何も知らない鳴坂和人くん(22) 作:スティック/糊
誤字報告感謝です。
結城明日奈は転生者である。
朝起きたらかわゆい幼女になってた。
それは彼女の祖父母宅にて起きたことで、その時は大変混乱して泣き喚いた。
パニックが幼女のボディーと交わってとても大変なことになった。
今思うと両親は本当に訳が分からなくて修羅場だったと思う。
それからの私は生来の陰キャを発揮した。
泣きわめいて幼稚園は不登校、小学校も殆ど不登校。
中学校に上がってからようやく落ち着いて、少しだけ前に歩み始めた。
そう、どうなるにしても高校位卒業してないと生きていくのが大変難しいからだ。
明日奈がここまで取り乱したのは、転生か成り代わりか、憑依か。
そのどれかもわからないが“私はもしかしたらデスゲームに巻き込まれてしまう運命なのではないか”その心情だけが心に残っていた。
明日奈は運命と言うものを強く信じるタイプであった。
自分は前世で有名なSAOと言う作品のメインヒロインであるが故に、どうあがいても巻き込まれる筋道がどこかに存在する、と。
成り代わった明日奈はボス戦で主人公の盾になる度胸はないし、ずっと年の離れた変態の空っぽの嫁になるためのお人形になるのも嫌で、電子の海に永遠に漂流もしたく無い。
運動神経も無ければ、機転が利くような頭もない。
聖人みたいな性格もしていない卑屈な陰キャなのだ。
こんなの失敗する。
自分が失敗したら、どうなるのか。
アニメ3期の終盤を思い出せば、色々と終わった状況になるのは目に見えている。
そもそも、私は主人公を愛せるのだろうか。
中学生2年生の頃だ。
兄が一つの機械を持って帰って来た。
ヘルメット型をした機械。
運命はやっぱり逃げられないのか。
明日奈は拒絶反応を起こすように家を飛び出した。
家族は訳が分からなかったと思う。
春先、まだ夜は寒い。
所謂上流階級の家庭で育った明日奈はうっすら寒いだけだろうが常に空調が回っているような家庭で育った。
何が言いたいか。
薄着で飛び出してちょっと後悔していた。
春先の夜を舐めていた。
家から適当な靴履いて出たから少しブカブカで、これはお母さんのだったかと随分と緩い靴のせいで足のあちこちが痛んだ。
引きこもりの体力とは思えない、全く知らぬ土地まで来てしまい途方に暮れた。
いろいろと馬鹿な自分に嫌気がさした。
このまま凍死でもしてやろうか。
適当な公園のベンチでただ空を見上げていた。
掻いた汗が服に張り付いて気持ち悪い。
でもずっと、ずっと寒かった。
「何やってんのキミ」
ボッサボッサの髪型でもやしみたいにひょろくて白衣を着た変人に声をかけられた。
「なにか用?」
「こんなさみぃのに公園で黄昏てたらまともな成人は声をかけるんじゃないか」
「……なんか色々嫌になったんです」
「悩めるお年頃ってやつか」
白衣の不審者は寒いだろ、とポケットから缶コーヒーを出した。
「‥…変なもの入っていませんよね。睡眠薬入れて、こうエロ同人的な展開にするつもりですか」
「する訳ねぇだろ、あほか。妹と同じくらいの子に欲情とかしねぇから」
「この年にしては、変態が釣れそうな体型してると思うんですけど!」
「そんなのニッチな層だけだ。漫画の読みすぎだ、エロガキ」
「んなッ!」
ま、そんだけ元気なら大丈夫そうだな。なんて白衣の不審者は言う。
明日奈はそうなって全部うやむやになってしまえばいいとすら思っていたと言うのに。
「風邪ひく前に帰れよ、エロガキ」
「え、エロガキじゃないんですけど!」
「未成年はみんなガキだ。いっちょ前に権利主張したいなら嫌でも責任が発生するまでに利口になっておけ」
「……」
「あーなんだ。お前に俺の好きな名言を一つ教えてやる」
“負うべき物が責任、負わなくていい物まで負いたがるのが責任感。その境目を見失わないように”
刑事責任・民事責任・社会的責任
大人になって悪いことをするとこの三つが絶対にくっ付いてくる。
意図したことだろうが、意図しないことだろうが、だ。
未成年の内はどれも背負う事すらできない。
つまりお前が何を悩んでいるかは知らねぇが少なくとも責任なんてものはなくて、勝手に背負いたがってる責任感でしかねぇの。
そんなもん背負ってたら真っすぐ前見ることも出来ねぇんだから適当に近くの大人に投げとけ。
「適当に生きてるんだね」
「おう、ストレスフリーが楽しく人生を生きるコツだ」
「たのしそう」
「楽しいよ、責任ってもんを背負ってでも手を伸ばしたい生活ってやつは」
「……そんな風に生きれたらな」
「そういう風に生きりゃいい。要らんもんなんて適当に捨てりゃいい。不安に思っていることの9割は起こりえない。別にワリィことした訳でもねぇんだろ」
「これから悪いことをするのかも」
「しなけりゃいい。それがトロッコ問題みたいに選択をしなけりゃいけないなら見なかったことにすりゃいい」
トロッコ問題みたいに自分が選択する時になったらお前ら自分のこと神か何かと思うじゃん。
人間なんだから逃げていいだろ。
悪い犯罪者の他責と一緒。
どっちか助けられません、それを選んだお前の責任ですってやつ。
どう考えても選ばせてる側の方が悪いだろ。
「無責任なんだね」
