また「小説家になろう。」と「カクヨム」にて同作を2~3日に1度連載投稿しております。
現在両サイトにて投稿されているものとこちらに投稿するものは少々文体が違う場合があります。
こちらへは定期的にある程度纏めて更新していく予定です。
今は8月、季節はもうすっかり夏だ。少しばかり強過ぎる日光が降り注ぐこの時期でもここ―――共同墓地は暑さをあまり感じない。涼しげな風が厳かに吹いている。
そこに八重蔵とラファル、マモンの3名はいた。ユリウスへの報告に来ているのだ。
今日、ユリウスの息子アルクスを含む彼らの子供たちが帝都へ旅立っていった。どことなく寂しさを感じ、八重蔵が墓参りにでも行こうかとラファルとマモンを誘い、今こうしてここにいる。
誘われたとき、すでにラファルは寂しくてたまらなくなっていたため一も二もなく提案に乗った。マモンは「まだ数時間しか経ってないぞ」と思いはしたが、2人を見て「まぁしょうがないか」というようについてきていた。
墓地に着いた3人はユリウスの墓をいつものように墓石を清め、酒杯をコトリと置く。今日は花を持って来ていない。
それよりも酒だろうと普段持ってくるものより上等なものを樽で持ってきていた。
この墓地は墓石同士の間隔が割と広い。
蜘蛛人族などが良い例だが、魔族は体躯の大きさが様々なのでわざと広く造ってあるのだ。
そこに八重蔵がどすっと胡坐をかいて座る。今日ばかりは良かろうと残りの2人も座った。
「よう、ユリウス。お前さんも見送ったのかもしれねえがあいつらは旅に出たぜ。今頃森の中を歩いてる頃だろうよ」
そう言って八重蔵がグイッと酒杯を煽る。ラファルとマモンも同じようにクッと煽った。
思い返すのはあの4人がもっと幼かった頃のことばかりだ。14年。喋るようになってから10年ちょっとしか経っていない。
それなのにいつの間にか大きくなって己の意思を通せるだけの行動力と実力を示して里を出て行った。誇らしいことは確かだが早すぎるというのが素直な感想だ。
「うぉぉ~んエーラぁ~、里を出るのは父さんまだちょっと早いと思うんだぁ~」
「おいもう出来上がっちまったのか?早過ぎだろ。まだそんなに吞んで・・・るじゃねえか!馬鹿野郎っ!俺がキースとの賭けでかっぱらった上物だぞ!」
どうやらラファルはカパカパ呑んでしまっていたようだ。首根っこを持って揺さぶる八重蔵のことなど気にならないのか頻りに下の娘のことばかり口にする。
「嫁に行くなんて早すぎるぅ~」
「お前の気が早過ぎるんだよこの馬鹿!当分エーラは嫁になんぞ行かねえから安心しろ!つーかそれ以上に上のフィリアの方が――――」
「八重蔵、それ以上はよせ。面白くなくなる」
マモンががしっと肩を押さえてくる。上の娘の恋愛事情について、肝心なところで鈍感なラファルは気づいていない。バラしたら面白くなくなるから黙っておけとマモンは釘をさしているのだ。
「お前ブレねえっつうか大概酷えな」
「いつか肴になるだろう。それよりお前の方は気になっていないのか?娘が想い人と里を出たのだぞ?」
マモンの問いに八重蔵はケッと吐き捨てた。
「今のアルにそんな余裕があるわけねえだろうが。龍人の闘争本能を完全克服するか何か画期的な方策でも見つけるまでは考えもしねえだろうよ。寧ろ手ぇ出して帰ってくるくらいが丁度いいくれえだ。うちの娘を御せるのはアイツくらいなもんだし、他の坊主共にはくれてやるつもりもねえからな」
―――――つまり親子揃って気に入っているという意味か。
いつになく素直な八重蔵にマモンは驚く。
「なんだ。とっくに認めていたのか」
「当ったり前だ。俺の弟子だぞ」
子供たちが里を出た原因である少年の師はフンと鼻を鳴らした。マモンはあえて反論してみる。
「教官役ならよくやっているだろう?あの中にも立派な者はいると思うが」
「そいつらは単なる教え子であって弟子じゃねえ。立派じゃねえなんてこたぁ言わねえがあくまで戦い方を教えてやっただけだ」
「剣士はこれだからわからん」
独特な感性で反論を切って捨てた八重蔵にマモンが苦笑をこぼした。
「お前はちっとも堪えてねえな。鉄面皮通り心も冷たかったか」
八重蔵は胡乱な視線を向けている。
「面倒な絡み方はよせ。マルクはあれでしっかりしているし、最近は娘が自分も鍛えろと煩くてな」
