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Ep.00 プロローグ
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎年、七月三〇日。
夏休みの真っ只中、自室の窓際に腰を下ろして清々しい快晴の空を見上げていた。真夏と言うこともあり、 相変わらず気温は高い。ジリジリと空から照らす日差しは、肌に汗が滲んで少し気持ちが悪い。
普段であれば何とも無い、ただの日常風景だがそう思えなくなったのは丁度……⬛︎年前の今日。“平和”と言う二文字が綺麗さっぱり消え去った、人類にとって最悪な日だった。
時折感じる風の匂いと柔らかさに自分は目を閉じて思い出す。あの日の光景は脳に強く濃く、焼き付いた。
そう、それはそれは憎たらしいほど鮮明に──。
◈◈◈
「はぁ……はぁ……何なんだよ、本当に……」
三年前の西暦二〇一五年、七月三〇日。時刻は夜。
当時小学五年生で育児放棄児だった俺、
五体満足で自由だったはずの俺の身体は、いつの間にか千切れていて出血多量。息も絶え絶えなこの状況は、数分後には出血死で死んでいるだろう物だった。身体は燃えるように熱く、そして凍えるように寒い。眩む視界で捉えたのは規格外の化け物。何十メートルもある巨大な身体、大きな口は逃げ惑う多くの人間を喰い散らかしていた。
(俺が……俺たちが何をしたってんだよ……)
上手く働かない思考で、どうしてこうなったのかを呑気に考える。この日は断続的ではあるが、史上最大とも言える地震が朝から続いていた。地震はこの場所一箇所のみならず、どうやら日本全国で起きているとラジオから聞いた時は驚きを越えた感情があった。
夜には収まっているか、と思っていたがやはり現実と言うものは常に自分たちの予測を外したいらしい。一日の地震の中で、一番強い揺れが来たと同時に眼前に浮遊する巨体な怪物が流星の如く降ってきた。
──それは、一瞬だった。
降ってきたと思えば、老若男女問わず無差別に人を喰い散らかす。死に物狂いで、ここに逃げてくるまで何度、痛々しく叫ぶ悲痛な断末魔と身体の節々が噛み砕かれる音を聞いてきたことか……。平和だった日々も、大切だった人も、泡沫みたいに手から零れ落ちる。
化け物の餌になって死ぬと言う死因は免れたものの、 結局死ぬのは回避できなかった。ならせめて、化け物にバレないような場所に密かに死のう、と痛む身体に鞭を打って引きずりながら小さな神社へと向かう。
小さな神社は古く、見るも無惨に崩れていた。まぁ、おそらくだが化け物が来る前の一番強い地震で崩れたのだろう。俺は倒れた木の柱の下に身体を滑り込ませて、ゆっくりと息をした。鼓動が徐々に小さくなるのを感じる。死ぬことに恐怖は無かったが、悔しさはあった。
(どうせ死ぬなら、誰かのために死にたかった)
夢物語にも程がある。そんなことは知っている。
化け物に抵抗する力も無いくせに、誰かのために死にたかったなんて、何を言っているんだと思うことも知っている。
それでも、そう思った。
自分の価値は元々無かったから。
価値のある人のために死ねたならどれほど幸せか。
瞼が重くなり、目を閉じる。もしも、生まれ変わることができるなら、誰かのために動ける人になりたいと願いながら。
「なんだ、お前さんはそう簡単に諦めるのか」
しかし突然そんなことを言われ、思わず目を開ける。 俺を見下ろすその瞳は、吸い込まれるような、綺麗な緋色だった。声の主は、瞳の主は、人じゃなく獣で。誰だ、と言いたくても声を出す元気は無い。ただ俺は、 まだ死ぬまいと必死に酸素を取り込み、耳を傾ける。
「誰かのために死にたいのだろう? その魂、我に譲ってくれんか」
(譲る……?)
「心配するな、お前さんをここで死なすわけにゃいかん。譲ってくれるのであれば、力を貸そう」
(力を……貸す……?)
「そうだ。あの、化け物に抵抗する力を貸してやる。どうだ、欲しいか?」
絶望の中の奇跡だった。
譲るだとか、力を貸すだとか頭で考えることはもう上手くできないが、この状況を打破できる唯一のチャンス。これ以上にない提案だと、そう思った。
ヤツらに抵抗できるのであれば、それが例え地獄に行くものだとしても自分の全てを犠牲にするものだとしても絶対に欲しい。
「……ゆ、ずる……力……を貸、して……くれ」
「ふっ……ふふ……やはり気に入った……。お前さんのその強欲は我にとって飽きないものだ」
獣がそう言って、体内に入る感覚があった。その後の記憶は何故か持っていないが、気づいた時には四国の香川にボロボロの傷だらけで倒れていた。
これは、
人間離れした力を持つ俺、“
神の力を使う五人の“勇者”。
そして、神の声を聞く一人の“巫女”。
地獄で生きる俺たちの物語だ。