また「小説家になろう。」と「カクヨム」にて同作を2~3日に1度連載投稿しております。
現在両サイトにて投稿されているものとこちらに投稿するものは少々文体が違う場合があります。
こちらへは定期的にある程度纏めて更新していく予定です。
アルクスを含む4名と1羽は隠れ里からおよそ1,470
なぜ歓待されているのか?
それは当然、襲撃してきた刃鱗土竜を村人たちの代わりに狩ったからだ。4人が狩らなければ確実に被害が出ていただろう。
アルたちを率先して迎え入れたのは、ネーベルドルフの長その人で山羊角族という種族のシモン・レーラーだ。
彼がアルたち4人にそう名乗ったところで、ネーベルドルフの狩猟や警備を担当している戦士たちが息も絶え絶えに駆け込んできた。全員汗まみれだ。
「皆!刃鱗土竜がこっちに―――――って、あ?いったいこれは・・・・」
「お疲れ様。うん、襲われたけど彼らが丁度助けてくれてね。怪我人も酷い者はいないよ」
シモンは戦士たちを労うように穏やかに告げる。肩を上下させていた魔族の戦士たちは唖然とした。
狩りの途中で這いずった独特の痕跡を見つけたので足の速い者たちで慌てて走ってきてみれば、防壁は穴だらけになっているし、色を失いながらも村落に入れば高位魔獣が無残な屍骸を晒している。
おまけに長のシモンが見慣れない4人の子供を指して彼らが倒してくれたと説明するしで何が何やらといった具合だ。そうもなろう、とシモンは苦笑する。
「気持ちはわかるよ。でも大丈夫だから落ち着いてくれ」
「あ、ああ」
そんな一幕があってアルたち4人はすぐに周知されることとなった。
防壁で踏ん張っていた者たちに至ってはいの一番に受け入れ、帰って来た戦士たちに4人の勇姿を語り、屍骸を見せる。これがかなり功を奏したようで、その夜は歓迎の宴が開かれるのであった。
シモンはアルたちへ、少しばかりの間、旅の疲れを癒していくようにと言ってくれた。
高位魔獣の脅威を打ち払ってくれた礼と、ここの長としてヴィオレッタから直接書簡を受け取っていたらしい。
アルはそれをありがたく受け入れ、一党は久方振りの休息をとることにしたのであった。
***
あれから3日が過ぎた。今は4日目の夕方だ。初めての里の外ということでかなり気を張って過ごしていたからか、想像以上に4人は疲労を重ねていたようだ。
それならいっそしっかり休もうとアルが決断し、仲間たちも大いに賛同した。
結局この3日間を完全な休養に当てたアルたちは5日目の朝に出発することをシモンに告げ、今は各々の出立準備をしている。
武器や防具というか防衣の手入れや
特に解体用にのみ使っていたアルの後ろ腰の短剣は錆や欠けこそないものの、柄には魔獣の脂や血が染みついていたので
元が父ユリウスの形見である長剣なので剣身の手入れは欠かしていないが柄はそうもいかない。
アルはこの際新しくしてしまおうと村落の外側―――明日旅立つ方角を見ながら皮革を巻き直し、一応武器として振れるかどうかのチェックを行っているところだった。
そこに男がやってきて声を掛けてくる。
「精が出るね、アルクス君。もう少しいてくれても僕らは問題ないんだよ?」
振り返ったアルの予想通り、そこにはネーベルドルフの長シモンが立っていた。
大きな二本の巻き角は凛華のそれとは大きく異なっている。
どうもこのシモンからやたらと視線を向けられている気がしていた。悪い人物ではないし、寧ろお人好しな部類だとはアルも思っている。
しかし視線の正体が何に起因するものなのかわからないため、どうにも居心地が悪かった。
「いえ、あまり迷惑をかけるわけにもいきませんし、充分に休めましたから」
穏やかにアルは返す。しかしすかさずシモンが切り返した。
「そうかい?君らが来た日や昨日はともかく、一昨日はかなりここの――いや、僕のことを警戒していたように思うけれど」
その言葉にアルの表情が引きつる。事実だったからだ。慌てて弁明する。
「あ、ああ、それはまあ俺は頭目ですから。人の親切には感謝すべきなんでしょうけど・・・・・親切過ぎた場合は警戒した方がいいんじゃないかって言われてまして。その、気づいてらしたんですね。不愉快にさせてたらすいません」
正直なアルの謝罪にシモンは首を横に振った。
「仲間を大切にしてるからだろう?それは僕にも理解できるし共感できるから不愉快ではなかったよ。視線を向けてたのにも自覚はあるしね」
穏やな口調だ。
「それなら、良かったです。また明日言うつもりですけど、いろいろ助かりました、思ってたよりも疲れてたみたいで。ありがとうございました」
ほっと軽く息をついたアルは頭を下げる。出立時にも言うつもりだが、こちらはなにくれと長として便宜を図ってくれたシモン個人への礼だ。
「はは、どういたしまして。なんか照れ臭いね」
その表情を見てやはり根っからの善人のようだとアルは判断する。
しかし山羊角を生やした魔族が次に放ったのは、アルをぎょっとさせる言葉だった。
「ところで、親切過ぎる他人には警戒すべきだって君に進言してくれたのは・・・アルクス君の中のもう一人だったりするのかな?」
アルは絶句する。
―――――なぜ知っている?やはり何か狙いでもあったのか?
