日輪の半龍人   作:倉田 創藍

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ここでは初投稿になります。読んで頂ければありがたい限りです。



また「小説家になろう。」と「カクヨム」にて同作を2~3日に1度連載投稿しております。


現在両サイトにて投稿されているものとこちらに投稿するものは少々文体が違う場合があります。


こちらへは定期的にある程度纏めて更新していく予定です。





4章〈旅立ち編〉
29話 鬼娘と耳長娘の悶々 (虹耀暦1285年2月:アルクス12歳)


 アルクスが出郷予定だという話は、瞬く間に里中を巡り住民たちに衝撃を与えることとなった。

 

 ヴィオレッタがアルの決意を聞いた翌朝、彼の幼馴染たちの家へ報告と里長としての仕事を果たしに来たのだ。

 

 少なくとも自分はこれから弟子を外でもやっていけるように鍛えていく。他の子らがどうするかはわからないが剣の師たる八重蔵にはアルにそれだけの実力をつけさせるように、と。

 

 八重蔵は驚くというより納得したような神妙な表情を見せ、その日のうちにキースと源治の鍛冶師2人へ伝え、大いに驚愕させた。

 

 『アルがいずれ隠れ里を出て行く』

 

 鍛冶師2人からすれば寝耳に水。その話はすぐに拡散され、まだ出て行く目途すら立っていないアルは気の早い大人たちからは「いつ里を出るんだ?頑張るんだぞ」と至る所で声をかけられ、子供たちからは「どうして出て行くの?」と質問攻めに遭った。

 

 平謝りする鍛冶師たちをアルが憮然とした表情で見ることになったのは言うまでもない。

 

 

 今は2月――年越しを無事に迎え、寒さもピークを迎える頃だ。あれからひと月と少しの時間が経った。

 

 場所はいつもの鍛錬場、ではない。簡易狩猟場の森の奥側に新設された武闘場だ。(かね)てより計画されていたものが出来上がったのだ。

 

 鍛錬場なら良いだろうと地形を変えるほど暴れる者たちがいるせいで整備するのが面倒という苦情というか陳情を解決すべくヴィオレッタが許可を出し整備させた場所である。

 

 

 そこに今アルとその剣の師範、八重蔵は対峙していた。

 

 八重蔵がすでに抜刀状態の刀を構え、”魔法”を発動させる。『戦化粧』、その基礎である『無垢の相』だ。

 

「お前が中伝を取らねえ限り、里を出るのはなし。わかってるな?」

 

「はい」

 

 背筋を伸ばしてアルは答える。未熟者が出て行っても野垂れ死ぬだけ。その顔には理解の色が浮かんでいた。

 

「よーし、じゃあ今日からは対人戦闘を主眼に置いた戦い方も教えていく。凛華との仕合はあくまで稽古の一つだが、今回からやんのは実戦―――――命の奪り合いを想定したもんだ。何使ったって構わねえからそのつもりでな」

 

「はい!」

 

 八重蔵は刃引きされた打刀を構える。切っ先も潰してあるが、刺そうと思えばさっくり刺さる。結局のところ刃の表面積が狭ければ切れるし、刺さるのだ。つまり大して実剣と変わらない。

 

 アルも同じものを構えた。朱鞘の太刀はしばらくお留守番だ。

 

「んじゃ、いくぞ~」

 

 八重蔵は軽い声とは裏腹に小さく鋭い突きをヒュッ・・・パァッ!と三連突きで放ってきた。

 

 対人戦で無暗にぶんぶん剣を振り回すような奴は余程の死にたがりか愚か者だけ。相手の力量もわからぬ裡は大振りなどしない。

 

 それを教えるような様子見の攻撃。アルは正しく意図を理解して最小の動きで見切り、即座に速度重視の一太刀を水平に斬り返した。

 

 アルのしなるような一刀を八重蔵は柄尻でカァンと弾きざま、間合いを一気に詰めて袈裟懸けに振り下ろす。

 

 二手目でリズムを急変調した八重蔵にアルはぎょっと目を見開いた。

 

「うっ!?」

 

