日輪の半龍人   作:倉田 創藍

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ここでは初投稿になります。読んで頂ければありがたい限りです。


また「小説家になろう。」と「カクヨム」にて同作を連載投稿しております。


現在両サイトにて投稿されているものとこちらに投稿するものは少々文体が違う場合があります。


こちらへは定期的にある程度纏めて更新していく予定です。


3話 山岳都市ベルクザウムと四半獣人レオナール (虹耀暦1287年2月:アルクス14歳)

 アルクス達”鬼火”の一党の6名と1羽は武芸都市ウィルデリッタルトから魔導列車に乗って、何事もなく山岳都市ベルクザウムに辿り着いた。

 

 辿り着いた頃はすっかり日が暮れ始めた頃。都市付近は雄大な山々が連なる山脈の影響で雪が降り積もっている。

 

 これは急がなければということで駅員に聞いたオススメの宿をどうにか取って温かい夕食にありつくのだった。

 

 

 山岳都市ベルクザウムは、年がら年中雪の帽子を被っている山々から裾野にかけて造られた都市だ。

 

 夏場でも涼しく、帝国貴族のみならず一般市民たちにも避暑地としても有名である。この時期は雪が都市内にも深く降り積もっており、雪かきをしている住民の姿がどこでも見ることができる、白や銀という色彩のイメージが強い都市だ。

 

 都市を治めているのはアルクスの叔父トビアス・シルトと同じ爵位の伯爵家で、その面積はウィルデリッタルトの5分の3程度。都市というより街といった方が感覚としては正しかったりする親しみやすい土地である。

 

 避暑地としての観光業及び寒冷地にのみ育成できる農産物の生産などが盛んで、武芸都市のような熱気染みた活気はないが、その代わりにゆったりとした時間を過ごせそうな静けさや和やかさを感じる豪雪地域だ。

 

 

 アル達が到着して早二日。都市そのものが埋もれたような真っ白な世界や麓の方まで真っ白な山は彼らにとってあまり馴染みのないもので、到着した翌日はその雪景色に目を奪われ、結局ベルクザウム内を散策して回ることになった。

 

 ほんの僅かな月光や光源さえ照り返してくる()()()()はなかなかオツな光景だ。物珍しそうに観光して回ることになるのだった。

 

 

 現在はその更に翌日、暖かな木造りの食堂で朝食を摂っている最中だ。

 

「それで、今日は依頼に行くのか?」

 

 斜め向かいにいたソーニャの質問に、熱々の煮込み料理(ブラウンシチュー)を麦蒸餅《パン》と一緒に呑み込んでいたアルはコクコクと肯定を返す。

 

 そのまま口内のものをゴクリと嚥下して喋り出した。

 

「んぐっ。どんな依頼があるか見てみようと思って。良い具合のがなかったら訓練だね」

 

「テキトーなの受けるんじゃないの?」

 

 武芸都市にいた頃と微妙に違う方針に刻んだ冬野菜入りの卵料理(オムレツ)をハムっとしながらシルフィエーラが隣の頭目へ視線を向ける。

 

 これまではあまり依頼の難易度だの報酬だのを気にして請けている様子はなかったからだ。

 

「報酬はわかるけどよ。その感じだと推奨等級もだろ?」

 

 その向かいにいたマルクガルムは豪快に麦蒸餅(パン)を食いちぎって訊ねてきた。アルの言い方からして受注等級の最低ラインを上げるような響きを感じ取ったのだ。

 

「そっ。この天候と寒さだと低報酬の依頼を請けても物が嵩むし、ずぶ濡れになりそうだし。トントンか赤字なら動かない方がマシだろ?推奨等級が低過ぎるのをとっても成長しないって教わったからね」

 

 左肩にいる夜天翡翠へ千切った麦蒸餅と芋を食べさせながらアルはそんな返答を寄越す。

 

 ちなみに推奨等級について教えてくれたのは『黒鉄の旋風』頭目レーゲンである。曰く、大して経験にもならない実績を積み重ねても一党として()()()ならないとのこと。

 

「赤字だとお金も減っちゃうだけですもんね」

 

 ラウラはまだ若干眠いのかアルの向かいで「フー、フー」と黒胡椒の効いた汁物《スープ》を冷ましながらポーっとした声でそう言った。

 

 武芸都市にいた頃と違い、衣食住すべてにお金がかかる。マイナスになるのなら動かないというのも正しい選択だろう。

 