そこからは早かった。跳び退って、巻革を当てたばかりの大振りの短剣を逆手に構える。
するとシモンは慌てて弁解し始めた。
「あっ!ちょ、ちょっと待ってくれ!違うんだ!今のはヴィオレッタ様に聞いてただけで!」
警戒心を煽ってしまったと気付いたのだ。
「・・・・師匠は軽はずみにそのことは言わないはずです」
断ち切るように返答したアルは警戒心も剥き出しに体勢を低くする。
殺気すら滲ませるアルにシモンは余計に慌てた。アルは預り知らぬことだが、山羊角族は戦闘民族ではない。
それでも長としてネーベルドルフの住民たちの上に立っているのは、山羊角族という種族が魔族の中でもかなりの上位に食い込めるだけの頭脳を持っているからである。
その分戦闘はからっきしだ。高位魔獣を狩るだけの力を持つ一党を率いるアルの殺気に慌てるのも無理はなかった。
「それはその通りだけれど、害意があるわけじゃなくて!教えてもらえたのは僕も、転生者だからだよ!何か助言があったらしてやってくれないか?ってヴィオレッタ様に頼まれたんだ!」
その言葉にアルの眉が跳ね上がる。しかしまだ短剣は納めない。
「転生者?あなたが?」
「そう!人間からの転生って意味では同じだけれど、君とは違う転生で、でもとにかく生まれたときには前世の記憶があった。でも受け入れられなくて・・・・その時にヴィオレッタ様の助けを借りたんだ」
「・・・・俺に視線を向けてたのは―――」
「同じ人間からの転生者だって教えてもらってたから。僕以外にそういう人は見たことなかったし、君は君で前の君とは違うんだろう?僕はそうじゃないから、どうしても気になって」
やにわにアルの殺気がフッと掻き消えた。
ここまで正確に己の内情を把握しているとすれば、記憶を読む魔眼やそれこそ異能でもない限り本当に師から聞いた可能性が高い。
アルはとりあえず話を聞いてみようと思ったのだ。
「ふぅぅ・・・。アルクス君、君っておっかないね」
本当に掻いていた冷や汗を拭うシモンにアルはジトっとした目を向ける。
「あんな言い方されれば誰だって警戒しますよ」
「まぁ・・・確かにね。友人によく胡散臭いって言われるんだ」
「だと思います」
素っ気なくも感情が読み取れる声音にシモンは嬉しそうな顔をした。
「それが君の素なんだね。ようやく話ができるくらいにはなれたみたいで良かったよ」
「まだ一応警戒はしてますよ」
「わかってるよ。とりあえずヴィオレッタ様に助けてもらった話をさせてくれないかな?そこで判断してほしい」
「・・・わかりました」
シモンがそこいらの株に腰掛ける。見て長くなるのかもしれないと思ったアルも近くの株に座った。
聞く姿勢を取ったアルにやはり嬉しそうなシモンは語りだす。機会は何度となく伺っていたがアルの警戒心が年齢の割に高く、なかなか難儀していたのだ。
「何から話そうか・・・・・そうだね、僕は元々聖国の人間だったんだ。と言っても今の過激な聖国になる前の―――今から150年くらい前の聖国かな。
