また「小説家になろう。」と「カクヨム」にて同作を2~3日に1度連載投稿しております。
現在両サイトにて投稿されているものとこちらに投稿するものは少々文体が違う場合があります。
こちらへは定期的にある程度纏めて更新していく予定です。
ラウラ・シェーンベルグ及びソーニャ・アインホルンの長期護衛依頼を請けていたアルクスたちの一党へ、臨時で参加した『
良くも悪くも三等級の武芸者一党というのは独立した存在として扱われる。
他国令嬢の臨時護衛かつ聖国の侵攻とも取れる軍事行動への対処。これが大事にならないわけがない。信賞必罰は人の社会において非常に重要な要素だろう。
とはいえ、彼らの予想より事が大きくなってしまい、滞在費まで出ていた。
「あいつら、大丈夫なのかねぇ?そのまま行っちまったけど」
個人四等級の剣士ヨハンがぼんやりと呟く。宿の食堂の長卓に肘をついて退屈そうだ。
この都市についてから4日ほど経つがアルクスたち6人とは会えていない。この宿にいるようにと領主直々に指示を受け、何もしなくとも困らないくらいの金銭を受け取っていた。
「領主様のとこで休んでるんじゃない?アルクスちょっとカリカリしてたし」
ヨハンの双子の妹、個人四等級の槍士エマは投げやりに答える。こちらはべたんと長卓に頭を乗せていた。最後に見たアルクスは何やら非常に神経質になっていた気がする。
髪色の変化や聖国の大規模術式を弾いたこと、馬車から落ちたはずなのにどうやって追いついてきたのか?など聞きたいことはたくさんあったが、会う機会にも恵まれないまま『黒鉄の旋風』は缶詰状態になっている。
領軍の位の高そうな軍人が2人ほど事情聴取に来ただけだ。
「ラウラちゃんたちは本当はラウラ様たちなんでしょ?色々あるんじゃない?」
個人三等級の女性剣士ハンナがそんなことを言いながら伸びをした。欠伸まで混じっている。
肩甲骨あたりまで伸ばしている暗い金髪は普段は括っているが今は適当に解いていた。
「そうねぇ。支部の方にも顔出してないみたいだし・・・・暇ねえ」
シルフィエーラと対照的な白い肌に輝くような金の短髪、似たような尖り耳を持つ個人三等級の森人弓士プリムラがとうとう退屈だと口にする。
こちらは宿で頼んだ
「気持ちはわかるがダラけ過ぎだろ、お前ら」
「仕方あるまい。長期休暇など久しぶりだからな」
食堂の方に歩いて来た『黒鉄の旋風』頭目個人三等級の剣士レーゲンがそう言えば、隣にいた同じく個人三等級の森人剣士ケリアがそんな返答を寄越す。
椅子に座るとすぐにケリアは恋人プリムラが呑んでいる蜂蜜酒を少し貰って口を潤した。
「どこ行ってたのよ?」
「こいつを試しに中庭までさ」
ハンナの問いかけにレーゲンは紙切れを見せる。
「それって確か」
「アルクスに貰った魔力、つうか操魔核か?の鍛錬用に貰った術式だ。『吸魔陣』って言ってたっけ」
ピラッと術式見本を見せながら答えるレーゲン。
「効果はどうなの?」
「数分で魔力切れした。
「へぇ~、ちょっと貸してよ」
「ほれ、えらい勢いで吸われるぞ」
興味を持ったハンナが紙を借りて「こうね」などと言いながら手を動かす。ここで試してみるつもりらしい。
「帝国のとだいぶ癖が違う術式ね――――わぁっ!ちょ、ちょっとこれ!際限なく吸うじゃないの!」
鍵語を並べ術式を起動させたハンナの魔力がぎゅんぎゅんと吸われ始めた。
「そう言ったろ」
「そこまで詳しく言ってないでしょ!」
「数分で魔力切れ起こすって言ったじゃねえか。一回魔力流したら起動待機状態には戻せねえから気をつけろよ」
元々が龍血の暴走を抑え込むために作った術式だ。一度起動させれば吸った魔力で強制起動し続ける。ある意味では欠陥魔術である。
「早く、言ってよね!・・・はぁ、でも確かにこれ打ってつけね。貸して、ケリアとプリムラ以外の分、見本作っとくから」
急激に魔力を吸われたハンナはグデンと姿勢を崩しながら森人2人以外用に術式をメモしていく。
魔族は魔力適性にムラがある為、全属性に適性のある人間より魔力鍛練は容易なのだ。
ハンナは書き終えた術式見本をヨハンとエマへ渡し、レーゲンへと原本を返した。
魔力を鍛えることが強さに直結するというのは
それを良く知る4人は『もうここで、これでもやっとくかぁ』などと頭の片隅で考えていた時だ。
「暇そうですね」
「おう、缶詰状態でな。聴取の方は終わってんだがここで待機して・・・ってアルクス!?」
「こんにちは。数日ぶりですね」
そこには、さっきからずっといましたよという顔のアルがいた。ギョッとした顔で隣を見るレーゲンにアルはいつも通り能天気な笑みを返す。
「アルクス!?あんたどうしてここに――!」
「久しいな、一人か?」
「みんなは元気してる?」
「よー元気そうだな」
「ほんとだ。私たちに会いに来てくれたの?」
ワッと声をかけてくる『黒鉄の旋風』へアルは苦笑した。想像以上に暇らしい。
「『黒鉄の旋風』へ領主から招集ですよ。ちょっとした用事があったのでついでに頼まれてきました」
アルの言葉に全員が顔を見合わせる。
―――――領主からの招集?
