何も知らない鳴坂和人くん(22)   作:スティック/糊

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11月下旬.4

 

 週末。

 

 以前サンラクがファステイアで祭をすると言っていた日がやって来た。

 

 キリトはファステイアには行かず、リヴァイアサンの音楽コーナーで発禁申請を出すためにスタンバイしていた。

 

 あの黒歴史をプレイヤーに買われるとかマジ勘弁。

 

 音楽エリアにいる開拓者は案外少ない。

 

 そもそもリヴァイアサンの中央部にたどり着いたプレイヤーが少ないと言うのもあるだろう。

 

 

「キリト、そこに陣取ってどうしたの」

 

「ちょっと黒歴史がこぼれるかどうかの瀬戸際なんだ、少しそっとしておいてくれ」

 

「あ、うん」

 

 

 おそらくここに並ぶことになるだろう、と思われる空白の棚の前に陣取るキリトはちょっとダークサイドに落ちかけた顔をしていた。

 

 そんなキリトに声をかけてきたのはゼムリア所属、音楽関係全般の責任者エリオット。

 

 彼もまたキリトと同じように[称号:ミュージックマスター]を有しているプレイヤーだ。

 

 曰く、リィン引き連れリヴァイアサンをクリアして音楽エリアに来たのは良い者の、楽器を愛するエリオット的にコレ違くない?と言う指摘をしまくった結果その称号を手に入れたらしい。

 

 プロプラの仕事の休憩にシャンフロの楽器の音色調整ライフが実に楽しいそうだ。

 

 

「来た!」

 

 棚に一気に記録媒体が並び始めた。

 

 キリトは『CanonVSシュテルンブルーム歌合戦』の在庫を根こそぎかっぱらい、会計にダッシュ。

 

「マーニは腐るほどある、在庫は俺が消す」

 

「あっ(察し)」

 

 在庫残ってたらキレると言いつつ、会計を済ませ発売禁止申請も済ませる。

 

 支払いがスコアであることをうっかり失念していたが、お隣のエリアにあるカジノエリアのスロット目押しして速攻稼いだ。

 

 あと、発売禁止申請が受理されるとベヒーモスでの閲覧制限も行えるらしい。

 

 もちろん申請する。

 

「ミッションコンプリート!」

 

 キリトは自身の黒歴史を完全にセーブすることに成功しゴールを決めたサッカー選手張りに見事なスライディングガッツポーズを決めた。

 

 その見事な流れにエリオットは小さく拍手をした。

 

 そう、エリオットにはCanonの中の人バレを起こしている。

 

 大体の主因はゼムリアで相談したことなのだが。

 

 一社会人としてエリオットはちゃんと口を噤んでいるので余計な情報流出は起こしていない。そこが救いだ。

 

「懸念事項解決ヨシ!」

 

「その、おめでとう?」

 

「ありがとう。もしも変な流出していたら教えて欲しい、消しに来る」

 

「あ、うん」

 

「ちなみにそこらへんにリィンの記録媒体もある。以上だ」

 

 嵐の様にキリトはその場を去った。

 

 残ったのはエリオットとSOLD OUTの文字が並ぶ『CanonVSシュテルンブルーム歌合戦』の棚のみ。

 

 エリオットはとりあえずリィンの記録媒体を会計に持って行った。

 

 その数分後、エリオットからアクスタとキーホルダー出てると声が掛かりとんぼ返りする羽目になった。

 

 キリト的にはアクスタではなく悪スタだろコレ、と小さくキレたい所であった。

 

 エリオットには心ばかりの礼として大量の楽器を送った。

 

 

 リヴァイアサン内で人知れず一つの供給が断たれたのであった。

 

 

 〇

 

 

 腹立たしい事が一つあった。

 

 ベヒーモスでの閲覧制限申請が一時止まった。

 

 ベヒーモス内の情報制限を行うためには9層を攻略しないといけないと言う。

 

 キリトは速やかに転移ポイント『B-3:ジッタードールラボ』へ飛び、少しアンドリューと会話し、9層へと降りた。

 

 使い捨て魔術媒体(マジックスクロール)一つでここに来れるのは実に便利。

 

 キリトは学習する男なので今日はマジックスクロールの在庫はめっちゃ確保している。

 

 これで落ち着いて9層を攻略できると言う物だ。

 

 ジョブを『花の魔術師』と『シールダー』に変更し、いざ尋常に。

 

 そんな気持ちで乗り込んだ。

 

 

 ベヒーモス第9層

 

 それは生態系頂点のモンスター討伐。

 

 一時間以内に倒せるよう体力調整がされたモンスターの中から最も危険度の高いモンスターを見つけ出し、打倒することでこの場の環境の頂点に立て、と言う物。

 

 ……え、上層階に行って情報収集しないとあかん感じ?

