何も知らない鳴坂和人くん(22)   作:スティック/糊

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そこそこ顔隠し

 サンラクは仇討人のジョブを手に入れて、聖女イリステラのパワーで新大陸に到着した。

 

 ……おまけでものすごく殴りたい顔を守らねばならないこと以外は実に有用な選択肢だった。

 

 7日間拘束と言う新大陸までの船の移動は中々のクソイベだが、エムルパワーで転移し放題のサンラクにとってはあまり関係ない話だ。

 

 ……あの道場、2回目も倒せなかったぞあの創流おじさんとやら。

 一回失敗すると1週間再挑戦できないとかとんだクソクエだろ。

 

 [ユニークシナリオ:森人族の大移転]によりエルフの民族大移動の護衛を務めている[エルフスキー最後の希望]トットリ・ザ・シマーネとエルフの拠点へ向かうため共闘を張っていた。

 

 

 

「やーっと見つけたぁ!」

 

 どうにかこうにか随分と昔に放置したらしいエルフの故郷ことティアプレーンに足を踏み入れた瞬間、どこか懐かしい気もする声が聞こえた。

 

 

 サンラクが振り返るとそこには赤髪の美少女。

 容姿は魔法職と言った風貌。

 

 ……あれか、俺をツチノコと呼称して探索している奴らか。

 

 そう思い警戒していると、

 

「はいはい、警戒しない。私は君にリベンジしに来たの」

「……?」

 

 サンラクはまるで身に覚えのない宣言に首を大きく傾げる。

 

「えーっと、覚えてらっしゃらない?」

「……すまん、割と本気で覚えがない。誰だお前」

 

 少なくともシャンフロを始めてからここまで印象的な人物と争った覚えがない。

 

「あー、ではわかりやすくいこうか」

 

 少女は一つ咳ばらいを入れると、スッと目を閉じる。

 

 ゆっくりと開いた目はどこか凶器を思わせる。

 

 

「逢いたかった……ずぅっと……探してたんだよぉ?」

 

 

「サンラクくぅん?」

 

 

「お前はッ!」

「ふふふ、やっと気がついt――」

 

 

「イヤ誰だ!?」

 

「えぇ!?僕だよぉ!スぺクリのナッツクラッカーだよぅ!?」

 

「いや騙されんぞ!ナッツクラッカーがあんな根っこから浄化された様な清涼感あふれる空気、たとえロールでも出せねぇだろう!」

「え、えぇ…」

 

 

 すこし照れたように頬を掻く、頭上に[PN:ディープスローター]と表示された少女はどう考えてもサンラクの覚えのあるヤツ、ましてや二度と遭遇したくないランキング上位に位置するナッツクラッカーとの空気感とあまりに違ったためだ。

 

 ……仮にこれが完全に演技だとしたらサンラクは今後の女性との交際を考えなくてはならないと感じるレベルで別人であった。

 

「え、ほら名前!ディープスローターもちろん隠語!」

「直訳の深い虐殺者的シリアルキラー?とんでもねぇ性癖だな」

「そっちじゃなくてイマr[――(自主規制)]!」

「やめろぉ!だからその清涼感でナッツクラッカーは無理があるだろ!」

 

 

 サンラクは頑張ってそれっぽいフリをしているようにしか見えない少女、ディープスローターを全力で止めた。

 

 仮にこれが本当にナッツクラッカーであるなら一体何があった!?と聞きたいほど。

 

 少なくとも目の前の少女を見てとてもじゃないが下ネタをその口から零してはいけないだろと、そう感じた。

 

「まさか信じて貰えないなんて……」

 

 サンラクの記憶データベースと一致しない彼女は小杖二丁流をしながら膝を着いた。

 

 

 いや、ナッツクラッカーなら少なくともこれでハァハァ言いながら近寄ってくるやべー奴だったはず…?

