日輪の半龍人   作:倉田 創藍

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ここでは初投稿になります。読んで頂ければありがたい限りです。


また「小説家になろう。」と「カクヨム」にて同作を2~3日に1度連載投稿しております。


現在両サイトにて投稿されているものとこちらに投稿するものは少々文体が違う場合があります。


こちらへは定期的にある程度纏めて更新していく予定です。


8話 帝国へ向けて (虹耀暦1286年9月:アルクス14歳)

 アルクスたち4名に人間の少女2名が追加された6名一党は、日が出始めた内から野営地を片付け始めていた。

 

 深夜0時もそこそこ回った頃、凛華と交代したらしいシルフィエーラに膝枕されて眠っていたアルが起きてきて少女たち4人へ眠るよう告げたため、そこからは通常通りの野営となったのだ。

 

 凛華とエーラが交易都市藩主の娘ラウラ・シェーンベルグとその従者ソーニャ・アインホルンに天幕と寝袋を貸し、彼女らはアルの天幕と乾いていた龍鱗布を借りて眠りについた。やはり彼女らも疲れていたらしい。寝息はすぐに聞こえてきた。

 

 アルとマルクガルムは火を囲んだままぼけーっと見張り番につき、今は身支度をしている彼女らを待ちつつ男2人で天幕を片付けているところだ。といっても『念動術』でアルが折り畳んでぐるぐる巻きにしているだけだが。

 

 雑談として追手になるであろう神殿騎士の装備について2人は話し合っていた。

 

「あいつらの胸甲、俺の爪でも貫通は難しかったぞ」

 

「こっちもだよ。斬り抜けないっていうか刃が逸れる形状してたから『蒼炎気刃』で斬った」

 

「俺も似たような理由で『雷光裂爪』を使った」

 

「それにしても、防御の硬さに較べたら攻撃は随分お粗末だった気がする」

 

「まぁあれだけ体勢崩されてりゃあ無理もねえけど、もっといかつい攻撃手段を持ってると思ったんだけどな」

 

「俺もだ」

 

「お前の親父さんが戦ったって言われてる聖騎士はそういうもんを使ってたんだろ?」

 

「らしいね。でもそれっぽいものは見つからなかったよ。装飾は多かったけど鋼鉄槍とか剣っぽかった。弓と盾を持ってる連中も少なかった」

 

「二人だったから舐めてたとかかね?」

 

「でも護衛の人たちがいたんだろ?」

 

「あ、そう言われりゃそうか」

 

 弱過ぎると考えるのは早計だと話しながら、焚火で湯を沸かしつつ背嚢に天幕をくくりつける。2人とも難しい顔だ。

 

 そこへウェーブ癖のついた朱髪を揺らしてラウラが来た。すぐ後ろには騎士鎧をつけたソーニャもいる。

 

 昨日は大して確認を取らなかったがこの鎧も胸甲で、下半身は剣道の垂れのようなものに鋼鉄製と思われる金属板がついていた。手甲と足甲もしっかりついている。ガチャガチャ言わないのは干渉材を使っているかららしい。

 

 魔獣の皮革を使った(ブーツ)や最低限の『撚糸』製の装備を身に着けている魔族組とは正反対だ。

 

「彼らの武器は魔晶石が仕込んであるんです」

 

 話が聞こえていたらしい。

 

「魔晶石?燃やした時見つけられなかった気がするけど」

 

 アルは一応吐き気と戦いながら装備を確かめていたがそれらしいものはなかった。

 

「わかりやすいところにはついてないんです。弓の持ち手や鍔元に埋め込む機構があって、そこに入れてるんです」

 

「そんな機構(ギミック)があったのか・・・気づかなかった」

 

 ふむと顎に手をやり、こんなことなら一つくらい持ってくるんだったと唸る。そして再度口を開いた。

 

「だとしたらなんでその魔晶石入りの武器を使わなかったんだろ?」

 

「頭目殿が副司令官みたいな騎士を倒されたからでは?そもそも反撃されること自体想定外のはずだ」

 

 ソーニャはそう言った。命令もなくあの密集地帯で魔晶石を使うなど自傷行為そのものだろうという意見だ。

 

 ―――――同士討ち(フレンドリーファイア)か。

 

「そう言われりゃ連中、練度も高くなかったしな」

 

 とマルクが言う。自分たちの連携は互いをよく知っているからこそのもの。近くを矢が掠めようが属性魔力が駆け抜けようが気にしないのは信用と信頼のどちらもあるからだとよくよく思い返していた。

 

「んー・・・なるほど?」

 

「といっても彼らは位の高い騎士達ではないと思います。それこそ聖国の兵士から騎士に上がったくらいのはずです。私たちを捕らえるのに精鋭は要らないでしょうから」

 

