日輪の半龍人   作:倉田 創藍

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ここでは初投稿になります。読んで頂ければありがたい限りです。


また「小説家になろう。」と「カクヨム」にて同作を2~3日に1度連載投稿しております。


現在両サイトにて投稿されているものとこちらに投稿するものは少々文体が違う場合があります。


こちらへは定期的にある程度纏めて更新していく予定です。


7話 交易都市の跡取り令嬢ラウラ・シェーンベルグ (虹耀暦1286年9月:アルクス14歳)(虹耀暦1286年9月:アルクス14歳)

 ラービュラント大森林を抜けてすぐの旧街道、そこを道なりに北東へ行くと魔族から見れば雑木林―――人間から見れば森がまばらに点在している。

 

 その中の一つに魔族4名と人間2名の計6名はいた。街道から見える位置には煙一つ見えない。そこを野営地として火を囲んでいた。

 

 アルクスは朱髪の少女ラウラから話があると言われ、強烈な疲労と眠気を堪えながら彼女らへ視線を向けている。仲間であるマルクガルムや凛華、シルフィエーラも同じく真面目な顔だ。三ツ足鴉の夜天翡翠ですら降りてきてラウラを凝視している。

 

 ラウラは傍らに座る栗色の髪をした少女騎士ソーニャと目配せし頷き合うと、息を大きく吸って語り始めた。

 

「まずは昼間のお礼を。助けて下さりありがとうございました。私は共和国の交易都市ヴァリスフォルム―――その藩主ノーマン・シェーンベルグの娘、ラウラ・シェーンベルグと言います。こちらは従者であり共に育てられたソーニャ・アインホルンです」

 

 藩主とは共和国の各都市にいる、言ってみれば代表者だ。その都市内議会における最高議長であり、よっぽどのことがなければ世襲制で交代する。

 

 国政に携わる評議員も兼ねているが、現在聖国による実質的支配下にあるため最低限の議会しか開けていない。マルクは得心がいったとばかりに声を上げた。

 

「都市代表の娘・・・妙に品の良い喋り方だったのは貴族ってやつだからか?」

 

「まぁ、そんなところです。他国で言えば貴族に当たります」

 

 王国や帝国から見ればまず間違いなく貴族扱いされる身分ではある。

 

「それで?その共和国にいるお偉いさんの娘が聖国の神殿騎士に追われていた理由は?罪人ってわけじゃないんだろう?」

 

 今度はアルが問うた。どう見たってそんな風には見えない。ラウラは当然と言うように首肯する。

 

「はい、もちろんです。これからそのお話をさせて頂きます」

 

「すまない、話の腰を折った。というか、話してもいいのか?」

 

 早合点してあれこれ質問をぶつける癖はヴィオレッタ師匠から魔術の講義を受けてきた弊害だ。アルは素直に謝罪して続きを促す。

 

「はい。知ったからには巻き込む、なんて腹も抱えていませんからご心配なく。単にこちらの誠意みたいなものです」

 

 ラウラは静かにそう言った。まだ頼みを言っていないため、それを知らないアルとマルクは疑問符を浮かべる。

 

「誠意・・・?一体何の―――あっ、悪い。続けてくれ」

 

 またもやどういうことだ?と思考が先走り、口に出した己を抑えながらアルは仕草(ジェスチャー)でどうぞと示した。

 

「元々うち―――シェーンベルグ家は古い商家からその地位に立った家だったそうです。商売柄人間とか魔族とか獣人族とか区別もなく接してきたし、父も同様に育ったと聞いてます。

 

 しかし、私たちが生まれた頃・・・・丁度聖国が影響を強めてきて、共和国内の魔族への()()()()()()()()()()()()()()()らしいんです。父の父―――私の祖父もそのやり方に強く反発していたんですが、周辺都市が聖騎士率いる神殿騎士たちの武力によって攻め落とされたと聞いて市民の為と従うしかなく、ヴァリスフォルムを気に入って住んでくれていたり滞在していた魔族たちを説得して逃がしたんです。

 

 父もそれを手伝ったと聞いています、相当骨が折れたと言ってました。

 

 ですが、それが聖国に目をつけられる原因となってしまったんです。日々圧力が高くなっていったのですが、祖父や父は曲がりなりにも有権者ですし、王国や帝国にもある程度顔が利きます。

 

 強引な手段を使えば唯でさえ外聞の悪い聖国の評判に致命的な一撃を与えることになる。おそらく聖国はそう考えたんでしょう。

 

 実際、祖父と父による魔族の逃亡幇助の少し後に、帝国と王国が聖国による宣戦もない武力侵攻は一切認めず、兵を引かせないなら連合を組んで聖国へ攻め入ると突きつけたことで駐留していた多くの聖国軍は引きました。

