何も知らない鳴坂和人くん(22)   作:スティック/糊

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感想誤字報告感謝茄子

はい、Xデー


9/16(1)

 9月16日 土曜日

 

 日付が変わったあたりで19歳おめでとうメールを送り睡眠に入った和人は朝6時に起床した。

 

 

 シンプルに金を持っているので寝具はだいぶ高級志向。

 部屋にぶち込めるダブルサイズのベットから体を起こすと―――起こそうとすると、だ。

 

 壁とベッドの間にナチュラルに入り込み、人の右腕を枕にしている人物がいた。

 腕枕されるとシンプルに腕が痺れるんだが…。

 

「何してんだ己は」

 

 あまりの衝撃に目がパッと覚めてしまった和人は枕にされていない左手で対象の頬をつついた。

 

「ふみゅ…」

「ワザと萌え声を作るな、起きてるんだろ」

「…バレた?」

 

 対象:彬茅紗音はいたずらっ子の様に笑う。

 

「事前申告しろ、心臓に悪い」

「したよ。確認されてないだけじゃない?」

 

 想定外のことは基本的に考えたくない和人は婚約者(仮)に注意をするが、相手はしたという。

 

 と言うことは……この部屋に突撃する直前か。

 

 キリトは首につけっぱなしのアクセルリングを起動させ、メッセージアプリを確認する。

 

「最高の朝を迎えたいのでこれからお邪魔するね?[1:40]」

 

 それを察したように紗音はその内容を読み上げる。

 

「深夜に突撃は色々な面で危ないからやめろ、そこまでするなら前日の晩からにしとけ」

「―――え、いいの?」

「今更そのくらい気にしねぇよ。あとこういった類のことは返信を確認してからにしてくれ」

 

 夜間はシンプルに変質者問題とか緊急時に動きづらいとか、門河さんをそんな時間に労働させるなと言う所だ。

 いや、あの人喜んでやるだろうな……御年64歳に無茶をさせるな。

 

 和人が滾々と説教するも、紗音は大義名分手に入れちゃったなーくらいのリアクションである。

 

「ご丁寧に特殊式にしてまで突入すんな」

「流石に日常使用はもしもがあったら困るし」

 

 今紗音が使用している義肢は、彼女を死の淵から帰還させたマジヤベー医者と和人の合作である。

 

 特殊式と呼称するくらいにはぶっ壊れ仕様で実際の筋肉と同格の繊維物質を頭おかしい配列で組み込み、骨に置き換えられた金属性の芯が脳からの電気信号を受信し稼働させている。

 表面も義肢用のバイオ皮膚に覆われているので外見はまんま生身と変わらない。

 

 問題を上げるとすれば、量産には一切向いていない化け物みたいな価格になること。

 信号処理バッテリーの持続問題。

 重量比として芯になる金属の選定がシビアなこと。

 耐久性の問題等々。

 

 そもそもこの男が積極的に表に出す気がない事が挙げられる。

 基礎理論は論文として出している。

 だがその理論をどう実現すればええねんとブチギレられているのだ。

 

 この義肢を作成するにあたり、作成費用は彬茅持ちで制作も彬茅関係の会社で行われている。

 繊維質関係の権利はマジヤベー医者の秘匿情報なので和人には未知の世界である。

 

 コレ解明できればミニエモンの柔軟な動きが出来そうなんだけども、なんて考えるあたりこの男も大概おかしい。

 

 特殊式常用しないのはそもそも紗音が引きこもり体質で、大学は名門で在籍しているが、通信VR制を選択しているからである。

 後はメカニカル式の方が単純にバッテリー持ちがよく、パワーアシスト機能が搭載されているので移動が楽と言うのが挙げられる。

 このVRダイブシステム認証のハード側の処理を政府に押し付けられた和人はキレた過去がある。

 

 

「そろそろ腕枕は諦めてくれ、腕の感覚ない」

「あ、そういえば痺れるんだっけメンゴ」

 

 クッソ、文句言いたいのに言えねぇ。

 2割くらいで天然のボケを入れてくるのでリアクションがしずらい。

 

「……着替えたいからいったん出てくr―――俺が移動した方がいいな」

「えーここで着替えてもいいのに」

「お前も躊躇いなく脱ぎ始めるな!」

 