 

 

 サンラクとディープスローターの間に大変気まずい空気が流れた。

 

 

 

「うぅ…やっと信じて貰えたでごわす。ぐすん」

「……すまん」

 

 サンラクは長い長い質問攻めでようやく彼女がナッツクラッカーであることを認めた。

 いや、変わりすぎだろ!?

 

 いや、だってほら、下ネタに繋がることなら何でも言葉狩りの様に反応するあのナッツクラッカーだぞ?

 魔法の詠唱文AVのパッケージの説明文にするような奴が数年でここまで変わるとか信じられそうにない。

 

 少なくとも奴の精神の煮凝りっぷりはそんな生易しいものではなかったはずだ。

 

「サンラクサン、サンラクサン流石に女性を泣かせるのはヴォーパル魂以前の行いですわ」

「…すまん」

 

 サンラクはエムルにまで説教を食らい、大変申し訳ない気持ちになる。

 数年前の自分にこの状況を説明しても絶対に信じて貰えない自信がある。

 “ナッツクラッカーに申し訳なさ?犬にでも食わせとけば?”と。

 

「そろそろ本題に入っても良いで御座候?」

「あ、ああ」

 

 膝に着いた砂を払いながら立ち上がる彼女に、サンラクは流石に真面目に話を聞くかと綺麗な正座をした。

 ……最近正座慣れてきたな。

 

「ふぅ、えっと。スぺクリのサービス終了時に私はあなたに負けました」

「ハイ、勝ちました」

 

「悔しいのでこのシャンフロでリベンジマッチを希望します」

「ハイ、受け付けます」

 

「ダメージの総量計算戦で良いかな?」

「…ハイ」

 

「聞いてる?」

「ハイ、キイテマス」

 

 いや、やっぱ誰!?

 

 

「Quwrrrrrrrrrooooooo!!!」

 

 

 そんなサンラクの混乱は他所に、背後からの咆哮。

 

「じゃ、対象はアレで。とりあえずパーティー組もうか」

「え?」

 

 

 サンラクはディープスローターがスッと指さす方向を真似するように指を向けると同時に表示されたパーティー申請をポチってしまう。

 そのウィンドウが閉じると同時に別の表示が目の前に現れる。

 

 

[モンスター急襲(レイド)!]

 

 

[討伐対象:(むさぼ)大赤依(だいせきい)

 

[レイドバトルが開始されます]

 

[参加人数:3/45]

 

 

 ……3?

 

 この時、トットリ・ザ・シマーネとのパーティーを組む際になんとなくリーダーをしていたのが仇となったか。

 

 

「あ、すまんトットリ!巻き込んだ!」

「えぇ!?」

 

「じゃ、一番槍頂くね!」

 

 

 そう言って突撃していくディープスローターを見てやっぱりサンラクの脳内のナッツクラッカーと一致しなかった。

 

 

 

 〇

 

 

 

[赤き血の狂乱はここに伐された、しかして血脈は途切れることなく……]

 

 

[モンスター急襲レイド……討伐クリア!!]

 

 

[討伐対象:(むさぼ)大赤依(だいせきい)

 

 

[レイドバトルが終了しました]

 

 

[参加人数:3/45]

 

 

[次レイド開始:ワールドクエストの進行に伴い解放されます]

 

 

 

「よし、この勝負私の勝ちで良いよね」

「……」

 

「え、おーい?」

 

 サンラクは呆然とした。

 彼女のザ・スカル・リーパーよりは弱かったな、なんて呟きは耳に入っていない。

 

 途中[傷だらけ(スカ―)]の乱入もありながら僅か3人でレイドボスを討伐した。

 

 そのセリフと共に背に2本の長剣をしまうディープスローターの先ほどまでの戦いに悔しくも、魅せられていた。

 魔法を並列的に扱い、トットリへバフ掛けまで行いながらも二刀流スキルで舞うように、力強く走る彼女の姿に。

 

 この戦いの主力は間違いなく、彼女だった。

 

「なんだあのスキル」

 

