日輪の半龍人   作:倉田 創藍

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ここでは初投稿になります。読んで頂ければありがたい限りです。


また「小説家になろう。」と「カクヨム」にて同作を連載投稿しております。


現在両サイトにて投稿されているものとこちらに投稿するものは少々文体が違う場合があります。


こちらへは定期的にある程度纏めて更新していく予定です。


40話 別れと出発 (虹耀暦1287年1月末:アルクス14歳)

 魔導列車というのは帝国肝煎りの事業の一つとして10年と少し前にようやく開通した鉄道の事である。

 

 都市同士、また都市と帝都を結ぶ路線が出来上がってからは物資輸送や人の移動、それによる情報や金銭の移動速度が大幅に上昇した。

 

 馬を乗り換える必要もなく、人員を大きく割く必要もない。良いこと尽くしのようだが、これもひとえに先人たちの苦労の賜物だ。

 

 当時は魔獣の脅威を必死に排除しながらレールを敷設していったのだが、負傷者もかなり多かったそうだ。

 

 鉄道事業部自体はおよそ30年以上前に発足されていたと言えばその苦労も理解できよう。

 

 

 武芸都市ウィルデリッタルトの駅は北東部の端の方にある。現代日本にある商業施設との複合施設ではなく、厳重な警備付きの乗り場(ホーム)があるだけの田舎駅といった風情だ。

 

 また都市中央に駅が置かれていないのは事故が起こった場合の可能性を考慮されているためである。

 

 列車自体への信頼がゼロの状態から始まったのでこの処置も妥当だが、ここ最近は駅周辺にも宿泊施設や飲食店が並ぶようになってきた。

 

 領地を持つ伯爵家以上の貴族たちは当初こそ懐疑的であったが今ではすっかりその利便性や安全性に信頼を置き、積極的に利用している。

 

 その甲斐もあって初年度に比べれば一般利用者の数も右肩上がりになってきてはいる。しかしそれでも鉄道事業そのものでの収支は赤いまま。

 

 初期投資額が大きすぎて回収にはあと10年はかかると予測されている。これでも一般利用者のおかげで当初の目途よりはかなり短縮された方だ。

 

 

 ”鬼火”の一党の6名と三ツ足鴉の夜天翡翠は現在そんなウィルデリッタルト駅にいた。まだ早朝だ。目の前には緊張した様子の領軍たちがいる。それも理解できようというものだ。

 

 なぜならアル達の目前に彼らの主君―――この都市を治める領主家であるシルト家の面々が総出で立っているのだから。

 

「じゃあ皆さん、長い間お世話になりました」

 

「「「「「お世話になりました」」」」」

 

「カアッ!」

 

 アルが頭を下げると仲間達5名と1羽も同様に頭を下げる。結局4か月と少しの間シルト家で過ごした。感謝の気持ちを言葉にすれば、

 

「こちらこそ、いつでも歓迎だからまたおいで。困ったことがあったら手紙でもくれると嬉しいな」

 

 トビアスは穏やかに微笑む。後ろにいた4人も同様に頷いた。あっと言う間で気付けば旅立ちだ。

 

 アル達の雰囲気も出会ったときより更に洗練され、ラウラとソーニャに至っては別人レベルと言っても良い。

 

「近くに来た時は連絡するといい。迎えを寄越そう。私が行っても良いしな」

 

 前領主であるランドルフがそんなふうに言うと、

 

「ふふっ、それでは兵の皆さんが困ってしまいますでしょう?」

 

 その妻メリッサが微笑みながら窘める。しかし気持ちは同じだった。孫とその仲間達は非常に爽快な青年達だ。

 

「私もいつでも歓迎しますからね?あなた達はイリスの恩人ですから。その恩は一生忘れません」

 

 リディアは親しみと感謝がないまぜになった感情を向ける。娘の窮地を救ってくれた彼らにはその人格も含めて良い感情しか抱いていない。

 

