また「小説家になろう。」と「カクヨム」にて同作を2~3日に1度連載投稿しております。
現在両サイトにて投稿されているものとこちらに投稿するものは少々文体が違う場合があります。
こちらへは定期的にある程度纏めて更新していく予定です。
アルクスたち6人が武芸者登録を済ませた翌日の午後のこと。
ヴァルトシュタットからおよそ150
三ツ足鴉という生き物を魔物だと言う者もいるが、本来は集団で狩りを行う習性を持ち、場合によっては人でも襲うためれっきとした魔獣である。体躯も本来の鴉より二回り以上は大きく、体力や飛翔速度も一般的な鴉のそれではない。
何を述べたいのかと言えば、アルが深夜も直前になって出した手紙が翌日の午後にネーベルドルフについたのはひとえに夜天翡翠の尽力があってこそだということである。
バサバサと下降してくる三ツ足鴉を見たネーベルドルフの住人たちは怪訝な顔を浮かべた。この魔獣は基本的に群れるものだ。1羽で翔んでいることなど早々ない。ましてや人里に1羽で降りてくることなどまず有り得ない。
そこで気付いた。つい先日来た青年たちはこんな感じの使い魔を連れていなかったか?と。
勘の良い住民のおかげですぐさま村落の長である山羊角族シモン・レーラーは呼ばれることとなった。
「夜天翡翠だったね?どうしたんだい?」
「カアッ!」
訊ねてくるシモンに三ツ足鴉は中央の脚を差し出す。そこには真っ黒に塗られた紙が括り付けてあった。
「もしかしてアルクス君から?まだ二日くらいしか経ってないのに―――」
シモンは丁寧に書かれた手紙をすらすらと読み進め、なるほどと頷く。
―――――急ぐわけだ。
「今ここを出てる人たちはいるかい?」
「巡回してる連中ならいると思うぞ」
シモンの呼びかけに誰かが応えた。
「街道寄りを回る時は最大限警戒するよう伝えてくれ。神殿騎士がいる可能性がある」
「なんだって!?」
「少し前に来てたアルクス君たちが遭遇したらしい。気を付けてくれって連絡が来たよ」
狭い村落だ。一人に伝われば驚異的な速さで伝達される。
「あいつらは大丈夫だったのか?」
「帝国の街にいるから自分たちの心配は要らないってさ。ホントしっかりしてるよ」
手紙の内容をシモンが伝えると住人たちはホッと胸を撫で下ろした。それくらいには、あの青年たちの印象は強かった。
「さて、僕はヴィオレッタ様への書簡をさっさと書き上げないとだね」
そう言ってシモンはさっさと踵を返す。どうせならネーベルドルフの定期報告も兼ねようとしていたので、まだ送っていない。しかし急ぐべきだろう。
住人たちの手前問題ないと言ったが、彼らが渦中いることはしっかり書かれていた。加えてアルの手紙にはヴィオレッタ宛のものも同封されている。
ここで夜天翡翠を休ませた後、隠れ里の方へ飛んでもらうのが普通の対応だ。だが、アルはできたらネーベルドルフからの書簡に混ぜて欲しいと記していた。
それはつまり夜天翡翠に早く戻ってきてもらいたいということ。
ではなぜ早く戻ってきてもらいたいのか?
