また「小説家になろう。」と「カクヨム」にて同作を2~3日に1度連載投稿しております。
現在両サイトにて投稿されているものとこちらに投稿するものは少々文体が違う場合があります。
こちらへは定期的にある程度纏めて更新していく予定です。
1話 万年樹と『転移陣』 (虹耀暦1286年8月:アルクス14歳)
ラービュラント大森林はこの大陸でも有数の大樹海だ。人間からすればほとんど未開の地と言っても過言ではない。だが隠れ里に住む魔族たちからすれば、それこそが安心できる要素であり、ワザと樹海に道を整備するような真似はせず、またする気もない。ひと月もあれば共和国と帝国の街を繋ぐ旧街道には出られるからだ。
しかしながら隠れ里から旧街道まではおよそ1,500
江戸時代の停泊所から次の停泊所まで大体30
では一体どうして開拓も整備もされていない原生林で構成される樹海の中1,500
それはひとえにヴィオレッタの技術的尽力と森人たちの献身的な自助努力のお陰に他ならない。
里にないものを仕入れるために人間の住んでいる地域へ赴くグループの中には必ず一人は森人がいて、その森人が木々に
そして一定距離歩いた先には長年生きてきた万年樹と呼ばれる大きな大樹が聳え、その
この『転移陣』は以前アルクスが指摘したこの惑星は丸か丸に近い形状―――楕円ではないか?という予測をヴィオレッタが独自に証明することで練り直された新しい術式だ。
以前はこの木からその木へ、その木からあの木へ、という風に細かく敷いていたのだが、それだと見つかって欲しくない者に利用されると追跡が困難になるという理由で廃止された。
現在敷かれている『転移陣』はこの1,500
これが正しく最短で隠れ里から旧街道へ抜ける
アルクス、凛華、シルフィエーラ、マルクガルムの4人は樹海の中を歩いていた。無論エーラの『妖精の目』で目印を探しながらの移動中だ。
一日30
今日で既に10日目。午後に差し掛かったところだ。そろそろ保存食として持ってきていた黒蒸麦餅《黒パン》も尽きてきた。
エーラのおかげで道中の食物繊維やビタミン不足は避けられているし、都度都度狩りも行っている為タンパク質不足も感じていない。
強いて不満を挙げるならアルとマルクが食事当番になったときの食事が焼くか煮るかの二択なせいで味気ないものであるということくらいだろうか。
道中でも特に何も起きていないし―――いや凛華とエーラからそのことで突き上げは食らった。そちらについては対応済みだ。
「次は~・・・・うん、あっちだね」
「りょーかい」
「凛華、大丈夫?」
「ふぅ、ふぅ、大丈夫よ。尾重剣の剣帯、昔のままだったらヤバかったわ」
気遣うアルに凛華は気丈な返事を寄越す。昔使っていた剣帯はもう少し緩く作ってあったので、こんなに歩くとガタガタ揺れ回って歩くどころではなかっただろう。
ちなみにアルと凛華のそれぞれの刀剣について、それぞれの号は自分たちや周りが決めるものだと言われている。何か良い号がつくまでは便宜上として龍牙刀、刃尾刀、尾重剣、直剣と鍛冶師たちの呼ぶままに呼称することにした。
アルが腰に帯刀しているのに対し、凛華の剣帯は背中に吊るしている角度を調節できるようにしたものだ。そのおかげで歩きやすさが段違いなのだろう。
アルはほんの少しの間、凛華の方を沈黙して見ていたがやがて口を開く。
「・・・・ねえ凛華、背嚢の方貸して」
「持ってくれるの?ありがたいけど迷惑はかけらんないわ」
「ううん、大丈夫。ちょっとやってみようと思ったことがあってさ。エーラとマルクも背嚢貸して」
「ん?いいけどよ」
「何かするの?」
「旅に出てる以上背嚢だの手荷物だの持って移動するのが当たり前なのはわかってるけどさ、荷物が邪魔ですぐに動けなくなるくらいならどうにか楽をしようと思ってさ」
「うん?楽ってどういうこと?」
