何も知らない鳴坂和人くん(22)   作:スティック/糊

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やっとだせたあ!


対バン・歌合戦.4

 

 キリトは舞台に上がった。

 

 知らん間にヘッドセットの様なマイクが視界の端に映る。

 

 自分の気分が盛り上がるような曲からステージは始まる。

 

 舌がしっかり回るよう、少しテンポの速い曲だ。

 

 

 サビまで歌い終え、ステージを見渡す余裕が出来てくる。

 

 高さ1.4mの舞台から見下ろす観客席には多くの征服人形。

 

 同じ顔が複数体存在する。

 

 30パターンは確実に超えているだろう。

 

 人形らしいうっすい表情の中で、目だけは何かを訴えているようだ。

 

 征服人形の眼を見てその感情を完全に把握するなんて人離れした術をキリトは持たない。

 

 だが、基本的な感情である喜怒哀楽、そのどれを指しているのかくらいは分かる。

 

 個体の識別なのか目にはうっすらとバーコードの様な幾何学模様が見える気がした。

 

 それをも超えて見えるのは、ほんの少しの“喜”。

 

 なら、盛り上げなくちゃ。

 

 

 2番に差し掛かる。

 

 初見の曲の4分弱楽しく聞かせるなんて、とんでもなく難しい。

 

 最初の曲の選択肢としてはちょっと失敗かもしれない。

 

 声の抑揚を少し大きくする。

 

 少し大きく、踊る。

 

 身体的心理だが、目が動けば観客の顔はほんの少し動く。

 

 動きに目を釘付けにすればいい。そうすれば自然とこの曲に乗ってきてくれる。

 

 観客がリズムを取り始めればこちらの物。

 

 どうしても戦闘よりのモーション参照になってしまうが、視線誘導もテクニックの一つ。

 

 ざっと200くらいか。その目の動きを俺の動きで全部奪う。

 

 

 せっかくのステージだ。楽しもうか。

 

 ―幕開け(オープニング)

 

 〇

 

 

 

 こちらが一曲歌い終えれば対面のステージにスポットライトが当たる。

 

 先行としての舞台の盛り上げには成功かな。

 

 拳をぎゅっと胸の前に持って来ているような子もいる。

 

 紅白歌合戦の様に入れ替え制の歌唱か。

 

 ま、これなら次に歌う曲のリズムのリセットもできるはずだ。

 

 

 対面のステージにはシュテルンブルームの看板的ユニットのお出まし。

 

 こちとらステージに上がるの初めてやぞ。

 

 

 

 対面で始まる舞台―――それはまさしくアイドルのステージだ。

 

 こういったコンテンツとは無縁だが惹かれる。

 

 心にぐっと何かを与えてくるような、そんな気がしてくる。

 

 

 

 とてもじゃないが逆立ちしても勝てる気がしない。

 

 

 ―(Aメロ)

 

 

「今、大事なステージだろうがよ」

 

 

 この舞台を最後まで完遂させなければいけない。

 

 随分とデカいシャチもどきの御登場だ。

 

 アトランティクス・レプノルカ、だったか。

 

 クターニッドのおつかいで現れた奴の方が強そうだったぞ?

 

 

 迅速に対処させてもらおうか。

 

 

 邪魔な輩の音をマイクに乗せるもんじゃないだろう。

 

 律儀にもマイクのオンオフがパッと現れるウィンドウで出来る親切設計。

 

 なんか配信の機能って感じがするぜ。

 

「ルビー」

「はい」

 

 キリトは征服換装の基本モードである魔法少女形態にて、空を飛ぶ。

 

 手にはクターニッドによって規格外武装にカテゴライズされてしまったL(リヴァイアサン)C(カスタム)RH(レイジングハート)

 

 本家レイジングハートとは違い、魔法の補助機能も無ければインテリジェンスな機能もない。

 こいつで出来るのは魔力を収束して相手にぶち込むことだけ。

 

 

「レイジングハート【カートリッジ:1】」

 

