日輪の半龍人   作:倉田 創藍

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ここでは初投稿になります。読んで頂ければありがたい限りです。



また「小説家になろう。」と「カクヨム」にて同作を2~3日に1度連載投稿しております。


現在両サイトにて投稿されているものとこちらに投稿するものは少々文体が違う場合があります。


こちらへは定期的にある程度纏めて更新していく予定です。


3話 大森林辺境の村ネーベルドルフ (虹耀暦1286年9月:アルクス14歳)

 時が経つのは早いもので、アルクスたちが里を旅立って今日で28日目、もう27日間も経過していた。

 

 アル、凛華、シルフィエーラ、マルクガルム、そして夜天翡翠――4人と1羽の一党は旧街道まで残すところ50km(キリ・メトロン)という地点まで来ている。

 

 初日から10日で200km近く歩き、11日目から20日目までで250km、万年樹で300kmの短縮(ブースト)を2回、そしてこの一週間で200kmを移動し千年樹で更に200km跳んだ。総計移動距離およそ1,450km、主な移動手段が徒歩にしてはなかなかの移動量と言えよう。

 

 

 現在28日目の朝8時。アルは頬を軽くパンパンと叩いて意識をシャキッとさせる。

 

 昨夜また意識体のような状態で長月の部屋に赴いたアルだったが、帰り際長月に呼び止められた。

 

 なんでも前世の自分(長月)曰く、目的地間近やもうすぐ自宅というところでコケたり、警察に()られるバイク乗り(ライダー)というのは一定数いるそうだ。「そうならないよう気ぃ張り直して、注意させろよ?」と含蓄溢れる有難い言葉を貰うことになった。

 

 アルや他の仲間たちが腑抜けていたというわけではないが、気合を入れ直しておくのはきっと正しい。

 

 ―――――確か・・・百里を行く者は九十里を半ばとす、だったか。例え前世の格言だったとしても有用なものには違いない。

 

 思い立ったら即行動派なアルは朝食の席で注意喚起を行うのであった。

 

 

 4人は千年樹を背に、進行方向へと目を向ける。夜天翡翠は近くの樹上だ。朝食を終えて腹ごなしを済ませているらしい。

 

「ありがとね~」

 

 エーラは後ろの千年樹とその付近に伸びる椎や樫に向けて手をひらひらと振った。昨晩はその3本の世話になったからだ。

 

 2日目の夜以降から天幕を地面に置くのはやめにした。万年樹の洞に泊まるとき以外は10mほどの高さに樹上小屋(ツリーハウス)を作り、その中で夜を明かすことにしていたのだ。

 

 この案は毒を持った蛇や蜘蛛その他害獣から襲われる危険性を考えてアルが提案したものである。

 

 樹上で休めば懸念材料はぐっと減るし、自然色による保護迷彩もかけられるだろう。前世の自分(長月)との会話で思いついたのだ。わくわくしなかったと言えば嘘になる。

 

 仲間たちはその提案に大いに賛同した。やはりこちらもアルと似たような気持になったのは言うまでもない。

 

 またこの樹上小屋(ツリーハウス)計画における最も不安な点はエーラへの負担だったが、そちらの心配は取り越し苦労に終わった。

 

 森人の彼女によれば普段自分の力で動くことができない樹木たちは『精霊感応』による取引で大きく動いたり、動かしてもらうことを意外と面白がるらしい。たまに巣食っている害虫駆除なんかを請け負うと魔力すら要らないこともあるそうだ。

 

 

 アルもエーラに倣って千年樹や樫の木たちに目礼しつつ、

 

「さってと!行こうか!」

 

パンと掌に拳を叩きつける。

 

「気合い入れてくわよ、皆」

 

「ねえ、それ俺の台詞。取るのやめて」

 

「ふふっ」

 

 クスクス笑う凛華に対して口を尖らせつつ、

 

「『陸舟(おかぶね)』」

 

地面に向けてひょいと魔術を起動した。

 

