日輪の半龍人   作:倉田 創藍

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ここでは初投稿になります。読んで頂ければありがたい限りです。



また「小説家になろう。」と「カクヨム」にて同作を2~3日に1度連載投稿しております。


現在両サイトにて投稿されているものとこちらに投稿するものは少々文体が違う場合があります。


こちらへは定期的にある程度纏めて更新していく予定です。


断章1  一党として、頭目として

 アルクスたちが旅に出て初めての3日間。おそらくこの3日間が大森林を旅している中で4人が最も神経を使った日々だろう。

 

 理由は単純にして明快。全てが初めてだったからだ。長時間荷物を背負って歩き続けることも、自給自足の食事も、野営や不寝番も、そして一党としての戦いも。

 

 

 隠れ里の東門からおよそ8km(キリ・メトロン)地点、大森林の中。周囲を警戒しながら4人は東へ向けて歩いていた。最初に目指すのはこの大森林を抜け出すために不可欠な要所である万年樹だ。

 

 そこに設置してある『転移陣』でかなりの距離――およそ300km(キリ・メトロン)を一息に稼げるらしい。

 

 ふとアルは肩に止まっている三ツ足鴉に視線をやった。

 

「カァ?」

 

 なーに?とでも問うような鳴き声を発する艶やかな黒い濡れ羽を持つこの鴉は師匠ヴィオレッタから預かった使い魔だ。

 

 旅立つギリギリで託されたため交流はなかったが、なんとなく知能が高いらしいことはわかった。移動中無闇に騒ぐこともなく、こちらの言うことも理解出来ているようだ。

 

「お前の名前も決めなくちゃな」

 

「カァー」

 

 羽を揺らして催促するような雰囲気を見せる三ツ足鴉。アルは休憩も兼ねておこうと幼馴染たちに呼び掛けた。

 

「みんな。こいつの名前、なんかいい案とかない?」

 

 アルの言葉に隣を歩いていた凛華とマルクガルムがそれぞれ腕を組み、顎をさする。シルフィエーラは森人の残している印を見つけるためにほんの少し前を歩いていたがスッと振り向いて三本足の魔獣をジーッと観察しはじめた。

 

「そうだなぁ・・・・・・だめだ、全然思いつかねえ。クロとかでいいんじゃねえの?」

 

「ない」

 

「あり得ない」

 

「最悪」

 

「カァ・・・」

 

「言い過ぎだぞお前ら」

 

 軽く言ってみたマルクに非難が殺到する。そこまで言わなくてもいいだろうがという目を向ける人狼族の友人へアルは、

 

「師匠の使い魔にそこまで適当なやつはつけらんないよ」

 

 と説いた。

 

 マルクが本気ではないのは重々承知しているが、変な呼び名が定着してしまってその名にしか反応しなくなるとかは困るのだ。

 

「わかっちゃいるけど、そういうの苦手なんだよなぁ」

 

「俺も・・・魔術創るときの感覚で付けたら大仰な感じになりそうだし」

 

「そうなの?ならあたしに任せときなさいな」

 

「待って待って!ボクも!」

 

「じゃあいっしょに考えましょうよ」

 

「さんせーい!」

 

 凛華とエーラは名付けてみたかったらしい。実は2人ともアルが独自魔術や剣技に名前をつけるのを見て自分たちもやってみたいと常々から思っていたのだ。

 

 特に、凛華は己の修めるツェシュタール流の剣技名がそのまま過ぎるのに大いに不満があった。

 

 アルとマルクは顔を見合わせる。名前とかぶっちゃけおかしくなくて困らなければいいんじゃね?と思っていたら妙にやる気を見せる女子2人。

 

 もう任せない?とアイコンタクトを交わすことで意見の一致をみた。

 

「じゃあ任すよ」

 

「やった!」

 

「さ、おいで!かっこいいのをつけてあげるわ!」

 

 凛華が手招きすると三ッ足鴉がバサバサとそちらへ飛んでいく。アルとマルクは楽し気な彼女らを見てやれやれと肩を竦めるのだった。

 

 

 ***

 

 

 初日の午後4時は過ぎ。エーラが急にピタッと立ち止まった。アルは訝しむというより報告を聞く為、エーラに小声で問うてみる。

 

「どうした?」

 

「魔物?いや、ううん。魔獣だね」

 

「食えるやつか?」

 

「たぶん。んー、大鋸鹿(オオノコジカ)っぽい」

 

「今日の夕飯、そろそろ準備とかいるわよね?」

 

 ―――――さて、どうする?

