日輪の半龍人   作:倉田 創藍

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ここでは初投稿になります。読んで頂ければありがたい限りです。


また「小説家になろう。」と「カクヨム」にて同作を2~3日に1度連載投稿しております。


現在両サイトにて投稿されているものとこちらに投稿するものは少々文体が違う場合があります。


こちらへは定期的にある程度纏めて更新していく予定です。


15話 蠢く暗い影、憤炎に燃ゆる貴人、懊悩する半端者 (虹耀暦1286年9月:アルクス14歳)

 ヴァルトシュタットに滞在しているアルクスたち6人の元へ、聖国の者が入国しようとしたと連絡が入る前日の午後にまで時は遡る。

 

 草原の涼やかな風にじくじくとした忌々しい気持ちを想起させられた豪奢な胸甲をつけた男―――ディーノ・グレコは苛立たし気にやや白っぽい紫煙を吐き、落とした葉巻を踏みつけた。

 

 場所はこの寂れた街から旧街道へ出てすぐだ。一向に帰ってこない予備隊を探すため急遽捜索隊を編成して向かわせたが手がかりの一つも見つけてこなかった。

 

 副官は顔を蒼褪めさせてその報告を聞いた。ディーノ・グレコという男を激怒させることはまず間違いない。

 

 そろそろと恐縮した様子の副官は自分たちの胸甲より、派手で首元が赤い鎧を着込んだ男へ近寄った。

 

 ディーノはイライラした様子を隠しもしないで怒鳴りつける。

 

「予備隊の連中は!?何やってやがる!?」

 

「も、申し訳ありません。捜索隊からの報告なのですが―――」

 

「あぁ?報告だ?連中を連れ戻せっつったろうが。誰が手掛かり探せっつったんだ?」

 

「そ、それらしき手掛かりは何一つ見当たらないと―――グゥッ!?」

 

 副官が首元を押さえた。その首が()()()()()()()()()。見えない腕で首を絞められているような奇妙な光景に周囲の騎士たちは更に静まり返った。

 

 ディーノは左腕を彼に向けたまま睨めつける。

 

「舐めてんのか?小娘二人を三十人くんだりで追いかけた挙句、痕跡がカケラもねえだと?じゃあ何か?やつらはそこいらの森にでも入って盛ってやがるとでも言いてえのか?」

 

「っい、え・・・ぞん、なことはっ!」

 

「ならなんで連中は見つからねえ?なんで小娘二人がここにいねえ?こんな木っ端任務に二百人も雁首揃えて何やってんだ?」

 

「もうじ、訳っあ、りませっん!」

 

 ディーノが左腕を突き放すような動作を取った。副官は弾かれるように後ろへたたらを踏み、次いでゲホゲホと涙目で咳き込む。

 

「クソが。てめえらじゃアテにならん。小娘共は旧街道の方を行ったのは間違いねえんだな?」

 

「・・・ゲホッ、はいっ!それは間違いないかと」

 

「新街道との分岐路があったな。それまで旧街道沿いに北上する、さっさと馬を用意しろ」

 

「は!」

 

 旧街道を道なりに行けば新街道と途中で合流するように交わる。アルたちは『陸舟』に乗っていたし、新街道を伝ってもラウラ達が逃げて来た田舎街の隣街に辿り着くだけであった為無視していた。

 

「しかしあそこはもう帝国領のすぐそばで―――」

 

「だからだろうが、スカが。あの小娘共が帝国の街に逃げ込んだ可能性があるっつってんだよ」

 

「あれだけの距離を馬に乗っているとはいえ―――」

 

「お前が指示した捜索隊が時間を無駄にしてくれたおかげで逃げる時間を与えちまったのがわからねえのか?可能性が出てきちまったって言ってんだよ」

 

「・・・それは、しかし―――」

 

「誰が口答えして良いっつった!?さっさと出立の準備をしやがれ!!」

 

「は、ハッ!た、直ちにっ!」

 

 いい加減ムカついていたディーノが声を荒げながら左腕を構えると、副官が転がるように走り出す。捜索隊の連中は戻ってそう間もないだろうが関係ない。

 

 ―――――無能は人一倍働くべきだ。

 

 ディーノは面白くなさそうにフンと鼻を鳴らすのであった。

 

 

 ***

 

 

 だいぶ日が落ちてきた。赤い夕暮れの陽が街道を血で染めたように彩っている。結局周囲を確認しながら進んでいた為、思っているよりも距離は稼げなかった。

 

 新街道との分岐路まであと30kmは優にある。

 

「そろそろ馬が限界のようです」

 

 副官の言葉にディーノは舌打ちを返した。気になる場所があれば馬をやって確認し、自身も馬を下りて周囲を探っていたためディーノ自身も疲れはある。

 

 だがそれを悟らせることに酷く嫌悪感を感じ、

 

「しょうがねえ、ここで一旦休む。見張りの連中と交代で貴様らも休め」

 

 とだけ命じた。

 

 ―――――ふざけやがって・・・!元聖騎士の俺が酒も女もない場所で野宿だと!?

