日輪の半龍人   作:倉田 創藍

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ここでは初投稿になります。読んで頂ければありがたい限りです。


また「小説家になろう。」と「カクヨム」にて同作を連載投稿しております。


現在両サイトにて投稿されているものとこちらに投稿するものは少々文体が違う場合があります。


こちらへは定期的にある程度纏めて更新していく予定です。


2話 記者志望の売り子と魔術談義 (虹耀暦1287年1月末:アルクス14歳)

 アルクス達”鬼火”の一党が魔導列車に乗って2時間半ほどが経過した。先程乗務員専用の停車駅に止まり、また動き出したところだ。

 

 ひと車両分しかない乗降場(ホーム)に先頭車両のみをピタリと停めてみせるという確かな技術力を目の当たりにしたシルフィエーラなど「すごいねぇ!」と興奮しきりであった。かくいうアルクスとて大いに同感である。

 

 精密操車とでも言えばいいのか、魔導機関も含めてまったく見当のつかない技術ばかりだ。

 

 コンコンッ――――。

 

 動き出してすぐに個室の戸が叩かれた。どうやら二等車は材質にもこだわっているらしい。心地の良い木材の響きをさせている。

 

「はい?」

 

 ラウラが扉越しに訊ねるとすぐに若い女性の声が聞こえてきた。

 

「車内販売のお時間でーす。昼食や飲料他雑誌等取り揃えておりまーす。何かご入用なものはありませんかー?」

 

 ハキハキした声で間延びした台詞を吐くというなかなか小器用な声が返ってくる。

 

「どうします?」

 

 振り返るラウラへそれまで弄っていた術式を消したアルが頷いた。

 

「どうぞ」

 

「失礼しまぁす。おや、随分お若いですねー。武芸者の方ですかー?」

 

 カートを引いて入口に立っていたのは橙色に近い赤毛を一括りにした売り子の女性だ。アル達より少々歳上といった頃であろうか。

 

 ほんの少しだけ散っているソバカスが彼女の活発さをよく表している。

 

「ええ、まぁ」

 

 ラウラに代わってアルが答えると、売り子はうんうんと頷き、こんなことを言ってきた。

 

「二等車に乗れるなんてかなり実力があると見ましたよー?」

 

 そう言う割には売り子からこちらを探ろうという気配はまるで感じられない。

 

「滅多に乗らないから奮発してみたんです」

 

 アルはあえてにこやかに答える。背伸びしている風に見せたのだ。しかし売り子は楽しそうに笑って鋭い意見を放り込んでくる。

 

「ふふん、売り子さんを甘く見ちゃいけませんよぉ~?そんな返しをするのは大抵実力のある方々なんですから。お兄さん達、なかなかの強者でしょう?魔族の方もいらっしゃいますし」

 

 己を大きく見せる必要のない者特有の匂いとでも言えばいいのだろうか?そのようなものを売り子は嗅ぎ取ってそう言ったらしい。アルも即座に方針を転換する。

 

「あはは、バレました?実は仕事が上手くいったもので」

 

「なーるほどー、やはりそうでしたかー。私の鼻も捨てたものではないですねー」

 

 胸を逸らして得意げな売り子。

 

「あ、どんな商品があるんですか?お腹ぺこぺこで」

 

「おおっと失礼しましたー。いやぁこの間も無駄話するなーって叱られたばっかりなんですよー」

 

「ははっ、親しみやすそうですもんね」

 

「そう言ってもらえると大助かりですよー。さぁてさて、商品はこちらになりまーす。

 

 ”質より量!”という方ならこちらの牙猪の肉がたっぷり入ったこちらのお弁当、お値段80ダーナ!

 

 ”量より質がいい!でもそんなに食べられな~い”という方にはウィルデリッタルトの牧場で育てられた食用牛肉、こちらがお上品に乗ったお弁当、お値段100ダーナ!

 

 そして最後は”量も質もどっちも欲しい!”そんな方へ、こちらと同じ牧場の牛肉とそして羊肉が入っている贅沢弁当、お値段120ダーナ!

