何も知らない鳴坂和人くん(22) 作:スティック/糊
キリトは加速し、時間をひねり出し今日も今日とてシャンフロをしていた。
‥…リアル?
仮称P・P プロジェクト:プラモと仮称が決まったプロジェクトが進行中。
この世界のプラモ会社大手との提携も順調のようで、こちらまでお礼の手紙が飛んできた。
先行使用?運営会社と交渉して。
そんな訳で狼耳搭載し、へそ出しニーハイソックス男の娘と言うヤベー情報過多の事故を起こしているキリトは目的のレベルキャップ開放をしたので、これからどうしたものかと次の目標について海岸で考え始めた。
それともう一つ。
指輪のデザイン決まらねぇ…。
機械のメンテナンス結果問題はなく、金属の塊も届いて直ぐに削り出しができる状況。
重ね付け前提で考えるなら婚約指輪に沿うデザインにするのがベター。
つまり婚約指輪を先に考えろと?
いやいやいや、キリトは頭を横に振り誕生日プレゼントになんと言うもん送ろうとしてんねんと邪念を払う。
微妙な顔されたら1年くらい立ち直れんぞ。
保険だ保険とブランド物のネックレスも用意したが、一度決めたからには遂行せねば……。
別に左手薬指に着けてもらうとは限らないし、どの指に着けるかは紗音次第なのだ。
深く考えてはならない。
そうなると似合いそうなデザイン、角ばったデザインよりはSウェーブとかツイストとか…甲丸だと味気ないし…。
悩んでも結果は出ないので金属加工の神髄と言わんばかりのテクニカルなものになりそうだ、と技術屋としての自分にため息をはいた。
残り時間も僅か。
数日後に迫って来た
そろそろ決めねば。
……出たとこ勝負で、その時の自分に任せよう。
いくら考えても実現できるかどうかは別問題。
いや、意地でも作るんだけども。
それは現実に戻ってから。
今はゲームを楽しもう。
キリトはようやく切り替える算段を付け、両手で頬を叩き気合を入れた。
「さて、新大陸散策を再開s――」
「あ、バレた」
ゆっくりと立ち上がるとだいぶ近い距離に、と言うか隣に女性が居た。
ゆるいウェーブの赤髪に魔法使いと言わんばかりのローブが特徴の女性だ。
彼女の頭上を見るとディープスローター。
……流石に下ネタ的な意味はなく、多分虐殺者とかそっちの方面だと思う。
「えーっと、何用で?」
「海に向かって百面相する面白い人がいるなーと」
「……忘れて頂いても」
「お断りさせて頂きます」
にやにやとこちらを見る女性に、何とリアクションしたらいいのやら。
キリトはなんか癖が強そうな人に捕捉されてしまったと若干のしわくちゃ顔になる。
「ぷっ、何その変顔」
「面倒ごとに巻き込まれそうな予兆?」
あ、冷静に考えればうちの婚約者(仮)に比べれば大体の人物は癖が薄めだ、と思うくらいにはキリトの思考は汚染されていた。
「あ、切り替わった」
「じゃ、フレに呼ばれたんでこれで」
キリトはサクッと逃げるようにその場を切り抜けようとすると、まるで読まれてたように行く手を阻まれた。
両手を頭上で固められ、胴に馬乗りされるような構図である。
「あ、ごめんね。つい」
「……絵面は色々不味いかなー、こんなビジュだけど男性プレイヤーなんだけど」
半ば押し倒されるように拘束されたキリトはヘルプミーと叫びたいところだ。
「へぇ、にしてはだいぶ……」
「ほとんど知人の策略なので!スペックに負けて着ているだけなので!」
すっと細められた目が舐めるようにキリトの容姿をざっと通される。
「流石にセクハラ認定掛けたいところなんですけど!?」
「あ、ごめんねぇ」
ぱっと、放されるように解放されたのでキリトは滑らかに脱出した。
初対面の女性プレイヤーに押し倒されたぁ…。
……コレ紗音にバレたら監禁案件では?
