日輪の半龍人   作:倉田 創藍

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ここでは初投稿になります。読んで頂ければありがたい限りです。


また「小説家になろう。」と「カクヨム」にて同作を2~3日に1度連載投稿しております。


現在両サイトにて投稿されているものとこちらに投稿するものは少々文体が違う場合があります。


こちらへは定期的にある程度纏めて更新していく予定です。


11話 武芸者協会と『黒鉄の旋風』 (虹耀暦1286年9月:アルクス14歳)

 午後3時を回った頃、魔族と人間の混成一党は武芸者協会ヴァルトシュタット支部の建物内へ入った。予想より幾分も小綺麗な内装にアルなどは驚く。

 

 もっとこう、前世の創作物にあるような冒険者ギルド的な雰囲気とか西部劇にある酒場のようなものを想像していたのだ。

 

 暖かみのある光は綺麗な石壁に反射して内部を明るく照らし、併設されている酒場からはあまり野卑な印象は受けない。大衆居酒屋みたいな雰囲気だ。

 

 ―――――なんか違う。

 

「ここが武芸者協会ね!わくわくするわ!」

 

「ねー!あ!あそこ訓練場っぽいよ!」

 

「ちょ、ちょっと気後れしますね」

 

「う、うむ」

 

「へぇ・・・武芸者って案外いるもんなんだなぁ」

 

 しかしアルの心中とは裏腹に他の面々は新鮮に受け止めたようである。

 

 実はここまで清潔感のある協会支部は帝国内にしかない。他国はもっと雑然としていたり、汚かったり、騒がしかったりする。

 

 この差は武芸者という存在の立ち位置が帝国と他国で圧倒的に違うことに起因するものだ。

 

 王国の武芸者はもうちょっと粗野なイメージを持たれているし、共和国は北上に位置する両国の武芸者が混ざっている為ピンキリという印象。また聖国が介入しているのでそもそも支部の数が少ない。

 

 そしてその聖国はと言えば、武芸者という存在そのものが認められていないため当然、支部すらない。

 

 

△▼△

 

 

 ではなぜ武芸者という存在が広く帝国臣民達に親しまれているのか?

 

 その理由は武芸者という存在が生まれる頃にまで遡る。

 

 武芸者という存在が誕生したのはおよそ300年程前、まだ帝国という国は新興したばかりの頃。

 

 小国同士の諍いから発展した大戦は、結果として参加した小国全てを帝国領土として皇帝が統治することで一つの国家として纏まろうとしていた。

 

 一つの国として興ったとは言いながらも、当然国土はボロボロ。戦に続く戦で民も疲弊し、困窮しきっていた。そのうえ元々小国同士の民、敵対感情だってまだまだ根強い。

 

 そんな折、国を失ったある騎士が命の危機に瀕している民をその命を賭して助けた。最初はただの自棄だったのかもしれない。だが、確かに助けた。

 

 礼を言われたことでまだ己に残っている価値を見出したのかもしれない。その騎士はとにかく目についた民を助けて回ることにした。手間のかからないものから命の危険があるものまで、のべつ幕無しに。

 

 たまに貰う礼として粥を啜り、黒ずんでいく騎士鎧を身につけ、故国だと思わしき民の為にと日夜働いて回る。そんな騎士を見た別の元騎士、元兵士たちが「我らも」と発奮した。大した礼も貰えないのは知っているだろうに。

 

 助けられた民たちはさぞ名のある方だろうと誰何するも、彼らが仕える主君はとっくに死に絶えているか滅び去ってしまって久しい。

 

 だから騎士とは名乗れない。苦し紛れに武芸を嗜んでいるだけだと言い置いて去るうちに、いつしか武芸者と呼ばれるようになった。

 

 同じ故国を持つ人々は懸命に働いている彼らのボロボロになった騎士鎧を見て思いやり、別の形として受け入れることにしたのだ。

 

 守るべきものも主も失った敗残騎士としてではなく、苦境にあっても誇りを失わない武芸者として。

 

 その話を知った初代皇帝は彼らを激賞してすぐに動いた。元が亡国の放蕩王子。民との距離も近いことで知られている。大戦を終わらせても貧窮する民に届かない己の腕に歯噛みしていたのだ。

 

 すぐさま現地へ赴いて、協会の前身となる組織をその地の住民たちだけで作った。

 

