日輪の半龍人   作:倉田 創藍

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ここでは初投稿になります。読んで頂ければありがたい限りです。


また「小説家になろう。」と「カクヨム」にて同作を2~3日に1度連載投稿しております。


現在両サイトにて投稿されているものとこちらに投稿するものは少々文体が違う場合があります。


こちらへは定期的にある程度纏めて更新していく予定です。


26話 休日の一党 (虹耀暦1286年9月:アルクス14歳)

 アルクス達6人一党の初仕事は成功に終わった。朝帰りになることもあるのだと失念していたアルは早々に活動計画を変更。

 

 と、いうのも昨日から今朝にかけてのように寝る時間もままならないというのは成長期の自分達にはかなりの負担になることを理解したのだ。

 

 特にアルとマルクガルムは何もしなくても眠くなる年頃だ。依頼中に寝落ちしたなど笑い話にもならない。

 

 

 そういった理由で依頼を受けた翌日や翌々日の途中に帰ってきた場合は、その日までを依頼日とカウントし、次の日は休養や訓練に当てることにした。

 

 幸いウィルデリッタルトにいる間なら食と住には困らないのであくせく働く必要もない。

 

 支部の建物でアルに頭を預けて気持ち良く眠ってしまったラウラや、そもそも彼女とソーニャの地力を鍛える時間も必要だと思っていた凛華やシルフィエーラ達も賛成したのだった。

 

 

***

 

 

 そんな会話を交わしながら領主館に戻れば、真っ先にアルの従妹――イリスが駆け寄ってきた。

 

「おかえりなさいませ!で!でっ!?依頼はどうでしたの!?」

 

 元気いっぱいの従妹へアルがふわふわ浮かせていた牙猪とヒトノミカガチの肉を見せる。

 

「バッチリうまくいったよ。話聞かせる前にこれ渡してくるから厨房に案内して」

 

「聞かせてくれるんですの!?こっちですわ!アルクス兄様早く!」

 

 聞くが早いかイリスは貴族令嬢とは思えぬほどの敏捷性を見せてダッと駆けだした。手招きしてくる従妹へアルは苦笑を溢しながら厨房へとついていく。

 

「凛華姉様もほら!」

 

 傷みやすい食材を扱うときは凛華に凍らせてもらうことが多いし、氷鬼人は繊細に冰を扱える。その話をしてもらったのかイリスは凛華も呼んだ。

 

「はいはい、ちょっと行ってくるわ」

 

 微笑ましそうに笑う凛華。イリスに連れられるがまま、アルと凛華は厨房の方へと向かうのだった。

 

 

 ***

 

 

 その日の夕刻。夕食に出されたヒトノミカガチと牙猪の肉がアル達が狩ってきたものだと知ったウィルデリッタルトの領主トビアス・シルトは噴き出さんばかりに驚いた。

 

 ―――――最初は簡単な依頼から請けると言っていなかっただろうか?

 

「ヒトノミカガチが森の奥にいたから、農場に牙猪が出てきたそうですわ!」

 

「もう聞いたのかい?」

 

 軽くむせながら訊ねるトビアスにイリスは胸を張る。

 

「当然ですわ!気になってましたもの!」

 

 武芸都市領主家の娘らしくイリスは彼らに興味津々らしい。

 

「凛華姉様とラウラ様とソーニャ様が牙猪を、アルクス兄様達がヒトノミカガチを倒したそうですわよ。マルク様の爪で一瞬だったそうですわ!」

 

 楽し気な娘に若干羨ましい気分になりながらアル達の方へ視線を向けた。

 

「俺とエーラで押さえ込んでマルクが狼爪で。支部の解体場に持ち込んで尻尾の肉を土産として貰って来たんです」

 

 アルの言葉を聞いたイリスの祖父―――ランドルフがヒトノミカガチの炙り肉(ステーキ)に手を付ける。

 