その時も魔族と人間で身分は違ったけど一応同じ国で暮らしてたんだ。魔族に対しての偏見はその頃からあったけど、寧ろ獣人族達への扱いの方がひどくてね。ってそれは今も変わってないか。
ま、それは置いといて。その時の僕は法務貴族の家に生まれた子だった。ただ、生まれつき身体が弱くて22歳で死んだんだ。教会なんかにも足繁く通ってたんだけどちっとも良くはならなかった。
あぁ、やっぱり辛いなぁなんて思いながら死んだ、と思ったら次の瞬間には山羊角族の末っ子として生まれてた。訳が分からなかったよ。
苦しくて最期にようやく楽になれたと思ったら自分より何倍も大きい魔族たちに囲まれてたんだから。ほとんど半狂乱になった。
シモンって名前をつけられても前世が邪魔して自分の名前だと思えない。
両親の顔を見ても前世の敬虔な虹耀教の両親が浮かぶ。だから僕はあなた方の子供なんかじゃない。そんな感じで荒れに荒れてね。その頃には狂い掛けてた。
そんな時だった、ヴィオレッタ様がうちの故郷に来たのは。風の噂で聞いたって言ってふらっと来てね。
そこで僕は自分に起こったことが転生だって初めて知った。前の僕が生きてた時代は百年くらいは前で、前世の両親はきっともうこの世にいないだろうってことも。
その後はえらい剣幕で叱られたよ、既に老齢だった母や父は間違いなく僕のことを愛してくれているのになんて態度だってね。
そこで初めて両親の顔をしっかり見たんだ。両親は憔悴してたし――母さんなんて酷くやつれてたけど、それでも僕を心配してた。
気付いたら無性に涙が出てきて、僕は泣きながら謝ったんだ。なんてことを言ってしまってたんだろう、ごめんなさいってね。
きっと今の僕がいたらその場で殴ってただろうね。それくらい酷い言葉をぶつけてたことに気付いたんだ。
その後は僕が持ってる前世の記憶と生まれたときの年代の違いで変わってるものとか文化とか山羊角族っていうのがどんな種族なのかとか教えてもらったり、逆に聞かれたり。そうやってヴィオレッタ様に助けてもらったんだ。
そうして今の僕が出来上がった。
あ、両親はつい最近穏やかに旅立ったよ。あの時ヴィオレッタ様が来てくれなきゃああやって見送ることすら出来なかったと思う。だからあの方は僕の恩人なんだ」
「・・・・・・」
アルは言葉を発しなかった。自分が転生者だと告げたときの師と母の様子を思い出していたからだ。あんなに不安そうな2人はあの時以来見ていない。
―――――そういうことだったのか。
アルはようやく彼女らが胸を撫で下ろしていた理由を心から納得した。
「信じてくれるかな?」
黙っているアルにシモンが問う。
「・・・・ええ、信じます。俺を見てた理由も納得いきました」
「自分と同じ転生者だけど、人格は前世と違うとか別の世界からとか聞いたらいてもたってもいられなくてね。君の中のもう一人とか何か転生関連で悩みとかあったりするのかなって。僕に出来ることなら手助けしたかったんだ。ヴィオレッタ様が見ず知らずの僕にそうしてくれたみたいにね」
シモンはニコニコしながらそう述べた。アルは警戒を完全に解く。そして顎に手をやった。
―――――悩み・・・・?