これは簡単だ。アルたちが夜天翡翠を送り出した地と同じ場所にいない可能性があるからである。
ではなぜその場で待てないのか?これはシモンの予想だが追手がいるからだと考えられる。
―――――そしてその追手こそがきっと神殿騎士だ。
山羊角族の頭の回転は速い。一読しただけでシモンはそこまでの確信を得ていた。
自宅へ戻ったシモンは急いで書簡を書き上げ、アルの手紙を同封して早鷹へと託す。この鷹は魔物扱いされるほどの知能と持久力があり、上昇気流に乗って上空へ昇り滑空しながら降下する―――鷹柱と呼ばれるものだがその高度がやたらと高い。
そのおかげで下降距離が長く、またその間は羽ばたかないために一度の飛行時間も長いのだ。速さでは魔獣である三ツ足鴉に遠く及ばないが航続距離はその比ではない。
シモンは早鷹へ極力急ぐよう頼んで見送り、一つ息を吐いて夜天翡翠へ話しかける。
「とりあえず君にはごはんだね。少しは休んでいくでしょ?」
「カアー」
そこまで疲れた様子も見せず、三ツ足鴉は一声鳴いた。
***
早鷹が隠れ里に辿り着いたのはそれから3日後の早朝だった。奇しくもアルたち6人がヴァルトシュタットを出たその日である。
1,400km超の距離をほぼ2日で飛びきった早鷹は真っ直ぐヴィオレッタの家へと飛び込んで書簡入りの筒を眠気眼の吸血族へと届けた。
当初は朝早くからご苦労な事だと飛んできた早鷹を労わって餌を与えていたヴィオレッタだったが書簡についていた緊急を知らせる目印を見つけドキリとする。
期間的に弟子と生徒たちがネーベルドルフへ入っていてもおかしくない頃だったからだ。
急いでヴィオレッタが筒をキュポンッと開ければ、中には大きな書簡と細長く丸まった手紙が入っていた。
大きい方の書簡にはネーベルドルフの長シモン・レーラーの筆致らしき丁寧でびっしりとした書面が見える。その上方には些かに乱雑な走り書きで、同封されていた手紙の方を先に読んでくれと記してあった。
書かれた通りに丸くなっている手紙を広げてみれば、よく知っている筆跡を確認できる。愛弟子アルクスのものだ。
少々安堵したヴィオレッタだったがアルの手紙を読み進めるうちにどんどんと眉間に皺が寄っていく。読み終えたヴィオレッタは机を蹴倒すようにして動き出した。
疾風を纏ったヴィオレッタはアルの実家―――今はその母トリシャの1人住まいであるルミナス家へ跳ぶように駆ける。
ドンドンドンと戸を鳴らされたトリシャは「は~い」と出てきた。戸の前にはヴィオレッタが息せき切っているわけではないが険しい表情で佇んでいる。
「おはよう、ヴィー。こんな早くにどうしたの?珍しいわね」
「トリシャよ、儂はイェーガー家とキースを呼んでくるから
言い置いてさっさと身を翻すヴィオレッタ。トリシャはたまらず待ったをかけた。
「へ?ちょ、ちょっと待ってよ。どういうこと?」
吸血族の親友は顔だけトリシャへ向けてこう告げる。
「アルから手紙じゃ、悪報のな」
その一言でトリシャの意識も完全に覚醒した。慌てて出る準備を整え、イスルギ家とローリエ家の面々へヴィオレッタから聞いた言葉をそのまま伝える。
両家ともトリシャと似たような反応を示してすぐさま家を飛び出してきた。凛華の父イスルギ・八重蔵など寝巻のままだ。
トリシャを含めた彼らは道中でイェーガー家と合流して、ヴィオレッタの家へと急行した。
***
集まったトリシャ、イェーガー家、ローリエ家、イスルギ家の面々、そして足を引きずり「なんで俺まで?」という顔をしている鉱人鍛冶師キース・ペルメルにヴィオレッタは挨拶もそこそこに本題を切り出した。
「集まってもらったのはアルから手紙が届いたからじゃ。正確にはネーベルドルフの長シモン・レーラーからじゃが。先に言うておくとアルたち4人は無事、怪我ひとつないそうじゃ」
その一言で全員が心からホッと息をつく。悪報と言うから不安でたまらなかったが、最悪の事態は起こっていないようだ。
「じゃあアルからの伝言ってこと?」
アルから直接手紙が届いたわけではないのかと問うトリシャにヴィオレッタは首を横に振る。
「いや、アルがシモン宛に出したものの中に儂宛のが同封されておったそうじゃ。シモンがそれを見て急いで送ってくれたのじゃよ。手紙自体の日付は4日前になっておる」
この日付を書く風習は読む相手がどれが最新のものかわかるようにする為のものだ。アルの前世でも企業間のメールや請求書には必ず発行日ないしは作成日時が載っている。それと同種のものである。
