何も知らない鳴坂和人くん(22)   作:スティック/糊

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誤字報告感謝です

昨日一瞬投稿したアレはマボロシ、いいね?


キリトとリスポーン

 水曜日。

 

 

 恩師である重村教授との医療器具の外部ツール開発の打ち合わせ。

 会話すると分かるあの人はヤベー。

 ナチュラルに頭の回転がヤベー。

 

 本気の教授と相対する時は外部補助の秘密兵器がないときついまである。

 

 サンキューライトキューブ。

 

 

 

 

 思考がバケモンレベルと会話するにはちょっと加速すると仕事が捗るから仕方がないね。

 ……過去の実験の事故で変な後遺症あるけど今はリアル側はある程度コントロールできるようになったし。

 

 こんな補助器具作ろうと考えたのは頭いかれているかもしれない。

 和人は首輪の様な形状の指2本分ほどの厚みの仮称:アクセルリングを開発した過去の自分グッジョブと考える。

 

 ハード開発したら次は何をする?という質問があったら最小化すると答えるのが日本の技術者だ。

 

 最大化は面積が足りないとか予算の都合とか、そういうことは言ってはいけない。

 

 とち狂って一軒家サイズのその指定範囲内ならどこでもフルダイブ可能とか実用性が微妙なVR機器を設計したこともあった。同一ゲームへ集団でログインするにはいいかな、なんていう浅い理由だ。

 結局は土地の確保がめんどくさくなっておじゃん。

 和人の没計画にしまわれている。

 

 

 最小化の話だ。

 

 極論、マイクロチップ脳にぶち込むことで脳との接続、電磁パルスの利用等まで組み込んだ。

 組み込めば行けるで、ってところでMRIやCT取る時不都合だな?と中止、結局外部端末サイズに。

 ヘッドホン型は視界が開けているかわりに蒸れたり機械の装着性が悪く、アミュスフィアでいいじゃんと没に。

 最小化するならどうしても脳信号を拾う関係上首から上にあることが好ましく、首輪型になった。

 

 仮称:アンダーワールドを作成する際に“仮想空間内の加速”を見出し、それを転用した。

 

 普通に加速してしまうとなると自身の寿命がゴリっと削れることをチート先生が教えてくれたので、アクセルリング内に最少の自身のコピーを瞬間的に複製し、加速することで解決した。

 自身の複製、それがフラクトライト。

 人間の魂を定義した結果、これが魂だろうとその情報を保存するために用意した指先サイズの金属、それがライトキューブだ。

 ……先に超精密加工マシーンを制作しなければならないとは思わなかったし、これの特許収入がおいしいのでなんだかな、と言った所。

 あと、それだけの加工に耐えられる金属の選定マジで金が飛んだ。

 サラリーマンの生涯平均賃金くらいの金が金属を買いまくるだけで飛んだ。

 

 ……どうしてこういう時は息をしていないんだいチートさん。

 

 ‥…個人研究だからね、世に出さない研究だから仕方ないネ。

 変な金の使い方をしているので政府に目を付けられなければいいんだけど。

 経済回してるから許されてる説あるな。

 

 とまぁ、複製情報との結合問題は今でもハードルが高く、仮に加速中にアクセルリングを外されると記憶が一部どっかに吹っ飛ぶのが問題だ。

 

 まぁ、まだそうはなっていないのが救いか。

 

 

 

 〇

 

 

 

 

「鳴坂、キミの力を借りたい」

 

 テスト終わりのカムラにて、重村教授に頭を下げられた。

 

「案件によります!」

「…本当にキミは趣味優先だな」

「やりたいことのためにやりたくないこともやらなきゃいけないのが大人ってもんだと理解はしていますが、趣味第一は自分の基礎ですから」

「まぁいい。以前娘に作ってもらったステージアプリケーションの件だ」

 

 そう言って重村教授は話し始めた。

 

 とある企業から持ち込まれたライブに関する計画だ。

 

「一時期うちの研究室にいたにしては変わり種でね。経営方面に翼を広げた茅場と言う男がいる。奴も最低限の知識はもっているからそれなりに話は通じる話だ」

「……察しました、あれですか。昨年あたりのクッソ忙しい時期に作ったVRライブ技術をあー、なんでしたっけ十王でしたっけそこの企業が拡張して学園での試験なんかで使用してた件をデカい規模で扱いたくなったとかそういうあれですか」

「キミは本当に察するのが早いな。概ねそうだ」

 

 和人は察した。

 この教授ほんとに娘に良い顔するために権力活用することに躊躇いがねぇ!

