日輪の半龍人   作:倉田 創藍

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ここでは初投稿になります。読んで頂ければありがたい限りです。


また「小説家になろう。」と「カクヨム」にて同作を連載投稿しております。


現在両サイトにて投稿されているものとこちらに投稿するものは少々文体が違う場合があります。


こちらへは定期的にある程度纏めて更新していく予定です。


4章「山岳都市ベルクザウム編」
1話 魔導列車に乗って (虹耀暦1287年1月末:アルクス14歳)


 ”鬼火”の一党である6人と1羽はシルト家と『黒鉄の旋風』に挨拶を済ませ、魔導列車の客室にいた。

 

 プシュウ――――。

 

 静かな空気圧縮音と共に両開きのドアの閉まる音が聞こえる。

 

「なんだか不思議な感じですね」

 

 アルクスの左隣に座っていたラウラが客室をぐるりと見渡して感想を述べた。

 

 ここは二等車だ。完全個室の指定席(コンパートメント)に6名はいる。向かい合わせで8名まで収容できるそこそこ値の張る席だった。

 

 一等車は車両一つをそのまま1室扱いするほぼ貴族専用車両なので、実質この二等車が市井の最高等級となる。

 

 ちなみに三等車が間仕切りのついた指定席、四等車が単なる指定席、五等車が自由席だ。他に三等車と四等車の間に乗務員専用のスペースを含んだトイレや展望スペースを含んだ中間車両が一つある。

 

「しかし、良かったのか?どう考えても高いだろう?」

 

 ラウラの真向かいにいたソーニャがそんなことを言った。良いのか?とはこの魔導列車の運賃を長期護衛依頼を請けている経費として、ラウラの財布から出さなくて良かったのか?という意味だ。

 

 二等車と三等車は仕切りで―――つまりその空間で一つ分でいくら、という考え方で料金を取られるので、今回は実質8名分の料金を負担している。

 

 その額2,500ダーナ。ちなみに以前ドラッヘンクヴェーレへ行くために借りた幌馬車が1日130ダーナである。たかが移動で出すには十二分に高い。しかしアルは首を横に振った。

 

「俺たちも帝都の方には行かなきゃいけないし、一党の財布から問題なく出せたし、個室なら無駄に気も張らなくていい。こっちも利点しかないから構わないさ」

 

 一党の財布とは報酬を等分した時の余りを積み立てて貯めている活動資金の事でだ。一応アルが管理しているがいつでも開けるし、収支はきちんと纏めている。

 

 ここらへんが細かいのは『黒鉄の旋風』と前世の自分(長月)から金はきちんとしておけと指導してもらっているからである。

 

 金がある内はいいが減ってくると途端に亀裂を生みやすいものだそうだ。

 

「単に乗ってみたかったってのもあるんだろ?」

 

 アルの向かいに座っていたマルクガルムがそんな風に問う。

 

「当然!頻繁に乗るわけでもないんだから良いとこ乗りたいじゃん。。乗車時間も長いしね」

 

 この魔導列車の最高速度は時速90km(キリ・メトロン)。目的地がウィルデリッタルトから東北東に600kmの都市だ。

 

 おまけに都市間を結んでいるだけで途中の駅がなく、乗務員専用駅で人員の交代等も行われるらしいので6時間は走る鉄箱の中だと考えていい。

 

 その間周りに気を配りながら座るなり自由席で立っておくなりなどしたくなかった。

 

「ま、そこはアルの判断で間違いなかったんじゃない?」

 

 窓枠に肘をついた凛華が個室の壁に立てかけられている尾重剣を眺めながら言う。隣に座っているアルの龍牙刀も刃尾刀も今は同じく立てかけられている。

 

 あんなもの持ってウロウロすれば目立つし、他の客からすれば邪魔も良いとこだろう。

 

「そうだな。俺もぶっちゃけ同感だ。慣れてる匂いならまだしも匂いのキツいやつもたまにいるからな」

 

 マルクの隣にいるソーニャが少々身動ぎするが、彼の言うキツい匂いとは香水や肉体労働者特有の汗臭さだ。香水もつけていなければ、しっかり身綺麗にしている一党の仲間に不快さを感じたことなどあるはずもない。

 

「あっ!動き出したよ!」

 

 凛華の向かいで窓に張り付いていたシルフィエーラが興奮したように声を上げた。 

 

 彼女の言う通り、ゆっくりと魔導列車が動き出した。ほんの少しだけ加速のGを感じる。窓の外の景色が緩やかに流れ始め、だんだんと速度が上がっていく。

 