 些か張ってきた下腹をさすりながら微笑んだ。懐妊しているのだ。

 

「イリス?挨拶はちゃんとしなきゃいけないよ」

 

 トビアスは優しげな声音で俯いている愛娘イリスを見やる。

 

「・・・はい、ですわ」

 

 イリスは俯きながらアル達の前に進み出た。正直に言えば寂しい。一気に親しい人たちが家からいなくなる。こんな感情は初めてだった。

 

「兄様達、その・・・・」

 

 言葉に詰まるイリスへ凛華が進み出てきて頭を撫でる。

 

「凛華姉様?」

 

「また会えるわよ。そんな泣きそうな顔しないの」

 

「っ!」

 

 優しい微笑みを浮かべた凛華は本当の姉のように諭した。イリスはこらえ切れず彼女に抱き着く。

 

「うぅぅ~・・・寂しい。寂しいですわ姉様」

 

「ええ、そうね。でも会おうと思えば会えるし、イリスが会いに来てもいいでしょう?」

 

 優しく撫でる凛華にぎゅうっと一層抱き着きながらイリスは問うた。

 

「会いに、行っても良いんですの?」

 

「あったりまえだよ!」

 

「勿論ですよ」

 

 ぴょんと出てきたシルフィエーラと進み出たラウラがイリスの後ろから抱き着く。

 

「うぅ、ぐすっ・・・泣いてしまいますわ」

 

「泣いてるじゃないか」

 

 ソーニャはクスッと笑いながらイリスの深い茶髪を撫でた。シルト家の家族達はそんな彼女と暖かな姉たちを微笑ましく眺めていた。

 

 こういう出逢いと別れを繰り返して大人になっていくのだ。

 

 しばらく姉たちに抱き着いていたイリスはようやく身を離す。もう大丈夫とばかりに笑んだ。

 

「兄様!」

 

「うん、おいで」

 

 そしてガバッとアルへ抱き着く。遠慮のない妹と優しい兄の別れの挨拶のように見えた。

 

 が、残念ながらアルはそんなに殊勝な男ではない。

 

 抱きしめたイリスの耳元で何やらごにょごにょと呟く。

 

「ふぇっ?よ、よろしいんでしょうか?」

 

「大丈夫大丈夫、こういうのには付き物だよ」

 

「そ、そういうことでしたら・・・!」

 

 イリスはそう言って身を離した。アルはニコニコとやんちゃな笑みを浮かべて彼女の頭を撫でる。

 

「さ、いっといで」

 

「は、はいですわ!」

 

 ふんすと鼻息を荒くするイリス。

 

「なぁに言ったのかしらねぇ」

 

「ボクには聞こえたよ、黙っとくけど」

 

「アルさん、こういうときでも変わりませんね」

 

「なんか不穏だ」

 

 いい加減アルのやんちゃにも慣れている4人はそんな感想を溢した。妙にやる気を見せるイリスに嫌な予感を覚えるトビアスだったが、リディアがやんわりと腕を絡めて制止する。

 

「マ、マルク様よろしいですか!?」

 

「構わねえけどあんまりトビアスさんに睨まれたくねえし軽くだぞ?」

 

 おずおずと抱き着いたイリスにマルクは優しくポンポンと背中を叩きながら抱き返した。

 

「はい、あ、もう少し屈んでもらいたいですわ。顔をちゃんと見ておきたいですから」

 

「おう?こうか?」

 

 背の高いマルクが少々屈んでイリスを抱きしめたところで――――ここだ!とイリスがその頬にちゅっ!と口付けする。

 

「んなぁっ!?」

 

「い、いつぞやの感謝の印ですわ!あと!その!いつか会いに行きますから待っていてくださいませ!」

 

 さすがに驚いたマルクが声を上げると、イリスはその首根っこにぎゅうっとしがみついた後サササッと離れて行った。顔を赤らめている。

 

「アルクス君、最後にやってくれたね?」

 

