日輪の半龍人   作:倉田 創藍

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ここでは初投稿になります。読んで頂ければありがたい限りです。



また「小説家になろう。」と「カクヨム」にて同作を2~3日に1度連載投稿しております。


現在両サイトにて投稿されているものとこちらに投稿するものは少々文体が違う場合があります。


こちらへは定期的にある程度纏めて更新していく予定です。


2話 鬼娘と耳長娘の油断 (虹耀暦1286年8月:アルクス14歳)

 アルクスは近代的な白っぽい部屋にいた。TVやPCが置いてある。

 

 ―――――ここは・・・ああ、いつもの場所か。

 

 そう思い視線を巡らせるも肝心の部屋の主がいなかった。

 

「おーい、長月?」

 

 呼んでみたところで、部屋のドアがガチャと開いて男が入ってくる。眠たげな黒髪の20代後半。前世の自分だ。

 

「お?よぉ兄弟」

 

「部屋の外行けたのか」

 

 てっきり部屋だけが再現されているものと思っていたアルは正直に驚く。

 

「俺もびっくりさ。なんか妙な感じがすんなと思ってドア開けてみたらマンションの廊下が続いてんの。思わず探検に出掛けちまったよ。つっても俺が住んでた階とエントランスくらいにしか行けなかったけどな」

 

 どうやら長月も初めて外に出られたらしい。

 

 ―――――どうして急に?

 

「切っ掛けって言ったら旅に出たくらいだけど」

 

 それくらいしかアルには思いつかなかった。

 

「んー、現実(リアル)で新しい場所に行ったからってこっちの世界まで広がることなんてあんのかね?意味はねえだろ」

 

 冷静な長月の反論。

 

「確かに」

 

 そしてアルもその通りだと思う。

 

「ま、考えたってしゃーないか。それにしたってとんでもねえな、お前ん世界はよ。なんだあのでっけえ木、こっちの屋久杉だってあそこまではねえぞ」

 

 千年以上生きているとされる屋久杉でも万年樹ほどの規模はない。

 

「魔力、があるからだろうとは思ってるよ」

 

 アルは私見を述べた。魔力がなければあれだけの大きさで生きていくことなど出来ないはずだ。屋久杉とて腐りにくい構造をしているが、万年樹はまた別のメカニズムが働いているとみていいだろう。

 

「魔力・・・魔力ねぇ。俺にはとんと理解できねえ力だよ。こっちの文明もどっかちぐはぐに感じちまうしな」

 

 長月には発展している部分とそうでない部分の落差が激しく見えるらしい。

 

「魔力ありきの世界だしね」

 

「だなぁ。こっちにゃ車もなけりゃバイクもねえ、電話もなけりゃあゲームもねえ。けどわけのわからん技術だのとんでもねえ生物だのがゴロゴロしてる。較べるなんざアホらしいくらい別の世界なんだなぁって再認識したぜ」

 

 趣深いとでもいうような顔をする長月に呆れた視線を向けるアル。

 

「今までだって散々”魔法”だの魔術だのあったろうに」

 

「だから、再認識なのさ。見慣れてきたと思ってたところにアレだぞ?俺は安全装置のないジェットコースターなんぞ死んでも乗りたくねえ、死んでるけど」

 

「それは誰だって嫌じゃない?」

 

 マトモなアルのツッコミに「そらそうか」と長月がしたり顔で頷く。

 

「あ、そういや万年樹コースターを見てて閃いたんだけどよ――――」

 

 アルと長月はその後ダラダラと取り留めもなく会話を続けていく。とはいえそれもいつものことであった。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 ふわっと漂ってくる食欲を誘う匂いでアルは目を覚ました。

 

「ふわぁぁ・・・」

 

 大欠伸をして、ここがどこであったか思い出す。万年樹―――と言っても昨日のアトラクションを体験した方ではない。『転移陣』が跳ばした方のもう1本。ヴィオレッタが対になるよう選んだ万年樹の洞の中だ。

 

 直径100m(メトロン)を超える万年樹の洞はそれ相応に広かった。というよりここで夜を明かすことを考慮に入れてあり、簡易ながら生活空間が築かれていたのだ。

 

 当然ながらすべて木製。きっと万年樹に手を貸してもらって森人たちが作り上げたのだろう。

 