「いーんじゃない?ソーニャの新しい魔術も完成したばっかでしょ?」

 

 アルの隣でキノコと燻し豚(ベーコン)米料理(リゾット)をモソモソ食べていた凛華はそんなふうに賛同する。こちらもまだ眠気はまだ残っているらしい。

 

 なおアルが先程から視線を向けているのは米料理が思いの外美味しそうだからである。そっちにすれば良かったかも、などと軽く後悔していた。

 

「てわけだから、んむっ・・・あ、おいし。じゃなくて今後はその方針で依頼を請けることにする」

 

 見かねた凛華が「ん」と差し出してきた木匙に躊躇いもせずパクッと食いついてアルはそう締めくくる。仲間達5名と肩の1羽は頭目の判断に特に異論もなかったので素直に頷くのであった。

 

 

 ***

 

 

 武芸者協会ベルクザウム支部に来たアル達6名と1羽は掲示板の前にいた。ここに張り出してある依頼書を取って受付に行くというシステムはどの支部でも共通だ。

 

 防寒着を着込んだ彼らには少々ここは暑い。特に女性陣は耳当て(イヤーマフ)までしているので尚更だろう。

 

 

 昨日の散策中、以前ドラッヘンクヴェーレで頭巾(フード)を被っていたエーラを思い出したアルが服屋で見つけて贈ったものだ。

 

 可愛らしく「ありがとーっ」と喜ぶ森人にニコニコしていたら凛華とラウラまで欲しがり、「まぁ別にいいか」と一党の財布から買うもなぜか2人の反応は微妙だった。

 

 ついでにソーニャの分も購入して渡すと思いの外暖かかったのかマルクに自慢し始めたが自前のものがある人狼は微妙な顔で彼女をあやすのだった。

 

 ちなみにアルは気配察知が鈍るという理由で、マルクは面倒だという理由でつけていない。

 

 むう、と考え込むような顔で掲示板を眺めるアルに凛華がとある依頼書を指す。

 

「これなんていいんじゃない?なんだか知らないけど推奨等級は五等級以上よ」

 

「えーと・・・シラユキオオヤマネコの保護?捕獲じゃなくて?」

 

 そこに載っているのは都市郊外の牧場にシラユキオオヤマネコが出たので保護してほしいという依頼だった。

 

「名前は魅力的だね!てか凛華~?この魔物?獣?が可愛いかもと思ったから言ったんでしょ?」

 

「そうよ」

 

 エーラの問いに凛華は堂々と頷く。趣味と仕事が混ざっているし、些か趣味の方が強くないだろうか?アルは思わず半眼になった。

 

「魔物なんでしょうか?」

 

「捕獲じゃねえ理由は何なんだ?」

 

「どこかにいたのが逃げたとか?」

 

 ラウラ、マルク、ソーニャはそれぞれ憶測や疑問を口にする。

 

「馬鹿共に乱獲されてるんだよ」

 

 すると背後から急にそんな答えを貰った。

 

「えっ?」

 

 6人が振り向くと苦々しい顔をした獅子を思わせるたてがみのような髪ときっちり整えられた髭の中年武芸者が立っている。

 

 『黒鉄の旋風』の6名よりも10歳以上は年上だろう。気配に気づいてはいたが妙に薄い。見た目のインパクトとちぐはぐだ。

 

 胸に提げている認識票は個人三等級。一党は組んでいないらしい。アルは三等級とよくよく縁があるなと思いつつ問い返すことにした。

 

「乱獲とはどういうことでしょうか?ここに着いたばかりであまり事情を知らなくて」

 

「そうだろうな・・・・って個人四等級か。魔族がいるのはわかっちゃいたが・・・」

 

「・・・・・」

 

 アルの認識票を見た男はそんな風に驚き、すぐに話を元に戻す。

 

「っとすまん。シラユキオオヤマネコってのは大人しい魔物でな。見た目も猫をそのままデカくしたみたいな感じなんだが、真っ白で綺麗な毛皮をしてんだ。好事家共がその毛皮を欲しがって乱獲されたせいで今は数が激減しててな。十年以上前に帝国が保護を決めたんだよ。でもまだタチの悪い密猟者共と買う屑共がいやがるのさ」

 

「つまりそんな連中から守ってくれって依頼ね!」

 

 すっかりシラユキオオヤマネコに同情した凛華が憤然とした表情になった。

 

