また「小説家になろう。」と「カクヨム」にて同作を2~3日に1度連載投稿しております。
現在両サイトにて投稿されているものとこちらに投稿するものは少々文体が違う場合があります。
こちらへは定期的にある程度纏めて更新していく予定です。
32話 ついた二つ名と合同依頼 (虹耀暦1286年12月:アルクス14歳)
アルクス達6人が武芸者としての活動を再開して1週間ほどが過ぎた。もうすぐ年末ということでウィルデリッタルトは慌ただしい雰囲気に包まれている。
そんな早朝、アルは現在武芸者協会ウィルデリッタルト支部の建物内にて依頼ボードを眺めていた。
左肩には背に特注の革鞄をつけた三ツ足鴉―――夜天翡翠が止まっている。つい先日、長旅からそれぞれへの返信を持って戻ってきたのだ。
この一週間でソーニャの怪我も本当に問題ないことが確認できたし、200体以上の魔獣との戦闘や犯罪者たちとの死闘を経てラウラもソーニャも大きく成長した。
元々2人共真面目なので訓練も休まず熟し、『治癒術』をかけてもらっていることで更に戦うための体つきになっているようだ。
他の仲間達は今、食堂で温かい飲み物を頼んでいるところである。ただでさえ身体が動きにくい冬場だ。内側も外側も温めて臨まなければ予期しない怪我をしてしまう。
特に周囲を森林に囲まれた隠れ里とは一味違う寒さを持っている帝国の冬だ。アル達も初めてということできちんと準備しておいた。
具体的に言えば防寒具や防水革製の靴なんかだ。凛華とエーラはそうでもないが、マルクガルムは人狼に変化するということでサンダルのような靴だったし、アルはアルで踵と靴底さえ丈夫なら何でもいいとばかりに適当なものを履いていた。
この際多少出費がかかってもきちんとしたものを買おうということで、マルクは指先こそ出ているが足首まで覆われた革の
親指と他の指が独立しているのがアルのお気に入り
張り出されている依頼書を前に冬の装いをしたアルはうんうん悩んでいる。
――――あんまり良いのがない。
そんなことを考えていると背後から声が掛かった。聞いたことのある男性の声だ。
「よお”灰髪”。依頼か?」
アルはあえて無視する。すると男はアルの正面に回り込んで来た。
「悪かったって。機嫌直せよアルクス」
『黒鉄の旋風』頭目レーゲンだ。こちらも少々厚着で大刀を担いでいる。アルはジトッとした目を先輩武芸者に向けた。
「レーゲンさん、どこで知ったんです?」
「もうすっかり広まってんぞ」
「・・・・・」
「そんなに嫌かぁ?二つ名なんて名誉だろ?俺らなんて地味な依頼を重ねてきただけだからいまだにそんなもんないんだぜ?」
「二つ名が原因で絡まれなかったら俺もそう思いますけどね」
二つ名とは、誰かが呼び始めたことで定着していく、強い武芸者や優秀な兵士・騎士についたあだ名のことだ。
領軍の兵士達が持ち回りで都市内を巡っているせいで、都市領主の娘を救い出し、自分達と共に戦ってくれた勇敢な武芸者としてアル達のことを触れ回った。その結果がこれである。
イリスが貴族令嬢として瑕疵とされる被害を一切受けなかったという事実を広める意味もあるが些か広まり過ぎたようで、現在一般人にはそこまででも武芸者達にはほぼ周知されてしまっていた。
更に、その呼び名で呼ぶのが栄えあるシルト領の軍人達というのも実力の証明となってしまったのだ。
二つ名が出来たこと自体は、魔族で根無し草の自分達には良いことかもしれないと思ったアルだったが、簡単な依頼の報告をしに戻ってきたらいきなり八等級だか七等級だかの筋骨隆々な武芸者に絡まれた。
曰く、まだガキんちょのお前らが二つ名を貰っているなど有り得ない、支部の上役に取り入ったのだろうとか何とか。
呼んでいるのは兵士だと返せば、領主に取り入ったのだと難癖をつけられ、おまけに自分と勝負しろと粘着された。
面倒だったので適当にいなそうかと思ったが、逃げたと言われて余計面倒な噂を流されるのも嫌だなと思ったアル。
そこで不満げな視線を向けてきた連中へ纏めて相手してやると挑発した。
相手の実力も読めず、素人に毛が生えた程度の武芸者達はこれに激昂。彼らは支部の訓練場でアル達6人を囲んだ。
今後馬鹿な連中に絡まれないようにするための演技《パフォーマンス》として『八針封刻紋』を解いた”灰髪”のアルが素手で武芸者達をボコボコにし始め、頭目の考えを理解した仲間達も同様に武器を使わずに戦闘―――もとい蹂躙。