「そういう挨拶があると聞いたもので」

 

 トビアスがプルプルしながら言うと、アルはぬけぬけとのたまった。

 

「悪戯好きな甥っ子だよ、本当に。子供の頃の兄上そっくりだ」

 

 はぁと肩で息をつくトビアス。

 

「父さんの子ですから」

 

 アルはカラカラと笑う。ちなみにマルクから咎めるような視線が向けられているが知ったことではない。

 

「まったく・・・ふぅ。さっきも言ったけど、いつでもこっちは歓迎だからね。困ったことがあれば連絡してくれよ?」

 

 トビアスは困ったような笑みから一転して、優し気な笑みを浮かべ、そんなことを言った。

 

「ええ、ありがとうございます。叔父上もお元気で」

 

 アルはニコッと笑う。トビアスは目を瞬かせた。今までアルは一度もトビアスを”叔父”と呼んだことはない。

 

「・・・・アルクス君、君ってやつはまったく」

 

 あえてやや乱暴に甥の髪をクシャクシャと掻きまわすトビアス。

 

「あはははっ」

 

 アルはくすぐったそうに笑うのだった。

 

 その背後でソーニャが、

 

「アル殿め、まったく」

 

 とブツクサ言っている。

 

「ソーニャもしてきたら?」

 

 凛華が面白がって言うと、

 

「同じ列車に乗るのだぞ!?」

 

 怒涛の勢いで返事が返ってきた。

 

「乗らなかったらできた、みたいな言い方だね」

 

「そう聞こえました」

 

 エーラとラウラが言い合うと、

 

「なっ、はっ、いや!そんなことはない、違うぞ」

 

 ソーニャは必死になって否定する。

 

「ではやはり私が迎えに行きますわね」

 

 そこニョキッと生えるように出現したイリス。もう彼女の中でソーニャは煮え切らない恋敵である。

 

「イリス!くぅ、変なとこだけ従兄殿を真似せんでいい!」

 

 いつの間にいたんだ!と言いたげなソーニャに、

 

「次は頬では済ませませんわ」

 

 イリスは宣言した。

 

「なっ!?」

 

 慌てるソーニャと胸を張るイリスを見て三人娘はクスクス笑い声を漏らす。

 

「さーてと、時間はまだあるけどもう上がっとこうか」

 

「アル、てめえ散々引っ掻き回しといて」

 

「従妹をよろしく」

 

「張っ倒すぞ」

 

 愉快そうなアルと憮然としたマルクへ最後にイリスが飛びついた。

 

「マルク様!兄様!またお会い致しましょうね!」

 

「うん、またね」

 

 アルがその頭を撫でつつ返事を返し、

 

「おう。つーかあんまりコイツの影響受けちゃ駄目だぜ」

 

 マルクが咎めるように言う。

 

「あれはちゃんと本心でしたわ!」

 

 しかし憤然とした様子のイリスは顔をガバッと上げて抗議した。

 

「お、おう、そうか」

 

 妙に強い視線に気圧されたマルクはそんな返事しかできない。

 

「マルクぅ~、照れちゃってまぁ」

 

「お前ほんとシバくからな」

 

 すぐに茶化したアルとマルクがいつものやり取りを交わし、イリスは楽しそうに笑うのであった。

 

 

 これ以上護衛の兵をずっと置いておくのも領民に迷惑であろう。

 

 その配慮の元、最後にもう一度挨拶したアル達”鬼火”の一党とシルト家の面々は駅前でようやく別れ、馬車の中から手を振り続けるイリスが見えなくなるまで6人は手を振り返していた。

 

 

 ***

 

 

 駅の乗降場(ホーム)は階段を昇った先にある。というのもレールが敷いてあるのは単なる地上ではなく、少々高い場所なのだ。

 

 魔獣の危険がある以上、大地にそのまま敷設するわけにはいかず、かと言って無駄に走行距離を伸ばすわけにもいかず、レールを囲むように防壁を築いて回るだけの予算もない。そのため路線を決めるのにかなり難航したとのこと。