 当然ながら主君なき騎士―――武芸者たちはかなり警戒していたそうだ。

 

 しかし皇帝本人は剣の一つも持たず、民に貰ったという質の悪い酒瓶を持って彼らの元へ単身やってきた。

 

 その夜、武芸者たちと吞み交わし、己の境遇をぶちまけ、志が共に在ることを確かめ合ったのだ。

 

 その時護衛の一人すらおらず、現・帝都からふらりとやってきたという伝説と言うか逸話が残っている。

 

 やがて皇帝の組織した団体は困窮している他の地域へ武芸者を派遣したり、またその話を聞いた者が自分たちもと立ち上がっていった。

 

 こうして武芸者という存在はその誇りと共に瞬く間に広まっていく。

 

 その始まりの地とされるのが現・武芸都市ウィルデリッタルトなのだ。

 

 

 この話をトリシャとヴィオレッタから聞いた幼いアルは紅い瞳を大いにキラキラさせてもっと詳しくとよくせがんだものだ。母と師は困ったように笑ってアルが眠くなるまで語ってくれた。

 

 血は争えないものだ。アルの父ユリウスも幼い頃に両親からその話を聞いて似たような表情を浮かべていたのだが、トリシャがその話を知るのはもっと後のことになる。

 

 

△▼△

 

 

 建物へ入った6人一党は奇異の目で見られていた。帝国でも魔族の人数自体はそう多くないせいで目立つのだ。

 

 すると視線がアルや凛華、シルフィエーラの後ろにいたラウラとソーニャへ注がれる。

 

 途端にヒューと口笛を吹く音が聞こえたり、視線に好奇なものが混じりだした。下卑たというより茶化すような感じだ。2人は居心地悪そうに身じろぐ。

 

 アルは眉を顰めて不思議そうな表情を浮かべた。

 

「どうしたのよ?」

 

 ただのオフザケで怒るほどアルは短気ではない。いつぞやの人虎族(カミルとニナ)奇跡(ミラクル)を起こしただけであると理解している凛華は首を傾げて訊ねる。

 

「ん、いや・・・ラウラとソーニャが冷やかされるのは、まぁわかるんだよ。二人とも戦いそうには見えない綺麗なお嬢さんでさ、お約束みたいなもんだろ?」

 

「・・・そうかもね」

 

「・・・へぇ、そう見えてるんだ」

 

 アルの一言は急速に場を凍てつかせた。ラウラとソーニャは気まずい雰囲気に気付いてはいるものの頬を染めて照れ臭そうにしている。

 

 これでも共和国の令嬢だ。多少は褒められ慣れているとはいえアルの率直過ぎる物言いは不意討ちだった。「こういう褒められ方も悪くないな」と2人して思っていたりする。

 

 しかし、凛華とシルフィエーラにとってみれば大変面白くない。

 

 ―――――この男どうしてくれようか?

 

 そんな冷たい視線がアルに突き刺さっている。

 

 マルクガルムは『なんてことを』と額に手を当てて呆れ返っていたが、アルが次に紡いだ言葉で『あ、やっぱ問題ないわ』と思い直した。

 

「うん、でもなんで凛華とエーラには無反応なんだろ?ラウラたちに負けてないと思うんだけど」

 

 一番にアル、その次にエーラ、凛華と支部へ入った。冷やかすならそこの時点でだろうとアルは言っているのだ。

 

 つまり、それは彼にとって2人ともしっかり美人に見えているということ。超速で理解した凛華とエーラの雰囲気が一気に和やかなものへと変わった。

 

「さぁ知らないけど、まぁいいんじゃない?別に。ねえ?」

 

「そうだね~、知らない人に褒められてもねぇ」

 

 口々にそんなことを言っている。実に現金なものだ。凛華が嬉しそうに口元をむにむにして、エーラが機嫌の良さを身体全体で弾むように表現していた。

 

 アルにとって今更言うまでもないことなので、

 

「もしかして人間には別に見えてる?んー・・・?やっぱ角と耳くらいじゃない?」

 

 マイペースに少女たちを見比べていたりする。そこへ声が掛かった。

 

「俺ら魔族にうっかり手ぇ出そうもんならえらい目に遭うって知ってんのさ」

 

 そこにいたのは少し前に別れた鉱人鍛冶師ダビドフだ。

 