 昨日ここに跳んだ後アルたちはここで休むことにした。生半可な高度ではないので、旅立ってすぐからはじめた交代制の見張りも必要なさそうだと判断したがゆえだ。

 

 ぼーっとしたままのアルは自分の寝ていた簡易寝台を見る。細長い何かの実。昨日座っていたあけびのような実とも違うが寝心地は良かった。わずか10日ばかりの間に張り詰めていた神経は解き解され、ここ数日で一番身体がしゃっきりしている。

 

 ふと隣の寝台を見てみるとそこで寝ていたはずのマルクガルムがいないことに気づいた。一応仕切りをつけられたので昨夜は男女別で眠っていたのだ。

 

 ―――――もう起きてるのか。

 

 アルが首を巡らせようとしたところで凛華が仕切りとは別の方からやってきた。

 

「あらアル、起きたの?おはよ。ぐっすり寝てたわね」

 

「うう~ん、くぁ~、おはよ。みんなもう起きてるの?寝坊した?」

 

「丁度朝餉ができたところよ」

 

 すっかり寝坊したらしい。アルはまだ覚醒しきっていない身体で気配を探ってみる。凛華以外によく知った2人の気配を感じるが、使い魔である三ツ足鴉の小さな気配は感じられない。

 

「あれ?翡翠は?」

 

「周りを楽しそうに飛んでるわよ。ここ高いもの、わくわくしたんじゃない?」

 

「そっか。あぁ~・・・・起きるかぁ」

 

「もう、しゃきっとしなさいな」

 

「あい」

 

「ほら寝ぐせ。ひどいわよ」

 

「んー」

 

 凛華が手櫛でぐいぐい寝癖を直してくるのをアルは抵抗も見せずされるがままだ。母トリシャも朝似たようなことをしていた気がする。

 

「終わった?顔洗ってくるよ」

 

「ん、そうなさい」

 

 アルは凛華へ後ろ手を振って洗面所へ入っていった。洗面所は簡易的にだがしっかり造られている。長期運用を前提としているらしいことは一目瞭然。技術力と実行力に恐れ入るばかりだ。

 

 ばしゃばしゃと顔を洗い、意識が冴えてくるのを感じながらアルが洞の中央に行くとシルフィエーラとマルクガルムがテキパキと動いていた。今日は彼らが食事当番だ。

 

「あっ、アル!おっはよー!」

 

「よう、起きたか。朝飯できてるぞ」

 

「おはよ」

 

 挨拶を返すアルにエーラがタタッと寄って来て、いたずらっぽく耳打ちする。

 

「マルクはちょろっと手伝っただけだけどね」

 

「まだ修行中だ。その内エーラと凛華を唸らせる飯を出してやるから期待しとけ」

 

 聞こえていたらしい。ふふんと根拠もなく胸を張るマルク。

 

「期待しとく」

 

 なぜかアルが答えた。

 

「そんときゃお前も一緒にやんだよ、阿呆」

 

「たぶん厳しいよ?二日目で文句言い出したんだから」

 

「あんたも自分で作ったくせに不満タラタラだったじゃない」

 

 雑談しながらアルはエーラとマルクの配膳を手伝い、凛華が万年樹にもらったらしい実の果汁に氷を浮かべている。こうして4人は朝から立派な食事にありつくのだった。

 

 

***

 

 

 朝食を食べ終わり、出発準備を整えたアルたち4人は微妙な顔をしている。というのも、「じゃあ万年樹から降りるか」とエーラが『妖精の目』を使うと、あれよあれよと言う間に昨日見た駕籠のような空間が目の前に出来上がったからだ。

 

「またこれ?」

 

 凛華の言葉は全員の気持ちを代弁している。アルの左肩に戻ってきた夜天翡翠《やてんひすい》が弱々しく「カァー・・・」と鳴いた。

 

「今回はあそこまで茶目っ気ないかもよ?」

 

「精霊がそう言ってる?」

 

「ううん、直接話してくれるわけじゃないし、楽しそうにしてる」

 

「楽しそうに・・・・今度は昨日の逆が起こるのか。もうちょっと食う量抑えとくんだった」

 

