったらあったかい飯が待ってんぞ」
子供たち全員へマルクが諭すが、
「せーろんなんて聞きたかないね!」
「そーだそーだ!」
「まだ遊びたい」
「あんちゃんたちもまだ外いるじゃん」
子供たちは口々にキャンキャン反対の声を上げた。ちなみに誰よりも早く小賢しいセリフを吐いたのがアドルフィーナである。家へ遊びに来る兄の幼馴染たちのせいで余計な言葉をガンガン覚えてしまっている。使いどころが合っているのがまた小憎らしいところだ。
「こらフィーナそんな口を利いちゃダメだろう。てかお前らもキャンキャン言うんじゃねー。おっかない鬼人の姉ちゃんを寄越すぞ」
「誰がおっかないですって?」
凛華がカチャっと稽古用の重剣に手をかける。向ける対象は当然マルクだ。しかし子供たちへの効果は抜群だった。
「うっ!?凛ねえ使うのはズルい!凍らされて転がされちゃうじゃん!」
「うぅ~こわいぃ。凍るのやだぁ~」
「やだぁ、いうこと聞くからぁ~」
「ちょっと待ちなさい!そんなことするわけないでしょ!あたしを何だと思ってんの!?」
アドルフィーナたちの言葉に目を剝く凛華。そんな血も涙もない噂を流したのはどこのどいつだ?すぐに脳筋扱いしてくるこの人狼か?
いよいよマルクに制裁を加えるべきかと思っていると、
「エーラねえがそう言ってたもん」
「ぼくも姉ちゃんから聞いた」
「わたしも遊んでもらってるときに聞いた」
「エーラ!?」
まさかの裏切りにあったことを知る。
「や、待って冗談だよ?みんなで遊んでるときに冗談でそんなこと言っただけで、ボクは本当にそうだったとか一言も言ってないよ?」
咄嗟にエーラは自己保身に走った。あることないこと言ったらしい。凛華はすぐにあっ!と気づいてエーラに詰め寄っていく。
「ちっこいの達に最近妙に怖がられてると思ったらあんたの仕業だったのね!覚悟なさいエーラ!」
「ちちちがうよ!?一回そんな冗談言っただけだって!ホントだよぉ!」
重剣こそ抜いていないが、がっしりとエーラの両腕を握りしめる凛華にどうにか抜け出そうとするエーラ。弓を引いていても腕力勝負なら凛華が上手だ。使う筋肉が違う。
「やっぱり凍らせるんだ・・・」
「エーラねえが言ってたとおりだ」
「こわい」
凛華の迫力に慄いた子供たちがササーッと後ずさった。
「ちょっと!違うってば!」
エーラを掴んだまま凛華が叫ぶが、鬼歯が見えたせいで余計怖がらせている。もうなんというかグダグダだ。
そこへアルが水を差した。
「はいはい、そこまで。もう帰らなきゃお父さんお母さん心配するだろー?ちゃんと送ってくから帰るよー?」
「ええ~アルに―――――わっ!」
子供たちの先陣を切って反論しかけたアドルフィーナをアルは抱え上げる。そのまま肩車して西門へ歩き出した。
「アルにい降ろしてぇ。じつりょくこうしはひきょうだぞぉ~」
「どこで覚えたんだろそんな言葉。他の子供たちもついといでー。これ見失ったら帰れなくなっちゃうかもよー?」
しがみついてワーワー言ってくる親友の妹をいなして、アルは右手の人差指を上空に向けてくるんっと回す。すぐに指先から光球がパパパッと明滅して放たれ、光線が子供たちの周りをひゅんひゅん回りだした。
「わぁっ!まじゅつだ!」
「ちがうよ!ぞくせいまりょく・・?だっけそんなんだよ!」
聞きかじった知識を互いに披露しながら子供たちが光を追いかける。光球は子供たちの周囲を回りながら西門へクルクルと飛んでいく。新たな遊びに意識が向いた子供たちは光を追っかけながら自然と帰路についていた。
「俺もそういう手を使えばよかった」
「師匠に魔術見せてもらってたらいつの間にか家にいたなぁと思ってさ」
マルクの言葉にアルが答える。何かに夢中になると周りが見えなくなるというのは子供なら誰しも経験のあることだ。
「あー・・・あったな確かに。お前らすぐゴネてたからな」
「大体はエーラだよ」
「ボクだけじゃなかったもん」
「てかマルクたちも手伝って」
「おういいぞ」