 6発のオートマチック式のカードリッジの排出量を指定し、その規模に応じた技をぶち込むことが出来る。

 

 ……変形機構詰め込みたかったな。

 できなくなったのでレイジングハートの各種別形態が制作されている。

 他のは遺機装のままなのが何とも。

 

 お陰である程度の弾数を気にせずにビームブッパできるからありがたいんだけど。

 

 空中戦はこいつが一番燃費がいい。

 

 カードリッジを排出し、レイジングハートに魔力が収束する。

 排出されたカートリッジは空薬莢としてインベントリアに収納される便利機能。

 

 ここにちょっとしたズルをする。

 

 大気中のマナを収束するような演出に紛れてキリト自身で大気の魔力を追加で巻き込む。

 

「【アクセルシューター】!!」

 

 そこそこダメージはこれで与えられる。

 

 ―――再・征服換装するまでもない。

 

 この形態でも工夫次第でそれなりに早く飛べるのだから。

 

「【八葉一刀流:紅葉】」

 

 華ノ太刀・緋薔薇でもいいのだが、今のこいつを切り落とすにはこれで十分。

 

「マスター!出番です」

「アインスちょっと時間を稼いで!」

 

「――はい!」

 

 手に刀を取り出すと同時にアインスからの声が掛かる。

 

 あーアイドルのライブをBGMにしてるとか俺リッチじゃん?

 

 そんなくだらないことを考えている場合ではない。

 

 キリトはアインスにマイクを投げる。

 

 [マスカレードMyマイク]

 

 花園のオルケストラに曲の納品をすると引き換えに貰ったマイク。

 

 同じオルケストラなら使えない道理はないよな?

 

「マスター!征服人形の基礎機能でマイクはあるよ!」

「――スゥ、なんかそっちの方が気合が入る気がするだろ!」

 

 あーはい。

 

 すっかりそんなこと忘れてた。

 

「ちょっと頑張るからテンション上がるの頼むわ」

「わかった!」

 

 さて、いいタイミングになるようちょっと踊らせてもらおうか!

 

 

 〇

 

 ー(Bメロ)

 

 互いに2曲ずつ歌い終わると、向こうさんからのMCタイム。

 

『本日のライブ!シュテルンブルームVSCanon!』

 

 ……メンバー紹介的なノリもあるんでせう?

 

 と言うかMCこっちにも流れてきませんよね?

 

『これはとある泡沫の淡い夢舞台。されどその行く末は私たちの中にある!』

 

 

 そう言って3巡目はシュテルンブルーム[Strawberry]の楽曲から始まる。

 

 俺の脳がアイマス脳過ぎるのか信号機感と言うよりちょっといろもので人気がありそうな感じ。

 堅物と小悪魔と効率厨。そんな感じがする。

  

 アイドル系のユニットでちょっとクール系って歌声だと隠れがちだけど、歌唱パートでちょっと違う色出てくるのいいよね。

 

 すっかり一観客に成り下がりそうになるが、勝負である以上はこちらも本気でやらねば無作法と言う物ッ!

 

 

「マスターチェンジ。後最高に盛り上がるのお願いします」

「はいよ!」

 

 

 キリトは徹夜で少しテンションがおかしい事に気が付きもせず「銀河アイドルの楽曲でも食らうがいいッ!」と誰目線かわからないそれになっていた。

 

 

 恥ずかしげもなくキラッ☆した。

 

 観客の征服人形たちもそれに乗ってくれたので「あ、そういえばアインス経由で征服人形ネットワークに流してたんでしたっけ」と小さくダメージを受け、何とも言えない表情になる。

 

 謎にボルテージ上がるじゃん。

 なんか目線が本家だ!みたいなキラキラになってるんですけど!?

 

 

 くっころ!!!!!

 

 

 

 〇

 

 

 ―(サビ)

 

「これで3体目のお邪魔虫!みんなでこのステージを守るよ!」

『了解』

 

 キリトは完全に自棄になっていた。

 

 ステージがおおよそ終盤に差し掛かるであろう頃、躊躇などはなく征服人形に指示を出しながらバッファーの様に歌う。

 

 盛り上げ方ってこれであってるの!?