もっともラウラは杖剣なしで魔術を撃ち、ソーニャは剣を抜かず盾で殴りつけることにしたらしいが。
体重の軽い凛華やシルフィエーラにぞんざいに吹き飛ばされ、アルとマルクにしこたま殴られ、ラウラとソーニャに加減された魔術を撃ち込まれた彼らは当然抵抗も出来ず敗北した。
最後にアルが圧縮した掌大の蒼炎を地面に叩きつけ、心底から怯えさせてこの騒動は終焉を迎える。
轟音と衝撃で建物が揺れ、武芸者達は手加減されていても勝てないという事実を受け入れた、というよりわからされた。
ちなみにマルクもそのとき初めて『人狼化』した。それもやはり彼らの心を折る一因だったらしい。
翌日から嫉妬されることはなくなったが、代わりに力試しだのなんだのとよくわからない絡まれ方をするようになったのだ。
不貞腐れるアルにレーゲンは諭す。
「そんなもんだって。先輩武芸者が言ってたぜ。大体全員に二つ名ができるような真似しちまったのが原因だろ?」
アルが、とかではない。6人共にそういった呼び名ができてしまったことを言っているのだろう。
「それこそ、俺達のせいじゃないですよ。馬鹿な貴族と阿呆な犯罪者がいたのが悪いんです」
魔獣の侵攻を阻止したそれぞれの二つ名。
凛華が”
5人は少々照れ臭そうにしながらも案外それらの二つ名が気に入っていたりする。
翻ってアルだ。彼が多く呼ばれる二つ名は”灰髪”と”鬼火”、そして”幽炎”である。
戦い方の苛烈さや一切の守りを捨てた超攻撃的な魔獣駆除は兵士達をほんのちょっとだけ怖がらせたのだ。
他にも”
こちらは主犯のイーファ・ミトライトの右手を完全に炭化させたり、斬り裂かれた魔獣の断面が真っ黒に焦げて血すら出ていなかったりと自業自得な部分はある。
が、みんなのと違って血腥過ぎない?と思うアルはあんまり気に入っていないのだ。
そういう理由からここ最近は”灰髪”の一党や”鬼火”の一党という呼ばれ方が増えてきている。
完全に見る側が変な
幸い実績や功績があるため悪い武芸者だとは思われていない。が、容赦のなさは知れ渡ってしまった。
―――――この話はやめとくか。
大人なレーゲンは話を本題へ戻す。
「そういうことにしとくさ。で、依頼は決まったのか?」
「それが微妙なのしかなくて」
年末は忙しくなるが、天候のせいで移動自体が制限されていた。
特に12月下旬に入って降り始めた雪のおかげなのか、せいなのか、魔獣討伐関連の依頼は数を減らしている。
「だったら俺らと合同依頼を請けねえか?」
「合同依頼?」
困り顔をしていたアルは、レーゲンの言葉でキョトンとした。支部ではあまり聞いたことのない言葉だったからだ。
「そっ、人数が足りてないってことで請けられなくてよ。かと言って知らねえ一党と組んでもこっちが気ぃ使っちまったり、相手に気ぃ使わせたりしてやりにくいだろ?そこで名が売れ出したお前らを思いついたのさ」
「依頼って一緒に請けられるんですか?あ、ラウラとソーニャの護衛請けましたね」
なるほどと手を打つアルにレーゲンは首を横に振る。
「いや、ありゃ支部長がいたから臨時で組ませてもらえたんだ。事情が事情だったからな。本来二等級差までしか組んで請けられねえって決まりがあんのよ」
100年以上前に作られた規則だ。
「レーゲンさん達が三等で、俺達がこないだ五等級に上がったから」
納得の声をあげるアル。
「おう、組んで行けるってこった」
「依頼内容はどんなのです?」
「これだ」
レーゲンはまだ残っていた依頼書を取った。ちなみにこれが貼られたのは3日前である。
内容を簡潔に述べれば、魔獣の討伐及び巣穴があればそこの破壊だ。ただし、協会側の指定で最低人員六等級以上が10名以上となっている。
「これ、なんでこんなに人数が必要なんですか?報酬も村にしては良いみたいだし」
アルは顎に手をやりながらレーゲンへ訊ねた。問われたレーゲンはそうだったと額を叩く。
「あ、そうか。お前ら知らねえよな。ここの村、規模自体はそんなにデカくねえんだけどデッカい湖があるんだよ。その湖にこれまたデケえ魔物がいるんだ。その魔物見たさに観光客が集まるんだよ。釣りなんかもできてな」
―――――ネス湖のネッシーみたいなものだろうか?