 すると、土がむくむくと盛り上がって寄り集まり、やがて一艘の手漕ぎ船へと変わっていく。全幅はおよそ1.4m(メトロン)、全長約4.8mといったところか。

 

 深さはアルたちの膝丈を少々越える程度、内部も簡素な座席のようなでっぱりがついているだけだ。また、底もゴムボートほどではないが平らに近い。

 

「このひと月で相当魔術創ったんじゃねえか?しょぼいのからすげえのまで」

 

 マルクが幅の広い変なカヌーみたいな船にさっさと背嚢を投げ込みながらそんなことを言った。

 

「しょぼいはないだろ、しょぼいは。あれだって便利だったろ?」

 

 あれとは樹上小屋が出来るたびにアルが導墨液で適当に刻み付けるようになった周囲を照らす術式だ。いちいち光球を浮かべるのが面倒で、時間制限がある代わりに一度つけたら魔力を流し続ける必要のない術式を創った。

 

 電球と違って火事の心配もないのだが、普段からなかなかとんでもない魔術を生み出すアルが創った魔術だということで面白そうなものを期待していたマルクたちは大変ガッカリしたのだ。

 

「便利だよね?」

 

 確認するアル。

 

「さっ、行こ!」

 

 しかしさらっと流したエーラは『陸舟』の舟首側の座席に座って催促してきた。

 

 ノーコメントらしい。マルクは舟尾の外側へ立っているし、凛華もさっさとエーラの席に座っている。

 

「ひどい仲間たちだ、まったく・・・はぁ。よしっ、翡翠はいつも通り先行して偵察!何かあればすぐ戻ってくるように!じゃあ出発!」

 

 アルは中央の席に座って号令を出しつつ、うっすらと浮いている術式に魔力を込めた。指示を聞いた夜天翡翠(やてんひすい)が宙へパッと飛び出す。

 

 この『陸舟』という魔術は周囲の土塊を取り込んで船を象らせる術だが、本来なら魔力を流し続ける必要はない。

 

 だが、これからの移動には必要となる。

 

「あいさー!進路はぁ~・・・・こっちだね!精霊さんたち!道お願い!」

 

 エーラの威勢のいい声が木霊し、すぐさまメキメキッという音と共に『陸舟』の前が()()()。エーラが『精霊感応』を使って樹木たちに避けてもらっているのだ。

 

「こっちもやるわよ」

 

 木々の示した道と舟の外底に凛華がヒョウッと冰を張っていく。幅は『陸舟』が収まりきるギリギリ、底はなかなかの厚みだ。一党を乗せた舟を支えきるほどには密度も高い。

 

「掴まってろよー!」

 

 マルクが『人狼化』して、ドンッと地面を蹴りつけて船尾を押す。そして冰面をゆっくり滑り出す『陸舟』へひょいっと跳び乗ると、後ろを向いてゴオオオッ!と暴風を発生させた。

 

 斜め上からかかる暴風の反発によって加速した『陸舟』がザザアーッと音を立てながら滑っていく。時速で言えば15~25kmほど、前世の自転車程度の速さだ。起伏の激しい森を抜けるなら寧ろこれくらいでなければならない。

 

 すでにこの移動手段を用いだして1週間以上。手慣れたものだった。

 

 

 これもアルが提案し、4人で話し合って生み出された移動方法だ。

 

 当初は万年樹のジェットコースターから着想を得て、その場限りのレールを作りながらトロッコのような乗り物に乗って移動しようとしていたのだが、如何せんラービュラント大森林は原生林。当然ながら平坦な道の方が少ないし見通しも悪い。

 

 それゆえ難易度が高過ぎるとして断念すべきか?とアルが決定を下す前に3人へ相談を持ち掛けてみたのだ。

 

 反応は予想以上に劇的だった。頭目がまたなんか面白そうなことを考えたらしいと思っていたら予想以上に楽しそうだと感じたからだ。

 

 ―――『歩く為に大森林(ここ)まで来たわけじゃないんだし楽しても良くない?と思ってさ』

 