 引き締まった肉は野趣あふれる風味を漂わせつつも、アッサリとした淡泊な味わいとやや濃い目の調味料(ソース)がよく合っていた。

 

 領主館の調理人達が新鮮な肉ならやっぱりこれだろうと出してきたのがこの料理でだ。

 

「あの大蛇の尻尾肉だったか。うぅむ・・・うまい。六人共感謝するぞ」

 

「残りはどうしたのかしら?売ったの?」

 

 トビアスの妻リディアが問う。ヒトノミカガチの革はそこそこ高級な鞄や上着などに使われるのだ。何より魔獣に分類される素材で作られたものは丈夫で有名、使い道は多い。

 

「ええ。あ、要りましたか?」

 

「いいえ、捨ててたら勿体ないなと思ったのよ」

 

「それならちゃんと支部の解体場に渡してきましたよ。売れるんじゃないかってことで」

 

 アルが答えれば、マルクがその時の会話を思い出して口を開いた。

 

「あんま傷つけてないし丸一匹分だから良い値になるんじゃないかって職員は言ってたっけな」

 

 イリスとアルの祖母に当たるメリッサが問うてくる。大蛇の炙り肉(ステーキ)はお気に召したようで、皿の上にはほとんど残っていない。

 

「丸々一匹持って帰ってきたの?それにしては早かったのねぇ。馬車が空いていたの?」

 

「農場主の方がご厚意で送ってくれたんです」

 

「人の良い方だったな」

 

 ラウラとソーニャが説明すると、

 

「なるほど。それはよっぽど君達の印象が良かったんだろう」

 

 トビアスがそう返した。

 

「解体した牙猪の肉を渡したからかしら?」

 

 印象の良かった事と言えば、と思い出して凛華が首を傾げる。多く獲物を狩った場合近所にお裾分けするのが森で生活している魔族特有の文化だ。

 

 思い当たることと言えばそれくらいしかない。

 

「あとはー・・・革も凍らせてあげたからとか?」

 

 エーラも追加で言ってみた。アル達からすれば肉をやるのはこれ以上要らないからで、革を凍らせたのは寄生虫を殺すのと残っている面倒な処理は渡した相手がどうするか決めやすいからである。

 

 アルが細かく説明したのも後はどうするか好きにしてくれと言う意味だった。

 

「ははっ、きっとそれだよ。牙猪の革は結構丈夫だし暖かいからね。これから寒くなってくるし、外での作業は辛いだろうから」

 

 疑問符を浮かべる魔族組にトビアスは笑って答える。農場主からしたら魔族組のお裾分けはきっと予想外のものだったのだろう。

 

 悪意に多少過敏とはいえ、純朴な青年達だ。親切にもなるだろうことはトビアスにだってわかる。魔族組は4人とも「そんなもんか」くらいの顔をしていた。

 

「明日も依頼ですの?」

 

 イリスは彼ら一党の頭目へと問う。アルは首を横に振った。

 

「明日は行かないよ、さっき少し眠っただけだからちゃんと眠りたいし。明日はゆっくり起きてみんなで稽古かな。イリスの予定が空いてれば魔術の授業もやるつもりだけど、空いてる?」

 

 問い返されたイリスはパアッと表情を明るくして、

 

「空いてますわ!」

 

 と勢い込んで返事を返す。気分はすでにウキウキだ。

 

「イリスって顔は全然似てないけど、やっぱりアルの親戚なのねぇ。今ので確信したわ」

 

 そんな彼女を見て、凛華はしみじみと言う。

 

「どういう意味ですの?」

 

 キョトンとするイリスに、エーラがクスクス笑った。

 

「昔のアルにそっくりだったよ、今の反応とか表情とか。新しい魔術思いついた時とかよくそんな顔してた。もっと悪戯小僧っぽい顔だったけどね」

 

「本人の前で言うのやめない?軽く悪口だし、恥ずかしいんだけど」

 