「ああ、そうだ」

 

「保護した場合どうなるんでしょうか?」

 

「帝国の北西部にそういう絶滅危惧種を集めた自然保護区がある。そこに送られるのさ。あ、ちなみに殺したりすれば重罪だぞ」

 

 ラウラの問いに男はしかめつらしい顔でそう答える。

 

「なるほど。じゃあ早い方が良さそうですね」

 

 アルはそう言って依頼書を剥がしにかかった。こういった情報収集は武芸者同士のやり取りとしてよくあることなのだが、マルクは向き直らず男を見つめたまま訊ねる。

 

「あんた何者だ?匂いが人間と少し違うぞ」

 

「・・・鼻が良いんだな。もしや君も魔族か?」

 

「人狼族だ」

 

「納得。君の言う通り正解だよ、俺は四半獣人なんだ」

 

 男は苦笑して答えた。四半獣人―――獣人の血が4分の1入っているほぼ人間と言ってもいい存在だ。マルクはその微妙な違いを嗅ぎ取ったらしい。

 

「四半獣人?魔力は普通なのに妙に気配が薄かったのはそういうことだったんですね」

 

「そっちの君も魔族だったのか。妙な感覚だからわからなかった」

 

 男はアルの方へ視線を向けた。人間とも魔族とも取れる感覚を覚えていたのだ。また男が魔力でアルを魔族だと判断できなかったのは決して無能だからというわけではない。

 

 アルから流れ出ている魔力は基本的に8割ほどが『八針封刻紋』の常時起動用として吸われている。要は戦闘中でもない限り、生体魔力感知を使ってもアルからあまり大きな魔力を感じないということだ。

 

 以前ヴァルトシュタットでダビドフ・ラークがアルを魔族だと判断したのは魔力の質を感じ取り、尚且つ提げている刀を見たからである。

 

「ええ、まあ」

 

 アルは曖昧に答えた。半龍人だとホイホイ言うほど口は軽くない。それは仲間達も同様である。

 

「そうかい。そっちのお嬢さん方は流石に人間だよな?」

 

「ええ」

 

 アルはラウラとソーニャの代わりにさらっと答えた。長期依頼の護衛任務は継続中だ。四半獣人の男は言いにくそうに口を開く。おずおずとしているとも言えるが、マルクよりも頭一つ以上背が高く、胸板も分厚い男のする仕草としてはあまりにも似合わないものだった。

 

「だよな。見誤ったかと思ったよ。あー・・・で、そいつ請けるのか?」

 

「そのつもりですけど、何かありましたか?」

 

 ―――――問題でもあっただろうか?

 

 アルは男から敵意や嫉妬といった視線を感じなかったため、不思議そうな顔をして問う。

 

「いや。誰も請けないなら請けようかと思っててな」

 

「あ、ええと・・・」

 

「いや、請けるならいいんだ。保護依頼なら支部に言えば檻付きの荷台を貸してくれるぞ」

 

 申し訳なさそうなアルへ慌てて男は手を振って、親切にもそんな情報を付け加えた。

 

「ありがとうございます?」

 

「ハハ、それは支部に言うといい。それじゃあな」

 

 軽く頭を下げるアルへ男は後ろ手を振って立ち去って行く。

 

「えーと、とりあえず・・・請けに行くか」

 

「ええ!」

 

「行こー行こー!」

 

「シラユキオオヤマネコ、ちょっと楽しみです。蛟を思い出しますね」

 

「あんなに大きかったら私には無理かもしれん」

 

「ありゃさすがに別格だろ」

 

「カァー」

 

 そんな会話を交わして、”鬼火”の一党は受付へと足を向けるのだった。

 

 

 ☆★☆

 

 

 四半獣人の男は受付に寄り掛かって顔見知りの職員へ声をかけた。

 

「なぁ、あいつら大丈夫かね?」

 

 不安そうな瞳には独特の縦に楕円形の瞳孔が浮かんでいる。

 

「レオナールさん。彼らとお知り合いだったんですか?」

 

 受付職員は驚いたような顔で訊ねた。この四半獣人の男はこの都市で長年武芸者をやっているベテランだ。大抵の職員とは顔見知りである。

 

「さっき話したばっかりだよ」

 

「では依頼の内容を知っていると?」

 

「ああ、シラユキオオヤマネコの保護だろう?」

 

「彼らに何か不安でもありましたか?」

 

