日輪の半龍人   作:倉田 創藍

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ここでは初投稿になります。読んで頂ければありがたい限りです。



また「小説家になろう。」と「カクヨム」にて同作を2~3日に1度連載投稿しております。


現在両サイトにて投稿されているものとこちらに投稿するものは少々文体が違う場合があります。


こちらへは定期的にある程度纏めて更新していく予定です。



断章5  アルクスショック

 アルクスが『八針封刻紋(はっしんふうこくもん)』を己に刻み、龍血を封印した夜のことだ。

 

 朝から仕事に出ていたトリシャが帰宅した。もうくたくただ。トリシャは息子と語らいながらゆっくり食事でもして癒されようと考えていた。夜も深い。アルは先に食べているだろうが、いつもトリシャにつき合って労ってくれるのだ。

 

「ただいま~。アル~?ちゃんと晩御飯は食べたあああああああああああっ!?」

 

「あ、おかえり~」

 

「いやいやいや!『おかえり~』じゃないでしょ!どうしたのその髪!瞳の色まで違うじゃない!」

 

 トリシャは息子に飛びついてむぎゅりと頬を挟む。すわイジメかと思ったがどうも違う。アルは斑のない綺麗な青黒い髪色をしていた。

 

「かーひゃん、ひぇちゅめいしゅるからてぇひゃなひて」

 

「ちゃんと説明なさい。どうなっちゃってるのよこれ?今度は何したの?」

 

「えとね、最近暴走しやすくなってるって話したでしょ?」

 

「ええ、躍起になって術式を組んでるのも教えてもらったわ。ヴィーにはあえて手伝うなって言われてたけど・・・・」

 

「それでね。一つの術式じゃどうしたって暴走を食い止められなかったから、術を重ねて龍人の力そのものを封印したんだ。見てて」

 

 そう言って胸に焼き付けられた『八針封刻紋』を見せ、アルはカチカチカチッと左掌の鍵を逆回りに回す。すると段階ごとに髪と瞳の色調が変化していった。

 

 髪は青黒からアッシュブラウン、そして灰色に。瞳は赤褐色から暗紅色を経て緋色へ。

 

 龍人の力を封印すると言ったアルにも昨日までなかった『封刻紋』自体にも目を剥いたトリシャだったが、何よりも息子の変化していく様に驚愕した。

 

「ええ?ねえちょっと、大丈夫なのそれ?安全なの?」

 

「んと、たぶん?」

 

「たぶんて。ほんとに?苦しかったり痛かったりしないの?」

 

「うん、凛華とエーラにも聞かれたけど大丈夫だよ」

 

 そう言いながらガキッガキッと鍵を閉めていく息子。トリシャは一旦大きく息を吸い、己を落ち着かせた。

 

 凛華とシルフィエーラが騒ぎ立てたりしていないということはおそらくまずい状況に陥っているわけではない。あの2人はアルを気に入っている。女の勘すら必要ない。

 

「母さんご飯は?用意できるよ」

 

「ご飯どころじゃないわよもう。ちゃんとこうなるって言いなさいな。お母さんびっくりしちゃったじゃない」

 

「ごめん。今日思いついたから言う暇なくてさ」

 

「まったくもう。にしてもそうしてると小っちゃいユリウスみたいね。まあユリウスはもっと真っ黒髪だったし瞳ももっと暗い茶色だったけれど」

 

「凛華とエーラを送ったとき、八重蔵おじさんとラファルおじさんにもそう言われたよ。髪が青っぽいのも目が赤っぽいのもたぶん母さんからの遺伝だろうってさ」

 

「そうでしょうね。そういえばヴィーには視てもらったの?」

 

「まだだよ。訪ねたけどいなかったしもう夕方だったから」

 

「そう・・・・・はぁぁ~・・・一旦ご飯食べようかしらね」

 

「あーい」

 

 適当な返事と共にアルが台所へパタパタと向かう。呑気なものだ。その背を見ながらトリシャは大きく息をついた。まったく心臓に悪い息子だ、誰に似たのやら。

 

 特に問題はなさそうだが、明日は絶対にヴィオレッタのところへ行かなければと静かに決意する。程なくして温め直してきた食事を持ってきた息子をじーっと観察するトリシャ。

 

「母さん、どしたの?」

 

「変なところがないか見てたのよ」

 

「ないでしょ?」

 

「まあね。でもお母さんの息子なだけはあるわ。その髪色でも似合うじゃない」

 

「そう?おかしくないなら、まあいいかな」

 

「雑なのよねえ。凛華ちゃんとエーラちゃんとマルクはなんて言ってたの?」

 

「慣れないってさ」

 

「そうでしょうよ」

 

 あの3人とて驚いたろう。というかあの3人だからこそ驚いただろう。十中八九こんな見た目になるとはわからなかったはずだ。

 

「その刻印術式、もう二度と外せないの?」

 

「ううん、外せはするよ。でも1時まで針が()()()()また暴走しちゃうから当面は外せないね。もう雷撃で気絶するのもやだし」

 

「そっちも心配だったんだけどねえ。はぁ~・・・わかったわ。それが里を出る条件の一つに対するアルの出した答えなのね?」

 

