日輪の半龍人   作:倉田 創藍

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ここでは初投稿になります。読んで頂ければありがたい限りです。


また「小説家になろう。」と「カクヨム」にて同作を2~3日に1度連載投稿しております。


現在両サイトにて投稿されているものとこちらに投稿するものは少々文体が違う場合があります。


こちらへは定期的にある程度纏めて更新していく予定です。


断章5  再会する鉱人鍛冶師たち

 アルクスが過労で倒れ、領主館で目を覚ました日の昼頃のこと。帝国辺境の街ヴァルトシュタットの門前には隠れ里から調査に来た鉱人族のキース・ペルメルと鬼人族のイスルギ・八重蔵がいた。

 

 キースは片足を引き摺っているし、鉱人しか知らない坑道は直接ヴァルトシュタットに伸びているわけでもない。

 

 通常であればもっと時間がかかったところを里長であるヴィオレッタが『転移術』である程度()()()くれたおかげでここまで早い到着となったのだ。

 

 

 入国審査官は八重蔵を見て何か問いたそうな表情を浮かべたが口をつぐむ選択肢を取った。八重蔵はその様子に娘の凛華でも連想させたかと思いつつもやはり何か言うことはない。

 

 審査官の方も自らそういった情報を漏らすことはないので何とも奇妙な間が生まれてしまったのは致し方ないことだろう。

 

 

 長剣と直剣を腰に差した鬼人と杖をついた隻眼の鉱人は人間の街ではそれ相応に目立つ。魔族への悪感情がない帝国人でもさすがに遠巻きに見ていた。

 

「帝国人は魔族の友じゃなかったっけか?あいつら大丈夫だったのかねえ」

 

 八重蔵が呟くと、

 

「お前さんの見た目が物騒なんだよ、眼つきカタギじゃねえからな」

 

 とキースが唸るようにツッコむ。

 

「あぁ?眼つき云々でお前に言われたかねえんだよ。そんで?お前の知り合いの鉱人ってなぁどこにいんだ?」

 

「昔と変わってねえならあっちだ」

 

 首を巡らす八重にキースは目的地方向へ葉巻を向けて答えた。

 

「さっさと行くぞ。あいつらの話も聞かせてもらわにゃならんし」

 

「おうよ」

 

 仲が良いんだか悪いんだかわからない会話を交わして、鬼人と鉱人は歩き出す。目指すはアルクスからの手紙にあったダビドフ・ラークの鍛冶工房だ。

 

 

***

 

 

 ヴァルトシュタットの鉱人鍛冶師ダビドフ・ラークの工房はすぐに見つかった。キースの鍛冶場とそう変わらない。どうにも鉱人の鍛冶場というのは似たり寄ったりらしい。

 

「あれか?」

 

「おう、変わってなかったみてえだ」

 

 キースはフゥーと葉巻の煙を吐く。探す手間がかからなくて万々歳だ。これでも急いでいる。

 

 ガラリと鍛冶工房の戸を開いたところに、鉱人特有の低い声が奥の方から響いた。

 

「いらっしゃーい。ちいっと待っててくれー!」

 

「悪いんだけどよぉー、客じゃあねえんだぁー!」

 

 八重蔵が大声で返答を返すと、

 

「あん?客じゃねえなら何だってんだ?」

 

 ダビドフがひょこりと顔を覗かせ――――その目を真ん丸にする。

 

「おめえ!まさか、キースか!?」

 

「おう。久しぶりだな、ダビドフ」

 

 ダビドフの記憶にあるキースは隻眼じゃなかったし、足を悪くしている様子もなかったが確かにキース・ペルメルだった。

 

「生きてるって話はアルクスの坊主どもから聞いてたが、こんなに早く再会するとは」

 

「俺もだ。すまねえな、あれから森の奥深くに引っ込んじまってて・・・・なかなか出てくる気にもなれなくてよぉ」

 

 バツの悪そうな表情を浮かべるキースがそう言えばダビドフはゆるゆると首を横に振る。

 

「村があんなになっちまったんだ、しょうがねえよ。俺がお前の立場だったら出てこねえだろうさ。ところでそっちの鬼人はあれかい?凛華嬢ちゃんの親父ってとこかい?」

 

 ダビドフの言葉を聞いた八重蔵は少々驚いた。自慢ではないが凛華の顔立ちは非常に整っている。

 

 重剣を担いでいなければ涼やかな美少女で通る娘と野武士のような見た目の八重蔵はあまり親娘には見えないのだ。

 

「わかるのかい?」

 