 げんなりした4人はそれでも乗るしかないんだよなと顔を見合わせて頷き合う。

 

 そのまま駕籠に近寄ると、昨日も見たあの実にゅっとが生えてきてパカリと割れた。

 

「完全に昨日の逆回しね」

 

 この洞は地表から500m(メトロン)ほど上空に存在している。真っ逆さまに落ちたら気圧の関係もあり体調が悪くならないようにとの万年樹からの配慮であったが4人は当然そんなこと知らない。

 

「うぅ、アル。また押さえといてね」

 

「うん。昨日よりは焦らないで済むはず」

 

「あたしもお願い。あの浮く感じ、落ち着かないのよ」

 

 アルはエーラが座る前に背嚢に『念動術・括束』をかけ、それぞれの足元に置く。凛華は最初からアルの右側にぴったり座っている。よっぽど落ち着かなかったらしい。アルが龍鱗布をゆらりと動かすとエーラも寄り添うようにアルの左へ座った。

 

 するとメリッという音を立てて駕籠が丸っこい形状が変わる。そして座席になっていた実の背もたれから4人の肩を伝って根っこがしゅるしゅると伸びてきた。昨日のそれよりも太い。かなりがっしりしている。アルの脳裏に前世のアトラクションが過ぎった。

 

「エーラ、ツタで荷物覆ってて、思いっきり」

 

「え?うん、わかった・・・?」

 

 疑問符を浮かべつつエーラがツタで足元の背嚢を固定する。ちなみに今回は武器も背嚢に縛り付けている。両手が使えた方が絶対に良いはずという判断だ。

 

「やっぱりこれフリーフォー・・・・・」

 

 アルが呟くと同時に丸っこい形の駕籠を支えていたツタや枝で覆われていた地面がひゅぼっと大きく穴が空いた。

 

「ひいっ!」

 

「や、やだ!」

 

 次の展開が読めたエーラと凛華が引きつった声を上げる。アルは早々に龍鱗布で2人を包んだ。

 

 支えをなくした駕籠はどうなるか――――――当然、重力に引かれて下に落ちる。

 

 ヒュウウウウ―――――――!

 

「ひっ、ひゃあああああっ!」

 

「きゃあああああああっ!」

 

「ぐっ・・・!」

 

「ぅぐっ・・・!」

 

 内臓の浮く感覚にヒヤリとした凛華とエーラはアルにぎゅうっとしがみついてきた。備えていたアルとアルの指示で次の展開が読めていたマルクは共に歯を食い縛って浮遊感をしのぐ。

 

 アルは重力に従って髪が浮き、服をはためかせながら凛華とエーラを龍鱗布で押さえつつ、

 

「翡翠!無理そうなら外が見えたら空に出ろ!ゆっくり降りてきていい!」 

 

左肩の夜天翡翠へ指示を出した。落下音に消されないよう大声になってしまうのは仕方ない。

 

「カアッ!」

 

 短く了解の意を示す夜天翡翠。マルクと視線が合った。

 

 ―――――この勢いで落ち続けるのはマズくねえか?

 

 視線の意味を取ったアルは思考を巡らす。今も真っ暗な中を真っ逆さまに落ちている。されど、万年樹だ。森人としっかり意思疎通をとっているはず。

 

 ―――――それなら命の危険はない、はず。

 

 そこまでアルが考えたときだった。急激に押さえつけてくるG。次いでボォン!という音と何かがクッションになって跳ねた感覚。

 

 そして急に視界が開けた。眩しさに思わずアルは目を細める。

 

 ―――――外だ。

 

 アルの肩をぐっと蹴るように夜天翡翠が飛び出そうとして――――止めた。

 

「翡翠?」

 

 仲間の三ツ足鴉の見ているものに釣られるようにアルは目を向け、呆然とする。

 

 巨木の幹に纏わりつくような緩い下り坂が見えた。だが、そんなことはどうでもいい。

 

 開けた視界に映ったのは抜けるような空と上から見えるラービュラント大森林の樹木たちだった。

 

 この駕籠はどうやら螺旋状の滑り台を降っているらしい。先程の浮遊感もすっかりなく、流れてくる風も上空ゆえに強いが昨日の暴風とは全く違う。

 

「どうもこっちは当たりだったらしいな」

 