 和人は急いでウォークインクローゼットに逃げ込んだ。

 

 流石に未婚の年頃の肌を見るのはアカンだろ。

 恋愛観堅物の領域な和人はだいぶ早い動きであった。

 

 深くため息をはきながら正座した後の足の様に痺れる腕を無視しながらサッと着替えた。

 

 

「……和人君服のセンスは悪くないんだよねぇ」

「これは妹セレクション」

 

 ウォークインクローゼット(服より機材の方が多い)に避難し30分くらい待ち、出ると半裸で待機している紗音と言うトラップはなく、和人は素直に部屋に戻った。

 

「あ、妹ちゃんいるんだっけ」

 

 ビックリするくらい遭遇しないから忘れかけてた。

 今の服装は今の服装でシンプルにまとまって中々悪くないけど、それはそれとしてこれは自分好みの服を着せることいけるか…?と紗音は思考する。

 

 和人に朝飯もまだだろうと促され紗音はリビングに向かう。

 

 あれ、そういえば見慣れない女性ものの靴が玄関にあったような…?

 

 もしかして。

 

 紗音がそんな思考を巡らせている間に和人はリビングの扉を開けた。

 

 そこにはまるで実家の様なラフさ、寝間着のままシリアルを食べARグラスでネット閲覧をしているらしい真登香が居た。

 

「兄さんおは―――え、誰!?」

 

「……あ、そういや昨日の晩に来てたか」

 

 学校の用事で休日に学校へ行く予定があるから昨日の夕方、学校から直で妹が来ていたことを和人はすっかり忘れていた。

 ……あれ、身内と婚約者(仮)の初邂逅これでいいのか? 

 

「初めまして、和人君の妹さんかな。朝早くからお邪魔してごめんなさい」

「い、いいいいいえ、こんな格好ですみません。――――ちょっとお兄ちゃん!」

 

 真登香は突然の出来事に混乱し、昔の様な呼び方になってることにも気が付かずに兄を呼びつけた。

 

 これは全面的に俺が悪いと和人は紗音をテレビ前のソファーに案内し、テーブルの方にいる真登香の元へ移動した。

 

ちょっとちょっと、え、誰、どちら様!?。あんなAPP18くらいありそうな超美人私知らないんだけど!?

「あー、婚約者(仮)だ」

(仮)ってなに(仮)って!美人局的なアレ!?いや、あのビジュアルならついていくかも…

「別に騙されてる訳でもないんだが」

 

 突然始まる鳴坂兄妹作戦会議が開始される。

 リビングの隅にしゃがんで、だ。

 この妹の変なところのちょろさには少し心配になる兄である。

 

「と、とりあえず着替えてくる」

「この後学校だろ、気にせず行っても――」

「できるかアホ兄!」

 

 真登香は和人の脛に一発蹴りを入れ半ば占領してる部屋に逃げ込んだ。

 

 脛にダメージを負って悶絶していると紗音が近づいてくる。

 

「あはは…朝来るの少しタイミングが早かったかな」

「これは完全に俺のうっかりだ。アレが俺の妹の真登香、今高2だな」

「2個下か…私腹違いの兄はいるけど年下の子はいないから新鮮」

「そう言ってもらえると助かる…」

 

 和人は脛を擦りながら妹が復活するまでしばし待った。

 

 紗音は紗音で「和人君の妹かわいい、シャンフロのキリト君のベースは妹さんと言う訳ではないことは分かったけど、小動物感あってフワフワした感じですっごい可愛い」ととてもにこやかなままその時を待った。

 

 

 

 時間にして30分ちょっと。

 和人が茶を入れたりしていると真登香が私立エテルナ女子学院の制服に着替え、いつも以上に身だしなみを整え、再びリビングに現れた。

 

「改めて、初めまして。鳴坂真登香です。何かとだらしない兄ですがよろしくお願いいたします」 

「ではこちらも改めて、彬茅紗音です。彼とはなんやかんやそれなりに長い付き合いになるよ。真登香ちゃんって呼んでも良いかな」

 

「ハイ!何とでも自由に呼んでください。あ、これつまらないものですが……」

 