「そんなとこ。でもたぶん今弱体してるから、稽古と鍛錬にも時間かかりそう」

 

「弱体?どういうこと?」

 

「龍人族の力を完全に封印してる今の状態じゃ、龍眼も龍焔も使えないんだ。魔力の量とか得意なのが炎なのは変わんないけど。龍気もまったく使えなくなってたし」

 

「ええっ!?じゃあほとんど人間じゃないの」

 

「そうみたい。まあそれならそれでやりようはあるし、困ったらある程度封印を解除するから問題ないよ」

 

「呑気に言うことじゃないでしょうに。封印はどれくらいまでなら安全に解除できるの?」

 

「今のとこ絶対大丈夫なのは5段階目だから、えーと3時までかな。龍眼なら使えるね。それ以上戻すのはちょっと危ないかも」

 

「そう。明日はヴィーのとこ行くんでしょう?お母さんもついて行くからね」

 

「え?母さんも来るの?なんで?」

 

 ぽやんと問うてくる息子。トリシャは思わずピキッときた。ほっとしたら腹が立ってきたのだ。

 

 この爆走息子、どうしてくれようか。

 

 トリシャはすっと立ち上がって息子の席に近寄る。そしてうん?と見てくるアルの背中にまわり、ガシッとヘッドロックを決めた。

 

「心配だからに決まってるでしょうが!あんたはもうちょっと大人しくすることを覚えなさい!」

 

「わあっ!ちょ、母さんごめんっ!ごめんなさーい!」

 

 慌てたアルの謝罪がルミナス家に響く。結局お説教コースとなるのであった。

 

 

 ***

 

 

 その翌日。トリシャに手を引かれたアルはヴィオレッタの家へ向かっていた。さすがに気恥ずかしい。

 

「母さん。ねえ、さすがに恥ずかしいんだけど」

 

「ちょっとほっとくとすぐわけわかんないことする息子には妥当な処置よ」

 

「もぉごめんなさいってばぁ」

 

「悪びれてないじゃないの。離さないわよ。反省するまでお母さんがちゃんと見ておくわ」

 

「ええ~」

 

「ほらやっぱり悪びれてないじゃない」

 

「そんなことないよ?次からちゃんとするから」

 

「次からって言う人は次もしないのよ」

 

「むぅ」

 

 鬼娘と耳長娘には息子が変なことをしないようきちんと頼んでおかなければ。その思いを強くしたトリシャと手を引かれるのにもまぁいいやと慣れたアル。

 

 2人は特に何事もなく仕立て屋通りを抜けてヴィオレッタの家に辿り着いた。トリシャがその門戸をトントンと叩く。

 

「ヴィーいる?私よ、トリシャよ」

 

 声そのもので判別は出来るだろうが礼儀として名乗った。すぐに戸が開かれる。

 

「おはようトリシャ。だいぶ早いようじゃが昨日(なれ)は仕事が遅いんじゃなかったかの?」

 

「ちょっと見てもらいたくてね」

 

「む?見る?おぉ、アルもおるのか。ということはアルがまた何ぞぉおおおおおおおっ!?」

 

 仰天するヴィオレッタを見て『昨日も見たなぁ』と冷静なアル。

 

「どうしたのじゃこれは!?また何かしたのか!?」

 

 またとはどういうことだ。そして何かしたとはどういう意味だ。何があった、でも良くないだろうか?

 

 そう思わないこともないアルではあったが同じくらいそれで叱られてきた自覚もあったためテヘと照れてみせた。そんなアルをペシンとはたくトリシャは、ヴィオレッタの反応に己を見てしまい少々むず痒い。

 

「な、は、え、と、とりあえずうちに入るのじゃ。ちゃんと事情を聞かせい」

 

 思った以上に動揺しているらしい。自分はここまでではなかったはずだとトリシャは思ったが、アルからしたら似たようなものだった。

 

 

 

 所謂ところの客間の方に通されたトリシャとアルが座っていると奥から『念動術』で茶を乗せた盆を引き連れたヴィオレッタがやってくる。

 

 アルはその技術力の高さに「おぉ」と唸った。簡単に見えるが『念動術』で茶杯なんかを運ぶというのは案外難しいのだ。酒樽を運ぶのとはワケが違う。茶杯は盆から離れ、アルとトリシャの前にスウーっと浮いてきた。

 

 ここまで淀みなく術を掛けるとは。おまけにひゅっと指を1、2回振っただけ。アルがやるなら常に手を翳しておかねばならないだろう。

 

 「練習不足だな」と一人頷くアルだったが、トリシャとヴィオレッタはそんなことはどうでもいいと言わんばかりの視線を向ける。

 

「アル。説明するのじゃ。それは魔術の影響か?」

 

「はい。そうです」

 

 聞かれる内容はわかっていたためアルの反応も早かった。襯衣(シャツ)の胸元を開け、次いで左掌も一緒に見せる。

 

 操魔核(そうまかく)の真上を狙って焼き付けられた『八針封刻紋』と対応するような鍵の術式を見てヴィオレッタは目を見開き、『時明しの魔眼』を発動させた。

 