 

 しかし主要な機関は抑えられたまま。私たちが生まれる前に主要都市を実効支配下に置いてしまったんです。勿論、ヴァリスフォルムもそうです。

 

 祖父も父も最後の一線こそ越えさせませんでしたが、ほとんど支配されている状況・・・・。

 

 そんな折です。強硬に聖国からの支配へ抵抗していた父たちに手を焼いた彼らは、生まれたばかりの私に目をつけたんです。正確には父ノーマンの実子である私とその友人の忘れ形見―――娘同然に育てているソーニャに。

 

 母は私を産んですぐ病に倒れてしまったので、父にとっての()()はそこしかありませんでした。

 

 そこで祖父が父へと代替わりし、政治に関するあれこれを父に任せ、祖父と祖父の私兵たちが常に私たちを護衛することにしたんです。

 

 父はヴァリスフォルムを安定させ、隙を見せないよう統治し、祖父が私たちを守る。そういう対策でした。

 

 お陰で私たち二人とも少々窮屈ながらも聖国の”反魔族思想”とでも呼んだらいいんでしょうか?そんなものに染まることなく生きていけました。

 

 ですが私が十二歳になってすぐ、祖父が亡くなったんです。心労と病気だと癒者は言ってましたが本当かどうかわかりません。日に日に弱っていく祖父を私たちは見ていることしかできませんでした。

 

 そしてすぐに問題が起きたんです。祖父の私兵たちは変わらず私たちを守ってくれていたのですが、聖国は父ノーマンへ私たちの聖国の学院を勧めてきたんです。

 

 聖国の学院―――修道院はざっくり言ってしまえば、都市の現藩主への人質と洗脳教育を行う為に聖国が造った場所です。

 

 父は修道院がどんなところか知っていましたから当然激怒して私たちを共和国の最西に位置する街へ秘密裡に移して難を逃れたました。表向きは都市内で暮らしているように見せて。

 

 その田舎街で私たちは二年ほど生活していました。主要な都市に騎士たちも集中していたので、馬の乗り方をそこで学んだり、ソーニャは私兵たちから本格的な騎士の剣盾術を教わったり、伸び伸びとした生活でした。

 

 ですが、つい先日父から手紙が届いたんです。痺れを切らした騎士たちが都市内の住宅へ乗り込み、私たちがいないことに気付いたと。

 

 すぐに帝国へ逃げるよう書かれていました。ヴァリスフォルムはいまだに住民共々、聖国への抵抗が強い地域だそうで早く人質を手に入れたかったんだと思います。

 

 慌てて準備して出てきたところであの神殿騎士たちに襲われたんです。おそらく誰かから情報を無理矢理聞き出したんでしょう。

 

 逃げる途中で馬車は壊され、守ってくれた私兵たちや身の回りの世話をしてくれていた方々は次々と殺され・・・・それでも彼らは私たちを馬に乗せて、逃がしてくれたんです。後は、貴方がたの知っている通りになります」

 

 長く、重い話だった。語り終えたラウラは最後の方で手をぎゅうっと握りしめ、ソーニャもギリッと歯を食い縛っている。

 

 彼女らが周囲の親しかった人々を失ったのは昨日の話なのだ、無理もない。気丈に話しきっただけ強い方だ。

 

 アルたち4人は絶句するしかない。

 

 ―――――そこまでやるのか、聖国の連中(あいつら)は。

 

 しばし沈黙が支配し、焚火がパチッとたまに火の粉を飛ばす音だけが響く。

 

 アルは、じっと彼女ら2人を見て口を開いた。

 

「・・・・・事情は理解した。君らが俺たちへあまり警戒していなかったのも今ので理解できた」

 

 魔族だという時点で紛れもなく憎い聖国の手の者ではないからだ。

 

 おまけに図らずも彼女らの復讐を果たしてくれた相手だ、良い印象にもなるだろう。

 

「それで・・・そこまで俺たちに話したのはなぜだ?さっき言っていた誠意と関係ある話か?」

 

 淡々とアルは問う。薄々わかっているが、ここはハッキリさせるべき場面だ。

 

 ラウラはゴクリと唾を呑む。アルから感じるのは父ノーマンと同じ、命を背負っている者の重みだ。

 

 涙が出そうなくらい目を見開き、魔族の頭目をまっすぐ見つめて頼みを口にする。

 

「帝都の学院へ行くと、聞きました。私たちも目的地は同じなんです。最悪どこかの都市―――私たちが帝国にいると認識してくれる方がいて、簡単に聖国の手が届かない場所。そこでならどこで別れてもらっても構いません。あなた方の旅へ同行させて下さい。お願いします。こんなところで死ぬわけにはいかないんです。父や彼らの為にも生きてなきゃ、いけないんです」

 

 そう言ってラウラは頭を下げた。ソーニャも背筋を正して同様に腰を折る。

 

 アルはそれを見て苦々しい表情を浮かべた。

 

 ―――――助けはしたい、だが間違いなく危険も降りかかる。

 

 悩んだ末に仲間たちの顔を見た。火に照らされた彼らの目がアルに向く。

 

「お前の判断に任せる、アル。方針は頭目が決めるんだろ?俺らに否やはねえ、お前だって連中と因縁がないってわけじゃねえだろ」

 

 マルクの言葉にアルは「しかし、」と言い募った。

 

 ―――――わかってるのか?