事態を呑み込めない『黒鉄の旋風』へ、アルは悪戯っぽい笑みを向けるのだった。
***
そこからは怒涛の展開だった。領主からの招集と言うことで身なりを整え、アルに連れられるがまま外に出ると何やら豪華な馬車が停まっている。
それに乗れと言われ、おっかなびっくり乗り込むと、ラウラとソーニャが待っていて口々に3日前の礼を言ってきた。
2人とも元気そうで、張り詰めていた緊張感も見えない。
依頼の報酬である食事代は今度食事に行ったときに払うからとニコニコと言われた『黒鉄の旋風』は、2人が歳相応の表情をしていることに誇らしい気持ちになるのだった。
その後目的地に着いた『黒鉄の旋風』。降りたアルに連れられて行けば、そこには領主トビアス・シルトと遠征救出任務に出ていた領軍100名がその場にいた。
アルは圧倒される『黒鉄の旋風』のその背中を押して領主の前に立たせた。主役はあんたらだと言わんばかりの雰囲気にすっかり気後れする。
すると前方の台に立っていたトビアスが口を開き、長口上を述べ始めた。
「武芸者一党『黒鉄の旋風』。貴殿らは、共和国令嬢ラウラ・シェーンベルグ嬢及びソーニャ・アインホルン嬢を追って不法入国し、軍事行動すら起こした聖国の騎士たちを、その知啓と実力を持って退けることに成功した。
かの者たちの狙いは、令嬢二名を捕らえることで共和国の交易都市ヴァリスフォルムの藩主ノーマン・シェーンベルグ殿への牽制と人質並びに都市そのものの制圧が狙いだと見られている。
また、『黒鉄の旋風』は本来の護衛依頼を受けた魔族の一党に協力し、低い報酬で臨時依頼として職務を全うした。報酬は彼らとの食事一食分。
これらの行いは義憤に駆られた武芸者として、更には魔族を友とする帝国人として非常に誇るべき行動である。
これに加え、ヴァルトシュタットの規模はそこまで大きくない。騎士一六七名とその指揮官が凶行に及んでいれば陥落していた可能性すらある。
それらを未然に防いだ功績は決して低いものではない。
よってここに褒賞として、一人五〇万ダーナ、総計三〇〇万ダーナと我らが領地でも有数の保養地ヴァルムウーファーにある旅館の宿泊券を贈呈することとする」
それを聞いてポカンと口を開ける『黒鉄の旋風』。対外的に見れば他国の侵攻染みた軍事行動を少数で止めたので当然なのだが、6人からすれば友人を傷つけられたという私怨と後輩の為に一肌脱いだという感覚しかない。
金額にも絶句していた。
一人頭500,000ダーナ。1ダーナが100ケント。6人が泊まっていたのは三等級武芸者がちょっと奮発したなぁと思うくらいの宿。
食事つきでおよそ一日2,400ダーナ、つまり一人400ダーナ。レーゲンたちが武芸者として贅沢な夕食を摂っても一人200ダーナが精々。
帝国の最低賃金が1日当たり40ダーナということを考えても三等級武芸者である彼らが高給取りであることは間違いない。
それでも働くことなく数年はあの宿に泊まっていられる金額を貰えるというのだ。
決して見たことがない額と言うわけではない。二等級の先輩一党や熟練の武芸者が指名依頼を受けてそれくらいの報酬で動いているのを見たことはあるが、まさか自分たちがそんな纏まった金を手にするとは思ってもみなかった。
そしてヴァルムウーファーと言えばウィルデリッタルトの端にある河畔で、高級リゾート地として有名だ。
その地の旅館はどこも宿泊費の桁が違うことでお馴染み、いつかは素敵な恋人とと言われていたり、一般家庭の中年夫婦がお金をせっせと溜めて日頃の垢を流そうじゃないかと行くような観光・保養地である。
そこの宿泊券ともなれば当然、非常に価値の高いもの。こちらだけでも充分なのでは?とレーゲンたちは思わずにいられない。