 体重を乗せた重く、速い一撃。アルはギリギリで刀を引き戻して防いだ。だが、動きは止められてしまう。釘付けにされたと気付いた時には八重蔵に腹を蹴り飛ばされていた。

 

「ぐっぶ・・・っ!」

 

「防ぐな。流すか避けろ。闘気を使われてたらどうする?刀ってのは折れず、曲がらず、よく斬れる、この三つを突き詰めて作ったもんだ。

 

 じゃあ敵も同じような打ち方の得物を使ってたらどうだ?答えは簡単。力量にでけえ差でもねえ限りは軽い方が曲がっちまう。

 

 結局のとこ刀ってのは斬ることのみに特化した代物なんだよ。斬り()()()ために折れねえし曲がらねえ。防ぐためのもんじゃあねえ。

 

 重剣や大剣でも扱ってねえ限り打ち合うな、防ぐな。そんな暇あったら炎の一つでもぶつけてこい」

 

「っ・・はいっ!」

 

 立ち上がったアルは駆け出した。両手で打刀を構え間合いに入ると同時、袈裟懸けにシパッと振り下ろす。

 

 アルは半身をとって躱す八重蔵に、左手を刀から離しゴウッと爆炎を放った。単発ではなく噴流として放たれる火炎―――つまり範囲攻撃だ。

 

 これならと一瞬考えたアルは一拍の後ハッとして、その場から転がるように跳び退いた。

 

 直前までアルのいた場所に火炎流を斬り裂いて飛来した剣閃が着弾する。魔力の起こりを読んだ八重蔵がバックステップを踏んで炎流を斬り裂くついでに魔力を込めて剣圧を飛ばしたのだ。

 

 

 体勢を整えようとするアルに今度は八重蔵が仕掛ける。トンッ、トンッと軽やかにステップを踏んだと思いきや、ドンッと低い姿勢で鋭く踏み込んだ。

 

 左掌を刀身に添え、刀を打ち出すように突きを出す。狙いは首だ。鎧で覆われた胴部にある心臓より実戦では狙い易い。関節部を完全に覆いつくせるような防具はない。

 

 勢いと伸びが異常な突きの恐怖をアルはなんとか堪え、切っ先をギギッキイインッと弾いた。火花が上がる。

 

 しかし逸らされるところまで八重蔵は織り込んでいたらしい。切っ先をズラされた刀をそのままに八重蔵は勢いに任せた当身を食らわせた。

 

「がっ!」

 

 怯むアルに八重蔵が引き戻した刀を右逆袈裟に斬り上げる。追撃で放った避けにくい一太刀を与えられた衝撃を使って倒れこむように避けたアルだったが、ついで繰り出された八重蔵の左腕は防げなかった。喉元を掴まれ一回転した八重蔵が容赦なく投げ飛ばす。

 

「ぶっ、ぐっ、がっ・・・!」

 

 ごろごろ転がって受け身を取ったアルが見たものは迫って来る十字の剣閃だった。先程のように魔力を利用して剣圧を飛ばす技術だ。まずい。あの軌道じゃ直撃だ。

 

 ―――ビキッ!―――

 

 やにわに真紅の龍眼に入っていたヒビが割れた。次いでアルの右手に噴出した龍気が集まり、闇雲に振られた刀によって十字の剣閃が掻き散らされる。

 

 ―――――またか!

 

 霧散した剣閃を確認などしている間も惜しいとアルは叫んだ。

 

「『炎気刃(えんきじん)』ッ!」

 

 すると訓練用の刀が噴き出る炎によって覆われる。元の刀身の2倍は幅が広い。アルが年越し前からずっといじり続け、最近完成した魔術の効果だ。

 

 

▽▲▽

 

 

 怪我が治って数回、龍人の本能らしきものが表に出ようとする事態が起こった。いずれも何かある前にアルが動きを完全に止めたため大事には至ることはなかったが。

 

 しかし何かあるたびに立ち止まって深呼吸を繰り返し、落ち着くまで動かない。しかもクサクサした荒れた気分になる。やってられるか!とアルは早々に己へキレた。

 

 そこで龍気による暴走を防ごうと躍起になって創った魔術がこの『炎気刃』―――正確には『気刃の術』だ。

 