「しっかり兄貴に影響されたみてえじゃねえか」
「フィーナが一番影響されたのはお前のとこの娘だぞ。それにエリオットとアニカもいるからな。マルクに教えていた頃よりむしろ忙しくなるだろう」
「ふぅん、人虎のとこの双子か。なぁそれってよ、ただの第二陣じゃねえの?」
アドルフィーナが影響を受けたのは凛華だという指摘を華麗に無視した八重蔵がそんなことを言う。
第二陣とは、当然ながら里を出ていく若者の次弾という意味合いだ。否定できるだけの材料を持ち合わせていないマモンは肩を竦めるに留めた。
―――――さすがにアドルフィーナまで出ていけば寂しくなるだろう。きっと自分以上に妻が「寂しい」と煩いだろうな。
と心中でマモンは考える。唐突にラファルが八重蔵に詰め寄った。
「待て。アルが凛華と一緒になるのならエーラはどこに嫁に行くんだっ?ええっ?」
「酔っ払いはもう寝てろ面倒くさい。なるようになるだろ」
急に変なことを言い出したラファルをぺしんと放り出した八重蔵はグイっと吞む。そこでふと思い出したマモンが、
「そういえば、紅椿はどうなんだ?」
と問うた。凛華の兄、紅椿も優秀な若手だ。同年代の紫苑という鬼人族の少女と仲が良かったはず。
マモンの問いに八重蔵はさあ?とでもいうように肩を竦めた。娘ほど気になっていないらしい。
「知らん。カミさんは心配いらんっつってたぞ。紫苑が捕まえてるから問題ねえとかなんとか」
なんとも投げやりな言葉だ。水葵が「大丈夫」と言ってるのなら問題ないのだろう。しかし――――。
「イスルギ家の男子は尻に敷かれるんだな、お前も含めて」
「やかましい」
マモンの言葉に八重蔵が唸る。自覚はあるだけに否定はしづらい。
「アルクスが師のダメさを学んでいないと願うばかりだな」
「尚の事やかましいってんだよ」
噛みつくように八重蔵はツッコミを放つのだった。
***
時刻はすでに夕方。故人1人に阿呆親父3人の酒宴はまだ続いていた。
酒を樽で持って来ていたのもあるが、やはり寂しさが強かったらしい。
しんみりしたかと思えば愉快な笑い声をあげ、しょうもないことを宣い合う。
泥酔しているくせに寝るでもなくべらべらと饒舌に口を―――いや身体も動かして騒いでいた。
とても墓地とは思えない賑わいを見せるその敷地へ足を引きずった鉱人族が歩いてくる。
キース・ペルメルだ。葉巻を咥えて歩いてきたせいで軽く乱れた息を整えた。
ユリウスに報告に来たが先客がいるらしい。しかも相当出来上がっている。
「って誰かと思えばてめえらかよ・・・・何してんだってか何時からやってたんだ?」
「おっ!キースじゃねえか!」
「お前も来い」
「うむ、まぁ座れ。そして呑め」
「酒臭え・・・・鉱人の俺がそう思うなんざどんだけ呑んでたんだこの阿呆どもは」
鼻を摘まむキースは『まずったな』と心中で呟いた。
なんとなく手隙になって来てみたが、日取りを間違えたようだ。そこに赤ら顔の八重蔵が胴間声で呼びかける。
「報告してたんだよ、ユリウスにな!」
そっちは別人の墓だ。そして指を指すんじゃない。
とキースは言いかけて途中でやめた。
今言ったところでおそらく意味をまともに取れないだろう。
「そうだ。思い出話に四方山話だ」
つまりただの雑談というか酒盛りじゃないか。
この人狼も冷静なようで顔は真っ赤だ。
たぶん、いや確実にダメだろう。
「はーはっはっはっは!マモンはうまいこと言うなぁ!」
笑い上戸なのか、ラファルは気でも触れたかのように快活な笑い声をあげた。
間違いなくこいつが一番だめだ。記憶もロクに残っていないだろう。
「何も上手くねえよ、酔っ払い共が。ほれさっさと帰れ、水がぶ飲みして風呂でも入って帰れよ。女房たちに張り倒されるぞ」
キースは呆れたような顔で忠告する。しかし真っ当なその言葉を聞くほど酔っ払い共の聞き分けは良くなかった。
☆★☆
ちなみに彼らの女房たち―――というか母たちは現在トリシャの家でヴィオレッタも含めて茶会を開いていたりする。
息子がいなくなったことで家が妙に広く感じてしまったトリシャが寂しいと家々を訪ねたのだ。なおこれも割と早い時間でのことであった。
具体的には4人が出発して2時間後くらいである。
男の子のいる家庭はどうやら似たようなものらしく、マチルダはトリシャの誘いに即答で行くと返した。