「ダビドフさん、もうできたの?」

 

「んなわけあるかい」

 

 アルの問いにダビドフは半眼を向ける。

 

「えらい目って?」

 

「魔族ってのはどこでどう繋がっとるかわからねえだろ?昔、物珍しさに森人をさらおうとした連中《バカ共》がいてな。怒った森人と人虎が手ぇ組んで大暴れしたのさ」

 

「大暴れするくらいなら普通じゃねえの?」

 

 マルクが誘拐の対応としては妥当だろうと言うが、ダビドフは首を横に振った。

 

「ところがどっこい、この国の建国には森人も関わってんのさ。その件を知った皇帝がブチ切れたのさ。建国の友になんてことするんだっつってな。結局国軍まで動員されて、そこに森人以外にも巨鬼だのなんだのが参入してきて連中はその場で皆殺しよ。地獄絵図だったらしいぜ」

 

「だから無反応だったのか」

 

「あとは凛華嬢ちゃんの持ってる重剣のせいだな。魔族は見得で武器を持たねえ。振れるから持ってんだ、そう受け取られたのさ」

 

「なんだ。別のものが見えてるかと思ったよ」

 

「ハッハッハ、流石にねえよ」

 

 心配して損したというアルへ鉱人鍛冶師は豪快な笑いで答えた。一連の会話に周囲の武芸者たちは目を丸くする。

 

「ダビドフさんがあんな風に笑ってるとこなんて初めて見た」

 

「俺も。嫁さんといるときだってあそこまでじゃねえよ」

 

「何者なのあいつら。雰囲気もえげつないんだけど」

 

 中にはラウラとソーニャ以外が持っている闘争の雰囲気に気付いてヒソヒソ囁き合う者たちまでいた。

 

「ま、何でもいいや。さっさと登録しよ」

 

「おう、待ってるぜ」

 

「あれ?協会に用があったんじゃ」

 

「そっちはお前さんらが登録してる間に済ませるさ。本題は剣の仕様だ。どうせなら鋼以外も使おうと思ってよ」

 

 ―――――鋼以外も・・・つまり魔剣か。

 

 アルは丁度いいとばかりに頷く。どうせならとオーダーを入れとこうか迷っていたのだ。

 

「わかった。じゃあさっさと済ませてくるよ」

 

「おーう」

 

 適当に手を振るダビドフを残し、6人は受付へと向かうのだった。

 

 

 アルが代表して受付の前に立つと、

 

「認識票をお願いします」

 

と言われた。少々緊張気味の若い女性だ。

 

「いえ、作りに来たんです」

 

 受付嬢はその返答に狼狽する。

 

「えっ?え、あっ、はい!えーと詳しい説明は必要でしょうか?」

 

「お願いします」

 

 鉱人鍛冶師と仲良く喋っている青年たちがまさかこれから登録しようとは夢にも思わなかった受付嬢は少々どもりながら説明し始めた。

 

「え、えーと、まず武芸者には十段階の等級がありまして、それによって受けられる依頼に差があります。また協会側から実力が足りないと判断された場合は推奨等級であっても依頼は受けられないことになっております。

 

 また、最初に受ける等級試験で開始等級が決まりますが、その試験の受け直しは可能です。

 

 しかし、前回の試験から三カ月が経過しないとこれは受けられませんので注意しておいてください。なお、協会側から薦める昇級審査はこれとはまた別になります。

 

 えー・・・それと、一党を組まれるのですよね?個人と一党での等級は別でして、個人の方は主に戦闘能力が、一党の方は主に依頼の達成難度、数、評価が主に反映されます。

 

 一党を組む場合はその方々の個人等級を加味して等級が決まります。

 

 また、三等級からの昇級には細かな審査項目が追加されますので、どんなに強い方でも最初から三等級以上で登録は不可となっております。

 

 最後に注意事項として認識票の再発行には時間とそれなりの料金が発生いたしますのでご了承ください。

 

 えーと・・・以上になりますが、質問事項等はありますか?」

 

「いえ、ありません。理解できました」

 

「ほっ・・・・あ、ではこちらにそれぞれ署名を。この名前で登録致しますので氏名どちらもお願い致します」

 

 そんな会話を交わし、アルたちは書類に署名した。

 

 ラウラもソーニャも強くなりたいと言ったので武芸者登録はするように言ってある。

 

