日輪の半龍人   作:倉田 創藍

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ここでは初投稿になります。読んで頂ければありがたい限りです。



また「小説家になろう。」と「カクヨム」にて同作を2~3日に1度連載投稿しております。


現在両サイトにて投稿されているものとこちらに投稿するものは少々文体が違う場合があります。


こちらへは定期的にある程度纏めて更新していく予定です。


断章6  隠れ里の新文化

 アルクス、凛華、マルクガルム、シルフィエーラの4人が里を出るに当たり、頭目を決めるべく大激闘を繰り広げておよそ2年ほどの月日が経過した。

 

毎日のように訓練場や鍛錬場、武闘場で見られた4人の姿はもうない。その代わり、最近は3名の子供たちを見かけるようになっていた。

 

 ワインレッドよりもう少し赤毛っぽく、波打った髪を一括りにしている9歳の人狼族の少女―――マルクの妹アドルフィーナと人虎族の双子エリオットとアニカだ。

 

 以前アルの見舞いに行ったときからよくつるむようになり、顔見知りから友人へクラスチェンジしたらしい。今では親友と呼べる間柄だ。

 

 

 なぜその3人が訓練場や鍛錬場に出没するようになったのかと言えば、当然ながらあの4人から強く影響を受けたせいである。元々彼らを慕っていたアドルフィーナ、助けてもらったことで早い段階から懐いていた双子たちは模擬仕合に魅せられた。

 

 4人が4人とも全力の実力を発揮し、大人たちすら感心させる高等技術、戦法の多用、思考のぶつかり合いをしたことに加え、誰一人としてちっとも諦めない。例え追い詰められても食い下がる。

 

 あの諦めない姿勢が自分たちの命を救ったのだと双子は再認識したし、アドルフィーナは負けても腐ることなく最後まで闘い続けた兄を尊敬した。

 

もっとも表情に出せば鬱陶しくなることはわかりきっていたので絶対表には出さなかったが。

 

 

 つまりあの日、彼ら3人の心に火が点いたのだ。思慕は憧憬へと変わり、そして目標になった。

 

 自分たちもあんな風にかっこよく、強くなってみせる。そう息巻いてすぐアドルフィーナはマモンに、双子は族長のベルクトに稽古をつけてくれるよう頼み込んだ。

 

 双子が両親に頼まなかったのは甘えてしまいそうだと考えたからだ。

 

両親の方も自分たちが人虎族の中でもそれほど戦闘を得意としていないことは自覚していた為、子供たちと共に頭を下げた。

 

 その時点で3人とも”魔法”は発現していたし、やる気もある。

 

何よりあの4人から遊びとはいえ直接魔力の扱いを習ったりしていた。

 

 一度躊躇したマモンとベルクトは鉱人の酒場でバッタリ会い、酒を呑みながら互いにそんな話をした。そこで決めたのだ。

 

どうせあの4人に憧れているのなら勝手に動きだす。ならば取り返しのつかないことが起きる前にきちんと教導しておくべきだろうと。

 

 そこからはマモンとベルクトが決められた日、決められた時間に空いている片方もしくは両名で稽古をつけることにした。それが3人が7歳になって間もない頃のことである。

 

「フィーナ、跳び過ぎるな。空は一番自由が効かん。大地に力を借りるのだ」

 

 ―――――昔マルクにも似たようなことを言った気がする。

 

 やはり似るものだなと独り言ちたマモンは忠告した。アドルフィーナは人狼態、マモンは人間態だ。これも以前どこかで見た光景だ。

 

「てぇやああああ!」

 

 正面から跳び上がって蹴りを放つ娘の脚を掴んで地面に放り投げる。

 

「「だあああああっ!!」」

 

 そこへ背後から2人分の蹴りが襲い掛かってきた。しかしマモンは焦り一つ見せず的確に腕のみで捌き、受け流した力を利用してそれぞれ別方向へ投げ飛ばす。

 

「うわぁっ!」

 

「のわっ!」

 

 スポンと飛んでいった人虎態のエリオットが草をかき分けながら転がり、アニカがスライディングするように滑っていった。

 

「相変わらず見事なものだ」

 

 ベルクトの声にマモンは口の端を少々歪める。苦笑しているのだ。

 

 ―――――自分とて出来るだろうに。

 