「何言ってんの、トロッコ問題が現実問題だったら操作レバーに触れる方が犯罪だからな?敷地内の不法侵入に、器物損壊その他もろもろ。責任負えないことは見ざる言わざる聞かざるだ。報酬貰ってる仕事ならまた別だぞ?お前がやろうとしていることでお前自身に報酬あんの?」
「……得はないけど徳ならつめる?」
「修行僧かよ」
聖人なら救われるわけでもねえんだ。何をもって救われたと思うことを決められない奴がえらそうなこといってんじゃねぇよ。
「……」
「じゃあ考えな、お前は何をすれば満足できる」
「?」
「満たされねぇ空っぽだから余計なことウジウジ考えんだよ。そうだな、夢は?」
「…?」
「なに、そんな大層な責任感もって家飛び出して夢の一つもねぇの?」
それが空っぽってやつだ。
「空っぽだと全部終わった後、次に前を向くにはどっちが前かもわからねぇ。そもそもお前が今見てんのちゃんと前かもわかってねぇだろ」
夢は道しるべだ。
どうしてもぶつかんなきゃいけねぇものがあっても、立ち止まるよりは進み続けるのが楽しいんだ。
「‥…何それ」
「お、笑ったな。ガキの内に深刻そうにしていると将来眉間に皴ばかり溜まる。どうせ皴になるなら目じりにしとけ、それは人生楽しんだものの目印だ」
だからとりあえず笑っておけ。
「っと、タクシー来たな。運賃はお兄さんが持ってやる、帰りな。あ、毒親とかだったら児相に相談してやる」
「ううん、良い家族」
「ならまずは家族に頼れ、どーしても家族に相談できないことなら月一ぐらいでお兄さんが聞いてやろう」
そう言って彼はポケットのメモ帳に何かを書いてちぎって手渡してきた。
「……お兄さんの名前は?」
「あ?そんなもん知らねぇくらいが話しやすいんだろうが」
そう言って11桁の番号だけ書かれた紙を手渡してきた。
レアものだぞ、と。
「字、汚いね」
「なに、お兄さんそこ気にしてるから指摘しないでくれる?」
ペン字くらいするべきか…?なんて言ってる姿にいよいよ笑ってしまう。
「バカは馬鹿らしく笑ってな。難しい事を考えるのは利口になってからだ」
「ば、馬鹿じゃないもん」
「少なくともこんな怪しい男の話に耳を傾けるのはアホの証拠だ。さっき言ったの全部テキトーだから、タクシーの時間稼ぎなだけだから」
「なっ!?」
「口達者な男に騙されたり、将来情報商材とか買わされないように気を付けるんだぞお嬢ちゃん」
「う、うっさい!もさもさヒョロもやし不審者!あとくさい!」
「うぐっ」
え、俺そんなにもやし?で臭いの?
研究だけじゃなくて筋トレもしよ…
そうつぶやく彼に見送られながら明日奈はタクシーで帰宅した。
くさいと言ったのはセリフが、という意味だが意趣返しに言わなかった。
家族には心底心配された。
説教されて、怒られて、散々泣いて。
そうしてようやく明日奈はまとまりのない面倒なことを考えていたのだと悟った。
なんか変な不審者に出会って、明日奈の心は軽くなった。
貰った電話番号はその時に使えるかは分からないがタクシー代を10倍にして返せるくらい稼げるようになったら、かけてみよう。
それまではこの紙切れは明日奈の宝箱の住民だ。
「夢か…、ベタだけど素敵なお嫁さん?」
明日奈はなんとなく適当言ってただけと言う彼の言葉を思い出した。
口に出すと、存外悪くない気がした。
このまま、進むと主人公のお嫁さん?
「あれ、なんでこんなに顔が熱いの……?」
考えれば考えるほど明日奈の心拍数は上昇する。
待て待て、私の好みは優しくて、ちょっとやんちゃで、いざっていう時に助けてくれて夢に向かって真っ直ぐなーーー
「あれ、これ原作主人公?」
これ、私の性癖ロックかかってるんじゃないの!?
転生機能!?
推定される事実に明日奈は頭を抱えた。
もしかして生まれたときからこんな趣味だったっけ?
明日奈は知らない。
原作で通っていた中学校と自身の通っている中学校が別であることを。
明日奈は知らない。
そもそもそんな原作はやってこないことを。
明日奈は知らない。
その電話番号の主こそ―――
「とりあえず、先に進むのに馬鹿に騙されないように利口にならなきゃ」
将来の夢(仮)を文字列に並べると婚活で夢見る行き遅れみたいになってしまった明日奈は、その夢をみるだけのスペックを手に入れるため努力を始めた。
明日奈が知ったのは、ほんの少しの会話でも未来は変えられそうなことだけだった。
たびたび自身の夢はこれなのかと考えるほどに性癖をこじらせていくことをまだ明日奈は知らなかった。
「あれぇ?SAOどこぉ……」
ちょっといい高校に進学した明日奈は、そろそろやってきてもいいだろ原作とキレた。
・KYBの独り言
「ん?原作カプの恋愛感固定は本人に落とされなければ発生しない、と別原作の友人が言っていたような」
・大学で論文かけマシーンに追われるのが嫌になって見知らぬ土地を散歩していたK・Nさん
「え、俺そんなに不審者?身だしなみくらい気を付けよ…」
・本作の一話抜粋
のちに和人を 捕獲 した彼の妻
捕獲()
・転生者の幼少の頃について
転生者は大体5-8歳前後で記憶を取り戻します。
きっと過去に「乳幼児プレイは嫌でござる!」とかいった転生者がいてそれ以降そうなったとかなんとか