 まさにヴィオレッタの直弟子らしい物言いである。

 

 兎にも角にも一人で何とかしようとしていたアルからすれば仲間たちが乗り気になってくれるのなら、案などいくらでも生み出せる。談論風発して夜が更けていった結果がこれだ。

 

 エーラに針路を調べながら道を開いてもらい、凛華が舟の前方30mほどまで冰のコースを張り続ける。

 

 更に舟尾のマルクが荷物の吹き飛びに注意しつつ適宜加速、そしてアルが冰で削れていく土の船体を術式で維持(カバー)、また加速しすぎた場合は舟底に爪を作って減速させる役割だ。

 

 当初は凛華とエーラへの負担が大きくなると危惧していたが、そこは森人と冰鬼人。試しにおよそ10kmの距離を30分ちょっとで走破したときはさして疲れも見せず、一番魔力を使ったはずの凛華ですら消費割合は2割に届くかどうかというところだった。

 

 また、この実験結果に4人にとって非常に有益なものであり、『陸舟』は即日実地投入されることになった。それからは基本的にこの『陸舟』走法で大森林を駆け抜けている。

 

 勿論魔獣がいたり道が険し過ぎる場合は徒歩も使うが、午前に出れば大抵昼過ぎには目標距離を踏破可能なのだ。

 

 出来ていなかった鍛錬や食材採集、狩りに午後いっぱいを割けるとなれば高揚もしよう。実地投入したその日、4人は興奮冷めやらぬ様子で日暮れまで語り合うのだった。

 

 

 『陸舟』は冰粒を吹き散らしながら大森林の中を突き進む。

 

 

 ***

 

 

 軽快な滑走音が木々の間を走り抜けていく。アルは流れる景色を眺めながら気配や魔力を敏感に探っていた。

 

「ふぅ~。もうだいぶ走ったかな?」

 

 エーラがそんな言葉を後ろへ投げかける。前こそ向いているものの話し方は平素のそれだ。

 

「そっちは平気?凛華は?疲れてない?」

 

 アルは前へ返答を放り返した。

 

「ううん、ボクは平気だよ。変に行き過ぎるのも予定が狂っちゃいそうだしそろそろかなと思ってさ」

 

「あたしも大して疲れてないわ。魔力もまだ3割くらいしか減ってないもの」

 

「そっか、了解。マルク、今どれくらい経った?」

 

「1時間と・・・少しってとこだな」

 

 小振りな懐中時計を開いてマルクが応じる。

 

「わかった。じゃあそろそろ速度を――――」

 

 もうそろそろ20km地点だ。そう思ったアルが口を開きかけたときだった。

 

「カアーッ!」

 

 優雅に空を舞っていた夜天翡翠がアルの元へ飛び込んでくる。4人の意識が急速に覚醒した。

 

「どうした、翡翠?三人とも速度落とすから掴まってて」

 

 そう言うとアルはすぐに術式を弄る。舟底に爪が生え、『陸舟』の速度が落ちていく。

 

「カアッ!カアッ!」

 

「翡翠がそこまで慌てるってことはそこそこ大物ね」

 

「だね。ボクも精霊たちに聞いてみる」

 

「舟から降りといた方がいいのだけは確かだろうな」

 

「ああ、降りるぞ」

 

 それから間もなくして、ザザザーッと音を立てながら『陸舟』が止まった。4人は手早く下船し、背嚢を浮かせたまま様子を探る。

 

「翡翠どのくらい先だ?」

 

「カアカァッ!」

 

 アルの問いにひらりと舞い上がった夜天翡翠は、先導するように飛んでいった。

 

「行こう」

 

 頭目の引き締まった声に3人が頷き、一党は気配を殺しながら使い魔の三ツ足鴉を追う。

 

 

 少し進んだところで地響きが聞こえてきた。巨体が地面を這いずる音や硬質なものに重たそうな何かを叩きつけるような音も聞こえてくる。

 