 6名分の書類と登録料を提出すると、

 

「はい、登録料も間違いなく。では等級審査になります。こちらへどうぞ」

 

奥の方へと続く通路を案内された。

 

 ―――――なんだか()()()()()()()()役所に来た気分だ。

 

 アルがそんな風に思っていると視界が開ける。

 

 さっきエーラが言っていた訓練場だ。支部の建物裏に併設されているらしい。

 

 ちなみに帝国内の支部は大抵こういう造りになっている。武芸者の認識票さえあればいつでも借りられる帝国らしい手厚さだ。

 

 連れられるがまま訓練場を突っ切って行くと多少広くなっている一角があった。ここは格上に胸を借りる武芸者や互いの腕を見せ合う為に常にあけられている空間《スペース》だ。

 

 

 そこで待つように言われ、周囲を見学しながら少し待っていると6人の武芸者と先ほどの受付嬢がこちらへ向かってきた。

 

「お、あいつらか」

 

 マルクが気づいてアルを小突く。うん?と向いたアルはそちらを見て「ははぁなるほど」と手を打った。

 

 等級審査と言うから運動測定的なものかと思っていたが仕合をやるらしい。

 

「こちらは三等級に昇格したばかりの一党『黒鉄《くろがね》の旋風』の方々です。個人では三等級の方もいらっしゃいます。若手の中でも優秀な方々なんですよ」

 

 受付嬢の紹介にアルたちが反応する。

 

「一党に名前をつけるのか。黒鉄だってさ、かっこいい」

 

「確かに。悪くない名前ね」

 

「俺らもなんか考えた方が良いのかね?」

 

「あっ!ねぇねぇ、同胞がいるよ!」

 

「強そうな方々ですね・・・」

 

「むぅ、この剣でどこまで評価してもらえるだろうか」

 

 その言葉にやってきた6人『黒鉄の旋風』も満更でもないといった表情を浮かべた。

 

 構成面子(メンバー)は大刀を持った男――おそらく頭目だと予想される男性1名に、幅広直剣(バックソード)を持った女性が1名、剣と槍に盾を持った軽騎兵のような男女が1組、森人の男女1組の計6名だ。

 

 なんやかんや馬が合って既に組んで5年は経つ仲のいい一党である。個人では登録して10年ほど真面目に依頼をこなして、頭角を現してきた新進気鋭の者たちである。

 

 エーラがブンブン手を振ったことで『黒鉄の旋風』の森人組が手を振った。

 

「まさかこんなとこで同胞に会うとは思わなかったわ」

 

「ボクもだよ!」

 

「違う森出身のようだ」

 

「そうだよ!二人は兄妹?夫婦じゃないよね?」

 

「恋人だよ」

 

「そうなんだ~。へぇ~」

 

「そっちはそれで全員なのかい?」

 

「うん、人間以外はみんな別の種族だよ」

 

「珍しい取り合わせね」

 

「やっぱそうなの?」

 

「普通は固まるからな」

 

「あー・・・オホン。旧交を温めるのはいいんだがそろそろいいか?」

 

 大刀を担いだ黒髪の男が少々申し訳なさそうに森人同士の会話を止める。

 

「あっ、ごめんなさい」

 

 素直なエーラはすぐさま謝罪した。

 

「悪い悪い。久しぶりに見たからつい」

 

 森人の男の方も軽く手を上げて応える。大刀(だいとう)―――といってもアルの持っているような太刀ではなく、|長い両手用の握り(グリップ)から湾曲した長大な刀身の片刃を生やした奇妙な得物を持った男が頬をボリボリ掻いた。

 

 前世のダキア人がローマ帝国軍を苦しませた武器、ファルクスによく似た形状だがこの場で知っている者はアルを含め誰一人としていない。

 

「あー・・・『黒鉄の旋風』の頭目をやってるレーゲンだ。今日はよろしくな。魔族もいるっつうことで”魔法”の強力さはよく知ってるつもりだ。先に言っとくが手加減はしねえぞ、特にそこの四人。見た目は若えが明らかにヤベえのはわかってるからな」

 

 レーゲンはそう言って魔族組を指す。彼らには魔族だからというナメた雰囲気が一切ない。こちらを観察しているくせに殺気や闘志の類をおくびにも出していない。

 