「あたしも手伝うわよ。氷の花でも浮かべてあげる」
「んーボクは適当にお願いしてみるよ。精霊は子供好きだしね」
「よろしくー」
幼馴染たちの返答を聞いてアルはすぐ光球の色を赤や緑に青、更に紫や黄色へ変化させた。
マルクはそれに合わせるように上へ光球を飛ばす。色がついた分暗くなってしまった部分を補うためだ。アルほど緻密な操作は難しいが、照らすだけなら問題ない。
そこに凛華が氷の花を浮かべ、エーラが蔦や根で作ったウサギや猫といった小動物を子供たちの周りを並走させた。
それを見たアルは右手の指をひょいひょいっと動かす。ひゅうっと軌道を変えた光球が氷花に入って内部で乱反射し、ウサギや猫には緑や赤色の目がついた。
「アルにいたち、すごいねぇ!きれー!」
「わぁ~」
「すっげー!」
「きれ~」
子供たちは楽し気に目をくりくり、きょろきょろさせながらついてくる。肩車されていたアドルフィーナも降ろせと騒いでいたことは忘れたらしい。光を目で追いながら楽しそうだ。アルたち4人は顔を見合わせ『うまくいったな』と満足げに顔を見合わせるのであった。
***
光のパレードをしながらアル達一行が西門に辿り着いたときには訓練場の方はもう真っ暗だった。
「おや、おかえり。派手だねぇ」
見習い期間を無事に終えて新人へ昇格している紅椿が声をかけてくる。
「ただいまです先輩」
「帰りましたよ先輩!」
「帰ったっす先輩」
「先輩帰還致しました」
口々に先輩呼びする4人。紅椿は苦笑いを浮かべた。
「目上に対しての礼儀は確かに必要だよ?でもそれは態度で出すものであってそんな堅苦しい言い方しないでいいんだよ。寂しいし」
「「うす椿にい」」
即座にアルとマルクは普段の呼び方に戻る。敬語が抜けていないのはなんとなくだ。
「あいさー」
エーラは放棄したらしい。面倒だったのだろう。
「了解です兄様」
凛華は血が繋がっているにも関わらず一番堅い。普段は兄貴と呼んでいるし、派生にはバカ兄貴しかない。
正直茶化しているのか畏まっているのか判別に困る。紅椿は角を隠すように額を抑えた。
「はぁ・・・まぁいいんだけど。とりあえずきちんと仕事は終わらせてね」
紅椿の指示を聞いた4人は戻ってきた子供たちの方に向き直る。アルがアドルフィーナを下ろすとエーラが口を開いた。
「さあってと!みんないる?いっしょに遊んでたお友達でいない子とかはいない?大丈夫?いたら怒んないからすぐ言うんだよー?」
「狩猟場の方に行った子とかもいないよね?」
アルもいっしょに訊ねる。
「んと、みんないるっぽい?」
「いるよー」
「だいじょーぶー」
「しゅりょうじょう・・まだいっちゃだめっていわれてるもん」
子供たちは首をふるふるしながら口々にそう答えた。ついでに言うと帰りはアルたちが浮かべた光球のおかげでコケたりもしていない。
「よし、んじゃ帰るか。一旦広場まで行くから、それまでに同じ方に帰るやつと組むんだぞー」
マルクはそう言って先導し出す。子供たちは近所同士でグループを作りつつパタパタと動き出した。アルや凛華、エーラの3人は後ろや周りを歩きつつ子供の足に合わせる。
「懐かしいなぁ」
紅椿は独り言ちた。かつてはあの集団の方に4人もいたのだ。時が経つのは早いものだ。あの頃の妹はまだ無邪気で可愛かった。そう思わずにはいられない紅椿であった。
***
あの後広場から四手に分かれてそれぞれ子供たちを送り、仕上げに4人でもう一度訓練場と里内を回り歩いて今日の仕事はようやく終わった。
今は煮炊き場の松明に火を点け、暖を取りながら座っている。労働後のまったりタイムだ。
アルが適当な高さに光源を放り投げ、火にかけていた薬缶を降ろす。サッと寄ってきたエーラがお茶っ葉を放り込んだ。
1分もしない内に凛華がゆさゆさと薬缶の中を確認しながら揺り動かして、マルクの並べていた茶杯に中身を注ぐ。
4人は誰ともなく茶杯に口をつけ、ほうっと息をついた。
「ふぃ~終わったねぇ」
「意外と疲れるんだなぁ」