 マルクは既に眼下の大森林と朝日の美しさに魅入られている。こんな高さから景色を見たことなどアルにはない。いや、一度ヴィオレッタに上空へ『転移術』で連れ去られるという珍事はあったがあれはノーカウントだろう。恐ろしさにそんな余裕はなかった。

 

 呆けるように景色を眺めていたアルだったが、両脇にしがみついている小動物のような2人のことを思い出して名を呼ぶ。これを見ないのは余りにも損だ。

 

「凛華!エーラ!もう大丈夫だよ!外見て!外!すごいよ!」

 

「んぅ、え、あ・・・もう落ちてない?・・・・・わぁ、綺麗」

 

「へ、え・・・?んっ、ホントだ――――わはぁっ!すごぉい!」

 

 凛華とエーラが瞳を輝かせる。何をどう繕っても絶景としか言えない景色が瞬時に2人の心を奪っていた。

 

 首をきょろきょろしながら奥を見てみたり、流れていく景色を追う。アルが緩めてやった龍鱗布から手こそ離さないが無言で景色を堪能している。

 

 やがてだんだんと高度が下がっていき、開けていた視界が木々に閉ざされ、最終的に減速して、駕籠は根元に辿り着いた。

 

 

 降りた4人は武器や装備を確かめ身に着ける。黙々と装備し直した凛華とエーラは、アルが背嚢を浮かせたタイミングで男2名へ向け笑顔を向けた。

 

「すっ・・・ごかったね!!景色!」

 

「最っ高に綺麗だったわ!もっかい滑り降りるのもありね!」

 

 魅力的と言って間違いない笑顔で美少女2人が姦しく騒ぐ。大興奮だったらしい。マルクは憮然とした表情でアルにぼそりと呟く。

 

「落ちてる途中くらいの方が丁度良かったんじゃねえか?こいつら」

 

「まぁまぁ。気持ちはわかるだろ」

 

 宥めつつもアルは苦笑した。それくらいあの景色は素晴らしかったのだ。なかなか経験出来ることじゃないことも間違いない。

 

 しかしマルクは唸る。

 

「わかるけどよ、万年樹が次も()()()とは限らねえんじゃねえのか?」

 

「悪戯好きだったときが地獄だね」

 

「ま、アルに負担が来る分にはいいか」

 

「おい、いいわけないだろ」

 

 俺は関係ないし、とでも言わんばかりのマルクに思わずツッコミを入れるアルであった。

 

 

 ちなみに興奮冷めやらぬ鬼娘と耳長娘は次の『転移陣』に向かう10日間もそれはもう普段より機嫌が良く、楽しそうであった。次の景色が余程楽しみだったのだろう。

 

 

***

 

 

 旅立って20日目。次の『転移陣』に到達したアル達一行は()()()()万年樹のおかげで遊覧と呼んでも差し支えないほどゆったりと2つ目の『転移陣』へと辿り着いた。

 

 凛華とエーラはこれまた上機嫌で景色を楽しむもアルとマルクはいやぁな予感が拭えず、明けて翌日の21日目。

 

「きっ・・・きゃああああああっ!」

 

「うひゃああああああっ!」

 

 ()()()()()万年樹だったらしい。フリーフォールに始まり、急上昇、急下降、ループ、直滑降まで取り入れられていた地球の最新ジェットコースターだって真っ青な下降ルートを強制的に滑らされた。

 

 警戒していたアルとマルクは大丈夫だったというか途中からスリルを楽しむ余裕まであったが、凛華とエーラはかなり油断していたらしい。

 

 とんでもない勢いに泡を食って、駕籠が止まりきるまでべったりとアルにへばりついたままだった。相当怖かったらしい。アルとマルクは2人の涙目という非常に珍しいものを見ることになるのであった。

 

 

 尚、アルとマルクは危なそうだからとしっかり注意もしていたし、凛華もエーラも浮足立っていたので最初から龍鱗布を軽く被せていたりする。

 

 また平時の2人はそこまで怖がりでもアルにべったりでもない。心構えさえあればマルク同様楽しめただろうが、完全に油断していたことと初日に吹き飛ばされそうになった経験からそうなってしまっただけであるということは彼女らの名誉の為に述べておくこととしよう。




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