 そこまで隠し通せる連中が”魔法”頼りの力押しで戦ってくるとはレーゲンには思えなかった。

 

「お手柔らかにね」

 

 幅広直剣(バックソード)を持った女性も緊張気味にそんなことを言う。協会からの審査要請ということで自分たちもようやくここまで来たかと思えばこれである。

 

 人間の少女たちは良いとして、登録しに来る時期が遅すぎるだろと言いたくなる魔族の青年たち。ならばと懐柔してみようかなと思ったが無駄に終わりそうだ。

 

『黒鉄の旋風』の面々がこちらを侮っていないとわかった途端頭目と思わしき青年(アルクス)の雰囲気が少々変わったのだ。

 

「よろしくお願いします。審査の相手はそれぞれですか?」

 

()るのは順番だが、誰が誰と戦うかはそっちで決めていいぜ」

 

「ありがとうございます。助かりました」

 

 ―――――何が助かるんだ?

 

 不穏なアルの返答に『黒鉄の旋風』の面持ちが引きつる。

 

 ―――――間違いなく要注意はこいつだ。

 

 彼らの意見が即座に一致した。

 

 そのアルはと言えば後ろを向いて何やら仲間たちに指示を出している。

 

「あー、お前ら聞こえるか?」

 

 レーゲンは仲間の森人へ問うた。彼らは種族特性として耳が良いのだ。

 

「無理だな。あっちの同胞が風で音を乱している」

 

「そうね。無邪気そうに見えてなかなか強かよ」

 

 『黒鉄の旋風』所属の森人組は首を横に振る。

 

「なんであんなのといきなり当たるのよぉ」

 

 副頭目である暗い金髪の女性剣士は嘆いた。レーゲンとしては同感だ。

 

 やがて指示を終えたアルは振り向く。

 

「準備できました」

 

「では最初の方からどうぞ」

 

 受付嬢の案内。『黒鉄の旋風』からは剣と盾を持った軽騎兵のような男性が前に出た。

 

 「よし、私だな」

 

 それに合わせてソーニャが前に進み出る。

 

 こうしてアル達の武芸者等級審査が始まった。

 

 

 ***

 

 

 結論から言えばアルたちのほぼ圧勝だ。

 

 

 初戦のソーニャは頑張ったが相手は個人でも三等級や四等級の武芸者。しっかりと動きを見られてどこが隙になっているか教えてもらうような―――半ば稽古のような形で負けた。

 

 『黒鉄の旋風』は帝国の武芸者らしく親切らしい。アルが思わず礼を言うほどには丁寧な指導だった。

 

 

 続く2試合目は森人の男が出てきたので、アルはマルクの背を押して本気で暴れてもらった。

 

 エーラをよく知っているマルクからすれば森にいない男性の森人は動きが重く見えたし、力勝負なら人狼に負けはない。

 

 理詰めと暴力でガンガン追い詰め、最終的に降参させた。マルクの最も得意とする戦い方が嵌まったともいえる。

 

「参ったよ、もっと人狼らしくぶつかってくるのかと思ってたけど彼、やたらと冷静だ。打つ手を全部読まれてた」

 

 とはマルクと当たった森人の言葉だ。

 

 

 3試合目は槍と盾を持った女性騎兵のような武芸者だった。それにはエーラが出た。

 

 盾の裏に飛び込んでくる矢は軌道が非常に読みづらく、気を抜けば死角から強力な矢が飛び込んでくる。

 

 じゃあと接近してもちっとも焦りを見せず、難なく躱していくどころかその場で足を止めて小器用に風を操って吹き飛ばす。

 

 エーラからすれば当たり前だ。近寄らせても問題ないような鍛錬を他3人につけてもらっているのだから。

 

 最終的に強弓型に切り替えた一射で女性騎兵の盾ごと吹き飛ばし、『精霊感応』で変形させた矢で足や手を雁字搦めにして勝利した。

 

 

 4試合目は凛華と幅広直剣(バックソード)持ちの女性との仕合だ。

 

 とことん悪辣な相性になるようアルが仕向けたので、結果として女性は半泣きで重剣から逃げ回る羽目になった。

 

 重剣の圧はアルがよく知っている。慣れていても怖いものだ。暴風のような剣圧は鎧すら簡単に斬り裂き、地を割って踏み込んでくる一槍突きは容易く対象を貫通する。

 

