日輪の半龍人   作:倉田 創藍

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ここでは初投稿になります。読んで頂ければありがたい限りです。


また「小説家になろう。」と「カクヨム」にて同作を連載投稿しております。


現在両サイトにて投稿されているものとこちらに投稿するものは少々文体が違う場合があります。


こちらへは定期的にある程度纏めて更新していく予定です。


断章7  弾む女子会と貴族令嬢達の本音

 ”鬼火”の一党の6名がウィルデリッタルトで虹耀暦1287年(新年)を迎え、『黒鉄の旋風』とイリスの顔繋ぎをして一週間と少し。

 

 今日はその『黒鉄の旋風』副頭目の女性剣士ハンナの誘いで女子会を開くことになっている。勿論その場にはイリスも招待された。

 

 家格を気にすることもなく、腹の探り合い染みた真似事を多分に含んだ会話をすることもない気楽な友人同士の集まりというのはイリスにとってこれが初めてのことで、誘いを受けたときは舞い上がるほどに喜んでいた。

 

 またイリス(貴族令嬢)がいるということで時間帯も昼にし、警備がきちんといるような店を選んだハンナの気遣いもシルト家の領主夫婦が笑顔で送り出した一因だ。

 

 

 集まった7名―――凛華、シルフィエーラ、ラウラ、ソーニャ、イリス、プリムラ、エマを見渡してハンナが口を開いた。手には酒杯が握られている。

 

「集まったわね!じゃあ女子会開始よ!かんぱ~~い!」

 

「「「「「「「かんぱ~い!」」」」」」」

 

 少々お高めの店ということで完全個室。

 

 場合によってはお忍び貴族の密談場所なんかにも選ばれたりもするのだが、店主の理想は『誰でも安心して酒を楽しめる場所』であるため、カッチリとした店構えの割に手頃《リーズナブル》な価格設定で庶民の宴会場所なんかにも使われている店である。

 

 れっきとした伯爵家令嬢のイリスにはあまり馴染みのない雰囲気だ。

 

「このたびはお招き頂いてありがとうございますわ。楽しみにしておりましたの」

 

 イリスが丁寧に頭を下げると、ハンナは手をブンブン横に振った。

 

「固いわよイリスちゃん!今日は男共のいない女子同士の本音を語る会!無礼を働く気はないけれどそれ相応に合わせてくれるとありがたいわ!」

 

 テンションの高いハンナにイリスは目をパチクリさせ、次いで屈託のない笑顔を浮かべる。

 

「はい!(わたくし)個人の事であればいくらでもお話しますわ!」

 

 公的な気遣いを入れつつも一個人として呼んでくれたと理解したイリスは限界まで立場を降りると宣言した。

 

「う~ん、可愛いわねぇ。ほんとにあの生意気なアルクスの従妹なのかしら?」

 

 納得いかないという顔をするハンナ。凛華が笑う。

 

「『黒鉄の旋風』に懐いてるのよ。うちの兄貴や義姉(あね)にもあんな感じだもの」

 

 ―――――つまりそれだけ信頼してくれていると言うことだろうか?

 

 そう考える『黒鉄の旋風』の女性3名。

 

「凛華、紫苑お姉ちゃんを義姉って呼ぶの早くない?」

 

「いいのよ。アルみたいに枷があるわけでもないのにフラフラしてる兄貴が悪いんだから。外堀埋めてやらなきゃ義姉が不憫でしょ?」

 

「あははっ、紅兄も災難だねぇ」

 

 エーラがケラケラと笑った。凛華の兄の紅椿は昔から同じ鬼人族の紫苑という少女と付かず離れずな関係だ。もっとも最近は常に尻に敷かれている状態らしいが。

 

「凛華にはお兄さんがいたんですね。知りませんでした」

 

 最近は男性陣以外へは敬称をつけなくなったラウラが「意外」と言うように声をあげる。

 

「ボクにもお姉ちゃんいるよ。丁度プリムラさんくらいかなぁ」

 

「あら、そうなの?故郷では一番下だったからエーラちゃんに懐かれるのはなんか新鮮でいいのよね~」

 