 カタンッ・・・・・・カタンッ・・・カタンッカタンッ――――――。

 

 独特の振動と軽い音をさせながら魔導列車が疾走し、やがて身体にかかっていた僅かなGが消えた。どうやら一定の速度に至ったらしい。音の感覚も短い。

 

「おおー、凄いわね!でも大丈夫なのこれ?」

 

 感嘆の声を上げつつ、ほんの少しだけ不安そうな面持ちをした凛華がアルの方を向く。

 

「大丈夫だよ。この十年間で脱線事故は一度もないらしいし、鉄道警備隊もいるらしいからね。なんなら『陸舟』の方が危ないよ」

 

 命綱も無ければ柵もない。ほぼ身一つで滑る『陸舟』の方が危険度で言えば段違いに上だ。アルは安心させるようにそう言った。

 

「確かにあれ、怖かったです」

 

「うむ。地面が迫ってきていたからな」

 

 ラウラとソーニャがあのときのことを思い出してそんなことを言う。

 

「ボクの案内は安全だよ?」

 

 口を尖らせるエーラにマルクは苦笑する。そういうことじゃない。

 

「あたしの冰も砕けたりしないわ」

 

 凛華も少々不満げだ。

 

「あのときは知りませんでしたし、怖かったですよ。アルさんはすぐ近くで蒼炎を撃ってましたし」

 

「ああ。思わず身構えかけた」

 

 ラウラの発言にソーニャも頷いた。

 

「あれはアルが悪いよ。ボクらも大変だったもん」

 

「そうね。自分だけ余裕こいてたものね?」

 

 ジトっとした視線を送るエーラと凛華にアルはカラカラ笑いながら

 

「ごめんて。もうしないよ、きっと」

 

 とそんな風に返す。しかし、三人娘の反応は早い。

 

「「「嘘ね(だね)(ですね)」」」

 

「ねえ、最近ラウラまで俺に厳しいよ」

 

 アルが傷ついたと言わんばかりの顔をした。が、自分でもいつかやりそうだという自覚はないこともない。

 

「すまんがアル殿。私もあまりその発言は信用しづらい」

 

 ソーニャがトドメを放つ。

 

「ひどいっ」

 

「日頃の行いのせいだろ」

 

 わあっと泣き真似をするアルに至極真っ当なツッコミを入れるマルクであった。

 

 

 ***

 

 

 魔導列車が走り出して30分もした頃だった。大人しい夜天翡翠の首元を撫でていたエーラがふと思い出したようにアルへ問う。

 

「アル、辺境伯領は国境と接してるから行かないってことでいいんだよね?」

 

「そうだよ。まっすぐ東に行くと辺境伯領だけど、王国とも共和国とも接してるからね。さすがにラウラとソーニャをそこに連れてけない。俺の神経が先に参っちゃう」

 

 肩を竦めながらアルがそう答えると、

 

「その上の都市なんでしょ?確か伯爵領とか言ってたわね。そっちは王国と接してないの?」

 

 凛華が訊ねてきた。前世に較べれば非常にシンプルな路線図とアルが睨めっこして下した決断だが、そこらへんはもう5名ともアルに一任している。

 

 共和国組からすれば一蓮托生だと割り切っているし信用しているし、魔族組もマルクはともかく凛華とエーラは地図とやらにもまだ慣れていない。

 

「接しちゃいるけどその伯爵領から王国にかけてデカい山脈があるんだよ。国境もそこを割ってる。だから―――」

 

「辺境伯領に行くよりは断然安心ってことか」

 

 台詞を引き継いだマルクへアルは当たり!と言うようにピッと指を差した。

 

「そういうこと。それにウィルデリッタルトから帝都まで、直通の列車はまだないみたいだし、まっすぐ馬車で北上するよりは―――」

 

「敷設された線路沿いに帝都へ向かった方が確実ってことですね?」

 

 今度はラウラが引き継ぐ。馬車の旅だと何があるかわからないし、何より速度が段違い。これも正解だ。

 

 現在魔導列車の路線は都市を結ぶようにグネグネとした形を取っている。無論、ウィルデリッタルトから辺境伯領への分岐路などもあるのだが、そういった()の数はまだまだ少ない。

 

 ゆくゆくは街なんかにも駅を建てる予定だそうだがそれにしたってある程度投資した分の資金を回収しなければ出来ないそうだ。

 

