日輪の半龍人   作:倉田 創藍

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ここでは初投稿になります。読んで頂ければありがたい限りです。


また「小説家になろう。」と「カクヨム」にて同作を2~3日に1度連載投稿しております。


現在両サイトにて投稿されているものとこちらに投稿するものは少々文体が違う場合があります。


こちらへは定期的にある程度纏めて更新していく予定です。


10話 鍛冶師ダビドフ・ラーク (虹耀暦1286年9月:アルクス14歳)

 ヴァルトシュタットという街は周囲を草原や丘に囲まれ、少し行けば小規模ながら森林や川もある自然に恵まれた街だ。

 

 住民はその豊かな自然と武芸者協会発祥地の端くれという矜持の下で育っていくため非常に快活な気風をしている者が多い。

 

 アルクスたち6名を宿から送り出した女主人もその例に漏れず、街に一軒だけある鍛冶屋の場所を快く教えてくれた。

 

 うまい料理を出す露店や屋台なども付け加えながら教えてくれるものだからシルフィエーラはいつもの3倍ほど活発になってアルたち5人を引っ張っていくのだった。

 

 

***

 

 

 目的の鍛冶屋へ辿りついたのは昼もそこそこに過ぎた頃だ。入国審査や宿をとっている内に時間を取られていたらしく、おまけに露店を冷やかしたせいでいつの間にか午後になっていた。

 

 エーラは満足げに鹿肉串を食べ、採れたばかりの野菜だから甘いという売り込み文句の蒸野菜や生野菜の盛り合わせをニコニコしながら頬張っている。

 

 帝国で品種改良されたものだったらしく、アルに渡された赤茄子(トマト)は本当に甘かった。

 

 正直なことを言えばエーラは鍛冶屋に興味ない。弓士なのだから当然と言えば当然だ。

 

「あそこだな、じゃあ私は買ってくるから―――」

 

「待った」

 

「待ちなさい」

 

「な、なんだ二人とも。さっと行って買ってくるだけだ」

 

 鋭く呼び止められたソーニャは少々狼狽して止めてきた2人―――アルと凛華へ弁明するように言葉を重ねる。

 

「気になるから俺たちも行く」

 

「そうね」

 

「いや、さっと買ってくると言ってもきちんとした剣を選ぶつもりだぞ?そんなドがつく初心者のような真似はせん」

 

「違う」

 

「どんな剣があるか見てみたいだけよ」

 

「・・・・・」

 

 ―――――昼食もあるだろうからと気を遣ったのに。

 

 そんな視線を向けられても剣士二人の態度は揺らがない。

 

「諦めろ、故郷(さと)以外の鍛冶屋なんて見たことねえんだ。気になるんだろ」

 

 マルクガルムはさすがに理解している。ちなみにエーラが露店で何かつまむモノを欲しがったのも長くなりそうだと察していたからだ。

 

「そういうことでしたか」

 

 エーラの行動思考を読んだらしい、ラウラが納得するように呟く。

 

「いる?」

 

 野菜の盛り合わせが乗っている器をエーラが差し出してきた。ラウラはひょいと人参を取りもぐもぐと食べてみる。

 

「おいしいですね」

 

「でしょ?」

 

 なんとなくこういうやり取りは珍しく、ラウラにとっては楽しい。

 

「さ、行くわよ」

 

「ああ、行こう」

 

「あの・・・私の剣を見るんだよな?」

 

 凛華とアルはさっさと行ってしまった。なぜか一番武器を欲しているソーニャが後ろにつく形となって店内というか工房へ3人は入っていく。

 

 残った3人もなんとなしに冷やかそうかな、くらいの気持ちで続くのだった。

 

 

 鍛冶屋の中はさすがに室温が高い。風は爽やかでも、今は夏だ。火を絶えず扱う工房内は蒸し暑かった。

 

 アルと凛華は第一関門は合格と内心で偉そうに評価を下す。夏場に涼しい鍛冶屋などロクなもんじゃない。隠れ里の鉱人鍛冶師キース・ペルメルの言である。

 

「ん?いらっしゃい。夏場にこんなとこ来るなんて数寄者(すきもん)がいたもんだ―――ってなんだ、ご同輩じゃねえか」

 

 そう言ってよっこらしょっと腰を上げたのはキースと同じ鉱人族の男だった。ごつい筋肉にアルやマルクと変わらないくらいの身長。

 

 アルと凛華はがっくりと肩を落とす。この分だと里にある武器とさして変わりあるまい。

 

「おい、なんだ。見慣れてるのはわかったがもちっと隠せよ」

 

「ごめんなさい」

 

「あまりにも見慣れてて」

 

「気持ちはわかるがよ・・・んで、冷やかしか?」

 