 憮然とした視線を幼馴染の少女達へと向けるアルにマルクがニヤリと笑って揶揄ってくる。

 

「思いついて急にどっか行ったり、その後話しかけても上の空で数時間座り込んだりしないだけ可愛いもんだよな」

 

「アルクス兄様も昔はやんちゃでしたのね」

 

 イリスは目を丸くした。今の落ち着いた雰囲気のアルからは想像しづらい。

 

 しかし凛華とエーラは、

 

「「今も(だ)よ」」

 

 とすかさず返す。大人しくしているのは表面上だけだということをこの2人は誰よりもよく知っていた。

 

「失礼な。そんなことないさ」

 

 今度こそ口を尖らせたアルと幼馴染達の会話をソーニャは可笑しそうに笑い、ラウラは無意識のうちに羨ましそうな表情を向ける。

 

 シルト家の面々はそんな彼らを微笑ましそうに眺めるのだった。

 

 

 ***

 

 

 翌日の午前10時過ぎ。場所は領主館に併設されている練兵場。魔族組4人の前には気合充分なラウラとソーニャ、そしてイリスの3人がいた。

 

「ラウラとソーニャの二人はいつも通り術を打ち消し合う訓練、午前中はずっとこれで。できれば術式のどこを弄ったらどう変わるかを把握したり試したりしながらやるように。それと『吸魔陣』で魔力を減らしておくことも忘れないでね」

 

「わかりました」

 

「承知した」

 

 力強く頷いたラウラとソーニャが『吸魔陣』をそれぞれ描きながら離れて行く。魔力の枯渇寸前状態から撃ち合って、切れたら休憩、最低限戻ったらまた撃ち合い。

 

 ぶっちゃけ地味だが、状況判断と即座に魔術を行使できるだけの練度を鍛える訓練には最適である。アルが魔術戦で最も重要だと考えているのはその2点だ。

 

 ついでに魔力の()()()も察知できるようになれば更に感覚を磨ける。

 

「さて、じゃあイリスだな」

 

「はいっ!」

 

 動きやすそうな軽鎧を身にまとったイリスは鼻息も荒い。

 

「そうだなぁ。魔術はどれくらい使える?」

 

「簡単なものなら扱えますわ、『念動術』とか。軍用術式とかはまだですけど」

 

 軍用術式―――正確には定型術式の事だ。威力、効果範囲、投射速度を事細かに決められた魔術である。

 

「じゃあ代表的なものを―――二つくらい覚えようか。何がいい?」

 

「『火炎槍』と『雷閃花』がいいですわ!」

 

 淀みのないイリスにアルは苦笑を返した。

 

「思いっきり攻勢魔術だね」

 

「いけませんでしたか?」

 

「いや、いいよ。後は・・・・あ、魔力の感知は出来る?」

 

 何事も興味がある方が覚えも良い。イリスがまず覚えたいと言っている2つの術式から魔術全体に興味を持ってもらおうとアルは考えていた。

 

「一応は。生体魔力感知もおぼろげにはできますわ」

 

 ―――――思ったよりちゃんとしてる。

 

 アルは思わずそんな感想を抱く。トビアスやランドルフは槍ばかり修練していると言っていたが素地はできているじゃないか。

 

 ややあって師のように顎をさすっていたアルは問いを投げかける。大事な質問だ。

 

「ふぅむ。イリスは強くなりたい?それとも魔術が上手くなりたい?」

 

「そんなの、どっちもに決まってますわ!」

 

 イリスは言い切った。術師と呼べるくらいに上手くなりたいし、従兄たちのように強くもなりたい。

 

「はははっ。よし、じゃあ目標は魔術も扱える槍士にしようか。ちょっと覚えること多いけど大丈夫?」

 

 アルは愉快そうに笑う。欲張りな従妹が面白かったからではない。自分もそのつもりで鍛錬してきたからだ。

 

「問題ありませんわ!」

 

「じゃあ操魔核を鍛えるとこからだね」

 