 

 3人の顔にはそう書いてある。頭目の判断を仰ごうというわけだ。こういったところは彼らの認識はしっかりしている。仲のいい仲間たちと旅に出ているし、実際楽しい部分もあるが決して遊びではない。

 

 アルもそれは正しく認識しているし、何なら誰よりも気を張っていた。師匠譲りの癖で顎に手をやって思考する。

 

 今の踏破距離、現在の時間、仲間と自分の体力。そして答えを導き出した。

 

「よし、そいつは狩ろう。狩り終わったらその場で血抜きまでやってから移動しよう。他の魔獣が寄ってこないようにいらない部分は捨ててく」

 

「了解だ」

 

「任せて」

 

「わかったわ。あ、そうだ。アルどうする?頭目としての指揮とか試しとく?」

 

「あー・・・・うん、やってみようかな」

 

 不安気な表情を浮かべながらもアルはこくりと頷く。きっと今後やらなければならない場面も増えていくはず。

 

 ―――――ここで慣れておいた方がいいのかもしれない。

 

 こうして一党として行う初めての狩りが始まった。

 

 

 大鋸鹿というのは全長およそ4.2m(メトロン)、荒い鋸刃を思わせる形状の大きな角を持った魔獣だ。角の差し渡しは4.0mを越えることもある。

 

 外敵を蹴り倒すように突っ込み、角に引っかかった部分は木であろうが他の魔獣であろうがその大きな角をガリガリと動かして切ってしまう。つまり、何かに引っかかっても問題なく抜けてくるのだ。

 

 またその巨大な角の重さを首筋の強靭な筋肉で支えている為、人間の一般的な狩人くらいではトドメを刺すまでに四苦八苦する厄介な鹿として知られている魔獣だ。

 

 もちろん狩猟対象として狩るのが難しいのであって、ただ殺すだけならその難易度はガクッと下がる。

 

 ちなみに首筋の肉を長く煮込んでほろほろにした煮込み料理は隠れ里でも定番メニューで、4人も好きな料理でもある。

 

 

***

 

 

 結論から言えば狩り自体は非常に上手くいった。

 

 エーラが後脚の膝を強弓で砕き、マルクが退路を断って動かし、凛華が直剣で心臓を一突き、トドメにマルクとアルが首筋を絶つ。

 

 その後もテキパキと作業は進んだ。血抜きを終え、必要な部分を切り落とし、その部分の皮を剥いで、凛華が凍らせる。

 

 あとは野営のできそうな場所までアルが『念動術』で運んで、じんわりと解凍している間に天幕を張り終えた。

 

 

 野営地の天幕から少々離れた位置。焚火を置いた彼らは思っているより早く暗くなっていることに気づいた。

 

「まだ6時過ぎだってのにもうこんなに暗いのか」

 

「日が差し込む場所がないからだろうね」

 

 父であるマモンから貰ったと言う小ぶりな懐中時計を取り出したマルクの呟きにアルは上を見上げる。

 

 ―――――もうちょっと移動時間を考えなきゃなぁ。

 

 心中で漏らしながら大鋸鹿の太もも部分を眺めていた。少なめな脂と残っていた血が火に落ちてパチッと爆ぜる。一応翌朝も食べられるくらいの肉は確保済みだ。

 

 エーラのおかげで肉を懸架させて焼くための支えは簡単に作れたし、水分の少ない枯れ枝も集められたが、夏場でなかったらもう少し準備がいるだろう。

 

「背嚢も置いたし、魔獣が嫌がりそうな匂いを出してくれる子たちに集まってもらったよー」

 

 エーラがすたすた歩いてきながら報告した。

 

「ありがとう」

 

 初日の食事当番はアルとマルク、ちなみに一食交代だ。これは不寝番や役割を考えて決めていた。

 

「森人ってのはこういう時強いよなぁ」

 

「ほんとよ。こっちがちょっと天幕の中にいる間にああなってるんだもの」

 

 凛華の発言にアルがそちらを視線を向ければ、そこには見たことのない植物たちが天幕どころか野営地全体を囲むように生えている。あれが魔獣が嫌がりそうな匂いを発する植物か。

 

 ―――――本当に早業だ。

 

 アルには全く気づけなかった。そんな風に考え事をしている内に気づけば肉の焼けるいい匂いが辺りに漂ってくる。アルは慌てて匂いと煙を風で包み、上に向けて逃げるように流す。

 

「そろそろ焼けるぜ」

 

 マルクがくるくる回し焼いていた鹿肉を火から降ろして見せた。

 

「お腹空いたね」

 

「早く食べましょ」

 

「そうだね」

 

 黒蒸麦餅《黒パン》に大鋸鹿の脚や肉付きの肋骨が火元に置かれていく。ようやくの夕食だ。エーラが取って来た食べられる野草を茹で、果物を食後に食べる。

 

 4人はやはり慣れないことで疲れてはいたものの初日にしては満足感のある夕餉を楽しむこととなった。

 

 

***

 

 

 すっかり日が落ちてしまった野営地を焚火の明かりだけが仄かに照らしていた。マルクは倒木に腰掛け、アルは適当な石に座り込んで焚火を眺めている。

 

 凛華とエーラはアルがガンガンに熱した石を投入させて作った簡易風呂で汚れを落とし、今は就寝中だ。近くにあった小川の()()()()を多少綺麗にして風呂にしたものだったが思いの外2人は喜んでいた。

 

 女子2人や魔族が特段綺麗好きというわけではないが、大量に魔力を持っているのに使いもせずに小汚いままという者はそういない。隠れ里には大衆浴場然とした湯屋もあるので入浴文化がある、というか寧ろ風呂好きな方だ。