 師の瞳に浮いた金色の蜘蛛の巣に視てもらっているアルは内心ドキドキである。一人で組んだ術式だ。やはりプロに視られると緊張する。

 

「これは・・・・龍人の力を幾重にも術式を重ねることで完全に封じておる。消費魔力もそう多くない。アルの魔力量なら特段問題ないじゃろう。そして、こっちは――段階的に解除するための鍵といったところか?」

 

「はい。こんな感じです」

 

 カチカチと鍵を回し、アッシュブラウンの髪、暗紅色の瞳に変化したアルを見て「なるほど」とヴィオレッタは納得した。『封刻紋』の針はアルが解除した分だけ反時計回りに動いている。

 

「・・・ふむ。刻印を時計と見立てて解除術式を組んだか。まったく、よく出来ておる。言われなければ13歳が組んだものとは気づけぬほどじゃ。

 

 トリシャ、これはアルに悪影響を与える術ではない。儂が保証しよう。じゃがアルよ、ここまで複雑な術式を組むのであれば試す前に見せに来ぬか。何があったのかと心配したじゃろう」

 

 師の咎める視線にアルは耐え切れず頭を下げた。

 

「うっ・・・ごめんなさい。その場で考えたから相談する時間なくて」

 

「私にもそんな言い訳したのよ」

 

 告げ口をするように言うトリシャ。アルも少々バツが悪い。

 

「まったくこやつは・・・少しは大人しくしておれ。しかし、これまで作っていた術式も少し見せてもらったことがあったのじゃが、これはそれらとは様式も組成の根幹思想も違う。何があって思いついたのじゃ?」

 

「前世の自分に考え方を丸っきり変えてみた方がいいんじゃないか?って言われて」

 

「ええっ!?」

 

「はっ!?」

 

「うん?・・・あっ!」

 

「まだ言ってないことがあったみたいねえ、アル」

 

「そのようじゃの」

 

「ひたいひたい、ごひぇんなさいっ。言うっ、いうから!」

 

 青筋の浮いた手に両頬を引っ張られたアルは慌てて事情を説明させられることになるのだった。

 

 

 自分でもよくわかっていないが、何度か術式に失敗して気絶した時に前世の自分の住んでいた部屋にいて、そこに彼―――長月がいた。何度も意識を失ったことで偶発的に前の人格が蘇ってしまったのではないかと見ている。

 

 当初は幻覚の可能性も疑ったが、話してみると発想や思想に明らかな違いが見られた。それぞれ完全に独立した人格を有している。そこで幻覚ではなさそうだと結論付けることにした。

 

 また現実に意識がないときは彼の部屋で話すこともあるが、現実に意識があるときはあちらから呼びかけても自分には何も聞こえない。

 

 散々新魔術に失敗しまくって打つ手がないと愚痴ったところ、素人目でしか語れないが視点を変えたらどうだと言われ、「一理あるかも」と『八針封刻紋』を創り上げた。

 

 アルはその時の会話を粗方再現するように包み隠さず話した。母と師の眼が怖かったからだ。

 

 全てを聞き終えたトリシャとヴィオレッタはため息をつく。どうしてこの子の周りではこう変なことばかり起こってしまうのか。

 

 しかしようやく経緯がわかった。そして―――――。

 

「まぁ汝と前世の汝が仲良くできておることは良いこととしておくかの・・・」

 

「こっちでは存在しないし、あっちでも死人だから出しゃばる気はないぞって言ってました」

 

「そう、なのね」

 

 ヴィオレッタとトリシャは正直ちょっと気疲れしている。里の住人たちの持ってくる相談事や夜間任務の数倍は疲れた。

 

 しかし龍人の血を封印した影響はきちんと把握しておかなければならない。何より愛弟子のために。

 

「次回の授業は他3人とアルの身体に起こった変化をしっかりと把握する時間としようかの。良いな?」

 

「はい」

 

「ヴィーお願いね。やっぱり魔術ってなるとヴィーが一番知識もあるから」

 

「うむ。任せよ」

 

 こうしてその日のルミナス親子の訪問は終わった。ヴィオレッタもトリシャも胸を撫で下ろしつつ、アルは師匠に魔術を褒められてほくほくだ。

 

 

 しかし、翌日からヴィオレッタに災難が降り注ぐことになる。アルを含めたヴィオレッタの生徒たち4人は顔が広い。鍛冶屋通りから仕立て屋通りの面々に癒院の親子、人虎族たち、年上の青年組から下の子供たちまで多岐にわたる。

 

 アルの見た目の変化が本人の創った魔術による影響だと聞いた彼ら。八重蔵をはじめ、特にアルと親しい者たちが「あの術は大丈夫なのか?悪い影響はないのか?」とヴィオレッタに殺到しのだ。マルクの妹であるアドルフィーナやエリオットとアニカの双子、果ては遊んでもらっていた子供たちですら訊ねてくるのだからたまらない。

 

「ええいっ、大丈夫じゃと言うとろうがっ!」

 

 ヴィオレッタの疲れと怒りを多分に含んだ叫びが里に木霊したという。




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