 

 歯をギリギリと食い縛って屈辱に耐える。現在のディーノは聖騎士ではなく、準聖騎士だ。

 

 聖騎士には序列がある。頂点(トップ)に教皇が存在し、その下に聖騎士団長。そしてその団長を含めて30名の聖騎士が存在する。

 

 序列が上の方が基本的にその場を仕切ることができ、その30人の下に準聖騎士、神殿騎士長、神殿騎士が存在する。準聖騎士と神殿騎士長はほぼ変わらない。

 

 帝国や王国の騎士とは成り立ちから何もかも違うのだ。

 

 聖国には国軍もあるが神殿騎士の下積みであったり、使えないクズや家格の見合わない者たちが駒として扱われるどうしようもない場所という見方が強い。

 

 準聖騎士以上の者は国軍だろうが問答無用で指揮を執れるというのもそれを助長させていた。

 

 威勢だけはいい副官とその下の神殿騎士共を見ながらディーノは葉巻に火を点ける。

 

 ―――――今日は終い、こいつらは見張りをやる必要があるが自分にはない。とっとと眠らせてもらおう。

 

 そう考えたところで、ディーノはふと動きを止めた。

 

 副官やその他の連中は馬を動かしたり、慌ただしく動いている所為で気付いていないがここの土だけ妙に柔らかい。先程から土の舞い上がる量が多すぎる。

 

 ―――――まるで掘って埋め直した跡みたいだ。

 

 その思考にハッとしたディーノはすぐさま指示を飛ばす。

 

「おい!街道にいる連中をどかせ!邪魔だ!」

 

「ハッ!は?」

 

「聞こえねえのか?」

 

「た、直ちに!おい、道を空けろ!」

 

 道を空けさせたディーノは馬上で右腕をショベルのように動かした。

 

 するとドボッという音と共に()()()()()()()()。大量の土を被った騎士たちから短い悲鳴が上がるがディーノはそんなことお構いなしに何度も地面を抉るように掻く動作をし続ける。

 

 これもまた不可思議な光景だった。準聖騎士が右腕を振るたびに触れてもいない土砂が掘り返されて舞っていく。

 

 何度も繰り返したところでガチャンと何かに当たった。土と一緒に掘り返されたそれは金属特有の音を出しながら地面を転がっていく。

 

「これは―――う゛っ!?」

 

 近くに寄った神殿騎士が口元を押さえて後退った。それは黒焦げになってひしゃげている鎧小手と異臭を放つ真っ黒い塊だったからだ。

 

 ディーノはやはりと残っている右眼を細め、再度今度は掬い上げるような動作で土を掘り返す。ガシャ、ガシャというくぐもった音と焦げ臭い異臭が辺りを漂ってきた。

 

「こ、この死体、首がない・・・!」

 

 ある騎士はそう叫ぶように言ってへたり込む。貴様らそれでも神殿騎士かと叫びたくなる気持ちを堪え、ディーノは深く掘り進めては埋められていたものを引っ掻き出した。

 

 

 結局5mほどの深さにそれらは埋めてあった。胸甲に剣、槍――そして人骨。そこは殺した神殿騎士たちをアルが魔術で埋めた場所だったのだ。

 

 深めに埋めたはずだったが、準聖騎士の奇妙な力で掘り起こされてしまった残骸《戦闘の証拠》は今やそこらじゅうに散らばっている。

 

「予備隊のものか確認して報告しろ。終わったら埋めておけ。俺は休む」

 

 一通り取り出した黒い残骸を見てディーノは副官へ指示を飛ばす。

 

 ―――――どうしようもないショボい任務だと思ったが少しはマシなことになりそうだ。これも天の配剤ってやつだろう。

 

 ディーノは喜んで暗い笑みを浮かべるのだった。

 

 

 ***

 

 

 その翌日、結論から言えば地中に埋まっていた馬の屍骸や騎士の燃えた遺体は全て予備隊のものだった。剣を交えたと思わしき者の姿もなければ彼らが追っていたはずの少女二名のものもない。