アルは首を傾げてくる凛華の尾重剣をずらして背嚢を持ってやった。エーラとマルクがほいと手渡してくるのも貸してもらい、おもむろに『
「ボクが植物たちに頼んでまとめてもらおうか?」
「これくらいならたぶん大丈夫だと思う。師匠がやってた術、こないだちゃんと視たしね」
そう言ってアルは指を閃かせた。素早い動作と共に発動された『念動術』が3つの背嚢にかかり、ふわふわと浮き上がる。
そこまでならいつぞや椅子に座っている彼らを持ち上げたときと変わらない。このまま引っ張って歩くのは神経も体力も無駄に消費するだけだろう。しかし、
「こうして・・・ここを、ひょいっと!」
アルは左手の各指にそれぞれ起動させていた『念動術』式の根元をもう片方の指先でくるんと巻き、掌側にきゅうっと絞る。
すると巻きついた『念動術』は元々そういう術式だったかのように別の術式へと変化した。
うまくいったことを確認したアルは自分の背嚢もポイっと空へ投げ、右手で『念動術』をかける。そしてすぐさま左手へ叩きつけるように術式を纏めた。
この魔術は『念動術・括束』と言う。ヴィオレッタが里建造の折、資材運びの面倒臭さに嫌気が差して改造した術式だ。
師の術式を再現できたアルの左手は親指以外にリング状の術式が嵌まっていた。アルは試すようにクイっと小指を動かしてみる。最後に追加したアルの背嚢
「うまくいった。今度から武器以外の荷物は預けていいよ」
「なあそれって俺でも出来る?」
「ほんと簡単に術式組むわね」
「できるよ、『念動術』自体簡単だし。
「ねね、ボクもそれ覚えたら矢を浮かせて動けないかな?戦闘中、矢筒から引き抜かずにすぐ傍で浮かせとくの」
「できたら便利かも?あ、でもエーラなら植物と風の精霊に頼んでも同じことできそうじゃない?」
「あっ、それもそうかぁ。うーん、もしかして
「「「今更?」」」
そんな風に4人が話していると上空からカアカアと鳴き声が降ってきた。
「今のはあの子だね」
「だな」
耳の良いエーラとマルクが頷く。そこへ頭上から黒い鴉が風を起こしながらバサバサと降り立ってきた。胸元に広がる濃紫の羽毛が艶やかな三ツ足鴉。
「お疲れさま翡翠。どうだった?」
「カアー」
凛華の労いと問いに素直そうな鳴き声を返すこの
黒濡れ羽と紫の胸元の羽色から名を決めた。もうすでにしっかり4人から受け入れられ、中でも凛華とエーラが非常に可愛がっている。
なんと言っても夜天は凛華が、翡翠はエーラが考えたのだ。アルの肩にいないときは大抵この2人に遊んでもらっている。ちなみにマルクとも関係は良好だ。
使い魔ののんびりとした反応から周辺に厄介そうな魔獣がいないことを察したアルたち4人はそのまま行軍を続行した。
昼食と休憩は済んでいるし、ヴィオレッタの話では隠れ里からおよそ200
最初の数日はどうにもすわりの悪い歩き方や4人しかいないという状況で踏破距離も短かったものの、ここ2、3日はだいぶ長く歩けるようになってきた。
アルも頭目ということで初日の方は気を張り過ぎていたところもあったりしたが、幼馴染たちのフォローがあったお陰で雰囲気も掴めてきている。
少なくとも戦闘中に細かい指示を出すのはやめた。これが軍隊なら統率が執れていないと判断されるだろうが、この4人は気心の知れた仲間だ。
全員の持ち味を生かすなら最初に方針や目的を決めることこそが重要だと気付かされたのである。
あとはいつも通り、互いにフォローを入れつつ、細かな報告をし合いながら動き回った方が圧倒的に上手くいった。
4人の目標はひと月でこのラービュラント大森林を抜けること。この調子ならそこまで大きな問題はなさそうだ。
ふぅ、と息をついたアルはそんなことをぼんやり考えつつも足だけはしっかり動かす。すると、先を歩いていた凛華が振り向いた。
「ねえアル?」
「うん?」
「マルクの『
「そうだよ、俺たちが使っても微妙な術だね」