「最新式の連中はまた別ってことか」

 

 マルクの呟きにラウラは頷く。

 

「おそらくは、ですけどね。最初に来た騎士たちはもっと多かったんです。私たちの護衛に主力を割いたんではないかと」

 

「厄介な方に主力をぶつけて、残った連中が捕獲部隊か」

 

 マルクがそういうことかと手を打った。この推測は実のところ当たっている。

 

「そうすると次の追手とぶつかったときは昨日ほど簡単じゃねえと思っといた方が良いな」

 

 そう締めるマルクにアルは敵の想定と行程を考えつつ目を向けた。

 

「だな。誤魔化しが利くのはどれくらいだと思う?」

 

 誤魔化し――――神殿騎士の本隊と思われる連中が動き出すまでの話だ。

 

「ソーニャ、お前らがいた田舎の街からここまでどれくらいだ?」

 

 情報が欲しいとマルクがソーニャへ質問する。

 

「えっと・・・私たちはかなり迂回して半日は逃げ続けてましたけど、それでも街道沿いに行けばそこそこあると思います。それこそ50km(キリ・メトロン)くらい?かと」

 

 怪我をしていて感覚が微妙だったソーニャの代わりにラウラが答えた。アルやマルクの想定よりかなり逃げ延びていたようだ。

 

「連中には馬と装備があるし、アルが綺麗サッパリ埋めちまってるから痕跡を探す時間もある」

 

「かと言って探し続けたりはしないはず。目標を確保してない、そこを重視すると思う」

 

「なら・・・長くて三日、早くて二日ってとこか?勿論昨日を含めてな」

 

 馬要らずの人狼が自分の行軍速度を計算しつつ結果をはじき出す。

 

「残ってるのは一日か。その間に帝国の端でもいいから街へ辿り着くのが最善だな」

 

 アルは猶予が短い方で計算した。

 

「最初の街、随分急ぎになっちまうな。ていうか辿り着けるかね?」

 

「彼女ら二人を馬に乗せて俺たちは街道横を『陸舟(おかぶね)』で行く。もしくはここで馬を放して二人も『陸舟』に乗せる」

 

 どちらにしても今取れる最速の移動手段だ。街道を使わないのは冰のコースが誰かの目に触れることも危険だと判断しているからである。

 

「ふぅむ。お前らの馬、愛着か何かあるか?それか俺らにとっての翡翠みたいなやつか。ないならここで手放してもらった方がたぶん早えぞ」

 

 マルクが急にラウラとソーニャへ視線を向けた。今までの意見交換が途中から早過ぎて見てるだけになってしまっていた2人は少々慌てつつ答える。

 

「い、いや、私たちの馬ではない。私兵の馬だ」

 

「ここで放すのに抵抗は?」

 

「私はありません。助けてくれた良い馬です。巻き込まれて死なせたりは、したくない」

 

 ラウラはそう答えながら馬の頭を撫でた。

 

「そうか、じゃあ鞍や手綱を外して放してやってくれ。それと街道とは別の方に放してくれ。変に追われても可哀そうだ」

 

「わ、わかりました。じゃあこっちにおいで」

 

 賢い馬なのだろう。ラウラに連れられて大人しくついて行った。

 

「あいつらに伝えとくぞ、水場に用もあるし」

 

「頼んだ」

 

 アルの返答にマルクがさっと走っていく。ソーニャにとっては一連の会話が早過ぎた。

 

 朝一で脳をフル回転させるようなやり取りを平然と行うアルとマルクには少しばかり畏敬の念を抱く。

 

「どうかした?」

 

 ぼーっとしていたソーニャへアルが声をかけた。

 

「い、いや。頭目殿とマルクはこの一党の頭脳なのだなと」

 

「はは、そうは見えないかもしれないけどこのくらいの会話なら凛華とエーラもするよ。ラービュラント大森林を抜けて来たんだから」

 

 そう言われればそうだ。昨日凛華とエーラが教えてくれたのだ。それにも驚愕したが納得いった。

 

「つまり・・・慣れの問題か」

 

「そうだね。帝都まで一緒に行くんなら嫌でも慣れるよ。ってか俺だけ殿とか要らないよ、戦闘中呼びにくいだろうし」

 

 そう言って苦笑するアルにソーニャは同じく苦笑いを返す。

 

「すまない。なんとなく上下を気にしてしまうんだ。今後は控えよう」

 

「まぁ呼びやすいように呼んでくれればそれでいいよ」

 

 強要することもない。アルはそう結論付けるのだった。

 

 

 ***

 

 

 それからおよそ40分後―――時刻で言えば午前6時半前といったところ。既にアルを含めた6名一党は出発準備を整えた状態で街道からおよそ100m離れた位置についていた。

 

