日輪の半龍人   作:倉田 創藍

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ここでは初投稿になります。読んで頂ければありがたい限りです。



また「小説家になろう。」と「カクヨム」にて同作を2~3日に1度連載投稿しております。


現在両サイトにて投稿されているものとこちらに投稿するものは少々文体が違う場合があります。


こちらへは定期的にある程度纏めて更新していく予定です。


断章8  開発秘話:『気刃の術』

 後に様々な理由で大陸に名を馳せることになるアルクス・シルト・ルミナス。彼の使う魔術は非常に有用なものが多いが、特殊なものも多いことで有名だ。

 

 というのも既存の定型術式ですら自分好みに改造するのは当たり前、更には仲間たち個々人に合わせた専用改造(カスタマイズ)も行い、果ては「ないなら創っちまえ」と一から鍵語を並べ出し新魔術をポンポン創ることもしばしばあるのだ。

 

 結局のところ何を主張したいのかと言われれば、アルクス・シルト・ルミナスという男はとにかく既存の術式をそのまま用いることが少ないということである。

 

 完成度の高いとされている術式の『念動術』を弄り回し、それを基礎として派生魔術まで創っているのだから筋金入りだ。

 

 

 そんな彼が扱う魔術には魔術を扱う者であれば知らぬ者がいないと言われるほどの術や構成概念が幾つもある。

 

 しかし、最も著名と言える魔術は間違いなく『気刃の術』と言えるだろう。

 

 なぜなら、『気刃の術』を必要としているのは()()()()()()()()()()()()()()行使する必要があり、術を使う体力と魔力のある者―――つまり魔族を含めた武芸者や一部の軍人、騎士たちだからだ。

 

 当然その数は魔導師より多い。

 

 魔術への造詣自体は一般人より深くとも術式を創り出せるか?

 

 術理をしっかりと理解しているか?

 

 と問わればNOと答えざるを得ない彼らにとって『気刃の術』とはここぞという時に使う切り札や必殺技のようなものなのだ。

 

 

 本人が後に『焔気刃(えんきじん)』ないしは『蒼焔気刃』と呼称し、学院時代は『蒼炎気刃(そうえんきじん)』と呼んでいた魔術。

 

 その術理は、刀身に闘気を流し込むことで武器そのものを頑健にし、更に刀身から溢れた闘気を焔へと具象化するというものだ。

 

 闘気から変容した焔は属性魔力を凌駕する超高密度・純度、そして超高熱を発して刀身にまとわりつく。

 

 現在その身幅や厚さを本人は調節するようになっているし、アルの『焔気刃』はかなり有名になってしまったが意外とその術式が開発されるに至った経緯は知られていない。

 

 

 ***

 

 

 時はアルクスが12歳の頃―――龍気の暴走が頻発していた頃にまで遡る。まだ『八針封刻紋(はっしんふうこくもん)』も施していないため、頭髪は銀色で虹彩は真紅だ。

 

 里を出ると宣言してから年越しを無事に迎えたが、アルの心はちっとも晴れやかな気分ではなかった。

 

「落ち着いたか?」

 

 声を掛けてきた八重蔵が刀を降ろして、歩み寄ってくる。出郷を宣言してから専ら八重蔵としか訓練していない。暴走する危険性があるせいだ。

 

 凛華と稽古しながらそうなるわけにもいかない。アルと八重蔵の意見が正しく一致した結果である。

 

「・・・はい」

 

 アルはふぅっと息を吐いた。

 

 ―――――これで何度目だろうか?

 

 龍気を使えば即座におかしくなり、使う気がなくても勝手に出てきておかしくなる。

 

「あー・・・とりあえずソイツをどうにかするのが先決みてえだな。まあそんなに落ち込むな、今日は一旦やめにしよう。身体の感覚も少しずつ戻ってきてるみたいだし焦るこたあねえよ」

 

「はい」

 

 師へ素直に頷くアル。

 

「よし、じゃあ解散。戻るか」

 

「もう少し、落ち着いてから戻ります」

 

「そか、わかった。一人で稽古したりするなよ?」

 

「はい」

 

「ん、じゃ、先戻るわ」

 

 そう言って八重蔵は鍛錬場から去っていった。

 

 