「いや・・・あいつら、強いだろう?人間のお嬢さん二人以外は特に」

 

 四半獣人の男―――レオナールが嗅ぎ取ったのはマルクと同じく匂いだ。強者特有のナニカ。

 

 あの人間の少女達からも一瞬とは言え人間か判断に困るくらいの魔力を感じ取っていた。

 

「そりゃあ強いと思いますけど・・・それが何か不安でも?」

 

「あいつら保護依頼とかやったことなさそうでな」

 

「・・・・ああ、なるほど。レオナールさんの言いたいこと、理解できましたよ」

 

 職員は「ははぁ」と頷く。

 

 レオナールの不安とは・・・強いがゆえ討伐などの戦闘系依頼ばかりで他の繊細な依頼を力任せに解決してしまわないだろうか?というものだ。

 

 特に保護対象の動物はそんな気がなくとも殺してしまえば重罪。彼らは大丈夫だろうか?と考えたのである。

 

 しかし職員はすぐに返答を寄越した。

 

「ですが、問題ないと思いますよ?」

 

「ん?何か知ってるのかい?」

 

 確信めいた職員の言葉にレオナールが眉を軽く上げて問うと、

 

「レオナールさんは『月刊武芸者』読んでますか?」

 

 と問い返される。

 

「ああ、新聞とそいつは読んでるが・・・」

 

 意味が分からないままレオナールは肯定を返した。

 

「でしたら”鬼火”の一党って聞き覚えはありませんか?」

 

 再度の問いかけ。レオナールは読んだばかりの記事を思い返しながら答える。

 

「ある。ドラッヘンクヴェーレの十叉大水蛇(とおまたのおおみずち)を捕獲しようとしてた”叛逆騎士”を『黒鉄の旋風』と組んで止めたり、ゼーレンフィールンの魔獣侵攻を食い止めた立役者って言われてる注目株の新人だろう?確か全員に二つ名がって・・・・おいまさか」

 

 レオナールが職員の方を向けば、

 

「彼らがそうです」

 

 したり顔で彼は首肯した。

 

「・・・まじかよ。若過ぎるだろう」

 

「でも登録情報に間違いありませんよ」

 

「それじゃ、あいつが”鬼火”か」

 

 レオナールの視線の先には、仲間へ向けて今回の方針を話しているところのアルクスがいる。

 

「シラユキオオヤマネコは夜行性らしいから、一回宿戻って仮眠とっとこう」

 

「夕食は?」

 

「食べてから出る」

 

「荷台はいいけど馬どうする?ボクら乗れないよ?」

 

「ラウラは馬扱えるんじゃない?」

 

「一応扱えますけど、御者台は初めてですよ?」

 

「私もそうだな。そもそも馬術はラウラの方が上だ」

 

「とりあえず先に試して無理そうなら運ぶ人だけ雇うか・・・マルクが引っ張るかだね」

 

「おい」

 

「冗談だよ。ていうか人狼だとシラユキオオヤマネコが怯えそうだね」

 

「あー・・・案外あるかも」

 

「そもそもどうやって捕まえるんだ?」

 

「生肉でも持ってって炙ってみる?」

 

「それくらいしか思いつかないけど、雪降ってるし最悪凛華が冰の檻を作れば良いんじゃない?」

 

「それなら言いなさい。当てないようにちゃあんと作ってあげるわ。その後モフモフするのよ」

 

「そっちは保護してからにしなよー」

 

「ま、一旦支部出ようか。いい加減それ暑いだろ?」

 

「そうね!出ましょ」

 

「ボクはそこまでだけどなぁ」

 

「やっぱ凛華は耳当て要らなかったんじゃない?」

 

 6名はそんな会話を交わしながら支部の建物を出て行く。肩にいるのは使い魔だと思っていたがよくよく見れば三ツ足鴉―――魔獣だ。レオナールの目には何とも底の知れない若者達に見えた。

 

「ね?期待できるでしょう?」

 

「他の適当な雑誌ならともかく『月刊武芸者』に載ってたしなぁ・・・」

 

 武芸者協会の広報が審査した上で発行されている『月刊武芸者』はその辺のゴシップ誌と比べても信頼度が圧倒的に違う。

 

 何せ元々協会が対外的に活躍を広める為に依頼して発行された専門誌なのだから。書いている事実がほぼ全て真実だと思って良い。

 

「ええ、ですから期待しておきましょう」

 