そんな固まっているレーゲンの背をアルがトンッと軽く押す。いつまで固まってるんだ、早く行けという意味だ。
「お、おぉ・・・」
レーゲンは表彰台に乗っているトビアスの前に一歩進み出て頭を下げた。彼に仕えているわけではない為、武芸者としての略礼だ。
―――――とりあえずお礼を言っておけば外れはない、はずだ。
「あ、有難く頂戴致します」
「うん、これからも頑張ってね」
トビアスは整った武人顔に柔和な笑みを浮かべている。何やら好感度が高い。そう思っていると彼の後ろにいた前領主ランドルフが勢いよく拍手しだした。
ランドルフは既に彼らのファンなのだ。粋な報酬で最後まで戦い抜いた武芸者が見られたとテンションも高い。
途端に後ろにいた領軍の兵士たちも力強い拍手を送ってくる。彼らも武芸都市の気風をしっかりと受けた者たちだ。
よくやった!と言わんばかりの表情を浮かべていた。
「あ、あは、はは。どうも・・・」
「さすがに恥ずかしいな」
「胸張ってたら?」
「私情バリバリで動いた身としちゃあなぁ」
「ヨハン兄、居づらいよぉ」
一列下がったところから万雷の拍手を受けた5人は顔を赤くしたり、困惑したり、泣き言を言ったりしている。
横の方を見ればラウラを始めたとしたアルの一党5名も客席のような場所から先輩武芸者へ向けて拍手を送っていた。見知らぬ少女もキラキラした目を向けてきている。
ちなみにアルはさらっと兵に紛れて拍手していた。その上空では夜天翡翠が楽しそうに旋回している。
「『黒鉄の旋風』の諸君、前へ」
とトビアスに言われ、5人もレーゲンの隣へと進み出た。その前に兵たちが長机を持って来て、長方形の革鞄を丁寧に6つ置いていく。
「中を検めてくれ」
トビアスの言葉に恐る恐る鞄を開く6人。そこには眩しいばかりの大金貨が1,000枚と大きめの領主の署名が記載されている宿泊券が入っていた。
帝国、王国鋳造製の硬貨であるダーナ硬貨は種類が多い。以前ラウラが共通貨幣と呼んでいたのもこの硬貨のことだ。聖国でも単位自体は変わらないが硬貨の種類が更に多かったりする。
その内訳は上から大金貨、大銀金貨、中金貨、中銅金貨、金貨、小金貨、大銀貨、中銀貨、銀貨、銅貨である。
価値は大金貨が500
また大銀金貨とは大金貨のサイズで外縁が金、くり抜かれた中心部が銀で鋳造された硬貨のことである。
外縁の金が中金貨と同量の金で作られている為、大金貨と大銀金貨はそこそこ大きい。中銅金貨は中金貨サイズで中が銅になっている。
ちなみに昔は紙幣も使われていたのだが、当時帝国にいた義賊が偽札を作って悪賊と成り果てた末、帝国だけでなく王国まで荒らす大騒ぎを生み出したという経緯があって今も製造されていない。
眩い金の輝きに6人はゴクリと喉を鳴らした。大金貨を見たことがないということはまずない。そこいらの商会の丁稚とて見たことは何度もあるだろう。
しかしあまり普段使いしない上に、こんな量は見たことがない。
一向に鞄を手に取らない6人にトビアスは苦笑する。自分でも現物を渡されれば同じ反応を返すだろう。
「君たち、警護をつけるから必要な分だけ取ってこのまま銀行に預金しに行くのはどうかな?」
そう思って口を開けば、
「「「「「「お願いします」」」」」」
と彼らは勢いよく頭を下げた。素早い反応だ。少なくともこんな革張りの鞄を持ち歩くより銀行に預けておいた方がよほど安全だろう。
何より硬貨は重いのだ。ラウラとソーニャはあるだけ持ってきたがアルの背嚢に入れてもらうまでは、その重量でも非常に苦労していたりする。
レーゲンたちは革鞄を閉じて持ち上げ、その重量に驚いた。
―――――本当に50万ダーナ貰えたんだ。