 アルは師の背を見送り、鍛錬場の端まで移動する。しばし黙りこくっていたが突然ワアッと気炎を上げた。

 

「こんなんやってられるかっ!あったま来たぞ・・・!」

 

 そのままドスッと座り込む。

 

 ―――――いい加減我慢の限界だ。

 

 ”魔法”が使えなくても軽く落ち込む程度で済んだが、さすがに他人を意図せず傷つける可能性があるうえに制御が効かず、おまけに予期すら出来ないというのは相当なストレスになっていた。

 

「こうなったら魔術で何とかしてやる」

 

 呟いたアルは即座に右眼に魔力を込める。その虹彩が押し広がり、流星群が瞳孔へと殺到していく。『釈葉(しゃくよう)の魔眼』を発動させたのだ。

 

「どうしようか」

 

 そう言いながらアルは中空へと指を走らせた。少し稽古しただけでこれだ。

 

 毎度毎度つき合って貰ってるのに進展もなければ、暴走するまでの時間が短くなってすらいる。

 

 刃引きした刀を使って危機感を薄れさせても効果は一切ない。

 

 正直申し訳なさの方が勝ってきて気が滅入っていた。

 

 己への怒りで煮え滾った頭をフル回転させる。

 

「・・・・暴走してもすぐ発動できるような構成がいる。生まれた龍気をどうにか消さなきゃ・・・・単純に消すなら何かの魔術に使うしかない。けど闘気は魔力の燃焼結果だから直接は無理。

 

 放出が一番簡単だろうけど・・・俺じゃ自分で止められないし効果は薄いか。どうしよう?」

 

 ぶつくさ呟きながらアルは頭を捻り、鍵語を空へ描いていく。

 

 

 いつの間にか夕暮れになっているが輝きを放つ魔眼は鍛錬場の端に途切れることなく浮いたままだった。アルは『釈葉の魔眼』だけを開き一心不乱に鍵語を書き連ねていく。

 

 必要な要素は即時発動が可能だという点、そして生成され続ける龍気を消すという点だ。

 

 まだ今は1月。夕暮れから夜になるまでは相応に早い。既に暗くなってしまっているが、アルはその暗さも寒さも感じないかのように指を動かし続けている。

 

「アル?」

 

 声が降ってきた。アルが右眼を向けるとそこにはシルフィエーラがいた。いやエーラだけではない。凛華とマルクガルムもいた。里内にいないアルを探しに来たようだ。

 

「もう遅いわよ?」

 

 早く帰ろうと言う凛華にアルは渋い顔を向ける。この数時間、時を忘れひたすら試行錯誤していたがまだ上手く形になっていなかったのだ。

 

「・・・うん」

 

「何してたんだ?」

 

 マルクが不思議そうに問う。

 

「頭に来たから魔術創ってた」

 

「頭に来たって何にだよ?」

 

「勝手に龍気が出てきて暴走しかけることにだよ」

 

「あー・・・・・それでそんな躍起になってやってたのか」

 

「そんなとこ」

 

 アルの返事は端的だ。指もいまだに動き続けている。

 

「あと少しはつき合ったげるわ。もうちょっとしたら引き摺ってでも里に戻すからね」

 

「うん」

 

「寒くなかったの?」

 

「寒いの?」

 

「今日は里の中にいたからちょっと薄着なんだー」

 

「あたしもよ」

 

 チラリと凛華とエーラを見たアルは左手で地面をさらうように『念動術』を発動させた。適当に落ちている枝をひょいひょいと一纏めにして、ボウッと火を点ける。

 

 待つ気になったらしい3人に寒い思いをさせるのは忍びないと思ったのだろう。

 

「ありがとー」

 

「助かるわ」

 

「ま、最悪俺は『人狼化』すればいいんだけどな」

 

「ムサいからやめなさいよ」

 

「おま・・・ムサいは悪口だぞ」

 

 そんな具合の会話を聞き流しながら指を動かしていたアルだったが、ピタっと動きを止める。

 

「どしたの?」

 

 覗き込んでくるエーラの声もあまり届いた様子がない。アルの視線の先には焚火が置いてある。

 

 パチパチと音を鳴らしながら炎と煙が上がっていた。エーラは鬼娘と人狼へ肩を竦めて見せる。

 

 かなり本気らしいと受け取ったのだ。

 