「じゃあほんとにアルが書いたものってことね?」
「そうじゃ、アルの筆跡じゃよ」
そう言ってアルからの手紙を広げた。何枚かに渡っているし字が小さい。
「夜天翡翠―――あぁ儂が任せた三ツ足鴉じゃ。なかなか悪くない名前にしとるの。そやつに持たせるために小さく何枚にもしたのじゃろう」
その言葉に一同も「ははぁ、なるほど」と納得する。次いで、『じゃあ悪報とはなんだ?』という顔をする面々へ、ヴィオレッタはズバリ本題を口にした。
「悪報というのは、あやつらが大森林を抜けてすぐに神殿騎士共と遭遇したことじゃ」
「嘘でしょ・・・!」
「なっ・・・!」
「「何だと!?」」
「大丈夫だったんですか!?怪我は!?」
顔面蒼白なトリシャ、怒りが湧き上がっていきり立つ八重蔵とシルフィエーラの父ラファル・ローリエ及びマルクガルムの父マモン・イェーガー。
母親たちは皆不安そうな表情で詰め寄った。
聖国の神殿騎士。現在まで続く魔族狩りを行い、アルの父ユリウスと衝突した連中。
結局神殿騎士より格上とされる聖騎士1名ともう1名に手傷を負わせ、その部下である神殿騎士を道連れにユリウスは討ち死にした。彼らの動揺やトリシャが蒼褪めたのはそれも主な要因である。
「落ち着け。大丈夫じゃったからアルは手紙を寄越して来とるのじゃ」
ヴィオレッタの言葉にそれもそうだと一同は多少落ち着きを取り戻した。
「じゃが正面から戦闘になったそうじゃ」
「「「っ!?」」」
「経緯を書いておる。旧街道に出たあやつらは何の障害もなく歩いて帝国方面を目指しておったそうじゃ。
そこへ馬に二人乗りをした共和国人二名が現れ、あやつらの横を抜ける際に後ろの者が落馬した。マルクが咄嗟に受け止めたから無事じゃったがよく見ればそやつには矢が刺さっておったそうじゃ。
もう片方は落馬に気付いて戻ってきたが、落ちた方は動けんかった。
何事だと思ったあやつらはとりあえず救助しようとしたらしいのじゃが、どうやら麻痺毒が塗られておったらしい。すぐに治療は不可能じゃということで、どこか休ませて毒を抜こうとしておったのじゃ」
ヴィオレッタの言葉に他の面々は続きを話せという視線を寄越してくる。字が読めめないわけではないが、文字が小さくてこの人数では情報の把握には時間がかかるだろう。
「そこへ三十騎ほどの神殿騎士がやってきて、その二人を寄越せと言ってきたそうじゃ。『差し出せば見逃してやる』と言うてな」
―――――相も変わらず傲慢な連中だ。
八重蔵は怒りで拳を握り込み、マモンも珍しく不愉快そうな表情で眉間に皺を寄せる。
「じゃが、後ろにいた共和国人―――この二名はどちらもあやつらと同年代の少女じゃったそうでな。自分たちに『逃げろ』とは言うても『助けて』とは言わんかったそうじゃ。じゃからアルたちは神殿騎士たちの提案を蹴ったそうじゃ、不意討ちをくれてやりながらな」
「ハッ、そうこなくちゃな」
八重蔵が鬼歯を剥き出しにして笑った。ヴィオレッタはそれに困った表情を返して続ける。
「結局指揮官と思わしき騎士とその副官らしき騎士を含めた神殿騎士三十三名と馬三十三頭、あやつらは・・・・皆殺しにしたそうじゃ」
「「「っ!?」」」
ヴィオレッタの言葉は彼らの両親や兄弟を驚愕せしめるのに充分な破壊力を持っていた。八重蔵ですら口を半開きにして驚愕している。
「その内アルが指揮官と副官を含めた十八名と馬三十三頭、凛華が五名、エーラとマルクが四名を殺したそうじゃ。残り二名は事故死じゃと」
「アル・・・」
「戦意は確認したが、それでも極力手を汚させたくなかったそうじゃ」
「あの馬鹿野郎が」
トリシャは息子の名を呼び、八重蔵は悔し気に俯いた。
さぞや
「しかし、馬も全てアルクスが殺したとは・・・・?」
マモンは冷静に疑問を呈す。アルの速度は間合いの中でこそ速く、捉えにくく感じるが実際はそうではない。長距離を一気に駆け抜けるなら人狼の方が圧倒的に速いはずだった。
「神殿騎士を挑発しておる間に目眩ましを考えていたそうじゃが騎士共の提案を呑んだところで命の保証などあるはずもないと気付いて考え直したそうじゃ。
ネーベルドルフからも30kmほどしか離れておらんし口封じをするのが最適じゃと覚悟を決めて、それまで作っていた術式を変えたと書いてある」
「では、魔術で?」
ヴィオレッタはマモンの問いに頷きながら、手紙に記されていた術式を極々微量の魔力で起動する。