 幅広直剣で受け止める気など起きようはずもない。初動で対人戦闘用のスペースに地割れを作った凛華に冷や汗を噴き出した女性剣士は必死に逃げ、属性魔力などで牽制してきた。

 

 しかし、凛華は”魔法”任せに重剣を振り回しているわけではない。グルングルンと手元で回した重剣は炎や風を尽く逸らし、斬り払って掻き消した。

 

 普段の鍛錬でぶちこまれるアルの蒼炎弾は加減されていても当たれば火傷で済まない。それに比べれば大して衝撃もなかった。

 

 最終的に凛華が見事な技術で女性剣士の幅広直剣(バックソード)を絡めとり、無傷で降参させた。

 

「あんなん勝てないわよ!」と女性剣士がレーゲンに泣きつく様は多少いたたまれない気持ちにさせたが審査とはいえ勝負は勝負。アルは素知らぬ顔をしていた。

 

 

 5試合目はラウラと女性の森人の勝負だ。これもアルが仕向けたものである。ラウラの戦い方は知らないが、おそらく後方支援的な立ち回りがこれからは必要になると思ったので学んでもらうつもりで試した。

 

 またラウラの引き抜いた半端な長さの剣―――杖剣は剣と魔導触媒の効果を併せ持つものだったらしい。振れば剣となり、魔力を流せば属性魔力や魔術の威力を爆発的に上げてくれる優れ物のようで、アルはそちらに意識が完全に持っていかれていた。

 

 触媒武器とでも言えばいいのか。途中からこっそり『釈葉の魔眼』を起動して眺めていたがどうもよくわからない。後で見せてもらおうとアルは心に決めた。

 

 ラウラは対戦相手をアルが選んだ理由を戦い始めてすぐに悟ることになった。これでもしっかりとした教育を受けてきている。

 

 自分が目指すべきはこれだと理解し、とにかく立ち回りを見せてもらおうと躍起になって食い下がった。しかし相手は経験豊富な武芸者で森人だ。

 

 わからない位置から槍衾のように矢が飛んでくる。矢尻が丸くしてあった為、完全に胸を借りるつもりでラウラは戦い、動けなくなった時点で降参と礼を言うのだった。

 

「いいとこのお嬢様かと思ったら根性あってびっくりよ」

 

 などと励ましの言葉を貰えて少々嬉しそうにするラウラ。

 

 ヘトヘトになって戻り、どうだったか訊ねると当のアルは杖剣を見てそわついていた。仕合の内容などそっちのけである。

 

 流石のラウラもこれには青筋を立て、気づいたアルはすぐさま平謝りすることになるのだった。

 

 

 最終戦は大刀を担いだレーゲンとアルの仕合だ。激しい攻防になるかと思われたが勝負はすぐに決まった。

 

 始まると同時にアルは蒼炎短剣をビッと投げる。レーゲンが素早く躱そうとしたところでアルが更にもう一本を投げ、蒼炎短剣同士をぶつけた。

 

 弓で言えば早矢に乙矢をぶつけたようなものだ。投擲癖のついているアルには至極簡単。ぶつかり合った蒼炎短剣はその瞬間蒼い爆炎を発生させた。

 

 炎属性魔力を投げたからと言って爆発などしない。それでもレーゲンは反応しなんとか躱す。

 

 だが、回避に移ったことでレーゲンは後手に回ってしまった。タァンという地面を蹴りつける音と共にアルが急加速し刃尾刀を構え突喊。

 

「くそがっ」

 

 と悪態をついたレーゲンが破れかぶれに薙ぎ払いを放つが、アルにとって最も得意な戦法は攻撃に攻撃を重ね、相手の隙やミスを見つけて紙一重で動作をかぶせる反撃(カウンター)だ。簡単に鞘で逸らす。

 

 大刀の右薙ぎ払いを鞘で上へと受け流されたレーゲンは自らの得物を慌てて手元に引き戻そうとしたが動かない。

 

 目をやればアルの首元にある龍鱗布が伸びて大刀に巻き付いていた。

 

「なんだっ!?」

 

 と仰天するうちに首元に刀を突きつけられそうになったので大刀を手放して後退する。

 

「『裂震牙』!」

 

 しかしアルはそれも想定していたのか、ダン!と足を踏んで魔術を起動した。

 