「”魔法”を使えば出来るが、生身でここまで的確にはできん・・・はずだ」

 

 そんな声が聞こえた気がしてベルクトは弁明した。

 

「そうは思えないが」

 

 そんな風に自然体で言葉を交わすマモンへ、アドルフィーナは突喊する。

 

「余所見する暇なんてあげないんだから!」

 

 不意を突いたつもりらしい。マルクもやっていた貫手だが、脚力がまだまだ足りない。

 

「不意討ちするなら音は出すな」

 

 マモンは片手でぺいっと娘の進行方向を変えてやる。勢い余ったアドルフィーナが草原へすっ飛んで行く。そこにはアニカがいた。人虎態でも「えっ」という顔をしているのがわかる。

 

「ちょ、ちょっとフィーナ!」

 

「どいてえぇぇぇ!」

 

 無理な相談だった。

 

「「ふべっ」」

 

 仲良く草むらに寝転がるアニカとフィーナ。あちゃあとエリオットは首を横に振った。

 

 この多対一の稽古は別に平時の鍛錬メニューではない。

 

 ベルクトは対魔獣戦を、マモンは対人戦を主に教えることにしていた。

 

しかし3人が相手によって戦い方を変える意義を真に理解していないと判断したため、こういう稽古の形を取らせてもらったのだ。

 

「俺の言いたいことはわかったか?動きを読むのではなく、相手の思考を読め。お前たちの動きはそれが足りていない。だから人間態の俺でもあしらえるのだ」

 

 マモンからありがたい忠告(アドバイス)をもらいながら、しゅんとして戻ってくる3人。”魔法”はもう解けていた。なんとなくは伝わったらしい。

 

「わかったけどムズかしい、です」

 

 エリオットが代表するように述べる。うんうんと頷くアドルフィーナとアニカ。

 

「難しくて当たり前で、だからこそ絶対に必要なのだ。お前たちの憧れていたあいつらがただ力任せにぶつかっているように見えたか?この間もそうだったか?」

 

「「「うっ」」」

 

 思わず詰まる3人。答えは否だ。とてもそうは見えなかった。もう2年近く前だったがそれでもあの仕合はすべてよく覚えている。彼らは相手によって闘い方を変えていたし、状況によって逐一動きも変わっていた。

 

 この間とは、この2年の間に一度里にアルたちが戻ってきた時のことだ。

 

 出て行って1年ちょっと経っただけなのに洗練された覇気と武威を身に纏っていた。

 

 そのときにも彼らは稽古をしていたので見に行ったのだ。

 

 今の自分たちとは―――――。

 

「全然ちがいました」

 

 アニカはガクリと肩を落として返事を返した。

 

「ああ。あいつらは互いのことをよく知っている。だからこそ一手優位に立つだけでも大変だっただろう。手の内を知っているし、知られているのだから」

 

 ―――――そう言われたらやるしかないじゃないか。

 

 アドルフィーナはそう思いながら父を見る。ベルクトは軽く頷いていた。まったくの同意見らしい。

 

「次の武闘大会に出るのだろう?」

 

「うぅ~、わかった。頑張る!」

 

 今の言葉がトドメになった。パッと顔を上げたアドルフィーナと双子が顔を見合わせてやる気を見せる。

 

 マモンとベルクトは「そうこなくては」とそのやる気に応えるように稽古をつけてやるのだった。

 

 

 ***

 

 

 ヴィオレッタは武闘場のそばに腕を組んで佇んでいた。森人たちがザッと駆けてくる。

 

「里長殿、武闘場及び観戦席の設営は終わっております。彼らの頃に較べれば木々も少なくしてありますし、整備班も待機する手筈となっております」

 

「そうか・・・ご苦労じゃったな。明日はよろしく頼むぞ」

 

「承知いたしました。では」

 

「うむ」

 

 労いの言葉をもらった作業班の森人たちはサッと身を翻して去っていった。

 

「・・・長かったのう」

 

 しみじみとぼやくヴィオレッタ。そこへ癒療班のリリーが来た。

 

 後ろには森人たちのまとめ役として働いていたラファルもいる。

 

 里長の表情を見てラファルが口を開く。

 

「お疲れのようですが大丈夫ですか?」

 

「心労がかさんでおるだけじゃよ。あの四人は里におってもおらんでも騒動の種を作るから困ったものじゃ。特にアルじゃ、またぞろ何かやっておるようじゃし」

 