「正直、転生関連の悩みは心の底からないですね。前の人格と俺は完全に独立してて会話もできるし、前世の記憶を思い出したときにはもう俺はアルクスでしたから。そういうものなんだって」
「そうかぁ。あ、じゃあアルクス君、君の方の話を聞いてもいいかい?さわりしか教えてもらえなかったんだよ」
「構いません。あ、でも他言無用でお願いしますね。根掘り葉掘り聞かれるの結構面倒ですから」
「そこは勿論さ。僕も誰にでも教えてるわけじゃないしね」
それからアルは前世の自分が死んだ理由、そして記憶を追体験してからを語って聞かせた。久しぶりに
シモンは未知の世界に興味を示したり、アルの経験談から自分のときとの相違点などを語るのだった。
***
共通点の少ない転生者同士の会話は意外と弾んでいた。喋り始めたときは夕暮れだったのに今はすっかり真っ暗だ。
いつの間にかネーベルドルフの住居に灯る明かりや松明の火が周囲を赤く照らしている。
―――――すっかり夜になっちゃったなぁ。
暗くなっている森を見やったアルを見てシモンもそう感じたのか立ち上がった。
「そろそろ戻ろうか?明日は朝から出立だろう?」
「そうですね。あ、一つ質問し忘れてました」
アルは短剣を納めた鞘を後ろ腰に収めつつそんなことを言う。
「なんだい?」
「師匠から物資の中継地点で重要なとこだって教えてもらってたんですけど、ここって旧街道とはいえ共和国から近い場所ですよね?30
やはり人間のいる場所から1,500km以上離れた場所で生活してきたアルからすればどうしても近く感じてしまう。
「ああ、そういうことか。ここは元々山羊角族達の住んでた場所の近くでね。普段は霧や煙樹って呼ばれる木が周りに生えてて見つかりにくいんだ。
もう十何年も前にヴィオレッタ様から隠れ里を建造するって聞いたとき、じゃあここを物資の中継地点として新しい集落を作らせてくれって頼んでね。
だから住民たちは元々人間と取引をしてた人だとか引退した武芸者がほとんどだよ。要は人間と接しても嫌じゃないって人たちの集まりだね」
「・・・・・」
アルはその回答にシモンの本意を覗いた気がした。そして一瞬逡巡し、結局訊ねてみようと口を開く。
「あの、シモンさんは―――」
「うん。いずれ普通に人間と取引できたらなって思ってるよ。魔族と人間がお互いにちゃんと理解できれば今の聖国みたいなことにはきっとならないだろうから」
喋っているうちにアルが非常に賢いことに気付いていたシモンは先んじて答えた。山羊角族の最も得意なことは頭脳労働だ。その程度の先回りなら造作もない。
「じゃあ、その、やっぱり―――」
「ううん、未練とかじゃあないよ。ただ、
笑って、泣いて、怒って、悲しんで。まったく別の価値観だったら難しいかもしれない。でもそこまでの違いはないっていうかそこらへんなんてほぼ一緒だと思わないかい?」
「・・・そうですね。異世界の人間でもこっちの半龍人でもそこは変わらないです」
虚を突かれたような表情をしていたアルは、くしゃっと笑ってそう返した。それににへらっと笑みを浮かべたシモンは更に続ける。
「ちょっと特殊な事例の君でさえそうでしょう?だからそれが伝わればいいな、いいや伝えてやる!って思ってるんだよ。勿論、このネーベルドルフにまで人間を呼び込む真似はしないけれど。
まずは商人たちと積極的に関わって、いずれは当たり前に人間たちと僕ら魔族が関わっていけたらな、と思ってるんだ」
現状、帝国くらいにしか魔族はいない。王国は昔から魔族が少なく、聖国と共和国は言わずもがな。
生存圏は昔より狭く、人数も大きく見れば減少の一途を辿っている。だからこそシモンは大望を抱いた。
魔族だからと警戒されることも怖がられることもなく、除けられない世の中になってほしい。その夢の第一歩がこのネーベルドルフなのだ。
「立派だと思いますって月並みな感想は要らなそうですね?」
アルはそう言って愉快そうに笑う。楽しそうな未来だと思えたからだ。
「そうだね。できれば手伝って欲しいくらいだよ」
シモンの穏やかな目には情熱が灯っている。
「帝国で何か名でも上がれば少しは手伝いになるかもしれませんけど、まだどうなるかわかりません」
アルの夢というか目標は父のように一から信頼を築き上げられるだけの人物になること。まだ始まってもいないため、こればかりは何とも言えない。
自分の将来などわからない方がマシだといつぞや長月は言っていたが今は知りたい気分だった。
「君らの将来に期待だね」
シモンが悪戯げに微笑む。
「月並みな言葉ならいりません」
ぴしゃりとツッコミを入れたアルとシモンは顔を見合わせ、一拍してから笑い合った。
夜の帳はすっかり下りてしまっていたが、2人は明るい声で尚も語らいながら村落へと戻っていく。
アルとシモンにとって奇妙な連帯感を覚える一日の締め括りとなるのだった。
評価や応援等頂くと非常にうれしいです!
感想も受け付けておりますので是非ともよろしくお願い致します。