 エーラと同じ森人のプリムラはニコニコと笑みを浮かべてそう言った。肌の色こそ対照的だが、同胞として何かと可愛がっているのだ。

 

「てかそれ、アルクスのじゃない?どうしたの?」

 

 グビッと煽っていた酒杯を卓に置いた四等級武芸者の双子の妹エマが問う。それ、とはエーラが今羽織っている紅い龍鱗布のことだ。今は襟元が立った羽織のような形をとっている。

 

「今日寒いねって言ったら貸してくれた」

 

「なんやかんや大事にされてるわよね、あんた達って。こないだは凛華ちゃんにも貸してたし」

 

「えへっ」

 

「過保護なのよ」

 

 照れ臭そうにする凛華とエーラ。相手のいるハンナは微笑ましそうにそう言うが、半分惚気られたような気がしたエマはいいなぁと羨望の視線を向けた。

 

 そんな甘酸っぱい経験は幼い頃くらいにしかない。

 

「聞きそびれてたけど、結局その龍鱗布って何なの?魔導具の類?」

 

 ハンナが思い出したかのように訊ねる。

 

「あ、それは私も気になってた。なんか伸び縮みするみたいだし、魔族の伝統衣装みたいなものだと思ってたよ」

 

 とエマが追加で質問を投げかけた。

 

「魔族のではないわよ。うちの故郷にはそういうのないもの。凛華ちゃんとエーラちゃんの里特有のものなの?」

 

 プリムラも似たような疑問を口にする。アル達を見てわかる通り、彼らの里は他種族が共存している場所だ。

 

 単一種族で構成されたプリムラの故郷とはまた違う文化がある。

 

「確か、アル殿の母君の鱗と蜘蛛人族の・・・・何だったかで編まれたものだと聞いたぞ」

 

 ソーニャはいつぞやの会話を思い出しながら答える。

 

「『撚糸』?でしたっけ?蜘蛛人族を見たことがないのでどういったものかはいまいち想像がつきませんけど」

 

 ラウラもそう言いながら借りた夜のことを思い起こした。あの夜のことは鮮明に覚えている。

 

「結局魔導具なんですの?」

 

 製法は聞いたが魔導具との違いがよくわからないイリスは凛華とエーラに視線を向けた。

 

「ただの防具よ。あたしらだって着てるでしょ?」

 

 凛華はそう言って己の袖が膨らんだ上着《ジャケット》のようなものを引っ張る。防具なのでこういう場でも外さない。ちなみに外套はまた別で壁にかけてある。

 

「アルのがトリシャおば様の鱗のおかげなのか、やたらと自由が効くってだけだよ」

 

 龍鱗布の下に来ていた頭巾付き短外套の裾をちょろっと伸ばして見せるエーラ。

 

「え、それ防具だったの?アルクスがそれで何かを防いでるのなんて見たことないんだけど」

 

「確かに防具として使ってるの見たことない。それこそ凛華ちゃんに貸してるのを見たくらい」

 

 ハンナとエマの顔にはありありと『・・・防具?』という言葉が書いてある。

 

「蜘蛛人族かぁ。昔一回会ったことあるくらいねぇ」

 

 プリムラは『撚糸』という言葉に反応していた。確かそれは蜘蛛人族の”魔法”で作られた頑丈で知られる糸だったはず。

 

「アル殿の戦い方は防具や盾にちっとも頼らないからなぁ。稽古を見てると肝が冷えるぞ」

 

「知ってる。突っ込んでくもんね」

 

 純粋魔族3名とアルの稽古を何度も見たことのあるソーニャとこないだの戦闘を間近で見たエマはそう言う。

 

 盾術を学んでいる2人からすれば紙一重で攻撃を躱しながら反撃を行うアルの戦い方は冷や冷やモノだ。

 

 ちなみにこれはアルが育ってきた環境のせいである。”魔法”が当たり前の相手の一撃を防ぐというのがほぼ不可能だったから防御という意識を捨てているのだ。

 

 むしろ刀の峰で逸らしたり攻撃をもらう直前に身を捻ったりといった受け流しはかなり得意な方である。

 

「というか龍鱗布が要りそうな場面では大体人に貸してますよね」

 