なんだかんだ言って構っていた息子がいないのは堪えていたようだ。
ヴィオレッタも息子のように思っていた弟子と騒がしくも愛らしい生徒たちが急にいなくなって似たような気持ちなのは同じだったため快く了承した。
シルファリスと水葵はそんな彼女らを見て、しょうがないなぁというように参加したのだった。今も困ったような表情をしている。
2人が案外淡泊なのか、1日も経たずに寂しがる2人が我慢弱いのか。きっとどちらもだろう。
ただ一つ言えるのは、森の中の墓地で酒盛りをしている馬鹿3人に比べれば理性の格は数段上だということである。
☆★☆
墓地の馬鹿3名はとうとう暴挙に出た。
「座れよキース」
「うむ、俺たちは対等だ。見下ろすな、ちゃんと目を合わせろ」
「この足のヤツになんてこと言うんだてめえ」
「足なら大丈夫だ!そーれ!はーっはっは!」
しゅるると巻き付いた蔦がキースの足を絡めとり、八重蔵が椅子替わりに土を盛り上げた。
バランスを崩して座る鉱人は痛みがなかったことの方が癪に障りつつさすがに叫び声に近い声を上げる。
「てめえら!」
「そら呑め」
怒りを込めて一発張り飛ばしてやるとキースが動くより、馬鹿な人狼の方が早かった。
なみなみと注がれた酒杯をキースの鼻先にズズイッと差し出してきたのだ。
キースはこれでも鉱人だ。貰った酒は呑むのが礼儀。なお鉱人の中だけに存在する矜持である。
「うめえ・・・じゃねえよ。俺からかっぱらった酒じゃねえか、水みたいに呑みやがって」
「上手いぞ」
「わかってらぁそんなこたぁ・・・・・はぁ、んで?どこまで報告したんだ?」
改めて聞いたキースだったが八重蔵はきょとんとした顔を向けてきた。むさい男がやっても可愛くない。
「おぁ?」
「何の話だ?」
―――――とうとうマモンもか。
「ユリウスに報告しに来たんだろうが!」
キースの一喝でパシンと膝を打つ八重蔵が酒杯を掲げて振り返る。
「おお!そうだった!おーいユリウス呑んでるかぁ?」
「ユリウスはこっちだろ!そっちは別人の墓だ馬鹿野郎!」
「あーはっはっはっは!そうだぞ八重蔵!そっちはうちの長老のだ!」
「くく、そうだぞ。そっちは俺のばあさまの墓だ」
「誰一人合ってねえんだよ!大体ラファル、お前の故郷の長老はまだ死んでねえって話だろうが!マモンもだ!てめえの婆様は故郷で大往生だったって話だったろ!?畜生この阿呆共めっ!」
キースの悲痛な叫びが墓地に木霊した。
どうやら相当な声量だったらしく武闘場で何か聞こえたという者がチラホラいたという話を後で聞くことになる。
***
日暮れ。さすがに夏とはいえ暗くなってきたと言うことで馬鹿一同は帰り支度をする運びとなった。
酒杯を片付け、軽くなった樽を千鳥足で担ぐ。
門を抜ける途中で八重蔵が「あ」と気づいた。
「おっと。ユリウスにあげといた酒杯片付け忘れちまった。待っててくんなー」
そう言ってふらふらとユリウスの墓前に舞い戻る。
「あったあったと―――」
八重蔵の動きが止まった。視線の先にはすっからかんになった酒杯。
夏場とはいえ短時間ですべてが揮発することなんてことはない。
ここの墓地は周囲が森である為そこまで暑くもないし、記憶では何度か注ぎ直している。
底を引っ繰り返してみたが穴は空いていない。
だとすれば―――・・・
「へっ・・・来てたんなら声かけろってんだ、バカヤロー」
八重蔵はやや酔いの醒めた顔で空を見上げながら呟く。
こういうことは稀にある。
精霊の悪戯か、もしくは・・・などと云われる小話だ。
そんなことを考えていた八重蔵の傍をさらりとした涼風が通り抜けていく。
火照った顔に心地よい爽やかな風だ。
しばし靡かれていた八重蔵だったが、やがて墓石にふっと笑いかけた。
「また来るぜ」
そう言い残して門の方へ戻っていく。
今は8月中旬、そして今日は前世の日本で言えば盆に当たる日だった。
取り留めもない話をしながら家路につく4人。帰宅した彼らは当然のように妻たちから叱られ、怒られ、酷い目に合うのであった。
この時期に墓前で騒ぎ立てたバチが当たったのか、それともあまりに酒臭かったからなのか・・・・きっと、そのどちらでもあったのだろう。
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