「まあまあそう言わずに。アルくんの方はわかりませんが、こっちは住民たちの要望によるものでしょう?」

 

 そう言って武闘場の方を仰ぎ見るリリー。その視線を追ってヴィオレッタもそちらを見やる。そこには2年ほど前に4人が大暴れした武闘場をより洗練させた武舞台が整えられていた。

 

 あの頭目決めから今日でちょうど2年。

 

 

 仕合後すぐに旅立った彼らの対決は住民魔族たちのツボを痛いほど刺激したらしく、武闘大会を定期的に開いて欲しいという要望が殺到したのだ。

 

 子供から大人たちまで、老若男女を問わない大量の要望書。

 

 ヴィオレッタはその対応に追われる日々を過ごしていた。

 

 各種族の代表たちとの協議を重ねたり、仕合の規則や規程を整備したり、他にも暴れることで隠れ里そのものの安全性を考え直す必要が出てきて調査を行ったり。

 

 武闘大会の開催が本決まりになってからはこちらにかかりっぱなしである。大変どころではない。

 

 結局この場所でこの時期に、武闘大会を2年おきに開く。そういう運びとなった。

 

 同意する者たちのまぁ多いこと多いこと。毎年と言い出す住民たちを宥めるのによもやあそこまで骨が折れようとは。

 

 

 今日はその武闘大会の前日だ。段取りなんかの最終確認がようやく終わった。

 

 ヴィオレッタは司会進行をやらなくても良い立場になったが、仕合中は必ずいなければならない立場だ。

 

 万が一事故が起こってもヴィオレッタがいれば大抵の怪我はどうにかなる。死人を出さないためなので断れるはずもない。

 

「わかっておるのじゃが・・・それでも発端はあやつらじゃしぃ。儂も焚きつけたり賭けの胴元をしたりしてしもうたが、ここまでの大事になるとは思わぬしぃ。なんか皆張り切っておるしぃ、儂とてガッカリはさせとうないから頑張ったのじゃしぃ」

 

「結局どのような運びになったんでしょうか?」

 

 しぃしぃ管を巻くヴィオレッタにリリーが苦笑して訊ねる。

 

 癒療班としてここ最近は癒院で新人指導をしていたためよく知らないのだ。

 

「指導役や顔役が実力を認めた者たちのみが参加できる。加減のできない者などに参加資格はなし。

 

 あとは年齢ごとに実施日を変えてある。成人の部が最終日前から二日間、青年の部が14歳から20代前半までで二日目、少年の部が初日だな。年齢制限は9歳から13歳までだ」

 

 ヴィオレッタの代わりに答えたのはラファルだ。

 

「随分細かく決めたのねぇ」

 

「エーラたちはあれでも加減や術の威力なんかもきちんと考慮して闘っていたが、そうでない者もいるからな。規則をあえて細かく決めて、守れない者は参加させるべきじゃないと満場一致の決が出た」

 

「ふむふむ。ま、あの子たちは毎日のように鍛錬してたものねぇ」

 

 納得するリリーにそうだろうと頷くラファル。ヴィオレッタの方を見ると、

 

「うむ。大変じゃった・・・・」

 

 ぽつりと呟いていた。疲れもするだろう、協議や調査の全てに参加しなければならないのだから。

 

「里長殿。よろしければ帰りにうちに寄って、家内の淹れる茶を飲んでいかれませんか?私なども飲んでいるものですが、疲れがスッと抜けるような落ち着く香りのものでして。リリーもどうだ?」

 

「・・・すまぬがそうさせてもらおうかの」

 

「いいわねえ。最近はゆっくりお茶もできなかったものね」

 

 ほへえっと力の抜けた表情をしているヴィオレッタとほんわり笑うリリーを連れてラファルはシルファリスの待つ自宅へ帰ることにした。

 

 ―――――明日は忙しくなるだろう。英気を養っておいてもらわねば。

 

 甘い茶菓子などがあったら妻に出してくれるよう頼んでおこうということも頭にメモしておく。娘のこととなると空回りしてしまうだけで、ラファルは元来気配りが上手い。

 

 こうしていつぞやの模擬仕合を発端とした勝ち抜き制の武闘大会は隠れ里の新たな文化として、住民たちから諸手を挙げて受け入れられていくのであった。




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