 不思議そうに八重蔵が訊ねれば、

 

「凛華嬢ちゃんとあんたの持ってる剣の気配がそっくりだぜ?嬢ちゃんに剣教えたのはお前さんだろう?」

 

 と鍛冶師特有の感覚をもってダビドフが答えた。重剣や大剣を担いでいない八重蔵の剣を見てそこまで判断できるものなのか。

 

「勿論キースと一緒に来た鬼人ってのもあるぜ?」

 

「ああ、なるほどな」

 

 つまりキースの打った剣を持っている凛華とそのキースを連れて来た鬼人が無関係なはずもないという読みだ。

 

「久々にあんな雑な扱いをされたぜ」

 

 ニヤッと笑うダビドフにかつて人間のいる国を武者修行で回っていた八重蔵は正しく意味を理解する。

 

 人間は鉱人の打った剣をやたらとありがたがるものだ。

 

「すまねえな。あいつら、里に鉱人も巨鬼もいるもんだから慣れきっちまってんだ」

 

「はははっ、構うこたぁねえよ。久々に知らねえ同胞と話すのも悪くなかったからな」

 

 八重蔵が弁明すればダビドフは気にするなと手を振った。魔族同士の妙な心地よさを感じる会話を人間の街でしている。妙な感覚だ。

 

「そんで、ここに来たのはキースの生存報告だけってわけでもねえんだろう?」

 

 察しの良いダビドフがそう問えば、

 

「おう。今の状況が知りたくてな」

 

 キースは頷く。神殿騎士から少女2人を守って戦うことになったアルクスたちが現在どういう状況にいるのか。それが知りたかった。

 

「厄介な連中とやり合ったらしいな」

 

 ダビドフの言葉に八重蔵とキースは素早く反応する。

 

「何か知ってんのかい?」

 

「同胞の誼《よしみ》で坊主から話は聞いてたからな」

 

 ついでに言えばダビドフはここの武芸者協会の支部長とも仲が良い。事の顛末はしっかりと聞き出していた。

 

 のっぴきならない事情に巻き込まれた若い同胞に死んでほしくないと思うのは当然のことだ。

 

「じゃあ、おめえ」

 

「おうよ。何もかも全部知ってるぜ。あの六人が出てったのは一昨日の朝。

 

 出たきっかけはこの街の薬師を神殿騎士共が拷問したせいだ。狙ってるラウラとソーニャっていう人間の嬢ちゃん二人が街にいるのか聞き出して燻りだすためだったらしい」

 

 怒りを含んだ言葉に隠れ里から来た2人も眉間に皺を寄せる。ラウラとソーニャという共和国の令嬢については手紙に記してあった。

 

 では無関係の人間に手を出したというのか。捕らえたいが為だけに。

 

 ―――――相も変わらない外道共が。

 

「・・・・・それで?」

 

「アルクスの坊主は武芸都市方面に連中を引き連れて逃げ切ってやろうって決めたらしくてな。そしたら『黒鉄の旋風』もそれに参加するっつってよ・・・ああ、『黒鉄の旋風』ってのは被害に遭った薬師の友人が頭目やってる一党だ。六人の内二人は森人族のな」

 

「協力者もいたのか」

 

 八重蔵は有難いことだと心中で呟く。やはり帝国人は捨てたものではない。

 

「おう、俺が剣打ってやった連中さ」

 

「けど一昨日か・・・今ほどこの足を疎ましく思ったこたぁねえ」

 

 キースにはアルの父ユリウスに助けてもらったという恩がある。

 

「お前が行ったってどうしようもねえだろ」

 

 悔しそうなキースに八重は冷静に返した。が、こちらも僅かな焦りが見える。

 

「まあ待て。全員無事で今は武芸都市ウィルデリッタルトだ、『黒鉄の旋風』含めてな」

 

 ダビドフはさっさと結論を先に言うことにした。この2人はほっとくとこのまま武芸都市に乗り込みかねない。

 

「なんで知ってんだ?」

 

 情報通過ぎるだろうと八重蔵が疑問を口すれば、

 

「武芸都市の領主が今朝方早馬を飛ばしてきたんだよ。街の周りに潜んでいたと思われる神殿騎士一六七名と準聖騎士一名は、坊主たちが討伐したからもう心配ないってな」

 

 とダビドフが返す。街の住民に被害が出ている以上取り纏め役や武芸者協会の支部長への報告をしておかなければ二進《にっち》も三進《さっち》もいかんだろうというトビアスの判断だ。

 

 いずれ帝国の新聞社にも伝わるだろう。

 