 

 神殿騎士たちは同僚の遺骸を確認して気持ちが折れていた。30名ほどいた神殿騎士がその馬ごと葬られたのだ。

 

 狩る側が一方的に蹂躙されている様は彼らの心胆を寒からしめるのに充分な効力を発揮していた。

 

 ディーノはそんな連中に喝を入れるように叫ぶ。

 

「貴様らそれでも栄えある神殿騎士か!?こいつらは予備隊、つまり貴様らほどの練度がない連中だった。おそらく魔術か何かで一気に葬られたのだ!貴様らはそんな愚を犯す凡の集まりだったのか!?同胞を殺られて悔しくないのか!!

 

 目標は依然逃亡中だ!彼らの死に関しても取り調べなくてはならんことが多々ある!捕まえた奴にはその捜査権を渡してやろうではないか!」

 

 その言葉に神殿騎士たちの目に憤怒や奮起、薄暗い感情が宿った。

 

 ディーノは満足げに嗤う。これでも元聖騎士だ。人心掌握から消沈した意気を取り戻させるくらいならお手の物。

 

 それがどんな才能であれ、並ではないから聖騎士になれたのだ。

 

「では行軍を続ける!!」

 

「「「「「オオーッ!」」」」」

 

 神殿騎士達は進む、暗い感情に誘われて。

 

 

 その後新街道との分岐点でディーノは騎士を50名、新街道の方へと向かわせた。ラウラの父ノーマン・シェーンベルグが帝国へ行くよう伝達してきた手紙はラウラが読んですぐに燃やした為、どこを目指していたのかわからなかったのだ。

 

 ディーノの読みでは帝国だ。使えない副官は新街道へ送った。こんな任務に日を費やし過ぎている。もう数日でカタをつけなければ評価が下がってしまうだろう。

 

 その後、捜索を続けながらディーノ率いる神殿騎士たちは夜も遅くなってきた頃に帝国の街ヴァルトシュタットへ到達した。

 

 徒歩の者こそいないが馬は連日動き続けている。加えて同類の屍骸を見て言うことを聞かなくなった馬が10頭ほどいた為時間がかかってしまった。

 

 斥候として騎士を街へ送り込んだが全員が入国拒否を受けて憤りも露わにしている。ディーノから言わせれば当然だった。

 

 ―――――武装した他国の兵をあの国が簡単に受け入れるものか。

 

 その日はまた天幕を張り、あちらから見えない位置で街を見張り続ける。

 

 ディーノは神殿騎士達の様子を眺めながらニンマリと嗤った。

 

 ―――――いい具合に理性が薄れ始めたな。

 

 心中では手を叩いてはしゃいでいる。

 

 ―――――元々大した任務も熟していない連中だ。強行軍をやらされ、味方の無残な遺骸を見せられ、その犯人と思わしき連中と関わりのありそうな見目麗しい少女2人が目標だ。

 

「く、くっ、く・・・・・けっ、けけっ」

 

 己の喉から零れる嗤いが抑え切れず、天幕内で一頻り嗤った。

 

 

 準聖騎士1名、神殿騎士117名は虎視眈々と獲物を狙う。

 

 薄暗い欲望と共に。

 

 

 ☆★☆

 

 

 武芸都市ウィルデリッタルト。その領主館でいまだ若々しさを保つ中年の男性が壮年の男性を呼び止めていた。

 

 中年の男も壮年の方もどちらも背筋の伸びたしっかりとした立ち姿だ。武芸都市を始めとした周辺街を治める領主と呼ばれるだけのことはある。

 

「父上、これを」

 

 黒髪を整えた中年の男性は白髪の混じっている壮年の男性へと書状を渡してみせた。

 

「む、なんだ?」

 

 壮年の男性は素直に受け取ってそれに目を通す。読んでいく内に眉間の皺は寄り、視線が猛禽類を思わせる鋭さへと変わっていく。

 

 その鋭い視線が中年の男性へ向いた。

 

「ヴァルトシュタットの方から早馬で届きました」

 

「それでトビアス、どう動くつもりだ?」

 

「明日、武芸者を集めようと思っています。どうやら彼らは明日までヴァルトシュタットにいるそうですし、迎えが必要でしょう」

 

 トビアスと呼ばれた中年の男性はそう答える。書状を呼んだ時点である程度決めていたらしい。

 

 壮年の男性―――トビアスの父ランドルフは即座に問う。

 