 途端に幾本もの土の牙が伸びてきてレーゲンの足の間や脇、肩の上をボヒュっと貫いて身動きを封じる。

 

 怪我ひとつないが動けず呻くレーゲンへ刃尾刀を突き付けてアルの勝利となったのだった。時間にすれば一番短い。5.5手目で終了といったところだろう。

 

 ちなみにこの手数の数え方は前世のチェスと同じである。ゲームで言えばターン制的な数え方だ。元はこの世界の戦術棋譜から来ている。どの世界もそういった考え方はそうそう変わらない。

 

 

***

 

 

 こうして新人武芸者たちの審査は終わった。苦々しい顔を浮かべたレーゲンはアルを見る。

 

 ―――――酷い結果になったもんだ。

 

 特に最後のはロクに返しもできない怒涛の攻勢だった。

 

 ―――――こいつが頭目なのがよくわかる。

 

 レーゲンはそう思いながら口を開いた。

 

「食えねえとは思ってたが魔術もやんのか」

 

「はい。ターフェル魔導学院を目指してるんですよ」

 

 のほほんと返すアル。

 

 ―――――さっきまでとはえらい違いだな。

 

 鋭く小さな動き。勝てると踏んでも油断はせず、そのくせ最短で首を獲りにくる。

 

 ―――――どう考えてもこいつらは戦い慣れている。

 

 そして勝った負けたには然して頓着していない。重要なのは()()()()なのだろう。

 

 戦っている最中は()()()()()()()()が、結果は結果としてアッサリと受け入れる感覚を持っている。

 

 それが指し示す事実は一つ。勝った経験も負けた経験もそれだけ豊富にあるということ。

 

 向上心を持ちつつも負けたら負けたでまた鍛えて戦う。だから終わってしまった結果には拘らない。

 

 現にアルの他3名の魔族も『黒鉄の旋風』と親し気に会話している。そこに傲慢さなど微塵も感じられない。というかちょっと懐かれている気がする。

 

 ―――――ったく、強えわけだ。

 

「どうりで。つーかとんでもねえ速度と隠密性だったぞ」

 

 レーゲンは納得してアルの魔術を褒めた。魔力の反応を感じたときには既に土の牙が迫ってきていた。

 

「四等級の武芸者に通用するなら師匠の顔にも泥を塗らずに済むってもんです」

 

 アルは胸を撫で下ろすように言ってのける。

 

「俺は個人なら三等級だぞ」

 

「なら尚更です」

 

 さらっと言い直したアルになんとなく面白い連中だと感想が湧く。やはり勝ったから云々という感覚が彼らにはない。

 

「審査の結果が出たら晩飯おごってやるよ」

 

「えっ、ほんとですか?」

 

「おうよ。お前ら個人はだいぶ上の等級だろうが、一党の等級は大抵低めに始まるからな。後輩への世間話ってやつをしてやる」

 

「おおっ!そういうの聞いてみたかったんですよ!」

 

 わくわくした表情のアルにこっちが素かとレーゲンは安堵した。まぁあれだけの連中を纏めてればそりゃあ気も張るよなと思い直し、

 

「じゃちょいと待ってろ。審査の報告、受付のお姉さんもやってるだろうけど直に戦った相手からの報告がいるらしいんでな」

 

 と告げて受付の方へ歩いて行く。

 

「おーい皆ぁ、レーゲンさんが晩御飯奢ってくれるって。武芸者の話とかもしてくれるんだってさ!」

 

 アルは喜んで仲間たちに声を掛けた。途端に彼らはわいわい騒ぎだす。

 

 『黒鉄の旋風』はやれやれと肩を竦めた。

 

「あいつ、ええかっこしぃだからな」

 

「まぁ気持ちはわかるけどね。素直だし」

 

「いっちょ先輩として武勇伝を話してやりますか」

 

 意外と彼らも乗り気だ。そんな和気藹々とした雰囲気の中、訓練場の見学許可を貰っていた鉱人鍛冶師ダビドフは呟く。

 

「あいつら、俺が待ってるって覚えてんのかねえ?」

 

 その呟きは紫煙に呑まれ上空へと消えていった。

 

 ダビドフは更に深く煙草を吸ってフゥーと煙を吐き出す、少女騎士ソーニャに剣を打ってやると言ったのは間違いじゃなかったと確信しながら。




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