 鉱人鍛冶師はそう問うた。キースと違って紙巻き煙草をぷかりとやって紫煙を吐き出す。匂いからして魔導薬につけた何かだろう。柑橘系のスーッとした匂いがする。

 

「違いますよ、彼女に合いそうな武器を見繕って貰おうと思って」

 

「んぁ?そっちの騎士みてえな嬢ちゃんのやつか?」

 

 ジロリと鍛冶師に見られたソーニャは身を固くした。

 

「は、はい」

 

「そうです」

 

 どもったソーニャの代わりに肯定したアル。

 

 鉱人鍛冶師は少女騎士をじいっと測るように見つめる。きっと大まかな見当をつけて剣を見せるのだろう。しかし、急に頭をガリガリと掻いて妙な表情を浮かべた。

 

「あー・・・調子狂うな。これでも鉱人鍛冶師ってありがたがられるもんなんだぜ?」

 

「そうなんですか?」

 

「そらそうよ。火の精霊が見える俺らは鍛冶が得意だからな。出来上がるモンの質も人間のモンより大抵いいってな」

 

 その言葉を受けた凛華がハッとして恐れるように鍛冶師を見る。

 

「まさか・・・それで適当に打ったモノをとんでもない値段で―――」

 

「んなことするかい!失礼な嬢ちゃんだな」

 

 慌ててツッコミを入れる鍛冶師。

 

「違うのね。ふぅん・・・あ、確かにちゃんと打ってある」

 

 凛華もさすがになかったかと軽く舌を出し、適当に置いてある剣を抜いてみた。どうやら安い剣の一角(コーナー)だったらしいが、ちゃんと打ってあるようだ。

 

 重心の確認まで行う凛華に鉱人鍛冶師は苦々しい顔を見せた。

 

「自由な嬢ちゃんだな。まぁ鍛冶屋の確認方法としちゃ正しいがよ」

 

「すいません」

 

 代わりに謝罪するアルへ、

 

「いいさ。これでホイホイこっちの言うこと鵜呑みにしちまうようじゃ心配するとこだった」

 

 鉱人鍛冶師はそう言って、凛華が引っ提げている重剣へ目を向ける。

 

「随分な業物だな」

 

 凛華は軽い動作で引き抜いて見せた。当然柄から手は離さない。鍛冶師もわかっているのかそのままじいっと剣身をジロジロ眺めている。

 

「コイツは誰に打って貰った?」

 

「うちの故郷《さと》にいる鉱人のキース・ペルメルよ」

 

「あの野郎、生きてやがったか・・・・どうりでいい仕事してやがる」

 

「知ってるの?」

 

 意外と言うような凛華に鍛冶師は鼻を鳴らした。

 

「そら知ってるわな。あいつが昔いた村とここはそこまで遠くもねえし、日用品なんか買いにちょくちょく来てたんだからよ。長剣だの鍬だの卸してたからよく知ってるさ。聖国の屑共に村が襲われてからは音沙汰なかったが無事だったらしいな」

 

 どことなく嬉しそうな様子を見て取った凛華が問う。

 

「友達だったの?」

 

「まあな」

 

 鍛冶師は曖昧に首肯した。こういうところが男の面倒なところだ。おそらくアルとマルクに互いのことを聞いても似たような反応をするだろう。

 

「同類だぜ?種族的にも職業的にも。酒を飲み交わすことだってあらぁな」

 

 言い訳めいた肯定だ。

 

「そりゃそうよね」

 

「名前、教えて下さい。手紙を出すこともあるので」

 

 納得する凛華の後ろからアルが問うた。俺の出番?とでも言うように肩の夜天翡翠が小さく鳴く。

 

「ダビドフ・ラーク、鍋蓋から大剣まで打てるヴァルトシュタット唯一の鍛冶師だ」

 

「悪くない名乗りですね」

 

「そうだろ」

 

 鉱人鍛冶師―――ダビドフの名乗りにアルと凛華も返答として名乗っておくことにした。

 

「アルクス・シルト・ルミナスです」

 

「イスルギ・凛華よ」

 

「よろしくな」

 

 先程より格段に楽しそうなダビドフ。友人の鍛えた武器を持っている時点で信用度が段違いらしい。そのまま雑談に突入したところで、

 

「あのお・・・私の剣は、その、後どれくらい待てば良いだろうか?」

 

「「「あっ」」」

 

 ソーニャが申し訳なさそうに声をかけたのだった。

 

 

***

 

 

 そういえば剣を買いに来たんだったとアルと凛華が思い出したところで、ダビドフはすぐさま適当な剣を何本か持ってきた。

 

 適当なのはあくまで好みや持ち手に合わせて選択肢を絞っていくからだ。剣身の長短、身幅、厚み、柄の形状、重量。そういったものの云わば見本(サンプル)のようなものである。