「では明後日に出立か?」

 

「ええ、早朝に。さすがに共和国の令嬢です。しかも反聖国をいまだ掲げている豪傑の娘。心情的にも帝国貴族としても見過ごせません。連れて行く人員《武芸者》の選定は必要でしょうから一日だけ我慢してもらうことにはなりますが」

 

 ランドルフはうむと頷き、

 

「ならば数日の間、政務は代わろう。あそこの藩主とは知り合いだ。頼むぞ」

 

 と息子へ告げた。トビアスに家督を譲ったのはもう5年ほど前だが、執務程度なら問題ないだろう。

 

「承知しました」

 

 トビアスは厳かな目付きで頷いた。

 

 そんな父子2人が難しい顔でいるところへチョコレートのような深みのある色合いをした茶髪を揺らして少女が駆けてくる。

 

 当年とって13歳の少女はまだ思春期になっていないのか、元気よく2人に突撃した。この家でそんなことが出来るのは彼女くらいなものだ。

 

「お父様!お爺様も!また難しい顔をしてらっしゃいますの?何があったのか教えて下さいまし!」

 

 淡褐色(ヘーゼル)の瞳をキラキラさせる娘にトビアスは微笑みながら宥める。

 

「お仕事の話だよ、イリス。もう遅いだろう?寝ないと駄目だよ」

 

「ええっ!?まだわたくし元気ですわ!」

 

 トビアスはぷうっとむくれる娘の頭を撫でた。コロコロと表情が変わって愛らしいものだ。

 

「そこまで元気ならわしが明日稽古をつけてやろう。トビアスは明日から少々忙しくてな」

 

 ランドルフも好々爺の顔をして宥めにかかる。武芸都市領主の娘らしく、イリスは武芸に興味津々だ。

 

「本当ですの!?お稽古なら寝ないといけませんわね!お爺様、約束ですわよ!」

 

 そう言ってパタタタッと走っていく。天真爛漫な娘は家中の者たちからも人気だ。

 

「あっ、こらおやすみなさいくらい――――」

 

「おやすみなさーーい!」

 

 トビアスの注意を聞くには聞いたのか甲高い挨拶が届いた。

 

「ふっ、お前もあのくらい素直であればな」

 

 ランドルフの言葉に、

 

「僕があんな風に振舞ったら日を跨がずに癒者を呼ぶでしょうに」

 

 トビアスは肩を竦めて答える。

 

「都市一番の名癒を呼ぶであろうよ。では先程の件、すべてお前に任せるぞ?」

 

「ええ。きちんと保護してみせますよ、胡散臭い聖国の連中の手を叩いてね」

 

「何ならば斬り落としても構わん」

 

「不躾に伸ばしてくるのであればそう致しましょう」

 

 娘とよく似た瞳に武人としての色を見せる息子。父としても元領主としても頼もしいものを感じるランドルフであった。

 

 

 彼らもアルたちに遅ればせながら動き出すことになる。その出会いが何を生むのか、今のところ女神のみぞ知るところであった。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 アルはいつもの―――魂の内面世界にいた。

 

「ここ数日来っぱなしだぞ、脳が休めてねえ可能性があるから休んでろって言ったろ?」

 

 白っぽい部屋のソファに座った前世の自分―――長月が嗜めてくる。

 

「わかってるけどさ。そうも言ってられないだろ」

 

 アルはそう返す。よくアルがここに訪れていた頃、どうにも日中ぼーっとする日が数日続いた。

 

 長月は寝ている間もここで会話することで脳を使用している―――つまり睡眠中の本来の脳の役割を果たしていないんじゃないかという疑問を呈したのだ。

 

 睡眠中、人の脳は経験や知識を整理する。それが上手くいかないので知識にも影響が出てくるぞと半ば脅された。

 

 それ以降どんなに長くともこの部屋の時計で2時間を上限(リミット)として現世(アル)前世(長月)は交流を深めている。

 

「俺の予想より早い」

 

「知ってるさ」

 

 アルが話し出す本題に長月はそう返答を寄越した。

 

「掘り起こした連中がいるんじゃねえか?ちゃんと戻したとは言え()()()ようなもんだろ」

 

「あの長い街道でそんなとこ見つける奴がいるのか。だとしたら―――」

 

「当然、注意は必要だな。最初の神殿騎士とは知能のレベルが違うと思っといた方が良いだろうよ」

 

「だよなぁ。はぁ・・・しんど」

 