相手がネカマだったら許され……なさそうだ。
「……なんか威嚇する猫みたいで可愛いねぇ」
「猫と違うが!?」
解放されたらこちらの物だ、と全力で距離を取る。
「そこまで距離取られるとかなしいぞぉ」
「初手馬乗りしてとんでもない事言い出したこの人!?」
キリトはさらに距離を取った。
何なら疑似改宗[夜襲]で逃げる気すら有った。
「まぁまぁ」
「え、もしかして距離感壊れていらっしゃる?」
さっと距離をとってもニュっと距離を縮められ、ちょっとした恐怖体験である。
「よしよーし怖くないぞー」
「だから猫と違うが!?」
え、本気で逃げていい?
キリトは逃げの体制に入った。
「さて、冗談はここまでに」
「果たして冗談だったか?」
ディープスローター、紗音に次ぐくらいにヤバい奴。
キリトの記憶にそうラベリングされた人物は「ちょっとした小粋なジョークだよ」と、改めてそこそこな距離感で距離をキープし自己紹介を始めた。
「私はディープスローター。ちょこっと暴れるのが好きな賢者やってます☆」
「……」
「くっ、何というかこう、新鮮な気分になるよぉ」
「で、何用?」
キリトの視線はそろそろ氷点下に突入しそうであった。
「あ、嘘ウソ。さっきはこう、ダーリンの動きに類似してたから反射的に…」
「その相手に謝罪した方がいいのでは…?」
「……あ、やばい、え、初対面の男性プレイヤー押し倒した?うそでしょ?」
そう言うと彼女ははっとしたようになり、ブツクサと口早に独り言を始めた。
ざっくりまとめると、私は浮気は絶対するつもりはなく、ただの事故と言うか条件反射と言うか、決してそう言った意図はなく、こうロール的に釣られただけで私にはあなたしかいなくて、あれ、だいぶ罪深い?―――私その相手だったら【
……すっごいバイオレンス!
「―――スゥ、はい。仮に貴方のパートナーであった場合その相手に地獄を見せていると結論付けたので全力で詫びます、ごめんなさい」
しかも思考がだいぶ二転三転してたのを窺えるのに早いな。
「以後気を付けて」
「はい、気を付けます」
なんか急ブレーキのかかり具合とシンプルな暴言レベルが紗音っぽいな?
後で聞くか?
いや、シンプルな自己嫌悪に陥ってヤバそうなのでそっとしておくか。
「お詫びと言ってはなんだけど、大陸間移動したいときは転移門開くから。その時があったら連絡してね」
PN:ディープスローターさんからフレンド申請が来ました。
[申し訳ソーリー]
はい
いいえ ▽
「あ…」
キリトは
妹との雑談でゲーム内知識の更新が行われていなかったら分らなかった。
転移門持ちは異常に少ない事に。
PN:ディープスローターさんへフレンド申請を送りました。
[申し訳ソーリー]
「え?」
「自己嫌悪は程々にしとけよ紗音」
「……えっ?」
キリトのそのセリフにディープスローターはポカンと口を開けてしまう。
「あ、どーも現実でVR博士やってるものです。シャンフロのフレンド催促スルーしまくって申し訳ソーリー?」
「な、ななななななんあなぁ!?」
キリトのそのセリフでようやく点と点がつながった彼女は激しく狼狽した。
「あ、完全に偶然で今しがた気が付いただけだから」
「ぬ、ぐぅああああああああああああ!!!!!!」
「怒りおる」
「―――」
「あ、おとなしくなった」
ディープスローターの中の人、彬茅紗音はオーバーヒートした。
―あ、アレ、つまり私はセーフだった?
――いやちょっと待って、あっさりと押し倒されたぞ、このダーリン。
―押し倒された?私以外の女に?いや、私だったんだけど。紗音ちゃん大勝利?
―あれ、さっき本人にダーリンって言わなかった?
――脳内だけでとどめてたのに?
―え、何?つまり目の前にいるのは婚約者(仮)?
―こんな偶然ある?
――やっぱり運命だぁ、すごい!
―このダーリンだいぶあざといアバターでシャンフロしてる。
――変な虫ついてないよねぇ?
―早急に尋m…お話しないと
――それはそれとして私のセンサーは一切狂ってなかったし、見惚れていた相手は旦那様。うん、セーフ。
―え、あれへそ出しだ。エッチ過ぎない?今すぐ私で隠した方がいい?