「そうねぇ。武器扱いか、」

 

「もう一つの手くらいな感覚で使ってるね」

 

 ラウラの発言に凛華とエーラがクスクスと笑い合う。結局防ぐより動くのがアルだ。

 

 贈ったトリシャや小町は何と言うだろうか、と可笑しくなってしまった。

 

「トリシャ伯母様という方ですのね、兄様のお母様は」

 

 イリスは初めて知った伯母の名を反芻する。

 

 ―――――いつか会ってみたい。

 

 その願いは案外すぐに訪れることになるのだが、今の彼女はそんな未来が来ることなど知らない。

 

「そうだよ~。アルのホントの見た目と一緒で銀髪に真っ赤な瞳の優しいおば様なんだ~」

 

 エーラはそう言ってイリスの頭を撫でる。

 

「美人だしね」

 

 そこに凛華が付け加えた。

 

「それはあの子見てたら予想つくわねぇ」

 

「でもあの見た目はホント印象変わるよ」

 

 今度は青白い銀髪に真紅の瞳状態のアルに話題が移ったらしい。

 

「ラウラちゃんなんか興奮してたもの」

 

 ハンナが面白がるように言う。

 

「ぶっ!ちょっ、ち、違いますよ!そ・・・えぇと、凛華やエーラの言ってたことがわかったというか白い湖面に紅い瞳が凄く印象に残ったというか」

 

「ラウラ、それ以上言わずに潔く認めた方がいい。興奮してたぞ、妹の私が言うのだから間違いない。熱っぽい目で見てた」

 

「ソーニャ!?そこまで言わなくってもいいでしょうっ?」

 

 まさかの裏切りに赤面頻りで動揺を隠せないラウラ。

 

「『蒼火撃』。あれってアルの蒼炎でしょう?再現までしちゃったんだから認めなさいな」

 

「そうだよぉ~?っていうか今更バレてないと思ってたのかなぁ~?」

 

 凛華が小ざっぱり、エーラはニマニマしながらラウラを追い詰めていく。

 

「そっ、それは・・・ていうか凛華とエーラはいいんですかっ?」

 

 自分が彼を想ってしまって。

 

 言外に訊ねられた言葉に2人は視線を見合わせた。そしてフフッと笑い合う。

 

「今更よ。あたしは最後まであいつの隣であたしの剣を振るう。そう決めてるんだから」

 

「ボクも~。どうなっても一緒に同じ景色を見ていくって決めてるんだ」

 

 サラリと述べた2人の言葉は里を出るときと何も変わらない覚悟と想いが秘められたもの。予想していた以上に深い想いを感じ取った女性陣は思わずザワついた。

 

 ハンナやプリムラは大いに感じ入ったようで「なにそれ凛華ちゃんカッコイイ・・・!」「エーラちゃんの考え方、すっごい素敵かも」などと呟く。

 

「だから一人増えるくらいどうってことないのよ」

 

「アルがモテるのは昔からだもんねぇ」

 

 そんな彼女らへ2人は堂々と言ってのけた。清々しさすら感じる発言だ。

 

 

 この大陸では一夫多妻制、一妻多夫制のどちらもある。数が減少してしまっている隠れ里の魔族たちは血の近い者同士が混じらないよう一夫一妻が多かったりするが、別にそういう家がないわけではない。

 

 帝国もシルト家が一夫一妻制をとっているだけで一夫多妻制を取る貴族家も多数あるし、逆に王国では一妻多夫制の方が多かったりする。というのも王国は代々女王が治めてきた国家だからだ。

 

 聖国はどちらもあるし、共和国は周辺国の影響を受けているため地方によってまちまち。ラウラの父であるノーマン・シェーンベルグは今でも亡き妻を愛しているため後妻も第二夫人もいないというだけ。

 

 アルが誰をどう選ぶのかは彼自身の決める事ではあるが、少なくとも彼が現在思い描いている未来には傍に凛華とエーラの姿がある。

 

 それを鋭敏に感じ取っているからこそ彼女ら2人はそう言ったのだ。どう応えてくれるかはわからないが想っても良いんじゃない?と。

 