 

 さぁ、どれにしますー?あ、飲み物はこちらでぇす。一律10ダーナになりまーす」

 

 売り子は小気味の良い口上で3種類の弁当と大きめの酒杯の見本を出してきた。

 

 ちなみにこの価格と商品は二等車と三等車限定だ。四等車以降は80ダーナのものが最高グレードとなるがアル達は当然知らない。そんなもんなんだな、くらいの感覚である。

 

 アルはサッと仲間の5名へ視線を向けた。

 

「どれにする?」

 

「俺は最後のやつとお茶」

 

「あたしは二番目と果実水」

 

「ボクも二番目。あ、炭酸果汁で」

 

「私も二番目、あとお茶で」

 

「私もです。うぅん、やっぱり飲み物は果実水にします」

 

「二番目の弁当四つと最後の二つ、それとお茶と果実水、炭酸果汁それぞれ二杯ください。あ、それと乾き物とかありますか?」

 

 アルは即座にまとめて注文する。

 

「毎度あり~。豪気なお客様で嬉しいですねー。一応干し肉なんかは取り扱ってますけど流石にお酒は売れませんよ?帝国法で禁止されてますからぁー」

 

 売り子の言葉通り、帝国法では18歳まで飲酒と喫煙は禁止だ。酒類も取り扱っているが、どう見ても未成年のアル達には見せていなかった。

 

「いえ、コイツにやるんですよ」

 

 アルは首を横に振って、窓枠で己の羽根に埋もれる三ツ足鴉を指す。

 

「おお、使い魔ですかっ!?初めて見ましたよー!」

 

「ええ。大抵のものは食べられるので何かないかと思いまして」

 

「そういうことなら干し肉と・・・あ、煎り豆もありますよ。どっちも全車両共通なので5ダーナになりまーす」

 

「どっちも下さい」

 

「おお、太っ腹なお客さんですねぇ!ちょーっと待っててくださいね。えーと・・・」

 

 売り子はそう言って金属製のソロバンと電卓が混ざったような魔導具を扱い出した。武芸都市でも見たことのある簡易レジスターのようなものだ。

 

「えー・・・はいっ、しめて710ダーナになりまーす」

 

「じゃこれで」

 

 アルは一党の財布から料金を払う。

 

「えー・・・大金貨1枚、大銀金貨1枚、小金貨10枚っと丁度ですね!毎度ありがとうございまーす。あ、そちら側の紐を引っ張ると懸架式の食事台が出ますのでー!」

 

 売り子はそう言ってマルク達が座っている側の上部を指した。

 

「ん?ああ、これそういうやつだったのか」

 

 マルクガルムがグイッと引き出すように紐を引っ張るとカタンという音と共に細長い卓が降りてくる。

 

 売り子はそれを確認すると弁当をラウラとソーニャへ手際よく渡していった。

 

 最後に飲み物と干し肉と煎り豆が行き渡ったところで、売り子が再度口を開く。

 

「さぁてと・・・これで商品は行き届いたと思いますが、お兄さん方がご飯を食べ終える頃に当列車は一度停まるんですよー。今度は点検のためですねー」

 

「あ、そうなんですか」

 

「ええ。つまりまだあと四時間はかかるということになります。そ・こ・で!暇つぶしの雑誌などなど!いかがでしょう?」

 

 アルは苦笑した。妙に商売上手だ。不快感がないだけ余計にタチが悪い。

 

「なるほど。ちなみにどんなのがあるんです?」

 

「よくぞ聞いてくださいましたー!今朝の帝都新聞からどーでもいい貴族の醜聞を集めた週刊誌、その他もろもろ取り揃えておりますが・・・何といってもお兄さん方は武芸者!イチ押しのものがありますよー!」

 

「聞くだけ聞いてみます」

 

 小気味のいいセールストークに面白半分になってアルは訊ねてみた。

 

「ありがとうございまーす!ズバリ!『月刊武芸者』です!」

 

 ババン!と雑誌を見せる売り子。表紙には武器や防具を背景にデカデカと『月刊武芸者』と書いてあった。そこまで厚くもなさそうな雑誌だ。

 

「『月刊武芸者』?」

 

 なんだそれ?そんな顔を浮かべるアルと仲間達――――しかしシルフィエーラだけは違う反応を示す。

 

「あ、そんな感じの表紙、ボク支部で見たことあるよ」

 

 そんなことを言った。伊達にフラフラ見て回っていたわけではないらしい。

 

「さすがは武芸者の方ですね!これは武芸者協会の広報担当の方とアウグンドゥーヘン社という出版社が提携して出している武芸者のための情報雑誌なんです!