 真登香は紗音に挨拶すると同時に薄型のデジタルフレームを差し出した。

 

「おい愚妹、なにを出した。シンプルに嫌な予感がする」

「え、兄さんの小さい頃からのアルバム」

 

 いつか兄さんが彼女連れてきたら絶対渡そうと用意してたんだよね、と真登香がやや邪悪な笑みを浮かべ、それを聞いた紗音のご機嫌は天元突破。

 

「えへへ、最高の誕生日プレゼントだよぉ」

 

 真登香から渡されたデジタルフレームを凄く大事そうに紗音は抱きしめた。

 APP18から繰り出される満面の笑みに真登香は一瞬意識を失いかけた。

 あ、え、今誕生日とおっしゃったか?

 そんな気持ちを込めて真登香は兄を見る。

 だが、兄は両手で顔面を隠しうなだれていた。

 

「あー私なんかやっちゃいました?」

「とりあえず学校行ってこい」

「はい」

 

 やっべ、兄の婚約者さんを祝うイベントの一部壊したかもしれない、と考えた真登香は失礼しますとその場を後にした。

 

 今度の兄の誕生日辺りは手の込んだ料理作って謝罪しよ、真登香はそう決意した。

 ……あれ、昨今の兄の誕生日だいぶ私が占領していたがだいぶ罪深いのでは…?

 アルバムであの喜び様なので兄の昔のエピソード集でも用意しておこうとそれも心に決めた。

 

 

 〇

 

 

「本人の前でアルバム広げるのは非人道的なのでは?」

「えーそんなことないよぉ。あ、胴着も可愛いねぇ…」

 

 和人は朝食の準備をしつつ、にこやかにデジタルフレームをスワイプさせる婚約者(仮)にどんなリアクションせぇと小さく真登香に怒りの感情を送った。

 妹が彼女に贈ったものなので取り上げるとかはしない。

 

 朝食が準備されれば彼女はちゃんとデジタルフレームを脇に置き行儀よく食事をするので、こういう所育ちがいいよなぁ。

 

「それで、和人君は今日どんなふうに私をもてなしてくれるのかな」

「午前は例年の様にケーキ作って、午後は出かけます」

「はーい」

 

 誕生日に何かしたいことを聞くと、一緒にケーキを作りたいという要望があったので、あらかじめ用意した材料でケーキを作ることにする。

 

 一人暮らしの成人男性と思えないくらいには和人の家のキッチンは充実している。

 

 ほとんど自炊する訳でもないが、真登香が「実家のキッチンより使いやすい」と手の込んだ料理をするのにちょこちょこと調理器具をそろえたり、いつ使うんだという変わり種のアイテムを「なんか面白そうだから買っちゃった」と持ってくるからである。

 当然の様に金銭の出所は和人の財布。

 あまりにも突撃してくるのでいちいち食費を渡すの面倒になり、この家で消費する分は好きに使えと家族会員のクレジットカードが渡されている。

 

 この食材は使うなと付箋を貼っておけば使わないが、それ以外は割と自由に使っている。

 

 朝食を取ってだらっとソファーで珈琲飲んでシャンフロトークであったり、和人の仕事の話であったりが始まる。

 

「……全体的に子供の頃の夢叶えましたって感じのシステムが多いよねぇ」

「それがVRの強みだ」

 

 実家でアホほど紅茶を飲んでいるからと言いつつ、単純に和人と同じものが飲みたい紗音はカフェラテを飲みながら最近の和人の仕事事情を聴いた。

 

 着々と進められているプロジェクト:プラモ。

 最近発表されたネフィリム・ホロウの続編とは機体と融合するか、それともコックピットに乗り込み自身の機体を操縦するかで分けられたで棲み分けはそれなりにされている。

 それにプロジェクト:プラモは自分でプロモを作ったことのある人の一種の夢である自分だけの機体に乗り込める。

 

 現代に置いて趣味職と言うジャンルの職業は機械には真似ができないニッチな需要を獲得し、それなりの就労人口が存在する。

 そこに切り込みを入れたシステムは少ないものの、マニアには飛びつかざるを得ないものだろう。

 