 馬は野に放っている。やはりあの馬は賢い馬だったらしく、放した方向へ顧みることもなく駆けて行ったそうだ。

 

「じゃあ行こうか。翡翠、今日は頼むぞ」

 

「カァ!」

 

 アルの声に凛華とエーラ、マルクが無言で頷き、ラウラとソーニャはそわそわした様子を見せる。夜天翡翠は一声鳴くとバサッと飛び立っていった。

 

 今回は夜天翡翠に大事な役を任せている。街道沿いに飛ぶ、ガイド役を頼んでいるのだ。

 

「『陸舟』」

 

 アルが下から上へ腕を上げると、土製の舟がボコリと地中から顔を出した。

 

「おおっ!」

 

 ソーニャは素直に感嘆する。ラウラも声こそ出していないがわくわくした表情を見せた。

 

 魔族はやっぱりこういうのが得意なんだなぁと多少勘違いした感想を抱いている。

 

「前よりちょっと大きいわね」

 

「長くなって、広くなった?」

 

 凛華とエーラは違いに気付いたらしい。

 

「二人増えたからね。あんまり横に広げても邪魔だし縦に伸ばしても舵取りしにくいだろうからどっちも少しずつ広げたんだよ」

 

「なるほどぉ~」

 

「いいんじゃない?あたしたちの座るとこもちょっと広くなってるし」

 

 ちょっと変わったことでうきうきしている鬼娘と耳長娘。早速乗ってみようとしている。そんな2人を尻目にマルクはアルへ訊ねた。

 

「いつの間に弄ってたんだ?」

 

「いや弄ってない。元から変えられるようにしてたんだよ」

 

「まさか・・・こういう事態を読んでたのか?」

 

「んなわけないじゃん。土産持って里帰りすることもあるだろうと思って創ってたのが、うまい事いってるだけだよ」

 

「あ、そういうことか。なるほどな」

 

 アッサリ返すアルにマルクは手をポンと打つ。流石にあのヴィオレッタの直弟子なだけはある。術式の抜けや調整できる部分を残して完成度を高めておくのは彼女のやり方だ。

 

 これはこれ、それはそれ、と似たような魔術をたくさん作ることをしないというのが最大の特徴である。術式理解が深くなければ不可能だ。

 

 そんなことを話している内に凛華とエーラは船首の方に乗り込み終えた。ラウラとソーニャはどこに乗ればいいんだろう?という顔をしている。

 

「あ、二人は後ろから一つ前の席で」

 

 少々申し訳なさそうなアルの声にラウラとソーニャはあそこかと座席についた。

 

 ソーニャが盾を左手に括り付けて左側へ、ラウラがいつでも抜けるようにと右手に妙な長さの剣を持って右側へと。

 

 思いの外しっかりしている座席の前には何やらそこにだけ棒がついていた。

 

 アルは彼女らの前に座り、術式に魔力を送り込む。

 

「二人とも座席の前のやつを掴んでて。三人とも、いいよ」

 

 言われるがままラウラとソーニャは棒―――手すりに摑まった。

 

 その直後、エーラが『妖精の目』を発動させて草原の背の高い植物たちを()()()

 

 凛華がそこへ冰のコースを放つ。

 

「道が・・・」

 

「ああ―――――おぉっ!?」

 

 一瞬で道が作られたことに目を丸くしたラウラとソーニャは後ろからの衝撃でも驚いた。

 

 手すりを離さないまま後ろを振り返れば人狼となったマルクが『陸舟』を押している。

 

 知っているとは言えその怖い見た目に心臓を一瞬跳ね上げた2人にマルクはニヤリと笑いつつ、脚にグンッと力を込めて地を蹴りつけて『陸舟』を押した。

 

 ザザアアッと冰を削るような音と共に魔術で出来た舟が滑り出す。最後にもういっちょっとマルクが押し、加速をかけた状態で跳び乗ってきた。

 

「ひゃあ!」

 

 人狼が迫ってくるのが思っているより怖かったらしくラウラが悲鳴を上げる。

 

「おいひでえな」

 

 マルクは人間態へゆらりと戻りながら文句を言った。

 

「す、すいません!」

 

「いいけどよ」

 

「ぷっ」

 

「アルてめっ!」

 

「あっはははは!そりゃ怖いさ」

 

 噴き出したアルの声を聞き逃さなかったのか、マルクが声を飛ばす。耐えられなくなったアルは前を見たまま愉快そうに笑い声を上げた。

 

「ったく」

 

 ぼやきながらマルクが後ろへ暴風を流していく。『陸舟』の速度が徐々に増してきた。

 

「すいません・・・すごいですね」

 

「ああ、こんな手段があるとは」

 