 

 

「教授的にはARでやりたいんじゃないんですか?」

「それは追々。2次元と3次元の壁はもう少し先だ」

「協力と言うか自分にぶん投げじゃないですかヤダー!」

 

 

 この教授が得意とすることは極めて簡単に言うと、電磁機能と現実を繋ぎ合わせ境界を薄くすること。

 

 彼の研究をそれなりに長い事知っている和人は、彼の本懐に切り込みを試みるが受け流された。

 

「‥…ここにオーグマーの試作機が出来上がっていてな、好きに弄って貰って構わない」

「理論は教授ですけどシステム的なもんの基盤作ったの自分ですからね」

「…本社地下二階にテストルームも用意した」

「あわよくばついでに活用するアプリケーション作らねぇかなとか思っていらっしゃいませんか?」

「……学会の方のガードは巧くやっておこう」

「はぁ、わかりました作ればいいんでしょ作れば!」

「ああ、頼んだ」

 

 また、しごと、ふえた

 

 AR関係でぐんぐん伸びているとの話を聞くスワローズネストとの折衝はぶん投げた。

 重村教授にぶん投げたはずが営業にぶん投げられて結局和人の元へ泣きが来ることを知らない。

 営業部、それがお仕事だろと和人はキレた。

 営業部長は「仕様書読み込んだけどこう……色々詰め込み過ぎ!」と泣いた。

 

 

 

 〇

 

 

 15:00程からの作業開始。

 ……あれ、俺結構仕事背負ってるんだけどな。

 和人はちょっと死んだ社畜の眼をしながらARシステム[オーグマー]のテストを開始した。

 

 

 昨今AR技術はリアルスポーツなんかが主力でそれなりの技術革新が行われている。

 固定空間座標上に複数カメラと光によりARの仮想敵の投影を行い、慣性のオーバーテクノロジー的なサッカーボールなんかが作られているらしい。

 でかい規模の物は存在してもパーソナルなAR技術の発展はまだ少ない。

 存在しても携帯端末とAR機器の併用になっているしサイズ感も気軽に使いずらいという所だ。

 

 そこで出てきますは電気生理学会の異端、重村教授の理論をぶち込んだARシステム[オーグマー]

 装備は簡単。耳にひっかけ電源オン!

 端末先端部に装備されているセンサーが瞳をトラッキングし視界による操作が可能!

 (調整しろと言う圧を感じた)

 そして思考入力!

 ……正直これは結構いろんな会社が出してる。

 出しているが特許元はそう、弊社の重村教授。

 そこのレスポンス調整を私がすると……おクソな仕事です。

 

 ここまで薄型バッテリーに容量18500mAhをぶち込む部品調達サンキュ弊社。ワイヤレス充電もできる。

 

 これを専用に自由にやってヨシを貰ったのでオーグマーの限界値まで思考操作を上げる。

 ……アクセルリングくんには劣るけど現代的には中々オーバースペックな気がするのでヨシ!

 

 スマートフォンで出来るようなことは大体できる。

 

 VR機能の転用で指で枠作ると写真撮れるモーションつけるか…

 

 それだけじゃなんかつまらないな。

 

 人間の視界と写真としてのデータの齟齬を無くす挑戦…?

 ダメだ、オーグマーのスペック不足。

 視界の共有は出来るかな。

 画素数限界あるけど。

 そのラグを減らす……減らすか。

 

 モーション認識はうん、視界に入ってなくてもちゃんと情報を拾ってる。

 脳がここをこう動かしたよ!って情報を拾ってる。うん。

 逆に身体コントロール乗っ取られないようにピーキーな設定にしちゃいましょうねー。

 

 ……これでもSAOのスキルモーション作るか?