 刀身に轟々と纏わりついて刃を形成している炎は()()()()()にした高純度・高出力の龍焔となっている。

 

 頭をカッカさせたアルが、魔力の”属性変化”を見本として闘気の”具象化”を術式に落とし込んで仕上げたものだ。

 

 ヴィオレッタをして非常に革新的かつ秀逸な出来だと言わしめた魔術であり、威力も絶大である。しかし代わりに致命的な弱点がある。

 

 まず燃費が悪い。魔力を燃焼させて生み出す闘気にはその時点で些細なロスが発生している。それをさらに燃料とするのだから魔力消費効率は悪くなる。

 

 シンプルに例えると、闘気が醸造酒、『炎気刃』で発生する龍焔が蒸留酒という位置づけに当たるのだ。

 

 そしてもう一つ。これはアルにのみ致命的な点ではあるが、武器がないと――つまり体外へ龍気を出せないと暴走を抑制できないという点だ。これが出郷条件の一つをクリアできない点だった。

 

 そんな弱点を考慮してもヴィオレッタが秀逸と評したのは、マトモに扱える魔術であることがまず最初にある。

 

 魔導師と呼ばれる者達の中には、いわゆる再現性という点において難を抱えている術式を独自術式だと主張する者がいる。ヴィオレッタから言わせれば偶然の産物でしかない。

 

 アルの創った術式はそこをしっかり突破していた。それほど構成と理論が整っていたのである。

 

 次に、その内容だ。魔力の”属性変化”を手本にした闘気の”具象化”。

 

 魔導師たるヴィオレッタからすれば、今までの常識を別視点で切り抜いて見せられたようなものだった。

 

 というのも魔力と闘気は不可逆の関係にある。闘気から魔力へは戻らないのだ。そして魔術は属性魔力では起動しない。この2点が闘気と物理現象を引き起こす属性魔力との縁を薄れさせていた。

 

 もちろん闘気を体外で用いるという技術は昔からあるものだ。しかしその絶対的事実に目をつけ、視点を変え、闘気から高純度・高出力属性魔力を生み出すというのは新たな概念とも呼べるものだったのだ。

 

 魔術鍵語が読める『釈葉(しゃくよう)の魔眼』を持っていたとしても考え着かねば実現は不可能。十二分に褒められて当然のものであった。

 

 

▽▲▽

 

 

『炎気刃』によって龍焔を刀に纏わせたアルの龍気が体外へとグングン流れていく。それに合わせ、ヒビ割れた虹彩が元に戻っていった。

 

 真紅の瞳を輝かせたアルは八重蔵との間合いを詰めるべく、切っ先を右後ろ――脇構えにして吶喊する。

 

 六道穿光流・風の型『陣風』、火の型『焔燐』の混成技。『豪焔嵐舞(ごうえんらんぶ)』。

 

 脇構えにすることで間合いを測らせず、今の『炎気刃』を使用している今だからこそ最も利点を発揮する剣技。

 

 アルは駆けていき、間合いギリギリでグッと体勢を下に落とす。次いで、ググッと下半身に溜め込んだ勢いと脚のバネを利用して身体を左回転させつつ突撃した。

 

「ハアッ!」

 

 龍焔を纏った剣閃が螺旋を描いて八重蔵へ迫っていく。チッという軽い舌打ちと共に八重蔵は範囲から飛び退った。あの龍焔は厄介だ。

 

 視線を外さず見ていれば、アルが通り抜けた地面が深い熔断跡を残していた。魔術によって間合いが広がり、炎熱と呼ぶのさえ生温い熔岩級の熱で回転斬りを繰り出してきたアルに八重蔵はふっと笑う。

 

『豪炎嵐舞』を放ち終えたアルは体勢を崩さず、『陣風』で八重蔵の右側に飛び出し、

 

「シッ!」

 

 と、袈裟懸けに振るった。刀の切っ先から先ほどまで纏わせていた龍焔を矢尻型に凝縮した剣閃が八重蔵に襲い掛かる。

 

 アルの独自(オリジナル)混成技『飛焔烈衝(ひえんれっしょう)』。

 

