何も知らない鳴坂和人くん(22) 作:スティック/糊
突然の過去編(うす味)
鳴坂和人が彬茅紗音に出会ったのは今から5年前。
高校3年生の頃。
その当時から無理やり切って張ったにしては上等な笑みを浮かべる彼女があまり好きではなかった。
交通事故にあって、母親はさようなら。
本人の命は救われても四肢の内3つはバイバイ。
大まかな臓器は無事だとしても片目の視力もかなり弱っていた。
そんなハードな人生を和人は他人事のように思っていたのは確かだ。
テンプレートの様に、会話するのも面倒くさいとでも言いたげな彼女に和人も相応の対応をした。
成長期の人間は横たわっていても少しずつ成長する。
彼女の命を救ったという医者を挟んで、最適になるように和人はそのデータを組み加工する。
ただそれが数年続いた。
彼女との関係値が変わったのは初めて会ってから2年が経過したくらい。
何とか人生を前向きに感じさせるようなゲームと出会えたらしい。
和人は彼女が最適状態でゲームができるよう、当時最新式ワンオフの医療用フルダイブシステムで日々成長していく彼女のVR適正に合うように機器の調整。
義肢の調整を行う。
つまんない人生をちょっとは前向きに生きられるように、そんな思いで和人は面倒な柵を抱えながらVRの開発を進めていた。
ちょうどその頃、とあるゲーム制作会社のやらかしでVRは危険だなんだと世間で大きく騒がれるようになってきた。
当然の様に和人がカムラ経由で世に出しているVR機器システムはそんな異常が起きないよう、現実とのリンクを完璧に熟していた。
故に、そんな未熟な機器を世に出してんじゃねぇとユートピア社に突撃しに行ったこともあった。
今思えば完全に若気の至りだ。
彬茅の社長は娘の楽しみだから、とVR機器の使用を続投。
和人もその事件以降も彼女のVR機器及び、義肢のメンテナンスに駆り出された。
その年の初冬くらいだったろうか。
定期メンテナンスで訪れた和人は普段は完全に閉じきった彼女の部屋で肌を刺すような寒さを感じた。
義足を付け、窓を全開にした彼女の顔から血の気は失われただでさえ白い肌は青ざめていた。
「バカ野郎!死ぬ気か!」
「別にあなたには関係ないでしょ。あ、金づるが減るのが悔しい?」
「そうじゃねぇよ!こちとら既に人生遊んで暮らすくらいは稼いでんだよ!」
いつも以上に死んだ笑みを浮かべる彼女を持ち上げてベッドに入れる。
「今のお前に死ぬ権利はねぇよ、クソお嬢様。そんなに死にてぇなら明日殺してやる」
「ウソばっか。出来もしないのに」
「出力事故起こして殺すぐらい訳がねぇ、損害賠償だって払える。簡単に逮捕されないような立場の俺が信用ならねぇと」
「……期待しないわ」
「殺されることに希望を持つな、明日への希望を持てど阿呆」
また、これが初めてまともに続いた会話かもしれない。
翌日和人は宣言通りやって来た。
手に大きな段ボールを持って。
「それが?」
「そうだな、そこの医療用VRだと出力が足りねぇ」
そう言って和人は手際よく配線を開始、何も抵抗しない彼女にそれを被せた。
「これで押せば行けるだろうよ」
「さっさと押してよ」
「…最後の決断も自分で出来ねぇカス。次は地獄で会おうか」
「――何それ」
そこで初めて紗音は反抗的に声を荒げたが、和人は装置の電源ボタンを入れ紗音は悲鳴を上げることなく行った。
逝ったのではなく、行った。
「…こんな形で自分以外に使うと思わなかった。残業代請求してやる」
数時間前に完成し、和人自身で実証実験した出来立てホヤホヤSTLシステムは臆病な少女を殺すため、駆動を開始した。
彼女の行き先はアンダーワールド。
人の魂とは何か。
それに焦点を当てた、まるで夢を見ていたかの様に多くの時間をフルダイブすることが出来るSTLシステム。
和人はこれを完成させるためにまだ未完成の加速を使いまくったせいか脳に多量の疲労を抱え、ベット脇の椅子に座ると支えを失った人形の様に気を失った。