 リアルの運動スペックが要求されるが、対人ARスポーツとして施設作ればありかもしれない。

 屋内ならカメラ配置の設計楽だし。

 屋外でドローンでレーザー飛ばしてモンスター出すとか防犯的なルールを考えると出来ねぇしな。

 おのれ無人航空機飛行禁止法!

 人口密集地域外ならいけるか?

 地方で町おこしとして出せば交通の便がある程度ある行政から手を上げるかもしれない。

 ドローンとなると風と天候の問題がデカくてな…

 

 リアルの身体能力自慢がモンスター倒したい人向け企画。

 インターネット配信で受けそう。

 営業にぶん投げて資金取ってきてもらおう。

 …カムラの取締役会で自社でこんな施設作りませんかってプレゼンするのもめんどくs――社員の福利厚生施設としてどっかの空きビルに作っちゃうか?

 

 ARゴルフ、自分のクラブで室内で気軽にプレイできるとなれば受けも良いかもしれない。

 現実のアイテムを気軽に組み込ませられるのがARの強みですなぁ。

 

 さっと役員に向けて施設作ろうぜプレゼンを作って送り付けておいた。

 

 また、テレビ局からお金絞ろうぜ計画は重村教授の「もっと、こう機能が成熟してから」との意見により中止となった。

 

 

 開発協力者特権としてちょっと遊んじゃおう。

 

 和人の悪だくみが始まった。

 

 

 

 重村教授が拾ったライブ計画については、AIに基礎を作ってもらうため自作システムにポイして退社した後、悪だくみ用にトラッキングカメラを複数台ポケットマネーで購入し、セーフハウスとして用意したうちの一つに運び入れた。

 建築資材で配置……配置どうしよう。

 

 こういう時に便利な伝手がない事に気が付いた。

 社員に適当に声をかければ釣れそうだが、変に交友持つのもめんどくさいボッチ思考の和人はそのうち考えるかと一度脇に置いた。

 

 従妹が都大会優勝して今は全国大会中だったか。

 そのプレゼントのついでにテスターして貰おう。

 

 

 〇

 

 

 木曜とんで金曜日。

 直近の仕事を加速を利用しながらあらかたまとめ終え、気分よくシャンフロにログインした。

 

 釣りキチ・リィンとの待ち合わせだ。

 

 集合場所はサードレマの蛇の林檎本店。

 NPCの経営しているカフェで、そこで出てくる料理は味覚制限が例外的に発生せず美味しく空腹値を満たせるとのこと。

 なのになぜか知名度がとても低く年がら年中閑古鳥状態だと言うので、人と会うのにはちょうどいい所、との談。

 ……大丈夫か、裏メニュー言うととんでもない所に案内される系の殺伐喫茶とかじゃない?

 

 キリトは漫画の読み過ぎかと首を振って入店した。

 自傷ダメージを負ってリスポーンしようと考えたがアインスのつぶらな瞳には勝てなかったため、女性モードのままだ。

 

「ん?随分と容姿が違うな」

「ちょっとユニーク関係になります」

 

 

 蛇の林檎に入ると見事な閑古鳥。

 中にいたプレイヤーはリィンと数人の人たち。

 全体的な座席としてはだいぶ空いている。

 

 この容姿を見てその一言で済ませるリィンさんマジリィンさん。

 

「さっそくですがこちらが例のブツです」

「ああ、ありがとう。確かに。礼は何がいい?俺が用意できるものなら用意しよう」

「……無茶な要望ですが、リィンさんって剣術お得意でしょうか?」

「ああ。リアルでもそれなりに嗜んでるし、ここでも剣聖は取ってるぞ」

「少々他者にスキルを譲渡させる手段を手に入れてまして、いくつかスキル頂けないかなーなんて」

「んー、リアルの流派がかかわってくるから……いや良い。他の剣を取り入れ磨くのもまた一手か」

 

 そう言ってリィンさんは了承をくれた。

 無茶振りにあっさりGOでてビビる和人。

 ノリで言ってみるもんだ、と自分グッジョブした。

 

 

「それはどういった手段だろうか、空間が必要なら先日の涙光の地底湖にでも行くか?」

「そうですね、行きますか」

 

「リィン、ちょっと私たちも紹介しなさいよ」

「あ」

「あ、じゃないわよあ、じゃ!」

 