 

 でも、一時間片っ端から強そうなやつ切り殺していればそのうち見つかるだろ?

 

 キリトはだいぶ脳筋的思考のまま、刀を構えモンスターの集団の中に突っ込んで行った。

 

 

 〇

 

 

「あともうちょいでタイムアップだった。あぶなぁ…」

 

 キリトの9層クリアタイムは57分22秒。

 

 もう少し足せばアインクラッド一層クリアできそうなタイムである。

 

 地覇のソードルゴーレム、それがキリトの屠ったモンスター。

 

 奴の全身から生えている剣に映ってしまうと龍法律擬きをしてくる。

 

 剣の耐久値がボチボチだったので武器破壊しまくって首を刎ねて、それでも倒れなかったので粉みじんに切り刻んでようやく勝った。

 

 核がどこにあるとかわかんねぇよ。

 

 片っ端から切り殺すという作戦を取ったため、剪定スキルを活用したシンフォギアスタイルでぶっ通しで戦っていたため、今現在使用した戦闘スキルが軒並みリキャストタイムがひどいことになってる。

 

 リキャストタイム無視は魅力的なスキルなんだけどそれに伴う条件がキツイ。

 

 少なくとも人前ではやりたくない。

 

 

『この箱庭の頂点に立ちましたね、おめでとうございます』

 

「これで申請は通るんだろうな?」

 

『はい。たった今受理しました。これで7層での『CanonVSシュテルンブルーム歌合戦』の閲覧は制限されました』

 

 

 勝 っ た !

 

 

 キリトは喜びのあまりその場で大の字で倒れ込んだ。

 

 

 シャンフロゲーム内でのCanon情報の供給を断つことに成功したキリト。

 だが、その数時間後にとある情報を手に入れ、現実世界で打ち上げられた魚の様な体制で数時間固まることになる。

 

 

 ▽

 

 

 ディープスローターは義妹であるビャッコ(真登香)とのほほんと先ほど解放されたばかりのベヒーモスに訪れていた。

 

 「義姉ちゃん一緒に攻略しよう」と言われてディプスロには断る選択肢はなかった。

 

「くるくる、くるくるはすべてを解決する」

 

 第1層をプレイスキルのみで華麗に駆け抜けていった姿を見て「旦那くんの妹だぁ」と謎の実感を覚える。

 

 ビャッコ(真登香)は現実とはかけ離れた長身である。

 

 シャンフロの技術の特徴であるリアルの身長や体格とは違っていても自然と馴染むためできるスタイルだ。

 

 ロープレ勢らしく「推しの部下想定」と言う中々癖の強い架空のキャラクターのロールをしているらしい。

 

 ディープスローターも色々なロープレはしてきたのでそこらへんは楽しければいいと思うよ、と笑って流している。

 

 今度変声のコツでも教えようかな。

 

 

 ディプスロも義妹に格好の悪い所を見せられないとサクッと攻略する。

 

 ビャッコから「サラリと人間やめてる動きしますよね」などと言われるが、キミも大概だと思うとは口には出せなかった。

 

「にしてもすごいですね。このベヒーモス」

 

「曰くお勉強の間らしいよ」

 

「べん、きょう‥…?」

 

「2層は筆記テストだって」

 

 勉強は得意な方なので!と息巻くビャッコと二階層に降りる。

 

 ディプスロはログイン前に鳴坂家のシャンフロウィキを思い出しながらその光景を目に入れる。

 

 視界に入る割烹着の象牙から説明を受ける。

 

 キリトくんから聞いていた内容と相違ない。

 

 彼は度々通常のルートと外れた路線に走りがちなのでそこら辺の確認は重要だ。

 

「あ、出来ました」

 

『ええ、合格です』

 

 ディプスロがちらっと問題文をチラ見して足りない情報を書架から探そうと席を立つのと同時に隣のビャッコはクリアしていた。

 

 ディプスロは一瞬何が起きたか理解できなかった。

 

 ……?

 

「シャンフロのファンメイド攻略wikiの内容は大体頭の中に入っているので手伝いますね!」

 

 一瞬思考を停止したが、彼女は記憶能力がとても優れているらしい。

 

 私もある程度は記憶してるけどここまで滑らかに出力できないよ?