 ラウラとソーニャは手すりを握ったまま瞳を輝かせている。魔術や魔力運用の可能性と馬車ほど速くはないが馬で2人乗りして走るより断然楽だということに感動を覚えていた。

 

 一頻り笑い終わったアルへエーラが振り返って声を掛けてくる。

 

「アルー。これ、馬の方が速いんじゃない?」

 

 大森林を抜けるのに較べれば道案内も大して苦もないらしい。

 

「速いだろうね。だから秘策を考えたんだ。凛華とエーラの負担が増しちゃうけどやってみてもいい?」

 

「よくわかんないけどあたしは大丈夫よ。まだまだ余裕だもの」

 

「ボクもだいじょうぶ~。前より楽だしね」

 

「よーし、じゃあやってみるか」

 

 アルはその言葉と共に『陸舟』の術式へと魔力を流した。すると平らな舟底へジャキッと刃が生えてくる。

 

 スケート靴についているあれ(ブレード)が計3本。障害物と起伏だらけの大森林では自殺行為だと判断したアルがやらなかった本来の『陸舟』だ。

 

 起伏の少ない平地であるからこそきっと生きる。アルはそう思いながら冰面と(ブレード)の接している(エッジ)を出来る限り細くしていった。

 

 ザアッ―――という滑走音が明らかに変わっている。舟底全面を削っていた先ほどに比べればかなり小さい。

 

 アルは仕上げとばかりに後ろへ向いて

 

「掴まってなよ!」

 

と全員へ警告を発しつつ、斜め上へ向け爆炎を噴射した。片手とは言えアルの加減なしの炎だ。

 

 ゴオオオオオオッ!という音と共にソリと化した『陸舟』が炎の尾を引いて急加速していく。

 

「ひゃああっ!」

 

「ううううっ!」

 

 ラウラとソーニャは慣れない加速にぎゅうっと手すりにしがみついた。

 

 森で滑走していた頃とは比べ物にならない速度―――Gに身体を押さえつけられながら凛華とエーラが慌ててコースを作っていく。

 

「ちょ、ちょっとアル!」

 

「あんた加減考えなさい!」

 

「だから負担増えるって言ったじゃん!」

 

 爆炎を噴射しながらアルは叫び返した。

 

 ―――――あと2秒。

 

 心中でカウントを終えたアルが噴射していた炎をひゅっと止める。『陸舟』は初期加速のおかげで慣性移動で充分なほどの速度を出していた。

 

「だから加減ってもんがあんのよ!」

 

「無理そうなら言って。速度落とすから」

 

 仕事も終わったとゆったりした声のアルに鬼娘がぴきりと青筋を立てる。

 

「このっ!やってやろうじゃないの!」

 

「余裕そうなのが腹立つなぁ、もぉ。翡翠!もっと速く飛んでいいよ!」

 

 コースそのものはほぼ舟の横幅だし、上に樹木たちもいない。燃やす心配もないなら文字通り爆発力を推進力へ変えてしまおうというアルの試みは上手く行った。

 

 冰面をザッと削りながら『陸舟』は進んでいく。

 

 凛華とエーラは先頭に座っている為、もろに加速の恐怖を味わってお冠だがそれ以上に対応が忙しくてそれどころではない。

 

 とんでもない勢いで進む6人を乗せたソリ(陸舟)はコースを造っても造っても即座に駆け抜けていく。

 

 アルはよっこいしょと座席に座り直し、なかなか速いじゃないかと一つ頷いた。

 

「凛華、魔力が半分切ったら教えて。追手のこともあるし、休憩取るから」

 

「調子いいわねほんと!わかったわよ!」

 

 とは言うものの凛華だって魔族だ。おまけにこのひと月の間も半分くらいの日数は操魔核を鍛え続けていたので魔力量もそこそこ上がっている。

 

 まだまだ問題ないだろうなとアルは予測を立てて、スリルに身を任せた。

 

「悪くねえな、これ」

 

 おそらくアル以外で唯一楽しんでいるマルクが楽しそうな声を上げる。

 

「そうだろそうだろ」

 

 わかってくれるかとそちらを向けば、ラウラとソーニャが少々恨みがましい目でアルの方を見ていた。

 

 座席一つ分ほど離れていたとはいえ爆炎が近くを通るのは怖かったし、何より加速によるGが恐ろしかった。吹き飛ぶかと思ったくらいだ。

 

「・・・今度はちゃんと言ってくださいね」

 

「アル殿・・・盾を構えかけたぞ」

 

「ごめん、加速した」

 

「「先に言って下さい(くれ)」」

 

 2人からツッコミを受けるアルをマルクがケラケラ笑う。

 

 

 舟なのかソリなのか、もはやわからない『陸舟』は街道に閉口して馬の襲歩(ギャロップ)を優に超える速度で滑走していくのだった。




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