 リィン以外の蛇の林檎に滞在していたプレイヤーからツッコミが入った。

 金髪をサイドテールにしたツンデレ属性高そうな声をした女性だ。

 

「あ、お近づきの印に眼鏡どうぞ」

「ありがとうございます…」

 

 リィンが仮称:ツンデレさんに詰められているのを横目に紫色の髪をまとめた清楚な声をした女性が眼鏡を差し出してきた。

 この人がおそらく眼鏡普及委員会会長とかそこらへんだろう。

 

 白のアンダーリムの眼鏡をくれた。

 早速装備すると、うわ、視界補助付与されてる、こわ。

 

「あ、これ僕からのおごり。楽器は好きかい?」

「バンド系はある程度何でもできますが…」

「え、そうなの!?エレキギターの推しメーカーについて語りたいんだけど」

「エリオット、後にしてくれ。先に紹介だ」

「えー、わかったよ」

 

 あー楽器キチだ。

 例のユニーク関係の楽器をポロリした瞬間大変なことになる。

 口を噤むことを決めた。

 

「さて、失礼した、ここにいるのは俺のクラン:トールズⅦ組のメンバーたちだ。今日予定があると言ったら、ぜひその人に会ってみたいと数名ついてきた」

「どうも、これのリアル嫁のアリサよ」

「眼鏡普及委員会会長のエマです。大変お似合いですよ」

「僕はエリオット、このゲームの楽器制作への可能性を追求しているよ」

 

 金髪さんがリィン嫁さんで、眼鏡の人がエマ、楽器キチがエリオット、と。

 

「ご紹介ありがとうございます。私はキリト、リィンさんとは釣り場で知り合いまして鮭でリィンさんを釣りました」

「と、言うことだ」

「と言うことだじゃないわよ、会うの男の子って言ってなかった?」

「自分中身が男でアバターも本来男なのですが、ユニーク関係でリスポーンするまでこの姿のままになってしまったと言いますか……」

「あら、そうなの?ならいいわ。こいつの近くにキャピっとした女が近づいてるの見かけたら連絡を貰えると助かるわ」

「じゃあ僕も楽器情報があれば」

「では私も眼鏡ユーザーになりたい人が居れば教えてくださいね」

 

 

[PN:アリサからフレンドの申請が行われました]

[PN:エリオットからフレンドの申請が行われました]

[PN:エマからフレンドの申請が行われました]

 

 承認 ▽

 拒否

 

 キリトは三回承認ボタンを押した。

 確かにリィンさんモテそうだもんな。

 

 

「じゃあ、行くか。頼むエマ」

「はい詠唱に入ります」

 

 そう言った彼女は詠唱を開始し、プレイヤーを半透明の箱で覆う。

 サイズ感は4m×1.8m程の長方形。

 近しいサイズは車の駐車枠くらいだろうか。

 

「【座標転移:箱】発動」

 

 その言葉と共に転移した。

 

 アヴァロンへと移動するのとはまた違う感覚だった。

 

 

 

 

「よし、到着だ」

「…これ、明らかに現在世に出てない秘匿技術的なアレだと思うんですが」

「お気になさらず。これはユニークジョブの固有魔法ですので」

 

 ユニーククエスト発生させてもクリアできるとは思えない鬼畜難易度なので、とエマさんはにこやかだった。

 何ソレ気になるぅ!

 

「キミの秘匿情報を一つ開示してもらうんだ、この程度気にすることはない」

「情報の対価として見合ってるのかな……あ、釣り好きのリィンさんなら知っているかもしれませんが」

 

 さらっと開示されたヤバそうなスキルの存在にせめてと言う思いで、とある魚を取り出した。

 

「……【黒のカッツウォーン】なんだそれは、初めて見た。どこで釣れる。ぜひ釣りたい」

「この世界の7大湖で超低確率で釣れるとのことです。釣り竿は差し上げることが出来ますが、それを獲得したエリアは秘匿エリアになりますので説明することが出来ません」

 

 キリトが昨日ラビッツにて湖で釣りをしている老兎から頂いた釣り竿だ。

 老兎に知人に熱心な釣り好きが居るのでそちらの方にお渡ししても良いかの確認もした。

 