「翡翠、場所はわかったから下がってていいぞ」

 

「カアー!」

 

「ありがとね」

 

「あとは任せといて」

 

「ちゃんと逃げとくんだぞ」

 

 了解!と言うように夜天翡翠は上空へと退いた。三ツ足鴉は知能こそかなり高いがそこまで強い魔獣というわけではないからだ。

 

 

 魔獣を視認できるまで近付いた4人が見たのは、ソイツが村らしき集落の防壁に尻尾を叩きつけているところだった。

 

 村人達も魔族なようで応戦はしているが、然したる効果はないように見える。そしてその魔獣というのが――――、

 

「よくよく縁があるなぁおい。お前らの剣が呼んでるんじゃねえか?」

 

「馬鹿言わないでちょうだい」

 

アルが里を出た遠因である高位魔獣、刃鱗土竜であった。

 

 村の防壁にその巨体をガンガン叩きつけている。以前やりあった成体とほぼ同じサイズだ。

 

 またもや出くわすことになった高位魔獣だが、4人は呆れ返っていた。もういいよ、と言い出しそうな顔をしている。

 

 ―――――百里を行く者は、だ。

 

「油断大敵だぞ。大人と()り合ってるのに、ちっとも怯んでない。見た目より厄介なやつかもしれない」

 

 アルは無理矢理気を引き締めて仲間へ呼びかけた。

 

「そうだね。こんな()()にいるくらいだもん」

 

「”魔法”もまだ使ってないわね。警備はどうなってたのかしら?」

 

「何にせよアルの言う通りだ。こんなとこでコケてたまるか」

 

 エーラ、凛華、マルクは銘々に警戒度を高めていく。

 

 

 実を言うと4人は2点だけ勘違いしていた。

 

 まず一つ目は高位魔獣というのは一般的な魔族であれば苦戦する厄介さを持っているということ。

 

 隠れ里にだって一般的な強さしか持っていない魔族たちも大勢いるが、その分強者も多い。

 

 ヴィオレッタを筆頭にトリシャや彼らの父親たち、また指導役を務めている魔族たちはピンキリの中でも()()()()なのだ。

 

 つまり彼ら一党が自分たちを若手の中堅くらいだと勘違いするほどには層が厚い。実際は若手の中でもかなり上位に食い込む実力ではあるのだが。

 

 

 そして二つ目。ラービュラント大森林の端、旧街道から30km地点にあるこの村は決して()()()()()()()()

 

 道標もなく、風穴や氷穴が至るところにある樹海の奥30kmは、人間からすれば立ち入ることなど自殺行為としか言えない危険過ぎる場所だ。

 

 また、隠れ里を建造する際に周囲の魔獣を排除する余裕すらなかったヴィオレッタたちが、大森林の生態系を把握しているはずもない。

 

 つまり、ここに高位魔獣がいたとて()()()()()()()()ということだ。

 

 

 刃鱗土竜を観察しているとマルクが小声で警告する。

 

「あっ!あいつ”魔法”使ったぞ!」

 

 槍尾の方を持つ刃鱗土竜だったらしい。村の防壁を穴だらけにし始めた。中から聞こえてくる怒号に悲鳴が混じり始めている。

 

 応戦していた魔族たちが大声を上げながら防壁に魔力を流し始めた。どうやら防衛に専念するらしい。

 

「ねえどうする?危ないのはわかってるけどさ――――」

 

 あの人たちが死んじゃう、エーラは不安そうにアルを振り返ってすぐに口を噤む。

 

 赤褐色の視線が真っ直ぐに刃鱗土竜を射貫いていた。瞳に宿っているのは明確な戦意と理知の光。既に動く気で、倒す算段を考えていたらしい。

 

 そんなアルを見たエーラは勇気と戦意が湧いてきた。

 

「アイツの脅威度は未知数だ。初動から全開で行く。準備は?」

 

「「「出来てるわ(ぜ)(よ)」」」

 

 アルの問いに仲間たちが即答する。

 