「うむ、これじゃ。規模を小さくするぞ。『\裂震牙《れっしんが》・
中庭に向けてヴィオレッタが起動した術は、小規模ながらイメージを伝えるに充分な破壊力を持っていた。
四方から殺到した土の牙によって噛み砕かれ、粉々になった拳大の岩。それが中庭に転がっている。
「アルの魔力で三分の一ほど流して起動したそうじゃ」
「アルクスの魔力でそんな術を起動すれば――――」
半ば愕然とするラファルにヴィオレッタは頷いた。
「うむ。不意討ちで発動させた時点で馬はほぼ全頭、脚を失ったらしい。アルは落馬する騎士たちの首を刎ねて回ったそうじゃ。あやつと凛華が敵陣に突っ込み、エーラが討ち漏らしを狩り、マルクはその少女らを守りながらの戦闘になったと。アルが自分で書いておる、ただの虐殺じゃったと」
「ったく、嫌がってるくせにどうしてそう的確なんだ。馬鹿弟子が」
「覚悟が決まり過ぎだ、アルにしてもエーラたちにしても」
やるせない表情を見せる八重蔵に、眉を情けなく八の字にするラファル。絶対的な数の違いから避難を選んだのに次の世代に障害を残してしまったことに対して情けない気持ちでいっぱいだ。
「ちょいと待て。じゃあクソッタレ共の死体が街道にあるのか?見つかったら――――」
キースが慌てたように言う。そうなれば連中は大森林に踏み入ってくるんじゃないかと危惧したのだが、ヴィオレッタは静かに首を横に振った。
「いや、アルが全て焼いたそうじゃ。総数はそのときにはじめてわかったと書いておる。焼け残った骨と武器や装備も埋めたようじゃな」
「・・・・アルクスちゃん、大丈夫なの?」
凛華の母、水葵が心配の声を上げる。
魔族は戦闘に関しての嘘や見得を嫌うのが常。アルがそう書いている以上、十割方真実だ。実際、虚飾一切はない。
どう考えてもアルへの精神的負荷が高過ぎる。娘たちのため、自ら手を汚しに行ったのだ。
「そこまではわからん。判断理由と事実だけを書いておる。これじゃ報告書じゃまったく」
憤慨するヴィオレッタにトリシャは心中で頷く。
―――――もっと手紙らしい手紙が来ればよかったのに。
「他にはなんて?」
そう思ってトリシャが訊ねてみると、
「共和国の少女らの素性を書いておる。一人が藩主の娘、もう一人は養女らしいのう。都市ヴァリスフォルム藩主への人質と洗脳教育の為に聖国へ連れ去られそうになっていたそうじゃ」
とヴィオレッタは答えた。
「人質と洗脳か・・・酷いものだな」
「まったくだ。連中、女神の名のもとになら何やってもいいと思ってんじゃねえのか?」
八重蔵の感想は偶然にもアルが挑発に使った言葉と似ている。やはり師弟は似るらしい。
「その少女たちはなぜ旧街道に?」
「都市から田舎街へ逃がされておったのがバレたためのようじゃな。帝国へ逃げるよう藩主から連絡を受けとったらしい。帝都を目指しておるあやつらに同行の許可をくれと頼んできたようじゃ。あやつらは帝都までの護衛を武芸者の依頼として受けることにした、と。依頼料は旅の経費分。いろいろあったようじゃが、あやつらの性根はそう変わってはおらぬようじゃの」
「そう・・・」
「うん。良かったよ、アル君も誰も変わってない」
―――――結局はお人好しだ、ユリウスのように。
マルクの母マチルダは優しくトリシャの肩を叩く。
「それと我々隠れ里の住民への注意喚起じゃな。旧街道は聖国の連中がおる可能性が高いと」
「外に買い物行く連中には伝えとくべきだな」
「ああ」
「それと今後の方針も書いておる」
「方針?」
「共和国令嬢を逃がす側に回る以上聖国の連中とは敵対することになるじゃろうが、基本的にはどうしようもない場面でしか戦わないそうじゃ」
「・・・・・やっぱりキツかったのね」
体力や実力の問題ではなく、精神的にだ。人を殺すと言うのはそんな簡単に割り切れるものではない。まして後始末まですれば相当だろう。
トリシャの心中を慮るように一同は沈んだ表情を浮かべた。
「じゃろうな。話し合った結果、何も奪わせない戦いをすると決めたそうじゃ」
「奪わせない戦いか。ひと月くらいしか経ってねえくせにどんどん前に疾走《はし》って行きやがる」
八重蔵がぽつりと呟く。子供の成長が早いのは知っているが、あの4人は早過ぎだ。
アルの影響大なのは間違いないだろうが、親としても師としても、もっとゆっくり踏みしめるように、一歩ずつ進んでいけと時折言いたくなる。