 

 キリトは一瞬だけちらっと舞台袖に目線を送るとアンドリューは凄い笑顔でサムズアップしている。

 

 ……くっ

 

「ちょっとメドレー行くよ!」

 

 

 中々物騒な征服人形の武装展開を観測しながら、おそらく弱体化されている〈天覇のジークヴルム〉に向かう征服人形の背を押すようにマクロスΔメドレーを開始する。

 

 ……コレ、終わったら紗音に感想言われるんだろ?

 

 きつぅ。

 

 

 

 キリトは知る由もないが、征服人形の複数種がこれほど集まることは本来とんでもない非常事態の状況に近い。

 

 大きく弱体化しているとは言え、最強種の一体と渡り合えるような、そんな光景もまた異常なのだ。

 

 遺機装の超過機構がオミット(除外)された征服人形の武装を目にするのもまた同じ。

 

 

 ここは泡沫。

 

 夢を届ける場所なのだからシャングリラフロンティア(現実)ではありえないことでも、叶ってしまう。

 

 

 

 結局ジークヴルムとの戦闘にキリトも参戦することに。

 

 シュテルンブルームの全体曲をBGMに大立ち回り。

 

 飛んで弾いて斬って撃っての大乱闘。

 

 近代兵器……よりもだいぶ未来を走る武装と神代の古との争い。

 

 龍法律でアイドルらしい行動をした者にバフマシマシとか…。

 

 

 何だろう尊厳的にそれでいいのか?

 

 ……彼の願いとしては、戦力増強の意を示すことならそれでいいのだろうか。

 

 キリトは何とも言えない表情になりかけながら、暴れまわった。

 

 

 〇

 

 

 舞台が開けば閉じるときも訪れる。

 

「うそでしょ」

 

 ――英雄一合(エンディング)

 

 斉天:ウェザエモン。

 

 人馬一体形態の恐ろしい速度で駆け、通常時でさえ攻撃を当て辛い体格をしていると言うのに、さらにグッと上がる。

 

 近距離で晴天流が飛び―――

 

 遠距離で砲撃が飛んでくる――

 

 中距離で敵の拘束して、その場でウェザエモンにとっての優位な状況に運ばれる――

 

 すべてにおいて隙のない変態仕様。

 

 最後にとんでもないものをお出しするとか人の心ォ!

 

 これで斉天と合体している騏驎にも幾重の変形機構。

 

 空中戦だってお手の物。

 

 こうして言葉に並べると、これはまさしく神代の英雄。

 

 

 小手先の誤魔化しじゃ、とてもじゃないがラストソングに間に合わん。

 

 何を参照してこんなとんでも無いものをお出ししやがる。

 

 

 花園で争った時と違ってこっちにはBGMバフが継続中。

 

 征服人形とその元となった歌い姫たちとの大合唱とか、やべぇわ。

 

 

 この状況で魔法少女やってる場合じゃねぇよな?

 

 まぁ、ルビー解除しても敬語機能がオミットされただけで女性アバターのままなんだけども。

 

「【約束されし勝利の服(エクスカリヴァ―)】」

 

 キリトは大英雄と相対するため腹を括って衣装を変更する。

 

 まぁ、例によって服装に関しては、例によって至布匠によってプーサー貰えずこれなんだ。

 

 幾ばくか名前の違うこの装備システムの影響でシンプルなエクスカリバーと言う文字は使えず、ちょっと発音が違うだけと言うのが制作者の談。

 頭装備のこのリボンなんで装備するだけで勝手に髪が編み込まれて行くの?怖いんですけど。

 

 なんで装備変更してウェザエモンに立ち向かうのかと言えば、ちょっと使う武器が特殊で、装備バフはこれが一番相性がいいとか言う不思議。

 

 折角の海上で今の状態だと疑似改宗[深淵]のパワーバフが驚異の18%乗ってるんだ。

 

 複数の晴天流を見た俺なりの晴天流、ぶつけてみたいじゃん?