 頷いたアルは頭で組み立てた戦術を一気に話した。3人は真剣な表情で頷く。一党として初の高位魔獣戦。失敗するわけにはいかない。

 

 

 エーラが弓に弦を張り、凛華が尾重剣を抜き、マルクがゆらりと『人狼化』した。刃尾刀の鯉口を切ったアルの雰囲気が白刃を思わせる鋭さを帯びていく。

 

 後ろで背嚢がドサリと落ちた。アルが『念動術・括束』を切ったのだ。

 

 仲間の闘志を受けた頭目が魔力を昂らせて号令を出す。

 

「やるぞ!状況開始!!」

 

「「「応!!!」」」

 

 高位魔獣へ戦士たちが殺到した。

 

 

 

 村落の内側から刃鱗土竜へ応戦していた魔族たちが聞いたのは若い青年のよく通る声だった。

 

「そこの魔族たち!伏せろ!俺たちでやる!」

 

 これでも彼らは魔族だ。その場にいた者たちが咄嗟に防壁から退き、伏せたところで轟音と振動が村全体を揺さぶった。

 

「うおぉっ、なにが・・・!」

 

「何だ今の!?」

 

 驚く村落の住民たち。

 

 駆けてきたアルが『拡声の術』で呼びかけると同時に刃鱗土竜へ蒼炎雷を放ったのだ。

 

 『八針封刻紋』はすでに3時まで戻されている。灰髪を揺らし、緋色の瞳に龍眼を発動させたアルは高位魔獣へと一気に間合いを詰めた。

 

 

 ギイイイィィ―――――!

 

 

 吹き飛ばされた刃鱗土竜が慌てて攻撃された方へ向き直る。

 

 

「『燐晄一矢(りんこういっし)・二連』ッ!!」

 

 

 そこへアルの背後からエーラの声とキィンという独特の音が届いた――――と同時に、刃鱗土竜の両眼に光が深く突き刺さった。

 

 

 ギッギイィ―――――ッ!?

 

 

 思わずのた打ち回る刃鱗土竜。固い瞼を上げる前に脳に到達する寸前まで突き刺さった2本の矢はその両眼を過たず射るだけに留まらず、灼き貫いていた。

 

 エーラ用にアルが専用改造(カスタマイズ)した光属性の『気刃の術』、『燐晄』。強弓型の複合弓で放たれる矢は龍眼を使っているアルでもほとんど視認不可能な迅さで目標を貫通する。

 

 のた打っていた刃鱗土竜にアルが追いついた。

 

 

「『蒼炎気刃』!」

 

 

 刃尾刀が蒼炎を纏う。アルは駆ける勢いを落とさず、回転しながら刃鱗土竜の横を一気に跳び抜けた。

 

 ―――――六道穿光流・火の型派生技『蒼炎嵐舞』。

 

 ほとんど『豪焔嵐舞』と変わらない突進回転剣技だが、あの頃とは熟練度が違う。

 

 アルの放った剣技は刃鱗土竜の左脚を2本とも根こそぎ斬り落とした。

 

 

 ギッ、ギイィ――――――ッ!

 

 

 刃鱗土竜が悲鳴を上げながらドオッと体勢を崩す。

 

 ―――――けどコイツは腹這いで移動する。まだ気は抜けない。

 

 アルが駆け抜けながら心中でそう呟いたところで、凛華が降ってきた。冰で足場を上に伸ばして跳躍したのだ。

 

 そして空中で器用に魔術を発動する。

 

 

「『流幻冰鬼刃(りゅうげんひょうきじん)』ッ!」

 

 

 凛華の叫びに呼応し、尾重剣が冰を纏って一回りほど厚みを増した。

 

 こちらもアルが凛華用に専用改造(カスタマイズ)した『冰気槍刃』―――『冰鬼刃』だ。

 

 以前は刃先を歪な冰が覆ってしまったり、無駄に太かったり、槍形態に切り替えるときは術を掛け直す必要があったりしたが、『流幻冰鬼刃』はその問題全てをクリアしている。

 