 リィンに渡したのはキリトが譲り受けた釣り竿の1/3の出現率設定されているらしいものだが、この釣りキチなら釣りそうだと言う謎の期待があった。

 

「ありがとう、本当にありがとう。礼はスキルで果たそう」

 

 釣り竿を渡すとリィンはかなり本気の眼差しになり、眼鏡をはずし、戦闘モードに入ったようだ。

 エマさんが一瞬残念そうな顔をしたのは気のせいだろう。

 

 キリトは【創流の素体】を取り出し、彼の前にそれを置いた。

 

「こちらは【創流の素体】。3度同じモーションによる攻撃を与え、技の説明をし、もう一度攻撃を打ち込むことで使用者固有の流派を作成できるものとなっています」

「ほう……姉弟子に見せたら大変なことになりそうなものだな。活発系銀髪ロングの刀使いに会った時は注意してくれ」

「あ、はい」

 

「では、始める」

 

「……久々にリィンの本気見たわね。リュカオーンの影吹っ飛ばした時以来かしら」

 

 リュカオーンとやらは知らないがすっごい重要な情報な気がする。

 そしてスッゴイ強いことも。

 

「リィン、バフいる~?」

「要らん」

 

 エリオットさんからのバフ申請を拒否し、リィンは【創流の素体】を―――ボコし始めた。

 

 

 

「結構シビアな判定をするんだな。型の練習によさそうだ」

 

 そう言いながらリィンはキリトに【八葉一刀流の秘伝書】を手渡した。

 最初の技の二回目の打ち込みで人形の上にカウントが増えないことに一回首をかしげたが、それ以降はすべて成功させていた。

 

「一つ気になったんだが、キリトもアレをこなしたのか?」

「ええ、はい。流派を作って【創流の素体】を頂くときにLv.125の相手と戦うことになって、あの時はビビりましたけど」

「一勝負、良いだろうか」

 

「うぁわリィンの戦闘狂スイッチ入ってる」

「……あの全く同じモーションをこなす動作ができるって彼結構すごいのでは」

「話の流れ的にLv125をLv.44で…うそでしょ?」

 

 リィンのクランメンバーが何やら不穏なことを言っているが、キリトも先ほどの鮮やかな剣技に魅了され、このゲームで初めてリスポーンするなら彼相手がいいと剣に手を添える。

 

 

「アインクラッド流、キリト参ります」

「八葉一刀流、リィン・シュヴァルツァー参る!」

 

 

 

 

 〇

 

 

 

「あ゛ー!!!負けた!!!」

 

 最終セーブ&リスポーン更新ポイントであるサードレマ宿にてキリトは久しぶりに心底悔しがっていた。

 自信をもって最速で作ったつもりのシステムが先に継久里に似たような特許申請を出された時並みの悔しがり方だ。

 

 ……まぁ、あの時はアクセルリングがなかったからだし、とキリトは負け惜しみをした。

 

 デスペナルティである一定時間の全ステータス下方修正の表示を見つめていると、宿の窓から一羽の鳥が飛んでくる。

 プレイヤー間でのメッセージを送る時にやってくる鳥だ。

 

 アリサ

「リィンとの決闘で落としたアイテム回収しておいたから、またサードレマの蛇の林檎まで来なさい。

 50近いレベル差でリィンにあそこまで食らいつくとか末恐ろしいわあんた。旦那が超満足そうだから礼を言っておくわ」

 

 先ほどフレンド登録したリィンのリアル妻のアリサからのメッセージだった。

 

 

 

 

「遅くなってすみません」

「あ、ほんとに違うのね」

 

 急ぎで蛇の林檎まで向かうと先ほどのメンバーが既にいた。

 

「ドロップアイテム少なくてビビったわよ。良くこれで探索できるわね」

「あー、メイン武器以外は拡張倉庫にぶち込んでいるので。回収ありがとうございます」

「え、拡張倉庫なんてあるの!?色々素材貯め込むからエマにクランホームに飛ばしてもらうの大変だからすっごい気になるんだけど」

「ユニーク品で【格納鍵インベントリア】と言うんですがMP消費で倉庫に飛んで実質無制限におけるアイテムなんです。中の物はPKされても取られない優れものですよ」

「……ほしい、と言うか妙にメカメカしいわね。神代由来?」

「おそらくは」

 