アルの脳裏に前世のボケたTV映像が流れた。
「実在するんですよね?」
「当り前だろ」
―――――じゃあネッシーとは違うか。
「毎年依頼が来るんですか?というか規模が大きくないなら最低人員十名ってやっぱり多くないですか?」
「いや、依頼が来てんのは俺が知ってるだけでも初めてだな。募集人数が多い理由も受注するときに教えてくれると思うぜ。どうする?」
レーゲンの問いにアルは至極真っ当な返事を返す。
「仲間に相談してから決めます」
「そらそうだわな。うちの連中も呼んでくるよ。今近場の店に行ってるから」
「じゃあ俺達は食堂で待っときます」
「おう、わかった。後でな」
「はい」
そう言って一旦別れる頭目達であった。
***
食堂にて合流した『黒鉄の旋風』とアル達の一党・・・・いや”灰髪”の一党は早々に先輩武芸者達から揶揄いを受ける。
「”狼騎士”様と”姫騎士”様。お久しぶり、お噂はかねがね」
先手をとったのは『黒鉄の旋風』の副頭目ハンナだ。わざわざ少々畏まった言い方をしてくるあたり絶対言うつもりだったのだろう。
「予想はしていたが何も私じゃなくて良くなかっただろうか?」
ソーニャは恥ずかしそうにしている。
「俺もだよ。”狼
マルクが苦々し気に言うと、ヨハンがニヤリと笑った。彼は『黒鉄の旋風』の個人で四等級の剣士だ。
「なんなら教えようか?」
「冗談。剣士ばっかいてもしょうがねえだろ」
砕けたやり取りをする2人に、今度はそのヨハンの双子の妹エマがニヤニヤしながら問う。
「なら槍にしとく?」
「人狼に何やらす気だよ。そういうのはソーニャに言ってくれ」
「いやー、”姫騎士”様には畏れ多くてねー」
「もうやめてくれえぇ・・・。なぜ私が姫なんだ・・・」
「ぷっ」
「マルク貴様っ!」
ソーニャとマルクはいつものやり取りを始めた。
「エーラちゃーん、聞いたわよ。いい二つ名貰ったわね」
「あはは、そうでしょ~?”煌夜”ってとこが気に入ってるんだ~」
森人のプリムラがニコニコして褒めると、エーラは胸を張る。姉妹と言うよりは親戚のような距離感だ。
「”天弓”も私は好きだぞ。良い二つ名だ」
もう一人の森人剣士ケリアが恋人と同じように褒めた。エーラは上機嫌で笑う。
「そっちもカッコよくて好きなんだよねぇ」
自分には来ないと判断したラウラと凛華がひそかに胸を撫で下ろした。しかしハンナは絶対に逃がさない。
「”乙女”ちゃんと”舞姫”様じゃない。どうしちゃったのよ?ちゃんと私と挨拶しましょう?」
「そう来ると思ったからしなかったのよ。どうせなら”冰剣”にしてよね」
「私は普通にラウラでいいです」
「そうもいかないの。洗礼なのよ、こういうのは。ところでラウラちゃん・・・”炎髪”ってなんかアルクスっぽさがあって良かったわね」
ボソッとアルに聞こえないようハンナは言う。ラウラはその炎髪と同じくらい顔を赤らめた。
「ちょ、ちょっと!そ、そんなんじゃないですから!」
ちょっと共通項みたいなのがあっていいなとか思っているのがズバリ図星だ。
一通り揶揄ってニンマリしたハンナへ、アルは困ったお姉さんだと呆れたような目を向ける。
「ハンナさんもう満足したでしょう?話進まないからそういうのは移動中にしてくださいよ」
「あ、”灰髪”だ」
「いや”鬼火”よ」
「いやいや”幽炎”だって聞いたぞ」
「”焦血刀”じゃなかったっけ?」
途端に『黒鉄の旋風』が一斉にアルを揶揄した。イラッと来たアルが
「二つ名の由縁、ここで教えてやりましょうか?」
と言って『封刻紋』に手を伸ばす。すると、
「冗談だってー」
「ごめんってばー」
「さては絡まれたか」
「ケリア聞いてねえの?七等級だかなんだかを纏めてボコボコにしたんだってよ」
「そんな生意気な目してるからよ」
5人とも「冗談冗談」と言うように笑いかけてきた。
―――――いや、最後の一人だけはシメてもいいかもしれない。
アルは憮然とした表情のまま先輩武芸者達を見る。