「プラモってことは……戦車とか戦艦、シンプルにバイクとか…ミニ四駆とかもできるの?」

「そこらへんも詳しい専門家の協力を得てシステム構築中。いくつかは別になるかな」

 

 露骨なカテゴリー違いは棲み分けとしていくつかのフィールドに分類するという。

 戦闘カテゴリー

 レースカテゴリー

 マニアの鑑賞カテゴリー

 大きく分けるとそんな分類予定だという。

 

 尤もバイクで大型ロボを駆け上がりたい馬鹿な要望にも応えられるように、どのジャンルも移動自体は可能で機能制限による比較的平和を実現しているという。

 

「じゃぁ、あのメインカメラがやられただけだごっことか、ニュータイプごっことかもできるの?」

「ああ、戦闘カテゴリーにはスキルシステムも組み込まれる予定だ」

 

 機体のスペックを操作人のスペックで超越するのは一つのロマンだからな。

 

「レース…って言うと確かに車とかバイク、漫画のSF的乗り物も現実では難しかったりするもんねぇ」

「車やバイクは俺の専門外過ぎるから運営会社にそこらへんが好きなもの好きが居てそいつに監修投げてる」

 

 下手するとリリース再来年ぐらいになりそうなんだよなぁ…なんて和人は零すが、マニアはそれくらいプラモ作って待つのでは?と紗音は訝しんだ。

 

「プラモデル読み込みに全国にステーション作るとか行動力凄いよねぇ」

「ああ。こういうことやらないか?なんて言った次の日には動いててビックリした。彬茅関係のビルの誘致関係ではお世話になりました」

「お世話しました」

 

 あのロボットバーサーカー共が「うるせぇ、そんなの待ってられるか!」と暴走しそうになったので紗音経由で彬茅社長に渡りをつけ、そこらへん総括する担当と直接交渉することになるとは…。

 

 年に何回もスーツ着たくねぇよと和人は愚痴るが、紗音的には旦那のネクタイを締めて送り出すという小さな目標が叶ったのでウキウキでその話を進めた。

 

 まぁ、それに伴って和人は紗音父との会食を組まれ胃にダメージを負った。

 

「それで、もう一つのプロジェクトってどうしてるの?」

「あーあれかぁ……」

 

 とりあえず今年はプロジェクトプラモで忙しいから後回しかなぁ、なんて和人は天井を見上げて呟く。

 

「AR新規スポーツ、面白そうなのに」

「ある種被っちまったからなぁ……」

 

 AR新規スポーツ、VR規制派のめんどくさい奴らをこちらのフィールドで楽しませればそれは勝ちだろうと言う発想で生み出された現実の体で動くAR式のスポーツゲームだ。

 

 オーグマーの話が来てから更に開発は加速したし自由度は上がった。

 だが和人の仕事量も爆増した。

 それなりに開発部に仕事ぶん投げてるんだけどベース構築がめんどくさい。

 

 技術主体はカムラ、会場となる施設開発は彬茅主体。

 

 メインスポンサーであったり、運営事務局は……彬茅のスポーツ好きな天下りであったり、政府の絡みがあったりと中々面倒くさい。

 面倒くさいがVR規制派をそこら辺の関係者で抑えるという方面では進めなくてはならない。

 

「一応こんなことしてますよーくらいは発表したり、色んな圧力で新国際展示場近くで急ピッチで作られてるから、やんなきゃいけねぇんだよ」

 

 システム以外の面倒ごとは全部カムラの営業と彬茅に投げた。

 うん、これが技術屋的ポジション。

 

「ま、ゲームが息抜きの人間としてはある意味開発も趣味みたいなもんだけどなぁ……」

「そこはほら、私が癒すよ?」

「婚約者(仮)にいつの間にかダメ人間にされていた話が始まりそうなのでダメです」

「えーそれもいいのに」

 

 そんなことをうだうだしている内に、昼にケーキとするならちょうどいい時間になったのでケーキ制作が始まった。

 

 




・門河さん

 代々彬茅家に存在する家令の一族の執事。
 イケオジ。

「こんなに前向きになられて…」
 
 と涙もろく、自分にできることならやりますぞと言うかタイプ。

 全体的に善属性。
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