「うん、七月くらいには帝都入りしたいしね」

 

 納得した仲間達へアルが予定を告げると、

 

「そう言われると案外時間もないのだな」

 

 ソーニャはしみじみとそう言った。こんな未来が訪れるなどあの時は考えてもみなかった。

 

 血の繋がらない妹がそう考えているのを察したラウラも似たような表情を浮かべている。

 

 

 納得した全員がまた座席へ身を埋めようとしたときだった。マルクが割合真面目な顔で口を開く。

 

「そういやアル」

 

「うん?」

 

「ソーニャの戦い方どうにかならねえか?」

 

 凛華越しに窓の外を見ていたアルは親友の顔を見て、なるほどと事情を察した。

 

「あー・・・俺も色々考えてるんだけど難しくてさ」

 

 顎に手をやって難しい顔をするアル。丁度この時間はその考察をしてもいいかもしれない。

 

「えっ!?わ、私は何かしただろうか?いや、四人に較べれば弱いのは当たり前だがその―――」

 

「あんた達もうちょっとちゃんと言いなさいな」

 

「そうだよ!言葉だけだと酷いよ!」

 

 慌てだすソーニャを庇うように凛華とエーラが憤慨した。

 

「あっ?あ・・・すまねえ、ソーニャ。不甲斐ねえとかそういう意味で言ったんじゃねえんだ」

 

「ごめん、言葉足らずだった」

 

 アルとマルクも変な風に受け取られかねないと気付いたのかすぐに謝罪を入れる。

 

「どういう意味だったのでしょうか?」

 

 大事な妹のことなので少々神経質になってラウラが訊ねた。マルクとアルはその質問に淀みなく答え始める。

 

「現状、ラウラの護衛としてソーニャが動いてるだろ?」

 

「はい」

 

「あ、ああ」

 

 マルクの言葉にラウラとソーニャがコクコクと頷いた。2人でセットの戦い方だ。

 

「でも二人共実力が上がってきてるからラウラの補助も、ソーニャの護衛もいらない場面が増えてきた」

 

 今度はアルが冷静に告げる。

 

「確かにそうね」

 

 凛華は薄っすらと2人の言いたいことが見えてきた。

 

「そうなると手隙になるだろ?基本の形として二人が組むっていうのは固定で派生が要るんじゃねえかと思っててよ」

 

「あー、なんとなくわかってきたかも」

 

 マルクの言葉でエーラも理解を示す。

 

「うん。で、そうなると、より個人で戦える実力がいる。ラウラは後ろにいるし杖剣があるから威力面では申し分ない。でも―――」

 

「ソーニャは盾だ。守れても敵を減らすにはまだ時間がかかる。剣はこの際置いとくが、今使ってる魔術じゃあ」

 

「その剣との噛み合いが悪くてズレが起きる。それに使用頻度の違いでラウラと魔力の差が出てきてる」

 

 アルとマルクはポンポンと掛け合うように事実を述べていった。どれも理解できる内容だ。

 

「でも結局魔力を扱わねえと闘気を扱おうにもすぐに燃料切れを起こしちまう」

 

 ここが問題点。少し離れた位置で一人戦うのなら継戦能力と相手を屠れる能力のどちらもが必要だが、現状で闘気を使うとすぐに体力と魔力が尽きる。

 

「だからソーニャの剣を邪魔せず、咄嗟に攻撃として使える魔術や戦法を考えるべきだろうと思ってね。今邪魔せず使えるのって『障岩壁』くらいでしょ?それ以外がいるなってたまに考えてたんだ」

 

 魔術なり属性魔力なりを使わなければ魔力というのは決して増えたり質が深まったりしない。

 

「今のままだと戦闘型ってのが見えねえままでよ。アルは手数と速度で圧す攻撃重視で、凛華は威力と範囲、貫通力を生かした戦い方。そういう先・・・展望?ってのを作らねえと纏まりが悪いと思っててな」

 

 剣と盾、魔術は魔術といった感じで今使える魔術は噛み合いが悪いのだ。単発なせいで扱い辛く、その結果使用頻度が減ってきている。

 

「まぁそれ自体はラウラもいるんだけど、『蒼火撃』が完成したし、だんだん形にも

なってきてるから喫緊はソーニャなんだよね」

 

 男2人はそう締め括った。凛華とエーラは「なるほどなぁ」とうんうん頷くが、すぐさま咎めてくる。

 

「それならそう言いなさい。言葉、足んないわよ」

 