 

 問うような視線を向けても彼らの返事は変わらない。

 

「あんたの好きにしなさい。我儘なんて思わないわよ?」

 

「そうだよ、思ってる通りにしたらいい。たぶん皆気持ちはいっしょだしね」

 

 凛華とエーラの言葉を受け、アルは黙考した。

 

 再度静寂がその場を支配する。

 

 しかし比較的すぐにアル自身が破った。

 

「いくつか条件と質問がある」

 

「何でしょうか?」

 

 ラウラとソーニャは頭を上げ、アルの方を見る。赤褐色の瞳には強い光が宿っていた。

 

 たじろぐほどの眼光に視線を縫い付けられたラウラは魅入られかけ、丹田に力を込めて見つめ返す。

 

「俺たちの目標はあくまで来年のターフェル魔導学院。その入学試験に向けて移動日程を組んでる。それに合わせてもらう。道中でどこかに滞在することもあるし、それが都市部でない可能性もある。それと移動や戦闘中は頭目である俺に従ってもらう」

 

「かまいません」

 

 妥当だと思った。

 

「金は持ってるか?」

 

「あります。共用通貨を持ってます」

 

「俺たちは武芸者登録をする予定だ。そっちが登録するかは任せるが、長期の依頼として俺らに・・・・・この際だ、帝都までの護衛を依頼すること。金額は道中の必要経費分。当然俺らもそれ以外の依頼もこなすつもりだから踏んだくるつもりはない」

 

「その程度なら問題ありません」

 

 そちらも妥当だ。ラウラは吹っ掛けられるかもと一瞬だけ思ったが杞憂に終わった。

 

「条件は以上だ。質問に移る」

 

「はい」

 

 思ったより少ない条件に肩透かしを食らっていたラウラとソーニャにアルは問う。もっとも重要な質問だ。

 

 

「あいつらと戦えるくらい、強くなりたいか?」

 

 

「「―――っ!」」

 

 その問いはラウラとソーニャの頭を目一杯殴りつけてきた。アルは眼光鋭く、淡々と再度問うてくる。

 

「返答によっては護衛方法を変えなきゃならなくなる。どっちだ?」

 

 護衛方法を変える―――それはラウラとソーニャを戦力として含めるかどうかという問いでもあり、意識を問う質問だ。

 

 戦うか、守られるか。お前たちはどっちになりたい?

 

 アルはそれを問うたのだ。ラウラとソーニャは強く手を握り締めて、

 

「・・・強くっ・・・なりたいです!!」

 

「私もだ・・・!」

 

ほとんど叫ぶように答えた。

 

 二度とあんな―――親しい人たちを失いたくない。その一心だった。アルが言ったのは闘い方を教えてもいい、という意味だ。

 

 30名ほどいたあの神殿騎士たちを一方的に倒してみせた彼らの強さ。望んで手に入るのなら欲しい。飛びつかないわけにはいかなかった。

 

 アルはその返答を受け止め、ゆっくりと首を縦に降ろす。

 

「わかった。護衛依頼の報酬に戦闘術と魔術の講義分も含むことにする。それでいいか?」

 

「お願いします!!あっ、ありがとうございます!」

 

「感謝する!本当に、感謝する!!」

 

 話は纏まった。アルはゆっくりと肩の力を抜いて仲間たちを見る。

 

 いいんじゃない?という凛華の視線に、嬉しそうにニコニコするエーラ、フッと口の端を歪めて笑うマルク。

 

 ―――――どうやら正解を引いたらしい。

 

 アルの雰囲気も柔らかくなった。本来の柔和な雰囲気で新たな仲間2名へ頭目として告げた。

 

「明日から移動開始だ。二人も疲れてるだろうし先に寝てて。途中で凛華かエーラが起こしに来るだろうから、そしたら交代で」

 

「は、はい・・・あの、いいんでしょうか?」

 

「私は馬から落ちて寝転がってただけだし、何というか申し訳ないんだが・・・」

 

 雰囲気の変化にも驚くが、申し訳なさが勝ってしまう2人に思わぬところから援護が飛んでくる。

 