 ラウラは彼女ら2人の言わんとすることを理解して視線をさ迷わせた。他の面々は興味津々で見ている。

 

 イリスも鼻息荒くしてジーッと視線を送っていた。同年代の浮いた話などしたこともないので大いに興味をそそられているらしい。

 

 ややあって赤面しながらラウラは口を開いた。

 

「あぅ・・・そ、それは、その魅かれてますよ?魅かれるに決まってるじゃないですか、そんなの。窮地を何度も救ってもらったし、それからもずっと守ってもらってるし、優しいし強いし、その・・・カッコいいですし?”鬼火”なのに私達にはあたたかいんですよ?好きになって当たり前じゃないですかっ!」

 

 途中からヤケクソだ。ラウラ顔から火が出そうなほど真っ赤になって言い切る。

 

「きゃあ!」

 

「熱烈ぅ!」

 

 ハンナとプリムラは乙女モードになって騒ぐ。こういう成就前の甘酸っぱい話を聞くのは楽しくてしょうがない。

 

「キュンキュンしますわね!」

 

「いいなぁラウラちゃん。私もそんな相手が欲しいよ、ホント」

 

 現実(リアル)の恋バナなど全然知らないイリスは興奮気味に、エマは羨ましそうにそんな感想を漏らす。

 

「やーっと言ったわね」

 

「ホントホント。バレバレだったのに」

 

「ううっ、わかってるならこんな人がいるときに言わなくてもいいじゃないですか!」

 

「逃げると思ったからよ」

 

「ボクはノリで」

 

「ひどい!」

 

 三人娘が姦しい。プリムラはそんな彼女らへ訊ねた。

 

「いいわねぇその感じ。で、その色男は今日何してるの?」

 

「マルクと翡翠と一緒に駅見に行くって言ってたわ。遠目に見た魔導列車が気になってしょうがないとか何とか」

 

「今頃魔導列車に『魔眼』でも使って失明してるんじゃないかなぁ。ほっとくとすーぐ突っ走るから」

 

 尚、現在アルの右眼は失明状態である。「やめとけ」というマルクの制止を振り切って魔導列車にとって最重要の機関部を『魔眼』で視ようとしてその周囲の術式にやられた。

 

「なんか一度銀髪になってからやんちゃになりましたよね?」

 

 想っている男の些細な変化に敏感なラウラが確認すれば、

 

「本来があっちなのよ」

 

 と凛華が返す。放っておいても前に突き進んでいくし、興味があることには時間を忘れて熱中する困った男なのだ。

 

 マルクは幼い頃からそれに振り回されているようでしっかり自分も楽しんでいたりするのだが、止めるところはちゃんと止める歯止め役(ストッパー)としてもうまくやっている。

 

「龍気と一緒に色々抑え込んじゃってたのかなぁ」

 

 定期的に『八針封刻紋』を解く方が良いのかしら?とエーラは首を傾げた。

 

 ―――――そうだったんだ、無邪気な部分もいいなぁ。

 

 と痘痕(あばた)(えくぼ)な理論で納得していたラウラの肩をソーニャが叩く。

 

「良かったなラウラ。ついでに言うと私は知ってたぞ」

 

 良い笑顔だが腹立たしい。

 

「遅いしうるさいー」

 

 ソーニャの周回遅れ気味な感想に「忘れてよ」とばかりにラウラは突っ伏した。

 

 そこへハンナがニマニマしながら声をかける。

 

「ソーニャちゃんはどうなの?人狼の彼とは」

 

「そういえばよく絡んでるのを見てるね」

 

「ほっほう?」

 

 『黒鉄の旋風』女衆は次にソーニャの方へ食指を伸ばした。見ればだいぶ酒も進んでいる。

 

「は、はあっ!?いや私はだな、別にあいつに対してそんな・・・」

 

 ―――――まさか矛先が自分に向くとは。

 

 汗をダラダラ流しながら何とか回避しようとするソーニャへ姉が突き刺すように問う。

 

「それが本音で良いのね?」

 

 目が据わっていた。

 

「あ、いや、えっとお、その・・・」

 