「あたし、あんたが作った最初の『気刃の術』しか覚えてないのよ」
凛華はそう言いながらじいっと見てくる。アルはなんとなく察した。これは凛華なりのおねだりだ。
「あー・・・何が言いたいか、わかった。凛華用に最適化しろって言ってるんでしょ?」
「そう。一応あたしも挑戦はしてみたのよ?」
「魔眼もなしにそんなことできたら天才だよ」
「じゃあやってくれる?」
「いいよ、最初に創ったやつは無駄も多かったしね」
アルはそう快諾した。魔力効率の悪い魔術をずっと使わせるのは何より命に係わる。早々に考えなきゃなと『釈葉の魔眼』を開いたところに、元気よくエーラが割り込んできた。
「あ、いいな!ボクのもやって!今まで『闘気刃』を無理矢理飛ばしてたんだよね」
「・・・俺との仕合でぶっ放してたあの矢、術まで使ってたの?」
てっきり闘気を飛ばしているだけで、固定化までさせているとは思わなかったアル。
「ちゃんと狙ったよ?腕とか」
「マルクぐらいじゃなきゃ防げないよアレ」
「あたしの重剣をふっ飛ばせた理由がわかったわ」
「言っとくけど防げるだけだからな。胃の中のもの全部ひっくり返すところだった」
ジトーッと見てくる3人に分が悪いと感じたのか、エーラは口笛を吹いて誤魔化す。無駄にうまいのが余計に腹立たしい。
そっぽを向いていたエーラは「あっ!」と気付いて3人の後方を指さした。
「見て見てあれ!あれが万年樹だよ!・・・・ねぇほんとだってば!」
エーラが話を逸らしていると思った3人は不承不承、示された方角を見て目を真ん丸にする。
見えたのは巨大すぎる大樹だ。ラービュラント大森林の木々は比較的背が高く、幹も太いものが多数あるのだが、その中でも一際大きい。いっそ異様だとすら言えた。
眩暈さえ覚えそうなほどの威容をしている。夏場なのもあって濃い緑葉が生い茂る枝は、まるで巨人が手を翳すかのように日影を作っていた。
―――――あれで下の木に日は当たるのだろうか?
そんな疑問が湧いてくるが、下の木々にも緑葉が生い茂っているあたり上手く光合成は出来ているらしい。
「すっご・・・!」
「ねー!ボクも初めて見たよ!」
「でかすぎて規模がよくわかんねえ」
「だね・・・ってかあれの洞に『転移陣』があるんだろ?俺登りきる自信ないんだけど」
「大丈夫ってお父さんが言ってたよ。万年樹にお願いするんだってさ」
「森人サマサマだな」
「カアー!」
「さすがの翡翠でも驚いたみたいだね」
最初の区切り地点を見つけた4人と1羽は足取りも軽く巨木の元へ歩いて行った。
***
アル、凛華、マルクの3人は近付くにつれて万年樹の威容さに圧倒されていき、目前に至った頃にはその神秘的な雰囲気に呑まれていた。ちなみにエーラはでっかいなあ!くらいにしか捉えていない。森人にとって木とは人生の先達であると共に友人でもあるからだ。
「こりゃ・・・すげえ。一周りするだけでも結構かかるぞ」
マルクがポツリと溢す。それもその筈、万年樹は幹回りだけでおよそ320
「こんなのがもう三本もあるのか・・・・」
最後の『転移陣』だけは万年樹ではなく千年樹にあると聞いている。何でも万年樹だと目立ち過ぎるとかなんとか。どちらにせよ万年樹がこれだけの威容さを誇るのなら理解できる話だった。
アルは旅立って初めて、神経を張り詰めていたことすら忘れてぽっかーんとした表情を浮かべる。凛華も同じような気分だ。自分たちのちっぽけさがどうのこうのとか、そんなしょぼい言い草で表現できる感情ではない。
その威容さに大して心を動かされなかったエーラは頻りにきょろきょろと首を巡らしていた。
「えーと、どこかな?・・・・・・あっ!あれだ!みんなこっちだよ!」
エーラは呆気に取られている3人を万年樹の根元に引っ張っていく。
「ここって言われても根っこしかないよ?」
いち早く我に返ったアルは問うた。アルの言う通り、4人の目の前にあるのは入り組んだ太い木の根だ。