 

 今話題の武芸者から三等級以上の一党の活躍なんかが載ってたりするんですよ!協会の審査も入るのでいい加減な情報は一切なし!

 

 最近帝都で話題の魔導写影器を使った近影なんかも載ってます!といってもあんまり写りたがる方がいらっしゃらないんですけどね。巻末にはお尋ね者の似顔絵なんかも載ってるので必携ですよ!」

 

 売り子は凄い勢いで捲し立ててきた。弁当のときと熱量が違う。

 

「そ、そうなんですか」

 

 完全に引いているアル。なんだかよくわからない情熱を理不尽にも叩きつけられた気がする。

 

 ―――――もしやそのアウグンドゥーヘン社とやらの・・・。

 

「回し者ではありませんよー」

 

 ―――――思考を読まれた?何者だコイツ。

 

 アルがそんなことを考えているのも顔に出ていたのだろう。売り子は語り始める。

 

「私はウィルデリッタルト出身なんです。ウィルデリッタルトって帝都の次に武芸者が多いんですよー。そんなとこで育ってきたら当然身近にいる武芸者の方々に憧れを抱くじゃないですか。でも私自身は運動音痴、絶対なれない。

 

 じゃあどうしようって思った時に『月刊武芸者』に出会ったんです。上級武芸者の方々の活躍が書いてある雑誌なんて今までありませんでしたから、それはもう熱心に読んでました。

 

 で、読んでいく内にいつしか読むだけじゃなくて自分で武芸者の方へ取材して、広報さんと話して記事を書きたい!と思ったんです。だから今こうして帝都までの渡航費用と生活費用を貯めてるんですよー」

 

 一気に身の上を語ってきた。いきなり夢を語られたアル達は何と返せば良いのかわからない。ソーニャなど呆気に取られている。

 

 ―――――もう飯だ、飯食おう。

 

 逸早く復帰したアルはそう思って話を切りにかかった。

 

「・・・そう、なんですね。俺達もいずれは帝都に行く予定ですし、もしかしたらその出版社で働いているお姉さんとどこかでバッタリ会うかもしれませんね」

 

「おおっ!そうだったんですね!」

 

 ―――――なんか余計盛り上がってしまった。

 

 アルは慌てて舵を切り直す。

 

「ええ、そのときはよろしくお願いします」

 

「はい勿論!・・・で、買います?こちらお食事と違って定価なので大変お安くなっておりますけど」

 

 ―――――なんちゅう強かな売り子だ。

 

 アルは頬をヒクヒクさせながらもういいやと思い財布を開いた。

 

「えーと、買います。いくらです?」

 

「15ダーナになりまーす!」

 

「どうぞ」

 

「毎度ありがとうございまーす!あ、オススメは『注目!新進気鋭の新人一党達!』の欄ですよ」

 

 聞いていない。

 

「・・・そうなんですね。食べたら読んでみます」

 

「面白いんですよー!ちなみに私の注目は”鬼火”の一党です!」

 

 売り子の言葉で場が一気に凍り付いた。空気になろうとしていた仲間達は身動ぎ一つしない。『月刊武芸者』を受け取っていたアルは今度こそ頬を引きつらせる。

 

「そっ、うなん、ですね。へぇー・・・」

 

「そうなんですよー!全員が二つ名持ちの若手一党なんですよ!実力も折り紙つき!あ、この列車に乗ってるってことはお兄さん方もウィルデリッタルトにいらっしゃったんですよねー!?何かこう、話とか聞いたことありますか?」

 