 気合の乗りまくった返答にアルは諭した。

 

「?魔術を使うのではないのですか?」

 

 魔術を使いまくるのが基本だと思っていたイリスは『あれぇ?』と首を傾げる。

 

「そっちもやるけど、まずは魔力量と質を高めないと大して効果はないんだ」

 

「ふむ?高めるとどうなるんですの?」

 

 ―――――魔術をたくさん撃てるようになる?くらいだろうか?従兄がそこまで魔力そのものを鍛えようとする理由がわからない。

 

 そう考えているイリスへアルは端的に答えた。

 

「闘気が使えるようになる」

 

 その一言はイリスにガツンと衝撃を与える。

 

「っ!!あの優れた武芸者達しかきちんと扱えないという闘気ですの!?」

 

 一拍遅れてイリスは勢い込んで訊ねた。闘気は体内の魔力を燃焼させて生み出す力のことだ。

 

 その性質から一定以上の腕がなければただの自滅技術として武芸者間では有名である。

 

 調子に乗った新人が魔獣相手に闘気を使ってすぐに魔力切れを起こしただとか、その所為で一党の仲間たちまで大怪我をしただとか、それで引退することになっただとか定番の失敗談として枚挙にいとまがない。

 

「うん、その闘気だよ。魔力の扱いが未熟な者には使わせられないからね。

 

 それにあの二人見てみて。ちょっと前まで定型、じゃなくて軍用術式を一つも使えなかったんだよ」

 

 アルの言うがままにイリスが後ろを振り返れば、ラウラとソーニャが動きながら魔術をドンドンと撃ち合っていた。『火炎槍』や『雷閃花』、『水衝弾』。中には『落宑の術』などまで使っている。

 

 一般的な魔術師や凛華達から見ればまだまだ甘いやり取りであり、魔導師やアルからすれば術を出している()()だ。

 

 しかしイリスの目には激しい撃ち合いに見えた。あんなにたくさん撃っていたら自分ならもう魔力が尽きているかもしれない。

 

「・・・本当ですの?」

 

「うん、一週間くらい前まではイリスとあんまり変わらないくらいだったかな」

 

 懐疑的な視線を向ける従妹へアルは頷く。イリスはラウラ達をじっと見つめ、やがてアルへ向き直った。

 

「やりますわ。アルクス兄様達みたいになりたいですもの」

 

 アルは嬉しそうにニッと笑う。

 

「上等。まずは『吸魔陣』からね。あとで紙に書いて渡すけど、極力毎日やるように」

 

「毎日ですの?」

 

「日課にしとくといいよ」

 

 興味津々のイリスと楽し気に講義するアルを見ていた魔族組は今日はさすがにアルもこっちには混ざれないだろうとそれぞれの鍛錬を始めた。

 

 

☆★☆

 

 

 そんな彼らを遠めに見ていたトビアスが隣のランドルフへ感想を述べた。

 

「気になって来てみましたが、派手な戦いぶりに比べて案外地味ですね」

 

「うむ。日々の積み重ねということなのだろうな」

 

 魔族組は日課となっている操魔核の鍛錬を終わらせ、練兵場の端から端まで行ったり来たりして走っている。

 

 技の前に体力と魔力。隠れ里でその認識を叩き込まれているし、経験もそう言っている。戦士は体が資本とはよく言ったものだ。

 

 

 ラウラとソーニャの鍛錬はシルト家の2人には多少奇異に映っていた。

 

 帝国の学院や家庭教師に教わる魔術の訓練と言えばひたすら的に向かって魔術を撃ち、精度を高め、無駄な動作を削っていくというものだ。

 

 そうやってひたすら身体に馴染ませた研鑽が実戦でスルリと出る。その為にひたむきに練習するのだ。

 

 この考え方は実を言えば何一つ間違っていない。ヴィオレッタもアルも一つとして否とは言わないだろう。

 