 

「この中なら?」

 

「うーん・・・これ、かな」

 

「んじゃこの中は?」

 

「えー、これだな」

 

「そんじゃこれなら?」

 

「これだ」

 

「うーし、大体わかった。うん、今はねえわ」

 

 あっさりとそう告げるダビドフにアルと凛華はずっこけた。せっかく職人と剣士の会話っぽくてカッコよかったのに。

 

「ちょ、ちょっと!」

 

 思わずどういうことだと言いかけた凛華に、

 

「ねえっつってもあれだぞ。今はねえってだけで、打ちゃある。お前さんらの故郷みたいに個人専用なんて打ち方しねえんだよ」

 

「え、わかるんですか?」

 

少々驚くアルに、

 

「その重剣も刀もお前らに癖が寄ってんだよ。ずっと打ってりゃ腰だの背中だのに差さってるの見ただけでわかるのさ」

 

 羨ましいぜとでも言わんばかりの顔で返答するダビドフ。

 

「ほえ~」

 

「さすがは専門家ね」

 

 素直に感嘆するアルと凛華に自慢げな表情を浮かべた鉱人鍛冶師は、

 

「ってわけだから望みの形状とかそういうの言っときな。できるまではそこらへんの貸しといてやるよ」

 

 と、ソーニャへと告げる。少女騎士はその言葉に身を震わせた。

 

「えっ、え?・・・鉱人の打つ剣を扱わせてもらえるのか?しかも私個人用のものなんて」

 

 すっかり動転している。魔族同士の会話だからと気を遣っていれば、アルも凛華も平然としているどころか、凛華に至っては軽く非礼に当たるようなことまでズケズケ言ってしまうので背筋に嫌な汗を掻いていたソーニャである。

 

 気難しくて素人が下手に注文などしようものならそっぽを向いて数打物を指さす。

 

 しかしその数打物でも充分な質をしているのでタチが悪い、というのがよく聞いた話だった。

 

「ほれ。これが正しい反応だぞ、お前さんら」

 

 ダビドフがソーニャを指しながら言う。しかし魔族の男女は意にも介さなかった。

 

「遠慮しなくていいよ」

 

 命に関わるんだから、とアルが言えば、

 

「そうよ。目的に合った形をちゃんと言っときなさいな」

 

 大は小を兼ねないんだから、と凛華が言う。

「お前さんらな」

 

「ふ、二人とも、頼むから余計なことは言わんでくれ!」

 

 しかし2人の剣士が言うことは全くもって正しい。その為ダビドフも半眼になって憮然とするしかなかった。この2人は剣というものをよく知ってる。

 

 立ち居振る舞いや雰囲気からビシビシと伝わってくるのは若い魔族特有の荒々しさではなく、洗練されたナニカだ。戦意や殺気はおくびにも漏らしていない癖に、今すぐにでも戦闘に移れそうな気配。彼らの意識下には常に闘争がある。

 

「ったく。そんで、嬢ちゃんはどんな剣がいいんだ?」

 

 ソーニャ本人はまだ素人に毛が生えた程度の腕前のようだが、この2人が指導くらいするのだろうことを見越してダビドフは個人用に打ってやると言ったのだ。

 

「え?えーとだな、その、私は主人を守るための―――扱いやすいが簡単に折れない剣が欲しいんだ。だからそのさっき選んだのより気持ち少し短くで、えーと―――」

 

 ―――――守るための折れない剣か、青いが悪くねえ。

 

 ダビドフは心中で呟く。がどうにも慌てているソーニャは物理的にも青い顔色をしていた。

 

 どうどうと手で押さえるように宥めにかかる。

 

「一度打ってやると言った言葉は撤回せんから落ち着け、嬢ちゃんよ。それよか、さっきのより短くなるとお前さんがもうちっと成長した時すぐに変えなきゃならんくなるぞ」

 

 ついでに問題点も指摘すれば、

 

「あっ、そっ、そうか。じゃあ―――」

 

 ソーニャは更に慌てて思考を巡らし始めた。

 

「落ち着きなさいよ」

 

 見かねた凛華がそんな風に言うと、

 

「そうだよ、お茶でも呑んで」

いつの間にか近くにやってきていた小麦色をした肌の森人がそんなことを言う。

 

 ―――――そうだな、茶でも。

 

 同意しかけたダビドフは、

 

「いや待て。茶は出さんぞ」

はたと思い留まって森人を止めた。しかし相手はあのエーラである。切り札を持っていた。

 

「鉱人族の好きそうなお茶っ葉、ボク持ってるよ。キースおじさんが葉巻吸いながらよく飲んでる」

 

「あたし冰鬼人なのよね。氷出せるわよ」

 