「ちゃんと考えてるんなら言わなきゃダメじゃん」

 

 責める口調の幼馴染2人に男2人は身を竦ませた。

 

「いや話し合ってたわけじゃなくて」

 

「なんとなく考えてたくらいで」

 

 通じたのでそのまま会話に移行した、と。

 

「はぁ~~・・・どうしてこう男同士って大事なことでもよくわかんない以心伝心するのかしらね」

 

「全然言葉足りてないのにね。感じ悪かったよ」

 

 いっそ辛辣な2人の言葉にグサグサと刺し貫かれながらアルとマルクは被害者姉妹へ素直に頭を下げた。

 

「ぐっ、ごめんなさい」

 

「す、すまねえ」

 

 頭を下げられたソーニャとラウラは慌てて手を振る。

 

「い、いえ早とちりでしたし」

 

「ああ、まさかそこまで考えてくれているとは思わなくて」

 

 正直な感想だ。ラウラにしてもソーニャにしてもここまで真剣に色々考えてくれているなど思いもしなかった。

 

 らしくない物言いはどうやら結論のみを言ったせいらしいとわかり胸を撫で下ろす。

 

「甘いわね」

 

「そーだよ、文句ならちゃんと言わないと」

 

 普段アルにダダ甘な2人が何かのたまっている。マルクはそちらへ半眼を向けつつ、オホンと咳払いを一つして話を戻した。

 

「と、まぁそういうわけで聞いとかないとなぁと思ってよ。ソーニャ、なんか展望はあるか?こう戦いたいとかこういう魔術ねえか?とか」

 

「えーと、要は戦いやすような魔術を扱いつつ、魔力を深めて、いずれ闘気も十全に使いこなせるようにしようということだな?」

 

 ソーニャは先ほどの会話を反芻して要点を抜き出す。

 

「うん。その盾は先が打突用に作られてるからそっちに闘気を回して殴りつけるとかも出来ると思うし、その為の土台作り兼実用魔術みたいなものだと思って貰えればいいかな」

 

 噛み砕いてアルが説明した。

 

「むむ、なるほど。しかし、難しいな」

 

 非常に手厚い思いやりだし、ありがたいことだがそう言われてポンと思い浮かぶものなら恐らくアルの魔術講義の際に言っている。

 

「ねえ、あたしが頼んだのは?」

 

「考案中だよ。ちゃんと考えてるから」

 

 凛華がそう言うとアルは苦笑した。年末あたりに頼まれたものだがまだ案が思い浮かばない。

 

「気長に待っとくわ。ソーニャの方よね?ん~、盾飛ばしてみるとかどうなの?」

 

「えっ?いや、しかし盾を飛ばすと回収が大変じゃないか?」

 

 凛華の案にソーニャは真っ当な反論を返す。

 

「帰ってくるようにしたらいいじゃない」

 

「そういう魔術があるのか?」

 

「たぶんないと思うわ。アル、どう?」

 

「ないね。でも面白い案かもしれない」

 

 そんな会話を交わしながらふむむっと顎を擦るアル。いつの間にやら『釈葉の魔眼』を起動していた。

 

「『念動術』か?」

 

 マルクの問いにアルは首を横に振る。

 

「いや、あれは質量軽減を入れちゃうから飛ばしても意味なくなっちゃう。いちいち軽減効果を切りながら振り回すならまだしも」

 

 軽くなった盾を振り回しても風の抵抗を受けてフラフラするだけだ。当たったとしても魔獣の外殻や毛皮、鎧には痛打を与えられない。

 

「それめちゃくちゃ難しいんじゃないの?」

 

 エーラたちもしっかりヴィオレッタの授業を受けてきている。その意見は正鵠を射ていた。

 

「難しいよ。全員分の背嚢に『念動術』をそれぞれ掛けて落とさないように戦う、みたいなもんだね」

 

 術式を弄りながら他にも意識を割くなどそれこそ専用の『気刃の術』を扱っている彼らでも難しい。

 

 彼らが『気刃の術』をきちんと扱えているのは経験の積み重ねと自分の主武器にかかっている専用の術だからというだけである。

 

「それ結構難しいわね」

 

 凛華も難易度に思い至り「ダメかぁ」と背もたれへよりかかった。

 

「そもそもその案自体ソーニャはどうなんだ?」

 

 マルクがそう訊ねる。結局魔術を創っても使いにくければ無用の長物にしかならない。

 