「でも良かった。変に復讐だとか魔族の為だとかに走らないで。やっぱりアルはちゃんとアルのままね」
トリシャは心底安心したのか顔色も平時のそれへと戻ったが、まだほんの少しだけ不安も見えた。
神殿騎士を斬り殺して回ったアルが龍血に呑まれていないかと心配しているのだ。
「少なくとも人間の前では『八針封刻紋』を解いておらんらしいからそっちの問題もないようじゃぞ」
トリシャの不安材料を払拭するようにヴィオレッタが告げる。これだけはアルが書いていた。自分でも懸案事項だと理解しているからだろう。
「そっか、まったく気を揉ませてばっかりなんだから」
今度こそトリシャは息をついた。
「あー・・・そんで里長殿。俺が呼ばれてる理由は?」
鉱人の鍛冶師キースが問う。周りは彼らの親や兄弟で肩身が狭そうだ。
「あやつらはヴァルトシュタットという帝国の街でダビドフという鉱人に世話になったそうじゃ。聞き覚えは?」
「打ったモン卸してた街だ・・・ダビドフはあの街で鍛冶師やってるってんでそのたびに呑みに行ったりしてたな」
すっかり忘れてたという顔をするキース。
「汝の名を出したら、すっかり音信不通で死んでたと思われておったらしいぞ。なんか嬉しそうだったからキースおじさんにも伝えておく、とのことじゃ」
「そりゃ、あー・・・不義理な真似しちまってたみてえだな」
「事情を知っておる身からすれば何とも言えんがの」
キースは困った顔をしつつも心配されていたのは嬉しかったのかポリポリと頬を掻いた。
***
少々雰囲気が落ち着いてきた。神殿騎士と遭遇したことよりも、そちらを残らず撃破したことの方に驚愕してしまったせいか、却って冷静な判断ができそうだと考えたヴィオレッタは本題に入る。
「それで、どうするのが良いと思う?シモンからの報告ではあやつらはおそらくもうヴァルトシュタットにはおらぬ」
「追っかけて見つかっちまえば余計に状況は悪くなっちまうだろうな」
と八重蔵が言えば、
「かと言って放置はできんだろう」
とラファルが返した。
「聖国の連中はこちらの存在を知っているわけではない。探りを入れるだけならこちらは問題なく動けるぞ」
とマモンが提案する。
「探るなら遠目でも魔族だとバレない方がいいわね」
トリシャの言葉に一同は考え込んだ。すると、意外なところから声が上がる。
「聖国の連中については人狼や森人に任せて、俺がヴァルトシュタットへ行ってあいつらのことをある程度聞いてくるってのはどうだ?鉱人は歩いててもそこまで珍しくねえし、見た目はほぼ人間と変わりねえだろうし」
キースだった。彼らは人間の街にひょっこり居てもおかしくない魔族だ。だからこそ辿り着いてしまえば悪目立ちしない。しかし、問題がある。
「けどよキース、お前足が―――」
キースは片足が悪い。村をかつて襲撃された際負った傷のせいだ。
「俺ぁ鉱人だぜ?街道何ぞ通らねえよ」
「道があるのか?」
ラファルは目を丸くした。
「俺らくらいしか使えねえ古い坑道があんのよ。だから見つかるこたぁねえと思うぜ」
キースの発言を受けてヴィオレッタはしばし黙考する。
そして考えが纏まったのか指示を下した。
「ふむ。ならばマモンとラファルは人狼と森人たちを率いて聖国の動きを探り、キースと八重蔵、汝らはヴァルトシュタットへ向かうのじゃ。角は目立つじゃろうが八重蔵ならそう問題はなかろう」
「承知した」
「わかりました」
打てば響くような即答を返す人狼と森人。彼らの感覚は調査の上ではこの上なく有用だ。
「案内頼むぜ、キース」
「任せとけ、つーかお前こそ悪目立ちするんじゃねえぞ。一本しかねえとは言え角はあんだから」
「帝国なら問題ねえさ。昔いたしな」
鉱人と鬼人は頷き合った。
「儂とトリシャで汝らの抜けた穴を補助する。口惜しいが無駄に目立つ見た目と魔力をしておるのは自覚しておるからのう」
「こればっかりは仕方ないわ。四人共お願いね」
本当は自分が行きたいところをトリシャもヴィオレッタもグッと我慢する。関心を呼ぶ方がアルたちに余計な障害を与える可能性があることを理解したがゆえの判断だ。
こうしてアルの手紙から魔族の大人組も動きだした。
風に乗ってきた言の葉が斯くの如く、少し、ほんの少しずつ風を起こし、流れを生み出していく。
いずれ大陸を揺るがす大嵐になるなど、誰一人として予見できぬままに。
評価や応援等頂くと非常にうれしいです!
感想も受け付けておりますので是非ともよろしくお願い致します。