 ではなぜラウラとソーニャへの訓練が撃ち消し合いなのかと言えば、とことん実戦を主眼に置いているからである。

 

 相手の魔術を見定め、己の体力と魔力を鑑みながら切り返して撃つ。また極力打ち消すようにとアルの指導によって炎や雷と水、土と風の衝突で視界が塞がれる。そのうえで撃ち合えと言っているのだ。

 

 それが指し示すのは、この訓練の主目的が状況判断能力と感知能力の向上であるということ。個別の魔術の練度は扱う者の癖や個性が出やすいため、そこらへんは二の次。

 

 そもそもアルは彼女達2人にいつまでも定型術式を使()()()()()()()()。魔術に慣れてくれればそれでいいのだ。

 

 

 そのアルは現在、魔力切れから立ち直ってぜぇはぁと肩で息をしているイリスに『火炎槍』と『雷閃花』を自分に向けてぶっ放させている。

 

 平気で受け止めているのは魔族組3名の属性魔力に比べれば微笑ましさすら感じる威力だからだ。あの3人の属性魔力であれば回避以外の選択は全てハズレである。

 

 

 些か地味な立ち上がりで、アル達6人と1人の訓練は進んでいくのだった。

 

 

 ***

 

 

 時刻も正午を過ぎ、アル達7人は女中達が持ってきてくれた昼食を食べていた。トビアスとランドルフは領主館の方に戻っている。ただ鍛錬内容が気になっていただけらしい。

 

「アルクス兄様のあの蒼い炎は『火炎槍』を改造したものではなかったんですの?」

 

 てっきり『火炎槍』を弄った術式(魔術)だと思っていたイリスは驚きを露わにする。

 

「違うよ、刀に纏わせてたのはちょっと特殊な魔術だよ。元々炎系統の魔術は俺にはあんまり向かないからそれ以外は全部属性魔力だね」

 

 アルは牙猪の肉をつまんで夜天翡翠に食べさせながらそう返した。

 

「向かない?どういうことですの?」

 

「魔族はそもそも魔術なんてそうそう使わねえんだ。種族ごとに適性の高い属性魔力をぶっ放すのが手っ取り早いからな。アルは母ちゃんが炎龍人だから『火炎槍』ぶっ放すくらいなら蒼炎を投げた方が早いし威力も高いのさ」

 

 疑問符を浮かべるイリスにマルクが説く。ほうほうと言わんばかりの表情を浮かべたイリスは更に質問を重ねた。

 

「アルクス兄様はわかりましたけど凛華姉様たちは?魔術は使わないんですの?」

 

「魔術は使っても一つくらいよ。後はマルクが言ったように属性魔力くらいね」

 

「ボクはいくつかあるけど結局一つの魔術の派生だからねぇ。”魔法”があるから魔術はそんなに使ってないかも」

 

「なるほどですわ」

 

 凛華とシルフィエーラの返答に、そういうことかと手を打つイリス。

 

 そこまで話を聞いていたラウラはアルに茶を手渡しながら問う。

 

「特殊な魔術って『蒼炎気刃』のことですよね?刀身に蒼炎を纏わせる術じゃなかったんですか?」

 

 ふと疑問に思ったのだ。炎系統は向かないと言うならあれは何なんだろう?と。

 

「そうだけど、あの蒼炎はただの属性魔力じゃないんだよ。刀身に属性魔力を纏わせるくらいじゃ大して威力は上がらないしね。それこそ斬った相手の服が燃えるくらいじゃない?」

 

 まだ先になるだろうと闘気関連の説明は一切行っていなかったアルは茶を受け取りながらそんな説明をする。

 

「あれは特殊な炎なのか?私達には難しいものなのだろうか?」

 

 今度はソーニャが訊ねてみた。彼女らにとって神殿騎士達の胸甲を牛酪(バター)のように斬り裂くアルの蒼炎は状況も相まって非常に印象に残っている。

 