 

 

「『ウェザーアウト』」

 

 外見は騎士王の聖剣のパチモン。

 

 花園の若ヴァッシュにL・C・RHを見せた際に創作意欲が湧いたらしく、キリトが無造作に出した素材の山からそれは生まれた。

 

 こちらとは少し性質の違う花園魔力パッケージの一発限りの超過機構。

 

 そのチャージのためアヴァロンの鞘はこいつに持って行かれる。

 

 『甦機装:ヴァイスアッシュ『晴呼(ウェザーアウト)』』

 

 耐久値をどこかに投げ捨てた、いつかの古きダチ公が語る約束されし勝利の一撃を。

 

 アヴァロンの鞘があることで初めて機能するような、武器としては致命的な欠陥品。

 

 

「夜明けの時間だ、ウェザエモン」

 

 

 日は昇る。

 

 

「【超過機構(イクシードチャージ)】」

 

 

 ―――アヴァロンの鞘が翼の様に展開する。

 

 

 疑似改宗[深淵]発動。

 

 ―――キリトの体表にラインが走る。

 

 

雲を払い(エクス)―――」

 

 ―――剣は眩い光を。

 

 ―――あふれ出る魔力の奔流。

 

 

 疑似改宗[天覇]発動。

 

 ―――装備の下に龍の鱗が現れる。

 

 

「―――晴れを呼ぶ者(カリバー)!!!」

 

 

 っ、物言わぬパチモンはこれでおしまい!

 

 

 〇

 

 

『これにて緊急歌合戦閉幕!』

 

 

 超短期決戦。

 

 キリトが生み出されたウェザエモンを祓うのにかかった時間はライブの締め曲分。

 

 

「これで終了、っと」

 

 ライブは一体感と言うけど、一緒にバトルは違うんじゃないですかね。

 

 

 カーテンコールの様にこちらにやってきたシュテルンブルームのメンツと一礼。

 

 配信切断、っと。

 

 

 メインは殆ど隠していたとはいえ熱気に当てられてだいぶ手札出してしまった。

 

 リキャストタイム凄いんですけど。

 

 

『とてもよいライブだった』

 

 

 融けるようにシュテルンブルームが消え、残るは征服人形と舞台袖から出てきたアンドリュージッタードール。

 

 

「これに勝敗なんてあるのか?」

 

『それは奴が決めてくれるだろう』

 

「奴…?」

 

 

 この段階でキリトは察した。

 

 

 ―花の魔術師(アンコール)

 

 

『この夢舞台を開くために色々な制約があってね。中々度し難い奴だが、奴もまた私の友人で―――』

 

 

 最強種のシナリオがこんな華やかな舞台で締めに入るなんてさ。

 

 

「こんばんは。いや、おはようかな。花の魔術師を継ぐ者」

 

 

 気が付かぬ間にそれは背後に降り立つ。

 

 

 ああ、リヴァイアサンの資料で見たから知ってはいたさ。

 

 

「ちょーっと花園進行よりワールドクエスト先に進んだ結果、花園で知る真実を前借したことに対するお仕置き的なものかな」

 

 

「それは悪かったな、エミヤ(・・・)

 

 

 振り返る先には少し高い少女の様な声。

 

 

「確かに概念的にはそれ(フェイカー)だけど色々こちゃまぜなんだ」

 

「私は美遊(エミヤ)

 

「初めまして花園の贋作者(キャスター)です」

 

 

[ユニークモンスター:花園のエミヤと遭遇しました]

 

 

「あなたが未来を証明できるなら、オルケストラ(お友達)に代わって合格にしてあげる」

 

 

 

 




・乱入☆

 ユニークモンスターは何でもありやから(偏見)

 と言う訳で花園の主のこちら側が現れました。


 創世的にどんな認識かって?

 このユニバースでは大本のシナリオに転生者が関わっているから違うんだ。

 キョージュ―ロー、ツクヨ丸、そしてもう一人。
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