何も知らない鳴坂和人くん(22) 作:スティック/糊
GGC本番直前
カッツォ、魚臣慧に全米NO.1のいるチームと戦うため、サンラクとペンシルゴンはホテルにて作戦会議を行っていた。
何やかんやあってカッツォの同僚である夏目氏とサンラクが対戦する話になり、夏目氏が早々に部屋に向かってからペンシルゴンはカッツォに問いかけた。
「カッツォくん、きみ何か隠してるでしょ」
「え、えぇ!?―――ソンナコトナイヨー」
ペンシルゴンはそれなりの付き合いから何かカッツォが隠していることを察した。
GGCに本気だとは言え現在シャンフロでレベルの劣っている状態をカッツォが放置する訳がないのにここ一週間ログインした気配がないのだ。
つまり何かがある。
「おら、ちょっとジャンプして見ろよ」
「何も出てこないから[ガザッ]あ」
「ほんとになんか出てきた。ゲームカセット?」
「あー!ちょっとそれはダメ!」
サンラクがカツアゲの常套句であるジャンプして見ろよといって、カッツォは自身の身の潔白を証明するためにジャンプした。
すると何という事でしょうか。
透明なケースに入ったゲームカセットが出てきたではありませんか。
サンラクとペンシルゴンは悪い顔をした。
「へぇ、魚臣選手がそこまで必死に隠すゲームってなんだろなぁ?」
「しかも何もラベリングされていませんことよ?同人ゲーム?」
「ちょ、そう言うのじゃないから!」
カッツォが必死になって取り返そうとするがソフトケースはペンシルゴンの元に渡り、彼女が天高く持ち上げたことでカッツォは手が出せなくなった。
「クッソ、ここが現実だからセクハラになっちまう!」
「ふふふ、良しサンラクくんやっておしまい」
「らじゃ」
「あ、ちょっ!?」
ペンシルゴンがあたかもゲームソフトを保有しているように見せかけ、鮮やかにゲームは抜き取られており、サンラクが部屋に置かれたVR機器でプレイしようとした。
「どんなゲームが入って[登録生体情報に誤りがあります]プレイできねぇじゃねえか!」
「よっし、セーフ!」
「ちぇ」
サンラクは残念そうにソフトをカッツォに返した。
「あっぶな、俺の最終兵器が壊れたらどうしてくれるんだよ!」
「最終…」
「兵器…?」
「あ」
「ハァ!?あの鳴坂博士の作ったゲームだぁ!?」
「そこらのユニークよりよっぽどユニークしているじゃない!」
「絶対秘匿しろよ、俺が死ぬ」
結局ゲームソフトの中身をゲロったカッツォ。
正確には吐かされたというべきか。
外部流出させないように、と言われていたカッツォは絶対情報は守れと釘を刺した。
「で、三段階のミーティアスは倒せたのか?」
「‥…ハイテンション時に勝率1割にどうにか」
通常時はそこそこ、とのこと。
「だからどうにか博士の想定する最大値のミーティアスを倒しておきたいんだよ!」
「よし、はよ行け。俺は夏目氏とバトルすっから」
「じゃ、その次私とね」
「いや止めたのお前らだからな!?」
〇
GGC開催直前、和人はホテルにやってきていた。
HOTEL Grand Supreme それは大変ご迷惑おかけしておりますので、と結城さんが手配したホテルだ。
一泊何万するんだろうな。
庶民思考の和人は、高級感あるラウンジにぽけーとしてしまう。
会社の関係者は平気でこういうことする…と仕事関係ではそこそここういったホテルに泊まることはある。
正直都内在住なので家から来ますよーなんて言ったのだが、せめてもと言われてしまえば致し方あるまい。
ちょうど妹は祖父母の家に行ったので他人の金で贅沢しておこうと泊まることにした。
GGCの会場の直ぐ近くで開場ギリギリでもふらっとイケてしまう距離感だ。
和人が案内されたのは所謂スイートルーム。
金銭的には何も考えたくない。
だが、キリトが今回の仕事で得た報酬はこれの数倍だ。
「このホテル出場関係者いっぱいいるんだろうな」
和人は部屋に置かれたVRチェア(約270万)を見てそんな感想を抱いた。
「結構新しいタイプで、これ何時出したんだっけ」
VR機器の外観はレクト製品ではないものの内部は和人が手を加えた覚えのあるものだった。
覚えていない……
弄れば思い出すだろとさっそく機械を弄る。
チェックアウトまでに戻しておけばよし。
