何も知らない鳴坂和人くん(22) 作:スティック/糊
細かい事は気にしてはいけない。
夕方、致命の包丁の耐久値回復が終わり、泥掘りに挑みサードレマを目指すことにした。
ソロ殺しこと泥掘りをナレ死させ、この大陸でトップクラスにでかい都市ことサードレマへ到着した。
「今度こそ変なイベント発生しないよな…?」
サードレマ探索は気になるが、それよりも気になるのは千紫万紅の樹海窟。
なんかこう、フラワーマスターへの道おかわりに続いていそうな雰囲気を感じている。
適正レベル、足りているのだろうか。
基本的にレベル差はあってもプレイヤースキルでどうにかなることが多いため積極的なレベル上げを行っておらず、寄ってきたモンスターを確殺していっただけである。
セカンディルからサードレマに到着するまでに上がったレベルは8。
現在Lv.30となっている。
「モン〇ンの回復薬蓄えてるっぽい虫はっけーん」
サードレマのトンネルのような門を通り過ぎると光る苔の生えた出口がお出迎え。
千紫万紅の樹海窟だ。
早速あの袋切らずに上の虫だけ射れば手に入るのだろうか。
モンスターのエンカウント判定を受けないように距離を取りつつ、射る。
「っとぉ!?」
見事に上の、と言うか液体をため込んでる虫を射殺すことはできたのだが、キャッチは失敗。
随分と甘い匂いを持ち、やや粘性のある液体に包まれた。
…はちみつ…ではなく蝶の蜜と言ったところだろうか。
袋は柔らかいらしく高い位置にいたモンスターを倒した結果、二階から落ちてくる水風船を掴めというようなもので見事に蜜まみれになった訳だ。
「甘い…」
唐突ではあるがシャンフロ内には隠しステータスとして空腹値と言うものが存在し、適宜食事を取らないとプレイヤーの体感にデバフが与えられる。
基本的に食べても大味しか感じられないようプレイヤーの味覚はロックがかかっており、初心者の食事は基本的に虚無に近い。
味覚のロックが解除されればこの蜜も大味ではなく細かい味がするのだろうか。
「――‼」
蜜まみれで虚無っていると上空から大きなカブトムシが飛来してきた。
「そういえばカブトムシって樹液とかそういうの好きだったっけッ!」
クアッドビートル、ね。
「向かってきたなら容赦はしない!」
行動パターンとしては判りやすい部類に入るのだろう、角でつっかけて近く木にダイレクトアタックしそうなモーション、突き上げのモーション等々。
図体がでかい分モーションがわかりやすくて良い。
「甲殻はそれなりの強度、でも胸部と腹部の甲殻の間は弱いんじゃないかッ!」
小学校の理科の授業などはるか昔のこと、カブトムシには角のついている部位と羽の生えている部位、の2パーツで構成しているように感じてしまうが、大きな角とその付け根部分の目があるところが頭部で、短い角が生えている膨らんでいる周辺は胸部でその下が腹である。
羽が開いた瞬間を狙ってもいいのだが、常に露出している弱そうなところを狙えばッ
「【ヴォーパルストライク】ッ!」
一発確定。
うん、良好良好。
湖沼の短剣もちゃんと仕事をしてくれている。
効果のクリティカル発生時一定時間武器の耐久減少値を半分にしてくれる効果は射剣にしてもクリティカル連発してれば実質残弾倍という素敵性能で気に入っている。
何かの武器に使えそうだけど…なんか虫を防具にと言うのは謎の抵抗を感じる。
蜘蛛の糸とかならまだわかるんだけど。
戦利品を回収しているとあのクエスト表示が現れた。
『ユニーククエスト:フラワーマスターへの道おかわり』
【秘匿の花園にてヒガンバナを採取せよ】
謎にこの“おかわり”表記がむかつくが気にしないでおこう。
と言うか秘匿の花園is何…?