〇
和人が次に目を覚ましたのはビンタだ。
その音は鉄で人を殴るような音ではない。
人の皮膚で叩かれた音。
そして、力はあまりにも弱弱しかった。
「んだよ、死んだ気分は?」
「…最悪」
「にしちゃちっとはほぐれたか。ようこそ、地獄へ」
ベッドで横になっていた筈の紗音は義肢もなく、どうやってベッド下に崩れ落ちていた和人の元へ来たのやら。
上体を起こした和人の髪は少し硬い。
椅子から倒れた時に頭から行ったらしい。
品のいいカーペットの一部は血まみれだ。
「……ナニ、何なのあれは!」
「何って、あの世だろうよ」
激高したようにキリトの上で胸倉に掴みかかりながら彼女は叫ぶ。
「なんで私はまた、ここに戻ってるの!あの時あの場所で私は確かに死んだはずなの!」
「随分と悔しそうじゃねぇか」
「違う!あの時!私はッ!」
少女は叫び続け、涙をこぼし、あまりにもない体力がSTLの影響で更に底をつきかけていた。
それでも彼女は主張を止めない。
「だからここは地獄だって言ってんだろ。多くの後悔背負ってそれでも過ごし続けねぇといけないんだ」
「話ならいくらでも聞いてやる、ココよか向こうの方が楽だろ」
〇
STL汎用空間。
現実世界の数十倍の加速だ。
「確かにVRはもう一つの人生を生み出せるまでになったが、結局どこまで行ってもお前はお前のままだよ」
「……ちが―」
「お前がさっきまでいた世界とは違うが、俺も一度死んでんだよ」
「何それ、いい加減なこと言わないでよ!」
「嘘だと思うならそれでいいさ」
「XX県XX町XX、クッソど田舎で前世、俺は生を受けた。そんで、お前と同じように事故で左腕が飛んだ」
病院で目を覚ました時は、なんで俺も一緒に連れて行ってくれねぇのかって何度泣いたか覚えてねぇ。
そん時母と父と弟が逝った。自動運転何てものはなく、軽自動車が大型車にぶち当たってぐちゃ。
小学4年の夏だった。
お前の家程じゃねぇけど地元の土建屋の倅で金はあったし、保険金もあった。
この世界みたいに便利な義手も逃げ込めるVRもねぇ、ただ腫物みたいに扱う祖父母と暮らす生活はまぁまぁ地獄だったよ。
人間片手ないだけでもクソほど生きずらい。
怪奇な目は向けられるし偽善者ぶった奴にいいように使われたこともあった。
片手のバランスに慣れるのに1年半くらいかかった。
リハビリは死ぬほどきつかったし、家族の最後の光景が何度もスローモーションで脳裏に焼き付いてまともに寝れた覚えもねぇ。
適当に飛び降りたこともあった。死ねなかった。
悪運だけは強かったんだ。
気味悪がった祖父母には病院にぶち込まれたよ。
毎日が退屈で、さっさと現実とおさらばしたくて、自分を許して貰いたくて、色んな人に迷惑かけながら生き続けた。
ただ、転機が来た。
俺は魔法使いに会ったんだ。
先にネタ晴らしすると魔法使いを名乗る変人だよ。
車椅子でふらっと俺の病室に現れる。
体のあちこち管だらけで、体は包帯だらけ。
だけどどうしようもなく明るい人だった。
そうなると、自分よりもあの世が近い奴がなんでそんなに明るいか気になるだろ?
……嘘でも気になると言え。
ありきたりな話?
いいんだよ、ありきたりで。
その変人に俺はどうしてそんなに明るいのかって聞いてみた。
八つ当たりだよ。
俺より死ぬ一歩手前の野郎が希望何てもってんじゃねーよって。
質問ですらなかったな、今思うと。
ただその変人はこう言うんだ。
「ちょっと魔法使いになる最終試験で若者を一人笑顔にしないといけないんだ」
ってさ。
ん、そう。
死にかけの爺さん。
B級の感動ものとかクソくらえ?
ほんとそう。
でも俺はB級にすらなれないそこらの紙屑だぜ?
ま、そんなクソ爺の変人に感化されるくらい俺は雑魚でしたって話。
お前は違うだろ?一遍死んでもその性格の悪さ治ってる気配ねぇじゃん。
殴るな。
この空間で自由に動けるからって。
変わったのかって?