「アル、機嫌直しなさいな。ほらこれあげるから」
凛華がそう言って大きな酒杯を寄越してきた。中は蜂蜜と生姜を濃く入れてある温かいお茶だ。
「ありがと、姫様・・・・・・ねえ、呑めないんだけど」
アルはちゃんと礼を言って受け取ったのだが、呑めない。サラリと返したはずなのにシュパッと伸びてきた凛華の手がアルの頬を引っ掴んでいたからだ。
「あんたせっかく人が優しくしてあげたってのに何かしら、その返事は?」
「ほんの冗談だよ。揶揄われたからちょっとムシャクシャして」
「あたしで発散することないでしょうが」
「澄ましてればお姫様で通ると思ってるのはホントだよ。だから許して。これ呑みたい」
「・・・もうっ、要らないこと言わないように呑んでなさい」
「ん」
そんな会話を交わして濃い茶をグビグビ呑むアル。少々照れている凛華にハンナは胸がキュンキュンした。
「今の良かったわよ、凛華ちゃん」
「知らないわっ」
声援を送るハンナに凛華はプイッと顔を背ける。エマは羨ましそうだ。そんなやり取りをする相手すらいなくて困っているのが彼女である。
「はいはい、つーかアルクス。お前まで参加しちまったせいで本題にいかねえじゃねえか」
「あっ。そうだった。すいません」
呆れたレーゲンにアルは軽く謝罪する仕草をとった。ぶっちゃけ仲間のせいなのでレーゲンも本気で怒ったりはしていない。
「よし、じゃ、ま、とりあえずだ。俺ら『黒鉄の旋風』と”灰髪”の一党で――――」
「「「”鬼火”の一党で」」」
凛華とエーラとラウラは口を揃えて訂正した。凛華とエーラとしては元々銀髪のアルが”灰髪”と呼ばれるのはちょっと納得いかないし、ラウラとしてはあの”鬼火”こそこの一党の象徴だと思っているので譲れない。
「ねえ、どっちでも」
よくない?と言いかけたアルを、
「やめとけ、噛みつかれるぞ」
マルクが制止する。ソーニャは苦笑していた。姉があんな風に人の話に割って入るなんて珍しい。
レーゲンは何ともやり辛そうにした後、咳ばらいを一つして言い直す。
「俺ら『黒鉄の旋風』と”鬼火”の一党で合同依頼を請けようと思って招待に来たんだ。で、そっちの返事は?」
「こっちは皆問題ないそうですよ」
先んじてわかっている情報をすべて共有しておいたアルはそう答えた。『黒鉄の旋風』からの招待なら問題ない。5人共参加に賛成だ。
「そうか、あんがとよ。じゃあ詳しい報酬の配分とか決めとこうと思うんだが、俺は完全に折半がいいと思ってる」
レーゲンは先に交渉しておくつもりらしい。
「折半はなんか微妙じゃないですか?こっち五等級だし」
そう返すアルに、ハンナが口を挟む。
「あら嫌味?」
「ハンナさん当たりキツくないですか?小皺が増えますよ」
アルはサラッと煽った。
「言ったわねこのガキんちょ!年上のお姉さんに対する口の利き方教えてやるわ!」
途端にプンプンしだすハンナの肩を押さえてレーゲンは無理矢理話を再開する。
「こらこら。こっちはお前らを過小評価してないってことだ。一緒に戦ったこともあるし、あれからラウラ嬢ちゃんとソーニャ嬢ちゃんも腕上げたって聞いたし、何より見りゃわかるしな」
ラウラとソーニャは2か月前と違って、立ち居振る舞いに闘う者特有の雰囲気が混じりだしていた。
久々に見たときは短期間でよくもまあそんな風に変わったもんだと呆れた『黒鉄の旋風』の面々である。
「んー・・・褒賞金とか貰ってお金はそこまで困ってないし。あ。こういうのって指揮権はずっとそっちが持ってますよね?移動中とか基本はレーゲンさん主導で戦闘時だけそれぞれの指揮で動いていいってことにしてくれませんか?その代わりに報酬は四分六分で」
アルは思いついた!というふうに提案した。こういうのは基本どこの世界でも上の者が指揮権を持っていたりする。
そこを捻じ曲げる代わりに報酬を下げてもらおうと思ったのだ。
「指揮権か。そっちはそっちで動きたいってことか?」