――しかもなんだよその絶対領域。ガーターリング、エッチ、お札入れたいよ。
―リアルで絶対短パン履かないじゃん。
―短パンとか可能性があったころ私がツンツンしてたのが悪いんだけど。あー勿体ないことした。時間巻き戻したい。
――旦那様との時間が無くなるとか耐えられない。なし、なしで。
――片足ソックスでショタっぽい細身の足にベルト?締めなおして良い?と言うかその間に手を突っ込みたい。
―まて、仮にこれがショートソックスでソックスガーターとかでも死んでたよ。
――逆説的に言えば今生きてるのが奇跡まである。
―――手袋…はないな。腕は華奢…ってなんだよもう、そのぴっちりとしたインナー!エッチすぎる!
――顔が幼い……これは将来旦那様のご実家挨拶に伺った時にアルバム見せて貰わないと。
――アルバム?彼が私以外と映ってるツーショット見たら私死ぬのでは?
―あ、大丈夫、彼中学校の頃からほぼカムラに出没してる帰宅部だったし、高校は通信制。一番火力が高い期間はセーフ。
―むしろキャンパスライフの方がモテるとか一般的には言うよね、あ、これも研究室に引きこもりしてた時期だから大丈夫だ。よかったぁ…。
―――
――
―
なおこの間0.05秒である。
「あ、復活した」
それはそれとしてムカついたので、ディープスローターはフレンド申請の『はい』を神速で押して再度キリトを押し倒した。
「はいはい、わかったわかったからそろそろ離れて。出会い厨絶対殺すアラートがうるさいから」
「一緒に死のう?」
「可愛い声出してもダメです。まだ新大陸でセーブポイント更新してないので勘弁してくれ」
長い長い紗音――ディプスロの言い訳を出会い厨絶対殺すアラートを聞きながらあらかた聞き終えたキリトは、致し方あるまいと瞬間的に疑似改宗[夜襲]を開放し、近くの影に潜り込んだ。
「え、あざとい!」
「えぇ…」
ある種想定されたリアクションにキリトは「どないせいっちゅうねん」と、さじを投げたくなってきた。
「さわ、触って良い?」
「まぁ、良いけども」
先ほどまでさんざん抱き着いておいてまだ足りぬと?
それはそれとして身内にゲロ甘いキリトはそれを良しとした。
が、一瞬で後悔した。
「――はむっ」
「なに食べてんねん?!」
耳を食われた。
「は?そんな可愛い格好してたら食べない方が失礼だと思わないの?」
「………なんと答えればいい!?」
「素直に答えてくれたらその格好完全再現したのを着替えに持って突撃するよ?」
「ノーコメント!!!!!」
キリトはシャンフロ始めてからおそらく一番デカい声でその言葉を発した。
ディプスロはひどく満足そうである。
くっ殺。
キリトは追い詰められた女戦士の様な気分である。
「あまり可愛いことしないで、襲うよ!」
「なんで俺が怒られてんの!?」
ディプスロが落ち着くまでこのコントは続けられた。
〇
「それで、キリト君はまだ前線拠点には行ってない感じかなぁ?」
「そのキャラで行くんだな」
「私にだってロールがあるんだよぉ」
それなりに調子を整えたディプスロが少し恥ずかしがるようにダルがらみを始めた。
「素の紗音ちゃんを全開にするのはダーリンだけですぅ!」
「はいはい」
……ん?ダーリンと言われなかったか。
多分空耳。
キリトは雑に流した。
「で、前線拠点。セーブポイントに案内してくれるのか?」
「スルースキルたかぁ…鍛えたの私だけども。ん゛、まだ整備しきれてないからテント用意するねぇ」
そう言ってディプスロはアイテムを取り出そうとしたがキリトは止めた。
「ある種の裏技があるから大丈夫だ」
「うらわざ…?」
「まぁ、内緒だが」
「もーもー!」
「ハハハ」
雑談をしながらディプスロが新大陸についていろいろと説明をしてくれる。
「と言うか、いつ新大陸まで来たのさ。僕はこんなクセ強男の娘見た覚えがないぞぉ?」
「え、数時間前」
「…?」
「何か疑問に思うことあったか?」
「大陸間移動の船の第二陣まだ出てないよねぇ?」
「出てないな」
「ではどうやって?」
「海を走って」
「…?」
「?」
思考がそれなりに早く、複数のことを並行して処理することのできるディプスロでも流石に想定してない回答に首をかしげてしまった。
造船したよ!くらいならまだ分かるのだが。
まさかの海を走って。
意味不明である。
「一点特化の極振りステでもしてるの?」
ディプスロの日々更新し続けるシャンフロの掲示板やプレイヤー間の噂でも海を渡れるような特殊なスキルはなかったはずである。
懸念するとすれば運営アナウンスで攻略したことが判明した深淵のクターニッドの報酬にその可能性が無きにしも非ずだが、彼、キリトの名はアナウンスになかったと記憶している。
そのプレイヤー間で交換が行われた?