 ソーニャにとっては危機を灼き捨てる憧憬として、ラウラにとってはどうしようもない絶望を斬り払う()()()()()()()として。

 

 扱えるようになるのならなりたかった、今度は自分達が彼らの背中を守る為に。

 

「二人にはまだ難しいかもしれない」

 

 そんな思いがあることなど露も知らないアルはアッサリとそんな風に返す。

 

「まだ?ですか?じゃあ、」

 

 出来るようになる可能性があるということだろうか?思わずズズイッと身を乗り出して問うてくるラウラにアルはちょっぴりキョトンとしながら術理を説いた。

 

「あれは闘気を蒼炎に変換してるんだよ、魔力を属性魔力にするみたいにね。そういえばあれって属性魔力って分類でいいのかなぁ」

 

 そういえばあの状態の蒼炎に名称がない。ただの属性魔力ではないのは確かだ.

 

「属性魔力とは言いにくいかもね~。ていうかマルクの『雷光裂爪』も凛華の『流幻冰鬼刃(りゅうげんひょうきじん)』もボクの『燐晄』もアルと同じものだよ?」

 

 身を乗り出していたラウラはエーラの言葉で思わずそちらへ首を回した。ラウラの朱髪が当たったアルが「わぷっ」と声をあげたが彼女の意識は森人へ向いている。

 

「えっ、皆さんのも同系統の魔術だったんですか?」

 

「そうよ。元々アルが創ってた『気刃の術』っていう魔術を私達用に改造してくれたのがあれなの」

 

 ラウラは凛華の声音にほんの少しだけ喜色が滲んでいるのを感じ取った。自分専用の独自魔術など嬉しいに決まっている。特に創った相手が相手だ。

 

「根っこ以外ほとんど変わっちゃってるけどね」

 

 エーラもそんなことを言う。つまりそこまでして貰っているということだろう。

 

「いいなぁ」

 

 と呟くラウラ。

 

「ということは、やろうと思えば―――」

 

「誰でも使えるね」

 

 最終的にソーニャが最後の言葉を紡ぎ、アルが引き取った。ラウラの呟きを聞いたアルは『これは早々に2人が使いやすい定型術式を創らねば』などと魔術馬鹿を発動させて考え込み始める。

 

「では(わたくし)も使えるようになるんですのね!」

 

「おう。少なくとも操魔核の鍛錬は闘気に必要だからな」

 

 喜びを動きで表現するイリスの頭を撫でながらマルクはアルを見る。

 

 ―――――そういうことじゃねえんだけどなぁ。

 

 そんなマルクの思念は届いていないようであった。

 

 

***

 

 

 午後のラウラとソーニャへの訓練は最初と同じように、アルとマルクがそれぞれ指導する形となった。

 

 命懸けの実戦を経験したことと日々のマメな訓練のおかげで彼女らはメキメキと成長している。

 

 咄嗟にラウラが返す魔術は正確に致命打扱いとなる魔力球を叩き落し、ソーニャの反撃は体重の乗った一撃になる回数が増えてきた。

 

 エーラの『治癒術』を毎度かけてもらっているおかげか体つきも急速に戦う為のソレへと変化してきている。

 

 

 イリスへの訓練は凛華とエーラが担当した。内容はラウラへのものと似ているが、若干違う。

 

 視野の広さや感知を重視したものではなく1対1を想定したもの―――凛華とエーラが交代でそこそこの大きさの属性魔力を放ち、イリスが『火炎槍』や『雷閃花』で迎撃するという訓練だ。

 

 イリスは息を荒げながらも現役武芸者との訓練と言うことで最後までテンションが高いまま『火炎槍』と『雷閃花』を習得しきってしまった。

 

 これにはさすがに驚愕したトビアスやランドルフを始めとするシルト家の面々。

 

 

 こうしてアル達6人一党の休養日はイリスを含めての鍛錬日として、充実した一日になったのだった。




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