「うーむ、想像がつかんから何とも言い難いが即席の鉄鞭のようなものであれば使えんことはないと思う。魔獣はともかく人相手なら喉元に投げられるし、アル殿がよくやるように目眩ましにはなるんじゃなかろうか?」

 

「意外と好感触なんだな」

 

 絶対凛華がテキトーこいただけだぞとマルクは思っていたが、ソーニャの反応は予想外に良いものであった。

 

「実際、魔術を撃つときいちいちこの剣を振りながら術式を描くのもなかなか疲れるからな。威力もラウラには遠く及ばないし。左と右で筋肉が全然違ってきたくらいだ」

 

「ん?そうなのか?おお、ほんとだ」

 

 そんなことを述べたソーニャの二の腕をマルクが触る。さすがに二の腕にまでは鎧をつけていないため簡単にフニフニとした感触を確かめることができた。

 

「お、おいマルク」

 

 手首の方も確かめていたマルクにソーニャが顔を赤らめて止める。

 

「ん、なんだ?」

 

「・・・変態」

 

 やや言葉遣いが変わったソーニャがそう言うと、ハタとマルクは動きを止めた。

 

「はっ?・・・いや、待て違うぞ。筋肉を確かめただけで―――――」

 

 言い募るマルクとなんだか楽しそうに見えるソーニャを放置してアルは『魔眼』を閃かせる。

 

「迂闊なやつはほっとこ。んん~・・・盾を飛ばす。ブーメラン?は戦闘中難しいよなぁ。反射させるとか・・・も無理。反射?あれ?・・・いやそっちはまた別の魔術かな」

 

 そもそも武器の方の飛来去器《ブーメラン》は戻ってこないシロモノだ。ブツクサ言い出したアルに、隣のラウラがおずおずと口を出した。

 

「アルさん、あの準聖騎士が使ってたみたいに魔力の腕で持たせるとかはどうですか?」

 

「あいつのあれか。面倒なやつだったもんなぁ。斬ってもすぐ発動させてくるし、やたら伸びるし」

 

 ―――――確か・・・『聖霊装』だったか。

 

 懐に飛び込んで腕ごと斬り落としてようやく無力化したものだ。河に吹き飛ばされたときなど不意討ちの左手まで使ってきて厄介極まりなかった。

 

「腕だと魔力の消費が酷そうだよね。鎖にしてさ、こう・・・糸巻きみたいにして伸ばしたりするのはどうかな?」

 

 今度はエーラがラウラの案を多少改良してみる。

 

「それ良さそうね。でも鎖じゃなくても、もっと単純に紐とかでもいいんじゃない?」

 

「帯はどうでしょう?」

 

 凛華とラウラがそんな風に案を出し合った。そこまで聞いたアルは急速に頭を回転させ始める。

 

「ごめんちょっとソーニャの盾の裏見せて」

 

「こうですか?」

 

「うん、ありがと」

 

 ラウラがひょいっと後ろに向けた盾は、縦に長い。騎士盾といった形状だ。先は尖っているが斬り裂くようなものではなく、完全に打突用といった風情をしていた。といってもあんなもので殴られれば流血は免れないだろう。

 

 上から腕を通す革ベルト、下側で握り込むための金属製の持ち手がついていた。

 

「何かできそう?」

 

 エーラがわくわくした表情でアルを見る。ラービュラント大森林の移動中、アルはよくこんなふうに魔族組の意見を訊いて魔術を創っていた。

 

「巻き取り型の魔力の帯にしてみようかと思ってね」

 

「帯にするの?」

 

 凛華もエーラと似たような表情で問う。新しい魔術はいつだって高揚するものだ。

 

「って言っても巻き取るときはこう、拠られて紐みたいになるように弄ってみるつもり」

 

「そこまで複雑だと一から鍵語を並べるのは結構かかりそうですね」

 

「そうでもないよ。基礎は『念動術』の第2術式を転用するからそう長くもかからないから」

 

 ラウラは「なるほど、そうやって基礎を作るんですね」と納得した。アルの講義のおかげで随分と魔術に対して興味を持つようになったようである。

 

 彼女へ楽しそうな笑みを返したアルは右眼を輝かせて中空へ鍵語を並べていく。

 

 

 なおアルと三人娘がそんな話をしている間、夜天翡翠は窓枠で眠り、マルクとソーニャはいつの間にやらいつもの他愛もない会話を繰り広げていた。「イチャついてないでお前らも案出せよ」とは呆れたアルの言である。




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