「まぁまぁ、見てて」
エーラは自信たっぷりに根へ近づき、鮮緑に瞳を輝かせる。すると組まれていた太い根っこがズズズッと動き始めた。
「うおっ!」
次いで地が揺れる。3人が目を白黒させている内に根元にはぽっかりとした穴が空いていた。
「この中に『転移陣』があるのかしら?」
「そうじゃない?早く行こ!」
不思議な光景を受け入れたうえで好奇心を発揮させる凛華とわくわくした顔のエーラがそんな会話を交わす。
アルはとりあえずとばかりに光球をスッと浮かべ、先導するように暗い穴へ入ってみた。マルクは何とも言えない表情を浮かべてその後に続く。
「それらしきもんは、ねえみてえだぞ?『転移陣』は万年樹の洞にあるんだよな?」
天井はそこまで高くなかった。精々3m程度だろう。万年樹の中という意味ではどう考えても狭い。アルたちのいる空間も広さは7畳ほどしかない。ワンルームマンション一室程度の広さだ。
「そう、らしいね。魔眼で視ても術式はないよ」
マルクの確認にアルも肯定を返しつつ、首を傾げた。肩に止まっている夜天翡翠も似たように首をくりくり動かしている。そこへ凛華とエーラが入ってきた。
「二人とも何かあった?――――あっ!」
全員がその空間に入ると同時に入り口が閉まってしまった。根が組み直されてしまったようだ。真っ暗な中でアルの光球だけが辺りを照らしている。
「暗いわね」
凛華がそう言うと、呼応するように周囲が淡い緑色に光り出した。
「これ、花?いや、苔か?」
「どっちもみたいね」
「背嚢も一緒に入れてて良かった」
アルの光源が必要ないほどに淡く照らしだされた空間に4人と1羽は佇む。少々顔色は悪く見えるが、互いの表情もわかるほどだ。
「エーラ、これ合ってる?」
「合ってると思うよ。でもこっからどうしたらいいんだろ?」
エーラがもう一度『妖精の眼』を輝かせて「うーん」と唸った。
その途端、地面というのもおかしな表現だがそこからにゅっと何かが生えてくる。アケビのような細長い実だ。次いでパカリと割れるように開いた。
ただしその大きさは生易しいものではない。空間の3分の1は埋めるほどの大きさだった。割れた中身は綿のようなものでギッシリ埋まっている。
「座れってさ」
「これにか?食われたりしねえか?」
「精霊が教えてくれたから変なことにはならないよ、たぶん」
それならまぁと耳長娘に言われるがまま座ってみた。横並びにエーラ、アル、凛華、マルクの順だ。夜天翡翠はアルの肩に止まったまま大人しくしている。
どうやらこの巨大なあけびのようなものは椅子で合っているらしい。割れた殻の片方が背もたれのような役割をしていた。ソファのようで座り心地が良い。
4人がその感触を確かめていると、彼らの膝上を握り込めるほどの太さをした根がしゅるしゅると滑っていく。縄が渡されたような感じだ。根はそのまま地面へ降りて行きがっちりと地に刺さった。
エーラと凛華、マルクが疑問符を浮かべるなか、アルはタラリと汗を流す。
―――――これって、まさか。
「翡翠、俺の肩をちゃんと掴むんだ」
「カァ?」
「早く」
「カァ」
よくわからないけどわかったとばかりに夜天翡翠がアルの肩に三本足をぎゅうっと食い込ませた。アルも同じように根っこを掴む。
何やら一人だけ理解していそうな頭目に隣の凛華とエーラが問おうとした瞬間―――物凄いGが下向きにかかった。
「ぐっ、う!?おい移動してるぞ!」
マルクの悲鳴のような声に、
「掴まってろ!」
アルは舌を噛まないよう注意しながら叫び返す。
―――――やっぱりか!
「うわわっ!」
「きゃあっ!」
この空間自体が
5秒ほどだろうか、押さえつけられていた感覚が急にフッと消えた。
―――――上昇が止まった?
そう思ったアルが見たのはふわりと浮き上がったエーラと凛華だった。
「わわわっ!」
「ひゃあ!」
―――――今度は下降?・・・・じゃない!
