日輪の半龍人   作:倉田 創藍

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ここでは初投稿になります。読んで頂ければありがたい限りです。

また「小説家になろう。」と「カクヨム」にて同作を2~3日に1度連載投稿しております。

こちらへは定期的にある程度纏めて更新していく予定です。


4話 人狼の友達と魔法

 隠れ里の昼食は、里の中にある食堂や、いくつかの共有スペースとなっている広場の煮炊き場に食材を持ち寄って、その場の何人かで摂ることが一般的である。

 

 これは里を建造中だった当時の魔族達が、作業場周辺で休憩がてらに食事を摂り、またそのまま現場に戻るという流れを連日行っていたところ――そこへ彼らの家族が弁当や狩りの獲物などを持ち寄って集まるようになり、届けるだけ届けてそのまま帰ることもなかろう、と共に食事をとるようになったことから始まった習慣だ。

 

 基本的に魔族は単一民族で集落を築くので、種族の関係なしにガヤガヤと食事をするこの光景は、間違いなく隠れ里の象徴と言えるだろう。

 

 

 

 ぽやぽやと浮かれた様子のアルクスを連れたヴィオレッタは、彼の母トリシャが今日は里の外まで巡回任務《しごと》で出ている為、食堂で昼食を摂ることにした。

 

「おっ! 里長様とアル坊じゃないか! 何にする?」

 

「儂は竜魚(りゅうぎょ)の甘酢揚げをもらおうかの。アルは?」

 

「ぼくもおんなじやつ。あんまりすっぱくないの」

 

「あいよぉ~」

 

 竜魚とは季節外れの鯉のことだ。脂の良く乗っている魚として知られている。

 

 2人が料理を待っていると、後方から呼び掛けられた。

 

「おっ、アルだ」

 

「ヴィオレッタ様もいらしたのですね」

 

 片方は威勢の良い高めな子供の声で、もう片方は深みのある低い大人の声だ。

 

 反射的に振り向いたアルはニカッと笑って挨拶をする。

 

「マルクにマモンおじさん、こんにちは!」

 

「よっ」

 

「ああ。こんにちは、アルクス」

 

 大人の方――彫りの深い顔立ちに上背のある筋肉質な男がマモン・イェーガー。

 

 そのマモンと似たようなワインレッドの髪をツンツンさせ、アルより少し背の高い少年がマルクガルム・イェーガー。

 

 アルの家とご近所付き合いをしている人狼族の父子だ。

 

牙猪(きばいのしし)の煮込みを頼む」

 

「あいさぁ~」

 

「今日はヴィオ様もいっしょに食堂か?」

 

 マモンが注文する隣でそんな質問を投げかけてくる幼馴染の少年に、アルは勢いよく答えた。

 

「そう! 今日はししょーの授業をうけてたから! 魔術の授業だよ、ま・じゅ・つ! って言っても今日からなんだけどね」

 

 ほんの少し尻すぼみな物言いだが、午後の授業に思いを馳せているのか、上機嫌なことに変わりはない。

 

 どうやら期待以上に魔術は楽しいらしい。

 

「へぇ~、じゃ毎日やってたあの訓練ごうかくしたんだな。そのうちおれにかっけー術とか教えてくれよ」

 

「え? あぁうん、そーだね。かんがえとく」

 

「おいなんか返事がてきとーだぞ! たのむって~」

 

「さっきマモンおじさんがたのんでたキバイノシシの煮込み、マルクの分ひと切れもらおーか」

 

「あっ! きったねーぞ! 足もと見やがって!」

 

「せーとーな対価ってやつさ」

 

「どこがだよ!」

 

 幼馴染同士でやいのやいの言い合っていると、先ほどから子供達の会話を黙って聞いていたマモンがおもむろに口を開いた。

 

「アルクス、昨日ヴィオレッタ様から話は聞いた。あいつとトリシャの子だから特に心配はしてないが、何かあったら俺達に声をかけるんだぞ?」

 

「ほぃ? うん……? あ、じゃないや。はい?」

 

 でいいのかな? というか何かあったら? なんだ転生者ってイジメられたりするのか?

 

 そんな表情を浮かべてきょとんとした銀髪の幼馴染を、マルクガルムは横目で見る。

 

 直前の会話にしても、このアルは今まで兄弟のように接してきた幼馴染(アルクス)と特に変わりないように思えた。

 

 精々、喋り方が少し賢そうになったくらいだ。

 

 その感覚が正しいのかどうか確認しておかねば、と思い、昨夜話を聞いた時から考え続けている――最も重要な質問をアルに投げかけた。

 

「なぁ、あのさ……アルはアルのまんま、なんだよな?」

 

「はあ? あったりまえじゃん。いきなりどしたの?」

 

「そか。そんならいいや!」

 

 心配して損した。そのくらい幼馴染の回答は即答を極めていた。

 

 それだけなら良かったものの、「おかしなものでも食べたんじゃない?」と言いたそうな視線まで寄越してくる始末。

 

(このヤロ……)

 

 マルクがイラッとしたような、スッキリしたような顔で牙猪と芋の煮込みをパクつき始める。

 

「あっ、キバイノシシひと切れはさき払いだからな」

 

 しかし、人の気も知らないアルは肉を寄越せとのたまった。

 

「ふざけんな。術教える時にも絶対なんかよーきゅーするだろ。竜魚ひと口と交換だ」

 

「しょーがないなぁ、ほい」

 

 つけ合わせの人参がマルクの皿に乗る。タンパク質をやる気はさらさらないらしい。

 