「一六七人に、準聖騎士だと・・・!?」

 

 キースが村を滅ぼされた怒りを再燃させて低く唸る。八重蔵は武人だけあってやはり冷静だ。そもそも連中への怒りを忘れたことなどない。

 

 ただしそれだけの数を相手に一人も欠けていないという事実には素直に驚いていた。八重蔵は確認するようにダビドフへ問う。

 

「その『黒鉄の旋風』って一党が馬鹿強かったのか?」

 

「あいつらは三等級四名に四等級二名の三等級の一党だが昇級したばっかりだ。つい最近祝ってやったから覚えてる。決して弱かねえが魔族狩りをやるような連中一五〇人越えを相手に大立ち回りなんざまだ出来ねえよ。

 

 おめえら、もうわかってんだろ?アルクスの坊主さ。きっとあいつが策を巡らしたんだろうよ。なんつっても薬師の坊主が運ばれた癒院から出てきたあいつ、尋常じゃねえ殺気と魔力を漏らしてやがったからな」

 

 騒ぎを聞きつけてダビドフが工房を出たときには既に被害を受けた薬師の青年は癒院へと運ばれていた。

 

 その後すぐに出てきたアルに事情を問おうとしたダビドフだったが、その怒りの度合いを体現したような殺気と魔力がとてつもなくて声をかけられなかったのだ。

 

「・・・やっぱアル坊たちが主導か」

 

 キースは紫煙を吐き出しながら呟く。アルたち4人の努力と実力は隠れ里にいる者なら大抵の者が知っている。

 

 その強さと知識が正しく()()()()()()のだ。並の兵じゃ轢き潰されてもおかしくない。

 

「容赦を捨てたんだろ。連中相手にゃ丁度いい」

 

 八重蔵は当面の危機が去ったとわかり、肩の力を抜いた。覚悟をもって送り出したがそれは心配しないことと同義ではない。

 

 成長してくれるのは嬉しい、だが一番に望むものは元気に無事でいること。それが親心というものだ。

 

「そうだな。ふぅー・・・・とりあえず里に朗報を持って帰れそうで安心したぜ」

 

 キースはホッと胸を撫で下ろす。可愛がっていた里の子供たちだし、そのうちの一人は恩人の息子だ。無事でいてくれと願う気持ちは一緒だった。

 

「マモンたちにも報告入れといてやらなきゃな」

 

 そう言う八重蔵に頷いてキースは腰を上げる。

 

「おう、じゃあ行くか」

 

 さっさと帰ろうとするキースに鬼人は呆れたような顔をした。

 

「お前なぁ、今日はさすがに動かねえぞ。せっかく旧友に会ったんだろうが。酒くらい酌み交わすのが男の礼儀ってもんだ」

 

「いや、しかしよ」

 

「ガキの遣いじゃあるめえし、酒を酌み交わさねえ鉱人なんぞ鉱人の風上にも置けねえ。なぁ?ダビドフ殿」

 

 ニッと笑う八重蔵に一瞬虚を衝かれたダビドフだったが、すぐに芝居がかった様子で然りと頷く。

 

「八重蔵殿の言う通りだ。なに、良い店に案内してやるから安心しろ」

 

「お前ら急に結託してんじゃねえよ、何が殿だ・・・・・はぁ、わかった。上手い酒とアテはあるんだろうな?」

 

 この流れを押し返すことは不可能だと察したキースはお手上げという仕草と共にダビドフをジロリと見た。

 

「おう、任せときな」

 

 ダビドフが胸をドンと叩いて請け合う。

 

「んじゃパーッと呑むか」

 

「ったく、呑兵衛が」

 

鉱人(呑兵衛)そんなこと(呑兵衛だなんて)言ってんじゃねえよ」

 

 こうして3人は昼も明るい内から店が締まる時間まで酒を呑んで楽しい時間を過ごした。暗い話題も晴れたとなれば酒も進む。

 

 キースとダビドフは旧交をあたため、八重蔵は新たな呑み友と剣の話題から凛華とアルの話題などで盛り上がるのであった。

 

 

***

 

 

 その後、かなりの日数をかけて隠れ里まで戻った八重蔵とキース。

 

 2人の移動中に夜天翡翠がアルたちからの手紙を届けてくれたことで、その報告結果自体はほとんど被っていた。

 

 しかし具体的な敵の人数や状況まではヴィオレッタたちも、また手紙を書いたアルですら知っていたわけではない。

 

 八重蔵とキースの詳細な報告で家族たちは青褪めたものの、これによって一連の騒動は収束を迎えることとなった。




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