 少し、サンラクにはその二刀流スキルに不思議と覚えがあった。

 故にぼそりとその言葉がこぼれていた。

 

「え、サンラクくんも挑んだって聞いたよ[ユニーククエスト:己の流儀]それで作ったの二刀流スキル」

 

 さも事も無げに返事をする彼女にサンラクは固まった。

 

「え、あれクリアしたのか。あの後の『ユニーククエストEXTEND:開祖として』まで」

「うん、スキル作成はノーミスとまではいかないけどノーコンテニュークリアしたからスキル持ってる訳で」

 

 ――え?あの鬼畜難易度一発で?

 

 サンラクの脳裏にスペキャが住み着いた。

 

「案外行けるもんだねぇ、最初聞いたときはそんなのできる奴いるのか!ってツッコミ入れちゃったよぉ」

 

 まさか知らず知らずのうちに私も中々のPSが身についてたみたい。

 そうつぶやく彼女に、サンラクは開いた口がふさがらなかった。

 

 それも凝視の鳥面改め正眼の鳥面になったことで下くちばしの付け根から開いた口が出てくるレベルで。

 

「私がクリアした時の難易度はあのヤバい剣聖の作ったスキルが加わる前だからサンラク君よりは少し楽だったけどね」

「……?」

 

 サンラクは口を開けたまま首をかしげていると衝撃的な言葉がこぼれる。

 

「え、あの道場クリア者が増えるごとに鬼畜難易度になっていくのをご存じない…?私のクリア時は単発アインクラッド流と自分の二刀流だけだったから楽だったんだけどね」

 

 ・・・?

 

 

「――――なんだそれ!?正真正銘クソクエじゃねぇか!?」

 

 

 サンラクはキレた。

 

 くっっっっっっっっっそッ!

 

 確かに他の方法で作り上げる現代流派よりも圧倒的に火力のでるスキルを作ることが出来る。

 

 だが、難易度があまりに鬼畜過ぎるだろ!?

 少なくともプロゲーマーのオイカッツォでさえ正確に同じ動きを3度繰り返すことが出来ず、累積失敗回数で破門になったと聞いた。

 ペンシルゴンも、そんなことある?といって挑戦してオイカッツォよりは頭の回転を利かせ単純な動きと言葉でスキル生成をしたがその後の創流玄間に敗北してスキル没収されていた。

 

「なんか悔しがり方が私が頑張ってレイド進行したより上でしゃくぜんとしないなぁ…」

 

 

 

 ☆

 

 

 

 ディプスロはサンラクの悔しがり方を見てなんか明確に勝ったーと言う気持ちになれなかったので腹いせに難易度さらに上げとくことにした。

 別に、お遊び剣術攻略くらいなら私でもできるしぃ?

 

 それでも勝ちは勝ち。

 レベルキャップ開放した彼よりもたくさんダメージ出せたからこれは勝ちと言っていいはずだ。

 

 無事リベンジ達成と言うことでディプスロは気分よく婚約者に報告ができると浮足立った。

 

 

 レイド戦に乱入してきた[傷だらけ(スカ―)]が特殊個体になるイベントを見届け、レイドボス報酬確認をすることに。

 

 大きいレイドボスの討伐報酬確認と洒落込みましょうか。

 そう意気込む目線の先には馬鹿でかい血溜まりが生成されており、その血溜まりに光る三つのエフェクトがあった。

 

「私一番でいいよねぇ?」

「あ、はいどうぞ」

 

 意気消沈のサンラクを放置し、トットリに確認を取り手を突っ込むと渇望の手(ハンド・オブ・クレイブ)と言う手が出てきた。

 

「あ、なんかデカいかぎ爪」

 

 次にトットリが取った。

 ……まぁ、サンラク君が悪いよね。

 

「じゃ、サンラク君もう一つも私がもらty――」

「それはさせん!」

 

 あ、復活した。

 