「こういう時はあれだ、レッツゴー【ユグドラシルの枝】秘匿の花園どっち!」
アイテムポーチからユグドラシルの枝を乗り出し地面と垂直に立て、手を放す。
倒れた方向に進む。
ドラ〇もんのミチ〇キステッキとか言ってはいけない。
花屋の店主の旦那が言ってたことを信じるなら導いてくれるだろう。
まぁ、古い占いの“うけい”のようなものだ。
当たればラッキーくらいのノリが良い。
ユグドラシルの枝に導かれるままに進んでいくと壁にたどり着いた。
その頃には完全に日は暮れ、満月がちょっと顔を出していた。
壁一面光る苔。
気のせいかと思われるような手のひらよりも少し大きな範囲だけ光らない怪しいエリアが存在したので調べてみると壁が抜けた。
「本当に導いてくれるのかよ」
キリトは知らないがほぼ偶然である。
漠然と秘匿の花園の方向をユグドラシルの枝は示し続けていたが隠し通路に来たのは運。
しかも満月の夜限定と言う鬼畜要素のおまけつき。
昨日あのままゲームを進めていたらこうはならなかったはずだ。
そうなれば一向にたどり着かないクソ要素となっていた。
こう、壁が抜けると千紫万紅の樹海窟の壁を片っ端から調べてみたくなる。
よほどの偶然でもないと気が付かない鬼畜のような隠し通路。
もしくはクエスト限定…とか?
そんなことを考えつつ、通路を進むと大きな岩壁に囲まれた空間『秘匿の花園』に到着した。
「一面のヒガンバナ、相変わらず花の季節ってもんがねぇな…」
一面のヒガンバナ、中央には桜の木。
さすがに桜は咲いていないようだ。
ヒガンバナは毒を持つ。
英名ではリコリスなんて呼ばれたりもするが、日本でも扱いは畑のあぜ道や墓の周りに植え土を掘り起こすような外敵から土地を守るためだという風土がある。
そして桜の木と言えば花咲かじいさんや、推理作品などを代表する死体の埋葬場所の代名詞。
この二つがあるなら誰かの墓があるのかもしれない。
『秘匿の花園』とは誰かの墓を守る園、と言ったところか。
そこの花を摘むというのなら墓に眠るものに挨拶をするのが礼儀ってものだろう。
桜の木の下へ向かうと確かに墓があった。
「【セツナ・アマツキ】さん、か」
この大きな土地に小さな墓だ。
彼女の身内かパートナーか、いずれにしても大きな思いがあったに違いない。
「あなたの眠る土地から一輪、ヒガンバナを頂くことをお許しください」
その大きな思いに恥じないようきっちりと地面に膝を付けて挨拶をし近くの一輪、手に取ろうと手を伸ばし―――
「好きなだけ持って行ってちょうだい」
「うおっ!?」
突然耳元で声を掛けられ驚き転がってしまった。
「初めまして、二号計画の…いえ、何でもないわ。あなたの名前を教えてもらえるかしら」
無様に転がったこちらを覗き込むように声をかけてきたのはシャンフロでは目にすることのない現実世界の科学者のような風貌の透けてる女性。
「怪しいものではないわ、この墓に眠るセツナの残滓のようなものよ」
「あ、ああ。俺はキリト。あーこれに導かれてヒガンバナを採取しに邪魔した」
「――それは、ユグドラシルの枝!?」
彼女の対面に正座するように姿勢を正し、ここへ導いたアイテムである【ユグドラシルの枝】を彼女に見せながら目的を告げた。
「【ユグドラシルの枝】まだ現存していたのね」
「妙な縁あって、な」
「そうなのね。あなたはあの人を眠らせてくれる人ではないみたいね」
彼女は少し悲しそうな顔をして、空気に溶けていった。
……もしかしてイベントフラグ折った?
まぁ、そんなときもあるか。
気を取り直してヒガンバナを摘んだ。
【あなたが進むのは花の道】
【本来とは違う道である】
『ユニーククエスト:フラワーマスターへの道おかわり』をクリアしました。
「あの人を眠らせてくれることはなくとも、きっとあなたは―――」
【道は違えど未知は交わるだろう】
【ユニークシナリオAnother:アヴァロンにて】を開始します。
「そう、きっとあなたはあの地にいる彼に挑むのでしょう」
今度は確かな実体のような彼女が現れ、確かにそう告げ
辺りはデータのバグを示すようにズレていく。
隠されていたレイヤーに移るように。
〇
ズレたそこは何里に至るかもわからない大きな、花園。
視界の端まで見渡す限りは花一面。
「貴殿は何者か」
【大英雄のウェザエモン】と遭遇しました。
正面の大きな木に一人、武士のような風貌の男がいる。
口ひげを生やしたラテン系の偉丈夫。
「えー、通りすがりのキリトと言うものでこれに導かれ、やってきました」
「――そうか、ならば真価を私に見せてみよ」
先ほどの女性、セツナの残滓に説明したようにユグドラシルの枝を彼に見せた。
「構えろ、花の道を行くものよ」
「―――はい」
このゲーム突然の戦闘が多すぎやしませんか。
継久理 創世!