 ―――――いかん、揶揄い過ぎた。

 

 ソーニャはしどろもどろになる。

 

「良いのね?」

 

「う・・・」

 

 言葉に詰まるソーニャに予想外の方向から声が上がった。

 

「じゃあマルク様には私が行ってもよろしいんですのねっ?」

 

「あら、そうだったの~?」

 

 ニッコニコのイリスがそう言うと、プリムラが微笑ましそうに訊ねる。

 

「ええ!私が捕らえられてしまったとき、颯爽と駆けつけて下さったんですの!私の英雄ですわ!」

 

 成熟していない子供の淡い恋心のようなものだろう、と思うのは男親の勘違いだ。

 

 精神的な成長は女性の方がずっと早い。イリスの瞳にあるのは確かな思慕の念であった。

 

 慌てたのは当然ソーニャである。アルの親戚ということでイリスの見た目は誰が見ても可愛らしい少女だ。

 

 おまけに現段階で胸もソーニャより大きい。つまりどう見ても魅力的であるということ。

 

 ソーニャは大いに焦りながら叫ぶ―――が、その後が急速に窄んでいく。

 

「だめだ!・・・とは言わないが、そのぉ、独り占めは良くない、と私は思うぞ」

 

「独り占め?ふふん。ソーニャ様、いえ、ソーニャさん。それはつまり自分もということでよろしいですわね?」

 

 語るに落ちたな!と眼光を鋭くするイリス。

 

「ええっと、いや、しかしだな・・・・」

 

 しかしソーニャはまだ粘った。姉のように茶化されたくない。

 

「見苦しいですわよ。私はマルク様をお慕いしておりますわ。貴女はどうですの?」

 

 そうはさせじとイリスが問う。

 

「・・・これじゃどっちが年上かわかんないわね」

 

「一つしか違わないもの。ソーニャの方が奥手だし不利よ」

 

 傍目に見ていたハンナがポツリと呟くと凛華が一応のフォローというか実況のような解説を入れた。

 

「ソーニャ、ハッキリしなさい」

 

 ラウラがとどめを刺しに来る。お前も茶化されろ。目がそう言っている。

 

「うぅ・・・ああもうわかった降参だ!私だってあの時助けてもらったんだぞ!惚れたさ!悪いか!?」

 

 逃げ場がなくなったソーニャはとうとう白状した。定期的にイジられてきたラウラより顔が真っ赤だ。

 

「「「きゃあー!」」」

 

 途端に騒ぎ出すタチの悪い女衆。

 

「だから嫌だったんだぁ・・・!せっかくラウラを盾にしたのにぃ・・・」

 

「盾術を扱ってるのに嘆かわしい」

 

 羞恥に身悶えるソーニャへラウラが鋭い蹴りのような言葉をくれる。

 

「ラウラ悪かった!謝るから!手厳しすぎるぞ!」

 

 つーんとした姉の袖を引っ張る妹の図が出来上がったところで、

 

「そういえば私には聞かないのね?(レーゲン)とその後どうなのー?とか」

 

 ハンナがそう言った。去年の暮れにようやく関係更新ができ、出来立てほやほやの熱々カップルだ。どう見ても聞いてほしそうにしている。

 

 凛華とエーラが苦笑を溢し、ラウラとプリムラが困ったような笑みを浮かべた。エマに至っては苦々しい顔を隠しもしない。

 

 すでにエマとプリムラは甘ったるぅい惚気話を幾度となく聞かされている。ケリアという同じ森人の恋人がいるプリムラはともかくとしてエマからすればたまったものではない。

 

 するとおもむろにイリスが口を開いた。

 

「聞かせて下さいまし。兄様は『レーゲンさんとハンナさんは今どろどろに爛れた生活を送ってるだろうからイリスにはまだ早い』なんて仰るんですのよ」

 

 失礼しちゃう!とでも言いたげだ。これでも心意気は立派な淑女(レディ)のつもりである。

 

「あんのマセガキ!」

 

 ハンナは顔を真っ赤にして憤慨した。異性と付き合うという経験が互いに初めてな所為で距離感を掴み損ねていて、いまだ口付け止まりだったのだ。

 