 どうやら八重蔵のやっていた技を龍焔を利用して改造《アレンジ》したらしい、と八重蔵は理解した。だが、そんな技を脅威に思うほど八重蔵は弱い剣士ではない。

 

 弟子の成長に笑みを浮かべながら八重蔵はスッと刀を上段に構える。そして『飛焔烈衝』が到達する寸前にカッと眼を見開いて、轟ッ!!と刀を振り下ろした。それだけで龍焔の剣閃が掻き消される。

 

 視線を上げた八重蔵の前に弟子はいなかった。しかし八重蔵は焦らない。振り向きざま最短コースで刀を振るい、ピタッと止めた。

 

 そこには八重蔵の後ろから左逆袈裟に斬り上げようとしたアルが動きを止めて固まっている。首元には八重蔵が沿わせた刀。()られた。

 

「う・・・・参りました」

 

「ん。まあ上出来な方だろ。息整えな」

 

 師がそう言うとアルは「ぶはああ~~~」と息を吐きながら座り込む。八重蔵は涼しい顔でドカリと座り込んだ。そしてぜえぜえ肩で息をするアルに、

 

「どうだ?刃先潰してるからなんだってんだ?って思ったろ?」

 

 八重蔵は言う。こくこく頷くアル。

 

「命の奪り合いだ。相手からの殺気や気迫・・・時には怨みなんかも混じった剣が飛んでくる。そんなもんに身を晒して斬り合うんだ。慣れないうちは息なんてすぐ上がっちまう。魔獣相手じゃこうはならねえ。実際ならなかったろ?」

 

「はい・・・対人戦闘って、こういうこと、ですか」

 

「そーゆーことさ」

 

 すぐに息が苦しくなった理由。故意に剣気や殺気をぶつけられたのだとアルは理解した。

 

「ま、戦い方はあれでそんなに間違ってなかったぜ。さすがに凛華とまともに打ち合ってるだけはある。あいつぁ加減なんてほっぽり出すときがあるからな」

 

「あー・・・・」

 

 わからないでもない。大体負けそうなときだ、凛華は負けず嫌いだから。と、アルがそんなことを思っていたら八重蔵が雑談を始めた。

 

「あ、そーいやお前、凛華にきれいだって褒めたらしいじゃねえか。照れてたぜ」

 

 八重蔵はそうは言うが、あえて突っ込んでは聞かない。

 

 今のアルはきっと誰かと自分が好い仲になるなど考えもしていないだろうことはお見通しだった。穏やかに見える後ろにピンと張りつめた緊張感のようなものが常に感じられるのだ。

 

「元々美人ですし『修羅桔梗(おにききょう)の相』が似合ってたから褒めただけですよ?」

 

 アルはアッサリ言ってのけた。やはり自分と誰かが、など考えもしていないようだ。

 

 このくらいの歳なら照れが混じっていたり恥じらったりするだろう。八重蔵は確信した。弟子がそういったことを思考から排除している、と。

 

 考えなければ、想わなければ傷つくことも悲しむこともないから。

 

 八重蔵はため息をついた。

 

 ―――――それは相手の気持ちも無視するってことだぞ。

 

 と思うがそれを気づかせるのは自分の役目ではない。

 

「そうかい。ま、見た目は水葵に似てっからな。さて、今日は対人戦初日だ。あんま根詰めたってしゃあねえし、今日は帰るか」

 

「はい、ありがとうございました」

 

 どうにか立ち上がって礼をするアル。

 

「おう、おつかれさん」

 

 八重蔵も背筋を正した。ここらへんは最初にしっかり叩き込んだこともあって、きっちりしているし八重蔵自身もメリハリをしっかりすることにしている。

 

 挨拶を終えれば、もう師範と門下生ではない。親友の息子と近所のおじさんだ。

 

「なあ、アル。紅の奴に剣習わせるにはどうしたらいいと思う?」

 

「・・・また水葵ねえさんに怒られるよ?」

 

「やっぱ無理かねぇ・・・・」

 

 そんなことを言いながらアルと八重蔵は帰路に着いた。

 

 

 ☆★☆

 