「・・・炎。龍気を炎に変換・・・は、無理なはず。いや、でも魔力から”属性変化”する構図を見本にすれば・・・できる?」

 

 そう言ってまた何かを描き出すアル。幼馴染の姿を3人は言葉少なに眺めている。

 

 こうなったらもう行くとこまで行かないと戻ってこない。以前アルが『風切刃』を『鎌鼬』に改造していた時も、切実さと魔眼こそ今ほどではなかったものの鍵語表と睨めっこしながら上の空だった記憶があった。

 

 

 それから少ししてアルが立ち上がる。

 

「・・・基礎術式はこれでいいはず。上手くいったら後はその先を創ろう」

 

 ここが肝心だ。術式の(コア)

 

「できたのか?」

 

 マルクはアルが創り上げたらしいこじんまりとしながらも複雑に入り組んだ術式を見て問うた。

 

「うん。ちょっとだけ龍気を使うから離れてて。やばそうだったら殴って気絶させてくれたらいいから」

 

 アルはマルクへ一方的に物騒な注文を頼んですうっと息を吸う。刃引きされた刀を引き抜き、拳を巡っている程度の魔力を龍気へ変換すると同時に体外―――刀の方へと流していく。

 

「上手くいっててくれ」

 

 そしてすぐに基礎術式と呼んでいた術式をサッと描いた。刀身を撫でるように描かれた術式が起動する。

 

 ゴオッ―――――!

 

 濃い白色を帯びた炎が鍔元から噴き出てくる。龍焔だ。

 

 それは未来から見ればアルが初期の方に使っていた『蒼炎気刃』と呼ぶには程遠い不定形の炎であったが、とにかく成功であった。

 

 魔力の”属性変化”を参考にした闘気の”具象化”。

 

 思わずアルはガッツポーズを取る。

 

「よしっ!これで次に行ける」

 

「今のって・・・」

 

「魔力じゃなかったわね」

 

「龍気が消えた。じゃねえ・・・使()()()のか」

 

 じっと見ていた3人は驚いて目を瞠った。闘気はいわば魔力を燃焼させた()()だ。

 

 そこから先はない。それが常識だった。そんなことをしなくても充分に強いのだ。

 

 しかしアルは今、何をした?

 

 驚愕と疑問を浮かべる3人に説明することもなくアルは次の作業へと移っていた。

 

「ここまで出来たなら後は形を整えて・・・・」

 

 先程の基礎を整え、追加の術式を組み上げては消し、また組み上げ直していく。

 

 3人もアルを呼びに来たことを忘れ、見守ることにした。

 

 何やらわくわくするような魔術になる気がしてならなかったのだ。

 

 

 それから1時間後。

 

 『気刃の術』と呼ばれる魔術の原型が組み上がった。

 

 今現在は使われていないが、ワザと闘気を馬鹿食いさせたり、体外へ吸い出す効果を付与した術式もくっついていたりしている。

 

 術式を起動して見せてもらった3人が後で自分用に用意したり、してもらったりするくらいには内実が伴った魅力的な魔術であった。

 

 これで少なくとも対処療法的ではあるが暴走を抑える目途が立つことになる。

 

 興奮している3人と達成感で満足していたアルたちはしっかり帰りが遅くなり、新年早々長めのお叱りを受けることとなるのであった。

 

 

 既存概念を打ち壊した新魔術だ。後日弟子の持ってきた術を見たヴィオレッタは問題点―――燃費の悪さやアル限定で言えば武器が必要であるなどの指摘はしたが、ほとんど手放しで誉めまくったのだった。

 

 こうしてアルクスといえばと連想される独自(オリジナル)魔術は荒削りではありながらも完成した。

 

 その後調整を加えること多数、特に『八針封刻紋』を施してからは大改修を行っている。

 

 

 ***

 

 

 これがアルクスが『気刃の術』を開発した経緯だ。

 

 今現在、この術式への評価は「単位当たりの火力を大幅に上昇させる有用なものではあるが、実力者が使わなければマトモに扱えずに魔力枯渇を起こすか怪我をする」上質な魔術としてアルクス共々有名である。

 

 きちんと扱えるようになって初めて一人前の戦士とまで言われるようになったこの術が、実はアルクスがブチ切れた挙句に1日で雛型を創り上げていたというのは案外知られていない。




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