何も知らない鳴坂和人くん(22) 作:スティック/糊
当作品は非常にご都合主義の独自解釈多めの作品です。
セカンディルにてセーブポイントを更新しログアウトした翌日。
キリトがログアウト時刻が早朝5時を迎えていたこともあり、しっかり眠りにつき目を覚ましたのは12時を過ぎてからであった。
ブレックファーストと言うには遅い時間にまともな料理を作る気力もなく、コーヒーマシーンでエスプレッソを入れ、一息ついた。
「兄さんおはよー」
「もう時計はてっぺん指してるぞ、おそようだ。予定はどうした」
エスプレッソを飲み干し、食洗器にカップを入れていると、リビングに一目で寝起きだとわかる真登香が現れた。
「んーあぁ、スグ姉と一緒に徹夜したから予定は流れたよー」
「…11時までって約束しなかったか?」
「あ゛」
「はぁ、若い内に無理すると成人してからすぐに体を壊す、ほどほどにするように」
「はぁーい」
「反省してるのか己は」
あっさりと真登香は約束事を反故にしたことをこぼしたので少し咎めればばつが悪そうな顔をしたが、その表情に追撃ができないのは実にダメ兄貴のよう。
「…起きたばかりなら飯もまだだろ、どっか食いに連れて行ってやるから身支度整えてこい」
「……兄さんラーメン生活は体に悪いよ?」
「ん?実家に連れてって母さんのお説教コースが欲しいって?」
「いえ、何でもないです。30分時間頂戴!」
「ゆっくりでいいぞ」
慌ただしくしている姿をみて自分もダラダラと着替えることにした。
そういえば俺の家、真登香に侵略されていないか…?
さも当然のように妹に一室侵略されている事実に気が付くも、空き部屋か機械置場だからいいか、和人は気にしないことにした。
引っ越してからN回目の思考なのだか本人はそれに気が付いていないようである。
〇
「兄さんの変装技術すごいよね」
「俺の格好が変装ならお前も相当だろ」
「ふ、まぁね」
「ほめてねーよ」
昼食を食べに車を出していると、隣でオーバーサイズのシャツを用いた“彼シャツ風コーデ”とやらに身を包んだ真登香はお嬢様高校に通う優等生と言った風貌とは大きくかけ離れたファッションをしていた。
「俺は、ほら身バレするとめんどくさいから」
「VR博士も大変だね」
「ハードオタクにはちょっとした有名人だからな」
自意識過剰とかそういうのではなく、紛れもなくやべー技術を持ったエンジニアとしてこっそり亡き者として扱いお国の発展に尽力してねコースを歩みかねないくらいの人材なため、外出する際は身バレ防止に気を付けている。
……もっともな所、お国のお偉いさんに「国外に誘拐されないように護衛付けとくね」とこっそり護衛が付いていたりもするのだが、家族に伝えて下手に緊張させるよりはいいだろうと判断した。
妹には推しを見つけたオタクはめんどくさい生き物と適当な説明をして変装理由をごまかしている。
「それで今日はラーメン?」
「んや、取引先のおっさんにうまい和食屋教えてもらったからそこでいいか」
「おお、お高い和食とか初体験」
「好きなもん一杯食うといい」
ここ数年ですっかり都内の運転も慣れたもので、隣で嬉しそうにどんな料理があるのかと心躍らせる妹にすっかり気をよくした和人は安全運転をこころがけて目的地へ進んだ。
「個室やんけ」
「いいとこの企業の打合せや接待に使われるようなところだからな」
女将に案内されてた部屋に入り、注文を済ませ二人きりになると真登香は愕然としたようにツッコミを入れた。
と言っても昼に限りよほど下品な格好でもない限りカジュアルに入れるのが売りということで、今後誰かを飯に誘う時に鉄板になりそうだと安心した。
この前食っておいしかったコース料理だ、と和人は付け足し料理が来るのを待った。
「こう、おぬしも悪よのぉ感がある」
「料亭って意味合いではそんなとこか…?」
確かに料亭の個室と言えばそんなイメージになるのだろうか。
そんな概念の時代劇は今もなお国営放送で早朝の時間にやっているが、実際に見ている人はとても少ないだろう。
鹿威しの独特の音に思考を戻され、あったとしてもそれは夜のイメージの方が強そうだ、と考えるのをやめた。
「徹夜するほどシャンフロはいいとこまで進んだのか?」
「んーともう少しで作れそうな武器がある、どうせなら集めきっちゃおうと張り切ってたの」
「そういや素材集めて武器も作れるってチュートリアルでも言ってたな」
「兄さんほんとにシャンフロ始めたの!?」
「休日とかしっかり時間が取れそうな時だけになりそうだけどな」
料理が来るまで少しの時間があると和人はシャンフロの話題を出してみることにすると思いのほか食いつきがよい。
「どこまで、どこまで進んだの?ジョブは?レベルはどこまで上がった?」
「とりあえずセカンディルでセーブポイント更新まで。弓職で今Lv.22」
「……ちょっとまって、あれ、始めたの昨日だよね」