 

 マルクガルムは少々呆れた声を背後にかける。

 

「おーい、行ったぞ」

 

 すると凛華とシルフィエーラの2人がガサガサと草むらを揺らして頭を出した。先ほどまで稽古をしていた八重蔵とアルを3人は見ていたのだ。

 

 六道穿光流を修めているアルと八重蔵はやたらと気配に敏感だ。ここなら大丈夫だろうという遠くから様子を探っていたのだ。

 

「んー・・・あんなに激しい稽古初めて見たよ。凛華と仕合してるときより戦い方荒っぽかったね」

 

「対人戦の練習なんだろ?にしても2人とも刃引きしてても意味ねえ攻撃ばっかだったな。こないだ創った『炎気刃』も使ってたし」

 

「龍気が出ても構いもせずに闘ってたわね・・・・」

 

 凛華は八重蔵に「今日から型の稽古以外は別々で稽古だ」と言われたのだ。気になって見に行こうとしたらエーラとマルクがいたので事情を話して3人で来た。

 

 稽古が別な理由はアルが出郷予定だから。それ用の戦い方を教わっていたようだ。

 

 しかし凛華とエーラはこの状況に納得していない、というかそこそこ不満である。なぜならヴィオレッタからアルが里を出ると聞いたとき、ノータイムで自分たちもアルと共に里を出ると言ったらだめだと言われたのだ。

 

 エーラは父ラファルより母シルファリスから強く反対された。凛華は父、八重蔵からだ。

 

 常にない真剣な顔でダメだと言われた。許可が欲しいのなら明確な理由を見定めろ、ただの仲良しこよしで行こうというのなら絶対に許可は出さん。言葉こそ違えど2人が言われたのは似たようなことだった。

 

 

 ちなみにマルクは丸一日吟味して、次の日「俺もあいつといっしょに行く」と言ったら父マモンから行ってこいと二つ返事で了承を得ている。母マチルダは嫌がり、マルクの顔を見て渋々、本当に渋々了承することになった。

 

 マルクは一晩中考えたのだ。アルが友として心配なのは当然。しかしそれ以上にあいつの横なら自分はもっと強くなれる。妹や母を守り、友を助けられる力をつけられる。あのときのような不甲斐ない思いを二度としたくなかった、誰が相手でも。そう考えた上で結論を出した。

 

 その決意を見たからこそ、マモンは拍子抜けするほどあっさりと許可を出したのだ。

 

 もう少し待ってヴィオレッタの魔術授業を受けることになる。なぜならアルと同じく帝国の魔導学院入学が条件にあるのだ。

 

 不安になったマルクがヴィオレッタに問うと、そこは魔導師を養成するための学校らしくアルほどの知識や技術は要らないと教えてくれた。

 

 だから出立するその日までマルクも勉強するのだ。試験料はアル同様ヴィオレッタが出してくれる。生徒の為なら安いものだとのこと。

 

 

 

 マルクはうんうん唸って不満を表明するエーラと凛華を呆れたような眼を向けていた。

 

 ぶっちゃけアルと一緒に行きたい理由なんて傍から見ていれば容易にわかるのに本人達はどうやら気づいていないらしい。

 

 面倒臭そうに「はあ」っとタメ息をつき、

 

「なあお前ら、悩むくらいならアルのとこ行ってこいよ。何かわかるかもしんないだろ」

 

 と言ってみる。アルは別によそよそしい態度など取ったりしていないのだから。

 

 話せばさすがになんか気づくだろ、とマルクが面倒くさいなりに考えて言った言葉に、2人はピタリと動きを止める。

 

「や、でもほらボクらが許可出してもらえなかったって聞いたらアルは変に遠慮とかしそうだし」

 

「そ、そうね、あたしもそう思う。すぐ考え込んじゃうから」

 

 モジモジ、ウジウジしだすエーラと凛華。非常にらしくない。

 

 ―――――こいつら、めんどくせえ。

 

 マルクは心中で溢す。

 

 

 彼女らが答えを見つけ出すまであと二週間ちょっと、アルはそれまで妙な視線に落ち着かない日々を過ごすこととなるのであった。




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