「そうね。変に気張って疲れちゃったわ」
「兄ちゃんたち苦労してたんだなぁ」
まだ一週間。毎日ではないものの普段使わない神経を使っているせいか妙に疲れる。寒空で呑むお茶がじぃんとした心地の良い疲れを4人に与えていた。
「苦労してたのは大体エーラかアルのせいだったけどね」
凛華がマルクの発言を拾ってそんなことを言った。マルクは深く頷く。
「そうだな。勝手にいなくなるわ、一回集中したらちっとも動かないわ。抱えられたまま術式弄ってるアルと名前呼ばれながら探されてたエーラを何回見たことか」
凛華とマルクの無礼な発言を聞き咎めた問題児2人。
「失礼な」
「そーだよ?」
「大抵エーラのせいだったのに」
「あんたも大概だったわよ」
「アル?裏切りは良くないよ」
「偉そうに言ってるお前もだからな、凛華。椿兄に散々駄々こねてたじゃねーか」
くだらないやり取りをしていた4人の元へ、件の紅椿とシルフィエーラの姉であるシルフィリア・ローリエがやってきた。
「あれ、兄貴?紫苑ねえさんに言うわよ?」
「フィリアお姉ちゃんも。どしたの?」
「ちょっと。凛華、違うんだよ。でも紫苑には言わないで。フィリアさんが来たからいっしょに行くか聞いて来たんだよ」
「私も4人を労おうと思ってね~。まだ12歳なのに里の中歩き回るの結構疲れるでしょ~?」
すっかり素に戻った凛華は紅椿をからかい、エーラはシルフィリアに甘える。エーラとシルフィリア―――フィリアは12歳違い、つまり一回り年が違う仲良し姉妹である。ちなみに紅椿と凛華は10歳違いだ。
「これ渡しに来たんだよ。疲れたときは甘いものだからね」
そう言って紅椿は花の蜜と小麦で作った焼菓子を4人に渡す。クッキーのようなものだ。
「わはぁっ!ありがと紅にい!」
「「あざす椿にい」」
「ありがと。どしたのこれ?兄貴はお菓子作んないでしょ?」
礼を言う4人に紅椿が答える。
「こないだ森人の奥様方の手伝いで駆り出されてね。そのお礼で貰ったから後輩達へおすそ分けだよ」
「私が頼まれて持ってきたの。暇だったしね~」
フィリアがそう言ったことで4人も得心がいった。
「じゃ、ありがたく頂きます」
アルはそう言ってパクンと焼菓子を口に放り込む。頭脳労働には甘いものだ。あのパレードでかなり頭を使った。仄かな甘さとサクサクした食感に「おぉ~しみるぅ~」と表情を緩ませた。
「あっ。ボクももらう~。いただきまぁ~す」
「「いただきまーす」」
残り3人もアルを見習って手をつける。サクサクと食べては茶を啜り「ほぅ」と息を吐いて口を緩ませた。
「ふふ。かわいいわねぇ~」
「黙ってれば・・・ですけどね」
フィリアのほんわかした感想に紅椿はそう溢しながら肩を竦めるのだった。
***
アルとマルクが『帰る前は先にこれだろ』と浴場で流したあと自宅へ帰ると仕事の話を聞きたがった母トリシャに捕まった。見習いの見習い任務を始めてからはずっとこんな調子だ。
用意されていた夕食を平らげながら『今日はこんなことがあった、あんなことがあった』アルは話していく。
うんうんと頷いてたまに挟んでくる母の相槌と満腹感が心地よく、アルは話してる途中でコテンと眠ってしまった。
トリシャはそんな息子を見て、くすくすと楽しそうに微笑む。この時期ここで眠ると風邪を引いてしまうだろう。
「んん。重くなったわねぇアル」
抱え上げた息子の成長を実感して、トリシャは嬉しそうに笑った。背が伸びて体重が増えてもトリシャにとってはいつまで経っても可愛い息子だ。龍人ゆえに抱えられなくなることはないだろうが、抱えさせてくれなくなる日もそう遠くもないだろう。
トリシャは背に掛かる息子の重みを心地良く感じながら寝台に運び、その額に唇を落とす。
「おやすみアル。お仕事おつかれさま」
アルはその夜、心地いい夢を見ながらぐっすり熟睡するのであった。
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