 ―――――これは・・・迂闊に返せば長くなる。

 

 何といっても推しの話だ。長くならないわけがない。アルは白目を剥きながら白を切ることにした。

 

「いやー・・・俺達も長くいたわけじゃないので」

 

「そうですよね!ってあっ!申し訳ありません!長々と!」

 

 ―――――ホントにな。

 

 そう返してやりたい気分のアルである。

 

「いえいえ、興味深い話も聞けましたし」

 

「そう言って下さるとありがたい限りです!ではではっ!ごゆっくりー」

 

 売り子はそう言って個室の戸を閉めて行った。アルはそれを見届けてから眼前の卓へバタンと突っ伏す。

 

「お疲れさまでした」

 

 ラウラの労いが沁みる。

 

「ごめんねぇアル。なんか余計なこと言っちゃいそうで」

 

 髪を撫でてくるエーラにされるがままアルはもう寝ようかなとか考えていた。

 

 ―――――気疲れした。

 

「ほらアル、食べましょ。せっかく贅沢弁当とやらにしたんだから食べなきゃ損よ」

 

 凛華に背中をポンポンとされてようやく起き上がる。

 

「強烈な御仁だったな」

 

「悪意がない分、邪険にするのも憚られるしな」

 

 ソーニャとマルクはそんなことを言った。初めて会うタイプの人間だ。

 

「うん・・・もう食べよ。あ、羊肉って言ってたっけ。凛華たちも食べてみるだろ?」

 

 アルはそう言って弁当を開く。贅沢という名の通りぎっしりと肉が詰まっている。

 

「そうね、ちょっと貰おうかしら」

 

「どんなんだろね」

 

「幼い頃に食べたことがあったような気がします」

 

「あー・・・あった、ような気がするな」

 

「俺のも蓋に置くから好きに取れよ」

 

 そんな会話をする仲間達のおかげで急速に和やかな雰囲気になっていく。魔導列車が点検のため停車した時は、6名は楽しい食事の時間を終えて夜天翡翠へちびちびと干し肉と煎り豆を上げていた。

 

 ちなみにわくわくしていたエーラは羊肉の臭いが苦手だったらしく一口食べてそれっきり手をつけず、凛華とラウラは割合平気らしい。

 

 ソーニャも苦手だったのを思い出したらしく、記憶が薄かったのもそのせいだったようだ。

 

 なおアルとマルクは臭いなんぞ知らねえとばかりにがっつき、ちょっと貰った夜天翡翠も平気そうに食べていた。

 

 

 ***

 

 

 食後のまったりとした雰囲気が流れる中、マルクは思い出したようにアルへ問うた。

 

「アル、そういや術式どうなったんだ?雛型くらいできたか?」

 

「・・・・・」

 

 散々イチャついておいてこの言い様である。アルの視線も尖ろうというものだ。

 

「悪かったって」

 

「す、すまんアル殿」

 

 正しくアルの視線の意味を理解したマルクは手を合わせて謝罪し、ソーニャも続いた。

 

 言い出しっぺと術を扱う本人のくせに案も出さずに戯れていたという自覚程度はあったらしい。もっともイチャついていたと言うと否定するだろうが。

 

「・・・まぁ雛型はできたさ」

 

「えっ、できたんですか?」

 

 アルが口を尖らせて答えるとラウラはびっくりしたような顔で視線を向けてきた。魔術をしっかり学び始めた彼女にとって、2時間ほどで新しい魔術を創るというのはやはり驚くことのようだ。

 

「大森林にいた頃はよくこんな感じで創ってたわね」

 

 凛華は「もう数か月も前かぁ」と感慨深げに言う。

 

「どうなったの?見せて見せて!」

 

 エーラはわくわくしたような表情だ。

 

「いいよ。簡易版でやってみる」

 

 アルはそう言うと左手の人差指と中指でグルグルと鍵語を描き、フレームのみで出来たゴツい手袋のような術式へ手を通した。次いでグッと握り込む。

 

 すると魔術が起動し、手の甲に魔力で出来た滑車のようなものがポコッと浮かび上がった。滑車はカラカラと回転している。

 