 血溜まりにダイブしに行ったサンラクを大きく回避し、ディプスロはどうやって婚約者に報告したものか、と考え始めてた時である。

 

 

 

 轟音

 

 

 

 空から大剣が降って来た。

 

 

 砂煙が晴れるとそこには一人の少女を中心としたクレーター。

 場所的にディプスロが先ほどまで立っていた所である。

 

「さ、サンラク君大丈夫ですか!?」

 

 鎧で少し籠っているも少女らしい声だ。

 

 ディプスロはその少女に覚えがあった。

 

 と言うかこのシャンフロプレイヤーならその素顔を見たことのあるプレイヤーは少ないながらにいるはずだ。

 

 その知名度も圧倒的。

 

 最大火力(サイガ-0)

 

 その人である。

 

 

「あ、レイ」

「よかった!無事だったんですね。こちらに(むさぼ)大赤依(だいせきい)を観測したと情報を聞いて飛んできたのですが」

 

 んー?

 

「もう討伐済みで戦利品タイムだぞ」

「くっ、出遅れました」

 

 ほー?

 

「とりあえず無事だ」

「良かったです。あれ、レイドボスって最大45名だったと記憶しているのですが、あれ人が…」

「3人だぞ」

「……え?」

 

「クリア人数はそこのトットリと、ディープスローターと俺の3人だ」

 

 サンラクの紹介により、周囲を見渡していたサイガ-0がようやくこちらを観測した。

 

「ども」

「どーも」

 

 

 彼女がこちらを観測するとキッという効果音が出そうな目で睨みつけると同時にサンラク君の腕に抱き着き、大声で言う。

 

 

「サンラク君の彼女は私ですから!」

 

 

 はて、彼女にこんな表情を向けられるようなことを私はしただろうか。

 

 先ほどのサンラクのおとぼけぶりと同じくらいディプスロは頭部に疑問符を浮かべた。

 

 このゲームで彼女と関わりは無かったはず。

 スペクリ以降は基本婚約者の部屋に置かれた趣味ゲーを借りて遊ぶのが忙しく、オンゲーはこのシャンフロくらいのものだ。

 ...強いて上げるとすれば、ここ一週間ぐらいサンラク君サーチを全力で行ったことくらいしか思い当たる要素はなかった。

 

「え、とりあえずリベンジ果たせたから今後積極的に関わる理由も無いけど」

 

 ディプスロのあまりにも冷静な返答に一瞬音が消える。

 

「え?」

「え?」

 

 

「え?」

 

 

 サイガ-0、サンラクが疑問を上げる様に首を傾げ、ディプスロもまた首を傾げた。

 

 

「え、なに私に興味があるのサンラク君? スぺクリ時代ならいざ知らず、私は今ダーリンとラブラブだからそういうのはちょっと…」

 

 

「「―――えぇ!?」」

 

 

 そもそも彼女さんが居るのにそれはどうかと思うよ、とディプスロが告げると覆面(物理)カップルは絶叫した。

 

 

「……失礼過ぎない?」

 

 

 ディープスローターは大きくため息をついた。




・サイガ-0(逆行)

 何らかの拍子で未来の経験(原作軸途中まで)を知った斎賀玲の姿。

 レジギガスと言うよりアルセウス。
 斎賀家の呪は消えている。だがポン要素が付与された。

 それは玲が彼に惚れた瞬間、未来の記憶が流れ込んできた。
 記憶を手に入れた瞬間、玲は動いた。
 

「ゲームの合間だけでも良いので私と付き合ってください!癖の強いオンラインゲームであろうと付き合えます!」


 楽郎はその時3歩後退した。

 で、何やかんやあって付き合った。

 何故付き合うことになったかその真実は楽郎のみが知る。
 ただ、雨の中濡れた制服はあまりにも楽郎少年には刺激が強かったとか。

 彼女いるんでと予防線を張っても告られ弁解のため正座が上手になったとか、畳に慣れたとかはきっと気の所為。
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