そんなゆるふわな思考で接続を開始した。
「あ、コレ3年前に作って去年の暮れに見つかったからお出しした仕様の奴だ」
満足満足。
和人は置かれていたVRチェアの解析を終え、製品版になったVRチェアに隠したお遊び要素もバレることなく実機に入っていてちょっと笑った。
「コレ拡張機能ぶち込めば最新式とどっこい行けるのが良い所なんだよなぁ」
仮にこの発言を営業の人間が聞いていたらそういう仕様はしっかり伝えて頂かないと、とブチギレ案件であることを完全に気にしていない。
「っと、ディナーの時間か」
チェックイン早々に機械いじりを始める所が実にエンジニアで、すっかり予約して頂いたディナーの存在を忘れそうになっていた。
部屋でも同等の物をオーダーできるが、なんとなくああいった会場としての情報収集と言う名目で色々な所に足を運ぶのが好きな和人はレストランへ移動した。
変装はもちろん忘れないし、何ならホテルの登録名称も結城さんの名前のまんまだ。
「では、こちらへ」
年がら年中適当な服に白衣と言うスタイルの和人は私用の外出は割と服装に気を付ける方だ。
吊るしのスーツではなく採寸されたオーダーメイドのスリーピースを着ていると体型を維持しなければと、日常的ハリが出てくるため、度々スーツを着るようにはしている。
スーツも状況に合わせるように複数あるが、これを着たのは片手で数える程度だろう。
ドレスコードがいるようなところは年2,3回しか来ないのだが、そう言う時は大体お偉いさんと会う時などが多いので面倒な思い出が詰まっているとも言える。
なので自分ひとりで気楽、となると余裕の意味が大きい。
朝から天気が良かった為か夜景が少し綺麗で、気分がいい。
そして珍しく酒も飲んだ。
アルコールは普通に強い方なのでワイン一本程度では酔わないので本当に食中酒として楽しんだだけだ。
……こじゃれたものも良いが雑なジャンクなものを食べたい気持ちもある。
これ食ったらマックいこう。
和人には上流階級的生き方と言うものが似合わないらしい。
〇
昨今のマックは店員の元に並ばなくてもモバイルオーダーか機械のタッチパネルで選び電子決済と言うタイプも少なくない。
ポテトとシェイク、期間限定バーガーを買って呼び出しが来るまで壁際でサイレント。
目の前ですごい量のポテトを受け取っていったポニテの女性にぎょっとしながら自身の番が来てそれを受け取りにカウンターへ移動しようとしたら人とぶつかった。
「っと、申し訳ありません」
「いえ、こちらこそ」
自分とさほど年の変わらない同年代くらいの金髪の男女に謝りつつ、ポテトとシェイクを受け取りホテルへ戻った。
「ユージオ、彼CV,松〇だった。絶対CV.〇岡だった!」
「そ、そう?キリトにしては中の人ほどじゃないけど割としっかりした体格だったよ?」
「いえ、私の声豚イヤーは聞き間違えません」
「アリスの口から声豚とか聞きたくなかったんだけど」
ぶつかった男女がそんな会話をしていたことは気にも留めなかった。
ヤベー量のポテト女に意識が持っていかれていた。
大丈夫かあの人の健康。
「あ」
「ん?ああ、キリトか」
ホテルのロビーに入ると何やら身に覚えのある男女がいた。
ゲーム内のアバターそのまんまかい!
と言うか何故バレた?
「キリト、彼動きで大体のことバレるから無駄よ」
「なんか納得しました。ここでは鳴坂和人と呼んでください」
PN:リィンとPN:アリサの中の人と初遭遇である。
「承知した、和人。俺は八葉燐。ゲーム内ともさほど変わらないからどちらでも構わない」
「私は八葉アリサ。こっちではそのまんまね」
リィンは過去にお師匠さんの所に拾われ養子になったため日本風の名前とのことだ。
アリサさんはひょんなことあって学生時代に彼に惚れこみ押しかけ女房したとのこと。
‥…濃いなぁ。
「と言うか鳴坂和人と言うともしかしてアレ、アレなの!?」
「あーおそらくはそれです」
一応複数の人間がいる状況を読んで小声で聞いてきたアリサさんに恐らくそうだと答えた。
「ちょっと、ちょっと、機械オタクの私の前でよくそんなこと隠したわね。リィン、きり…和人、Vipラウンジ行くわよ」
「ん、分かった」
「え、連行される流れ?」
「何言ってんの当たり前じゃない」
どこの当り前でいらっしゃる?