 エーラは腰の小革鞄(ポーチ)をポンポンと叩き、凛華が乗っかる。この森人はお茶をいつでも楽しめるようにと茶葉を密閉した葉に包んで携帯しているのだ。

 

 ダビドフは考えてしまった。

 

 森人族の十八番は植物関連全般、そして多岐にわたる。一番好きなのは無論酒だが、この蒸し暑いなかで冷えた森人印の茶を呑むのはさぞ旨かろう。

 

「・・・・お前ら卑怯だぞ」

 

 そこまで想像してしまったダビドフにはそれくらいしか言えなかった。

 

「火、借りるね~」

 

 ひゃっはーっと茶の準備をしに行くエーラ。露店で食べたいものを食べたので茶を呑んでまったりしたいという実に自分勝手な欲望を、相手を利用して憎まれずに達成する。いつものエーラの姿であった。

 

「すまん、ダビドフのおっちゃん」

 

 マルクは鍛冶師へ手をパンと叩きながら謝る。止めきれなかったと言うワインレッドの髪をした青年。

 

「魔族なのはわかるがお前さんは何族だ?」

 

 一見しただけでは種族の分からない青年へダビドフが訊ねた。

 

「人狼だよ」

 

「はー・・・よくもまぁバラバラな種族で集まったもんだな」

 

 鍛冶師は呆れているような感心しているような反応を見せる。

 

 基本的に魔族は同族同士で組むことの方が圧倒的に多い。バラバラな種族が少しずつ強みを出すより、全員が同じ強みを重ねて特化した方が効率的だとされているからだ。

 

 例外は弓の達人である森人くらいなものである。

 

「まあなーって、おっちゃんアルの種族もわかってるってことか?」

 

「あ?そりゃあ・・・ああ?お前さん種族は何だ?抑えてんだか薄めてんだかわからねえが魔力的に人間じゃねえのだけはわかる」

 

 最初に鬼人族と一緒に歩いてきた為なんとなくその類かと思ってみれば違う。角もないし、アルの立ち居振る舞いは剣士のそれだ。

 

 変化する魔族は大抵武器を持たない。混乱しかけた頭で問えばアルは「もう敬語はいっか」というような雰囲気で何の気なしに答える。

 

「半龍人だよ」

 

「半龍人か。それならって・・・・・は?」

 

「その反応飽きたよ」

 

「まだ私たちしかしてないと思うんですけど・・・・ていうかあの時寝てましたよね?」

 

 ラウラの冷静なツッコミもダビドフには聞こえないしアルには効かない。

 

「は!?じゃあ何か?お前さん、半魔族か!?」

 

「うんそう」

 

「本当に面倒臭がってるぞコイツ」

 

 シンプル過ぎる回答にマルクが呆れる。こういうところが雑だ。

 

「お茶まだかな」

 

「「いや、そうじゃねえだろ」」

 

 あからさまに説明を面倒臭がるアルに鍛冶師と人狼はツッコミを入れざるを得なかった。

 

「説明しないんですか?」

 

 ラウラは困った笑みを浮かべながら問う。この2日でわかったが、アルは割と適当な部分がある。雑とでも言えばいいか、自分の事を語りたがらないというよりそんなのどうでもいいと思っている節があるのだ。

 

「ないよ、特に。母さんが龍人で父さんが人間ってだけ」

 

 ぷいっと適当なところを向いて興味もなさそうなアル。その時、空気を読まないソーニャが声を上げた。

 

「よし、大体浮かんだ!」

 

 剣の形状についてだろう。アルはすぐにサッと頭を下げる。

 

「ダビドフさん、よろしく頼みます」

 

「お前さんいい性格してんな」

 

 相当気になる話題だったが、半龍人本人がこの調子だ。無駄に喧伝しないだけむしろ信憑性が高い。

 

 結局その後、凛華とエーラが持ってきたキンキンのお茶を呑みながらソーニャの新しい剣の構想を聞くダビドフであった。

 

 久々に同胞と話すのはなかなか楽しい時間となったし、茶は悔しいことに旨かった。

 

 

***

 

 

 鍛冶屋を出て、もう昼食は露店でいいかと適当に見繕って食べた後。アルたち一党は武芸者協会へとまっすぐに向かい、その建物の前にいた。

 

 高さはそこまでないが大きな建物だ。女主人曰く、一階の面積だけならこの街のどこの建物より広いらしい。

 

「いよいよね!」

 

「どんなとこかなぁ~」

 

 わくわくと興味津々な様子の凛華とエーラに押されるようにアルは建物へと入った。

 

 期待を抑えきれない2人はパッと後に続き、緊張気味のラウラと借り物の剣を提げたソーニャが更に続いていく。マルクもそんな5人を見ながら武芸者協会へと入るのだった。




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