構えたのは手に持ったユグドラシルの枝。
耐久値とかそんなものは知らない。
何となく、この場で構えるなら致命の包丁でも湖沼の短剣でもなくこれが一番良い。
そう感じたからだ。
「私の知らぬ構えだ」
「アインクラッド流っていうんです。出来立てほやほやの」
「さすれば貴殿は開祖、しかしその堂に入った姿は目を見張るものがある」
「それはうれしいことで!」
「来い。我が晴天流にて相手をしよう」
こちらが仕掛けると多くを語る必要はない、そう言わんばかり。
動き出しはこちらが速いが、それ以上に彼の動きの方が速い。
流派の戦い、そう思わせるような口ぶりに初手選んだバーチカル。
それよりも早く、横からこちらをたたき切るような上段に構えたウェザエモンがいた。
「ッ」
「ほう」
力技のように体をひねり上げ、モーションキャンセルを挟み込み受け止める。
「冗談じゃない速度だ」
「まぁ、な。だがこんなものではないだろう」
「ああ、力試しのように挑んだことを深く反省してる」
「良い」
「今の俺では圧倒的力不足みたいだが、理不尽ってほどではなさそうだッ!」
「そう言われたのは初めて、だな」
彼はウェザエモンはバグかと思ってしまうような強さだ。
だが、お前のようなモンスターを何度デザインし、ゲームバランス調整に勤しんできたと思っている。
ああ、ちょっとぬるま湯じゃねぇかと思っていたがどうやらこのゲームは俺が本気で暴れても受け止めてくれるらしい。
「アインクラッド流だけ、なんて勿体ねぇことはしねぇ。俺の本気をもってお前を叩き切る!」
「吠えたな!」
「負け犬の遠吠えじゃねぇ、これは咆哮だ」
シャンフロの本来の操作ではない左手二本の指で開くのは今使用しているVRマシンのコンフィグだ。
疲労せず楽しめるよう調整していた反応速度のリミッターを切る。
こんな未知の面白いもんにリミッターなんて無粋だ。
俺の、キリトの本気を見せてやろうじゃないか。
〇
『ヴォーパルストライク‼』
これは人間の動きなのか。
ユートピア社地下10階。
シャングリラフロンティアのメインルームと言える原典資料室にて、継久理創世は驚愕に包まれると同時に自身の作り上げた大戦の英雄を、原典の強さのままであるウェザエモンと凌ぎを削るその光景に管理者と言う立場を忘れ興奮に包まれていた。
自身と共にVRゲームの発展に大きく寄与した天才が一昨日ログイン開始したのを知った。
継久理創世の世界を作る本当に初歩の手伝いをしてくれた、自身と似ているようで別の次元にいる天才。
いつか彼は彼だけの世界を作るだろうと待ち望んでいたのだが待てど暮らせど一向にその気配はなく、先に出来上がった自身の世界への入場を最速で味わえるようにしたというのに彼がログインしたのはそれから半年もしてからのこと。
システムの通知でファーストプレイヤーとして設定した彼がログインしたことをしった。
確かに彼は満喫してプレイしていてどんなもんだと口角を持ち上げたものだ。
だが、そんなことはもう過去のこと。
今は彼女の英雄と天才との戦いに目を離せない。
このユニークシナリオAnotherは継久理創世の意図したものではなく、サーバーのAIにより独自に発生したもので管理者の“AIの作り出す未知”に対する期待から放置してきたものだがこんなにも楽しいものを作るとは思いもしなかった。
この光景を見れただけで彼女は彼をこのゲームに招待しただけの価値がある。
そう確信した。
先ほど彼が何か操作をしたようだがチートは検知されていない。
ハードは彼が、ソフトは継久理の領域だ。
それに、チートツールなんて無粋なことを彼はしない。
「この行く末だけは決して邪魔させない」
この光景を見届ける義務がある。
継久理創世は24インチの画面にかじりついた。
ウェザエモンの口調とかマジエアプ
シャンフロアニメ18話のEDのアレが武装して挑んでくる感じです。