 名前も凛華の好みに合わせた魔術だ。

 

「はああああああッ!」

 

 『修羅桔梗(おにききょう)の相』を発動させた凛華は空中で縦回転しながら、刃鱗土竜の尻尾の付け根へ尾重剣を振り下ろした。

 

 カッ!と一瞬で凍結した刃鱗土竜の尾が根元を()()()て千切れ飛ぶ。

 

 ―――――これでもうまともに動けない。

 

 

「『雷光裂爪』!」

 

 

 痛みと混乱に慌てふためく刃鱗土竜の頭へ向けマルクが跳び出した。

 

 狼爪が青白い雷を纏い、刃鱗土竜の鰐をスッパリ断ち斬り、頭部を灼き裂いて、頭蓋を焼いて貫通する。

 

 

 ドッ・・・ズウウッ・・・・ウウ・・・・・!

 

 

 ビクンと一瞬だけ藻掻いた刃鱗土竜は土煙を上げながら倒れ込んだ。

 

 アルたちは警戒を解かないまま近寄り―――完全に死亡していることを確認する。

 

「状況終了。うまくいったな!」

 

 アルはふうっと短い呼気を吐いて快活な勝鬨を上げた。

 

「だな!今回は完勝できたぜ」

 

 ガキンッと『封刻紋』を閉め直すアルに凛華がフフフッと上機嫌な笑みを、エーラが昂揚を隠さないでニッコリと楽しそうな笑みを向けてくる。

 

「やっぱりあの魔術良いわね!普通の魔獣相手にしか使ったことなかったけど前のより断然いいわ!」

 

「ボクのも~!強弓ではやったことなかったけど、すっごい威力だよ!」

 

「そりゃそうさ。完全な専用魔術にしたんだから」

 

 魔術の感想を興奮気味に語る美少女2人にアルが嬉しそうに返していると、

 

「しっかしコイツ強いやつだったのかね?前と比べるのは難しいけどよ、そうでもなかった気がするぜ?」

 

マルクが頭を捻りながら疑問を呈した。僅か数十秒の電撃作戦だ。

 

 エーラが目を奪い、アルと凛華で機動力を削ぐ、最後にマルクがトドメを刺す。警戒していたがゆえに全開で戦ったが、そこまで必要だったのだろうかと首を傾げてしまう強さだった。

 

「うぅん、確かにそうかも。動き自体も前のとあんまり変わんなかったよね?」

 

「そうねえ。とりあえずあの人たちに聞いてみましょ」

 

「だね、まずは荷物を回収しないと。おーい翡翠!もういいぞー」

 

「カア!」

 

 上空で飛んでいた夜天翡翠がアルの肩に戻ってくる。呆気ないがコケずに済んだ。和気藹々とした雰囲気に戻った4人は背嚢の方へ歩いて行く。

 

 

 そんな彼らを村落の住民たちは遠巻きで見ていた。訳のわからない強さで高位魔獣を一蹴した若者たち。

 

 同胞のようだが何者だろうか?そしてあの強さは一体?

 

 そう思っていた住民たちのなかでハッとした男が4人の方へと走っていく。がっしりとはしていないがそこそこ筋肉質な男性だ。額には羊を思わせる巻き角が生えている。

 

「さっきは助けてくれてありがとう。住民を代表して礼を言わせて貰いたい。ヴィオレッタ様から話は聞いてるけど本当にここまで若いとは・・・それにさっきの実力にも驚いたよ。

 

 ネーベルドルフへようこそ、同胞のお客人。里に較べれば何もないけれどゆっくりしていってね」

 

 優し気な顔でそう言う男にアルたちはキョトンとした顔を見合わせた。そういえば今日の目的地はこのネーベルドルフだった。

 

 大森林の入り口からもっとも近い村落、里と人間の街との中継地点。

 

 すっかり戦闘に意識をもっていかれていた4人は男性の挨拶に慌てて頭を下げるのだった。




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