 良い雰囲気とか、そういう雰囲気になりかけてもそこで止まってしまう。時間の問題ではあるのだが最初の一歩がわからない。そんな状態であった。

 

「今日くらいに行っちゃえば?」

 

 プリムラがテキトーに背中を押してみる。当然ながらケリアとプリムラはそういうことも経験済みだ。ちなみにこの世界の避妊は魔導薬が一般的である。

 

「おかしいとか思われたらどうしよう?」

 

「ハンナの裸が?そんなこと言われたらレーゲンの蹴り上げちゃいなよ」

 

 初々しいハンナに比べてプリムラの発言は随分と年季が違う。故郷には長寿の割に見た目の若い女性陣が多いので自然とそういう話も入ってくる。要は耳年増でもあるということ。

 

 そこからハンナとプリムラは生々しい会話を繰り広げだした。女子会の真骨頂だ。男性陣がいれば引くような話でも平然とできる。

 

 凛華たち”鬼火”の一党の女性陣も顔を赤らめたりしながらではあったがグイグイ会話に参加していた。

 

 イリスは「兄様の言う通り少々早かったかも」と思わないでもなかったが、好奇心の方が勝ってしまったのでしょうがない。

 

 着々と耳年増な貴族令嬢への道を辿りつつ、楽しいお喋りに興じていくこととなった。

 

 

 ***

 

 

 数時間後。この時期は日照時間が短く、夕方と夜の合間が非常に短い。イリスもいるので帰りがてら迎えに来たアルとマルクは楽し気な女性陣を前にしていた。

 

「楽しんだっぽいね」

 

「らしいな」

 

「あっ、アル!迎え来てくれたの?」

 

 エーラが飛びつくように駆けてくる。

 

「あたし達がいるから別に良かったのに」

 

 口ではそう言うが凛華の機嫌は上々だ。

 

「あれ?アルさん、右眼どうしたんですか?」

 

 何だか暗いなと思ったラウラがそう問うと、

 

「ちょっとね」

 

 アルはサラッと返答を寄越した。が、そうは問屋が卸さないとばかりにマルクはツッコミを入れる。

 

「ちょっとじゃなかったろ。何回挑戦してんだよ」

 

「数回」

 

「数時間って意味だろうが」

 

「居座ったわけじゃないからいいだろ。駅には迷惑かけてないよ」

 

「一時間おきに寒い外に出る俺にはかけてたんだよ」

 

「毛皮あるじゃん」

 

「街中で『人狼化』使えってか?騒ぎになるわ」

 

「『部分変化』したら良かったじゃん」

 

「そんなんで『部分変化』使うなんてしょうもなさすぎるだろ」

 

「まーまー、昼奢ったんだから許してよ。遠慮なく食ってたじゃん」

 

「お前ってやつは・・・ったくしゃあねえなぁ」

 

「ま、収穫は一つもなかったんだけどね」

 

「こんにゃろマジ時間返せ」

 

 小気味の良い男同士の掛け合いを聞いた女性陣全員は察した、エーラの読みが当たったと。ついでにラウラの言う『やんちゃ』という部分もよくわかった気がする。

 

「マルク様!兄様!お迎えありがとうですわ!」

 

「おう、おかえり」

 

「楽しかったかい?」

 

 ピョンと飛び出してきたイリスの頭を撫でつつ、アルが訊ねた。見ればわかるのだが、それでも聞いてあげるのが年長者の務めである。

 

「はい!その、兄様達には聞かせられない話ばかりでしたが楽しい時間でしたわ!」

 

「ま、女性同士の話なんて俺らの聞くこっちゃないわな。眠れなくなる」

 

 ブルリと身震いするマルク。

 

「同感。ていうか変な話は聞いてないよね?トビアスさんに問い質されたくないよ俺」

 

 アルがそう言うと、女性陣はサッと一斉に目を逸らした。マルクは近くに来ていたソーニャへ懐疑的な視線を向ける。

 

「おいソーニャ」

 

「と、と、と、当然だろう!我々がそんな下世話な話をするものか!偏見はやめてもらおう!」

 

「「・・・」」

 