 職員の言葉にレオナールは肩を竦めつつも賛同するのであった。

 

 

 ***

 

 

 結論から言うと、依頼は成功だ。アル達”鬼火”の一党は出て行った翌朝、当たり前のように帰ってきた。わざわざ防壁の築かれていない山側を通って戻ってきたらしい。

 

「二匹が成体で残りは幼体三匹。親子ですね」

 

 アルはそう報告する。職員は支部の外で、貸し出した荷台の上でモフられているシラユキオオヤマネコの成体と「可愛い」と連呼されながら抱き締められている幼体を見て期待通りだったと胸を撫で下ろした。

 

 レオナールにああ言った手前ちょっと不安だったのだ。そのとき、成体の右前脚に巻かれている癒薬帯が目に入る。

 

「怪我していたんですか?」

 

「させられてたんですよ」

 

「させられてた!?」

 

 荷台と馬を離してやりながら寄越されたマルクの返答に職員は驚愕した。そしてすぐに荷台のすぐ後ろにやたらと頑丈そうだが小さめな檻が繋がれていることに気付いく。あれは支部のものではない。

 

「この者達、密猟者の仕業です」

 

 先程まで幼体のシラユキオオヤマネコを可愛がっていたラウラが嫌悪感も露わに視線をやる。”姫騎士”―――ソーニャの視線も非常に冷たかった。

 

「そーらよっと」

 

 ザア――――ッ。

 

 面倒だと言わんばかりにマルクが小さな檻の方を蹴って滑らせる。中には真っ白な毛皮を着込んだ男達がぎゅうぎゅうに詰められていた。

 

 よく見れば檻の隙間が一部を除いてすべて凍っている。空気穴だけ残し鮨詰めにしたような感じだ。

 

「この毛皮はもしや―――シラユキオオヤマネコの」

 

「やっぱりそうでしたか。これ被って油断させてたみたいです」

 

 職員の言葉に首肯した”鬼火”の一党頭目が次いで報告する。

 

「おまけにバレたら炎浴びせるんだからサイッテーだよね」

 

 エーラは怒りを隠そうともしない。アルがその背中をぽんぽん叩いて宥めた。

 

「あ、この連中、凍ってるけど一応生かしてあります。どうしたらいいですか?」

 

 檻を凍らせた張本人―――凛華が問う。ちなみに幼体を捕まえた密猟者達に激昂した凛華が一気に凍らせたせいで熔かす方が大変だった。

 

「すぐに憲兵を呼んできますので!」

 

 依頼していたベルクザウムの環境課の役人達が慌てて人を呼びに行く。

 

「あ、依頼書を」

 

「すぐに署名いたしますので」

 

 手渡された依頼書をその場で署名してもらい、アルはそのまま職員へ手渡した。これにて依頼達成である。

 

「さーて宿に戻ろう。お腹減ったし」

 

「そうだなぁ。でもまずあれどうにかするしかねえんじゃね?」

 

「カア?」

 

 親友の言葉と肩の三ツ足鴉の鳴き声にアルが視線を向けると、そこにはシラユキオオヤマネコといまだ戯れている女性陣4名の姿があった。

 

 シラユキオオヤマネコは体躯自体はシュッとしているのに、ふわふわの綿毛のような真っ白い毛皮を持つ大型のネコ科の魔物。当然、非常に愛くるしい。

 

 気持ちはわかるがもう眠いアルは、親友へ声を掛けてみた。

 

「あー・・・・・マルク」

 

「断る」

 

「まだ何も言ってないだろ?」

 

「あいつら呼ぶのは頭目の仕事だろ」

 

「もう放置して帰ったら・・・」

 

「後でイヤミ言われるぞ。特に凛華とエーラから」

 

「・・・わかったよぉ、行けばいいんだろ行けばぁ」

 

 アルが眠気で目を瞬かせながら女性陣を呼びに行く。何とも面倒臭そうな背中だ。

 

 

 そんな彼ら一党をレオナールは納得の表情をして眺めていた。どうやら『月刊武芸者』の書いていることは事実であるらしい。

 

 密猟者と戦闘になったようだが、緊張感の欠片も残していなければ興奮した様子もないのは、彼らがそれだけ修羅場を潜り抜けてきた証だ。

 

 山岳都市のベテラン武芸者レオナールは新時代の風を感じつつ、武芸者として血が滾る感覚を覚えるのであった。




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