「んじゃほらよ」

 

 が、そこは幼馴染。アルの皿に芋がころんと転がった。

 

「んにゃろう」

 

「お前が先に始めたんだからな」

 

 ぶーぶー言い出すお子様2名にヴィオレッタとマモンは顔を見合わせて苦笑を零した。

 

 一時はどうなることかと思ったが、変にこじれなくて本当に良かった。

 

 そんな思いが子供達に伝わることはない。

 

 しばらくおでこをぶつけ合って「肉!」「魚!」と要求し合っていたアルとマルクの幼馴染コンビは、「食べ物で遊ぶんじゃありません」という軽いお叱りを受けるのであった。

 

 

 * * *

 

 

 研究室に戻ったヴィオレッタとアルの師弟は食後のお茶を飲みつつ、ややまったりとした雰囲気で午後の講義を再開した。

 

「午前中に言っておった魔法について解説をしようかの」

 

 握っていたカップを写帳と筆に持ち替えたアルが早速とばかりに質問を投げる。

 

「魔術とわけるくらい違いがあるんですか? えぇと……あー、定義に」

 

「うむ、ある。魔術とは、鍵語《けんご》や触媒を用いて術式を描くことで望む現象を引き起こす”()()”じゃ、さきほども言うたの」

 

「はい」

 

「しかし、魔法は()()()()()()のじゃよ。無論、魔力を消費すること自体は変わらぬ。じゃが魔法とは、我々魔族や一部高位の魔獣や魔物のみにしか使えぬ種族固有の”特殊能力”のことを指す。人間や獣人族には使えぬものじゃ」

 

 写帳をとっていたアルは師の言ったことをすぐさま書きつけた。

 

 そして書いた言葉の意味を理解した途端、はたと手を止めて師へ問う。

 

「”特殊能力”って……じゃ魔法ってもしかして、半魔族のぼくにはつかえなかったりしますか?」

 

 最も気になったのはそこだった。

 

 なぜなら――

 

 アルクス・シルト・ルミナスの母は龍人族。

 

 そして()()()()

 

 つまり半龍人。里にたった一人しか居ない半魔族なのだ。

 

「正直に言って……儂にもわからぬ。これまで前例がないのじゃ。まったく発現せぬか、中途半端に発現するか、はたまた別のカタチとなるか。こればかりは汝が初めて発現させたときにしかわからぬ」

 

「いつ、発現するものなんですか?」

 

「種族ごとに違うからのぅ。トリシャは龍人じゃから汝が発現するとすれば、”肉体変化《にくたいへんげ》”系統の魔法。その手の種族は大体、汝くらいの年齢から十歳くらいまでの間のはずじゃ」

 

 アルにそんな兆候はいまだ一切ない。

 

 やはり自分に魔法は使えないのでは?

 

 そう考えつつ、それでも興味を抑えられなかったアルは訊ねた。

 

「かあさんの魔法っていったいどんなんですか?」

 

「龍人族の魔法は【龍体化】という。その名の通り肉体にかつて存在していたとされる龍の鱗や牙、爪、角が生え、身体能力の底上げ、属性魔力の砲撃や魔術に対しての耐性が劇的に上昇する。いわば戦闘形態への移行じゃな」

 

「えっ!? せんとー形態!?」

 

 ――絶対かっこいいやつじゃん! 聞かなきゃ良かった!

 

 ――知らなかったら使えなくてもしょうがないかーくらいで済んだのに! なんて迂闊なやつなんだ! 

 

 と、アルは心中で己を罵倒した。

 

「言うておくが、どの種族も戦闘に使える魔法というわけではないからの? 地味なのも多々あるのじゃぞ。それにまだ使えぬと決まったわけでもなかろう?」

 

 心から後悔する弟子にヴィオレッタが同情するような表情を向ける。

 

「じゃあ使えなくても、ぼくバカにされたりしませんか?」

 

 明らかに慰めの言葉である師の発言に、アルは軽く唇を尖らせ、いじけたような声音で訊いた。

 

「安心せい。汝をバカにするようなたわけ者がおったら儂自らが里から叩き出してやるわい」

 

 ヴィオレッタは可愛い愛弟子の銀髪をくしくし撫でながら不敵な笑顔を向けた。

 

 この頼もし気な里長が師になってくれたのは、きっとそれもあるからだ。母と親友だからと云うだけでは、決してないだろう。

 

 幼いなりにそう解釈しているアルは、持ち前の切り替えの早さと前世の記憶を頼りに決意を新たにする。

 

 魔法が使えないかもしれない己のせいで、優しい師や大好きな母が馬鹿にされたりしないように頑張ろう。少なくとも魔術は、と。

 

 紅い瞳をきりりっとさせた弟子にヴィオレッタは艶然と微笑んだ。

 

 聞かずとも何を考えているかくらいわかる。ちゃんとした言語を発するようになる前から面倒を見てきたのだから。

 

「さて初日の講義はこんなところにしておこうかの。明日からは実践も織り交ぜていくからよーく休んでおくのじゃよ」

 

「はいっ!」

 

「うむ。まだ日の沈まぬ内に帰るがよかろう」

 

「ありがとーございましたっ!」

 

 勢いよく頭を下げたアルが大事そうに写帳(ノート)を抱えて、ヴィオレッタの家を出ていく。

 

 里を一直線に縦断する帰路はやはり子供には少し辛い距離だったが、それでもアルの足取りは軽いものだった。




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