急激に後ろ向きへかかったGを振り解きながらアルは慌てて龍鱗布に魔力を込める。初日は顔にへばりつかせるぐらいしかできなかったが、今なら多少動かすくらいは可能だ。まだ大きく伸縮させたり形を変えるのは不可能だが、今はそれで充分。
「掴まってろ!」
ぶわりと両側に広がった龍鱗布は的確に凛華とエーラを押さえ込みアルの元に引き寄せる。「んわっ」「んんっ」と声を漏らす2人を抱き寄せつつ、渡された根っこ―――安全バーのようなそれを掴ませてやった。
「ちょ、ちょっと!」
「恥ずかしい」
2人は顔を赤らめているが、アルにそんな余裕はない。肩に夜天翡翠、両脇に2人、おまけに左手で背嚢をまとめた『念動術・括束』。それらがずれ落ちたりしないよう脳はフル稼働中だ。
「ちゃんと掴んだ!?」
「うん!だけど―――」
「こっちも掴んだわ!その、だから腰から――」
2人が
吹き付ける暴風に今更気付き、夜天翡翠を右手で軽く押さえてやりながら龍鱗布で両脇の2人を己に沿わせるように抱き込む。
凛華もエーラも武器だけは手に持っているせいで根っこを片手で掴むしかなく、そのうえ体重が軽い。どこにどうかかるかわからないGと暴風を受けて吹き飛びましたじゃ洒落にもならない。
マルクは両手で枝をしっかり掴んでいるし何よりこの中では一番重い。最悪人狼になってしまえば尚更問題ないと早々に見切りをつけていた。
そんなマルクは苦笑いを溢す。
―――――必死そうだな、アルのやつ。
その主な理由はさっきからふらついているあの背嚢の束だ。アルは左手をグッと握り込んで、背嚢4つをそれぞれの足元にどんどんどんどんと落としていく。
「術は解いてないけど足で挟んどいてくれ!」
「おうよ」
やはり制御で必死なようだ。無理もない。ころんと転がり落ちれば終わりである。ヴィオレッタに貰った試験料と当座の金や食糧に着替え、靴、里を出るときに持ってきた調味料類、その他何もかもが入っている。必死にもなろう。
マルクが大人しく足と座席の間に背嚢を挟み、凛華とエーラも妙な素直さで従っている。
「ふうっ」
アルはようやく一息ついた。左手に嵌っている環状の術式は起動しっぱなしだが外を見る余裕くらいならある。
この籠はどうやら物凄い勢いで万年樹の枝や幹を滑り上がっているらしい。螺旋を描くように回ったかと思えばカクンとほぼ直角に昇り、少々下降したかと思えばその勢いを利用して更に滑っていく。
万年樹と森人がいるからこそ出来る自然のジェットコースターのようなものだ。4人を乗せた駕籠は勢いを落とすこと無く昇っていった。
***
しばらくしてシュルルッという音が弱まり、やがて駕籠スウーッと停止した。動きが完全に停止したことを確認したアルは肩から力を抜いて、両隣の2人を龍鱗布から解放する。途中から流れる景色を楽しめはしたが、やはり神経が疲れた。
最低限の安全対策しかなく、おまけにレールの見えないジェットコースターだ。駕籠そのものが浮いたことすらある。身を委ねられるわけがない。
安全バー代わりの根っこがしゅるっと駕籠の底へ消える。
「みんな平気?」
「おう」
「う、うん」
「大丈夫、よ」
「なら良かった。とりあえず『転移陣』を探そう。ここで正解のはず」
―――――よっぽど疲れてるな。
マルクは冷静にアルの調子を確認した。女子2人の珍しい様子にまるで意識が向いていない。彼女ら2人が戻ってくるまであと少し時間がかかるだろう。
なんとなく自分の出番だなと考えたマルクは積極的に周りを確認して回る。先程の場所に較べればかなり広い。同じ洞だが見える景色がまったく違った。夕陽が直接見えている。
―――――久しぶりに見たな。
感慨深げにそんなことを考えているとマルクの人間態でも優秀な鼻が何かの匂いを捉えた。
「アル」
「ん」
「こっちな気がする」
「わかった」
言葉少なでも通じるのがこの2人の良い点だ。連れ立って行ってみれば、そこには枝でカーテンのように遮られている術式が敷いてあった。
「どうだ?」
「えーと・・・・ふむ。ん、えー・・・なるほど。それでこれが・・・・はいはい。うん、師匠に見せてもらったのと一緒だ。これが『転移陣』で間違いないと思う」
魔眼で確認をしたアルが振り向く。そこへ凛華とエーラがやってきた。マルクはいつも通りに戻った2人に軽く胸を撫で下ろした。
「見つかったの?」
「うん、合ってるはずだよ。ちゃんと印もあるし」
「どうやって起動するんだ?」
「陣の上に立って誰かが魔力を込めれば良いって師匠は言ってたよ。半端な乗り方したら危ないらしいから極力中央に集まって起動させよう」
「了解だ」
「わかった!」
「準備出来てるわ」
唐突にワクワクし始める3人にアルは疲れを感じつつ笑顔を返す。ワクワクしているのは自分とて変わらない。
何と言ったって転移なのだ。前世では空想科学やファンタジー世界にしかなかった代物。胸が躍らないわけがなかった。
全員で『転移陣』の中央に立つ。『念動術・括束』と変に干渉されても困るので、背嚢は一応それぞれで持っていた。夜天翡翠もきょろきょろしてはいるが大人しくしている。
「よし!じゃあ起動するぞ!」
「「「おー!!」」」
「カアー!」
次の瞬間、4人と1羽は転移の光に呑まれて新たな万年樹へと跳び立っていった。
評価や応援等頂くと非常にうれしいです!
感想も受け付けておりますので是非ともよろしくお願い致します。