その感覚が足取りを軽くする。夢見心地な6人はトビアスや兵を初めとした全員から暖かい視線を受けながら馬車へと乗り込んでいく。
こうして『黒鉄の旋風』への褒賞授与式は恙なく終わるのであった。
***
その1週間後の朝のこと。
たまたま武芸者協会ウィルデリッタルト支部の建物内で『黒鉄の旋風』と出くわしたアルたちは不思議そうな顔を向けた。
「あれ?レーゲンさんたち、ヴァルムウーファーに行ったんじゃ?」
「もう帰ってきたのか?」
何か不都合でもあったのか?とアルとマルクガルムが訊ねる。少なくとも当分働く―――つまり、支部の建物にいる必要などないはずだ。
「依頼受けてるじゃない」
「何かあったの?」
凛華とシルフィエーラはレーゲンの手にある依頼書を見て問うた。金ならあるはずだろうに、今から依頼に行くのか?そんな視線だ。
するとレーゲンがポリポリと頬を掻いて答える。
「行ったよ。良いとこだったさ」
ハンナが引き継ぐように口を開いたが、どうにもバツが悪そうだ。
「でもそのお・・・ね?」
わかるだろう?という顔をしている。
「どういうことです?」
「最初の三日で飽きちゃったのよ」
「まぁ・・・楽しかったんだけどね」
わからないアルたちへエマとプリムラがハッキリと答えた。
「飽きた?ヴァルムウーファーって狭いんですか?」
ラウラがそんな風に問いかける。楽しみ尽くしてしまったのか?という意味だ。
「いや、狭くはねえよ。その・・・」
「合わなかったとか?」
ソーニャも問うた。保養地だと聞いている。客や宿が合わなかったのだろうか?
「そうではない。自慢じゃないが我々一党は精力的に働いている。休養もしっかり取っているのだが・・・・」
「疲れてもねえし、怪我してるわけでもねえ、身体を休める必要もねえってのにゆっくりするってのが性に合わなかったんだよ」
ケリアの言を引き取ってヨハンが答えた。些か恥ずかしそうだ。
最初の3日間は料理に舌鼓を打ち、河畔で釣りを楽しみ、
しかし、彼ら『黒鉄の旋風』は向上心が強い。依頼をコンスタントに受け、仕事をこなしてはまた依頼を受ける。彼らにとって休暇とは、身体を休めたり、すり減った精神を回復させる時間なのだ。
そうやって信頼と実績を積み重ねてきた真面目な彼らに長過ぎる休暇は時間の牢獄以外の何物でもなかった。
ははあ、とアルたちは得心がいったという顔をする。若い彼らにとっても何もしないでいい時間というのは案外苦痛だ。それが理解できたのである。
「ってことで四日目に帰ってきて、今までは防具とか盾の細かな修繕だとか多少値の張る丈夫な背嚢なんかを頼んだりで仕事の準備をしてたのよ」
金ならある。だからこそ装備の
「なるほど。武芸者ですねぇ」
アルがそう言うと、6人は照れ臭そうに笑った。
「重い依頼?」
凛華が問う。重い依頼とは日帰りもしくは1日で帰って来れない長期依頼のことだ。
「武芸者活動再開ってことで軽い依頼だよ」
エマの回答を聞いたエーラは「あっ」という顔でラウラを見た。彼女はその視線を受けて頷く。
「では戻られたら我々と夕食ご一緒しませんか?」
報酬でしたよね?とニッコリ微笑むラウラにレーゲンがフッと笑う。やはりこのくらいの報酬が丁度いい。
「おう、そんじゃ今日はアルクスたち一党と晩飯だ。お前ら怪我なんてするんじゃねえぞ、呑みっぱぐれるからな」
「まっかせなさい!」
「タダ酒に!」
「タダ飯だ!」
「あそこの蜂蜜酒美味しいのよね」
「ふっ、気を抜くなと言われたばかりだぞ」
楽しそうに言葉を交わしながらウキウキと歩き出す。自分たちはやはり武芸者なのだ。その思いも新たに『黒鉄の旋風』は後輩たちへ手を振って依頼に向かうのだった。
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