レーゲンはそう言って考え込む。お互いバラバラに動いたうえで依頼失敗というのもよくある話だ。
しかしアルは首を横に振った。
「いえ、単独行動を取るって意味じゃないです。あくまで戦闘中に限り、です。担当場所だとか、時間帯だとかに文句つける気はありません」
「ああ、なるほど。それならいいぜ。つーか俺に自分のとこと更に六人なんて御せるわけねえだろ。最初からそのつもりだったぜ?」
レーゲンは交渉相手の言葉を正しく理解する。どっかで単独行動を取るのではなく、轡を並べつつもそれぞれの指揮下で戦おうという意味だ。
それならむしろ大歓迎だ。そもそもレーゲンは11人中6人もいる魔族を御せるなどと驕っていない。
「んー・・・じゃあこの合同依頼の情報料も入れて、でどうです?」
自分なら最低人員10名の時点で依頼を見ていない。アルはその情報料も入れて四分六分にしようと言った。
ぶっちゃけ金なら褒賞金のおかげである。そして衣食住の「食」と「住」はほとんどかかっていない。
どちらかと言えば三等級と組んで折半したなどという情報を悪意を持って広められたくなかったのだ。
「ふーむ、よし。乗った。交渉成立だな」
「ええ、よろしくお願いします」
「おう。こっちもよろしくな」
レーゲンとアルはがっしり握手を交わす。イリスが見ていたら「それっぽい!それっぽいですわ!」などと大興奮していただろう。
「話も終わったところで、お姉さんとお話しましょうか?」
ニッコリ笑いかけてくるハンナにアルはニッコリと笑い返した。
「しつこいのは嫌われますよ」
「それ男が言われるやつでしょ!?まったく!凛華ちゃんもエーラちゃんもラウラちゃんも!アルクスに甘くし過ぎよ!」
アルの毒を受けたハンナが女性陣3名へ監督不行き届きだと申し立てる。
「あたし達は被害受けてないもの」
しかし凛華はそんな風にサラリと返し、
「だね。悪戯っけがあるのは昔からだし」
とエーラが続いた。しかしアルは、
「エーラに言われるのだけは釈然としない」
と述べる。根っからの悪戯娘はこの耳長娘だ。
「なんでさ!最近、表面だけは大人しいと思ってたのに!」
うがーっと声を上げたエーラはアルへ飛び掛かった。
「そういうとこだよ!あとそれ俺の台詞!」
「言ったね!また高い高いしてあげようか!」
「ほら変わってないじゃん!大人しいフリしてたのはやっぱりエーラだよ!」
騒がしい2人に毒気を抜かれたハンナは彼らのやり取りを眺めていたラウラへ耳打ちする。
「あんな風に絡めるようになるといいわね」
「ちょっ!ち、違いますから!」
「まーまー、お姉さんが悩み聞いてあげるって」
そこへレーゲンが声をかけてきた。
「さっさと受付行くぞ。ハンナ止めて来いよあれ」
「・・・・」
冷めた熟年夫婦のようなやり取り。
―――――いつからこんな関係になってしまったのだろう?
ハンナはレーゲンをジーッと見つめる。これでも色々
そんな視線に耐え切れなくなったレーゲンはきまり悪い顔で、
「な、なんだよ?」
と逃げるように言った。
―――――どうすればこう、どうにかなるだろうか?
ハンナはそう思いつつラウラに釘を刺しておく。
「あんまり悩んでるとこういう関係になっちゃうわよ」
「ええっ!?そ、そういう感じだったんですか?」
ラウラはレーゲンと彼女の関係を察してしまった。関係が出来上がってしまったら崩しにくくなるぞと言われたようなものだ。
そんな彼らを遠巻きに見ながら、
「さっさと行くんじゃねえのかよ?」
「けっ、どいつもこいつも」
「私も恋人欲しいなぁ」
マルクは呆れ、ヨハンは荒み、エマは羨ましそうに眺めている。真に冷静なのは彼らだけだ。
こうして『黒鉄の旋風』とアル達一党改め”鬼火”の一党は合同で依頼を請け負うことになったのであった。
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