興奮したように兄のシャンフロ初見の様子を聞こうと少し身を乗り出すように真登香は聞き始めたが、さらりと告げられた情報に真登香は背後に宇宙猫を背負った。
「昨日の21時くらいからだな」
「それでもうセカンディル?野良パでも組んだの?」
「がっつりソロだな」
「後衛職、それもソロあの大蛇倒したの?!」
「致命の包丁でサクッと」
「さっき弓使いって言ったじゃん!」
「知らんのか、弓使いだって双剣するものだ」
「知らないよそんな弓使い!?」
頭のおかしいことを言い出した兄に真登香は本格的に頭を抱えた。
〇
「射剣で牽制して近づかれたらヴォーパルストライクな感じだ」
「知らない知らない、射剣とかヴォーパルストライクとか初めて聞いたんだけど!?」
「ユニークと言うやつだ」
「なんで初日にユニーク踏んでるのこの兄!」
昼食をとり実家に送り届ける道のりまで「わからん、うちの兄わからん、別ゲーの話してる…?アインクラッド流なんやねん」と困惑したままのまま送り届け、和人は再び自宅に戻った。
自宅に戻ったのは夕方ごろ。
カムラのエンジニアからの報告と質問事項を回答し終えるころはすっかり夜に。
遅めの昼食だったこともあり、簡単な夕食を済ませ、シャンフロに再びログインした。
「結局昨日は武器の耐久回復とかできなかったからな」
キリトはセカンディルの門から真っすぐ入った宿でセーブポイントを作成したためまだセカンディルの町を歩くことが出来ていなかった。
セカンディルからサードレマが存在し、その道中にある四駆八駆の沼荒野ではソロ殺しの異名を持つエリアボスもいるらしいことがNPCとの雑談で判明した。
町を歩いていて気になったのは花屋だ。
ファスティアにもセカンディルにも花屋が存在したが花について何か重要なクエストがあるフラグ…か?
SAOに思考が吸い寄せられすぎかもしれない。
それでも気になったからには仕方ない。
花屋に突撃することにした。
セカンディルの花屋には現実世界的に咲く花としては季節関係なく置かれているが、方位的に北に冬、東に春、南に夏、西に秋の花が飾られていた。
「あれ、椿と山茶花逆じゃね」
春の花である椿と冬の花である山茶花が逆に置かれていた。
寒椿なんて冬を指す季語があるが寒椿と言っても一般的なガーデニングでは山茶花の品種として扱われていたはずだ。
あまり気にしても仕方のない事だろう。
椿と山茶花を両方レジへ持っていった。
「椿がおふたつ。1200マーニになります」
レジで会計をすると、山茶花を椿と誤認された。
確かにぱっと見同じ花で英語にすればどちらもcamelliaだ。
それが日本語になっているのだから何か意図がありそうだ。
「…すっごいしょうもない事なんですけど、こっちが椿でこっちが山茶花ではないんですか?」
「え、嘘!?」
「後方位で季節の花を並べているようですが椿と山茶花が逆に置かれているかと…」
「すみません、現在家内が里帰りしてまして、仕入れた花を自分が陳列しているのですが花の知識が薄いもので…」
「あ、いえ、お気になさらず」
「――そうだ!お客様、花の仕分けを手伝ってくださいませんか」
『ユニーククエスト:フラワーマスターへの道』を開始しますか?
はい ▽
いいえ
ユニークと聞いたらとりあえずやるけどさ、ユニーク多くないですか?
〇
「お客さん!梅と桃と桜の見分けがつきません!」
「これが花の先がとがってるのが桃で、丸いのが梅、別れてるのが桜だ」
「お客さん!菖蒲と花菖蒲と杜若の違いが分かりません!」
「花弁の付け根がメッシュで葉が細めだからこれが菖蒲で、葉脈がくっきりしてるこれが花菖蒲、花弁の付け根に細長い模様があって葉っぱの幅が広めなのが杜若」
「お客さん!牡丹と芍薬」
「ハルジオン・ヒメジョオン!」
「―――」
「すみません、とても助かりました。お礼にこちらをお受け取りください、なんか珍しい気がする木です」
類似する花を片っ端から判別し終えるとそういう花屋の旦那の手には真っすぐな木の棒を渡してきた。
「若い頃色々なところへ冒険するのが好きで、その時に見つけたどこかこう…導いてくれる感じのすごい木の棒なんです」
『ユグドラシルの枝』を入手しました。
とうとうファンタジーの代表格であるユグドラシルが登場しやがった?!
「私にはなりませんでしたがこの木さえあればきっと貴方を遥か高みへ、そうフラワーマスターに導いてくれるでしょう!」
……ワッツ?
【ありとあらゆる花を扱うフラワーマスターへの道は険しい】
【だが世界樹の導きがある限りその道は決して途切れることはないだろう】
【フラワーマスターよ、アヴァロンを目指せ】
『ユニーククエスト:フラワーマスターへの道』をクリアしました。
『ユニーククエスト:フラワーマスターへの道おかわり』を開始しますか?
おかわりってなんやねん。
みな〇け方式か!