 でもユニークかぁ、と悔しそうにつぶやくアリサから落としたアイテムを受け取る。

 【凱旋扉:兎】は流石にインベントリアに入れておいてよかった、と思うと同時に黒弓が無事であることがとてもうれしかった。

 アヴァロンの鞘は能力的に勝手にインベントリアに帰ってくるので助かった。

 

「その内神代のアイテムが気軽に開放とかないかしら」

「あり得るんじゃないでしょうか。ユニークモンスター関連で」

「……なんか色々情報握ってそうだけど今はやめておくわ」

「そうして頂けると助かります」

 

 今回の決闘は片手剣と双剣で挑んだが、今度は弓も交えておこう。

 プレイヤースキルを磨かないと。

 リミッター切るのも忘れちゃったし。

 

「で……リィンさんは何というか、とてもにこやかですね」

「久々に歯ごたえある敵と戦えて嬉しかったみたいよ」

「ああ!とても楽しかった!」

 

 この人戦闘狂でもあるのかぁ…とキリトはリィンの肩書にまた一つ積み重なったことに遠い目をする。

 

「キミのメインが双剣と言うことは分かったが、実際はもっと長い得物、片手で持てる長剣と言った所か」

「上位の剣士ってみんなそれわかるもんなんですか?」

「俺の師や姉弟子もそういうタイプだからそうだと思うぞ……このゲームにもそういった奴が居るのか?」

「あー、口が滑った。ユニークモンスターにワンフレームで居合ブッパしてくる系の剣士が居るとだけお伝えします」

「ハハ、そうか。このゲームをやる理由が一つ増えたな」

 

 リィンさんは別種の笑みを浮かべ先ほどの戦闘を思い出させるような圧を出してきた。

 

「やっぱりこのゲームすごいわね」

「こう、九尾の狐的なものが居たら教えてくださいね。即狩りに行くので」

「……このクランの人、割と戦闘狂揃ってるんだよね…」

 

 僕は違うけど、と楽器キチが何かを言っている。

 

「はぁ、リィンさんはあれですね。割と初期型のアミュスフィアを使っているみたいですが、これで最新のVR機用意したらどうなるのか恐ろしいですよ」

「わかるのか」

「ええ、戦闘中に動きに物足りなさを感じていたみたいなので、神経伝達ラグを露骨に感じるほどの反射の持ち主と言う事。個人的な視点でラグのフレーム数を見たらそんなところかな、って」

 

 そこまで言うと肩をがっしりと掴まれた。

 

「―――ちょーっとおねぇさんと話しましょっか。リィンと渡り合える子がまさか機械にも強いなんて。とんだ金の原石じゃない」

「アリサ、キリトは楽器にも精通してるみたいだよ」

「眼鏡、眼鏡は!」

 

 あ、まともだと思ってたアリサもアレか、インベントリアの反応からしてもきっとアレだ、機械スキーだ!

 結局キリトは日が昇る頃まで解放されず、オタク特有の長い長い話をすることになった。

 

 まさかゲームの初フレの嫁が異国に本拠地置く大企業の令嬢とか思わんやん、日本支部の取締役とか思わんやん!

 

 

 こうしてキリトはこのゲーム一週間目にして初めてのリスポーンを経験したし、仕事の話も増えた

 

 




・仮称:アクセルリングについて

 実質的なニューロリンカー試作機。

 和人の開発至上一番金のかかってる機械。
 世間にバレるといろいろとやばい。
 
 10年とちょっとの時間の先取りしてるようなオーバーテクノロジー。

 和人は気軽に常用しているが並みの人間が使用すると一瞬で脳の処理限界を迎え廃人コースのヤベー設定となっている。
 和人も使いこなすためにほんの気持ち老けたが数年単位で健康的な生活を意識したため実質ノーダメ。

・リィンのウェザエモン戦にて

 原作通りウェザエモンはあのトリオによる攻略になりますが、想起されし墓守に偶然遭遇し、鬼神のごとく斬りあうと思われます。
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