 

 

 乗降場についた”鬼火”の一党を待っていたのは彼らの先輩武芸者である『黒鉄の旋風』の6名だった。印象深く、放っておけない後輩武芸者達を入場券だけ買って見送りに来たのだ。

 

「やっと来やがったな。待ちくたびれたぜ」

 

「マルクとイリスちゃんがイチャイチャしてる内に挨拶する時間なくなっちゃうんじゃないかと思ってたわよ」

 

「俺のせいじゃねえ、こいつのせいだ」

 

 憎まれ口を叩くレーゲンとハンナにマルクは憮然としてアルを指す。しかし当の本人はどこ吹く風でそっぽを向いた。

 

「最後までそんな感じなんだなぁ」

 

 双子の片割れヨハンがそう言うと、

 

「今生の別れでもあるまいし、湿っぽいのは苦手なんですよ」

 

アルは苦笑して返す。しかし、

 

「嘘おっしゃい」

 

 と凛華。

 

「完全に悪戯っ気出ただけだよね?」

 

 更にエーラ。

 

「私にもそう見えました」

 

 ついでにラウラ。

 

「よ、余計なことは言わなくていいからっ」

 

 三人娘の鋭い意見にアルはたじろぎながらシーッと唇に指を当てた。ちなみに図星である。

 

「ソーニャちゃんには災難だったわね?」

 

「そ、そんなことはないぞ!」

 

 森人のプリムラがニマニマして言えばソーニャが慌てて否定した。

 

「しかし、早いものだ。もう少しこの都市で活動しても良かったんじゃないか?」

 

 同じく森人のケリアは別れを惜しんでいる。アルは嬉しくなりながらも首を横に振った。

 

「色々見てみたいですし、何があるかわかりませんから少しずつ帝都に近づこうと思ってるんです」

 

「そうだった。ターフェル魔導学院に行くんだったね」

 

 双子の妹の方であるエマは彼らの目的を今頃思い出す。なまじ魔術が巧みなせいで忘れかけていた。

 

「ええ、一応勉強とかもしとこうかと」

 

「今更要るの?」

 

 身も蓋もない意見を述べるハンナにアルはしかめつらしい顔をして頷く。

 

「何が試験に出るかわかりませんからね。帝国史なんて出た日にはマルク以外落ちますよ」

 

 『帝国史概論』を読み終えたマルクはアル達より多少帝国の歴史に明るい。

 

「私もマルクに借りて少しだけあの本は読んでみたぞ、案外おもしろかった」

 

「少しじゃ試験はダメなんじゃない?」

 

「ボクそういうの苦手」

 

「私もあまり歴史は得意じゃないですね」

 

「・・・そういや他国の貴族令嬢と魔族だったな」

 

 馴染み過ぎて今更思い出す『黒鉄の旋風』。

 

「そういうことです」

 

 レーゲンの言葉にアルは頷いた。

 

「ん。アル、もう少しで来るんじゃねえか?」

 

 マルクが乗降場の大きな時計を指しながらアルに言う。

 

 ―――――ちゃんと挨拶しとこうぜ。

 

 マルクの言いたいことをアルはしっかり汲み取った。

 

「うん、わかった。さてと、『黒鉄の旋風』の皆さんと会ったのは帝国に入ってからすぐだから・・・・・案外長いですね。ラウラとソーニャの件から始まって色々とお世話になりました。

 

 正直なこと言えば右も左もわからないなか、先輩武芸者がまともな人達っていうのはすごく心強かったです。またいつか会った時も仲良くしてください。この数カ月、ありがとうございました」

 

 アルは今までの態度をガラリと変え、流麗な動作で腰を折る。

 

「「「「「ありがとうございました!」」」」」

 

「カアー!」

 

 5人もそれぞれアルに倣って深々と頭を下げた。夜天翡翠もちょんと降りて『黒鉄の旋風』を見上げるように鳴いている。

 