変わる訳ねぇじゃん。
ま、その魔法使いは言いました。
「どうせ消えるなら、道しるべの光くらいにはなってやる」って。
それに唾はいて中指立ててやったけどな。
訳が分からない?
俺もわからん。
時間は腐るほどあるからとりあえず聞け。
俺がゴー出すまでここからは出られねぇから。
クズ?大正解。
ようやく理解したか。
そのジジイの話を真に受けるなら、あの世で良い思いするためには魔法使いにならなきゃあかん。そのために迷える若者を導くってさ。
なんやかんやあって俺はくそったれた顔してるやつを見かけたら横っ面ぶっ叩いて明日をちょっと前向きに進めるようにするためにはどうすればいいか、って考えるようになった訳だ。
飛びすぎ?
感動巨編過ぎてお前はぽろぽろ泣くことになるぜ、聞く?
まぁ、聞くまで出してやらんが。
なんで野郎のオナニー話聞かされてるんだって?
知らん。
あー、あれだ。お前が別の人生経験した代金。そう言うことにしておこう。
テキトー?
テキトーだよ。
超めんどくさがりだもん。
男がもんとか使ってんじゃないキモイ?
ノーダメノーダメ。
効きませーん。
クソガキ?
―――残念ですが、お前の方がクソガキだ。
いやだから殴るなって。
話し終わったらサンドバックにでもしていいから。
〇
――とまぁ、こんなことがあった訳だ。
あれぇ?B級じゃ泣かないんじゃなかったんですかぁ?
あきらめろ、VRはちょっとばかし素直になりやすいんだ。
そうして俺は何か知らぬ間に第二の人生受けてさ、便利な力を手に入れた。
だから俺が今クッソめんどくさい事してまでVR機器真面目に作ってるのは、現実は下らないと斜に構えてる野郎の横っ面ぶん殴って明日を向かせるために作ってるんだ。
面白いだろ?VR。
横っ面向いても無駄だ。
でもその技術は、現実に付随するもんだ。
対比があるからどうしようもなく夢見ちまうんだ。
VRだろうが現実だろうが、どんな状況だろうが今を楽しめない奴に幸せなんてものはやってこないんだよ。
やってきても取り逃しちまう。
今のお前みたいにそっぽ向いてな。
うるせぇな、それを手に入れる足と腕は用意してやるから現実でも面白いもん探してみろ。
VRの欠点を俺がいくらでも話して否定して、その上で肯定してやる。
それ以上に現実がクソだと証明しな。
馬鹿め、あることを証明するより無い事を証明する方が難しいんだよ。
じゃ、さっそく第一弾。
お前の話を聞こうか。
お前が安心して眠れるその種を見つけるまで、いくらだって付き合ってやる。
かかってきな、捻くれお嬢様。
もう見つけたならそれを大事に育てるだけだぜ?
〇
彬茅紗音は今でも夢の中で思い出す。
馬鹿でどうしようもない鬼畜外道な
「これでポイ捨てしたら地の果てまで追っかけてやる」
一回一緒に死んだくらいじゃ私は満足しない。
このインターバルを楽しむくらいは良いだろう。
あの頃と比べて随分と健康になった自分の体に苦笑いしながらVRダイブを行った。
向こうの彼も確保するために、小さな嘘を消すために。
・和人の前世をぶっ壊した変人魔法使いの決め台詞。
「やっと見つけたぞクソガキ」
長々と書いて小恥ずかしくなったため前世の和人くんの話はナーフです。
ただその変人がどうしようもなくまぶしく見えたから、和人くんはこうなりました。
あのジジイみたいにはなれないけど、自分なりにつまらない顔した奴の横っ面なぐったろ、と。
そのターゲットになった紗音の横っ面パァンしてみてこの生き方向いてねぇわ、と察してゆるだらVR開発生活にシフトチェンジ。
その頃は若かった、なんてとぼけているけど本質はクソガキ和人君なのでVRではちょっと性格が軽め。
低燃費エンジョイ勢でたまにクソガキスイッチがオンに。
面倒くさがり屋で根が割と真面目。
紗音がスペクリ終了で自棄になる約半年前がASNとの遭遇時期になります。
紗音と向き合った時にはだいぶ身だしなみが整った容姿になった和人氏。
この日、紗音は2回UWを体験してます。
1回目は前述の通り、2回目は魔法使いと共に。
それ以降UWは封印されています。