 憤慨した様子を見せるが頬が紅潮していた。寒さのせいにしては早過ぎる。即座にアルは下手人を非難した。

 

「ハンナさん子供に何教えてんですか!ドロドロなのはダメってわかるでしょ!?」

 

「ち、ちがっ!私じゃないわっ!私はどっちかと言えばどろどろになるにはどうすればいいかを―――」

 

 あたふたして余計なことを口走るハンナ。

 

「子供の前でホントに何言ってんです!?イリス、人前でこんなこと口走っちゃうような大人になったらだめだよ。マルクも俺達も哀しくなるから」

 

「残念な女扱いするのはやめてぇ!」

 

 ハンナは悲鳴をあげた。失言もいいところである。

 

「レーゲンさんとこに行って下さい。ドロドロになりたいって言えばしてくれますよ」

 

「ちょ、違っ!そういうドロドロじゃなくて!欲求不満みたいな言い方しないでぇっ!」

 

 冷めたアルの視線を受けたハンナは真っ赤になって否定しだした。

 

 女子会の全貌は語らないが、悩みを相談していたのだと。そしてその悩みと言うのが愛しの彼(レーゲン)と懇ろになりたいがどうしたらいいのかわからないというもので、決してオトナな世界の話ではないのだと。

 

((いや充分オトナな話になるやつだろ)))

 

 マルクやアルなんかはそう思わないでもないが一応納得してみせた。

 

「まぁいいですけど、あんまり過激な話はしないで下さいよ?紹介した俺が怒られるんですから」

 

「ふふっ、わかってるわよ」

 

 プリムラがハンナの代わりにニコニコと微笑む。しかし――――――。

 

「いやたぶんプリムラさんが一番過激なこと言ってたんじゃねえの?」

 

 ハンナがそんな可愛らしい悩みなら、ヤバい話題をする人物は必然的に一人しかいなくなる。マルクが当然の疑問を呈すとプリムラ以外の女子会参加者は、

 

「「「うん、言ってた」」」

 

「「はい」」

 

「度肝を抜かれた」

 

 と口々に肯定した。

 

「ひどいわっ。みんな興味津々だったくせにっ」

 

 プリムラがよよよっと泣き崩れる仕草をしたが全員がシラーッとした視線を向ける。

 

「まぁいいや。そっちはケリアさんに報告しとくとして―――」

 

「ちょっと待って!」

 

「忘れもんはねえな?帰るぞー」

 

「ねねっ待って!調子に乗ったのは謝るからぁ!」

 

 アルとマルクは息の合った連携でプリムラを無視した。この酔っ払いに関わっていると日が暮れ切ってしまう。酔いどれの相手は里で大概慣れているのだ。

 

「ねーお願いだから!清楚なプリムラで通ってるのよ!」

 

「それ絶対バレてますよ」

 

「だな。さっ、行くぞー」

 

 取り合わないアルとマルクはさっさと女性陣を連れて歩き出した。

 

「お願いよぉー、言わないでねぇー!」

 

 背後からの声に凛華とエーラ、ラウラが苦笑しながら手を振り、ソーニャは任せろと言わんばかりに胸を軽く叩く。

 

 イリスは余程楽しかったのか満面の笑みで手をブンブン振っている。アルとマルクはそんな彼女らの様子に目を合わせて肩を竦めた。

 

 

***

 

 

 後日、プリムラのあるんだかないんだかわからない印象(イメージ)を崩すことなくケリアにハンナの悩みを伝えたアルとマルク。

 

 さすがに同年代の仲間内からでないとこういう繊細な話題はすべきではないだろうと判断したのだ。

 

 更にその数日後、やたらと艶々しているハンナがプリムラとエマ相手に盛り上がっている様子を食堂で見られることとなった。

 

 プリムラは微笑まし気にそんな彼女を眺め、エマは死んだ魚のような目で話を聞いていたそうな。

 

 これ以来、同じ都市や街にいるときは『黒鉄の旋風』と”鬼火”の一党の女性陣はちょくちょく集まって女子会を開くようになり、男性陣は隠れ里や故郷のおばさんたちの井戸端会議を幻視するのであった。




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