「おおっ!それが新しい魔術か」

 

 ソーニャは瞠目した。

 

「滑車みたいね」

 

「うん、原型はこんな感じ。本チャンはもっと小手みたいにするつもりだよ」

 

 あくまで雛型。運用するならもう少し煮詰めないと危なっかしくて扱えない。

 

「どうやって使うんでしょう?」

 

「あ、そうだよ。使って見せて」

 

 ラウラとエーラは興味津々といった様子で催促する。

 

「いいよ、えーと・・・あ、これでいいか」

 

 アルはきょろきょろと周囲を見渡したあと、口をしっかり閉じている一党の財布を引き抜いた。中は硬貨が詰まっている。

 

「そーれっと」

 

 アルはそのまま財布を扉の方へポイっと投げ、

 

 カラカラカラカラ―――――

 

 そんな音と共に滑車から細い帯を伸ばして財布を掴んだ。

 

「「「「おお~」」」」

 

「ちゃんと形になってんな」

 

 帯は先の方になればなるほど広がっており、滑車の方にいけばいくほど紐のように撚られている。

 

 アルは中指を掌につけるようにしながら手首をしゃくりあげる。

 

 カラカラッ――――。

 

 滑車が廻り、財布を掴んでいた帯が急速に紐へと戻って行きながら巻き取られていき、やがてアルの元へ戻って来た。

 

「凄いな!今のだけでもなんとなく運用方法がわかるぞ!」

 

 ソーニャが興奮気味に感想を述べる。つまりああやって盾を咄嗟に投げるなりなんなりして巻き取り機で回収しながら戦うということだろう。

 

 扱えるかはわからないが、即席の鞭にはなりそうだ。

 

「で、術理は?」

 

「うんうん、ボクも知りたい」

 

 凛華とエーラは冷静だ。アルはヴィオレッタの直弟子。かの師から教わる魔術は定型術式以外すべて術理や仕組みを正しく理解していないとまともに運用できない。

 

 理論と想像、そのどちらもが必要なのだ。

 

「私も気になります」

 

 ラウラの反応も彼女らに似ていた。一筋縄でいかないのがアルの術式だ。軍用術式とは違ってビッシリと埋まった術式でない分応用が利く。が、代わりに術式理念を理解していないとただ発動しただけに成り易い。

 

「これは帯の形をした腕なんだ」

 

 アルは核心を告げた。鞭のように見えるが詰まるところ腕なのだ、と。

 

「腕っつーとあの準聖騎士の右手みたいなもんか」

 

 マルクは以前戦った聖国の追手を思い出す。魔力の腕と言われていの一番に思い浮かぶのはそれだった。

 

「感覚はそんな感じ」

 

「帯の形になっているのはどういった理由だろうか?」

 

「想像しやすいからかな。こうやって()()()ちゃったときでも戻しやすい。鎖とか紐だと捻じれてるかどうかもわかんないし、取り落としそうだからね」

 

 ソーニャの質問にアルは再度財布を上へ投げながら帯の手で掴み、そのままクイッと手首を内側に捻った。

 

 財布を掴んだ魔力の手が連動するように捩れる。次に外側へ捻ると捩れていた帯は元に戻った。

 

「なるほど、確かに想像はつきやすいですね。『念動術』の第二術式を転用したってそういうことですか」

 

 ラウラは深く頷く。この想像という部分が魔術において案外重要なのだ。突拍子もない仕組みや身体と連動していない動きは発動した魔術との()()を生む。

 

 戦闘中なら尚更だ。『念動術』の見えない腕で掴むという効果を下地にすると言っていたことがラウラには真に理解できた。

 

 結局のところ、鎖付きの分銅ではなく伸びる腕として活用させようとしているのだ。

 

「そういうこと。鎖とか紐の本数を増やしても良かったんだけど、それだと使用魔力が増えちゃうし、それなら最初から太めの縄にしとこうと思ってね」

 

 アルは中指で掌を叩いてカラカラと財布を回収する。

 

「だから巻き取るときは紐状なのね。帯に色がついてたのは理由があるの?ただ見やすくしただけ?」

 