「お、おう。なんだ、その・・・そんなに畏まるなよ。むず痒くなる」

 

「そうよ、卑怯よ。泣かせに来てるでしょう」

 

「いや、泣いてるのハンナだけなんだけど」

 

「また会おうぜ。それと等級の方はもう少しゆっくりでいいぞ?追いつかれそうだし」

 

「ヨハンも上がればいいだけだろう。皆元気でな。特にアルクス、無茶するなよ」

 

「また会いましょうね!今度会ったらまたごはん行きましょ!」

 

 1名ボタボタと涙を流しているが、他5名は嬉しそうな、寂しそうな、それを吹き飛ばすかのような快活な笑顔で口々に返答を返してくれた。

 

 キキッキキ――――――ッ!プシュ―ッ!

 

 そこへ魔導列車が独特の音を立てて乗降場に侵入してくる。鉄製のガワに錆防止の黒い塗装。あの音からして圧縮空気を利用しているらしい。

 

 外観は前世の蒸気機関車のようだが、散々『魔眼』で見たアルからすると中身は別物だということに妙な違和感を感じる。そもそも前世のものよりも少々横幅が広い。

 

 ―――――魔導機関とやらに合わせてあるのか、それとも多様な種族に合わせてあるのか・・・・。

 

「アル」

 

「ハッ!そうだった」

 

 考察に入ったアルの肩を凛華がポンと叩く。出発は10分後だが早めに済ませておこう。

 

「レーゲンさん、これ渡しときます」

 

 タタッと駆け寄ったアルはレーゲンへ紙切れを渡した。

 

「お、なんだこれ?何の術式だ?」

 

 渡された紙に描かれていた術式を見て、怪訝そうな顔でレーゲンが問う。既存の魔術とはかなり違う、そのうえやたらと複雑だ。

 

「初期から問題を排除した『気刃の術』ですよ」

 

「えっ!?あんたそれ秘匿とか独自じゃないの!」

 

 ハンナは目を見開く。己で考え、己のみで使用するから独自なのだ。そんな大事な術式をポンと手渡してくるなんてどうなってるんだ、とアルを見た。

 

「ええ。でも俺の『蒼炎気刃』とかになる前の基礎的なものですし、何より素人が使っても自滅するだけですからね。覚えたら燃やしてください。『黒鉄の旋風』にはあげても他の人にはあげたつもりありませんから」

 

 アルはそんな風に言う。そもそも『気刃の術』を基礎にした魔術は”鬼火”の一党の6名中4名が使っている。信頼できる相手なら別に使われても問題ない。

 

「良いのか?」

 

 おずおずと訊ねるケリアにアルは頷いた。

 

「ええ、ケリアさんとプリムラさんなら特に問題なく使えるはずです。あ、でもエーラの『燐晄』がそのまま使えるわけじゃありませんから、そこは自分に合うように弄って独自にしておくことをオススメしときます。魔力が無駄になりやすいので」

 

 ケリアならまだしもプリムラにただの『気刃の術』は効率が悪い。とっとと『燐晄』のようなものを作れとアルは言う。

 

 レーゲンは様々な感情を見せたあと、大事そうに紙切れを懐に忍ばせた。

 

「じゃ、ありがたく貰っとくぜ。ハンナに聞いて俺ら専用の術式を創ってみるさ」

 

「えっ?」

 

「はい。そうしてください」

 

 にこやかに微笑むアルクス。

 

「ちょっ」

 

「うむ。ハンナなら知識もあろう」

 

 腕を組んで首を深く頷かせるケリア。

 

「待っ」

 

「あのとんでもない威力のやつだよね?楽しみ」

 

 兄に喜びを表現するエマ。

 

「あのね」

 

「俺らもちょっとは使える手が増えるな」

 

 同じく楽しみだと言うヨハン。

 

「や、その」

 

「とうとう霊気を飛ばせるのね!ありがとうアルクス!」

 