和人は八葉夫妻にドナドナされていった。
一応、隠れてみているだろうSPさんにはわかるように指でハンドサインを送ったので大丈夫なはずだ。
「……聞いちゃったね」
「聞きましたね」
「完全に原作だと養子だってこと忘れてたよね」
「‥…元の苗字っていつ明かされてましたっけ」
「僕らの話の後位」
「……アニメ化してない範疇は知りません」
「女性の方、ほっちゃんだったね」
「男性の方がユニコーンとか難聴系主人公の人なのは分かりました」
「なんの原作だろ」
「現地産かもしれません」
「と言うかここにも原作ってあるのかな」
「おそらく、ここまでVRが発展しているのですからシャンフロが密接にかかわってきそうですね」
「あの墓守討伐した関係者が主人公?」
「おそらく」
〇
「さて、改めまして。ラインフォルト社日本支部の取締役に名を連ねてますアリサ・ラインフォルトです」
「ども。カムラ所属の鳴坂和人です」
「ああ、VR博士か」
「リィン、今更!?」
高級階層のフロアのラウンジに着くと、適当な席に着き名刺交換が始まった。
ラインフォルトは旧姓で今はただのビジネスネームなんだけどね、とアリサは付け足した。
「俗称ですけどね」
「彼、とんでもない人物よ。多分近くで護衛ついているレベル」
「ああ、近くにいる3人はその関係だったか」
リィンが納得したようにつぶやくが和人にはわからなかった。
え、そんなに人ついてんの俺!?
「……彼、リアルでもスペックぶっ壊れなの」
「師匠はもっとすごいがな」
「私は別カテゴリーに来たかと思ったわよ」
ですよね、いきなりバトル漫画始まったかと焦りましたよ!?
「とりあえず、大陸間通信技術はうちの専売特許みたいなところだから、おま国ゲー問題解決したくなったら言ってちょうだい」
「あ、はい」
「うちのクランの何人か国外に住んでるから、シャンフロするのラグ無しでちょと手間なのよね」
そう言われて和人は思い出した。
ラインフォルト社。
重火器メーカーを一瞬思いだすが、こちらは通信会社の国際的大手。
自社衛星も持ってるんじゃなかったか?
やべぇのと交友持ったな…
「あ、そうそう。リィンに敗北してから何日かログインしてなかったみたいだけど心折れてない?大丈夫?」
「あー、リィンさんに負けてからはちょっと幕末潜ってました。剣士に負けたから剣の戦闘経験積むなら幕末かな…と」
「あ、そういう事ね」
「その時にシズレナさんって化け物みたいに強い人に遭遇しましてあっさりスパンされちゃったんですよね。それであの人に一発入れるまで幕末やるぞって」
「……あれ、キリト貴方もうシャンフロ復帰してるわよね?」
「あの人の片腕吹っ飛ばすまで4日も掛りました」
「あなたも十分化け物の領域y――リィン、落ち着きなさい」
「ほう、あれから4日で姉弟子の腕を飛ばせるレベルとは」
「スイッチ入ったわね…」
「あれ、もう既にPvPの流れになってません?」
「こりゃ、機械の話できそうにないわ。悪いんだけどいい?また装備はちゃんと回収するから」
「あ、はい」
その後、部屋のVRチェア弄って高パフォーマンス取れるようにして挑んだ。
VRチェア使用したリィンさんのレスポンスはレべチだった。
HP3割削るのがやっとだったんですが!?
無想神気合一とか言うのしたら倍以上手に負えなくなったですがちくせう。
キリトはシステム上に載らないものの、八葉一刀流四ノ型中伝をリィンから貰った。
八葉一刀流、それでええんかと思いながら落とした道具を返してもらいつつ、歩法のアドバイスを貰った。
アリサにはなんかうちの主人がごめんなさいね?と謝られた。
キリトは憂さ晴らしで幕末にログインし、ログボ勢を跳ね飛ばし、Yuukiを見つけて新歩法試しつつ雑に斬って満足しログアウトした。
……幕末をロクな使い方してないな俺。
負けた悔しさにキリトは拗ねながら寝た。