 アルは思わず肩を落とし、長月の向かいの椅子の背もたれへ身体を預ける。

 

「んじゃ、投げ出すか?」

 

 嫌な―――いや、魅力的な提案をしてくる長月にアルはハンと笑った。

 

「やなこった。それなら最初から断ってる」

 

「なら頑張れよ。その為にみんなで色々検討してんだろうが」

 

 長月は他の面子よりも直截的だ。仲間たち(魔族組)とて意見はハッキリ言う方だが言葉そのものには思いやりがある。ここまで突き放した言い方はしない。

 

「わかってるさ。愚痴くらい言ってもいいだろ」

 

 唇を尖らせるアルに長月はチッチッチと指を振る。

 

「愚痴ってのは友達に聞いてもらうもんだ。魂レベルの兄弟で愚痴っても意味なんぞねえし、たぶん気も晴れねえぞ」

 

 ―――――そういうものだろうか?

 

 アルがそんな顔をするなか、長月は本題に戻った。

 

「どっちにしても対策は仲間と考えとくべきだな。まさか野盗に身を窶すなんて有り得るかねぇと思って出した案だったがよ、マジにありそうだな」

 

「そこだよ。想定が甘かった」

 

「どうにも実感がねえからな。貴族令嬢だのなんだのってなぁそんなに重要なのかね」

 

 アルは魔族として育った環境ゆえ、長月は前世の感覚や記憶ゆえそこらへんの感覚が薄い。

 

「どっちにしても積極的に絡まれる可能性があるとして・・・・殺すべきだと思う?」

 

 結局アルが言いたいところはそれだ。アルが戦う以上他の仲間も戦う。どうしても良いことだとは思えなかった。

 

「殺られる前に殺れってのが正しい感覚だろうな、この場合。誰か死んでからじゃ遅えからな」

 

「・・・そうだよな」

 

 アルは長月の言葉に頷きつつ、案を出していく。

 

 仲間たちとの会話も重要というかアルの行動指針の大半になっているが、ここで前世の知識を引っ張り出しておくのは別の意味で重要だ。

 

 形にするのは仲間と相談してからだったが『陸舟』の原案なんかもここから出ている。

 

 しばらく話をしていた2人だったが、チラリと壁掛時計に目をやった長月が話を切った。

 

「時間だぜ、兄弟」

 

「ほんとだ。じゃあ今日は帰るよ」

 

「おう」

 

 アルはいつものように部屋から意識を飛ばそうとして・・・耐え切れず長月に訊ねる。

 

「なぁ、人殺しにさ・・・・慣れた方がいいのかな?」

 

 その声は静かだが、悩んでいる。長月は数瞬迷い、真面目な表情で口を開いた。

 

「・・・前世()の倫理観はさっさと捨てた方が良いだろうな。この世界と俺のいた世界はてんで違う。そもそも日本くらいだ、あんな平和ボケしてたのは」

 

「・・・うん」

 

「だが兄弟、あえて言うぜ?敵は倒せ、生き残りなんて絶対に残すな。でも慣れたりもすんな、一生。人が人を殺していい道理なんてのは否定し続けろ」

 

「殺すけど、慣れるな?」

 

 アルの疑問へ長月は首肯する。

 

「そんな道理は否定し続けなきゃ人じゃねえ。だろ?でもって何も奪わせねえってんだ。ならそこの芯はブレたりしちゃダメじゃねえか?」

 

 長月の言葉がアルの心臓にドクンと叩きつけられた。

 

「・・・・そう、だよな。慣れなくて良かった。俺は俺として戦うんだから、慣れてたまるか。心底嫌だって顔しながら戦い続けてやる」

 

 アルの瞳が燦然と輝く。迷いは抜けたらしい。

 

「ハッ、その意気だ。まあ頑張んな」

 

「ああ、頑張るよ。またな」

 

「おう」

 

 アルの意識が内面世界から抜け出していく。

 

 長月はそれを見ながらぼそりと愚痴るように呟く。

 

「・・・・そういうのは俺じゃなくてあの鬼っ娘やらエルフっ娘と話し合えばいいのによ、ったく。んなこと考えられるような状況じゃねえのはわかるけどな」

 

 兄弟(アル)が鈍感な理由が己の存在意義にあることが分かっているからこそ余計なことは言わないがもどかしさはある。

 

「ま、なるようになるか。頑張れよ、兄弟」

 

 長月はゴロンとソファに身を投げ出しながらエールを送った。

 

 

 その翌日、アルたちはとうとう件の連中と大きく衝突することになる。




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