花屋を出て早々、やけに持ち心地の良い木の棒を思いっきり地面に叩きつけた。
「なんやねん!!」
キリトの渾身の叫びはセカンディルに響き渡った。
ちゃんとユグドラシルの枝は回収した。
〇
翌日、キリトは再びシャンフロをプレイしていた。
昨日のログイン自体は3時間ほどであったが最後に突然のヤベーものをお出しされたひどい気疲れに思わずログアウトしてしまったのだ。
明日から仕事、今日こそ鍛冶屋で射剣の影響による耐久値回復が行えるか確認せねば。
「ああ、出来るぜ。この武器たちの修復なら…夕方くらいにまた来てくれ」
できた。
だが早朝にログインし、夕方まで暇となるとどうしたものか。
致命の包丁なしにソロ殺しに挑むのは無謀と言うものではなかろうか。
なんとなしに四駆八駆の沼荒野で鉱石を漁ることにした。
「強制歩行モーション切り替え…」
四駆八駆の沼荒野の名の通り、沼だらけで採掘ポイントは大体沼の中央に位置する。
採掘のために買ったつるはしは地味に重いし、大きく持ち上げて振り下ろすのがワンモーションでそこまで増やしていないスタミナはあっという間に減るため動きはとても遅い。
石ころ
石ころ
石ころ
石ころ
石ころ
石こr―――
つるはしを振り下ろすのが嫌になった。
だがそれ以上に何の成果も得られないのが気に食わなかった。
弓矢を取り出し、つるはしを射るモーションに入る。
絵面は最悪。
人目に付いたらどんな奇行に入っているんだとツッコミすら貰うだろう。
だが、射剣の弓のストックを行うためには一度飛ばしたいアイテムを射なければならない。
【つるはしの分け身残30/30】
つるはしを矢のストックにすることが出来た。
「それじゃ、弓で採掘は出来るのかテストを始めますッ!」
沼棺の化石
沼棺の化石
沼棺の化石
沼棺の化石
灰色鉄鋼
「一撃で5ドロップ、だとッ?」
銀色鉄鉱
銀色鉄鉱
石ころ
灰色鉄鋼
灰色鉄鋼
「中々良いもん出るじゃん」
いや待て、そういえばユグドラシルの枝だって射剣できるのだろうか。
唐突な考えが脳裏をよぎった。
アイテムポーチからユグドラシルの枝を番えて飛ばすモーションに入って、キャンセル。
【ユグドラシルの枝の分け身∞】
「ん?」
【ユグドラシルの枝の分け身∞】
おかしいものを見てしまったような気がして目をこすって再び見るが同じ文字。
「いやいや、まだ採掘できると決まった訳じゃ…」
【ユグドラシルの枝の分け身∞】射出
ユグドラシルの枝の分け身はスッと鉱石に吸い込まれた
【ユグドラシルの枝の分け身∞】射出
ユグドラシルの枝の分け身はスッと鉱石に吸い込まれた
……見間違いではないらしい。
「採掘採掘」
再び【つるはしの分け身残28/30】を構え、射る
予想が外れていなければ何らかの変化を起こしているはず!
黄昏の欠片
黄昏の欠片
石ころ
石ころ
石ころ
……明らかにこの土地では出てきそうもないドロップをしてしまった。
まっさかぁ
再び【つるはしの分け身残27/30】を構え、射る
石ころ
石ころ
【この採掘ポイントからはしばらく発見できなそうだ】
……まっさかぁ
その後何か所かユグドラシルの枝→つるはしの順番で分ったことがある。
ユグドラシルの枝が吸い込まれた回数確定で黄昏の欠片がドロップする。
採掘ポイント一か所につき最大5個。
その後5回ドロップが発生し石ころのみがドロップする。
そして採掘ポイントが使えなくなるを4か所で確認し、黄昏の欠片を16個程入手した。
なんかやばい事をしているのでは…?
よほどヤバければ運営から文句かアカウント停止になるだろ(適当)
沼の脇に大量の石ころを並べこの大量のアイテムをどうにかせねばとセカンディルに歩を進めた。
……拡張インベントリ的なものが欲しいッ!
「おやっさん、色々ドロップしたからこれで何作れる」
「2時間もしねぇでよくもまぁこんだけ色々取って来たなぁ… 灰色鉄鋼、沼棺の化石、銀色鉄鉱、黄昏の欠片……た、黄昏の欠片ァ!?」
「うお、急にデカい声を出さないでくれ」
「な、なななななにうちにとんでもねぇもの持ち込んでやがる。並みの鍛冶師…うちじゃあこれは扱いきれねぇ宝石匠か名匠以上に加工してもらうんだな」
「そんなにヤバいのか」
「……やべぇやつに狙われたくなきゃ懐にこっそりかくしておけ」
「あ、はい」
黄昏の欠片、なんかやべぇものらしい。
湖沼の短剣は作ってもらえる模様。
鉱石で弓は作れないとのこと。
非公開で投稿したつもりがモロに投稿になってて非常に焦ってる図。
おっと心は硝子だゾ