「そだよ。完成して、ソーニャが使い慣れてきたら見えなくしてもいいかもしれない。けどやっぱりそれだと俺達がわかんないから、帯は見えなくしてもいいけど籠手部分は残してた方が良いかも」

 

 凛華に頷きながらアルは魔術を解いた。

 

「拡張性は?アルの得意なのってそういう術式でしょ?」

 

「一応質量増加効果と他の魔術との併用は考えてるよ。いずれは闘気を纏わせてもいいだろうね」

 

 エーラの質問に当然のようにアルは答える。師匠がヴィオレッタなのだ。ただの伸びる腕で終わらせるつもりなどない。

 

「増加効果か、威力は上がりそうだが―――」

 

 マルクは考え込んだ。正しく扱えるなら防具兼武器が一つ増えるということになる。

 

「うん、重くなるか元に戻るかしか考えてないから腕力によるね。あいつの左手みたいなもんだよ」

 

 あいつの左手―――準聖騎士が使っていた全く見えない魔力の左手だ。あれも聖霊装だと聞いたが、右腕と違って威力そのものはあの騎士に依存していた。

 

「なるほどな。ソーニャ、アルは簡単に言ってるがそこそこ難題だぜ?」

 

 アルなら現段階でも問題なく扱えるだろう。魔族組も慣れさえすれば同じく難しくはないはず。しかし、ソーニャにそこまでの技術はまだない。

 

「うむ、修練を積むしかないな」

 

「問題ってあるの?」

 

 アルの龍鱗布をクイクイ引っ張りながら凛華が問う。魔術は便利だが、どんなに完璧に見えても万能ではない。ヴィオレッタから教わったことだ。

 

「人相手にしか使えないし、いきなりやっても盾を失う。俺達なら間違いなく弾き飛ばす。狙いどころも大事だし、魔力の腕を切られたときも咄嗟に繋ぎ直せるくらいに術に慣れてないと防具を投げ捨てただけになる」

 

 製作者のアルもしっかり問題点は把握している。投げるなり殴りつけるなりするにしても外皮や外殻の硬い魔獣相手では闘気でも使わない限りほとんど効果がないと見た方が良い。

 

 また、人相手に投げつけても反応できる者には簡単に対処されると予想される。

 

 更には術理を見抜かれるなり巻き取りを見られるなりして()を絶たれた場合も視野に入れていなければ致命的な隙を晒すことになってしまう。

 

「ええっと、つまり―――」

 

 ラウラは唇に指をあて、

 

「術に慣れてて」

 

「投げる場面を選ぶだけの目が必要で」

 

「現状人相手に狙うなら急所か関節」

 

「そんな感じだね」

 

 エーラ、凛華、マルクの順番に要点を挙げた。アルは首肯する。それ以外では効果がひどく薄くなるはずだ。

 

「ううむ、難易度は高そうだがそれなら剣との併用も可能なんだろうな」

 

 ソーニャは難しい顔をした。

 

「言っちまえば剣と盾の二刀流みたいなもんだからな。向いてなさそうなら先に言えよ。変な癖がついちまう」

 

「うむ、試してみてから言うが・・・土壇場で私は剣に頼ろうとするからな。魔術も扱える近接職を目指すのが良さそうだ」

 

「ボクらも手伝うよ」

 

「そうね。戦い方も変わってくるだろうし」

 

「どういう戦い方が良いんでしょうか?」

 

「うーん、とりあえず完成させてから考えようと思ってたけど―――――」

 

 6名はその後目的地に到着するまで、魔術論議を繰り広げていく。

 

 属性魔力を纏わせるのはどうか?

 

 術式そのものに連結用の鍵語を組み込んでおいて伸ばした盾から魔術を放てるようにしたらどうか?など。

 

 ターフェル魔導学院の生徒でも卒業間際の、将来の魔導師候補と目される生徒達のような会話であった。

 

 

 それから数時間。彼らが話し込んでいる内に、魔導列車は目的地である山岳都市ベルクザウムに辿りつくのであった。




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