「アルが寝なよ。疲れてるでしょ?」

 

「そんなにやつれた顔してるの見たことないわ」

 

 凛華とエーラ、魔族の少女2人組だ。

 

「え、でも・・・」

 

「でもも何もないよ」

 

「休んでなさい」

 

「そう言われてもさ」

 

「ラウラとソーニャとアルが先に休みでいいでしょ?」

 

「二人だって疲れて―――」

 

「諦めろ、アル。こいつらは頭目がふらふらしてちゃ不安だって言ってんだろ」

 

 マルクからそう言われてアルは疲れた頭で納得した。そう言われればドッと疲れが押し寄せてきた気がする。

 

「・・・あ、なるほど、わかったよ。じゃあそういうことで」

 

 ラウラとソーニャへ改めてそう告げて休もうとするアルへ、

 

「まだだよ?」

 

「ん?」

 

「大事なこと忘れてるわよ」

 

「大事なこと?」

 

 凛華とエーラが終わってないぞと告げた。

 

 ―――――何かあっただろうか?

 

「この六人で一党を組むってこったろ?ならきちんと自己紹介しとかねえと。特に俺らは魔族だろ。きちんと把握してもらっといた方がいいんじゃねえか?」

 

「あ・・・忘れてた」

 

 彼女らの前で戦ったからわかるだろうと思っていたが、己が一番わからない奴だった。

 

 ラウラとソーニャはきちんと名乗りを聞いてくれるらしい。座り直して心なしかキラキラした目を4人へ向けている。

 

「じゃあボクからね。シルフィエーラ・ローリエだよ、森人族。”魔法”は―――また明日でいいねっ?エーラって呼んで」

 

 エーラも愛称だったかとラウラとソーニャは思った。

 

「じゃ、あたしね。イスルギ・凛華、鬼人族よ。もっと詳しく言えば冰鬼人ね。凛華でいいわ」

 

 今更角に気付いたのか興味津々な目を向ける人間の少女2人。そこへマルクが続く。

 

「マルクガルム・イェーガー。知ってるだろうが人狼族だ。あと・・・特にねえな。あ、マルクでいい」

 

 まさかこれも愛称だったとは。そんな顔をする2人にマルクはくくっと笑った。人狼の姿を先に見せている分気楽なものだ。

 

 ―――――脅えられる心配もなくていい。

 

 マルクは心中でそう溢す。

 

 次いでアルが疲れも限界と言った表情で口を開く。

 

「アルクス・シルト・ルミナス、半龍人。アルでいい」

 

「えっ?」

 

「んっ!?」

 

 これで終わりと言わんばかりにアルは眠気眼をこすった。しかしラウラは手を上げて問う。

 

「あのぉ、半龍人ってどういうことですか?」

 

「半分人間で半分龍人族ってことよ」

 

 なぜか凛華が答えた。もう限界だと天幕を敷いた上にアルはそのまま寝転がる。天幕を張るのも面倒だった。

 

「それって―――」

 

 ソーニャの言葉に答えて寝ようと思ったが、目をつぶった途端アル意識は落ちていく。

 

 ―――――精神的疲労がここまで体力を奪うとは。

 

 まともに思考できたのはそこまで。アルはすぅっと眠りの世界へ落ちてしまった。

 

 そこへ凛華がそろりとやってきて、起こさないよう膝を差し入れる。そのままアルの頭を撫でているとエーラの声が届いた。

 

「半魔族ってことだよ。アルのお父さんが人間でお母さんが龍人なの。だから”魔法”は使えないけどボクたち全員と戦ってそれぞれ勝ったから頭目やってるんだよ」

 

「ま、次は俺が勝つけどな」

 

「あたしもよ」

 

「「ええっ!ちょ、ええええ~~っ!?」」

 

 ラウラとソーニャが本物の姉妹のように驚嘆の声を上げるなか、アルは心地の良い感覚と落ち着く匂いですぅすぅと深い寝息を立てている。エーラと凛華がたびたびやるせいですっかり落ち着くようになってしまった。

 

 魔族ですら初めて見たラウラとソーニャが眠気など吹き飛ばし、どういうことなのかと根掘り葉掘り訊ね、アルのプライバシーに抵触しないくらいのことを凛華とエーラが答えていく。そうこうする内にだんだんと夜は更けていくのであった。

 

 ちなみにだが、やはりこの一党の中で一番冷静なのはマルクのようだ。適当なところで眠りについていた。

 

 

 ラウラ・シェーンベルグ、ソーニャ・アインホルンの両名が魔族と人間の混成一党(パーティ)の一員として馴染むのにそこまで時間はかからないだろう。そう予感させる夜となったのであった。




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