 満面の笑みで感謝を告げるプリムラ。

 

「ちょっと待ちなさいよぉ!!」

 

 とうとうハンナが仲間達へキレた。なんだなんだと目を向ける5名と面白がっている1名。

 

「あのね!そんなに簡単に術式って弄れないのよ!?私はアルクスみたいな眼があるわけじゃないんだからそんなにポンポン作れないって!大体魔導学院を出てるわけじゃないんだから知識だってそんなにないわよ!?」

 

「「「「「ええ~」」」」」

 

「こいつらっ!」

 

 不満の声を上げる仲間へハンナは青筋を浮かべる。

 

「あははははっ!」

 

「こんのガキんちょ!」

 

 最後のひと笑いをしていたアルへハンナが掴みかからんばかりの勢いで迫った。なんて置き土産していくんだこいつ!と般若の形相だ。

 

「わわっ!まぁまぁ鍵語表と睨めっこするしかないですけど大丈夫ですって。自分の専用魔術になるんだから皆さん手伝ってくれますよ」

 

「そうだぞ、ちょっと悪ふざけしただけだって」

 

 レーゲンがやんわりと宥めた。

 

「「「「ええ~?」」」」

 

 しかしながら仲間達は不満の声を上げる。

 

「っ!・・・っ!!」

 

 ハンナが声にならなら怒りの声を上げ、

 

「悪ふざけだから落ち着けって」

 

 レーゲンが何とか宥めてその場は収束するのだった。

 

 ”鬼火”の一党が魔導列車に乗り込みながら、

 

「じゃ、またどっかで会いましょう!」

 

「そうね、また会いましょ」

 

「またね~」

 

「じゃあなー」

 

「お世話になりました」

 

「またどこかで」

 

「カアッ!」

 

 と口々に別れの言葉を述べていった。誰も振り返らない。どこまでも前に突き進んでいくアルの率いる一党らしい別れ際だ。

 

「寂しくなるわねぇ」

 

「また会えるだろうさ」

 

 ハンナとレーゲンはそんな会話を交わし、『黒鉄の旋風』は駅から立ち去るのだった。

 

 

***

 

 

 後日、誰にも見られない場所で『気刃の術』を試した『黒鉄の旋風』。闘気の固定化とそこから更に高純度・高圧縮の属性へ変換可能な攻撃的すぎる魔術に慄いていた。

 

「・・・魔力消費はとんでもねえが、なんつー威力してんだよ」

 

「鎧をあんな簡単に斬り裂いてたわけがわかったわ。全然避けて斬ってなかったものね」

 

「はぁ、はぁ・・・魔族組っ、あんなの、平然とっ、振り回してたの?魔力きっつ」

 

「はっ、はっ、はあっ・・・・・そら、あの魔力量も、納得だわ」

 

「うぅむ、素晴らしい魔術だ。プリムラ、そちらはどうだ?」

 

「矢に乗せるにはちょっとコツがいるけどすっごいわよ!ほらあれ!貫通しちゃったわ!」

 

 一部は熱狂していたが。

 

 そんな興奮冷めやらぬなか、エマがぼそりと呟く。

 

「こんなの自力で創れるのにターフェル魔導学院行くの?」

 

「そういえばラウラちゃんもアルクスの蒼炎みたいな『火炎槍』撃ってたよな?」

 

「「「「・・・・」」」」

 

 当たり前だが、ターフェル魔導学院は魔術を教えているが独自を創ったり既存術式を改造したりといったことは試験ではやらせない。

 

 というかあくまで魔術師の卵が専門知識を身につけたり、才能を開花させて立派な魔導師になる為に行く学校であって―――闘気から属性魔力を生成したりといったよくわからない概念を術式にしてしまうヤツばかりが行くようなところでは決してないのだ。

 

 ―――――あいつら何しに行くんだ?

 

 そんな疑問を抱かずにはいられない『黒鉄の旋風』であった。




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