 

 ビャッコがディプスロの問題用紙を覗くと淀みなく答え始める。

 

 ちょっと中腰から再度席に座るのちょっと恥ずかしいんだけど?

 

 

 ………鳴坂家の遺伝子どうなってるの?

 

 今後の実家挨拶気合入れないとだめかもしれない。

 

 ディープスローター(紗音)は自身の嫁いだ家のDNAにちょっと戦慄した。

 

 

 結局、彼女の知識外の物を数個調べただけであっさりとディプスロは通過することが出来た。

 

 

 つ、次はちゃんと良い所見せて見せる!

 

 

 第三層。環境生物一体の討伐。

 

 ディプスロは『全身が甲殻に覆われたケルベロスみたいな何か』を高速で討伐し、見事なドヤ顔を浮かべた。

 

 

 

 〇

 

 

 

「ん…?」

 

 キリトはその日はやめにログアウトし、趣味のゲーム制作に手を出そうと考えた。

 

 夜中なのでカフェインレス珈琲を飲みつつ、ソファーにゆっくりと沈み込む。

 

 趣味ゲー制作の土台作りはアクセルリングでデザインできるので両手がフリーの状態で物事が進められる。

 

 そんな時に目に入って来たのがJGEのシャンフロブースで手に入れてきたという画集。

 

 通称:NPC画集。

 

 シャンフロブースの目玉その一であり、ゲーム内のNPCが描いた絵を元にした画集らしい。

 

 和人は購入しなかったが、妹はそれを買っていたらしい。

 

 サンプルのイラストは入り口付近で目にしていたのでなんとなくイメージはつかめるが中身はどんなものなのだろうかと覗いてみる。

 

「なんか身に覚えのある人がいる」

 

 シャンフロで知り合った半裸の鳥アタマことサンラクっぽいキャラや、女性騎士と言った風貌男女…アリスとユージオっぽいキャラ、布を天高く掲げるニンジャ装束の男性……なんか転生者混ざってんなぁ。

 

 そんなことを思いながらどんどんとページをめくっていく。

 

「ミ゜」

 

 そして和人は一つのページで指が止まった。

 

 そのページに皴一つ付けずに丁寧に本を閉じたのは自身の物ではないという理性が何とか機能したためだ。

 

 自身の所有物だったら認識した瞬間高速でシュレッダーにかけていたかもしれない。

 

「ここにも黒歴史の欠片あるとか知らん、俺知らん…」

 

 和人はそのままソファーに伸びる。

 

 うつぶせになり、微動だにしない。

 

 漁港に運ばれたばかりの冷凍マグロバリの硬直だ。

 

 深夜じゃなければ間違いなくシャウトしている。

 

「アクセル――オン」

 

 最後の理性でアクセルリングのダイブ機能で製作途中のゲームに潜りこみ、大きく息を吸った。

 

 

「[自主規制(心の底からのくっコロワード)]!!!!!!!!!!」

 

 

 [海上の偶像]

 

 和人がNPC画集で一番最後に見たイラストのタイトルだ。

 

 一人の少女が舞台で歌っている光景を切り取った一幕の様に見える光景。

 

 それが自分自身じゃなければ「ライブとかあるんやなー」で済ませられたのにッ!

 

 

 と言うかどこにそんなものを観測したNPCがいたんだよッ!

 

 

 和人は心の底からの羞恥を吐き捨て、冷静を取り戻した。

 

 現実は現実、ゲームはゲーム。

 

 このマインドは大事。

 

 似たようなダメージ受けてるやつは俺だけではないはず。

 

 現実に波及してなければ実質ノーダメージ。

 

 アレは多分だた似ているだけ。別人。そうに違いない。

 

 そう、必死に自分に言い聞かせ大きく呼吸を吸い込みログアウト。

 

 

 寝て、忘れよう。

 

 

 和人は忘れるように紗音より先に寝た。

 




・Canonちゃんクッズ情報

 リヴァイアサン内・音楽エリア

 記録媒体 SOLD OUT

 アクリルスタンド SOLD OUT

 ランダムキーホルダー シークレット枠 販売中


・JGE会場で販売されていた画集

 海上の偶像 ネットでちょっと話題


・7層での『CanonVSシュテルンブルーム歌合戦』閲覧制限

 象牙『そうですね、9層クリア者には見れるようにしましょうか』

 制限はちゃんとしてますから、ね。
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