そんなことが表立っているならライブラリが黙っていないはずである。
故に、俊敏に極振りしたら水上を数歩歩けたという検証情報を聞いてみることにした。
「いや?」
「…?」
違うらしい。
「どうやって来たか教えて欲しいな?」
「うぐっ」
ディプスロは全力で媚びた。
あざとい声を出すわけではないが、少し上目使いするように清楚感ある声で迫られるのが弱い事を紗音は重々承知していた。
……あれ、私の現実じゃないガワにクラっとされるのちょっと複雑。
数年前までは確実に至ることのなかった思考に紗音は少し困惑した。
「あー、スキルだ」
「新発見系?」
「自作系」
「…?」
サプライズ系は極力行いたくない系のキリトは、先ほどのこともあり詫びの気持ちも持ってゲロった。
再度ディプスロは頭にはてなを浮かべる。
プロの将棋指しのように数個の並列思考を並べるが、そのどれもフレーメン反応した猫のように使い物にならない。
プレイヤーは経験の中でプレイヤーの[モーショントレースによる閃めき式][スキルレベルを上げることで上位スキルへ派生][特技剪定師によるスキル合体]が獲得手段として挙げられる。
それに属さないものとすれば秘伝書やマイナーな流派系。
そんな便利な流派系があるならとっとと取得している。
イメージとして挙げられる忍者系スキルにそのようなモノはなかったはず。
そもそも自作と言った。
開拓者が任意のタイミングでスキルを生成できるなど聞いたことが無い。
作れそうなのと言えば聖女イリステラ案件?
仮にそうだったら聖女ちゃん私ぶっ殺しに行くんだけど。
いや、私のスキルみたいに空…?でも走って来たって言ったし…。
ディプスロは混乱した。
「まぁ、スキルなしでもやろうと思えばできるんだが」
「わかるかぁ!!!!」
「うぉ、急に大声出さないで」
そう言いながらキリトはナチュラルに近くの木と垂直になるように上り始めたので、ディプスロのゲージは吹っ切れ思わず大きな声を出してしまった。
「どういう原理…?」
「足裏にマナを出して木とくっ付けてる」
「えぇ、何そのシステム外スキル」
ディプスロはちょっと引いた。
ああ、そうだ。このダーリンは割とシステム内の機能でシステム外のことをやらかす人だった。
そう思うと割とすんなり受け入れられた。
「確かに理論上行けるのかなぁ…」
そもそもそんな理論あるのかとディプスロは訝しんだ。
「海の上では足裏からマナ放出し続ける感じだな」
「すぐにガス欠しない?」
「回復手段があるからな」
……このダーリン規格外すぎるッ!
ディプスロはプレイヤーとしての自分をいったん脇に置き、紗音を表に出すように彼のぶっ壊れトークを楽しんだ。
ディプスロのまんまだったら受け止めきれそうな気がしない。
絶対にリスキルで全情報吐かせていた。
それはそれとして[創流の素体]とか言うぶっ壊れアイテムにはそれ相応のPSが求められ「成功できる人いるの?」と、また脳裏にフレーメンキャッツ、宇宙猫を背負った。
※現在作中時間
サンラク:仇討ジョブチェンイベあたり
・N話後予告風味
お願い、死なないでASN!
あんたが今ここで倒れたら、将来の野望や夢はどうなっちゃうの?
タイムリミットはまだ残ってる。ここで二択を外さなければ、SYNNにだって勝てるんだから!
N回「ASN◯す」デュエルスタンバイ!