 

 アルとマルクは彼女らが風呂から戻って、起きている内にさっさと入浴を済ませ、今は見張りも兼ねた不寝番をしていたのだ。

 

 

 夏場とはいえ元々そう湿気も多くない土地だ。鬱蒼とした原生林の中でも、こうして火の近くにいないと多少は冷える。アルは火を眺めながら考え事をしていた。

 

 勿論今日のことだ。思っていたよりも決断に迫られる瞬間が多かった。当たり前と言えば当たり前だが、たとえ案内があったとしても進む、止まるは頭目の判断。天幕の設置場所や夜を明かす場所ですらそうだと言える。

 

 水場はやはりあった方がいいし、食事中に魔獣から襲撃されないように警戒もしなければいけない。隠れ里の訓練場でやっていたことなどまるで児戯に等しいことをアルは悟った。

 

 この調子なら問題は雪だるま式に増えていくだろう。きっちりと一つ一つ答えを出しておかなければ。

 

「・・・ふぅ」

 

 無意識にアルは溜息をつく。マルクはアルの表情を見て話しかけることにした。

 

「で、どうだ?」

 

「・・・・」

 

 しかしアルは火を見つめたまま固まっている。狩りが終わってからアルは妙に静かだった。それはマルク以外も知っている。

 

「アル」

 

「え?・・・ああ、とりあえず戦闘中に細かく指示を出すのはやめにするよ」

 

 アルは即答した。というより考えていたことが口をついて出た。

 

「随分早く決めたな。今日は悪くなかったんじゃねえか?」

 

「マルクたちはね。でも俺はギリギリだった。普通の魔獣であれならそれ以上のやつら相手はたぶん厳しい。いちいち遅れる気がする」

 

 今日だってアルは最後ギリギリ間に合わせた形になってしまっていたのだ。後ろで魔術を垂れ流すだけなら問題なくとも、己も前に出るのであれば指示など出していられない。

 

 3人の動きが早過ぎるのだ。加えてそれぞれ種族が違う。ゆえに得意なことも得意な距離すらも違ってくる。

 

 ―――――気配で追えても、思考が追いつかない。

 

 その結果、今日の狩りは一拍遅れて飛び出す羽目になった。アルの言った結論は妥当なものだろう。

 

「ふむ・・・」

 

 確かにアルの視界内で戦おうとしていたので多少不便さはあった。しかし慣れの問題もあるだろう。

 

 そう考えていたマルクはアルの発言に拍子抜けしつつ代案を聞くことにする。

 

「じゃあ、どうすんだ?」

 

 頭目が明確な指示も出さないというのも一党で動く意味がないのではないか?という当然の疑問。

 

 アルはしばし黙考し、やがて口を開いた。

 

「最初に戦術ってか方針みたいなのを決めとく。例えば今日なら食べるんだから無闇に傷つけないとか、トドメは凛華かマルク。エーラが脚を射貫いたら行動開始とか。あとは戦闘中に短くて良いから報告をし合って戦う、ってどう?」

 

 その言葉に「ふぅむ?」と考え込むマルク。ややあってアルに問う。

 

「それってつまり刃鱗土竜とやり合ってたときの感じをもっと深めるっつーか洗練させる、みたいな話か?」

 

 あの時はアルが次の行動(アクション)を叫んで、全員でひたすら連携しながらその一つの大目標へと動いていた。

 

「その認識で合ってる。思い返せばあの時が一番それらしく動けてたと思うんだよ。だからずっと考えてた。で、どう思う?」

 

 アルの頷きに納得したマルクが笑みを返す。

 

「どうも何も、それが最適解だろ。変に纏まって動かねえ方がいいんじゃねえかとは思ってたけど予想以上にいい案だと思うぜ。一党を組むって考えてたもんだから俺もだいぶ固く考えちまってたみたいだ」

 

 軍隊式の考え方ではないが、武芸者として活動していくつもりならそれこそがきっと正解だろう。

 

「俺もだよ。もうちょっと肩の力を抜くべきだね」

 

「だな。あいつら見習おうぜ」

 

 天幕の方を親指で指すマルクにアルがフッと軽い息をついて笑い出す。

 

「そうしようか。あ、じゃあさっき野営の準備してて思ったんだけどさ―――――」

 

「おお、そりゃ悪くねえ――――」

 

 2人の気兼ねない語らいは夜が更け、不寝番の交代時間まで続くのであった。

 

 

 ***

 

 

 翌朝、寒いだろうと凛華とエーラの2人に貸していた龍鱗布を返してもらいながらアルは早速とばかりに昨日話していた内容を共有することにした。

 

 凛華とエーラも妙なやりにくさ自体は感じていたようで、一も二もなく笑顔で了承してくれた。

 

 

 こうしてアルは仲間たちと話し合う重要性を学び、これ以降何かしら思いついてはその都度意見を聞いていくことになった。逆に意見や不満を聞くこともままありはしたが。

 

 結果として、その小さな積み重ねの数々が一党としての4人の強さを引き出す助けとなっていくのであった。




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